フリーターと写本の仲間たちのリリックな日々   作:スピーク

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主人公後日談~その2~ 後編

レヴィ、スラッシャー、ライ、シュウ、フェイト・セカンド、アリシア・サード、阿呆、etcetc。

 

と、上記のような単語をあげては見たが、これが何か分かるか?まあ、普通に予想はつくだろうな。

そう、あの新しく生まれた断章娘の名前候補だ。

 

理同様そいつにも名前がなく、そしてこれまた理同様俺が名前をつける段取りとなり、勿論俺はいちいち考えるのが面倒臭く、『力の断章ってんだろ?なら、お前は今日から力な』と名づけてやったところ、プレシアとフェイトとアルフに超怒られたのだ。曰く『女の子の名前じゃない!』だとさ。

うん、まあそうだろうな。流石の俺もどうかとは思ったんだ。さらに当の本人が『な・ま・え~♪な・ま・え~♪主が付けてくれたボクのな・ま・え~♪その名は力!えへへ~♪』なんて言いながらぴょんぴょん跳ねて嬉しさ大爆発させてる姿を見せられちゃあ、もちっとマシな名前をつけてやりたくもなる。

 

て訳で、俺達はアリシアのカプセルを運びながら断章娘の名前を考えていた。その時上記を含めた様々な名前候補が挙がったのだが、結局最後に決めるのは俺となった。件の断章娘が俺以外の考えた名前など嫌だとぬかしやがったからだ。

 

しかし、さてこれは困った。ご存知の通り俺のネーミングセンスは少々独創的で、上記の候補の中の『フェイト・セカンド、アリシア・サード、阿呆』が俺の考えた名前かどうかも疑わしい名前。

普通なら即却下モンの命名だが、生憎と名づける対象の奴が普通ではないので、多分てか絶対受け入れるだろう。けれど、それを良しとしないのがテスタロッサ家の面々で、きっと次ふざけた名前を挙げればプレシアとアルフからは拳骨が飛んでくるだろう。さらにフェイトからも何かしら幻滅されるはずだ。前者はともかく後者はいただけない。未来の合コンのため、フェイトには良い印象を持たせておきてーんだ。こんなしょーもない事では幻滅されたくねーよ。

だから、俺は無い知恵と語彙を駆使して考える。

 

考えて、考えて。

それでも浮かばなければ?

まだ考える。

 

俺はどこぞのウッドでロウな王様の持論の元、アリシア入りカプセル運搬は他のやつらに任せて一人考え抜いた。テキトー大好きな俺にとっては何とも珍しい事だと自画自賛(?)

そしてとうとう目的地付近である温泉街が見えてきたとき、ただただ一人のプログラム少女の事を想う健気な俺に天啓が舞い降りたのだった。

 

「お前は今、この瞬間から『ライトニング・テスタロッサ』だ。略称はライト!」

 

略称まであるという外国人らしい、なんて素晴らしく良い名前だ。前言撤回しなければいけんな。俺、結構ネーミングセンス良くね?

そして断章娘改めライトは目をパチクリさせた後、2~3度その名前を呟くと次の瞬間バンザイして喜びを爆発させた。

 

「ライトニング!ボクの名前!ライトだって!主が付けてくれたー!わ~い!ボクはライトニングだぞーー!主、大好きだ!」

 

叫びながら俺の周りをびゅんびゅんとハエのように飛び回るライト。そこまで喜ばれちゃあ俺も悩んだ甲斐があったってもんだ。てか、テスタロッサ姓には別にツッコミねぇのな。まぁ、いいけどさ。

俺は時折こちらに抱きついてこようとするライトを軽くいなしながら自然と笑みが浮かぶのを自覚した。

 

「ぐぐっ……ち、ちょっと!な、仲がいいのは結構だけど」

 

ふと見れば、プレシアが猿も真っ青に見えるほど顔を赤くしていた。つうかアルフもフェイトも真っ赤だった。

 

「は、早く手伝いなさい!ア、アリシアが落ちちゃう………っ!」

 

おー、忘れてた。

 

「てか、3人でも持ててんじゃん。やるぅ~。よっ、ナイスゴリラ!」

「じ、自殺願望があるなら後で手伝ってあげるから、今は手伝いなさい!げ、限界近いのよっ!」

「なんだ、トイレでも我慢してるのか?」

「~~~~~っっっ」

 

どうやら言い返せないほど限界付近らしい。アルフも牙剥き出しで睨んできやがるし。

しゃあねーな。まったく世話の焼ける家族だ。

 

「おら、そこの水色小バエ。飛び回ってねぇで持ってやれ」

「あなたも手伝えと言ってるの!!!ぬあああああ~~~~~っっっ!!!」

 

まだまだ元気なプレシアお母さんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや?これはなんとも珍しい。お客ですか、いらっしゃい」

「………あのよ、いい加減そのテンプレいらしゃいは止めね?それともなに、キャラ立ちしたいわけ?だったら安心しろ。もう十分おっ立ってる」

 

苦節数十分、アリシア入りカプセルを抱えた俺たち一行は汗だくになりながらも漸くアルハザードへとやってきた。

 

道中は苦労の連続だった。………ホント、苦労したよ。

 

俺たち一行はカプセルを抱えて空飛んで来たわけだが、勘違いしてはいけない。空を飛んで来れたのはこのアルハザードから約1km離れた所までだ。だってこんな温泉街のど真ん中まで飛べるわけねーじゃん?だから人目につかない1km手前の林の中で着陸し、そっからは何と手押しだ。

正直、疲れたし人の視線が痛かった。勿論、素でこんな死体の入ったカプセルを堂々と運べる訳ないのでシートを被せてはいたが、それでも周りの人々からの『何だありゃ?』的な視線はひしひしと感じていたのだ。ポリに見つからなかっただけ幸いだけど。

けれど今さらそんな事を気にしてもしょうがないので、俺達は粛々と、だが時折「見てんじゃねーぞコラァ!」とガンを飛ばし返しつつアルハザードへと向かった。

着いた頃には心身ともに疲労しており、だから出迎えてくれた男に対しても皮肉の一つ言った所で罰は当たんねーだろ。

 

「おやおや、これはまた御機嫌斜め?そんな穿った見方しないでくださいよ」

「ふん、事実だろ」

「世の中には『お約束』という言葉があるのをご存知ですか?」

「何が約束だ。そんなモン、ぶっちしろ」

「あれ?隼君、お約束というのは嫌いですか?好きそうに見えるんですが」

 

