フリーターと写本の仲間たちのリリックな日々   作:スピーク

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一週間が経った。

何からかと言うと、言わずもがなあの古本娘たち(1名男だが)との出会いから。

当初の予定通り、あいつら5人は俺と共に1DKのクソ狭い部屋で寝食をしている。

ここで1人ずつ改めて紹介しておこう。

 

烈火の将──シグナム。

桃色の長い髪をポニーテールにしているメロン娘。性格は質実剛健、昔いたとされる武士のような女だ。若干堅苦しい奴だがメロンなので許す。5人のリーダー的存在。くどいようだが、それとメロンだ。スイカでも可。むしろ応。

 

管制人格──夜天。

俺を助けてくれた銀髪の女性。シグナム程ではないが彼女もメロン。そして形のいい桃の持ち主だ。性格はとても優しく、いつも一歩引いた所に立っているような感じ。守護騎士たちの母親的存在。ふんわりと包み込んでくれそう。あと時々羽が生える。

 

湖の騎士──シャマル。

淡い金髪の女性。彼女は……金柑くらいだな。が、全体的な均等は一番。性格はおっとりって感じで悪くない。否、良し。あと料理が滅茶苦茶上手い。和洋仏中、なんでもござれの料理人だ。

 

守護獣──ザフィーラ。

犬耳尻尾を有したマッチョ。あまり喋らないが、無口というわけではなく、どっしりとした兄貴のような奴。守護獣というものみたいで、狼にもなれる不思議君。ちなみに彼には頻繁に獣形態で俺の枕になってもらっている。イケメンなのが玉に瑕。

 

鉄槌の騎士──ヴィータ。

死ねクソガキ。ガッデム。

 

以上が俺の同居人の概要だ。

最初、こいつらには名前がついていなかった。なんでも、『正本の騎士にはきちんと名が付いていますが、我らは写本。やはり同じ名を名乗るのは憚られます。ですので、宜しければ名前を頂ければ……』との事。

それに対する俺の返答は『ああ?別にいいだろ。どうせオリジナルと合う事なんてないだろうし。気にせんで名乗れ名乗れ』と温かい言葉をかけた。……ぶっちゃけ、考えるのが面倒だったのよ。

しかしながら、夜天だけはオリジナルにも名前がないらしく、結局俺が名づけ親になった。名前の由来は言わなくても分かっだろ?

 

それで、次にこの同居に関しての条件だが。

1.クソガキ以外は仕事すること。

2.家事は毎日交代制。

3.貧しくても文句たれんな。

と、こんな感じ。本当は『4.俺の夜の相手をしろ』も付けたい所だが………言える筈がない。もし言えてたら俺はとっくに脱童貞している。

 

この上の条件でちょっと厳しかったのが1の仕事だ。当初は誰か一人くらいは就職でもさせてやろうかと思っていたが、それが確実に無理なことが判明。戸籍がないのだ。よって住民票などの標本が貰えない。まったく世知辛い世の中だ。

そんな訳で4人の金策手段はアルバイトのみ。これなら履歴書の提出のみなので問題なし。多分に私文書偽造になってしまうかも知れないが、そこまで詳しく身元を調査するはずもなし。ただのアルバイト希望なら、面接でいい顔してたら大抵合格するもんだ。そしてその証拠に全員もうバイト先が決まった。シャマル以外は俺と同じパチンコ店、シャマルは翠屋という近くの人気喫茶店だ。

 

そんな感じで同居生活がスタートしてから1週間。なんとも慌しい1週間だった。

まずはアパートの管理人やご近所さんに大所帯になる事の報告。こいつらの服、及び日用品の調達………正直、かなり滅入った。特に服や日用品の調達だ。なにせ金がない。こいつらにバイトさせると言っても、それですぐ金が入るわけじゃない。故に当面の金は俺が出すしかない。……ああ、そうさ、俺が出したさ、貯金崩したさ!なんで女物の服や下着ってあんな高いんだ?マジびっくりだわ。

 

俺は結構早まったかなーとも思ったが、もうここまでくれば腹を括った。

部屋がいくら手狭になろうが、貯金が少なくなろうが、なんでも来いだ。もうデメリットは考えん。メリットだけ見てれば幸せになれるんだから、もうこの際他のもんには目を瞑る。耳も閉じる。あーあー、見えない聞こえない。

 

ああ、それと俺が魔法使いになった事や魔法の蒐集の件はガン無視を決め込んだ。『ワリーけど、ほかの事に目ェ向けてる余裕ねーんだわ。あんたらもバイトにだけ集中しろ』、そう云っておいた。

