フリーターと写本の仲間たちのリリックな日々   作:スピーク

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少々描写不足で駆け足気味かも?
そして汚い描写があります。ご了承ください。


なのは後日談 中編

『自己中心的』って言葉があります。

 

自分を中心としてしか考えられず、ほかの人の事なんて考えもしない、あるいは軽視する事。

おおよそ、いい意味を持たない言葉。

 

──最初、私はハヤさんの事自己中な人だと思ってました。

 

何をするにしても自分の気持ちが一番で、勝手し放題で、他の人の事なんてどうでもいい。自分よければ全て良し。迷惑を顧みない人。

 

ハヤさんは、そんな人だと思ってた。ううん、実際そうなんだと思う。だって今でも、もし私が誰かにハヤさんを紹介する時があれば、まず私はハヤさんの事を「すっごく自分勝手で自分大好きな人だよ」と言うと思うから。

そして、多分ハヤさんを知ってる人ならその言葉に誰もが力強く頷くと思う。

 

ハヤさん=自己中。

 

この図式は間違ってはいない。うん、間違ってはいない。………………けど、合ってもいないとも私は思う。

 

自己中なのは自己中だと思う。そこは否定できない。

だけど、世間一般で言う自己中とは違うと思う。『おおよそ、いい意味を持たない言葉の自己中』とハヤさんの『自己中』はイコールじゃ結ばれないと思う。

 

思う思うばかりで信用ないかもしれないけど、でもやっぱり私から見たらそう思う。

 

そう思った切っ掛けとして、前ね、こんな事があったんだ。

 

ある日、ハヤさんが「遊びに行こうぜ」って、いつも通り突然家にやって来て言ったの。その時、家には私とお兄ちゃんとお姉ちゃんと忍お姉ちゃんがいて、あれよあれよと言う間に……ううん、言う間もなく……というか言うだけ無駄と分かってるから、私たちは苦笑いを浮かべるだけに留めて結局ハヤさんの車で遊びに行くことになった。ほぼ初対面だった忍お姉ちゃんはちょっとだけ呆気に取られてたのを覚えてる。

車中もやっぱりハヤさんのペースで終始賑やかだったけど、忍お姉ちゃんだけはやっぱりハヤさんの人となりにちょっと圧倒されたみたいで、らしくなく大人しかった。

 

『恭也の彼女だろ?忍ちゃんだっけ。聞いてっかもしれんけど、俺ぁ鈴木隼な。てかマジ美人じゃん。まー、取り敢えず恭也死ね』

『なぜだ!?』

『おっと、死ぬ前に合コンセッティングしてもらわにゃな。で、そのあと問答無用で死ね。大丈夫、介錯は任せろ。お前の小太刀でバラバラにしてやんよ』

『それは介錯じゃなくお前自身が殺しに来てるだろ!?』

『いや、お前をヤるのは美由希ちゃんだ』

『そこで私なんだ!?』

 

と、ハヤさんとお兄ちゃんとお姉ちゃんがコントを繰り広げても忍お姉ちゃんは苦笑いを浮かべるだけでした。あとで聞いた話しだと忍お姉ちゃんはこの時こう思ってたみたい。

 

『いや、だって隼さんってパッと見、恭也や美由希ちゃんの苦手そうなタイプでしょ?すっごくチャラチャラしてるし、乱暴な言葉使いだし、遠慮も配慮もあったもんじゃないし。だから、どうやってこんなに仲良くなったのかなぁって。私も第一印象はちょっと苦手だったし。あ、今はそんな事ないよ?すずかがすっごくお世話になってるしね♪』

 

うん、まぁ分かるかな。私たちの周りにはいなかったタイプの人だもんね、ハヤさんって。

でも、本人も言ってたように、今ではハヤさんと忍お姉ちゃんはお兄ちゃんたちと同じくらい仲良し。

私もどうやって、どんな事があって、何が切っ掛けでお兄ちゃんとお姉ちゃんのハヤさんに対する印象が変わったのかは知らないけれど、でも忍お姉ちゃんに関しては知ってる。だってハヤさんの『自己中』が他の『自己中』と違うと分かった切っ掛けと同じだから。

 

それはハヤさんの運転中、助手席に乗ってたお兄ちゃんの一言から。

 

『しかし隼、俺は少し感心した。お前もちゃんと他者に気配り出来るんだな』

『あん?いきなり何よ?』

『いや、お前の運転だ。さっきから何度も横入りしてくる車を入れさせてやってるし、さっきの交差点、横断歩道を渡ろうしてる人がいるときちんと止まってるだろ?こう言っては失礼だが、少し意外でな』

『あ、それ私も思ってた。隼さん、普段の言動が言動だからね~』

『ああ。けど、こういうさり気ない所でその人間の根っこが見えるもんだ。善人なのか、悪人なのか、な』

『うんうん、隼さん、パッと見悪人だもんね。あっ、悪人って言ってもあれだよ?小説なんかによく出るけっして大物にはなれない小悪党!』

 

お兄ちゃんとお姉ちゃんが褒めてるのか貶めてるのか分からない事を言う。それは忍お姉ちゃんにハヤさんを見た目や言動だけで誤解して欲しくない為のフォローなのか、はたまた純粋な気持ちだったのか。

 

対して渦中のハヤさんはというと──。

 

