フリーターと写本の仲間たちのリリックな日々   作:スピーク

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無印編 最終話

アルハザード。

その地にはダマスカス鋼やガンダムが作れちゃうかもしれないテクノロジーが現存し、時を操る魔法、死者蘇生の魔法が存在すると言われているらしい。色んな世界を行き来できる魔法世界から見ても御伽噺レベルの地。地球で言う所のアトランティスやムーか。

 

なるほど、確かに本当にそんな所があれば行ってみたいと思うだろう。そこでしか成し得ない事があるならば、是が非でも行きたいと切望するだろう。

少なともプレシアは切望した。我が子のクローンを作り、虐待してでも切望した。俺のような男に大金を積んでまでも頭を下げて頼った。

そんな強い想いを切って捨てるほど俺はゲスじゃない……わけでもねーが。むしろプレシアが美人じゃなかったら切って捨てた上に殴り飛ばして帰るが、まあ今回は紆余曲折あってその想いを俺は受け止めた。美人と金と可愛いガキのコンボにゃあ流石の俺も敵わなかった。

 

だから俺は案内した。その伝説の地アルハザードに。地っていうか店だが。

まあちょっと不安だったけどな。まだ俺の知っている場所に店を構えているか、な。それも杞憂に終わって何より。

 

「それで、あなたは無事この店を発見。君はドアを蹴破る勢いで入って来たのち、流れ作業のように私の人中をぶん殴り、倒れた私に向かい『ウェ~イ、お久~。取り合えず茶ぁ出せや』と半ば強盗のような形で茶菓子を要求─────ここまでは合ってますね?」

「合ってない所がねーな」

 

目の前の男に俺は椅子にふんぞり返った状態で偉そうに頷く。

今までと変わらない、そしてこれからも変わるとは何故か思えないような容姿で対面に座る男──このアルハザードの店主。

もっとも、今は俺に殴られたせいで鼻の下をが若干赤くなっているが。てか赤くなるだけって。人体急所を加減なく殴り抜く俺も俺だけど、それでいて無事なコイツもデタラメだな。

 

「そして現在、君と愉快な仲間たちは我が物顔で店のど真ん中にテーブルと椅子を引っ張り出し、私が出したお茶を悠々と飲んでいると。…………何か間違ってません?」

「客をもてなすのは店側として当然だろう?何言ってんだ」

「あれ?私が悪いんですか?」

「少なくとも俺は悪くない」

「そこまで真顔で断言されると本当に私が悪いみたいですね」

「悪いだろ。いろいろと」

男の言う通り、現在俺達はアルハザードの店内のど真ん中に置いた円卓につき、出された茶と菓子に舌太鼓を打っていた。今この店が構えているのは温泉街の只中、その為か出された茶は梅昆布茶で菓子は温泉饅頭。

 

「な~んか爺臭いなぁ。紅茶とかねぇの?あとクッキー。おら、出せよ。ねーなら買ってこい」

「やれやれ、タチの悪いお客さんですね。私、『お客様は神様』なんていう、そんなマゾな気持ちは生憎と持ち合わせていませんよ?」

「訳のわかんねー存在の神様想定して相手するより楽だろ?」

「どっちもどっちです」

 

肩をすくめて言いながらも、その顔には微笑みが変わらず張り付いている。

 

「まあ、どうであれ、お客さんを歓迎する気持ちは持ち合わせていますよ。しかも、それが君達ならば大歓迎です」

 

男は隣りから座っている順に見つめていく。

 

ちなみに席順としては男・ザフィーラ・アルフ・ヴィータ・フェイト・理・夜天・プレシア・俺・シグナム・シャマル・戻って男、てな感じ。重ねてちなみにこの席順を決める前にひと悶着あった。正確に言うと理とシャマルが俺の隣がいいとブーたれた。あまりにブーブーうるせえ上に、理など俺の膝の上に乗っかってきたので、そこでキレた俺は理を投げ飛ばし、シャマルを蹴り退かせ、半ば無理やりシグナムとプレシアを隣に据えた。

 

さておき。

ぐるっとゆっくり席を見回した男は、最後に俺へと視線を戻し、とても嬉しそうにニッコリと笑みを浮かべた。

そして一言。

 

「──────ありがとう」

 

その言葉を男がどういった心情で言ったのかは分からない。ただ、その一言には万感の想いが込められているといっても過言ではない程の重みがあり、想いがあるのは誰が聞いても明らかで、もちろん俺も容易に汲み取れたし、何を指しての感謝の言葉なのかも何となく分かるが…………