それに対し5人は『はあ、まあ主がそれでいいのなら』という、何とも適当なものだったのでまあ良し。

 

まだまだ問題は山積みだが、まあ適当にやっていけば大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日曜日、朝。

ああ、あれからもう1週間かーと思いながら俺はベランダでタバコをふかしていた。

あいつらと同居して早一週間。最初は『女性と寝食共に出来るなんて、俺の人生キタねこれ。勝ち組の仲間入り~』と思っていたが、そう単純なものではなかったと気づくまでそう時間は掛からなかった。

狭く感じる部屋。寝る場所は約10帖の洋室からDKに。食料や日用品の消費の早さ。ご近所の目。

唯一の救いとしては綺麗な女性に囲まれての生活なのだが、それも中々どうして、ハプニングが起こらない。例えばお風呂で、例えばトイレで、例えば寝室で……びっくりどっきりお色気イベント皆無だ。マジがっかり。

 

(まあ、退屈しねーのはいいことだけどよ)

 

そう。退屈だけはしない。そりゃもう、ウザってーほどだ。特に───

 

「おい、いつまでタバコ吸ってんだよ。朝飯出来たっつってんだろ?早く来いよ、このクソ主」

 

これだよ、こいつだよ、このクソガキだよ!

長い赤毛をなびかせてベランダに姿を見せたと思ったら、開口一番にこの毒舌。こいつは同居初日からこんな感じだった。なにかと俺に突っかかってきやがる。他の奴らは程度の差はあれ、俺に対して敬意のようなものを出しているのに、このクソガキときたら!

別に主として敬えとは言わないが、それでもこうまでガンつけられたら俺の怒りメーターも即MAXですよ?

 

「おうおう、わーったよ。つうか朝からぴーちくぱーちく喧しいんだよ。それとガンくれてんじゃねーぞ、クソガキ」

「へッ、そりゃ悪かったな。どこかの誰かは耳が遠いのか、呼んでも中々来ねーかんよぉ?なあ、ド級クソ主」

 

お互い、子供のように汚い言葉を交わす。そしてお互いの口角がひくひく。

いつものやりとり。そしていつもの生意気なクソガキだ。いや、ここ数日で特にナメた口聞くようになりやがった。

 

「ああ、シグナムか夜天かシャマルかザフィーラの声ならよく聞こえんだけどなぁ。どうにもどっかの誰かの声だけは中々聞こえねーんだわ。不思議だろ?」

「ああ、そうだな。一度病院行った方がいいんじゃねーか?耳じゃなく頭の。で、手術して貰え。ショッカーの改造手術。ほら、練習だ。"イーッ"て言ってみろ、"イーッ"て」

「「……………」」

 

沈黙が場を満たす。しかし、次の瞬間には不愉快な事に全く同じ言葉がお互いの口から発せられたのだった。

 

「「上等だコラぁ!」」

 

俺はベランダに置いてあった植木鉢を、ヴィータは首から提げていた待機状態のデバイスを手にそれぞれ構えた。

 

「今日と言う今日は頭ぁキたぞ、このクサれロリータァア!てめーの鉄槌を痛デバイスにしてやんよぉ!」

「コいてんじゃねーぞ、このろくでなしフリーター主がぁ!てめぇの血でアイゼンをヌチャっと新色に模様替えしてやんよぉ!」

 

一気に場は緊張し、近くの電線にとまっていた小鳥がピーピー鳴きながら飛んでいった。そしてお互いが睨み合い数分、俺の咥えているタバコの灰が下に落ちたその時─────。

 

「またですか、主」

「ヴィータもいい加減にしろ」

 

部屋の中で成り行きを見ていたシグナムと夜天がとうとう痺れを切らしてやってきた。

俺とヴィータが争って、主にこの2人が仲裁に入る。

もうパターンになりつつある流れだ。

 

「夜天、ワリーのはこのクソガキだ。だから文句ならヴィータに───」

「シグナム、ワリーのはこのクソ主だ。だから文句は隼に───」

「「ンだとゴルァ!?ヤんのか、てめぇ!」」

「「………ハァ」」

 

俺の朝起きてから朝食までの時間はだいたいいつもこうやって過ぎていく。

正直、ヴィータに腹は滅茶苦茶立つが…………まあ、嫌いなやつではない。こういう素直な反応を示すガキってえのが、俺は嫌いじゃねーんだ。その啖呵の良さも中々どうして、様になってるし。