『美由希ちゃんにはあとで隼地獄スペシャルをくらわせるとして……』

『なにそれ?!』

『気配りねぇ……』

 

そう言って片手をハンドルから離してポリポリと頬を掻く。それは照れているというより、どこか気まずそうな顔。

 

『褒められるのは気分良くなって好きだけど、検討違いの事で褒められてもなぁ』

『検討違い?』

『そっ。あのよ、恭也に美由希ちゃん。俺が本当にそんな気配りの出来るような人間に見えるか?人に何かを譲るとか、そんな優しい人間に見えるか?』

『『…………』』

『正直な沈黙ありがとよ。まっ、そういうこった』

『どういうことなの?』

 

後ろで聞いてた私はよく分からず、運転席と助手席のシートの間に身を乗り出してハヤさんを覗った。ハヤさんは一つ苦笑したあと、「シートベルトちゃんとしてろや」と言いながら私の頭を撫でて後ろへと押し戻す。

 

『忍ちゃんはともかく、お前らは知ってんだろ俺の事。俺はね、自分が大好きなの。自分よければ全て良しなの。自分最優先なわけ。だから、恭也の言った事も、全部自分の為っつうわけ』

『どういう事だ?』

『良い事すると気持ちいいだろ?俺やるじゃん、てなるだろ?俺マジ紳士ってね』

『『『は?』』』

 

私たち兄妹の言葉が重なる。忍おねえちゃんも、声には出さずとも疑問顔。

続けてハヤさんはこう言いました。

 

『だーかーらー。例えばさっき信号待ちの時、横の道から入ろうとしてきた車。俺、止まって相手の車が出てくるの待ってやったじゃん?で、その車の運転手、入る時に一礼してくれた上にその後ちゃんとハザードも点灯させたじゃん?それ見て俺は気分が良くなる。──ほれ、人の為じゃねーだろ?』

『は?いや、人の為になってるだろ?』

『いや、俺は相手の事とかどうでもいいわけ。相手の為を思って入れさせたわけじゃねーの。入れさせてやって、お礼されたら俺の気分が良くなるからやっただけ。全部自分の為。せいぜい感謝しろやドヤァ、てね。ほら、偽善って気持ちいいじゃん?それがお手軽に出来る場面なら尚更』

 

あっけらかんと『偽善』と言い放つハヤさんに私たちは茫然とする中、ハヤさんだけはいつもの調子で最後にこう言った。

 

『お前らには言ったことなかったっけか。──俺はな、俺の行動の過程や結果で他の奴らまでもが幸せになろうが知った事じゃねー。俺は、俺が幸せになれればそれでいいんだよ。俺ぁ自己中だからよ?』

 

その言葉はどこまでも正直で、どこまでの本心と分かる言葉。──そして、私と忍お姉ちゃんの切っ掛けの言葉。

 

『そんなわけで、勝手に誤解してくれんな……って、おい、テメエら何笑ってんだよ』

 

私たちは笑ってた。私もお兄ちゃんもお姉ちゃんも、そして忍お姉ちゃんも。

 

『あはは、鈴木さんって変な人ですね』

『変ってなんだよ!てか忍ちゃん、俺の事は隼でいいぜ。ついでに敬語もなしな。堅っ苦しいのは嫌いでね』

『うん、了~解!』

 

自己中──世間一般ではあまりいい意味で使われない言葉だけど、ハヤさんのそれは違うと思う。

だって、ハヤさんの自己中は『幸せ』だから。

幸せは、一人じゃなれない。他の人も笑顔になって、幸せにならないと、自分も幸せにはなれない。幸せになった"気"にはなるかもしれないけれど、その程度じゃ満足しないのがハヤさん。徹頭徹尾、幸せにならないと気がすまないのがハヤさん。だったら、他の人も幸せにするしかない。自分が幸せになるために。

 

『隼さんって正直者だけど捻くれてるよね。人の為じゃないとか言ってるけど、結果的にそうなってるなら、もうそれは人の為なのにね。例えば病気の人だって、結局求めるのは親身になって付き添ってくれる人より治してくれるお医者さんだもん。隼さんはお医者さん以上に相手の事を想う心はないけど、その結果が相手の為になっちゃってるもんね』

 

そう言ってた忍お姉ちゃんに私も苦笑しながら頷いた記憶がある。

 

───まあ、けれど。というか当然だけど。

 

誤解して貰っては困るけどハヤさんはどこまでいってもハヤさんなわけで。決して良い人じゃないわけで。むしろパッと見そっち系の人で。

 

数分後には。

 

『おいコラァ!テメ、そこの鬼キャンクラウン!!何滅茶苦茶な割り込みしてくれとんじゃあ!ちょっと傍に止まってナシつけ……っておい、何ケツ割ろうとしてんだ、あ゛あ゛!?この俺相手に逃げれっと思ってんのかワレェア!!』

 

と、窓を全開にして前の車に怒声を浴びせるハヤさんに、車中の私たちは洩れなく溜息をつきながら止めに入るのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えっと、ちょっと脱線した気がしないでもないけれど。というか何故かハヤさんを持ち上げた感じになっちゃったけど。

そもそも私が言いたかったのは、ハヤさんはちょっと変わってるけど何だかんだ言って自己中であり、自分大好きであり、そして行動には常に自分が満足感を得る為という原理がある。

ハヤさんは決して良い人ではない。確定的に。

 

それを踏まえて、さて今目の前に広がる光景。───ユーノ君がハヤさんに肩車されて噴水の周りを走り回ってる光景には、一体全体ハヤさんのどういう原理が働いたんだろう?