 

「いきなり何見当違いな事ぬかしてんだよ。意味分かんねー」

 

俺は自分のしたいように生きてきたんだ。自分が満たされるためだけに生きてるんだ。自分の幸せのためだけに生きていくんだ。

過去も現在も未来も、全ての行動において基点は俺自身。

仮にその行動の結果、他の奴もが利益を得ても、結果を出し終えた俺には関係ない事だ。故に関係ない事で礼を言われても意味が分からないだけ。

 

俺は藪から棒な男からの礼の言葉に顔を顰めてそう吐き捨てたが、それでも男の顔からは笑みが消えない。むしろより深くなった。

 

「ここだけの話、私は本当に君に感謝してるんですよ?その子たち写本の騎士を受け入れ、さらには幸せにしてくれて」

 

ここだけの話って、そもそも他に話し場所なんてねーだろ。しかも、こいつらを『幸せに』って、ンなの当人にしか分かんねー事だろう。

と胸中で突っ込むが、その間にも男の独白は止まらない。

 

「私はね、正直その子を外に出すつもりなんてなかったんですよ。いえ、正確にいうと誰にも渡すつもりはなかった。そもそも世間に広めるために写本を作ったのではなく、万が一正本である貴重な夜天の魔導書が失してしまった場合のいわば代替品なんです。それ以上でもそれ以下でもなく、だから外に出してしまってもし写本まで無くなってしまったら本末転倒でしょう?」

 

男は口を潤す程度の茶を飲み、少し気落ちした調子で言葉を続けた。

 

「当初の思惑通り、というか目論見通りというか、案の定想定していた事態になりました。オリジナルの夜天の魔導書がある時、外道な主によって致命的なほど改悪されたんです。それ以降、美しかった夜天はただのどす黒い闇へと変わり、今現在も無為な旅を続けています」

「ふ~ん」

 

オリジナルの夜天の魔導書が今どういう状態なのか、俺は勿論、写本である夜天たちも初めて聞いたらしい。一様に驚き、悲しみに暮れる顔付きになった。自分達はコピーとはいえ、同じ存在がそんな状態になっているのは遣る瀬無いのだろう。

 

そんな騎士たちの顔を見て男は優しく微笑んだ。

 

「そんな顔が出来るようになったのですね。…………隼君、やはりキミにこの子たちを託して良かった。大丈夫ですよ、心配しないでください。オリジナルに関しては今まで放置プレイしていたんですが、隼君が写本の主になったその時から事情が変わりましたからね。ふふ、きちんと手は打ちましたよ」

 

そう言って笑みを濃くする男だが、気のせいだろうか、その笑みの中にホンの僅か悪戯小僧特有の憎たらしい笑みが見え隠れしているような?

 

「お前、何企んでんだよ?」

「さて、何をでしょう?ふふ、心配しなくても大丈夫ですよ。あなたに祓えぬ闇も砕け得ぬ闇もありません。───紫色の天は、もうすぐ傍です」

 

何とも意味深なセリフを吐く男に対し、俺は頭を抱えるしかない。

勘弁しろ。もう魔法関係のゴタゴタはゴメンだっての。

 

「少し話が逸れましたね。兎も角、私はあなたに多大な感謝の念を持っていると、それを忘れないでください。ところで………」

 

男は俺から視線を僅かに逸らし、プレシアを見て一言。

 

「奥様ですか?」

「ちっっげーーよ!!」

「そしてそちらの金髪の子は娘さんですか?隼君に似ず可愛い子ですね」

「プレシアの娘なのは確かだし、フェイトが可愛いのも肯定するが、そこに俺を絡ませんな!」

「それに女性型の獣っ子まで侍らせるとは……やはりキミは只者ではありませんね。オールプレイ、バッチこい」

「お前は俺をどういう目で見ている!!」

 

さっきまでちょっと真面目な感じだったのに、なんですぐこうコメディチックになんだよ!まあ、俺はこっちのほうがやりやすいけどよ!

 

俺が肩を落とし溜息を吐いた時、隣に座るプレシアが俺の袖を引っ張って小声で話しかけてきた。

思えばプレシアのやつ、ここに入ってから一言も喋らず黙ったままだったな。こいつの事だから、いの一番に自分の要求を通すため男に詰め寄っていくと思っていたんだが。意外と言うか、らしくないと言うか、どうしたんだ?