ムカつくけどなァ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、やっぱうめーな、シャマルの料理は」

「ふふ、ありがとうございます」

 

日課となりつつある朝のヴィータとのやり取りから少し、今は朝食の最中。

今日はシャマルが料理当番という事で、より一層食が進む。もちろん、他の皆も料理は出来るがシャマルだけは最初から別格だった。ホント、美味いんだよ。

 

「シャマルはあれだな、料理の騎士だな。ホント、料理で癒される。ああ、やっぱ主になって良かったわ」

 

実は本当に一番主になって良かったと思ったのはこの料理を食べれた事だった。

適当なスーパーで、適当な材料を使い、適当な器具を使ってこの美味さ。ハッキリ言って、そこいらの店の料理など霞んで見えるぞ?て言うか、どうやって俺んちのお袋の味まで再現してるんだろうか?いや、ホント凄い。

ただ……聞いた話では正本のシャマルはどうやら料理が下手らしい。それも破滅的に。それで、そのままでは不味いと思い、生みの親(あのアルハザードの店主)が写す時にいろいろと調整したとの事。

いや、いい仕事したよ店主。もし今度また会えたらお礼を言っておこうと心に誓ったくらいだ。

 

「おかわり~」

「わっ、もう食べちゃったんですか?ふふ、ちょっと待っててくださいね」

 

そう言って俺の手から小鉢を取り、おかわりを入れてきてくれるシャマル。

ああ、何かこういうのいいなぁ。やべ、なんか夫婦って感じじゃね?……いや、どちらかと言うと親子?いやいや、そこは夫婦にしとこうぜ!

なんて事を思いながらおかわりを待っていると、ふと横から視線を感じた。そちらに目を向けてみればヴィータがジト目でこちらを見ていた。

 

「ンだよ?」

「………別に」

 

そう言ってそっぽを向くヴィータ。

一体なんなんだと思い、追求しようと思ったらヴィータが何かぶつぶつ言っているのに気づいた。

 

「ンだよ……あたしの料理当番の時はそんなにガツガツ食べねーくせして、シャマルの時だけあんな一杯食べてさ……むかつく」

 

………ったく、これだから嫌いになれねーんだよな、このお子様は。

 

「おい、ヴィータ。口開けろ」

「あん?───むぐ!?」

 

俺は食べかけの卵焼きをヴィータの口に突っ込んだ。

 

「い、いきなりなにすん───」

「お前もこれくらい美味いの作れ。ならガツガツ食べてやんよ」

「お、おおおまっ…、人の独り言聞いてんじゃねーよ!」

「声がでけーんだよ、アホたれ」

 

ホント、こいつってあれだな、ツンデレだな。いや、デレてはねぇか。けど素直な奴じゃない事は確か。それに喧嘩もよくするが……てか、毎日するが、こいつも俺をきちんの主として認めてはくれてんだよな。……まるで敬意はないが。

けど、だからって俺はこいつが好きじゃない。嫌いじゃないのは確かだが、好きでもない。てか、ムカつく!いくら素直じゃないっつっても限度があんだろ?こいつ、毎日最低でも2回は俺にアイゼン向けてくんだもんな。

 

「べ、べべ別にお前にガツガツ食って欲しい訳じゃねーかんな!ただの純粋な感想で、だから変な勘違いすんなよ!」

 

……まっ、やっぱ嫌いにはなれねーな。ナイチチは嫌いだけどツンデレは好きだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

朝飯を食い終わって一段落後、それぞれが行動を開始した。

シグナムとザフィーラはバイト先であるパチンコ屋へ勤労へ。シャマルもバイト先である喫茶店へ。ヴィータはゲームをしている。で、残った俺はと言うと───。

 

「そう、その調子です。そのまま魔力を維持して」

 

今日はバイトがオフの夜天に魔法を習っている。

 

「もう飛行と浮遊の魔法はかなりモノにしましたね」

「当然だ。俺を誰だと───いでっ!?」

 

言った傍から魔力の制御を誤り、頭が天井に激突。かなりの勢いで思いっきりぶつけてしまった。これ、頭が変形したんじゃね?ってほどだ。

 

「おおおぉぉおおおぉおおっっっ!?」

「あ、主!?ご無事ですか!」

「ぎっっ、のおおぁわぁぁあぉおおお!?」

「で、ですから、外で練習しましょうとあれほど……」

 