 

ハヤさんは子供好きというのは知ってる。突拍子もない事をすることもある。……でも、なぜ肩車?というか、単純に公園に到着して私が近くの自動販売機でジュースを買いに行ってる少しの間に一体なにがあったの?

 

「ちょっ、隼、も、もういいから止まって!?」

「まだまだぁ!次はこのまま前宙だ!」

「ぜ、絶対止めて!!」

 

楽しそうに(ユーノ君は若干顔を引きつらせながら)公園ではしゃぎ回る二人。

それを見て私は呆然と、けどちょっと羨ましく思いながらも、二人に近寄る。

 

「……二人共なにしてるの?」

「お、なのは。いや、何って肩車だよ。見れば分かるだろ?」

 

うん、分かるよ。分かるけどさ。

訝しむ私にハヤさんは続けて説明した。

 

「いやよ、お前がジュース買いに行ってる時、近くの親子が肩車してたんだよ。それ見てこいつが『あれ、なにやってるの?』とか言いやがったもんでよ」

「え、ユーノ君、肩車を知らなかったの?」

 

未だハヤさんの肩の上にいるユーノ君を見上げると、ユーノ君は恥ずかしそうにこくりと頷く。

 

「物心ついた時からずっと遺跡で発掘作業とかしてたから、あまりこういう事はやってもらった事なくて……」

 

ああ、と。

そう言えばユーノ君の一族は遺跡とかを求めて旅をする人たちと本人から聞いた事があった。

その時、私は同い年なのにすごいなぁと思ってたけど、こうして改めて考えればちょっとだけ寂しいなと思う。

 

子供は子供らしく、という私自身も言われたことのある言葉が浮かぶ。そして、言った本人の顔を見るとやっぱりちょっと不機嫌そうでした。

 

「アホか。ガキの時分にはガキらしい事をやっとくもんだぜ?じゃねーとすぐにやって貰える立場からやらされる立場になんだからよ。そうなって後悔して立ち止まる事は出来ても、後戻りは出来ねーからな、大人ってやつはよ?」

 

うわぁ、何だかハヤさんが大人な発言してる。まごう事なき大人なんだけど、普段の言動が子供っぽいから何だか凄い立派に見える。……え、錯覚?

 

「それでハヤさんがやってあげてるの?」

「まーな。肩車も知らねーガキとかありえねーだろ普通。で、何か腹立ったから肩車マスターの俺がやってやってんだよ。おいユーノ、光栄に思え?俺の肩に乗れる奴なんてとある金髪青髪三姉妹の他にお前だけなんだからな」

「えっと、よく分からないけど、ありがとう?」

「よし、じゃあこのままハンドスプリングでもしてやろう!」

「それ、この状態でしていい事じゃないよね!?」

 

焦るユーノ君だけど、でもやっぱり楽しそうで、そしてそれを見て私は……。

 

「ねーねー、ハヤさんハヤさん!」

「あん?」

 

ちょんちょんとハヤさんの服の袖を摘みながら言う。

 

「私も肩車!ユーノ君だけずるい!」

 

普段ならお父さんやお兄ちゃんにもあまり言えない『ずるい』という言葉。『いいなぁ』とか『羨ましいなぁ』とか思う事はあっても口からは出ない類の言葉。

なのに、相手がハヤさんだとつい出ちゃうから不思議。

 

「んだぁ?そんなリスみたいに頬膨らませて、この欲しがりちゃんめ」

 

言いながらハヤさんはユーノ君を降ろすと私の後ろに回り、両足首を掴んだ。そしてそのまま私を垂直に空高く投げ飛ばして……って!?

 

「にゃあああ!??」

「秘技パイルダー・オン!!」

 

数秒の滞空の後、降下。見事ハヤさんの肩へと着陸。

 

「って、滅茶苦茶な肩車の仕方しないでよ!?」

「あはは、すげーだろ?」

「すごいけど怖いよ!」

「なんだ、お前怖がりだなぁ。アリシアにやったら大笑いしてたぜ?」

 

アリシアちゃんって子がどんな子だか知らないけど、絶対子供にやっちゃいけない肩車の仕方だよね!?一歩間違ったら大怪我してるよ!?

 

「しょうがねえなぁ。だったら次はライトにバカ受けした大技を──」

「や、やらなくていい!」

 

思わず脚を閉じ、ガシっとハヤさんの頭をかき抱く私。そうでもしないと次何かされた時は落ちかねない。

 

「ぐえっ!?わ、わかったから足締めんな!普通にやっから!」

「もうっ、だったら最初からそうしてよ……」

 

足を緩め、回していた手を頭の上に置く。そうしてやっと落ち着くことが出来た私は、改めて視界の高さに声を上げた。

 

「うわぁ、高~い!」

 

もちろん、魔法で空を飛んでるときはこれよりもっと高い所から見下ろせます。でも、それとこれとはやっぱり別なんだと思う。だって、何ていうのかよく分からないけど、えっと、何だか兎に角『うわぁ』って感じ。

