改めて、重ね重ね、再三に渡りだけど。
ハヤさんと一緒の一日は目まぐるしいなぁ、と実感。
ハヤさんがいきなり私の家に訪ねて来て、ジュエルシード探しに出て、暴走体と戦い、アリサちゃんとすずかちゃんに魔導師だということがバレて、そしてその二人にも魔導師の適正があることが分かって、さらにデバイスも準備万端で───と、これが午前中だけで起こった出来事だというのだから、濃いい事この上ないよね。
それで午後からまったり過ごせるならいいのだけれど、まさかそんなわけもなく。
午後一で私たちは異世界にいました。
「あの、ハヤさん、ここどこ?」
「時の庭園ってとこだ。まあダチの家っつうか、俺の別荘だな」
「友達の家と自分の別荘って全然違うよ!?」
私の家でハヤさんが言った変な呪文はどうやら変身の事を指してたみたいで、つまりはすずかちゃんとアリサちゃんにさっそくセットアップさせようと言うことだったみたい。
すずかちゃんとアリサちゃんはそれを聞いて期待に目を輝かせ、私も最早難しい事を考えるのを止めてたので「じゃあ早速セットアップしてみよっか」と提案。
ただそこでハヤさんからストップがかかった。
『この家で変身すんのは不味くね?誰か見られたらどうするよ』
『結界張りゃいいってもんじゃねーだろ。てかあんまこの世界で魔法使いたくねーんだよ。うちの奴らうるせーから』
『魔法使っても問題ねー場所しってっからそこ行こうぜ』
と、まあそんなこんなで私たちはハヤさんの使った転移魔法でこの場所……時の庭園まで来ています。
「ここならいくら魔法使おうとも問題なし。管理局もそう簡単には探知出来ねー場所みたいだから面倒な事にもならないだろ?あ、なのは、お前チクったら殺す」
「横暴だよ!?」
勝手に、かつ強引につれて来ておいて滅茶苦茶だよ!
けど、実際のところハヤさんの事は私は管理局に一言も言っていないです。それはあの金髪の魔導師、フェイトちゃんの事があるから。だから、以前ハヤさんに言われたとおりずっと黙ってます。後ろめたさはもちろんあるけど、でもそれがフェイトちゃんの為だと思うし、それにそれを条件にフェイトちゃんのメールアドレスをハヤさんに教えて貰ったようなもので……。
「あ、そうだハヤさん!ねえ、いつになったらフェイトちゃんに直接会えるの?」
そう、私はまだフェイトちゃんとはメールでのやりとりだけで、直接会ったり話したりしていません。
何故ジュエルシードを集めてたのかも教えてもらえてなくて、でもそれはきっとあまりよくない事なんだろうというのも分かる。だって局にフェイトちゃんの事を秘密にするようハヤさんに言われてるから。
それでもやっぱり会いたい。だからハヤさんには前々からフェイトちゃんに会わせてと言ってるんだけど、いつもはぐらかされてます。
「もうちょい待てな。こっちにもいろいろと事情があんだから。まー、今年中には会えるようにはなるんじゃね?知らんけど」
「む~、絶対だからね!」
「はいはい、絶対絶対。隼、嘘つかな~い」
そう言ってヒラヒラと手を振り、すずかちゃんとアリサちゃんの元へと向かうハヤさん。
また誤魔化されたと思いながら胸中で溜息を一つついて、私もハヤさんのあとを追って二人の元へ向かいました。
「おーい、あんまうろうろして落っこちんなよー」
「落ちないわよ。てか、ここって一体何なの?」
「地球、じゃないですよね?」
周囲を窺っていたアリサちゃんとすずかちゃんがハヤさんに聞くのを見ながら、私も改めて周りを見渡した。
どんよりとした空気に荒れた大地、中心には小山があり、その手前にはお城のようなお家が見える。
「まっ、お察しの通りここはNot地球。なんちゃら空間にある孤島みたいな所だ。で、あそこに見えるのが俺の別荘」
あ、とうとう友達の家じゃなく別荘って断言しちゃった。
「別荘?あんたの?というかこんな景観の悪い所に?」
「しゃーねーだろ、いろいろ込み入った事情があんだよ」
「まあ別にいいんだけどね。私のうちも避暑地でもなんでもない所に別荘あるし。大人ってよく分からない事情が多いわよね」
そう言って溜息をつくアリサちゃん。隣のすずかちゃんも苦笑しながらも否定はしない。
う~ん、私はよく分からないけど、やっぱりお金持ちのお家っていろいろあるのかな~。
「まっ、複雑な事情を持ってくるようになると大人になったっつう事でもある────ん?ちょい待て。アリサ、お前んち別荘持ってんの?」
「え、まあ一応。すずかの家も持ってるわよね?」
「うん、アリサちゃんの家みたいに大きくはないけど」
どうやらハヤさんは二人の家がお金持ちだって事知らなかっみたいで、とても驚いた顔になった。しかし、次の瞬間には何故か満面の笑み。それはもう優しさ溢れる満面の笑みになりました。
そしてこの後の展開が少し読めた私。
「すずか、アリサ」
二人に目線を合わせるようにしゃがみ、それぞれの肩に優しく手を置くハヤさん。
「夏休みの宿題とか代わりにやってあげようか?気に入らない奴ボコボコにしてあげようか?今後、何か困ったことがあったらこの隼お兄さんに遠慮なく相談しなさい。お金以外の悩みならすぐに解決してあげるから。なにせ、俺たちはもうマブダチなんだから!!」
ハヤさんのこの態度にアリサちゃんは不愉快そうに眉を寄せ、すずかちゃんは苦笑い。
二人とも気づいたみたい。ハヤさんの目がお金のマークになってることに。
「あ、あとこれ俺の携帯の番号とラインのIDね。お呼びとあらば即参上するから。特にどっか遊びに行くとか、パーティするとか連絡くれれば何を置いても駆けつけるからよ!」
「あ、あんた本当に清清しいほど露骨ね……」
そう言ってハヤさんの携帯とIDの番号が書かれた紙をアリサちゃんはグシャっと潰し、すずかちゃんは大事そうにポケットの中に仕舞った。
「いや~、いい友達を持ったな。なぁ、なのは!」
「そこで私に振らないで」
まるで私までハヤさんと同じように、お金持ちの友達を大事にしてるように見られちゃうから。
そんな胸中の思いを乗せてハヤさんに抗議しようと口を開こうとして、しかし。