そう。何を隠そう、俺は部屋の中で魔法の練習をしている。何故って?ンなの、万一にも人目についたらまじぃだろ。多少……いや、かなり狭いがこれはしょうがない処置だ。

 

最初に言ったように、当初は本当に魔法の事なんてどうでもよかった。別に魔法使いになりたいわけでもないし、魔法が使えるからっていい会社に就職出来るわけでもない。趣味でやってもいいが、そんな事に時間割いている余裕があるならバイトする。

そう思っていたし、今も思っている。

だが、何事にも例外はある。そう、ある2つの魔法に関しては例外的に練習する事に決めたのだ。

そのまず1つが『飛行』の魔法。その理由は……って、説明いる?空飛べるんだぞ?舞空術だぞ?生身でブーンだぞ?練習しないわけねーじゃんよ。

で、2つ目の魔法は『手から魔力弾を出す』魔法。その理由は……って、これも説明いる?俺、男の子よ?DBZとストリートファイター大好きよ?ガキん頃、一度はあのポーズ取って何か出そうとしなかった?それのマジモンが出来るんだぞ?やらいでか。

 

「魔法の構築はほぼ問題なく行われていますが、緻密な制御がまだ不十分のようです。けれど、ただ空を飛ぶだけなら、なんら問題はありません」

 

ようやく痛みが納まり、脇に抱えていた夜天の写本を壁に投げて八つ当たりした後、時を見計らって夜天がそう言った。

 

「お、マジ?練習開始たった5日で夜天のお墨付き?」

「はい。これもひとえに主の修練、努力の賜物です」

「よせよせ。全部夜天のお陰だ。いや、ホント、あんがとな」

 

ギャルゲならここで俺が撫で撫ででもしてやる場面なんだろうが、生憎とここ現実。

以前、ためしに赤毛の獰猛なクソガキを『ニコポするかな~』って感じで頭を撫でたところ、アイゼンの一振りが返ってきたのは記憶に新しい。

 

「よし、これで今日からバイトの行き帰りが楽になった!」

 

今までチャリで行ってたかんなぁ。今日もバイトに行ったシグナム達が当初は羨ましかったもんだ。あいつら、バイト行くときは超高度超スピードで空飛んで行ってたかんな。片や俺はチャリで地道にえっさほいさだ。

 

「おい、ヴィータヴィータ。ほら見てみ?──秘技・空中犬神家」

 

飛行許可が降りてテンション上がった俺。そんな俺を見てテレビゲームをしていたヴィータが此方を振り向いて一言───。

 

「死ねば?」

「よーし、その喧嘩買った」

 

本日2回目の衝突は夜天が仲裁に入るよりも早く、クソガキのアイゼンと俺の飛鳥文化アタックが激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべーーーーーー!」

 

俺は今、空をモノスゴイ速度で翔けている。その速度たるや、風圧で目が開けられないほどだ。これも練習の成果………つうか目痛ぇ!今度ゴーグル買っておこう。

で、何がヤバイのかというと時間。で、何の時間かと言うとバイトのシフトの時間。

そう、俺今遅刻しそうなんよ。

シグナムたちは午前中からだったが、俺は午後からのシフト。それをすっかり忘れていた俺はのん気に昼飯を食べ、その後一服。気づいた時には5分前。

 

「クソ!1分でも遅れると次長の奴うっせーってのに……もっとだ、もっと羽ばたけ俺の翼!」

 

俺の背には夜天と同じ漆黒の翼が付いている。ただ彼女は2対4枚に対し、俺は平凡な1対。第一印象は『うわ、カラスじゃねーか』だ。また、騎士甲冑なんて専用のコスチュームもあるらしいが、形を考えるのが面倒なため作っていない。よって、今の俺の格好はジャージに翼という超アンバランスなもの。

 

「メロスになるんだ俺!セリヌンティウスが待ってんぞ!」

 

俺はまだシグナムたちのように雲の上なんていう超高度を飛べないため、街の景色が流れるのがよく見て取れる。そこには1週間前のあの木の根による被害はもう窺えない。

 

(そういや何でああなったんだろうな?それにあのスペシウム光線も結局分からずじまいだし)

 

まあ、別にどうでもいいか。街はもうほぼ元通りだし、あの光線も詮索したってだからどうするって話だ。それにあの事件のお陰で俺は今なんちゃってハーレム体験中だし。

結果だけみれば、まあ良い方の割合が高い。

 

「今の状況は極悪だがな!こんな事なら飛行より瞬間移動とかワープ教えてもらやぁ良かったな。あるか知んねーけど────」

「ニャーーー」

「にゃんちゅう!?」

 

んなわけもなく。

いきなり大音量で猫の鳴き声が鼓膜を叩いた。それの発生源だろう方角を見てみれば、なんとそこには猫がいた。いや、普通の猫じゃねーよ?なんていうか……ああ、でけぇ。

その猫のいる場所は確かどっかの金持ちの森の中。なんだ?金持ちの道楽で遺伝子組み換え実験でもしたのか?