 

「ちょっと、スズキ。まさか、ここがアルハザードなの?喫茶店じゃなくて?」

 

その言葉には戸惑いと怒りの色があった。

 

「はあ?どっからどう見てもアルハザードじゃん、何を今更。表にも看板あっただろ」

「あのね、文献にはアルハザードは『次元の狭間にある地』って載ってるのよ。なのにここは地球の、それもどう見てもただの店じゃない!」

 

え、そうなの?いや、だってお前がアルハザードに連れてけって言ったんだぞ?なら俺としては、俺の知ってるアルハザードにしか連れて行けないわけで、そんな次元の狭間なんて行った事はおろか、そんな言葉自体初耳だ。いや、聞いたような気もするな。

 

「でもなぁ、今更そんな事言われてもよ………俺、このアルハザード以外は知らねーよ?」

「…………………終わった」

 

うわぁ、なんかすっげぇ絶望してるよ。つうか確か最初に俺は『店』だって事言ったよな?酒飲みながらさり気なくだけど。プレシアのやつもちゃんと聞いてたはず…………そういや滅茶苦茶酔ってたっけ?

これはどうしたもんかと悩んでいると、目の前の男が声を掛けてきた。

 

「奥様、少しよろしいですか?」

「………なによクズ男」

「うわぁ、初対面の相手に遠慮無し。似たもの夫婦ですね」

 

男は苦笑するとコホンと一つ咳払いをして、

 

「何を求めているのかは分かりませんが、少なくともここは奥様が探していた地で合っていると思いますよ」

「…………え?」

「奥様は魔導師ですよね?それもかなり高ランクの。そして、そんな方が『アルハザード』という場所を探しているなら、それは間違いなくここです」

「ほ、本当にここはアルハザードなの!?」

 

テーブルに乗り出して男の胸ぐらを掴むのではないかという勢いで食いつくプレシア。それに対して男はまた苦笑の笑みを浮かべながらもしっかりと頷く。

 

「で、でも、文献には………」

「ええ、確かにその文献も合ってますよ。でも、実際にここも紛れも無いアルハザードです。そうですねぇ、いわばここは『アルハザード第36世界支店』といった所でしょうか。あなたの言う『次元の狭間』にあるのが本店ですね」

「は?し、支店?」

 

プレシアは驚き、俺は呆れた。

アルハザードって文献まである伝説的に凄い所らしいけど、実際の所はえらく現実臭いな。いや、まあ流石に本店支店云々はモノの例えだろうけど。

 

「勿論、支店だからって本店になんら見劣りはしませんよ?科学、魔導、その他様々な物を取り扱ってます。実現不可能と言われてるものから、未知のものや何世代も後の技術までね」

 

そう言って男が腕を横に振ると、空中にいくつかの映像が出てきた。なんともSFチックだ。

そこには銀十字の本やら銃剣のような武器(ディバイドっていう名前らしい。説明文がわざわざ日本語変換されている)、そして厨坊が喜びそうな覇王とか冥王とか聖王とかって単語もちらほら。

 

総じて、俺には意味が分からないがプレシアには分かるようで、言葉を失くしている程驚いている。

 

取り合えず男の自慢話を俺は無視し、こっちの要望を伝える。

 

「じゃあよ、死者蘇生なんてのも出来るわけ?」

「出来ますよ」

 

すっげー簡単に返されたよ。言い切ったよ。

 

「ほ、本当に出来るの!?」

「ええ。ちょちょいのちょいです」

 

プレシアの驚きの声に対して、男はあっさりと、何の苦もなく、「お湯沸かせますよ」的な軽い感じでそんな言葉が返した。

つうかそんな簡単でいいの?もっとこう厳かに凄みを効かせてさ、雰囲気ってあるじゃん?そもそもそういうのって禁忌ってやつじゃねーわけ?常識的に考えて、お約束的に考えて。

 

「別に禁忌でも何でもないですよ?ただ誰もやらないだけ、いえ、やれないだけです。やっちゃいけない理由なんてないですよ」

 

あっけらかんと言う男に対し、俺は取り合えず反論しておく。

 

「でもよ、普通に考えて人を生き返らせるのってマズイんじゃね?ほら、よく『世界が許さない』とかいうじゃん?なんか問題出るんじゃね?」

「なんですか『世界が許さない』って?漫画見すぎですよ。そんなモンがあるわけないじゃないですか、現実的に考えて。出来る事を実行するだけですよ?いわば料理を作る知識があるから実際作るって事と変わりありません。そんな日常的な事に一々問題なんて出ますか?」

「いや、料理と死者蘇生は全然違うだろ」

「同じですよ。出来る事をするんですから。禁忌っていうのはね、『やっちゃいけない事』じゃなくて『やれない事を無理やりやろうとする事』なんです」

 

つまり、俺たちに死者蘇生はやれない。実行出来ない。でも、コイツには出来る。だから、禁忌には触れない、て事?