「───人の家の敷地内でコントしないでもらえます?」
第3者のツッコミが入ったのは、そんな時でした。
そこにいたのは一人の女性でした。
少し外に跳ねた茶色の前髪とおさげにした後髪。大きな眼鏡の奥の瞳はどこか勝気。背格好、おそらく年齢も美由希お姉ちゃんと似た感じで、けれどまとう雰囲気は少しだけ怖い。
というか、睨んでる?……ああ、そっか。
さっき言った言葉が本当なら、ここはあの人の家であり、そしてハヤさんがいるとは言え私たちは見知らぬ他人。勝手にここにきた事に怒ってるのかも。この様子じゃハヤさん、事前に連絡してないみたいだし。
自然と私、アリサちゃん、すずかちゃんはハヤさんの後ろに隠れるように移動。
そしてハヤさんはそれに気にすることも無く、目の前の女性に気さくに近づいていきます。
「よぉ、クアットロ。邪魔してんぜ~」
「ハァ……よぉ、じゃありませんよ。知った魔力反応があったので隼さんが来たのは分かりましたけど、まさか部外者までいるとは思いませんでした。まったく、何を考えているんですか?ドクターや私たちの立場、分かってます?」
「うるせーな。別にいいだろ、減るもんじゃあるめーし」
「減る増えるの問題じゃないんですけど……もう、しょうがないですね、隼さんは」
そういってふわりと微笑む女性、クアットロさん。先ほどの表情から一転して優しい顔つきになった。
クアットロさんは隼さんの性格について知ってるのか、それ以上言及する気はないみたい。仲も良いみたいだし……あ、もしかしてハヤさんの彼女さんかな?
そう思ってハヤさんを見ると──。
(あれ?すっごく険しい顔してる?)
これまた一転、ハヤさんがクアットロさんとは逆の顔つき。
なんでだろうと思っていると、ハヤさんはおもむろにクアットロさんの頭頂部にチョップを見舞った。
「痛っ!?何するんですか!」
「いや、その猫かぶりがマジうざってーからよ。俺の前じゃ止めろ言うただろうが、このクソ腹黒」
猫かぶり?腹黒?
クアットロさんを見ると疲れたように、けれどどこか嬉しそうな表情。けれどそれは一瞬で侮蔑のような表情に変わり、おもむろに眼鏡を外し、結っていた髪を振りほどいた。
「猫をかぶることも出来ない、内も外も真っ黒な童貞隼さんに言われたくありませ~ん」
それは変身といってもいいような様の変わりようでした。口調や態度は尊大に、まとう雰囲気は飴のような粘り気を帯び、その瞳には侮蔑の色が見えました。
ああ、猫かぶり。なるほど。
私もアリサちゃんもすずかちゃんもこの言動で納得。そして勿論、ハヤさんはご立腹。
「無駄に童貞付けんなや!」
「ただ私は事実を口にしただけですぅー。隼さんだってブサイクな女性にはブサイクって言うでしょ?なら私も隼さんに童貞ブサメンと言う権利は十分にありますよねぇ。むしろ義務?」
「上等だ、このキカイダー!てめえで卒業してやろうか!!」
「ハッ、あなたと?死んでもごめんですねぇ」
ワーワーと言葉汚く罵り合い出した二人。
ハヤさんは怒り心頭で。
クアットロさんは愉しそうに。
そして私たち3人は置いてけぼり。
クアットロさんはこっちの方が素なのか、最初の印象とは真逆だけどハヤさんと言い合ってる今の姿は凄く生き生きとしてる。
(まぁハヤさん相手に猫被るとか無理だもんねー)
ハヤさんは常に本音だから。常に心を曝け出し、心向くままに行動するから。だから、こっちも何となく本音で相手したくなる。遠慮しなくなる。いつの間にかハヤさんのペースに巻き込まれる。そして、それが悪くないと思い始めちゃうんだよね。……というか取り繕うのが馬鹿らしくなる?
と、そんな失礼な事を胸中で馳せつつ二人のやり取りを苦笑いで眺めていると、やや疲れた表情でハヤさんが区切りをつけた。
「あーもういい。テメーと話してっとこのまま夜まで罵り合うか、喧嘩に発展するかだ。後者は歓迎だけど生憎と今日は用事があっからな。テメーの相手してる暇ねーんだよ」
「……あっそ」
「で、ジェイルどこよ?」
「知らない」
先ほどの楽しげな口調から一転、クアットロさんの言葉が投げやりになる。……もしかして会話打ち切られてちょっと不機嫌?
「あ?知らないじゃねーだろ。なんだ、もしかして穴倉のほうか?」
「だから、知らないって言ってるじゃないですか。というか、隼さんの方が知ってるはずでしょ」
「なんで俺があのマッドの居場所知ってなきゃなんねーんだよ?」
「今朝、あなたの所の犬が来て一緒にどっか行ったんですから。確か聖地とかなんとか」
「犬?聖地?……ああ、そういやザフィーラの奴アキバに行くとか言ってたが、なんだ、あいつら一緒に行ったのか。ちっ、まいったな。ここで魔法使うのは自分がいる時だけにしろって言われてんだよなぁ」
「当たり前じゃないですか。この前、ここで理ちゃんやヴィータちゃんと大喧嘩して半壊させたのお忘れですか?」
そこで大きな溜息を吐くハヤさん。
疲れたような、困ったようなその顔は何故だろうと思っていると、同じく二人の会話を聞いていたアリサちゃんがハヤさんに声をかけた。
「ね、ねぇ隼、もしかしてそのジェイルさん?って人がいないと変身しちゃいけないの?」
残念そうな面持ちのアリサちゃん。見れば隣にいるすずかちゃんもどこか落胆気味。
……そうだよね。あれだけ魔法の存在に驚いて、自分も使えると分かって、そしてセットアップも出来るとここまで来たのにやっぱり今日は無理、なんて事になったらがっかりだよね。
(でもね、アリサちゃんすずかちゃん。大丈夫。それは杞憂だよ)
だってハヤさんだから。
ハヤさんが二人をセットアップさせると言い始めてここまで来たんだから。自分で言った言葉をハヤさんは曲げない……こともないけれど、でも今回は行動も起こした。ハヤさんは自分の労力を無駄にはしない。そして、自分が気に入った子供にそんな顔をさせたままにしない。
以上により、大丈夫。杞憂。結果は火を見るより明らか。
「まったくもって問題なーし!さっ、張り切ってこー!」
ね?