つうか、先週に引き続きまたびっくりどっきりかよ。ここ最近訳の分からん事づくしだったから、ただのデカ猫くらいじゃ驚かねぇぞ?……鳴き声を聞いて魔力制御を誤り落ちかけたが、決して驚いたわけじゃねぇ。

 

「一体全体なにがなんだか……取り合えず写メっとこ」

 

カシャカシャっと……うし。帰って皆に自慢しよう。あ、ついでにムービーも撮っとくか。

携帯の画面越しにあの巨体を見る。と、そこでようやくく気づいたが足元に何かあるのか、猫はずっと下を向いて前足を動かしている。

 

「ンだぁ?一体なにが……まさか人じゃねーだろうな……」

 

肯定する要素もないが、否定する要素もない。ここからでは何も見えないのだ。しかし、もし人だった場合かなりヤバくね?あの大きさの猫にじゃれ付かれて無事ですむ人なんて、たぶんムツゴロウさんくらいのもんだぞ。

正義の心を持って様子を見に行くか、大半の一般人がよくする見て見ぬ振りを決め込むか。

俺的には断然後者だが……さて、どうしよう?

と、悩んでいたらまた状況は変な展開を見せた。なんか幾つかの変な黄色い光が猫にぶち当たった。その衝撃で猫が断末魔の叫びを上げながらぶっ倒れる。

 

「オイオイオイオイ!?ありゃ死んだんじゃねーか?」

 

少なくとも無傷ですむモンじゃないような気がする。なんか爆発してたし。煙出てるし。動物愛護法って知ってっか?俺は言葉だけなら知ってる。

ともあれ、もうムービー撮影は止めとこう。こんな動物虐待シーンを撮るために撮影していたわけじゃない。ついでにショッキングシーンのデータも消しておこう。

 

「ハァ、やれやれ。面白可笑しいモンが撮れたと思ったんだけどな。まっ、写メだけでも十分にあいつらに自慢でき─────ああ?」

 

携帯を操作し終わり、顔を上げてもう一度猫が居た所に目を向けてみると、なんといつの間にかあのデカ猫は忽然と姿を消していた。

何故?え、もしかして白昼夢?……しかし、片手に持った携帯のフォトフォルダを見ればしっかりと画像が。

 

また訳の分からん事に、と頭を捻る俺の視界にまたも変な物が入った。それが今度は近づいてくる。そしてそれは俺の目の前でびたっと止まり、5mくらい間を空けて対峙する形となった。

それは物ではなく者だった。

金髪をツインテールにし、レオタードみたいな変な服にマント。年の頃は10歳前後とヴィータくらい。そして右手にはこれまた変な棒。

 

まあ、格好で言えばこちらも右手に古本持った羽根付きジャージ男だが。

 

(なんだ、このガキ?つうか、なんかガンつけてねぇか?)

 

めっちゃ睨まれてんだけど。てか、なんで初対面のガキにこんな警戒されてんだ俺?

会った事……ねーよな?こんなガイジンで可愛らしい顔のガキなら、一度見たら忘れんと思うし。…………あれ?ちょっと待て。

 

(なんでこのガキも浮いてんの?)

 

今更ながら気づいた衝撃の真実。てか、マジで今更だ。あー、まあ最近こういうに慣れて来てたからなぁ。ちょっと感覚が馬鹿になってるわ。────つまり、こいつはアレだろ?

