後日談?
後日談…………さて、どうしようかしら?
後日談、ね。
ん~、困ったわね。いきなりそんな事言われても、段取りなんてまるで分からないわよ。そもそも後日談はおろか当日談すらやっと事ないのよ?それをあなた、いきなりやれって言われても、ねぇ。
えーと、取り合えず自己紹介からかしら?んと、初めまして、でいいのよね?
私の名前はプレシア・テスタロッサ。5歳の娘と9歳の娘を子に持つ24歳…………なによ、文句でもあるの?私の年は事実よ。少なくともつい最近肉体年齢は確実に20代半ば辺りに変わったんだから、別に24でもそれほど間違ってはなくてよ?それでもまだ何か文句があるなら出てらっしゃい。
って、もうっ!話が逸れたじゃない。いいから、もうこれからは私の言う事には無条件で納得しときなさい。その方がスムーズに進むから。
と言っても、私の事なんて別にこれ以上語る事なんてないんだけどね。今更自己紹介したところで、今までハヤブサのやつが散々私の事を語ってきたんだから。
………だから、そうね。たまには私がハヤブサの事について語ろうかしら。
と言っても、ハヤブサの事を語ると言っても、あの男の事は一言で要約出来るわね。
馬鹿。
はい、おしまい。
あの男以上にその言葉が似合う人間は中々いないわね。もしかしたら馬鹿という言葉はハヤブサから生まれてきたんじゃないかとさえ思うわ。
馬鹿の語源、ハヤブサ。
と、馬鹿馬鹿言ってるけど、その件の馬鹿、本来なら今この場にいなきゃいけない筈の馬鹿は今現在どこにいるのかというと。
今頃は家に引き篭ってるでしょうね。
何でかって?原因は前回の後日談よ。あの男、自分の過去を語るのはいいけど、結局最後は自分のキズを自分で抉って自爆しちゃったのよね。ハヤブサ、それであの時の事を思い出してまたショックがぶり返して、今回とうとう引き篭っちゃったわ。やれやれね、まったく。そのせいで私が後日談を語らなくちゃならなくなったし。
ていうか、だいたい自業自得じゃない。あの男装クソアマの変態性を見抜けなかったハヤブサが悪いのよ!小さい頃から知ってたらしいけど、だからって隙見せ過ぎなのよ!そもそも何であんなに近寄る必要性があったの?!疑問に思ったなら3m手前くらいで止まりなさいよ!手招きされるがまま距離詰めて、そして寄り添って…………ああもうっ、腹立たしい!アリシアやリニスの件や私の病気の事は確かに感謝するけど、それとこれとは話が別!あのアマ、もう会う事もないとか言ってたけれど逃がしゃしないわよ!っていうか、何で私がハヤブサの事でここまで腹立てなきゃいけないのよ!それが一番腹立たしいわ!
……………ふぅ。
まあ、ハヤブサもいい気味だわ。あの男、未だアルハザードの店主が男だと思い込んで、自分のファーストキスの相手が男だとかなんとか言って絶望してるし…………ん?…………って、ファーストキス!?!?ハ、ハヤブサってまだキスした事なかったの!?う、嘘でしょ………いつものあのデカイ態度と頻繁に見せる下心丸出しの顔や発言しといて?い、意外だわ。もしかしてハヤブサって根は純情……………って、それは有り得ないわね。あれほど欲望のままに生きる人間なんて、私見た事ないもの。
でも、そう、ハヤブサって思ってたより軟派じゃなかったね。私は少なくとも夜天かシグナムかシャマルあたりにはとうの昔に手を出してると思ってたわ。
改めて意外ね。
もしかして、今まで彼女の一人も居なかったんじゃないかしら?だとしたら地球の女は男を見る目がないわね。あんなに外道で鬼畜で自分勝手で我が侭で不器用で素直じゃなくて、でもちょっとだけ優しい男、そうはいないわよ?