「いえいえ、問題ありますからね!?またここ壊されたら、今度は私もドクターに怒られちゃうじゃないですか!」
「大丈夫だって。今日は喧嘩とかじゃなく、ただセットアップしに来ただけなんだからよ。ほれ、ここにいる二人。なんと今日魔導師デビュー」
ぽん、と背中を押されてクアットロさんの前に出るアリサちゃんとすずかちゃん。
「あ、あの、アリサ・バニングスです」
「つ、月村すずかです」
慌てた様子で自己紹介をする二人に、そう言えばまだ私もしていなかったことを思い出し同じようにする。
「あ、私は高町なのはって言います。えっと、私はもう魔導師ですけど、二人の友達で……」
二人に倣って自己紹介するけれど、クアットロさんの出す雰囲気に萎縮しちゃう。ハヤさんとの言い合いはどこか楽しそうだったけれど、今私たちを見る目はすっごく冷たい。睨まれてるわけじゃないけれど、けどその目はまるで石ころでも見てるかのような胡乱な瞳。
「……ハァ、何が悲しくてこんな子供の為に私が場を設けなきゃいけないのよ。アホらしい」
ややあってため息を一つ吐いた後、投げやりな口調でそう言い放たれました。
どうやらクアットロさんは子供があまり好きじゃないみたいで、私たちはさらに萎縮します。自然とクアットロさんの視線から隠れるようにハヤさんに身を寄せる。
しかし、そんな行動がまたクアットロさんの気に障ったのか、今にも舌打ちしそうな顔になり─────そして、その顔にアイアンクローをするハヤさん。
「いだだだだ!?!?ちょ、隼さん!?いきなり何すいたたたた!!!
「おう、コラ、このクソ腹黒。てめえ、なに俺のツレにガンつけてんだ?あ?捻り潰すぞ?」
「わ、分かりました!分かりましたごめんなさい!だから離して!?ほ、本気で潰れる!!??」
「ふん、謝んなら俺+ガキ共にもだ」
そう言って手を離したハヤさんにクアットロさんは涙目になりながらも軽く睨みつけ、そして大きなため息を吐いた後、私たちを改めて見下ろす。その顔には先ほどまでのような嫌悪感のようなものはなく、降参しましたというような疲れた表情。
「えっと、なのはちゃんにすずかちゃんにアリサちゃんだったっけ?悪かったわね。いきなり悪態ついて」
さっきまでの印象が強いから素直に謝られた事に驚きつつ、私たちも慌てて頭を下げる。
「い、いえ!」
「こちらこそ、急に押しかけちゃって……!」
「あ、あの、ごめんなさい!」
「ハァ、まぁあなたたちは気にしなくていいわ。悪いのはこっちの事情を知った上で部外者連れて来たどこぞの馬鹿だものね」
「誰が馬鹿だコラ。大丈夫だって、こいつら口堅えから。このなのはなんて管理局とツルんでるのに、俺ともツルんでるのがいい証拠だ」
ポンと私の頭に手を置くハヤさんに私は曖昧な笑顔で返す。それを見てクアットロさんはギョっとしたような顔をこちらに向けた。
「………なのはちゃん局員なの?」
「えっと、局員じゃないですけど管理局のお仕事のお手伝いはさせてもらってます」
「…………………」
クアットロさん、少しの沈黙。その後、満面の笑み。
「………そう、うん、そうなんだ、すごいわね」
ああ、なんだろう、その顔、知ってる。
何かもういろいろと諦めた顔だ。知ったことかっていう顔だ。どうにでもなれって顔だ。………私もハヤさんと一緒にいる時よくする顔だ。
自然と私はこう口に出しました。
「あのクアットロさん、何かごめんなさい。ホントに」
「……いい、いいのよなのはちゃん。しょうがないものね、うん。その一言でちょっとは救われたわ。お互い、これからも頑張りましょう」
「…………はい」
友情の芽生えに年の差、時間の長短は関係ない事がよく分かりました。
今度、うちに誘ってお姉ちゃんたちも加えてお喋りしたいな~。議題はもちろん『ハヤさんについて』。
「お、なんだよ、急に仲良くなりやがって。素晴らしきかな友情!VIVAダチンコ!善き哉善き哉」
横柄に頷くハヤさんに私、そしてきっとクアットロさんも胸中でこう言いました。
ハヤさんのおかげでね!(半ギレ)
「よ~し、んじゃそろそろデビュータイムといきますか!」
さて。
紆余曲折、長々とあったけれど。というかハヤさんといると絶対に紆余曲折するけれど。長々となるけれど。
ここで漸く本題。
すずかちゃんとアリサちゃんのセットアップのお時間です。
「いいか、すずか、アリサ。これからお前たちには魔法少女になるためのセットアップ、つまり変身をして貰うわけだが」
ハヤさんはまるで先生のように二人の前に腕を組んで相対します。私も一緒に教えようかと思ったけれどハヤさんから口出し禁止命令が出たので、取り合えずクアットロさんと二人、ハヤさんの後ろで待機。
まあセットアップだけなら二人三人で教える程の事でもないよね。簡単な事だし。
そう楽観し、ハヤさんたちの様子を大人しく─────
「一番大事なのは変身ポーズだ!」
「ないよ」
「ないわよ」
───見守る事もなく、クアットロさんと共に早々とツッコミました。
「おい、うるせーぞ外野。チャチャ入れんなや」
「いきなり嘘かます隼さんよりマシ」
「ハヤさん、変身ポーズなんて初耳なの」
なんなの変身ポーズって?私、そんなのとった事ないよ?……まぁ気持ちが入ってちょっとそれらしくポーズした事ならあるけど。
「ちょっと隼!こっちは真面目に聞こうとしてんだから、あんたも真面目に教えなさいよ!」
アリサちゃんが急かすように声を荒げる。でも瞳はどこかわくわくしてる感じで、それだけ早く魔法使ってみたいんだろうなぁ思いがひしひしと伝わる。隣のすずかちゃんも手に持ったコアとハヤさんの顔を交互に見ながらそわそわ。
「ちっ、なんだよノリわりーなぁ。はいはい分かりましたよ」
ちょっと投げやりな感じになりながらも、ハヤさんは何か思い出すように続ける。
「ええっと、確か最初は自分の頭の中でバリアジャケット……あー、魔法の服な、それを思い浮かべながらコアに魔力を入れる。で、セットアップって言やぁいいはず。2回目からはデバイスが持ち主の魔力やら思考に反応して半自動でセットアップしてくれる、だったかな」
アリサちゃんとすずかちゃんがうんうんと内容を噛み締めながら聞いているけれど、私は私でハヤさんの説明に「あれ?」ってなった。
(最初のセットアップって、何か呪文みたいなの言わなかったっけ?)