 

感嘆する私だけど、ふとユーノ君を見るとやっぱりというか、ちょっと羨ましそうだった。そして、それに気づかないハヤさんではなかったらしく。

 

「よっこいしょお!」

「うわっ!?」

 

身を屈めたハヤさんは片手は私の足に添えたまま、もう片方の腕をユーノ君のお尻の下に置き、驚くことにそのまま持ち上げました。

肩の上に私。左腕の上にユーノ君。

 

「ちょ、隼、大丈夫なの!?」

「ハヤさんすごい力持ち!」

「ハッ、余裕余裕!あともう片腕と頭の上にもイケルのは実証済みだ!ちなみにこの状態で30分は喧嘩出来る事も実証済み!」

「「どんな経緯があったの!?」」

 

カラカラと笑うハヤさん。

そう言えばこの前美沙斗叔母さんがお父さんにこんな事いってたっけ。

 

『勿体無いよね、隼君。あの身体能力と野性を持って武の道を志していれば、一角以上の人になれたろうに。いや、今からでも…………え?彼、無職?…………そういえば今、私の隊に一人欠員出てるなぁ』

 

ハヤさんがお兄ちゃんやお姉ちゃんと喧嘩出来るくらいには凄い人だってのは知ってたけど、叔母さんも凄いハヤさんの事褒めてたんだよね。

というか、本人の知らぬ所で就職先が決まりそう。

 

そこでふと気づく。ハヤさんの人間性とか内面とかは知ってたけど、よく考えればそれ以外あまり知らない私。あと知ってる事は無職だと言う事とシャマルさん他何人かと一緒にアパートで暮らしているということ。

 

「ねー、ハヤさんって何かスポーツとかして体鍛えてたの?」

 

いい機会なのでちょっとだけ聞いてみることにした。

 

「あ?藪から棒だな。てかスポーツ?なのは、俺がスポーツマンに見えるか?」

「ううん、全然」

「ははは、素直な奴だな。まあ、その通りだけど。体も別に鍛えたことねーし。めんどくせー」

「じゃあなんでこんな力持ちなの?」

「ん~……学生ン頃から喧嘩ばっかしてたからなぁ、それで自然と筋肉付いたんじゃね?まー、最近は美味いメシにありつけるようになって結構食いまくってっからなぁ。ちょっと腹に肉がついてきてんだよ」

 

そう言ってポンポンとお腹を叩くハヤさんだけど、見た目そんな事ないと思う。どちらかというとお姉ちゃんの方が最近……それは兎も角。

 

「あ、じゃあもう一つ。ハヤさんお仕事しないの?」

「…………うちのババアやプレシアにはよく言われるが、まさかお前にまで言われるとは。ガキにそのセリフ言われると何かクるもんがあるな」

 

何か苦いものでも食べたかのような声色になるハヤさん。ここからじゃ顔までは見えないけど、多分渋い顔してると思う。

 

「今は金に困ってねーし、まっ、いずれな。俺ぁ馬鹿だからよ。そのへん、あんま必死になって考えてねーんだわ。昨日も今日も好きなように生きてきたから、明日も好きなように生きてくってな感じだ」

「何だか隼らしいね。そういう強さっていうのかな?ちょっと羨ましいや」

「こんなん羨ましがんな。ユーノ、あとなのはも──」

 

言いながらハヤさんは私たちを乗せたまま近くの噴水に近づき、そのまま縁にひょいっと飛び乗る。僅かに当たる水しぶきが気持いい。

 

「テメーらはまだまだガキだ。今まで楽しいやら嬉しいやら感じた事以上の事がこれか先待ってっかもしれねーんだ。人の人生羨ましがるには早ぇーよ。てか、人を羨ましがる人生より、人から羨ましがられる人生送っていけや」

 

ハヤさんは私たちを降ろすと、それぞれの頭を軽く撫でた。ニカッと笑ってるその顔は、本当に満足そうな顔で、きっとハヤさんは自分の人生を気に入ってるんだなぁと思った。そして、やっぱり何だかんだ言ってハヤさんは大人だなぁとも。きっと今の私じゃそんな顔は出来ない。

 

そして、そんなハヤさんを見て私は思う。

 

(意地悪で自分勝手で子供っぽいハヤさんだけど……ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ……カッコいい、かな)

 

ちょっとだけ、だけどね。

 

「あ、でもよぉ」

 

にゃ?

 

「やっぱイケメンとか、金持ちとかは早く人生終わって欲しいな。むしろ俺が短縮させたいぜ。それか今の俺の底辺スレスレのこのクソ人生と代わって欲しいわ。はぁ、マジ転生したいわ。記憶持ち越しで」

 

…………………………。

 

「おっと何かゲリっときた。わり、ちょいウンコ。ここ、トイレどこあったけかなぁ。まあ見つかんなきゃその辺の林で野グソかますか。ま、それは冗談として、お前らここで大人しくしてろよ~。……やっべ、マジでウンチングピンチだ」

 

お腹を押さえながら小走りで公園の奥へと一人向かうハヤさん。その背を見て、私は改めて思いました。

 

(やっぱり、ちっともカッコよくない!!)