はん!何言ってんだか。ふざけるなよこの野郎、誰に向かって言ってんだか。

 

「ドリフ、バカ殿大好きっ子の俺にそれを聞くのか?」

 

お約束、形式美、様式美、大好きだ!古きよき手法だよ。

 

「はは、愚問でしたね」

 

俺と男は互いの腕をぶつけ合った。

そんな俺たちの友情を冷めた目で見ていた女性から一言。

 

「それで、もうコントはその辺で止めて貰っていいかしら?」

 

これだからお笑いを理解しない堅物ババアは。

 

「おっと、これは失礼しました。いけませんねぇ、どうにも隼君といると彼のペースに巻き込まれてしまう。元来、私はもっと業務的な性格をしているのですが………まあ、それほど隼君が私にとっても魅力的な人間なのでしょう」

 

ンだよ、そりゃ。野郎に褒められても嬉しくねーっての。てか、『私にとっても』ってなんだよ?お前の他に俺なんかを魅力的に思ってる奴なんてこの場にはいねぇだろ。

 

「まあ、それは兎も角。隼君、ありがとうございますね」

「ああ?なによ、藪から棒に」

「その子の事ですよ」

 

男の視線の先にいるのはライトだった。まぁ、分かってたんだけどな。けど、別に礼を言われる事じゃない。男も言ってたように、こいつを誕生させるからアリシアたちも復活させるんだ。そういう契約だから、俺は仕方なくライトを生んだのであって、だから礼を言われることじゃない。

 

そんな俺の胸中を分かっててなお、こいつはそれでもありがとうを言ってるんだろうけどな。

うざってぇ。

そう思っていると、今話題の少女から声が上がった。

 

「その子じゃないぞ!」

「?」

「ボクはライトニングだ!ライトって言うんだぞー!主がつけてくれたんだっ!」

「ははは。それは失礼しましたライトさん。────良いお名前を貰いましたね」

「うん!!」

 

なんつうか名前一つで2人とも大げさに捉えすぎじゃね?ライトは言うに及ばず男の方もなんかしみじみだし。娘を嫁にやる的な雰囲気を醸し出してんだけど。

 

そんな男はライトを微笑みの顔で見ていたが、コホンと咳払いを一度すると皆に目を向けた。

 

「改めまして、ようこそいらっしゃいました。さて、ではそろそろ本題に入りましょうか。いい加減、奥様が痺れを切らしそうですからね」

 

そう言うと男は昨日から置きっ放しなのであろうテーブルへと俺たちを促した。そして俺たちが席に着いたのを確認すると何処からかお茶を取り出し、それぞれの前に置いた。

 

「生憎と今日はお菓子の類はないので、それだけでご勘弁を。では、まずはあなた達の望みを再確認させて頂きます」

 

男は俺たちを見回すと指を一つ上げた。

 

「一つ。奥様のご息女アリシアさんの蘇生」

 

次いで2本目の指が上げた。

 

「二つ。奥様の使い魔リニスさんの復活」

 

最後に3本目を上げる。

 

「三つ。奥様の病気の治療。この3つで相違ありませんね」

「おう、まあよろしく頼むわ」

「ふむ……」

 

そこで男は何故か考えるような仕草を見せた。程なく、何かしらに考えが至ったのか一人楽しそうに何度も頷いた。

そんな男を見て、俺に何度目かの『嫌な予感』が襲う。そして、やっぱりその予感ってのは大概当たるもんだ。

 

「追加のお代、頂けますか?」

「よーし、歯ァ食いしばれ~」

 

俺は笑顔で拳を振り上げるが、男は俺以上のいい笑顔を浮かべながら続けて宣う。

 

「いえね、確かにアリシアさん蘇生のお代は頂きましたが、追加分であるリニスさんと奥様の病の治療のお代を頂いていませんでしたので」

「……ちっ」

 

気づかれたか。

俺も気づいてはいたが、このまま流れで有耶無耶にしちまえと思ってたんだが……そうは問屋が卸さんか。

 

「……で。なら何払やぁいいわけ?また誰か断章でも生みゃあいいのか?」

「おや?今回は素直ですね。てっきりごねるものかと」

 

そりゃごねたいのは山々だが、もういろいろ諦めたんだよ。てかどうでもいい。もうなるようになれだ。

それにここまで来て『じゃあアリシア蘇生以外はいいです』なんて事ぁ言える訳もねえ。美人らしい使い魔の復活は是が非でもやるべき事だし、プレシアの治療も幸せにすると言った手前やるべきだ。

 

「リニスって子の復活とプレシアの完治、そしてそれを含めたテスタロッサ家がこれから来るだろう幸せな未来を掴んだ時、俺ぁようやっと満足出来んだよ。ここまでの俺の苦労を大団円間近でフイにしてたまっかよ」

「……スズキ」

「「……隼」」

 

追加のお代が何だか知らねーが、俺がよっぽどマイナスにならない限り受け入れる。それにこれまでの苦労で十分マイナスいってんだ。いまさら追加でマイナスされてもびくともしねーよ。

 

「ふふ、隼君は本当に情が深いのですね」

 

今の俺の発言のどこに情の深さを感じたのかは知らんが、まあ確かに情が深いよ俺は。自分自身と、俺が気に入ってる奴にだけはよ。

ああ、ホント、俺マジ仏陀。

 

「さて、では隼君に対する追加お代………と言っても別に無理難題じゃないですよ?キミならきっと出来る事です」

「いいから、さっさと言えや」

 

半ば自棄になっている俺に対し、男はいつになく真面目な調子でこう言った。

 

「夜天に集う雲、真なる夜、そして全てを拒絶している盟主……皆を悲しみの連環からを救い出してあげてください。そして、幸せを」

 

………意味分からないんですけど?そして多くね?皆って、え、人物?何人?

 

「それともう一つ………まあ、これはまた後で」

 

だから多いっつうの!足元見やがって!

もうどうにでもなれだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男は早速取り掛かってくれた。

まずはプレシアの病魔を取り払い、次にリニスとアリシアの蘇生をするそうだ。時間的に少し掛かるようで、その間俺たちは温泉街でぶらり楽しく旅行気分。

 

「あっ、主、次はあのお店入ろ!」

「アホ。次入る店を決めるのはフェイトだ。順番守れや」

「フェイト、あの店がいいと思うぞ!」

「あ、うん、じゃああそこで……」

「フェイト、自分の意見をちゃんと持て。ライトに流されんな。この1時間、ずっとライトの言いなりじゃねーか」

「あぅ」

 

右手にはフェイトの左手、左手にはライトの右手が繋がっており、まるで仲良し兄妹のように温泉街を散策している俺たち三人。

今ここにいないプレシアとアルフはアルハザードにいる。プレシアはもう治療に入っており、アルフはお留守番。本当はフェイトもプレシアの傍に居たかった様だが、その当人とアルフが「フェイトは隼と遊んで来い」という弁に従い今現在。代わりにアルフがプレシアの付き添いとなった。

 

「………母さん、大丈夫かな?」

「別に大丈夫だろ。そもそも殺しても死なねぇような奴だし」

「そうそう。あのおっかないおばあさんは並大抵の事じゃ死なないと思うぞ。主ほどじゃないけど」

 

どうやらプレシアはライトの中でも早速暴君ランキング上位へと居座ったようだ。そしてさらに何故か俺はその上へに居座っているようだ。

 

「おっ、おなじみキティちゃんご当地ストラップだ。携帯に付けよっかなぁ」

 

プレシアの事やアリシアやリニスの事を目前に控えてるのにこのお気楽思考。緊張感皆無。

それでいいのかと問われれば、一般的回答は『駄目』なんだろうけど、生憎と俺もプレシアも無駄に緊張感を持つのは性分じゃない。

「ここにいても暇だから遊んで来るぜ」「そう。こっちも早く終わったら合流するわ。後うるさいからライトも連れていって」。

こんな感じだった。

 

「つっても俺にゃあちょっとキュートすぎるな。よしフェイト、お前に買ってやるよ」

「え!?そんな、い、いいよ」

「あ~、フェイトだけズルイぞー。主、ボクも!」

「はぁ?……ったく、しゃあねーなぁ」

 

今まで騎士どもに「フェイトには甘い」と何度も言われてきて、その度に否定してきた俺だったが、どうやら認めなきゃならんらしい。

 

俺はフェイトには甘い。

 

その性格は言わずもがな、その可愛らしい顔も俺の甘さに起因しているらしい。ああ、勿論変な意味はない。ロリっけもない。だが、そう考えなきゃ辻褄が合わん。だって、じゃないとこの俺がフェイトのみならずライトにまでストラップを買ってやるわけがない。

 

「結局、人は顔なんだよなぁ」

 

顔が良けりゃ優しく出来るし、悪けりゃ死ねだし。さらに性格も良い奴はこれ最強。フェイト最強。ロリーズ?ツラは兎も角、性格が世紀末だから無理。………いや、もし性格終わってる女でも、金と地位と家柄と容姿が良い奴ならソッコー結婚申し込むけどさ。

 

金と権力と美女になら容易く魂を売れる、それが俺クオリティ!

 

我ながら何とも素敵な性格だ。純愛ギャルゲーに出てくるような主人公とは大違い。だからモテないんだろうけど!

 

「ねーねー、主」

「あん?」

「ところでストラップって何?」

 

………知らんのかよ。フェイトへの対抗意識だけで物ねだるな。

 

「携帯に付けるアクセサリーだよ。ほら、こんなやつ」

 

俺はポケットから自分の携帯を取り出した。そこにはパチンコ屋の会員入会特典でもらったダッセェやつが付いている。

 

「そっかー。………で、携帯って何だ?」

 

あ。

 

「そういやお前ら携帯持ってねーんだっけ?」

 

そんな2人に携帯電話の事を説明した所、2人ともが多大な興味を示してきた。

 

「へー、へー、へー!こんなちっちゃい箱で電話出来て手紙出せて音楽聴けてゲーム出来るんだ!すごい!」

「うん!こっちの電化製品って凄い機能が一杯付いてる!」

 

ある種無駄な機能だけどな。けど、その無駄を俺たち地球人は楽しむんだよなぁ。無駄な事に力を尽くす奴ほど人生を楽しく謳歌していると言っても過言じゃない。あ、俺今ちょっと良い事いった?

 

「フェイトって生まれてきてまだ数年らしいけど、一応は体裁上9歳だろ?だったら、そろそろ携帯くらい持ったほうがいいな。今の世の中、何かと必要だし」

 

けど、思えば俺が初めて携帯持ったのは高校に入学した時だったな。そう考えれば世の中贅沢になったもんだ。

 

「プレシアの奴も持ってないだろうし、今度一緒に買いに行けよ。いや、俺もついていこう」

 

そしてうちの騎士たちの分も買わせて、さらに月々の料金をプレシアの通帳から引き落としさせるか。そうだ、あとネット代も払ってもらおうかな。それと水道光熱費と食費と家賃も。ああ、この際もう一戸建てを買って貰って────────

 

「スズキ、あなたまた良からぬ事を考えてるわね?」

 

ふとすぐ後ろからそんな声が聞こえた。その声にいち早く反応したフェイトが「母さん!」と言いながら俺の手を離した。

どうやらもう治療の方は終わったらしい。

俺は振り返りながら言葉を紡ぐ。

 

「紳士に向かってなんて酷い言い草だ。ああ、俺の心は酷く傷ついちまった。慰謝料請求すっぞコラ─────────────」

 

振り返った視線の先にはプレシアとアルフの貴重なツーショットがあったのだが、しかし俺はプレシアの姿を見た瞬間、ふいに言葉が途切れた。

 

「な、なにかしら?」

 

少し頬を赤く染め、目線を合わせないプレシア。両手を腰の辺りで合わせてもじもじしてる。そしてフェイトは俺から手を離してそのままの姿勢で固まっていた。ライトもプレシアを見た瞬間『あれぇ?』てな顔になってる。そして、俺もまさしくライトの顔通り『あれぇ?』という気持ちだ。

 

そう。今目の前のプレシアの姿に、なにかこう『違和感』を感じるのだ。

 

「な、なによ。なにか言いたいなら言えば?」

 

いや、言いたいのは山々なんだが、何を言いたいのか自分自身分からない。このプレシアに纏わり付く違和感はなんだ?