確か言った記憶がある。ユーノ君の後に続いて。それにあの時はバリアジャケットもとくに思い浮かべてなかったような?
これについてハヤさんに聞いてみようと思ったけれど、まだ二人に説明中だったので私は隣にいるクアットロさんに話掛けました。
「あの、クアットロさん。セットアップの仕方っていろいろあるの?」
「ん?どういう事?」
首を傾げるクアットロさんに、私が初めてセットアップした時の事を話すとクアットロさんは困った顔になりました。
「そうねぇ、特にコレだって手順はないんじゃない?デバイスの設定にもよるだろうし。その辺は魔導師じゃない私にはよく分からないわ」
「え?クアットロさん、魔導師じゃないんですか?」
「え、あ、ま、まーね。なんというか、魔法自体は使えるけどデバイスは持ってないのよ」
「あ、そうだったんですね」
てっきり魔導師だとばかり思ってた。雰囲気というか、変な意味じゃないけどなんだか普通の人じゃない感じ?
「そ、そういうこと。ところでなのはちゃんは魔導師になってどのくらいなの?」
何故か慌てたような、急な話題転換をするクアットロさん。あまり自分の事話したくないのかなと思い、その話題に乗っかります。
「えっと、まだ半年も経ってません。今も局の人に基本的な魔法とか教えて貰ってる最中です」
「あら、そうなの?ふ~ん……あ、だったら」
そこで何か閃いたのか、クアットロさんがハヤさんに顔を向けました。
「ちょっと隼さん。説明も大事ですけど、こういうのは実際に手本を見せたほうがいいんじゃないですか?」
「あ?手本?」
「セットアップですよ。なのはちゃんが是非やりたいと言ってます」
「え!?」
私一言も言ってないよ、クアットロさん!?
驚く私をスルーし、クアットロさんは懐から何か小さな機械を取り出します。
「ついでと言ってはなんですが、コレ。小型の簡易魔力測定機なんですけど、なのはちゃん、それにアリサちゃんとすずかちゃんの魔導師としてのデータ取らせてもらっていいですか?」
「……お前なぁ、俺の時もそうだけど魔導師見るとデータ取ろうとするのやめろや」
「嫌ですねぇ。今後の資料になりますし、備えあれば~なんて事態もあるかもですし」
ハァとため息をつくハヤさんに対し、クアットロさんは笑顔。
魔力測定機って言ってたけど、クアットロさんは研究者か何かなのかな?
「ささっ、それじゃなのはちゃん。お友達二人にお手本見せてあげなさいな。あっ、それとセットアップしたあと何か攻撃魔法してみてくれる?大きいのと小さいのをいくつかお願いね~」
言うだけ言って返答を聞かず、クアットロさんは少し離れた位置に移動し、機械をこちらに翳しました。
えーっと、どうしよう?
「なのは、取り合えずあいつの言う通りやっとけ。ここでイチャモンつけるとあとが面倒だ」
「う、うん」
ハヤさんがいいならいいんだけど。
取り合えず私はレイジングハートのコアを手に持ち、アリサちゃんとすずかちゃんの前に立ちます。二人からは目の前で魔法が見れるという期待の眼差し。公園の時はそんな余裕なかったもんね。主にハヤさんのせいで。おかげで?
ともかく、改めて披露するとなるとちょっと恥ずかしいというか面映いのいうか。
よし、それじゃ────。
「いくよレイジングハート」
《all right》
声に出さなくてもセットアップは出来るけれど、一応お手本という事なので。
「セットアップ!」
瞬間、桜色の光が私を包み、また辺りを照らす。時間にして数秒後、私は白と青を基調にしたバリアジャケット姿になる。
そんな私に目の前の二人は目を丸くして驚いていた。
「ど、どうかな?」
二人の目に見せるのは二度目だけど、どうだろう?
「す、すごい!一瞬で変わった!」
「わ~、なのはちゃん、可愛い!」
目をキラキラさせ、軽く拍手する二人。
にゃはは、やっぱりちょっと照れちゃう。
次いでその後、クアットロさんの要望通りに魔法をいくつか使う。大きいのでディバインバスター、小さいのでディバインシューターを放つとまた二人は驚きの声を上げた。
そんな二人の反応に気を良くした私は、最後にその二つの魔法により辺りに残留した魔力を使って自身の最大魔法スターライトブレイカーを空に向かって撃った。
「ふぅ~、えっと私の魔法は大体こんな感じかな」
「「すっごーい!!」」
アリサちゃんとすずかちゃんから今日一番の歓声が上がる。それを受けてはにかむ私。
照れくささもあるけど、こう真っ直ぐ褒められるとやっぱり嬉しいなぁ。……あれ?そう言えばハヤさんとクアットロさんは?
