フリーターと写本の仲間たちのリリックな日々   作:スピーク

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As編、はじまります。


As編プロローグ

─────────てくれ

 

声が聞こえる。

 

─────────けてくれ

 

辺りを見渡せば何もなく、そもそも上下の感覚すら曖昧な空間にいた。

 

─────────すけてくれ

 

ああ、これは夢か。と漠然と理解した。明晰夢というやつか。

 

─────────たすけてくれ

 

しかし、何とも殺風景な夢だ。まっくらな空間で人間は自分だけ。

 

─────────どうか、わがあるじを

 

唯一、先ほどから変な声が聞こえてくる。いや、頭の中に直接響いてくる。夢だからか?なんか夜天の声に似てんな。

てか、

 

─────────どうか、わがあるじをたすけてくれ

 

っせえんだよボケ!普通に寝らせろ!つうか誰に命令してんだ身の程知れ!俺に物頼む時ァまず金積んで土下座しろ!話はそれからだ!

 

─────────え、あ、あの

 

はい、俺の夢終わり。寝よ寝よ。

 

 

─────────………………

 

……………………………

 

……………………

 

………………

 

…………

 

………

 

…………

 

………………

 

……………………

 

……………………………

 

…………………………………いや、だから寝かせろって。

 

え、なに何で寝れねーの?いや、もう寝てんだけどさ。実際は寝てんだけどさ。そうじゃなくて意識をね、消灯させて欲しいわけ。夢とかマジどうでもいいわけ。全裸のネエちゃんが出てくるもんなら兎も角、こんな訳分かんねーのいらんのよ。寝て起きて、それだけでいいわけ。

 

てか、よく見ればここさっきいたトコと違う場所じゃん。しかも目の前には超意味あり気な扉だよ。鍵がいっぱいついてて、ノブには鎖まで巻きついてるよ。開けんな、みたいな?

 

ふざけろや。開けるっつうの。

 

俺の睡眠邪魔した夢のクセに、これ以上来んな、みたいなオーラ出した扉こさえやがって。調子こくなよ?

 

なんかもう意味不明な思考だけれど、取り合えず扉を蹴破ってっと。はい、おじゃま~。さて、中にはいったい何が…………あん?金髪のガキ?フェイトやアリシアじゃないっぽ──

 

─────え、嘘、どうやってここに!?だ、だめです、こないでください!!

 

あ?………ぷげらっ!?!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロロ~グ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝、一人の男が優雅に目を覚ました。黒いスウェット姿がのそりと動き、男を包み込んでいた掛け布団がパサリとベッドから落ちる。枕下には携帯が鳴動しており、それが起床の原因だというのは明白で、男は自分の安らかな眠りを妨げたそれを乱暴に扱って止めた。が、そもそも昨晩この時間に鳴るようアラームを設定したのは男自身だ。よってこの行為は八つ当たり以外の何物でもない。だが、そんな理論を振りかざしても今の男には通用しない。理由は単純に『眠い』からだ。それがどれほどの眠さかというと…………………

 

「地の文を三人称で語っちまうくらい眠いんだよ」

 

それは本当に眠いのか?

とか言うツッコミは無しな。いやマジだり~~~んだよ。眠すぎ。やってられっか。今何時?そうね、だいたいね~………って、朝8時だァ?はっ、馬鹿じゃねーの。昨日寝たの何時だと思ってんの。てか、寝たの今日だし。誰だよ、こんな時間にアラームセットした馬鹿は?あ、俺か。はい俺馬鹿~。

 

「………………………顔、洗って来よ」

 

睡眠時間の短さと昨晩の酒がまだ残っているせいか、テンションのギアがおかしな所に入っちまってる俺。

我ながらちょっと痛々しい。

ベッドから降り、ボサボサの髪と腹を掻きながら部屋を出て、冷たく冷えたフローリングの廊下をぺたぺたと歩きながら洗面所へ。そこで12本ある歯ブラシの内の1本を手に取り、歯磨き粉をつけ口に突っ込む。乱雑にごしごしと磨いた後うがいをし、顔を洗って髭を剃り、最後に気付けにパンと顔を叩く。そうするとアラ不思議、目の前の鏡には美男子が映りましたとさ。

 

……………馬鹿らし。

 

「しっかし、いい加減この髪どうにかしねーとなぁ」

 

鏡に映っている俺の顔、その頭部には襟足だけくすんだ金色に染まった髪の毛。

約半年前、どこぞの馬鹿キカイダーに自分と同じ色の髪色に染められた俺。そしてその間、適当にしか切ってこなかったお陰でこのプリンのような髪に。

学生時代なら兎も角、この年でこの髪は完全にないだろ。

そう思うものの、一方で金も入って就活もろくにしなくなった俺は別にいっか~と半ば放置し今に至っている。

 

「はぁ~………って、うわ、酒臭」

 