 

見直した瞬間にまた見直す。

あれだよね、ハヤさんってホントどこまでいってもハヤさんだよね。結局見直す所がないというか、最初から最後まで、上から下までハヤさんというか。

ハヤさんらしいといえばすっごくらしいけど。

 

溜息をつく私だけど、傍にいたユーノ君は逆にどこか憧れの様子で顔を明るくしてる事に気づく。

 

「隼ってホント自由な人だね」

「うん、まあ……そうだね。そうとも言える、かな?」

「そうだよ。ああやって全面に臆することもなく自分を出せるって中々出来ることじゃないと思うよ?初めて会った時は隼みたいになりたくないとか思ってたけど、今はちょっとだけあんな感じになりたいなぁ」

 

その言葉を聞いた瞬間、私はユーノ君の両肩をガシっと掴み、正面から彼を見据えて言った。

 

「早まっちゃ、ダメなの」

「な、なのは……」

 

あれはハヤさんだから耐えられ、許され、そして似合う生き方。他の人がそんな生き方したら……うん、上手く言葉にはできないけど、でもダメ。あれは、ダメ。

 

「ユーノ君はユーノ君のままでいいよ。だって今でも十分かっこいいんだから!」

「な、なのは……!!」

 

顔を赤くして目を輝かせるユーノ君。

どうやら分かってくれたみたいで良かった。もしユーノ君がハヤさんみたいになったらと思うとゾっとするもんね。

 

と、そんなハヤさんに対して失礼極まりない事を胸中で思っていた時でした。

 

「ぬおおおおおおおおおおおおおお!!!???」

 

そんな叫び声が木霊す。

一体全体何事かと声のした方に顔を向けると、そこには慌てた顔でこちらに向かって全力疾走してくハヤさんの姿……プラス、その背後に大きな大きな蛇。蛇の額には……うん、あれジュエルシードだ。ということは、まず間違いなくジュエルシードの暴走体。

 

私はまずびっくりするよりも前に、大きな溜息をついてこう思いました。

 

(……ハヤさんといると絶対何かしらあるなー)

 

とりあえず──レイジングハート、セットアップっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いちおう、今回のハヤさんとのお出かけの目的は『ジュエルシード探し』というものでした。ただこれは正直建前です。ただ単純に、まだハヤさんと一緒にいたかったがために口から出た建前。

だから、実際のところ家を出た瞬間からジュエルシードの事なんて頭から抜け落ちてました。それに街中をちょっとぶらっとしたくらいで見つかるわけないとも思ってた。……思ってたのに。

 

「フシュルルルルッッ!!」

 

視線を下に向ければ全長20mはあろうという蛇が上空にいる私たちに向かって威嚇をしてます。

 

「なのは、封時結界張り終えたよ」

「うん、ありがとうユーノ君」

「なんでアナコンダ級の蛇がこんなトコいんの!?マジ怖ぇ!?」

 

幸か不幸かその蛇は空を飛べないらしく、今のところ私とユーノ君は幾分落ち着いて状況を見ることが出来てるけど、残るハヤさんはご覧のとおり、すごく慌ててます。

 

「あの、ハヤさん、どうしたの?」

「いや、どうしたのじゃねーよ!おま、あれが見えねーの?なんだよ、あの超デケー蛇は!人がさあクソするぞって時にいきなし現れてマジびびったわ!おい、なのはにユーノ、さっさと逃げんぞ!流石の俺もあんなのと喧嘩はしたくねーぞ!」

 

私たちの手を掴んで飛び去ろうとするハヤさんだけど、もちろん、私とユーノ君は逃げるつもりはない。建前だったとはいえ、残り一個のジュエルシードを見つける事が出来たんだから。

私はハヤさん手をそっと離し、レイジングハートを構えた。

 

「お、おい、なのは、お前何故にヤル気満々なわけ!?」

「え、だってジュエルシードを回収しないと……」

「なぜそこで石ころの回収?!そんなん今はどうでもいいだろ!とりあえず警察か自衛隊に連絡してあの化物蛇をどうにかして貰うのが先決!」

 

そんな事をいうハヤさんに私もユーノ君も首を傾げざるを得ない。だって目の前にいるのはジュエルシードの暴走体。警察や自衛隊の人がどうこう出来るとはあまり思えない。そも、ジュエルシードを回収しなくちゃいけないんだから魔導師である私たちがやらなきゃいけないし……。

よく分からないハヤさんの様子に、しかしそこで「あっ」とユーノ君が声を上げた。

 

「ねえ隼、もしかしてジュエルシードの暴走体って初めて見た?」

「あ?暴走体?なんぞ、それ?」

 

ユーノ君の質問に対するハヤさんの答えで、私もここでようやく腑に落ちた。道理で私とハヤさんの間で考えが噛み合ってなかったわけだ。

 

「ハヤさん、暴走体見たことなかったんだ」

「いや、だからなんだよそれ?」

「えっと、暴走体っていうのはね────」

 

ユーノ君がハヤさんに説明しだす。それを横目に私は下の暴走体を見据え、レイジングハートを構えた。

問答はユーノ君に任せ、私は先手必勝なの!