二人からの反応が何もない事に気づき、どうしたのだろうと目配せすると、クアットロさんは呆然と、ハヤさんは慄いた感じで私を見てた。
「……この悪魔めっ!」
どうしてここでそのセリフ言うのハヤさん!?
「……昨今の子供の子供離れの甚だしい事」
クアットロさんまで何で!?
「いや、まぁ理がああなんだから予想は付いてたけどよ、それにしても何よアレ。……なのは、お前本当に人間?」
「理ちゃんは魔導生命体だからもともとのスペックもあるけれど……なのはちゃん、あなた本当に人間?」
「二人とも酷い言い草だね!?」
言われたとおり魔法披露したのにこの言い草だよ!ハヤさんはともかく、出会って間もないクアットロさんから言われたらちょっとショック大きいよ!そしてちょいちょい出てくる理ちゃんって何者!?
「まあ冗談はさておき……いえ、冗談とも言い切れないけれど、まあさておき。なのはちゃんって魔法使えるようになって間もないのにコレって……末恐ろしいわ」
クアットロさんが手元の測定機を操作しながらぶつぶつと呟いてるのが聞こえる。
ああ、そう言えば魔力測定してたんだっけ。数値みたいなのが出るのかな?
ちょっと気になったから聞いてみる。
「クアットロさん、今の私の魔法で何か分かったの?」
「ま~ね~。今なのはちゃんが使った魔法に込められた魔力量と発揮値やランク、あとそれを基に局が定めた魔導師ランクなんかね。といってもこんな簡易機械じゃ雑な数値しか出ないけれど」
「うにゃ、よく分かりません」
首を捻る私にクアットロさんは微笑む。
「まーあまり気にしなくていいわよ。ただ言えるのは、これから先も魔法の訓練を積んでいけばすごい魔導師になるのは確実ってこと。─────少々厄介な程に、ね。ああ、やっぱり出る杭は早めに打ち砕いた方がいいかしら」
ゾクリ、と背筋が震えた。最後のセリフを言ったときのクアットロさんの冷たい視線、あれは暴走体が向けてきた敵意の視線と同じ……ううん、もっと暗い、でも明確な───。
「な~んてね」
「へ?」
一転、クアットロさんの顔が先ほどまでの柔和なものになり、そしてそのまま頭を撫でられる。
「そんな怯えた顔しなくても大丈夫よ。隼さんのお友達に何かするわけないじゃない。ムカつくけど隼さんは"私たち"にとって特別。だからあなたも特例」
「え、ええっと?」
「つまり私となのはちゃん、それにすずかちゃんとアリサちゃんはもう友達ってこと。友達を打ち砕く程、私も薄情な女じゃないわよ~。……ですから隼さん、私のわき腹抓るの止めてくれませんか痛たたたたた!?!?」
「な~にが薄情な女じゃない、だよ。テメエが姉妹ん中で一番薄情だろ。むしろ無情だろ。もし次またなのはにガンつけやがったらこんなんじゃ済まさねーぞ」
クアットロさんのわきを抓っていた手を離すハヤさん。
ええっとよく分からないけれど、なんだかハヤさんに助けられた感じなのかな?お礼言うべき?
「ハヤさん、ありがとう?でいいのかな?」
「ん、おー、いいんじゃね?我を称えよー」
なんておちゃらけながら手をヒラヒラと振ったハヤさんは、改めてすずかちゃんとアリサちゃんに向き直ります。
「さて、それじゃあ手順もあらかた分かったろうし、改めて変身タイムといきますか。それじゃまずはすずかからいってみよう!」
「別に二人一緒でいいじゃない」
「バーカ、こういうのは一人ずつ順番にキメてくのがセオリーなんだよ」
「ふ~ん、まあいいけど。でもなんですずかからなのよ?」
「いや、すずかの変身見終わったら帰ろうかなーと」
「私のもちゃんと見て行きなさいよ!」
なんて二人がコントしてる横ですずかちゃんはちょっと緊張気味。
「すずかちゃん、大丈夫?」
「う、うん、でもきちんと変身出来るか不安かな……」
「すずかちゃんなら大丈夫だよ!」
私は笑顔で答える。素質もあり、デバイスもすずかちゃんの事認めてる。なら後は自信と実行のみ。
「おらすずか、そんな肩肘張んなよ。別になれなくても死ぬわけじゃあるめぇし、気楽に行けや」
ぽん、とハヤさんに背中を押され少しつんのめるすずかちゃん。けれど、そんな激励が嬉しかったのかすずかちゃんの顔から不安の色が消えた。
私たちの方を見て小さく頷くと少しだけ距離を取り、私のさっきのセットアップを真似るようにすずかちゃんはデバイスコアを掲げた。
「よろしくね───『スノーホワイト』」
《You can count on me!》
「セットアップ!」
《Set up!》
その瞬間、すずかちゃんの足元に広がった紫色の魔法陣。そしてまるで繭のように身を包み隠す同色の光。
うわぁ、と思わず感嘆の息が洩れた。けれど、それもほんの僅かの間で、すずかちゃんの変身の終わりと同時にその小さな息は明確な声となって表へと出ることになった。
「綺麗……」
光が収まった時、すずかちゃんの姿は一変。
長い髪は白いリボンで一本に結われ、白いワンピースのような服の上に紺色のロングコートのような上着。両手にはデバイスらしき爪の付いたグローブ。
服装のせいか、いつにも増してどこか大人びた雰囲気を漂わせたすずかちゃんは、本当にとても綺麗。そして、それに拍車を掛けるが如く彼女の周囲にはあるモノが舞っていました。
「キラキラしてる!」
「これって氷?」
私とアリサが同時に声を上げた。
そう、変身を終えた彼女の周りはきらきらと輝いていて、よく見ればそれは小さな小さな氷でした。
「おおっ、すげえな。これってアレだぜ。えっと魔力変換資質つったっけ?」
「魔力変換資質?」
ハヤさんからの聞き慣れぬ言葉に疑問顔のアリサちゃん。その隣で私も悩み中。
魔力変換資質……聞いたことある気がするけど、どういうものだったっけ?