服装は昨日買ったやつをそのまま着回していて特に変わりはない。ここに来た時と変わらない。その高圧的な声の調子もいつも通り。すこし挙動不審ではあるが、それ自体はそこまで注目すべきことではない。アルフとのツーショットも、目の保養になりはするが違和感を感じるほどでもない。

 

けれど、いつものプレシアと違う。

 

そう、例えば分かる範囲で『顔の小皺が消えた』とか『肌のツヤが良い』とか『お胸様の張りが大きくなった』とか『腰が細くなった』とか『お尻が少しキュッとなった』とか………………………………………………って!

 

 

「ちょっと若返ってるぅぅぅぅぅぅううううううっっっっ!?!?」

「ちょっ!?往来で何叫んでるのよ!」

 

これが叫ばずにいられるか!なんだそりゃ!なんでババアからネエチャンにクラスチェンジしてんだよ!?

前も年不相応っちゃ不相応な容姿だったが、今のプレシアのそれは完全に20代半ば。下手すれば20代前半でも通用する。海鳴大学で普通に講義受けてそう。ミス海鳴大学とかなりそう。

 

「か、母さんだよね?」

 

フェイトが訝しそうに恐る恐る訊ねたらプレシアは気まずそうに、でも耳を赤くしてコクリと頷いた。

 

「う、嘘だろ?お前、マジでプレシア?」

「そ、そうよ」

「…………全身整形でもした?」

「す、するわけないでしょ!!」

 

プレシアはキッとした目つきでを俺を睨みつけた。そうしてようやく目を合わせてくれたプレシアを改めて若々しく感じた。前まで多少なりとも存在していたババアという要素もオバサンという要素も、今では微塵も感じない。

 

「じゃ、一体なにが………」

「治療の結果らしいわよ。あの男が言うには『病原体や腫瘍をただの細胞へと変換しました。生まれたての赤ちゃんと同じ新鮮な細胞にね。だから体の変化はその為です。別に害はありませんので』ですって」

 

病気をただの細胞に?しかもそれは分裂する前のまっさらなもの?だから若返った?

なんだその一見して現実的だけど果てしなく非現実的な論拠は!この世界はそれが罷り通るのか!?

 

まったくあの男の言う通り、何が世界の修正力だよ!ちゃんちゃらおかしいね!誰だよ、そんな馬鹿な事考えた奴は!

 

しっかし、こりゃやべぇな。やべぇほど美人だ。てか、プレシアの元夫って馬鹿じゃね?こんな極上捨てるとかあり得ねぇだろフツー。元夫、俺以上に馬鹿じゃね?てか男として馬鹿じゃねマジで。

 

「な、なによ。あまりジッと見ないでちょうだい」

 

その姿は何処にでもいる恥らう女性で………いや、そうはいない美人の恥らう姿で、こいつがプレシアだと分かっていても不覚にもドキッとしてしまった。ギャップ攻撃とは卑劣な!

そんな俺の心情を悟られないように努めてふざけた様を装う。

 

「はっ!ちょっと若返ったからって調子のんなよ。まだ俺のほうが若々しいっての!ジッと見る?うわぁ、なんて自意識過剰なやつ~」

「くっ………!」

「ほらほら、フェイトにライトにアルフ。ちょっと舞い上がっちゃってるお姉さんは放っておいて買い物しようぜ。あー恥ずかしい恥ずかしい」

「き、期待してた分、いつにも増して腹立つわ………!」

 

何を期待してたんだろうね~。大方、俺の戸惑って狼狽する姿だろうね~。

残念!

悪ぃが美人は見慣れてるもんでね。まあ、ちょっと危なかったが。

 

「あっと、そうだ。最後にあと一つ」

「なによ?まだ何か憎まれ口でも叩くつもり?」

 

口をへの字にしちゃったりして、すっかり御機嫌斜めの様子のプレシア。

やれやれ。どうやら肉体年齢に合わせて精神の方も退行しちまったらしいな。

 

「病気、治ってよかったな」

「──────────」

 

さて、それじゃあ温泉街で豪遊するとしますか。勿論、プレシア持ちで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ、隼君ですか?すべて終わったんで戻ってきて下さい』

 

そんな電話が俺の携帯に掛かって来たのは、太陽が沈み始めた夕刻。5人でどっかで夕飯でも食べようかと相談していた時だった。

つうか何でやつは俺のケー番知ってんだよ。教えてねぇぞ?

 

「なんかさ、向こうは終わったらしいぜ。で、どこで飯食う?俺的には────」

「すぐ戻るわよ!!」

「飯は?」

「そんな物あとでいいでしょ!!」

 

で訳で、プレシアを筆頭に俺たちは駆け足でアルハザードまで戻った。俺は別に急ぐ事もないだろうと思い、タバコ片手にちんたら歩いていたがプレシアに引っ叩かれて已む無く走らされる羽目になった。

文句の一つでも言いたくなったが、プレシアの形相があまりに凶悪で怖かったので止めた。若さを取り戻した分、迫力も3割増しだ。

 

「アリシア!!」

 

俺よろしく蹴破る勢いでアルハザードの扉を開け放つプレシア。しかし、その扉の前で先ほどまでのプレシアの勢いは止まり、呆然と木偶になった。

 

「おい、邪魔だよ。さっさと入れや」

 

俺がそう声をかけるも動かず。ンだよと思いながらプレシアの顔を見てみれば、彼女の瞳から一筋の涙が零れていた。そして、それが二筋三筋と増えていき見る見るうちに滝となった。

 

「あ、ママ!」

 

そんな声が店の中から聞こえた。その声はフェイトにとてもよく似ており、俺は思わず隣に居るフェイトを見たがフェイトに声を発した様子は無い。そもそも聞こえてきたのは店内からなので、フェイトなわけがないんだが。

 

(つまり、だ)

 

俺は木偶を無理やり店内に押し込み、次いで俺も中へと入った。後ろにフェイトとアルフとライトも続く。

店内にいたのは店主である男。そして椅子に座ったフェイト似の幼女と猫耳尻尾を有した女性が一人ずつ。

 

「ア、アリシア……」

「リニス!」

 

涙をそのままに呆然と呟くプレシア。その横で後から入ってきたフェイトが大きな声を上げた。

 

「ママ?」

「お元気そうでなりよりです、プレシア、フェイト」

 

母親が泣いてる事に疑問を抱いているのであろう幼女。そしてお淑やかな微笑みを見せる猫娘。

 

(おお、ちゃんと生き返ってら。それとあっちの猫娘がリニスか………大当たりキタコレァァァァアアア!!!)