 

「いくよ、レイジングハート!」

《all right》

 

言うが早いか、私は暴走体に向かってディバインシューターを放ちながら接近。けれど、それは表皮に当たった瞬間霧散した。思った以上に硬い。ならばと今度はバスターを撃とうと体制に入ろうとし、しかし暴走体がその長い体をバネのようにしてかなり素早い体当たりをしてきたので慌ててシールド。なんとか防御は間に合うけど、額にじわりと汗が出た。

 

(硬いし早い、それに想像以上に伸びてくる……)

 

体長は目算では20mほどかと思ってたけど、実際はもっとありそう。あるいは、かなり伸縮性があるのか。

どっちにしても、強い。バインドで固める?でも、あの早さを捉えられるか……。

思案しながらも私は暴走体から一定の距離を保ちつつ魔法を放ち続ける。けど、やっぱり依然効果はみられない。

大きいのが撃てればいいのだけれど、それにはどうしても溜めが必要で、その溜めには何かしら別の一手が必要。加えて必中させたいとなるとさらに一手……そう考えていた時ポンと肩を叩かれた。

 

「あ、ハヤさん!」

 

ユーノ君から説明を聴き終えたのだろう、ハヤさんがそこにはいました。そしてハッと思い出す。

ああ、そっか!そういえばハヤさんも魔導師だった。ならユーノ君合わせて3人一緒に戦えばいける。ハヤさんがどれだけ強いか分からないけど、でも喧嘩があれだけ強いなら魔法だって!

 

早速ハヤさんに頼もうとして、けれどその前にハヤさんがあたかも全部分かってるという風な頼もしい笑みを浮かべてこう言いました。

 

「お前、頭おかしいんじゃねーの?」

「急になんで!?」

「いや、だってなぁ。ちょい見てたけど、お前よくあんなバケモンとヤリ合えるな。正気の沙汰じゃねーだろ。普通じゃねーよ?やっぱ何だかんだ言って理のオリジナルなのか?お兄さんちょっとドン引き」

「ドン引き!?」

 

え、だって、で、でも普通だよね?む、むしろあの暴走体はまだ優しい方だと思うよ?今まで戦ってきた暴走体にはもっとすごいのもいたし……。怖いのだってもっとたくさん……。

 

そんな説明をした私にハヤさんは呆れた顔をした後、どこか悲しそうな顔になった。というか哀れみの表情?

 

「なのは、お前、慣れで感覚馬鹿になってるな。小学3年生の感覚じゃねーぞ?…………いいか、今一度、改めてよ~~~~~く見てみろ?」

 

ハヤさんは私の肩に手を回し、下でとぐろを巻いてこちらを見ている暴走体を指差す。

 

「普通に生活してたんじゃお目にかかれない、映画の中にしかいないようなバケモノだぞ?もしあんなのが街中にいたら、というか今みたいにいたら、大人子供関係なく普通だったら遭遇した瞬間叫び声あげて逃げ回るぜ?動物園のライオンが檻から脱走したとかテレビで見たことあるだろ?警察やら機動隊やら出動してただろ?そんなライオンの数十倍は怖ぇバケモンだぞ?」

「………う、うん」

「人一人余裕で丸呑み出来るでっかい口に、キモイ鳴き声にニョロニョロと動く舌。今にも飛び出しそうなギョロッとした目ん玉。牙とも言えるでっかい歯。生理的嫌悪感を誘うウネウネとした体」

「…………」

「あんな極太の尻尾に跳ね飛ばされたら体中の骨はバキバキ、血反吐まき散らしながら軽く死ねる。毒も持ってっかもしれねーな。てか持ってるだろ。それに噛まれたら?巻き付かれ、余すとこなく骨を砕かれ、そしてそのまま飲み込まれようもんなら原型止めないほどドロッドロにされるだろうな」

「……うぅっ」

「確かにさっきまではヤリ合えてたかもしれねー。これまでも無事乗り越えてきたかもしれねー。だから今日も大丈夫?……それとも、今日は?もしかして?ポックリうぎゃあ?」

「…………ふにゃぁ」

 

改めて暴走体見て、そしてこれまでの自分を思い返し、ハヤさんの言った言葉を反芻し、これから先起こるかも知れない『もし』を想像したら…………いつの間にか、私はハヤさんの服をギュっと強く握りしめてました。

 

「てわけで、それを踏まえてさあ改めてGO!!」

「無理なの!!」

 

そんな事言われて、ここまで言われて、行けるわけないよね!?ハヤさんの言う通り、感覚がちょっと馬鹿になってました!どうやって、というかなんで私は今まで平気で戦えてたの!?あんな蛇のお化けみたいな怪物に…………ってにゃあ!?こっち見た!!普通に怖いよぉー!?

 

ハヤさんの服だけではなく、今度はその腕ごとガシっと掴む。というか抱きつく。

 

「……はぁ、よかった。なのははなのはで。これでまだどこぞの黒ロリみたく『俄然ヤル気が溢れてきました。滅殺!』とか言い出そうもんならお前の事好きじゃなくなってたぜ?ガキはガキらしく、な」

「うにゃあ~!」

「おーよしよい。んじゃまあ、とりあえず捕まえる魔法、バインドだっけ?それして逃げられないようにしたら、あとはポリとか管理局に丸投げしよう。てか、俺のお腹がそろそろ限か───」

 

そこで、ハヤさんの言葉が不意に途切れる。どうしたのかと思い、抱きついていた腕を離して顔を見上げた。少し涙が溜まってボヤけた視界の中にはいつも通りのハヤさん……ではなく、今まで見たことのないような驚愕の表情を湛えたハヤさんの顔がありました。