その答えはハヤさんではなく、別の所から上がった。
「魔力変換資質───要は魔力を別のエネルギーに変換する事が出来る資質って事よ。この場合、すずかちゃんは『氷結』の魔力変換資質持ちという事ね。……というか氷結って」
クアットロさんがどこか疲れたような声色で説明してくれた。……なんで疲れてるの?
「へ~氷結ねえ。電気やら炎は知ってっけど、氷なんてのもあんだな~。夏場とか涼しそうだな」
「……ええ、そうですね。あるにはあるんですよね」
気楽に言うハヤさんとは正反対にクアットロさんは小さくため息を一つ。その表情はどこか深刻そうで、それに気づいたすずかちゃんが不安そうに声を掛けました。
「あ、あの、クアットロさん。その氷結って、何か不味いものなんですか?体に害があったりとか……」
「え、ああ。ううん、違うわよ。すずかちゃんに害のある能力じゃないわ。むしろかなりの希少能力なのよ」
すずかちゃんの不安を払拭するように続けてクアットロさんは言う。
「魔力変換っていうのは誰でも習得出来る技術なんだけど、もとからその資質がある人は無条件かつ効率よく魔力を変換して使える能力なの。ただすずかちゃん、あなたの資質である氷結、これの所持者ははっきり言ってごく稀。管理局にも数える程しかいないはずよ」
「そ、そうなんですか?でも誰でも習得出来る技術なんですよね?」
「そうね。ただしその習得難易度は極めて高いの。中でも氷結は特にね。加えて天性の資質持ちには敵わない。どう頑張っても変換効率に絶対的な差が出るのよ」
「は、はぁ……」
と言われてもどこか漠然と頷く事しか出来ないすずかちゃん。それは多分自分の事だから。いきなりそんな事言われても実感が湧かないもんだよね。
ただし、傍から見たらそれがどれだけすごいか分かった。
つまり、天才。
「すごいじゃないすずか!」
「天才魔導師すずかちゃんだ!」
「そ、そんなんじゃないよ!」
囃し立てる私とアリサちゃん。
謙遜というより未だよく事態が飲み込めていないすずかちゃんからの取り合えずの否定。
そして。
「いいなぁ、変換資質。俺も欲しかったなぁ~。紫電掌したかったな~。しかも氷結だって。レアだって。激レアだって。羨ましいなぁ~」
9歳の子供に本気で嫉妬してる大人が一人。というか大人気ないハヤさんが一人。せめて嫉妬心隠そうよ。
私とアリサちゃんとクアットロさんはそんなハヤさんを見て大きなため息を一つ。そして嫉妬の対象にされてるすずかちゃんは謝ればいいのか慰めればいいのか分からなくておろおろ。
すずかちゃん、この場合は無視すればいいと思うよ?言わないけど。
「まっ、いいや。可愛いすずかに免じて許してやろう」
「か、可愛いなんて……」
「さて、んじゃ帰るか。あ、いい機会だから帰ったらその能力でカキ氷パーティでも───」
「ちょおおっと待ちなさいよ!」
すずかちゃんと私の手を取り何事もなかったように、これ以上ここに用はないと言わんばかりに歩き出そうとするハヤさんだったけれど、もちろんそれはアリサちゃんの手によって止められました。
「なんだよ、アリストテレス」
「アリサ!そしてちゃんと私の見てけ!」
「お前のって、おいおいナニを見せる気だ?」
「変身に決まってんでしょ!」
ウガー、と吼えるアリサちゃんにハヤさんはワザとらしくやれやれしょうがないといった雰囲気を出す。
というか何だかんだで仲良くなってるよね。まぁ楽しそうなのはハヤさんだけみたいだけど。
「まったく、お前も見せたがりだな。じゃ、はい、お好きな時にどうぞ」
うわぁ、すっごい投げやりだ。
「こいつ!……ふん、まあいいわよ。アッと言わせてやるんだから!」
「アッ」
「………………」
ア、アリサちゃん、落ち着いて!女の子がしていい顔じゃなくなってるの!
「もういい、黙って見てなさい!」
そこでまたハヤさんは、口に指を当てチャックを閉めるような動作をしておちょくる。それを見てアリサちゃんは青筋を多大に浮かべながらも無視が正解と理解したのか、さきほどのすずかちゃんと同じように私たちから距離をとった。
深呼吸一つ。
そして。
「目にモノ見せるわよ───『フレイムアイズ』!」
《Ok!》
「セットアップ!」
《Let's Dance!》
すずかちゃんと同様、アリサちゃんの足元に展開される魔法陣。その色は燃えるような茜色。そんな魔力光が体を包む。
さあアリサちゃんはどんな格好で出てくるのかと期待して待つこと僅かの間────けれど、その期待は突然起こった現象によって上書きされた。
「え」
気づいたとき、私の体は地上を離れはるか上空。目の前あったのは変身中のアリサちゃんではなく、淀んだ空間。
「え、あれ?」
隣を見れば、すずかちゃんが同じように戸惑いの表情であたりをきょろきょろ。私と目が合い、二人で首を傾げようとし、そこでまた気づいたのは私たちが誰かに抱えられているという事。
「ふぅ、危機一髪ってとこね。二人とも、火傷してないわよね?」
私たちを抱えていたのはクアットロさんでした。
「えっと、一体なにが……」
「まあ取り合えず二人とも自分で飛んでくれない?どこぞの脳筋と違って頭脳派の私に子供二人を小脇にずっと抱えていられるほど力持ちじゃないんだから」
「あ、えっと、はい」
取り合えず言われたとおりにする。すずかちゃんもクアットロさんに片手を握ってもらいながらだけれどきちんと浮く事が出来てるみたい。
「で、さて、一体何が起こったのかだけれど……まあ簡単に言えば私が二人を抱えて可及的速やかに上空に避難したわけ」
避難?一体何から避難したんだろう?