 

「うっわ、無理やり~。じゃあ、人道とか常識とかは?」

「そんなのは他人に説かれるものじゃなく、自分自身で計って決めるものですよ。キミだってそうでしょう?」

 

その通りだ。誰に言われようとも、俺はアリシアを生き返らせると決めた。なら、それをやるだけだ。

ただ、後でその結果何かしらの問題が出たら面倒だから、その辺の確認の意味も込め゛取り合えず゛反論してみたんだ。

 

「しかし、死者蘇生ですか………という事は、今日ここに来た目的は────」

 

横にいるプレシアがおもむろに立ち上がり、深々と頭を下げる。

 

「アリシアを生き返らせて」

 

それに続くようにフェイトとアルフも慌てて立ち上がり、頭を下げた。

 

こうして漸く本題へと入ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プレシアは男に語った。

アリシアが生まれた時の喜びを、アリシアと共に生活していた時の幸せを、アリシアが死んだ時の悲しみを。

プレシアがどれほどアリシアを想っているのか、どれほど生き返らせて欲しいか、その気持ちを全て吐露した。恥も外聞もなく涙を見せる場面もあった。

アリシアの為なら何でもするし、何でも捨てられる。どのような辱めも受けるし、どのような誉れも捨てられる。

 

改めて語られるその覚悟の大きさは凄まじいもので、必死な訴えを聞いている男のみならず騎士たちも時には涙ぐむ場面があり、今ではプレシアと一緒になって男に頼み込んでいる始末だ。

フェイトもフェイトで必死に頼み込んでいた。自分には一切優しくしてくれなかった母親。自分は愛されず、亡き我が子を愛する母親の想いを聞かされ、不貞腐れてもよさそうなのに、嫉妬しても良さそうなのに──懸命に、健気に。

 

そして、勿論俺は…………

 

「ハートのフラッシュ!」

「残念。こちらはスペードのフラッシュです」

 

理とポーカーを興じていた。

いや、だってプレシアの話とか想いとか興味ねーし。そもそも、どんなに語ったところで生き返らせる事は決定事項であって、仮に男が断ったとしても無理やりやらせるつもりだし。

だから、プレシアや夜天たちの今の訴えなんてほぼ無意味な事なんだが………まあ、好きなようにやらせるさ。こういう場面も必要だろ?俺、空気読める男!

 

「まだやりますか?」

「当然だろ!コォォオオッッル!!

「Good。レイズです」

 

ちなみに賭けているのは明日の晩飯のおかず。チップ3枚につき1品。

ただいま3品負けてます。

 

「どうだよフルハウス!」

「貰いました、ストフラです」

 

4品献上が確定した。

 

「だああああ!やってられっか!終わりだクソッタレ!」

「心滾る、良き戦いでした」

 

トランプをその辺にばら撒き、席を立つ俺。ポケットかたタバコを取り出し火を付けイライラを収めようとした時、先ほどまで向こうで話し合っていたはずの皆がこちらを見ていた。

 

「なに見てやがんだよ。見せもんじゃねーぞ。あ、それとも混ざりてーの?だったら来いよ。俺も負け分取り返してーし」

 

その言葉に憤怒の表情で返したのはヴィータ。

 

「テメーは何してやがんだ!つうか理も!」

「「ポーカー」」

「そういう意味じゃねーよ馬鹿!」

 

ンダよ、やっかましいロリだな。なに、語らいは終わったわけ?だったらさっさと生き返らせろよ。こちとらさっさと終わらせてフツーの生活に戻りたいんだよ。

 

「ハヤちゃん、生き返らせる事が出来ると分かった途端、考えがすごく適当になっちゃってますよ」

「そりゃ適当にもなるさ。で、いつ生き返らせんの?アリシアの死体がいるなら明日くらい?どうでもいいけど、もう俺帰っていい?」

「ハ、ハヤちゃん………」

 

だってさ、もう目的は半ば達成じゃん?ならもう俺の出番はないわけじゃん?だったら帰りたいわけよ。それにまだ事後処理が残ってっし。持ってるジュエルシードの後始末とか。

 

俺はやる気なさげに椅子に座りタバコをふかしていると、目の前に男が歩み寄って来た。それもニヤニヤしながら。

 