 

ガキなフェイトをもっとガキにしたような容姿のアリシア。年齢の違いさえなければ双子で通用する。まあ、クローンなんだから当然か。有無を言わなさない可愛さがあるな。

片や猫耳と尻尾がふりふりと可愛らしく動く使い魔リニス。給仕のような格好をしていて、それがとてもよく似合っている。お胸様の大きさの程はその服装のせいかちょっと分かりにくいが、肝心の顔はまさに美!俺と同じくらいの肉体年齢だろうけど、なんとも愛らしい人懐っこい顔をしている。

 

とまあ、今は俺の感想はいいか。とりあえず………

 

「おいプレシア、なにボサっとしてんだ。行けよ。それにフェイトも。折角会いたかったやつが目の前にいるんだ、ならやることは一つだろ?」

 

俺はプレシアのフェイトの背中を押してやった。つんのめった2人だが、その勢いのままプレシアはアリシアに、フェイトはリニスに抱きついていった。

 

「アリシア、アリシア、アリシア、アリシア!!!」

「うぅ、えっぐ、リニスだ……昔の温かいリニスだ!」

「ママ、どうしたの?何で泣いてるの?な、泣かないで……っ……うわああああん!」

「ふふ、フェイトは甘えん坊ですね」

 

プレシアとフェイトはあらんかぎり泣いていた。アリシアも母が泣いているのを見て訳も分からず泣き出した。リニスも瞳に涙を浮かべた。そして、そんな感動の光景を見て隣にいるアルフも泣き出した。ただ一人ライトだけが『うんうん』と腕を組んで頷いていた。こいつぜってぇ訳分かってねーな。

 

「よ゛、よ゛がっだね゛、ブレジア、ブェイド!ぐずっ……ホンドによ゛がっだよ!」

 

てかアルフは号泣しすぎだ。あ~あ~、涙と鼻水でせっかくの綺麗な顔がドキツイ事になってんじゃねーか。

 

俺はそんな感動場面を尻目に、一人悠々とお茶をしばいている男の下へと近寄った。

 

「よっ、お疲れ~」

「ははは、本当、疲れましたよ」

 

なんて言ってはいるが、その顔にはまるで疲労の色は見えない。

 

「感謝してんよ。結局、リニスも記憶があるまま蘇ったようだし」

「キミにおっかない顔で頼まれましたからね」

「プレシアのあの姿は完璧に予想外だったけど」

「はは。あれは私からのささやかなプレゼントです。これから幸せを謳歌する奥様へのね。幸せを噛み締める時間は長いほうがいいでしょう?」

 

まぁ、な。

俺ですら、今のこの光景がこれから先ずっと続いて欲しいとさえ思えてきちまう。それほど今この瞬間この光景は美しいものだった。テレビドラマなんて目じゃねーよ。

 

「いろいろと説明があるのですが、今この瞬間を止めるのは野暮ですね」

「ったり前だ。てか、説明ってなんだよ?………まさか、なんか失敗したんじゃねーだろうな?」

「違いますよ。彼女達の記憶の事です。彼女達の記憶は死んだその瞬間で止まっており、そこまでしかありません」

「ああ、だからアリシアがプレシアの様子を訝しんでたのか。ん?でもリニスは以外と普通に今を受け入れてた見たいだったけど?」

「それはきっとリニスさんの死因に関係しているんでしょう。彼女の場合アリシアさんとは違い突然死を迎えた訳じゃないようですから。ある程度、今の状況を理解できているんでしょうね」

「ふ~ん」

 

まっ、過去の事なんてどうでもいいさ。幸せに生きていくこれから先の未来があるなら、それだけで十分。

俺は店の隅に場所を移し、その場でタバコを吸った。

味は驚くほど美味しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テスタロッサ家族が落ち着きを取り戻したのは何と約1時間後だった。

 

最初はアリシアとアルフが大泣きするくらいで他の皆はちょい泣きくらいだったが、最終的には皆が皆号泣。何故かライトも号泣。テスタロッサ家協奏曲涙長調だった。

いや、ホント喧しいの何のって。仏のような清流が如き心を持っている明鏡止水な俺も、流石に後半はイライラきた。ドラマなんて目じゃねーなんて思ったが、やっぱドラマの方がいいな。感動の場面なんて3分もあればお腹いっぱいだ。長々と見せられてもうざってぇだけ。

それでも俺は自発的に落ち着いてくれるのを待ったさ。1本目のタバコの美味さが嘘のようだった。吸いすぎで気分が悪くなっちまったよ。

 

そんな前半感動後半苦痛の時間がようやっと終わって、そこで俺と一緒に黙ってみていた男がここぞとばかりにアリシアとリニスの記憶について説明しだした。それに併せてプレシアもアリシアとリニスに現状の説明をしだした。

それをアリシアはよく分からないという様子で聞いていたが、対してリニスの方は飲み込みがよく、この店がアルハザードという伝説の地だという事も含めすぐに納得した。というより、その様は予想していたといったふうだったが。

 

そして、プレシアは説明の最後にリニスに向かい頭を下げた。

 

「あなたにはとても酷い事をしてしまった。許されることじゃないし、許しを請う姿すら許されない事かも知れない。それでも私はこうやって頭を下げる事しかできない」

 

その姿はとてもあの高慢ちきなプレシアとは思えないほど弱弱しかった。ともすれば土下座して腹を捌かんがくらいだ。

そんな姿を見せられたら流石の俺も気になり、そして勿論迷わず聞いた。プライバシー?知ったことか。自分の欲求には正直に、だ。

 

「プレシア、お前何したんだよ?」

 

そう聞かれた時のプレシアの顔は悲痛に染まり、それでも自分の罪と向き合うために真実を吐露しようとしたが……。

 

「………私は、リニスを─────」

「プレシア!!」

 

その告白をリニスが遮った。

 

「頭を上げて下さい。もういいんです。確かにあなたが行った事は許されることじゃないかもしれません。けど、私はあなたの使い魔であり、そして当時のあなたの気持ちは痛いほど分かりました。間違いは間違いでも、それはきっと是非もない間違いです」

「リニス………」

「それでもあなたがまだ私に対して罪の意識を感じるなら、一つ約束して下さい─────フェイトを幸せにしてあげて」

 

俺の隣でフェイトの息を飲む音が聞こえた。同時にまたもプレシアの瞳から涙が。

 

「私の望みはそれだけです」

 

そしてリニスはプレシアをフェイトの前へと押し出した。フェイトもプレシアも緊張した面持ちだったが、フェイトが「母さん」と呟いた瞬間、プレシアはフェイトを抱き寄せた。そして涙を流しながらこう言った。

 

「あなたにも許されない事をしてきた。母と呼ばれる資格なんてない私を、自ら放棄した私を、それでもあなたはまだ母と呼んでくれるの?」

 

プレシアよぉ、それりゃあ愚問だろ。いつでもプレシアを第一に考え、どんな事されても今そうやって嬉し涙を流しているガキだぞ?