そんなハヤブサの色々な意味での良さに気付かない地球の女は、もしかしたらハヤブサ以上に馬鹿なんじゃないかしら。リニスやアリシアだって、知り合ってから1日後でにはハヤブサを気に入ったのに。特にアリシアなんてハヤブサにべったりし過ぎで、逆に腹立つくらいよ。
まあ、でもそれもしょうがないのかもね。ハヤブサのあの性格は少し付き合ったくらいじゃ嫌悪感しか湧かないし。まさに一見さんお断りってやつ。
だから、そうね、いい機会だわ。今回の後日談はあの男が優しさの一面を見せた時の話をしましょう。でも、まあそうは言ってもやっぱり今回の話も基本的にぶっ飛んだモノではあるんだけれど。その辺をもうちょっと自重すれば、私だって…………って、私は何を言おうとしてるのかしら。…………か、勘違いするんじゃないわよ?別に私がハヤブサをどうこう想ってるわけじゃないわ。今回だって後日談の話題がないから仕方なくハヤブサを取り上げるだけ。それ以上もそれ以下もなくてよ?
確かにハヤブサには感謝の念は尽きないわ。深く付き合えば付き合うほど魅力を感じてくる男だというのも事実。でもね、この際だから改めてハッキリ言っておくわ。
私はハヤブサの事なんて大っっっっっっっっっっっ嫌いなのよ!!
…………………………………………大嫌いは言い過ぎたわね。うん、それはちょっと可哀相よね。『嫌い』くらいね。
…………………………………………嫌いでもちょっと言い過ぎかしら。何だかんだ言ってアレで私達を考えてくれてるわけだし、アリシアもフェイトもハヤブサの事好いてるし。『好きじゃない』、これが妥当ね。
…………………………………………それもちょっと失礼な言い方ね。ある意味『嫌い』とハッキリ言うより酷い言葉な気がするわ。う~ん、だったらやっぱり『好き』、これね。うん、しっくりくる。
……………………………………………………………………………………って、なんでそうなるのよ!!!!
アリシアとリニスが蘇ってきた日から数週間後。つまり私とフェイトとライトとアルフとアリシアとリニスが家族を始めて数週間。
そんなある日の朝。
私は腹部に感じる絶大な衝撃や痛みと共に目が覚めた。
「おはろ~」
ベッドの上で咽る私の横で、ニヤニヤといった類の憎たらしい笑みを浮かべる男が一人。
「ごほっ、この、ハ、ハヤブサ!」
「よっ、お目覚め?気分はどうよ」
タバコを咥えながらいけしゃあしゃあとのたまうハヤブサ。ここ最近で一番見飽きた顔の男。
お腹を押さえ苦悶の表情で咽る私の姿を見て、その気分の事を尋ねるなんて世界中探したってこの男くらいね。ならば敢えて言ってあげるわ。
「気分は最悪よ!」
「おいおい、朝っぱらからそんな怒んなよ。新しい朝だぜ?希望の朝だぜ?喜びに胸開いて大空仰げよ」
「誰のせいで朝からこんなロー気分にさせれてると思ってるの!忌々しい朝に憤怒で胸焼いて大空焦がすわよ!」
朝っぱらから愉快な事を平然と言うハヤブサに、文句の一つや二つは自然と出てくる。
というか、朝っぱらからこの男は何しに来たのよ。しかも堂々と人の寝室に入ってるし。私、鍵掛けてたわよね?
「あれあれ?そんな事いっていいのかな~?言っとくけどよ、俺ぁお前を起こそうなんて気はなかったんだぜ?そしてこんな起こし方をしたのも俺じゃねぇ。まっ、起こし方の提案はしたがな」
そう言ってハヤブサは咥えているタバコをピッと私の腹部に向けた。なんとも器用な男ねと思いながら、そのタバコが向けられた先に目を落とせば、そこには潤んだ瞳で私の顔を見上げている愛娘が一人。
「ア、アリシア!?」
「えぐっ、ぐじゅっ……ふえぇ……」
アリシアのその涙はさっきの私の怒鳴り声によるものか、それとも私を怒らせたと思った自責のものか、あるいはその両方か。
「あ~あ、泣~かした~泣~かした~。せっかく可愛いアリシアが起こしてくれたってのに、怒っちゃいけないだろ常識的に。………ぷぷぷ」
ハヤブサへの多大の殺意が湧き出るが、今はそんな場合じゃない。
今、アリシアは布団越しに私の腰辺りに大の字でうつ伏せになって、涙で濡れた顔だけを上げて私を見ている。この状態から察するに、目覚める原因となったあの衝撃はきっとアリシアが寝ていた私にフライングボディプレスを見舞ったんだと思う。けれど、私はそれに気づかず原因は寝起き早々視界に入ったハヤブサだと思い怒り心頭。その怒りをアリシアは自分に向けられたのかと思ったのか、現在こうして可愛い顔を涙で曇らせている。
私が最初に誤解し、その誤解をアリシアがさらに誤解した形ね。……………つまり完璧ハヤブサが悪いって事なのよ!ていうか、何で私はアリシアの存在に気づかなかったの!?普通人一人がお腹の上に乗ってれば気づくものでしょう!ああ、もう、私の馬鹿!!