「それがね、隼君。まだ帰ってもらうには早いんですよ」

 

そう言って極上の笑みを浮かべる店主。…………嫌な予感が果てしねー。

 

「お代はいかほどいただけるんで………?」

 

少し猫背になり、右手の親指と人差し指で綺麗なマルを作ってそういう男。

 

「奥様の気持ちは分かりました。お嬢さんや騎士たちの懇願も心に響きました。でもね、実際問題それだけで通るほど世の中甘くありませんよ?なにせ人一人生き返らせるんですからね。そもそもここはお店。ギブアンドテイクが基本です」

「金の相談ならプレシアにしろ。たんまり持ってっから。な?」

 

俺はプレシアの方を向きそう言ったが、何故か彼女は申し訳ないような、気まずそうな顔を浮かべていた。

……ああ、嫌な予感が止まらない。

 

「お金はいりません。そういうのは間に合ってますから。私はね隼君、キミの誠意を見せて欲しいんですよ」

「誠意だァ?ざけた事ぬかすなよ」

「いいんですか?生き返らせませんよ?皆には先ほど言いましたが、私の結論としましては『生き返らせるなら後は隼君次第です』という事です」

 

……………コイツ。

俺は男を睨め付け、実力行使すべく掴みかかろうとしたが、それより早くプレシアが俺の手を取った。

プレシアはいつもの強気な態度はどこへやら、弱弱しい目をしていた。

 

「スズキ………」

 

おいおい何だよその目は………忌々しい。ああ、忌々しいなぁオイ!!クソッタレ、なんだよこれ!最後にコレかよ!ふざけやがって!なんで俺が!

 

俺はプレシアの手を振り払い、このイライラのまま男に言葉をぶつける。

 

「……………土下座でもすりゃあいいのかよ」

 

意に反して、口から出た言葉はそんな負け犬っぽい言葉だった。そして、そんな俺の言葉を聞いて皆は目を丸くして驚く。特にウチの奴らの驚きようは凄い。おそらくネッシーやツチノコを見てもこんなに驚かねーって程だ。

俺だってこんな言葉吐きたくねーよ。マジ惨めだろ。でも…………ああ、クソッ!だってしょうがねーだろ!?ここまで来てご破算なんて、そんな結末は誰も望んじゃねーんだよ!殴って言うことを聞くようなタイプの男じゃねーしよ。

ここまでの俺の苦労を無にしてたまるかよ。

 

「ふふ………あははは!ああ、キミは本当に面白い子ですね」

 

男は愉快そうに笑い声を上げ、しかしすぐに優しく微笑んだ。

 

「キミの土下座なんて、そんな高価なものは頂けません」

 

そう言って微笑み続ける男だが………なぜだろう、土下座を回避したのに未だ嫌な予感は止まらない。

 

「キミの誠意は別の形で見せてもらいます」

 

男はどこからか、本当にどこからでさらにいつの間にか、一枚の紙を取り出していた。

それはとてもとても見覚えのある紙だ。

 

「お、おい、それはまさか………」

「死んだ命を生き返らせる、その代償として別の命を貰うというのは定番ですが、そこを逆転の発想にしましょう。つまり死んだ命を生き返らせる代償として、生まれて来ないはずだった命も一緒に背負う。これもある種、命には命をって事ですね」

 

ここに来て、嫌な予感は確信へと変わった。

 

「夜天の断章、その゛最後゛の一人。貰い受けてくれますよね?」

「……マジかよ」

 

驚きは無く、呆れもなく、ただただ疲れた。なんか疲れた。何故か疲れた。しかも、夜天たちはそれを予め聞かされていたのか、何の反対の声も上がらない。俺とポーカーしていた理だけが驚いた顔をしているが、それでも反対の声は上げていない。

つまり、皆はあの狭っ苦しい部屋に同居人が一人増える事を良しとしているということ。

 

無援孤立とはこの事か。全員が全員、俺に期待の眼差しを向けている。

 

「あー………ちなみに他の条件は?」

「ありません♪」

 

キモい笑顔ありがとよクソ野郎。

ハァ………なんでかな~。せっかく厄介事が終わると思ったのに、最後の最後でキレの悪い糞のような展開になっちまった。

こりゃあマジで就職しなきゃやべぇな。それかプレシアに援助して貰うか?……………うわぁ、もうなんかこんな事考えてる時点でいろいろ駄目だろ俺。ここまで来ると俺は本当に何がしたいのか分からない。

 

……………もういいや。どうでもいいや。

 

「よぉ、フェイト」

「なに?」

「あとでお前の魔力くれ」

 

せめて、せめて普通の、常識を持った可愛いガキが生まれる事を望みながら、俺は今日一番の大きな溜息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局最後は超投げやりになり、もうどうにでもしろよ的な感じで周りの奴に進行を任せ、俺は項垂れながら一人タバコをふかしていた。今ほど酒に溺れたいと思った瞬間はない。

 

俺は一体何してんだろう?何がしたかったんだろう?ホントにこれで良かったんだろうか?何が良かったんだろうか?