 

「か、かあさ……っ、うわああああああああああああっっっ!!!」

 

今までのナニカを全てを吐き出すように、いつもの大人ぶった感じもなく、ただのガキのようにフェイトは大声で泣いた。

 

………世間はきっとプレシアのフェイトに対する今までの行いを許さないだろう。きっと出る所に出ればプレシアは有無を言わされず糾弾されるだろう。手のひらを返したように許しを請うプレシアに嫌悪感を抱く奴もきっといるだろう。

 

─────ハッ、クソ食らえだよな。

 

当人同士が幸せなら、それでいいんだよ。外野はとやかく言わず拍手してりゃOKってな。見ろ、プレシアの悪行を傍で見てきたアルフでさえ感動でまた号泣してんじゃねーか。

人間、単純が一番ってな。アルフは人間じゃないけど。

 

しかし、こりゃあまた感動タイムが長引くかな~と俺は場違いな事を考えながらタバコをふかしていたのだが、予想に反して今回は3分未満でプレシアもフェイトも落ち着きを取り戻した。その時の2人の表情は照れているようで、それでも極上に満たされたような良い顔だった。

俺はそれをやれやれと言った思いで見ていたが、それでも確かに顔が笑顔になっているのを自認していた。

 

と。

 

そんな一幕の後、ここに来てついにリニスとアリシアが俺の元へとやってきた。男やプレシアの説明時からずっとちらちらと見られてはいたが、まるで近寄ってくる気配はなく、むしろどちらかと言うと『あんた誰?』的な視線だった。アリシアなんて、さっき俺と初めて目が合ったときなんてあからさまに怯えた表情になってたぜ。流石にショックだった。

 

男とプレシアが俺の事を一体どのように説明したのかは聞いていなかったが、その時の様子を見るにあんま良い事いってねーだろうな。てか、仮にプレシアが俺の人物像をありのまま喋ってたなら確実に悪印象を持たれてんじゃね?

あ~あ、こりゃリニスを彼女にするなんて無理かな。まあ、別にそんなに期待してなかったけどよ。……嘘です。超絶期待してました!

 

胸中で溜息をつく俺の前に無表情のリニスと恐々といった感じのアリシアが来た。

 

「申し送れました。私はプレシアの使い魔のリニスです。初めまして、鈴木隼様」

「ア、アリシア、ですっ」

「あっと………どうも」

 

リニスはご丁寧に頭を下げ、その後ろで彼女のスカートを持って隠れるように挨拶したアリシア。

2人とも先ほどプレシアとフェイトに見せていた表情が嘘のような、モアイ像のように硬い表情だ。…………これ、ぜってぇ良い印象持たれてねーよね。

 

そして、何故か緊張間漂う俺たちを少し離れた所で様子を窺うプレシアたち。

ンダよ、コラ。見せモンじゃねーぞ。

 

「あー……まあ、聞いただろうけど、俺ぁ鈴木隼っつうモンだ。えー、それで………」

 

言葉が続かない。

リニスという同年代もしくはちょい下っぽい見た目の美人な女性と、ちょっと怯えているフェイト似の幼女を前にいつもの調子で喋れない俺。………チキン?うっせーよ。

 

「けほっ!」

「っと、悪ぃ!」

 

まずった!タバコつけっぱだった!

俺の持っていたタバコの煙で咳き込んだアリシアに気づき、すぐさまタバコをもみ消した。

…………手のひらで。

 

「ぎょわっ!あっちーーー!!ふー、ふー!!」

 

何してんだ俺!?何テンパっちゃってんの俺マジで!?自分根性焼きしてどうすんの俺!?まさかMに目覚めちまったか俺!?

とまあ、止まる事の無い俺のテンパリ具合は、しかしこの場合うまい具合に空気を変えてくれた。

 

「大丈夫ですか!?」

「大丈夫!?」

 

先ほどの硬い表情と怯えた表情から一転、俺を心配する眼差しで見てくるリニスとアリシア(視界の隅でライトとフェイトも焦ったような顔でこちらに駆けてこようとしていたが、プレシアとアルフに止められている)。

 

俺は流れを変えるならここだと思い、矢継ぎ早に口を開いた。

 

「だ、大丈夫だって。こんなの屁でもねーよ。余裕余裕!額に火傷痕を用いて肉って書けるくらい余裕!それより気分悪くねーか?一応換気はしてっけど、さっきまでバカバカ吸ってたから煙いだろ?アリシアも悪かったな、配慮が足りんかった」

 

副流煙の人体への影響は知ってっからな。確かに俺はガキの前でも気にせず吸うたちだが、それだって親身になった奴や許可貰ったやつの前でだけだ。最低限のマナーだけは弁えている。………ホント、最低限だけどな。むしろそれでマナーとかちゃんちゃら可笑しいけど、まあ気にしない。

 

俺はリニスへと軽く頭を下げ、アリシアの頭を軽く撫でた。

そんな俺の殊勝な態度が功を成したのか、リニスもアリシアも柔らかい表情になった。

 

「えへへ~」

 

てか、アリシアは破顔した。撫でていた手を離すとぷくぅ~と頬を膨らませた。また撫でたら破顔した。

 

(なんだフェイトと同じ天使か)

 

別に頭を撫でた事に謝罪の意以外の他意はなかった。ニコポを狙ったわけもあろうはずもない。一度それでヴィータからアイゼンをお返しされたし。そもそもガキ相手にそんな下心があろうはずもねえ。

でも、まあやっぱガキは素直に表情豊かにすんのが一番だな。あー可愛い。

 

「ああ、それとリニスさん。俺の事は隼でいいッスよ。様なんて、俺のガラじゃないんで。それに敬語も勘弁で。もっとフランクにいきましょうや」

 

俺はどうもこういうお淑やかな女性にはいきなり強く出れないようで、変な言葉遣いになってしまった。………って、オイコラ。プレシアてめぇ、なに反吐出しそうなツラしてんだよ。

 

「ふふ、分かりました。あ、でもしゃべり方はこれが地なんです。それと言葉遣いならあなたも普段通りで結構ですよ。ね、隼」

「………………」

 

良くね?