「ア、アリシア、違うのよ!別にアリシアの事を怒ったわけじゃないんだからね?」
「で、でも、ママ、すごく怖い顔で………ううぅぅっ」
「ああ、ありゃあ怖い顔だったな。鬼か悪魔かそれ以上?そんな顔を可愛い娘に……」
「あんたは黙ってなさい!!」
「ひうっ!?」
「ああっ、違うのよアリシアっ!?今のもハヤブサに言った言葉で………」
「くくくくっ」
ハ・ヤ・ブ・サ~~~~!!覚えときなさいよ、後で酷いから!!
「アリシア、泣き止んで。ね?」
「う゛ぅ……」
「やれやれ。おら、アリシア」
ハヤブサがぐずっているアリシアを抱き上げて布団の上から降ろし、そのまま抱えた。
「お前が泣き止まないとママまで泣き始めちまうぞ?悲しいよぅ、てな。ママは俺が面倒見ててやっから、それよかお前はフェイト起こして来てくんねぇか?で、朝飯食おうぜ」
「ぐず……うん」
「よし、いい子だ。今朝は俺特製のオムレツだ」
「隼が作ってくれるの!?やたっ!」
鳴いたカラスが何とやら。
アリシアは涙を腕で拭った後、トテトテと部屋から出て行こうとして寸前に私に振り返った。
「ママ、おはよう!」
「───ええ、おはよう」
「えへへ。フェイト起こしてくる!」
子供の機嫌は山の天気より変化が激しいとどこかで聞いたような気がするけど、アリシアはそれ以上ね。いえ、それともハヤブサがそれほど口が上手いのかしら。
「ホント可愛いねぇ、アリシアは。やっぱガキはああやって表情豊かじゃねーとな。それに比べてウチのガキ共と来たら…………ハァ」
前半の言葉は本当に優しい笑みを携えながら。後半の言葉は舌打ちでもしそうなほど忌々しそうな顔をしながら。
そして私はそんな彼の顔を意味もなく見続ける。どんな顔をしているのかは、生憎と鏡がないから分からないけれど。
まったく、表情豊かなのはあなたもじゃない。
「さてと。じゃ、俺も前言を反故しないように朝飯の準備でもしますかね」
「ちょーーと待ちなさい!私に何かいう事があるんじゃない?」
「…………服、はだけてるぞ」
「っっ!!」
バッと布団を掻き抱き胸元を隠す。
この男は本当に……!!
「ハァ……もういいわよ。ホントはちっとも良くないけどいいわよ!で、今日は一体何しに来たのよ。家庭教師の日は確か明日のはずよね?」
ハヤブサには週に何度か、アリシアとフェイトとライトに勉強を教えてもらっている。こんな男でも聞けば一応学歴はそれなりのもので、小学生程度の勉学なら苦もなく教えられるという事なので依頼した。
本当は私が手ずから教えてあげたい。そもそも頭の出来がハヤブサとは違うのでより良く上手に教えられる自信もある。けれど、残念な事に私も今ちょっとやることがあるので出来ない。
「ああ、ちょっと朝から一悶着あってな。家に居づらくなったから遊びに来た」
ハヤブサの顔には忌々しさと申し訳なさが同居しており、私はその表情だけで大方予想がついた。
「理とヴィータと喧嘩。そして夜天かシグナムかシャマル、あるいはその全員から雷が落ちた。結果、ここに逃げてきた。そんなところ?」
「………はん、うっせぇよ」
やはり図星だったようで、気まずく目線をそらすハヤブサ。
まるで兄弟喧嘩の末、親に怒られた子供のようなその姿に私は少し笑みがこぼれた。
「あなた達の1日平均喧嘩回数、最近また増えてきてない?」
「しゃあねーだろ。あいつら、ムカツクんだよ」
「喧嘩するほど仲が良いとはいうけど、流石にやりすぎよ。この前なんて1日中ド突き合ってたでしょ。しかも殺傷設定での魔法ありで」
その時は理とヴィータだけでなく夜天とシグナムとシャマルとザフィーラとライト全員での無人世界で大喧嘩を繰り広げた。その理由が『ハヤブサは誰を一番可愛がっているのか』というものだったから、頭が痛くなる事この上ない。
結局決着は着かなかったようだけれど、あえて勝者を挙げるなら、傷だらけになって帰ってきたハヤブサを介抱したアリシアとフェイトとリニスとアルフだろう…………あと、まあ私も。
「その内怪我だけじゃ済まなくなるわよ?」
というか、現時点で怪我だけで済んでいる方が奇跡なんだけどね。
この前、理から殺傷設定のSランク魔法の直撃貰ってたけど、この男は何で生きてるの?頑丈とか、そんなレベルじゃないわよ?