歯を磨いたにも関わらず、己の溜息がかなり酒気を帯びている事に驚いた。

 

まっ、あれだけ飲めばそりゃこうなるわなぁ。確か午後11時から飲み始めて、家に帰ってきたのが………午前6時前だったか?麻雀しながら片手に魔法世界の地酒、もう片手にタバコのスタイルで7時間ぶっ続けだったかんなぁ。しかも勝てなかったしよ。チン嬢ちゃんの一人勝ちとかムカツク。てか、絶対配牌イカサマしてるって。なんだよ、あの異様な引きの良さは?4面打ちで何でそんなに役満出来んだよ。緑一色とか天和とか初めて見たし。ざわざわだよ。

 

「見てろよ、あの人造人間シスターズめ。次は勝ってやる!」

 

今までの負け分とこれからの予定勝ち分を計算しながら洗面所を出た。

と、今更ながら気づいたがかなりいい臭いが漂っている。そして、リビングに続く扉を開ければその臭いの向こう側にはキッチンで料理をしている金髪女性の姿が。

 

「あ、おはよございます、ハヤちゃん!今日は早いですね」

「はようさん、シャマル」

 

我が家の金髪美人にして最高の料理長であるシャマルが、今日も朝から緑色のマイエプロンを纏い、包丁片手に素敵な笑顔で迎えてくれた。

日替わりの当番制だった料理作りがシャマルだけの役回りになったのは、さて、いつ頃からだろう。

 

「はい、どうぞ」

「サンキュ。他の奴らはまだ寝てる?」

 

コーヒーを受け取りながら訊ねた俺にシャマルはにこやかに返答する。

 

「シグナムとザフィーラはいつもの朝稽古に行ってますよ。夜天はハヤちゃんのタバコのストック分がなくなってたので買いに、ヴィータちゃんと理ちゃんはまだ寝てます」

「こんな寒い中、シグナムもザフィーラも頑張るね~。感心感心。夜天も相変わらず気が効くな。後の二人はそのまま永眠してろ」

 

烈火の騎士シグナムと守護獣ザフィーラは数ヶ月くらい前から朝稽古と夜稽古を日課としている。この平和な世の中ご苦労なこってと思うが、何でも「今日の平和が明日まで続くとは限りません。それに日々の鍛錬はそのまま主の為の力になります。主を護る力はいくらあっても足りないくらいであり、その為の努力は惜しみません云々」だとさ。

いやはや、真面目なやつらだ。

 

「てか、努力してプログラムは成長すんの?」

「身体の成長はしませんよ。けど勘……プログラム的には演算速度?予測パターンの幅?それと戦闘技術とかなら努力し経験した分は培われます」

 

そう言ってシャマルはクラールヴィントを出し、少し離れた所にある朝食の材料であろう大根に向かい投げた。するとクラールヴィントはくるくると大根に巻きつき、次の瞬間にはシャマルの手に収まった。さらにシャマルはその大根をまな板の上に置き、もう一度クラールヴィントを指先で操ると瞬く間にご立派な大根は大根おろしへと姿を変えた。

 

「ね?」

「お前はウォルター・クム・ドルネイズか」

 

半年前はそんな芸当出来てなかったよな?思わず小便すませて、神様にお祈りして、部屋の隅でガタガタ震えたくなったわ。命乞いする心の準備なんてノーサンキュー。

しっかし、シャマルもそうだけどホント騎士共は逞しくなったよな。特に精神面が。会った当初なんてプログラム言われればすぐに凹むもやしっ子だったのに、今じゃオールOK状態だし。

まっ、でもそれは良い事だし、成長している確固たる証拠でもある。

 

(でも、身体の成長はなしか………………惜しいなぁ)

 

シャマルは腰とお尻は見事なんだが、如何せんお胸様がなぁ…………あと1歩!いや半歩!

 

(まあ、服の上からしか見た事ないから、もしかしたら着痩せするタイプなのかも知れないけど)

 

忙しなく朝食の準備をしているシャマル。それにともないまるっとしたお尻が可愛くふりふり。それを眺めながら、これから透視魔法の研究に全力を注ごうかどうか迷っていた時、リビングの扉が開いた。

 

「ふわぁ~、おはよう~。ん?隼がいる………ハァ、朝から下がる」

「冬の朝は寒いですね。それにしても、いいご身分な主がこの時間に起きてるなんて………ああ、朝帰りですか。死んでください」

 

ブラックのろいうさぎのぬいぐるみを引き摺りながら大あくびをかますヴィータと、朝の寒さと眠気で不機嫌な理が二人そろって登場。そして二人そろって朝から喧嘩売ってくる始末だ。

だが、もうそれは毎朝の事なので、俺もいちいち買ってやるつもりはない。朝から面倒臭ぇのはゴメンだ。

 

「はいはい、いいからさっさと顔洗って来い」

「………何か最近あたしらへの態度冷たくねーか?」

「違いますよ、ヴィータ。これは所謂放置プレイというやつで、云わば主からの愛です。嫌よ嫌よも好きの内」

「ハァ?ったく。だから隼さ、お前のツンデレはただキモイだけだっつうの。マジ、ゲロ」

「………………………」

 

俺はロリーズのケツを蹴り上げた。

 

「いでっ!?何すんだコラ!」

「痛いですね。妊娠したらどうするんですか?勿論バッチ来いですが」

 

朝の一時くらい穏やかに過ごさせろよ!