何がって、しゃべり方は敬語なのに名前だけ呼び捨て…………半端なくね?萌えね?少なくとも俺的にはストライク!!!

そんな胸中ハイテンションな俺に、リニスが静かに頭を下げた。って、え?いきなりなに?

 

「この度は本当にありがとうございました。店主とプレシアから事の詳細、あなたがしてくれた事を聞きました。感謝の言葉しか浮かびません」

「あ?い、いや別に感謝される謂われはねーよ。誰の為でもない、自分の為にやって来た事なんだ。その過程で誰が幸せになろうが感謝の意を抱こうが、俺は知ったこっちゃねーんだから」

 

てか、感謝してるっつうのにさっきまでの硬い表情はなんだったんだ?まあ、可愛いからいいけど。(後日聞いた話によれば、その時はまだ俺の人間性が分からなかったんだとさ)

 

それとアリシア?お前は一体なにしてる?俺の腕をブンブン意味もなく振り回したり、俺の指を意味もなく引っ張ったり、自分と俺の手のひらを合わせたり、俺の手を自分で頭の上に乗せて撫でるように動かしたり。

いくら可愛いっつっても、いい加減うざったいぞ?

 

「………ふふ、本当にプレシアの言った通りの方ですね。隼は」

 

リニスは少し驚いた後、そう言って綺麗な微笑みを浮かべた。

対して俺は一体なにをリニスに吹き込んだんだと言った意味を込め、プレシアを睨んだ。プレシアは顔を赤くして目を逸らした。

 

(後で覚えとけよ、あのクソアマ)

 

ちっとばっかし若返ったからって調子乗りすぎだ。リニスの方が万倍可愛いっての。

まあそれは兎も角。

 

「そういう訳で、あんま変に過剰評価しねーでくれな?後から幻滅されんのヤだし」

「ふふ、はい」

 

リニスは改めて「これからよろしくお願いしますね」というキュート率100%の笑顔でそう言った。

なんていうか、うん、彼女にしてええええ!!!

 

「ていうかアリシア!お前はいい加減うっぜーんだよ!!」

 

未だ俺の手で遊んでいたアリシアに、俺はその手ともう片方の手を使ってアリシアの髪をぐしゃぐしゃにしてやる。

それをアリシアは遊んで貰っていると勘違いしたのか、「きゃ~~~!」とか言いながら喜びはしゃいだ。

 

「くぅっ!もう我慢の限界だあ!ずるいぞフェイトそっくり!フェイト、ボクたちも行くぞ!」

「え?え?」

「突撃ラブハ~~~ト!!」

「ラ、ライト、引っ張らな─────きゃあああああ!!」

 

突然乱入してきたライトとフェイト、そしてアリシアによって俺は揉みくちゃにされたのだった。

つうか他の奴ら、なに微笑ましそうに見てんだよ!助けろよ!

 

…………あ~あ、もうグダグダ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺とガキどもとの乱交は30分にもおよび、店を出る頃にはゆうに日は暮れていた。

俺はぐしゃぐしゃになった髪の毛や服、そして加減を知らないライトによって出来た打撲を擦りながら店を出る。

 

「楽しい一時でしたよ」

 

男は店の入り口から一歩中に入った場所で、店の外に居る俺たちに向かい笑みを浮かべた。

そんな男に無愛想に「あっそ」と返し、その正反対にライトとアリシアを除いた他の皆は頭を下げる。その代表としてプレシアが礼の言葉を発した。

 

「本当にお世話になったわ。最上級の感謝をあなたに」

「ふふ。それは嬉しいですが、私は最上級から一つ下でいいですよ。最上は別の方に上げて下さい。ね、隼君?」

「知るか」

「知ってください。私からも最上級の感謝をキミにに送りたいんですから」

 

あん?俺に感謝?……………ああ、写本の件か。

 

「騎士共の事ならカタァついてんだ。感謝なんていらねぇよ」

「それもありますが、また別の事です」

「あん?」

「雲や夜、それに盟主の件です。幸せを約束してくれた事に感謝したいんですよ」

 

雲と夜とメイシュ?……ああ、プレシアの病気を治す代価の事か。つうか意味分かんねーんだけどな。なのに感謝されてもなぁ。そもそもメイシュってなに?名酒?いや、それじゃあアクセントが違うか。

 

そんな俺の胸中を男は容易く見透かしたようで。

 

「時期が来れば自ずと分かります。けれど、だから私は感謝するんですよ。分からないモノの幸せを約束してくれたキミに」

「はん!そんな約束、ぶっちすっかも知んねーぞ?口だけみたいな?」

「そうなんですか?」

「……………さあな」

「ふふ」

 

こいつのこういう人を見透かしたような態度が気に食わねーんだよなぁ。

俺は舌打ちをした後、口の中の苦いものを払拭するようにタバコに手を伸ばそうとして、しかしそこである事を思い出した。

 

「そういやプレシア治す代価の条件に確かもう一つあったよな?その一つってなんなんだよ」

「ああ、そういえば忘れてました。ふふ、黙っていればそのまま帰れたのに、相変わらずキミは面白い子ですね」

 

うっぜー!なぁにが「そういえば忘れてました」だ!てめぇ絶対覚えてただろうが!

 

「安心してください。もう一つの条件は簡単ですから。それも今すぐに済みます」

 

そりゃ意外だ。また訳も分かんねー条件出された日にゃあ張っ倒そうかと思ってた所だ。

 

俺が胡散臭そうに男を見ていると、その男が俺に向かい手招きをした。どうやらこっちに来いという意らしい。

生意気な。テメェが来いよ。

とは思いつつもさっさと終わらせたい俺は速やかに男の傍に移動する。

 

男と俺の距離は5m。手招きは止まない。

男と俺の距離は3m。手招きは止まない。

男と俺の距離は1m。手招きは止まない。

男と俺の距離は50cm。手招きは止まない。

男と俺の距離は30cm。手招きは止まな─────────

 

「って、どんだけ近づきゃいいんだよ!」

「ふむ、まあこれくらいですか」

 

俺と男との距離はすでに息が掛かると言っても過言じゃない距離だ。

なんだ?いったい何が始まんだ?