「もう少し大人になりなさいな」
「若返った奴に言われたくねぇっての。つうかお前、どうしたんだ?目の下にでっかいクマなんかつくって」
少しだけ、ほんの少しだけ心配そうな雰囲気漂わせながらこちらを窺ってくるハヤブサ。
「あら?心配してくれるの?」
「ああ?誰が誰の心配するって?まだ夢の中にいるようなら一発殴ってやろうか?」
先ほどの雰囲気を吹き飛ばして睨みつけてくるハヤブサ。その言動は腹が立つけれど、どうしてか私はこの感じのハヤブサが嫌いじゃない。
それに、そんな言動は全てハヤブサなりの優しさの裏返し。照れ隠し。……とは言いすぎね。
「あなたが、アリシアやフェイトの心配よ」
私の体調が悪くなれば当然フェイトやアリシアは悲しむ。そして子供好き(曰く、可愛い子供限定)であるハヤブサはそんな子の顔なんて見たくない。
自分大好き我がまま男の数少ない常識的な良心の一つ。
「………ふん、意味分かんね。俺ぁただそのクマの原因が気になっただけ。変な勘繰りすんなや。で、どうしたんよ?」
「ちょっとね、フェイトのデバイスをリニスと一緒に改良してるの」
それが私が勉強を教えられない理由。フェイトの愛機バルディッシュの改造。
私はライトのコピーバルディッシュ……バルニフィカスを借りて、それを基にフェイトのバルディッシュにカートリッジ機構を取り付けようとしている。ついでにいろいろと改造も。ただ、やはり中々難しく、リニスと2人で設計に取り組んでいるが未だ完成にはいたっておらず、連日の徹夜の結果がこのクマ。
「ふ~ん、デバイスの改良ねぇ。まっ、体壊さない程度に勝手に頑張っ…………って、待て!てことはリニスちゃんもお前みたいなクマ作ってんのか!?」
「は?まあ、私ほどじゃないけど少しは………」
「な!?テメ馬鹿野郎ォ!」
「な、なによいきなり……」
わ、私何か彼の癇に障ること言ったかしら?
いきなり憤慨し出したハヤブサに戸惑う私だったが、次の彼の言葉で私が憤慨しそうになった。
「彼女の顔にクマだと………なんて事だ!あの美顔にそんなモンは似合わねぇ!ふざけんなよプレシア!デバイス改良すんのは勝手だし、お前の顔にクマが出来るのはどうでもいいが、彼女は違ぇ!一人でやってろや!」
遠慮とか配慮とか気づかいとか、そんな物は微塵も感じさせない、いつも通り傍若無人・自分勝手なハヤブサの物言い。
正直なのは美点であるけれど、ここまで来ると問答無用で殺したくなる。
「へ、へぇ~。子供たちやリニスの事は気に掛けるのに、なのに私の事は一蹴?」
「ったり前ぇだ馬鹿ですかお前は?こうしちゃいらんねぇ、朝飯に精の付くモン作ってやんなきゃ。ああ、お前はなるべくリニスの手を煩わせないよう、朝飯抜きでさっさとデバイス改良作業してろよ」
…………ぷちん。
と。
私の中で何かが切れた。
「ハヤブサ」
朝食の準備に取り掛かるのだろう、部屋から急いで出て行こうとしたハヤブサに声を掛けた。
「ああ?ンだよ、こっちは急がし………」
しかし、彼の言葉は最後まで紡がれなかった。私が作り出した拳三つ分くらいの大きさの魔力弾を見て、顔を引きつらせる。そして肩を落としながら溜息を吐きこう言った。
「………ハァ。どいつもこいつも、なんでこう俺の周りにいるやつは喧嘩ッ早いんだ?」
誰のせいよ!