そう尋ねようとした時、不意に頬に感じた暖かい風……というより、それは最早熱風でした。発生源は足元。地上。
すずかちゃんも感じたようで、二人そろって下を見下ろし、そしてそこに広がっていた光景に絶句。
(……火の、海なの)
比喩表現ではなく、そして過不足なく、まさに眼下にあるのは火の海でした。中心にぽっかりと穴が開いた感じで、ドーナツ型に炎が燃え盛ってる。
一体何が?どうして?
そんな考えよりも先に声に出たのは一人の友達の名前。
「「アリサちゃん!?」」
すずかちゃんと声が被る。
そう、つい先ほどまで目の前でセットアップしていたアリサちゃん。今空の上にはクアットロさんとすずかちゃんと私だけで、他の人の姿は見えない。という事は、つまりアリサちゃんはまだあの火の海の中にいるという事。
早く助けないと!
「はい、ちょっとストップ」
レイジングハート片手に翔け出そうとした私をすんでの所で止めたのはクアットロさん。
「クアットロさん、離して!アリサちゃんを助けないと!」
「そうです!アリサちゃんはまだあそこに!」
「はいはい、二人とも落ち着きなさい。アリサちゃんなら大丈夫よ。ほら、あそこ」
クアットロさんが指差す先、そこはドーナツの中心。まるで火の海の中にある小島のような空間、そこに人影が一つ。
間違いなくアリサちゃんでした。
「さっき念話で確認したけど怪我もないみたいよ。まあ偶発的とは言え、自分で出した炎で火傷なんてしないでしょ。お利巧さんな彼女のデバイスも咄嗟にフィールド魔法張ったみたいだし。もうちょっと火が弱まったら行きましょう」
そのクアットロさんの言葉にホっと胸を撫で下ろす。
よかった、アリサちゃんが無事で。もし私が魔法なんて存在教えたせいで早くも怪我させたんじゃ、アリサちゃんに何て謝ればいいか分からない。
「……それにしてもなのはちゃんといい、すずかちゃんといい、アリサちゃんといい、地球産の魔導師は出鱈目過ぎね」
「どういう事ですか?というか、すずかちゃんは分かるけどなんで私も入ってるの?」
「な、なのはちゃん!?私も別に出鱈目じゃ……」
「人間魔力ダムと激レアキャラが何言ってんだか」
酷い言い草!?
取り合えず抗議は後ほどするとして、という事はアリサちゃんもやっぱり普通と違うのかな?
ジト目&疑問の目をクアットロさんに向けると、彼女はつらつらと説明し出した。
「アリサちゃんはすずかちゃんと同じ、魔力変換資質持ち。氷結じゃなく炎熱っていうね。まぁ、それ自体は特に珍しいというほどでもない資質なんだけれど……」
すっと眼下に目をやるクアットロさん。少しだけ頬を引きつらせながら続ける。
「変換効率が出鱈目、というか異常ね」
「「変換効率?」」
「すずかちゃんの時もそうだったけど、魔法に不慣れな魔導師の変身時、変身に必要な適正魔力以上の魔力が出ちゃうのよ。資質持ちの場合、その余剰魔力が勝手に変換されちゃうわけ」
ああ、だからすずかちゃんが変身し終わったとき、周りが氷の結晶できらきらしてたんだ。
「とすると、この火ってアリサちゃんの変換資質による弊害なんですか?」
「そうね。ただし、普通はこんな火の海にはならない。変身で使う魔力なんて些細な量だから、余剰魔力も高が知れてる。なのにこの有様」
そうだよね。すずかちゃんの時と全然違うもんね。
「そこでさっき言った変換効率」
「あ、もしかしてアリサちゃんの場合、その変換効率が良いんですか?」
「はい、すずかちゃん正解~」
パチパチと拍手するクアットロさん。ただし、その顔は疲れ顔。
「正確に言えば、変換効率が異常なのよ。例えば資質のない魔導師が魔力を1変換したら、変換後のエネルギーも1。資質持ちの場合、まあ才能の差や修練によって変わるけど、だいたい魔力1に対して2~10。すずかちゃんは現状2ってとこね。で、件のアリサちゃんだけど………」
一呼吸置いてクアットロさんは呆れ声で言った。
「……大雑把に見て、おおよそ200。インフレもいいとこね」
トゥーハンドレッド?
「ア、アリサちゃん、凄いね」
「う、うん」
凄いの一言で片付けちゃいけない光景が眼下に広がってるような気もするけれど、でも凄いという他単語が思いつかない。
というか、これから先もまだまだ成長する余地があるんだよね?さらに凄くなる可能性も?ううん、仮に変換効率が変わらなくても、ちょっとの魔力でコレなら、もし今アリサちゃんの全魔力を変換したとしたら……うわぁ、ちょっと想像出来ない。
ほえ~、と内心呟き、冷や汗をかく。すずかちゃんも呆然と、クアットロさんはどこか憮然と。
そんな三人のもとに件の人物、アリサちゃんがふらふらと慣れない飛行をしながら来たのは数分後でした。
「ああ、びっくりした!いきなり周りが火の海になっちゃって。ねえ、あれってやっぱり私のせい?」
訳が分からないといったアリサちゃんの右手にはメラメラと燃える剣。あれがアリサちゃんのデバイスかな?熱くないのかな?