 

「?ハヤさん、どうし───」

「「きゃああああああああああ!?!?!?」」

 

耳を突き刺すように響く突然の叫び声。上がった場所は暴走体からそう遠く離れていない、さっきまで私たちがいた噴水の近く。

ハヤさんへ向けていた顔が条件反射の如くその場所に移動し、そこを見た瞬間、私はハヤさんが湛えていた表情の理由に気づき、また同じ表情になりました。

 

(な、なんで……)

 

そこにいたのは二人の少女。私と同い年の、私と一緒のクラスの、私の親友。

 

「すずかちゃん!?アリサちゃん!?」

 

嘘!?なんで!?今ここは結界内で誰も入れないはずなのに!?どうして二人が!?なんで!?だって!?

 

この急な事態に私は混乱の極みでした。ぐるぐると疑問符や感嘆符が頭の中を回る。何も言葉が出ないし、手足も動かない。ただ目を丸くして地上の二人を見下ろす。

そしてそれは隣にいたユーノ君やハヤさんも同じようで、ただただ茫然としてました。

 

そんな中、いち早く動き出したのは──暴走体。

 

「シャアアア!!」

 

とぐろを巻き威嚇していた様から一転、さっき見せた俊敏性を遺憾無く発揮し、蛇なのに一直線に二人に向かう暴走体。その勢いはまるで弱く捕らえ易い獲物を見つけたと言わんばかり。

 

「っ、ダメーーー!!」

 

今思えばだけど、この時私の取れる選択しはいくつかありました。

早くても一直線に進んでいるならバインドで拘束出来るだろうし、シューターを放って足止め、あるいは標的をまたこちらに戻す事だって出来たはず。

でも、この時はそのどれも頭の中には浮かびませんでした。そんな思考が出来る程まだ混乱から立ち戻っていなくて、だから私の取った行動はあまりに愚か。

 

ただただ暴走体に向かって飛んでいくだけ。

 

うん、本当、それだけでした。そこから魔法を放とうとか、高速移動魔法を使おうとか、体当たりしようとか、そんな考えも浮かばなくて、ただ飛んで向かっただけ。

そんな事をしても間に合わない。驚きで初動が遅れた分、僅かその分だけ、私が暴走体に到達するよりも、暴走体が二人に到達する方が早い。そんな事実でさえ、気づいたのは暴走体が二人の2mくらい手前で大口を開けた時というお粗末ぶり。

十中八九、間に合わない。ううん、十中十、間に合わない。

 

(ダメダメダメ、イヤぁ!!)

 

未来予知なんて魔法はないけれど、なくても分かる。この後、どんな光景が目の前に広がるか。……ハヤさんの言ってた悲惨な状況が私ではなく、あろうことか親友二人に降りかかる。

 

(誰か、誰か……)

 

困ったとき、自分じゃどうしようもないとき、目を背けたいとき、自ずと出るのはその言葉。誰かに縋るその言葉。

 

(誰でもいい!誰でもいいからすずかちゃんとアリサちゃんを助けて!!)

 

結局のところ、私は子供です。どんなに背伸びしようとも、歳不相応ながら世間を分かった気になっていようとも……結局のところ、『あの人』の言うとおり、私は子供なんです。

いつだったか言ってたっけ。「ガキはガキらしくしてろ。そうしてる限り、なんかあった時の不始末のケツは大人が持つ」って。

ガキはガキらしく。

だから、私は叫びます。大人に向かって。『あの人』に向かって。

 

「ハヤさん!!!!」

 

────瞬間、私の横を通り過ぎる物凄い風と、それに舞う黒い羽。

そして。

 

「ふぃ~……フェイトからブリなんちゃら教えてもらってなかったらマジやばかったぜ。それも失敗続きだったのにこの土壇場で成功させるとか俺マジ主人公」

 

暴走体がすずかちゃんとアリサちゃんを丸呑みする寸前に二人の前に高速移動したハヤさん。大きく開いたその口の上顎を両手で、下顎を片足で押さえつけ、そして突進してきた勢いをも力でねじ伏せて二人を背にして微動だにせず堂々とした姿。

 

今回こそは、今度こそは、紛れもなく本当にカッコイイと思いました。

 

「で、さて、このクソ蛇がァ~。テメエ、俺をガン無視してなに愉快な事しようとしてんだ?お?…………調子こくなよこの見た目デッカいウンコ爬虫類があああ!!!」

 

ハヤさん自身、さっきまでちょっと怖がってた様子だったのに、まるでそれが嘘のような力強い声と共に暴走体の上顎を叩きつけるように閉ざし、次いで蹴り飛ばす。

魔力強化してるんだろうけど、それでも素の力もあるハヤさんのその蹴りは暴走体のあの巨体を軽々と吹き飛ばす。

ただそれは吹き飛ばしただけで何もダメージは負わせなかったみたいで、暴走体は平然と体制を立て直し、けれどこちらへは向かってこずにひと睨みした後身を翻して公園の奥へと移動していく。

 

(追いかけないと!)