「ハヤブサの馬鹿ーーーーーーーーー!!!!」
ベッドの上で毛布を抱き、顔を真っ赤にして罵詈雑言を放つ女、対してそれを諦めたように受ける男。
まるでドラマによく見る痴情のもつれか何かの図。
なんてね。
(誰かにここまで感情を揺さぶられるのは何時以来かしら………)
それがどんな、何に対する感情なのかは分からないけれど。元夫に対しても、ここまでのナニカを抱かなかったような気がする。
そんな事を思いながら、私は第2第3の魔力弾をハヤブサに放つのだった。
「お前等さ、ずっとこんな辛気臭ぇ場所で生活するわけ?」
それは朝食の場で唐突に放たれたハヤブサの言葉だった。まるで『わぁ、ここに馬鹿がいる』とでも言わんばかりの顔で。
何だかんだ言ってハヤブサは私の分の朝食も用意してくれており、私はそのハヤブサ特製オムレツ(というより、ただの卵焼き。しかも崩れた)にスプーンを伸ばしながら怪訝な顔を彼に向けた。
「昼でも薄暗いわ、草木は腐ったような色してるわ、景観もくそもあったもんじゃないわ。住んでてつまんなくね?」
まあ、ハヤブサの言う通りではある。
アリシアの件が済んで改めてこの庭園を見てみれば、何とも味気なく面白みの一つもないところだというのに気づいた。
だからつい先日、地球で103型のテレビを購入し部屋に入れてみた。その為の回線も魔法世界の技術と私の頭を使い、きちんと地球から引っ張ってきた。久しぶりのテレビだからなのか、それとも地球の技術力なのか、最後に見たときよりも映像はとても進化していて綺麗で、私達家族の間では密かに映画鑑賞がブームになっている。
「何で地球に来ねぇんだ?フェイトの借りてたマンション、あれそのままだろ?勿体ねー」
「そうだけど………」
危惧している事がある。それは言わずもがな管理局。
今回のジュエルシードを巡る件で管理局は地球へやってきた。そして今尚、ジュエルシード回収のため地球にいる。
そんな世界に身を置くのはあまりに無用心だ。私の事が露見しているかは分からないけれど、少なくともフェイトは局員と一度相対したと聞いた。だったら私の事も露見ていると、ある種考え過ぎていた方がいい。フェイトだけここに置いて他の皆で地球に移り住むという案もあるにはあるけれど………とてもじゃない、今の私にそんな事は出来ない。
フェイトと離れる事なんて出来ない。したくない。……………私も変わったわね。
「ンだよ。なんか気になる事でもあんの?─────あ、ライトてめぇ!それ俺のウインナー!」
「管理局よ」
「へっ、ベーコンも~らい!─────あん?管理局?別に気にする事ねぇんじゃね?お前の事は別にバレてねーんだろ?あ、でもまだあのなんちゃらシード持ってるんだっけ?」
「ジュエルシードよ」
そう、フェイトに回収してきてもらったジュエルイードはまだ私の手元にある。これを手放さない限り、管理局が地球から離れないでしょうね。
でも、手放すにしても、まさか野に放つわけにはいかない。封印処理がされているとはいえ、またいつ暴走するか分からないし。局に直接持っていくという案もあるけど、そうなった場合、芋づるで私のやってきた事が露顕する可能性がある。特にプロジェクトF──フェイトの事がバレると拙い。いえ、私だけが糾弾されるならいいけど、フェイトにまで矛先が向いてしまったら……。
そこまで考えて、いやと内心で首を横に振る。
(……結局、私のエゴのせいか)
過去も、そして今も。……だったら、僅かでも精算しなきゃいけないわよね。
私は気持ちをあらため、皆に言う。