 

そんな自問自答の言葉が脳裏に出ては消えの繰り返し。

幸せになりたかっただけなのに、何だか可及的速やかな勢いで不幸を背負っていってるような気がする。

幸せになるってのは難しい。現実は厳しい。ていうか絶望しかないような気がする。後悔しかないような気がする。

 

プレシアはアリシア蘇生の夢が叶って喜んでいるけれど。

フェイトはこれから訪れる新しい生活を夢見て喜んでいるけれど。

アルフはそんな嬉しそうなフェイトを見て喜んでいるけれど。

騎士たちは新たな仲間が出来るといって喜んでいるけれど。

 

俺だけが喜べない。人を幸せにしといて、肝心の自分が幸せになれていなかった。

 

(あれ?幸せってなんだっけ?)

 

そんな哲学めいた考えさえ浮かんでくる。

ああ、こんなはずじゃなかった。もうね、あれだ、神は死んだ。つうか、こんな仕打ちをした神が存命してるならぶち殺してやる。

 

(あ~あ、皆楽しそうだなぁオイ)

 

俺を除いた皆はテーブルを囲み、優雅にお茶会の真っ最中。プレシアなんて普通に笑ってやがる。まあ、そりゃそうだよな~。アリシアが生き返るだけじゃなく、さらに自分の病気まで治して貰えるんだ。

 

そう、結局プレシアの病気も男に治して貰う手はずとなった。アリシアの件と同じく、男は意図も簡単そうに『出来ますが、なにか?』って感じで言い放った。

そりゃ死者蘇生出来る位だから病気なんてそれこそ朝飯前だろうけどよ。そして、ご都合主義だろうが何だろうが大団円になるならそれが一番だとは以前言ったけどよ。

 

なんだかな~。

 

(唯一の救いはフェイトのホンキ笑顔が見れた事だな)

 

微笑とかじゃなく、本当の満面の笑顔を浮かべたフェイトの何とまあ可愛い事。マジでそれだけが今回の…………………あれ?

 

(笑ってない?)

 

皆がテーブルを囲み談笑してる中、気づけば先ほどまでエンジェルスマイルだったフェイトの顔は今何故か曇っていた。いや、あれは何か考え事をしている?

どうしたのかと思いフェイトを眺めていると、程なくフェイトが席から立ち上がり声を上げた。

 

「あ、あの!」

 

その視線の先、言葉を向けた先にいるのは、プレシアの望みを叶え、俺に絶望をくれたクソ野郎。

 

「どうされました?」

「えっと、その………」

 

談笑中にいきなり立ち上がったフェイトに皆が注目する。その皆の視線を受け、緊張して口をもごもごさせるフェイトだったが意を決して口を開いた。

 

「あ、あなたは死んだ人なら誰でも生き返らせる事が出来ますか………?」

「ふむ、これはまた唐突な質問ですね」

 

確かにそうだ。それにそんな質問をするって事は、フェイトにも誰か生き返らせたい奴がいるという事だよな?けど、アリシア以外に誰が?

俺を含め皆がフェイトの言動を訝しむ中、プレシアだけがハッとした顔をしてフェイトを見ていた。

 

「どう、なんでしょうか?」

「そうですね………ただ生き返らせるなら誰でも可能です。けど、その故人が持っていた経験や知識、思い出などは難しいです。この度のアリシアさんの場合は本人の体があるので、そこからそれらを汲み上げる事が出来るのですが、体そのものから復元させるとなると厳しいものがあります。性格は同じに出来ても、それが同一人物なのかと言われると………」

「………そう、ですか」

 

フェイトはぺたっと力なく座り、俯いてしまった。

いきなりテンションがた落ち、悲しみ一直線なフェイト。皆がそんなフェイトを見て戸惑い、プレシアまでも悲しそうに視線をフェイトに固定してる。

 

(………ったく、世話の焼けるガキだ)

 