 

そう思う一方体は動かない。暴走体とかジュエルシード回収とか、そんな事よりもまず気にかかることがあるから。

 

「なのは、隼、僕が暴走体の方を追いかけるから二人をお願い!」

「ゆ、ユーノ君、でも一人じゃ危ないよ!」

「大丈夫、局に応援要請するから。ボクは追跡するだけに留めておくよ」

 

私の気持ちを汲み取ってくれたのか、ユーノ君がそう言って暴走体の後を追って飛んでいく。それに感謝と申し訳なさがあるものの、しかしどうしようという気持ちが今は強く出ています。

 

「な、なのは、よね?い、一体何だったのよアレ!?ていうかその姿はなに!?」

「それに隼さん、ですよね?背中のその羽は一体……」

 

暴走体よりジュエルシード回収よりも気がかりな事……私の親友二人が私と隼さんを困惑の瞳で見つめているこの状況。

 

ど、どうしよう。

 

(ご、誤魔化す?……絶賛空中浮遊中の身でどうやって?ま、魔法で記憶を操作?……友達にそんな事したくないし、そもそもそんな魔法あるのかどうかさえ知らない)

 

………うにゃあ!どうしよう!?

 

(そ、そうだ!ハヤさんなら!)

 

あのハヤさんなら、こんな状況いとも容易く打開してくれるはず!だって、今も暴走体に二人が食べられちゃうかもという私の想像した最悪の未来を打ち破ってくれたんだから!

 

(さっきみたいに助けを求めたら助けてくれる。だってハヤさんだもん!)

 

我ながら盲目的であり、ご都合であり、藁をも掴むというか藁より脆いものを掴んでいるなぁと心の片隅で思いつつ、それでも救いの目をハヤさん向けた。

向けて……『ん?』てなった。

 

(なんかすっごく晴れ晴れした顔して遠くを見てる?)

 

いつの間にかすずかちゃんとアリサちゃんもハヤさんの様子を見て首を傾げてました。今の状況を忘れて私も首を横にコテン。

ハヤさんはそんな私たちの事なんて見えていないかのようにポケットからタバコを取り出し、火をつけて一服。漂うのはタバコの煙と……哀愁?

 

「──ギリギリ、だったんだ」

 

私が「どうしたの?」と聞く前に、ハヤさんが滔々と喋り出しました。その声の調子はどこか切なげで、弱々しいもの。

 

「公園に入る前から俄かには感じてたんだ。そしてなのはとユーノと遊んでる時それが確実のモンになってさ、だから俺はアウトになる前に行ったんだ」

 

ハヤさんは一体なにを言ってるのだろう。

そんな事を思い始めた時───僅かに香る、『異臭』。

 

「行って、さてとと思ったらあの蛇がいた。うん、俺はすぐ逃げたさ。なのはとユーノのもとに。……目的を果たさずによぉ」

 

この異臭……覚えがある。むしろ、よく知っているといっても過言じゃないかもしれない。

 

「だからよ、俺は蛇なんてどうでもよかったんだ。サツとかに丸投げしたかったんだ。なのに、なのはがヤル気になって、でも諭して、けど結局俺もヤル羽目になった。うん、まーそれはいい。すずかとアリマがピンチだったんだから、まーしょうがない」

 

アリサちゃんが「アリサよ!」と吠えながらも、僅かに眉を顰めている。すずかちゃんもです。二人はまだそれがなんの臭いか気づいていない。私は……もしかして?

 

「問題は、俺の行動。……魔法でも撃っときゃよかったんだ。それか二人を抱えて飛んでればよかったんだ。なのに俺ってば、バカみたいに蛇を真正面から受け止めて、あまつさえ殴り蹴り」

 

この臭いは嗅覚のない人を除き誰もが一度は嗅いだ事があると思います。全人類、老若男女問わず、誰もが。それこそ毎日と言っていいかもしれません。

…………あ、アリサちゃんとすずかちゃん気づいたみたい。

 

「受け止める時、蹴る時、力を入れたんだ。お腹に。それをさ、勘違いしたんだろうな、俺の肛門括約筋は。気張ったんだって。ああ、もしかしたら蛇に対する多少の恐怖もあったのかもな。そのせいで緩んだ。まあ何にしてもさ…………ギリギリだったんだ。ギリギリの所でその行動。俺はさ、ああダメだって思った。ソレは、もう戻らない。留まらない。行き着くとこに行き、そして出るって。──つまりよぉ」

 

私の親友二人が暴走体に襲われた。私が魔導師だという事がバレた。……そんな状況は、もう昔。

 

状況は一転。

 

私、すずかちゃん、アリサちゃんはここ数分で体験した数々の事を一時的にしろ完全に忘れ、ただただ一点を凝視した。───ハヤさんの、お尻を。

当人は何とも清々しい顔で、けど一筋の涙を流しながら最後にこう締めくくりました。

 

「…………ウンコ、漏れた(泣)」

 

あれだよね、ハヤさんってどうやっても見直す事させてくれないよね。さっきは本当にかっこいいと思ったのに、今はこれだもんね。ハヤさんらしいと言えばそれまでなんだけど……なんだかな~。

 

そう思いながら、私たち3人はハヤさんから静かに距離を取るのでした。

 

 




まずは更新遅くなり申し訳ありません。そして、物語のメインたる人物(主人公)がこんなんで申し訳ありません汗。
どうやら私はカッコイイ主人公というものが書けないようです。上げても落とさなければ気がすまないようです。
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