そんな事を思いながら、横のクアットロさんが私たちにさっきした話を改めてアリサちゃんに説明しだす。程なく、全てを聞き終え理解したアリサちゃんはにんまりとした笑顔を浮かべ、一言。
「つまり私も天才って事ね!」
胸を張って自信満々に言うアリサちゃん。
私とすずかちゃんはそんないつも通りの彼女に思わず笑みがこみ上げる。対するクアットロさんは何度目かのため息。
「なのはちゃんはアホみたいな魔力量、すずかちゃんは希少な資質持ち、アリサちゃんは異常な変換効率……地球人は魔導師としてデフォで天性の才でも持ってるんですかねぇ。あ、でも隼さんっていう無才の前例があるから、それは考えすぎか」
やれやれといった調子のクアットロさんの言葉に私たち三人はハッとなる。
今更ながら気づいた。ある種穏やかに、何のツッコミもなく話が進んでいた異常、違和感に。つまり───
「そ、そういえばハヤさんは!?」
そう、ハヤさんがいない。いつもいつも騒がしいハヤさんがいない。もしかして、アリサちゃんの炎に巻き込まれてどこかで怪我でもして身動き取れなくなってるんじゃ……。
そんな思いが頭を過ぎるも、やっぱりというか当たり前というか、それは杞憂に終わるのがハヤさんという人物。
「誰が無才じゃコラ。てか、アリサは天才ってより天災だろうがクソッタレ」
不意に忌々しそうな声が聞こえたのは私たちの後ろ。
振り返ると案の定、タイミングよくそこにいたのはハヤさん。だったけど、その姿を見て私はちょっと驚く。
「ハヤさん、服どうしたの?」
そこにいたのは数分前と違うハヤさんでした。
上の服は破れて、焼かれてボロボロ。下なんて履いてすらいない。というか、もうその姿は下着姿という他なく。
「ちょ、なんて格好してんのよ!あんた!」
アリサちゃんが顔を真っ赤にし、ハヤさんに向かって牽制でもするようにデバイスを向ける。
「きゃあ!?」
すずかちゃんも男の人の半裸を見るのが恥ずかしいのか、両手で顔を覆う………のはいいんだけれど、その指がこれでもかと開いてて、その間から凝視してるのが分かるよ?そして顔だけじゃなく、目まで真っ赤に染まって見えるのは気のせい?というか息荒いけど大丈夫?
「ふ、ふ~ん」
クアットロさんは大人の女性だから男性の肌なんて見慣れてるのか、特に目立った反応は……あ、ちょっと頬が赤い。
ともあれ、みんな、いきなりなハヤさんの半裸に驚き恥ずかしがってるみたい。かくいう私もちょっと恥ずかしい……というわけでもない。
ハヤさんの裸なんて、いったいこれまで何回見てきた事か。ハヤさん、うちに泊まった時とか夜は半パン一枚で家の中うろうろするし。さらにこの前なんてお風呂一緒に入る羽目になったし。
そんな私の思いを他所にハヤさんは怒り顔のまま吼える。
「どうしてくれんだよこの服!めっちゃ高かったんだぞ!ここ一番でバッチシ決めるために選びに選らんだ一張羅だったんだぞ!」
あー、そういえば今日の当初の予定はフィアッセお姉ちゃんと会う事だったもんね。
「いきなり目の前真っ赤になったと思ったら火達磨だし、消火の為に転げ回ったからボロボロなるし!いくらシャマルでも補修出来ねーだろこのレベル!」
まあ、無理だろうね。シャマルさん、料理だけじゃなく裁縫も得意って聞いてるけど流石にこれじゃあね。たぶん、残った服の布の面積よりも下着の面積のほうが大きいもんね。
「弁償しろアリサ!お前んち金持ちだろ!」
うわぁ、小学3年生相手に本気で怒ってお金を請求するなんて、ハヤさん、相変わらずかっこ悪い。
「ふ、不可抗力よ!確かに悪いとは思ってるけど……」
「まーまー、隼さん、いいじゃないですか~」
アリサちゃんの萎縮した姿を見てクアットロさんがフォローすべく口を開く。
「どうせ服のお金なんてプレシアさんからガメたものですよねぇ。なによりも、どれだけ良い服着た所で着る人がどうしようもないダメ男だったらひとっつも締まらないですし~」
「あ?」
あ、あれ?フォロー……あれ?
「今の姿ですら隼さんには上等過ぎるくらいですねぇ。ダンボールとかその辺に落ちてる布着れが分相応じゃないですか~?」
「……ふんふん、なるほどなるほど」
ハヤさんが腕を組み、うんうんといい笑顔で頷く。ややあって一言。
「ちょっとお話しようか?」
「語彙の少ないおサルさんがどんなお話出来るのか気になりますね」
あー……この流れ、私知ってる。ハヤさん、よくお兄ちゃんやお姉ちゃんとこういう流れになるもん。それがどういう結果になるのかは、まあ自ずと分かる。経験済み。
「おう、バーニングアリサ。この服のことチャラにしてやっから、ちょっとこのクソ腹黒イワすの手伝えや」
「誰がバーニングアリサだ!……というかイワすってなによ?」
「すずかちゃん、魔法の実地練習してみない?的はあのサル」
「え、ええ?!」
ハヤさんはアリサちゃんを、クアットロさんはすずかちゃんを巻き込み臨戦態勢。そのまま二人は強制的にパートナーを組み、連れ立って下へと降りていきました。
ほどなく、下から聞こえる怒号、破砕音、魔法の光。そして一人取り残された私。
「……ハァ」
ため息を一つ。
なんでこうなるのかな~。うん、まあ分かってたんだけどね。ハヤさんがうちに来た時点で。ハヤさんをジュエルシード探しに誘った時点で。ハヤさんともうちょっと一緒にいたいと思った時点で。
そう考えるとこういう展開を私が望んでいたみたいになるけれど、それこそ不可抗力……とは言えないかな。だってハヤさんと一緒にいるって事は高確率でこうなる可能性があるって分かってたんだから。
それに気のせいじゃないならクアットロさんもこの展開を望んでたように見える。自分からこの展開に持っていった感じ。
まー、だから。うん。全部ハヤさんが悪いってことでいっか。
「ねえ、レイジングハート。私、この後どうすればいいと思う?」
《Let's enjoy now》
「……そうだね」
なんだかレイジングハートですらハヤさんの影響を受け始めてるみたいだけれど、この際考えない。ハヤさんに関して考え始めたらキリがない。
だから私も笑顔で突貫!
「私も混ぜてよ~!」
夏休みの日記帳、今日はなんて書けばいいんだろう?
そんなどうでもいい事を考えながら、私も4人の喧嘩(?)に混じるのでした。
改めて、更新遅くなり申し訳ありませんでした。
次回よりAs編突入予定です。