 

訝しむ俺に無視し、男は俺の胸に両手を添えてきた。

え?なに?ちょっとキモいんですけどマジで。

 

「へぇ。隼君、意外と背が高いんですね」

 

そう言われて気づいたが、確かに男の身長は俺の顎くらいだった。そのバーテンダーのような格好が実際の身長より高く見せていたんだろう。それとも、子供の頃初めて会った時の身長差を未だ心のどこかで感じていたんだろうか。

 

胸元にある男から上目使いで見られる嫌悪感の中、俺はそんなどうでもいい事を考えていた。

 

「私はね、隼君」

 

男の声で思考中の脳は現実に戻された。

 

「キミに終始驚かされっぱなしでした」

 

は?いきなり何語り出しちゃってんの?

そうは思ったが何故か声が出ない。

 

「写本がキミを選んだ事、騎士たちのキミへの忠義心、非現実に足を踏み入れたにも関わらず変わらず我を貫ける強さ、巻き込み引っ掻き回してもそこから収束させる人間力、いろいろな意味で他者を惹き付けるナニカ……………本当に驚きです。──────この私までそこに含まれてしまったのは誤算で、それを悪くないと思った自分自身驚きなのですがね。結構な長い時間生きてきたんですが、これは初めての感覚ですよ」

 

こいつは回りくどい言い方しか出来ない仕様なのか?マジ、意味分かんねーんだけど?

 

「まあ、だからこれは驚かされた私からの意趣返しであり………そしてやっぱり感謝の意です」

 

いい終わり、それと同時に男がつま先立ちになった。そうすれば自ずと顔と顔が接近していき……………………へ?いや、ちょい待った。ちょっと待って。いやマジで。なんだそれ。え、いや、ホント待って。顔と顔が接近?いや、なにその流れ?どうしてそうなる?どうしてそうする?あれ、顔が動かない?いや、やばいって。そのコースで顔を近づけられたらぶつかっちゃうって。額とか鼻とかじゃなく、もっと重要なモンが……………マジで待────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────。

 

「んなァ!?あ、あ、あ、あ」

 

どこからか誰かの驚きの声が聞こえた。けど今の俺にはそれが誰なのか判断する思考能力は働かなかった。どうでも良かった。誰が大声上げようが、仮にこの場で誰が死のうが今の俺にはどうでもいい。

ただただ俺は目の前の………これほど人間は顔を接近させ合う事が出来るのかと疑問に思うほどの目の前で、男の目を瞑っているその顔しか俺の目には、五感には映らない。

 

声を発することも、体を指一本ほども動かす事が出来なかった。ただ鼻で息をするのが精一杯なのと、相手の鼻息がくすぐったいということ、そして……唇に感じる未知の感覚。

 

「んっ………ふぅ」

 

そんな男の吐息が聞こえたかと思うと、その男の顔が俺の顔から遠ざかった。

男の顔はどこか満足そうだった。

 

「なるほどなるほど、これは中々」

 

男がなにか言っているが、生憎と俺の耳は機能していない。ただ男の唇だけが目に入る。

その唇を男は一度舐めた。

 

「今まで治療目的などで何度もやってきた事はありましたが………ふむ。気持ち一つでこうも事後の気分が違うのですね。なるほど、これが巷で言う『キス』なのですね」

 

聞こえない。何も聞こえない。男がナニカ言っているが、俺は何も聞こえない。

今、この瞬間、俺は現実に繋がる全ての感覚を無意識に放棄していた。

 

「あ、あ、あああなた………」

「すみませんね奥様。無断でいただいちゃいました。ああ、それと誤解しないでくださいね?私は『ホモ』でも『バイ』でもなく、ちゃんと『ノーマル』ですから」

「っ!?そ、それはつまりまさかあなた……」

「ふふ」

 

ナニカがナニカを言っているが俺にはナニモ聞こえない。

 

「それでは名残惜しいですが、そろそろお別れの時間です。そして少し悲しいですが、もう会う事もないかも知れませんね。それと隼君、最後に良い思い出ありがとうございます………って、聞いてますか?」

 

──────────────────────────────────────────。

 

 

「やれやれ、どうやら完全に心閉ざしてしまったようですね。ちょっと不憫ではありますが、まあ私の性別を勝手に決め付けていた隼君の自業自得ですかね。私もその反応はちょっとショックではありますが…………まあ、面白いのでこれはこれでアリですね」

 

──────────────────────────────────────────。

 

「それではもう本当にこの辺りで。では、またお会いしましょう……………とは言えそうに無いので、今回は───────バイバイ、隼君」

 

──────────────────────────────────────────。

 

─────────────────────────────────────。

 

────────────────────────────────。

 

───────────────────────────。

 

──────────────────────。

 

─────────────────。

 

────────────。

 

──────。

 

──。

 

目が覚めた時、俺はベッドの上に寝ていた。ベッドからは良い匂いがし、それがプレシアの匂いと一緒だという事に気づき、次に自身がいつの間にか気絶していたんだという事に気づいた。

そして、それを継起に思い出したくも無い最後に見た光景や感じた感触までもが蘇ってくる。

 

「…………アア」

 

脳裏を過ぎるのは一人の男の顔。

 

「……アア」

 

俺の顔に近寄ってくる野郎のツラ。そして………

 

「…アア」

 

…………………………………………………大事に大事に守ってきた俺の唇。初めての相手は誰なんだろうと夢見てきた。

 

俺のファーストキス。

 

相手は女ではなく、プログラムでもなく、クローンでもなく、幼女でもなく、使い魔でもなく。

 

男、だった……………………。

 

男………。

 

オトコ……。

 

「いやあああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 




更新遅くなり申し訳ありません。

取り敢えず、この話で後日談の主人公編は終わりです。次回から原作キャラの視点での後日談になります。
そして、予定より後日談が多くなるかもしれません。(すずかとアリサの魔導師化フラグを忘れていたとは言えない)(そしてアミタとキリエの存在をここに来て思い出したとは言えない)(結論:どうしよう)

As編開始はもうしばらくお待ちください汗
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