今回の唯一の救いがそんな顔してちゃ駄目だろ。

俺はため息を吐くとフェイトではなく、プレシアへと近づき耳打ちする。

 

「おい、プレシア。フェイトは一体なに言ってんだ?」

「…………きっとリニスの事よ」

 

リニス?誰よそれ?名前の響きからして女の子っぽいが。

 

「私の使い魔だった子よ。そして、フェイトの教育係りだった子」

「ふ~ん。てぇと、その子は死んだの?」

「………………まあね」

 

なんか歯切れの悪いプレシアの言葉だが…………そっか、そんな奴がいたんだな。

フェイトの様子を見れば、フェイトがどれだけそのリニスって子の事が大切だったか分かる。けど、まあ世の中厳しいってのは分かり切ってる事だ。誰も彼も簡単にゃあ生き返らねーよ。

フェイトには悪ぃが、アリシアが生き返るってだけで満足してくれや。

 

……………………。

 

 

「ちなみにプレシア」

「なによ?」

「そのリニスって子の歳、顔、性格、身体つきはどんなだ?」

「はあ?なによいきなり」

「いいから答えろ」

「………見た目の歳はあなたくらいの女性体。身体つきも別に普通だけど、素体が山猫だったから尻尾と猫耳があるくらいね。顔は、まあ可愛らしいわね。性格は真面目で優しいわ」

「──────美人か?」

「まあ、この世界の街頭テレビに映ってたアイドルよりは………」

 

…………………キターーーーーーーーーーー!!!神はまだ存命だった!それも優しい神が!!

俺はソッコーで男に詰め寄り、その胸ぐらを掴んで立たせると顔を突きつけて言った。

 

「追加だ」

「はい?」

「蘇生者追加だ。名前はリニス。是が非でも生き返らせろ!!」

 

がくがくと男を揺さぶり必死に訴えかける俺。

 

「い、いきなり何です?まあ、先ほども言った通り本人の体さえあれば可能ですよ?」

「体は!!」

 

バッ音が聞こえそうなほどの勢いで首ごと男からプレシアに視線を移す。プレシアは呆然とした顔で首を横に振った。

 

「無い!生き返らせろ!」

「いやいや、隼君、さきほどの私の話聞いてました?」

「聞いてた!生き返らせろ!」

「………滅茶苦茶言ってる事自覚してます?」

 

知るか!これは、俺が幸せになれるかなれないかの最後の希望なんだ!

リニス。ああ、リニス。改めて聞けばなんて美しい響きだ。名前だけその美しい姿が脳裏に浮かび上がっていく。

ここにきてとうとう俺にもツキが回ってきたようだ。

 

フェイトはそのリニスの事が大好きだった事は容易に想像出来るが、一方でそのリニスもまたフェイトの事が好きだったはずだ。てか、フェイトを嫌いな奴なんていねぇだろ。

そこで彼女も生き返らせてやり、また大好きだったフェイトと生活できるようにしてやったら?しかも、フェイトが今まで以上に幸せになっていると知ったら?

当然リニスは嬉しく思うだろうし、そうしてくれた人に感謝するはずだ。つまり俺に好印象を抱く事間違い無し!そして、その好印象が好意に移行する可能性も無きにしも非ずで、ゆくゆくはリニスが俺の彼女になる可能性も無きにしも非ずでっ!?

 

つまり脱・童貞!

 

「あんたなら出来る!」

「ですから───」

「あんたは『難しい』とか『厳しい』とは言ったが『無理』とは言ってねぇ。つまり出来るってことだ!つうか無理でもやれ!!」

「………まったく、耳ざといですね。確かに無理じゃあありませんが、無茶な事に変わりはありません。出来るか出来ないかで言われたら出来ますが、成功する確率は5割もないですよ?」

「構わん!だが成功させろ!」

「ハァ………やれやれですね」

 

男は俺の勢いと必死さと顔の形相に押される形で了承したのだった。そして一部始終を呆然と見ていたフェイトは最後、漸く事態が飲み込めた時、俺に満面の笑みを浮かべて抱きついてきたのだった。

 

「ありがとう……ありがとう!隼!!」

 

なんかここ最近、フェイトにはよく抱きつかれてるような気がするな。ガキに抱きつかれても欠片も嬉しくないが……まあ感謝されんのは気分がいいので無下にはしねえ。

プレシアやアルフ、ウチの奴らもそれを微笑ましそうに見ていた。ただ一人、理だけはルシフェリオンを構えて今にもフェイトをぶっ飛ばしそうだけど。

 