 

「また魔導師……なんで管理外世界に2人も……」

 

少女、初発言。そしてその発言で俺の予想は的中。

やっぱこいつ、魔法使いだわ。

でなければ、こんなガキの口から魔導師なんて言葉でないし、なにより浮いてるし………間違いないっつうか、もう決め付けた。こいつは魔法使い!はい、決定。

て訳でまずは第一コンタクト。

 

「よう。いやぁ、今日はあちぃなー。最近調子はどうよ?あ、はじめまして。俺ァ鈴木隼な」

「……へ?」

 

同じ魔導師同士、さらに相手は外人みたいなんでフランクに接してみたが、なんかガキの方は拍子抜けしたような顔になった。

何故だろうか?おかしな事は言ってないはずだが。

 

「お前も魔法使い……ああ、魔導師っつうんだっけ?俺んとこの奴以外の魔導師って初めて見たわ。よろしくな」

「え、あ、あの……」

「いやぁ、いきなりガンくれてきやがったから喧嘩売ってんのかと思ったけど、まあ、初対面だしガキだからな。今回は見逃してやるわ。あ、ところでお前って魔導師歴どんくらい?ちなみに俺はまだ若葉マークな1週間だ」

「え、えっと、その……」

 

こちらの矢継ぎ早な言葉について来れないのか、狼狽しているガキ。

対して俺は初めてシグナムたち以外の魔導師に会えたので興味深々だ。テンションあげあげ。

 

「なんかよぉ、いきなり訳の分からん内に夜天の主なんてモンになってたわけよ。ところで、お前のデバイスってその杖?杖型デバイス?」

「ええっと……杖じゃなて戦斧で……あ、でも鎌にもなります」

「斧に鎌?おいおい、イカすじゃねーか。俺なんてこんな古本だぞ?シグナムもゴツイ剣だし。……なあ、これとそのデバイス交換しね?」

「そ、それはちょっと……」

「だよなー。でも男といったら剣とかだろ?それが本って……まあ、別に魔法にそこまで執着はないからいいけどよぉ」

「はぁ……」

「ああ、それから聞いてくれよ。うちにさ、ヴィータっつうクサレ赤毛がいんだけど─────」

「あ、あの!」

 

人が話している最中にいきなり大声を出して割って入るガキ。その顔からはかなりの戸惑いの色が見て取れた。

 

「あの……あなたは魔導師ですよね?ジュエルシードを狙った……」

「ああ?ンだよ、そりゃ?」

「え?ち、違うの?」

 

じゅえるしーど?察するにこのガキはそれを求めているらしいが、その言葉自体初耳な俺が求めているはずもない。

もしかして魔導師ってそのじゅえるしーどを求める義務があるのか?初心者魔導師の俺にそんな事知るはずもないが……まあ、たとえ義務でも求めるつもりはない。

俺が魔導師やってるのは、極論すれば自分の欲のため。こうやって空飛んでみたり、かめはめ波や波動拳撃ってみたりしたいだけ。それ以外はノーサンキュー。

 

「全然ちげぇよ。ジョイフルシードだかアップルシードだか知らんが、そんなモン狙ってねぇ」

「そ、そうなんだ」

「ンなことより、まあ聞けよ。ええっと、どこまで話したっけ?……ああ、そうそう。あのどクサレ赤毛。あいつがさぁ────」

 

と、そんな感じで。

このガキが聞き上手なのか、それとも俺の愚痴やストレスが溜まりに溜まっていたからなのか、それからかなりの長い間空中でガキと駄弁っていた。

ガキも最初の方は狼狽するばかりでつまらん反応だったが、途中から普通に笑うようになった。その笑みがまた子供らしくて可愛いこと。俺に幼女趣味はないので今はどうも思わないが、あと7、8年したらこのガキはやべぇな。モテまくるぞ。俺もアタックするぞ。

 

と、そんな事を思いながら楽しく談笑していた。出会ってまだ1時間も経っていないが、中々いいガキだ。少なくともヴィータよりは平和的な空気が築ける。

しかし、そんな楽しいひと時を邪魔するように、俺の携帯が音を出して振るえた。

 

「ンだよ……わりぃ、ちょっとタイムな」

「うん」

 

俺は空気を読まない携帯をポケットから出した。このまま電話に出ずに切ったろうかと思い────液晶画面を見て血の気が引いた。

画面にはバイト先のパチンコ店の電話番号。

 

「へあーーーーーーーーーーーーーっっ!!!」

 

や、やべぇ!すっかり忘れてたバイト!いや、これマジで冗談抜きでやべぇ!

時計を見れば軽く1時間の遅刻。

 

「ど、どうしたの?」

「やべぇよ、どうしたもこうしたもねーよ!ただでさえ勤務態度がわりぃのにこれじゃあ……ッ」

 

俺の頭からガキに構っている余裕はなくなった。俺は反転すると、まだ何か言っているガキはガン無視してバイト先まで最高速で飛んだ。

 

「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっ!セリヌンティウスーーーーーー!!」

 

結局、俺は次長にしこたま怒られたがクビだけは何とか回避することが出来たのだった。

 

 

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