「……フェイト、アリシア、リニス、アルフ、あなた達は地球に行きなさい。ハヤブサの言う景観云々は兎も角、良い環境じゃないのは確か。ジュエルシードは私が何とかするわ。いざとなったら局に出頭すればいい。もちろん、あなた達の事は話さないわ。これは、私の責だから」
フェイトたちとはいつまでも一緒にいたい、離れたくない……そんな私の我が儘を通して、これ以上我が子たちを不自由させてはいけない。私は失った幸せをまた掴む事ができた。我が子を抱き、笑顔がまた見れた。その奇跡で満足するべきよ。
そんな前向きなのか後ろ向きなのかよく分からない思考が鎌首をもたげ始めた私だが、やはりというか、ハヤブサが不機嫌な顔して睨みつけてきた。
「テメエは俺が今まで言ってきた事ややってきた事を覚えてねーのかよ。ここまで来てそういう事言うとかマジねーわ」
「で、でも……」
何か反論しようと言葉を紡ぎたかったが、出てこなかった。それは私が今の幸せを手放す事に臆病になっているからか、それとも……ハヤブサの隣に座っているフェイトが、涙を湛えているからか。
これはどう言い繕うかと思案しようとし、しかしそれは我が子の叫びで止まった。
「嫌だ!もう母さんと離れるなんて嫌だよ!母さんと、アリシアとリニスとアルフ、皆一緒がいい!家族と一緒がいい!」
涙を瞳に浮かべたフェイトがテーブルをダンッと叩きながら立ち上がり、私を真っ直ぐに見て、まるで懇願するように捲し立てる。
そんなフェイトの姿を見て、場違いながら私は改めて思った。
本当にこの子は真っ直ぐ育ってくれた。今までの私の行いを考えれば捻くれて当然なのに、それでも真っ直ぐに、無垢に、強く………強く、と。
だったら私はこう返すしかない。素直なありのままの気持ちを。
「ホント馬鹿な母さんね。ごめんなさいね、フェイト。私もずっとあなたといたいわ」
「う、ううん、あ、あの、私の方こそ大きな声出しちゃってごめんなさい」
恥ずかしくなったのか、少し赤くなって縮こまるように椅子に座り直すフェイト。そんなフェイトを見て、私は喜色の笑みが浮かぶのを抑えられない。本当に可愛い娘だと、心の底から思う。……………ただ、そんな事を思う自分に少しだけ嫌気も差してしまう。この子にあんな事をしてきて何を今更、と。
そんな時。
「はい、プレシア」
そっとオレンジ色の液体が入ったコップをリニスが私の前に置いた。まるで私の後ろ向きな思考を断ち切るように。
そして一言。
「何でもかんでも一人で背負おうとしないでくださいね?」
(…………本当にリニスには敵わないわね)
穏やかな笑みを浮かべるリニスに私は「ありがとう」の言葉を彼女と同じような笑みと一緒に返した。…………ハヤブサがリニスの笑みをだらしない顔で見ているのは癪に障るけど。
「リニスはやっぱ可愛いなぁ………って、ぬお!?俺のポテトサラダがいつの間にか無ぇ!?どこに………アルフゥゥゥ!その口元に付いてるポテトちっくな白いものは何だーー!」
「いや~、いらないのかと思ってね。リニスの方ばっか見てるし」
「いらないモンを自分が作るか!しかも食べかけだ!つうか俺がどこ見てようと関係ねぇだろ!…………うり」
「あああああ、私のオムレツ!?ハヤブサー!」
「もぐもぐもぐ、ごっくん。ごっそさん」
「……………表ん出な!」
「へっ、上等!!」
「上等、じゃないわよ!!大人しく食べなさい!アルフも!!」
本当にハヤブサという男は身勝手すぎる。普通、人に会話振っておいて、その途中に他の人と喧嘩を始める?一体どういう思考してるのよ。その場その場を全力で生きすぎよ。
ていうか空気読みなさいよ!私が言うのもなんだけど、結構シリアスだったじゃない!真面目ムード全開だったじゃない!それがなんでまたこんな空気になってるの!?