ともあれ、こうして俺の長い一日が終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空に広がるは満天の星空。

ここ海鳴は自然も多く残っているが、どちらかと言うと都会の部類に入る。そんな中で、このような綺麗な星空を眺める事が出来るのはとても良い事だと、タバコを片手に大気を汚しながら思う。いけしゃあしゃあと思う。

 

「お疲れ様、俺」

 

プシュとタブを上げ、ビールを思いっきり呷る。この苦味が今までの俺の苦労を表しているようで、俺は思いっきり咽喉を鳴らして飲み込む。

ここは自宅。プレシアの家でもなく、アルハザードでもない、あの狭っ苦しい自宅。

 

「まだ終わっちゃねーけど、でも大きな一段落だな」

 

アルハザードを出たのが今から数時間前。アリシアとリニスの件に関してはまた後日って事になった。男にもいろいろと準備があるらしいし、こっちもアリシアの死体を持っていってなかったからな。

て事で、俺たちはいったんそれぞれ自分の家へと帰った。

俺と騎士たちはここに。プレシアは庭園、フェイトとアルフはあのマンションに…………ではなく、2人もプレシアと共に庭園に。

 

「これで、厄介事とはもうおさらばだ」

 

まだジュエルシードとか手元に残っちゃいるが、そんなもんどうにでも処理のしようはある。なのはにシグナムの姿がバレちゃいるが、それだってどうにでもなる。今までの問題に比べたら些細なもんだ。

 

「ああ、でももう一人偽家族が増えるんだっけか」

 

手元には一枚の紙切れ。まだ魔力は注いでいない。それは先送りしているだけで時間の問題なのは百も承知だが、それでも嫌な事は延ばせるだけ延ばしたいのが人間だ。ていうか俺だ。

 

「まっ、最後の最後に希望が見出せたし、いっか」

 

リニスって子が生き返るのか、それはまだ分からないが。それでも希望が有るのと無いのとじゃ心持ちが全然違うしな。てか、ここまで期待させて生き返らなかったらクレーマーになってやる。

 

「取り合えず、プレシアたちは前より幸せになれるだろうし、夜天たちも仲間が増えて嬉しそうだし」

 

そして俺も、まあ満たされたから。ギリギリ、及第点レベルで、まあ満足出来たから。

だから総じて、四捨五入して、これはハッピーエンドに分類していいんじゃないだろうか?ご都合展開をふんだんに盛り込んだ大団円。

 

エンディング、物語の終わり。

 

勿論、俺の生活は続くし、知り合いも増えたので今まで通りの生活が戻ってくるわけはないのだが。

でも、まあこれが小説ならここが物語の最終話だな。

ただ、先も言ったように俺の生活は今まで通り当たり前に続く。俺の、俺による、俺の為だけの、幸せを求める物語は続いていく。

 

だから、これはやっぱり一段落であり…………え~と、つまり何が言いたいのかと言うと。

 

「グッバイ、厄介事!ウエルカム、エロイベント多発な日常生活!!」

 

やっほー、終わったぜ!エロイベントが来るかどうかは知らんが、少なくとも厄介事からはグッバイフォーエバー!いっそ今から打ち上げ的に飲み出ようかな~。最近ダチにもあってないし、誰かにTELLして……。

 

なんてほっこりまったりしてたら唐突に二つの影が躍り出てきた。

 

「ベランダで奇声上げてんじゃねーよ、うっせぇな!近所迷惑考えろよ!てか、お前の存在自体が迷惑だよ!存在自重しろ!」

「ヴィータ、それはあまりに酷すぎます。慈悲の心を持ちましょう。せめて『お前の顔が迷惑だ』くらいにしておいてあげるべきでしょう」

 

二つの影はご存知ロリーズ。

ああこいつらは。本当こいつらは。最後くらい、綺麗に終わらせろや。毎度毎度……毎度毎度毎度ォォ!!

 

「上等だ、このガッカリ無価値胸寸胴お子ちゃま共!グチャグチャにしてやっからまとめてかかった来いやオラ!」

「ぶっ殺す!」

「カチ~ン」

 

 

10分後、管理人さんに怒られたのだった。

 

最後の最後までしまらねー俺たちだ。

 

 

 

 

 

【無印編 完】

 




取り敢えず無印編完結です。ここまでお読み頂きありがとうございます。

そのまま連番にしようかと思いましたが、これから先キャラ登場キャラが結構増えていくので、その前に一区切り入れようかと。
次回からは後日談や番外編などを数話はさみ、As編に入ろうかと思っています。
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