「覚えてろよアルフ。で、なんだっけか?………ああ、地球に住む事が決定したところだったけ」
「どうしてそうなってるの!?」
「ンだよ、ぐだぐだうっせぇな~」
ハヤブサは牛乳を一気に飲み干し、食後の一服とばかりに早速タバコを取り出して火をつけた。
彼以外まだ朝食を食べている最中なのに、なんの遠慮もなく紫煙を振りまくハヤブサだけど、その事についてもう誰も眉を顰めない。
すでにその行為やその姿は見慣れた物で、もはやハヤブサがいる時の食事の1品のようにまでなっている。
人に、特に子供にとっては当然体に良くなく、私もやめて欲しいと何度かいったけど無駄だった。それに子供達も何故かハヤブサがタバコを吸ってる姿は好きみたいなのよね。
「いちいち訳の分からん未来を心配してどうする。今を楽しまなきゃ損だろ。だ~いじょうぶだって。何とかならぁな。てか、ジュエルシードも俺が何とかしてやっから、これ以上萎えるような発言禁止な」
その言葉がどこぞの馬の骨が言ったものなら、まるで信用に値しない、一笑にするものだけど。どうしてだろう、ハヤブサが言うと本当にどうにかなりそうに思う。
いや、きっとなんとかなる。その証拠が──この家族で囲んだ食卓だ。
「て訳で、さっさと引っ越そうぜ。こんな欝になりそうな所、出来ることなら一時もいたくねぇし。よかったな、アリシア、フェイト、ライト。面白いとこが地球には一杯あっから、俺がいろいろと案内してやんよ。アルフもお天とさんの下、ザフィーラと一緒に散歩しようぜ?かなり気持ちいいぞー。リニスもさ、給仕ばっかしてねーで羽伸ばせよ。服もそんなんじゃなくてもっと歳相応の着てよ?そうだ、今度一緒に買いに行こうぜ。俺、プレゼントすっから。ていうかさせて!」
ハヤブサが言い終わった瞬間、途端に場は賑やかになった。
「ホント?じゃ、ボクテレビで見たアレしたい!フィッシュ竹中殺し!」
「ラ、ライト、あれは魚釣りだよ………」
「はーい!わたし、ゆーえんち行ってみたい!」
「散歩か~、いいね!行こう行こう!」
「ふふ、ありがとうございます。期待して待ってますね」
結局、ハヤブサはこういう奴なのよね。
いつもいつも自分の為とか言ってて、実際99%本当にそうなんだけど…………でも、やっぱり根っこは人の為に動いてると思う。彼はそれを否定するだろうし、上手く言葉で化かそうとするけれど、彼のその優しさの一端に触れた者なら真実は容易く見抜ける。
だから、私もこう言う。
「あら。私には何もしてくれないのかしら?」
「は?調子に乗んなよボケ。………………まあ、後ろ向きに考えといてやんよ」
ほらね?
「あっと、その前に─────」
でも、やっぱりハヤブサはハヤブサな訳で。1%が優しくても99%は利己の塊なので。
「ここ、売っ払っちまおうぜ。で、引越しという提案を出した俺へのマージン料は売値の80%な」
本当に飽きない男ね。
時の庭園の売却。
言葉にすれば簡単だけれど、実際問題はそうじゃない。
別に売る事には何の異論も無い。ここには何の思い入れもなく、むしろ忌まわしい事ばかりだ。特にフェイトにしてしまった所業を否が応にも思い出させられ、胸が締め付けられる。本来なら『だからこそ』向き合わなければならないのだろうけど、そんな心境をポツリとハヤブサの前で漏らしたら、
『過去と向き合ってどうするよ。お前が向いてやんなきゃなんねーのは、そんなモンじゃなくて今のフェイトだろうが』
下んねぇ事言ってんじゃねー、そう吐き捨てた彼に私はどのような眼差しを向けていただろう。
ハヤブサって時々良い事言うのよね。
まあ、それは兎も角。
だから、気持ち的には何も問題なかった。デバイスの改良も、やろうと思えば地球でだって出来る。
問題はそんな事じゃなく、もっと現実的なもの。
──どうやって、どこに、誰に売りに出すか。
勿論、普通に売り出せる代物じゃない。こんな物を売り出せば必ず管理局の目に留まる。そうしたら当然私が売主だと分かり、そこから下手したら今回のジュエルシードの件への関わりが露見してしまう可能性も0じゃない。
だから私は秘密裏で売る事を決めた。研究所に居た頃に出来た明かせない人脈や、フェイトを造…………産む時にコンタクトを取った人たち─────つまりアンダーグラウンドな奴らを売却の対象に絞った。彼らならその立場上どこへも洩れる心配は無い。
私は部屋にある端末から各々の連絡先を呼び出し、時の庭園の売却の旨を文章にして送った。どれほど返答があるかは分からないけど、買い手は必ず現れると私は核心している。今どんな物が売りに出されているか、そういう情報は瞬く間に巡る。それは今送った相手だけじゃなく、その相手の相手まで。そしてその巡る場所もその性質上、裏でだけ。表には絶対に出ない。
「送ったわよ。返事もすぐ来ると思うわ。物の売買、そして情報っていうのは早さが命だから」
座って端末を操作していた私の傍らにはハヤブサ。この部屋には私とハヤブサのみで、他の者は各々好きなことをしている。
「オーライ。あとは任せな」
私はそういうハヤブサに席を譲った。
彼に何を任せたのかというと、値段の交渉だ。その為の端末の操作、文字の打ち方は事前に教えておいた。そして私がこの庭園を購入した時の金額も教えており、だからだいたいの相場も彼は把握している。
「ふん。ぼったくり価格で売りつけてやんぜ!」
ハヤブサらしいその言葉に思わず苦笑してしまう。
まあ、息巻くのは当然でしょうね。なんたって私が購入した時の値段以上の価格で売れたら、その差分を上げると言っておいたのだから。
さて、いつもいつも金金言ってるけど、実際の集金力はどれくらいかしら。まあ、今のハヤブサの懐具合を知ってるのであまり期待は出来ないだろうけど。
「お、早速来た!」
ピコンと端末がなり、画面にメッセージが出た。そのメッセージはミッド語で書かれていたが、私が教えたようにハヤブサが端末を操作すると日本語に変換された。
「ええと、なになに………………」
黙々と文字を読み進めるハヤブサ。そして全部読み終わったのか、彼は返信画面を呼び出し文字を打ち始めた。
(お茶、入れきてあげようかしら。それに肩も凝るだろうし、マッサージでも……)
座って文字を打っている彼の背中や初めて見る寡黙な姿を見て、漠然とそんな考えが浮かび……………次の瞬間頬が朱に染まったのを自覚した。さらに自覚した事はそれだけじゃなく、私の右手がいつの間にか彼の背に触れそうな位置まで伸びていた。
(え、あれ?私、なにを………)
これじゃあまるで………
「おい」
「ひゃい!?」
「…………頭、膿んだか?」
私の奇声に怪訝な表情をしながら振り返ったハヤブサに『なんでもない』という意を込めて首を横に振る。その動作はきっと凄くぎこちなかっただろう。
「な、なにかしら?」
「ん、ああ、ちょっと長丁場になりそうだからよ、茶でも入れて来てくんね?」
その言葉に私の胸の内が見透かされたかとさらに頬が赤くなるが、ハヤブサはこちらの返答を待たずまた文字を打ち始めた。もう用は無いと言わんばかりのその態度に、知らず私はムッとした表情になる。
(もうっ、なんなのよ!!)
………本当になんなのよ。
自分でも意味の分からない怒りと羞恥を抱え、私は早足で部屋を出た。後ろ手で扉を閉めた後、その扉に寄り掛かかり、胸を押さえながら気を落ち着かせる。
鼓動がいつもより高鳴っているような気がする。
「なんなのよ………」
先ほどと同じように、しかし今度は声に出してみた。
けれど、どういうわけか、私らしくない弱弱しい声しか出なかった。そして頭の中にはハヤブサの顔が浮かんでは消え、浮かんでは消え。
結果、お茶を入れたら何故か砂糖まで入れてしまったり、おぼんをひっくり返してしまったり、お茶菓子も付けるべきか悩んだ末にそもそもお茶菓子なんて無かった事に気づいたり。ならばいっそ手作りクッキーでも焼いてやろうかと思った所でまた己のバカな思考に身悶えたり。
散々だった。惨々だった。
「なんなのよ、もうっ!!」
「プ、プレシア、落ち着いてっ!?」
結局、見かねたリニスに手伝ってもらい、ハヤブサのところにお茶を淹れて戻ったのはそれから30分後だった。
更新遅くなり申し訳ありません。
加筆修正でシリアス入れて、innocent版のようなお淑やかで母性あるプレシアを書こうと思ったんですが……何度も書き直した結果、無理でしたorz
結局ほぼリメイク前の内容……精神年齢が少女なプレシアさんに……改めて見れば彼女も半オリキャラ化してますね汗
次回は無駄にリメイクしようとして時間取らないようにし、早めの更新目指します。