 

「っせんだよ!その目ヤニが付いた汚ぇツラさっさと洗って来いっつってんだ!」

「み、見てんじゃねえ!」

「ふむ、主は目ヤニフェチではなかったですか」

 

ヴィータは目をごしごしと擦りながら走り去り、理は相変わらずの仏頂面で淡々と洗面所へ向った。

てか、理。お前の言動が日増しにディープかつマニアックになっていってる気がするのは俺の気のせいか?それも成長の証拠なのか?

 

「はぁ、朝からクソ気分が悪ぃ。ガキもガキの世話をするのも嫌いじゃねーが、あの二人だけは例外だ」

「でも、何だかんだ言ってちゃんと二人の面倒見てあげてる優しいハヤちゃんが私は大好きです」

「勘違いしてんなよシャマル。俺はあいつらがご近所様に迷惑掛けないよう嫌々ながら教育してやってるだけだ」

「ふふっ、そうですか」

 

ああ、そうだよ。だからその『分かってますよ』的な微笑みを引っ込めろ。見てっと腹立つ。そして腹減った。

 

「シャマル、朝飯まだ~?」

「もう出来ましたよ。あとはシグナムたちが帰って来れば────」

 

と、言ってる丁度そのタイミングで玄関の扉が開く音が聞こえた。そしてリビングに入って来たのは冬場だというのに額に汗を浮かばせた女と男、さらに俺のコートを羽織った女も一人。

 

「シャマル、今戻った───と、主、起きておいででしたか。おはようございます、只今戻りました」

「「主、おはようございます」」

「おう、おはようさん、シグナム、夜天、ザフィーラ」

 

色気もクソもないジャージ姿のシグナムと上半身タンクトップ姿という季節に真っ向から喧嘩売ってるザフィーラ、寒さの為少し鼻を頭赤くした夜天の3人が帰って来た。そしてシャマルが各々にスポーツドリンクやコーヒーを渡すのと、ロリーズが洗面所から顔を洗って戻ってきたのは同時だった。

 

鈴木ファミリー、全員集合。

 

「てことで、朝飯にすんべ」

 

と、その前に。

俺は電話を取り、番号をプッシュする。ルルルルツという呼び出し音が2度聞こえた後、電話口から聞こえてきたのは朝から元気な幼女の声だった。

 

『もしもし、ライトニング・テスタロッサだ!お前は誰だ!?あ、もしかして加藤さんか?それとも阿部さん?』

「誰だよアホんだら。内線電話に鈴木以外の姓を持ってる奴が出るか」

『なんだ、主か~。おはよう!』

「ああ、おはようさん。飯だから全員連れてこっち来い」

『よしきた!了解!ビシッ!』

 

こうやって俺、鈴木隼の平凡な一日は幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

季節は移り変わり、時勢も移ろい行き──────春先にあったテスタロッサ家の問題解決から半年あまり。

 

大きな変化があり、小さな変化があり、中には変わらないものもあり…………その変化が日常に定着し始めた今日この頃。

半年前の事件に比べれば、今の日常は何とも平和平凡で、まるで一人だった時の緩やかな時間が帰って来たかのようだった。何の心配や厄介事もなく、笑顔を浮かべて日々を謳歌し、そこいらにいる一般人と何ら変わらない生活、優しい現実を俺は歩んでいる………………

 

 

「ちょっと夜天、早く新聞よこしなさいよ」

「もう少し待て、プレシア」

 

「げっ、ピーマン入ってんじゃねーか。リニス、やるよ」

「駄目ですよヴィータ、好き嫌いしちゃ」

 

「ア、アルフ、味噌汁にドッグフードをプラスしないで下さい」

「でも、結構イけるよ?シャマルも試してみなよ」

 

「アリシア、そのヨーグルト食べないのですか?じゃあ私が貰いますね」

「あーーー、最後に食べようと残してたのに!理のばかっ!」

 

「勝手にチャンネル変えるな、シグナム!今ボクはプリキュア見てたんだぞ!」

「朝はニュースを見るものだ。ライトもアニメばかり見てないで少しは時勢を知れ」

 

「そうだ、ザフィーラ。先月号のりぼん持ってきたよ。まだ読んでなかったよね?」

「むっ、そうだった、俺とした事が。いつもすまんなフェイト」

 

…………かなり騒がしいがな。

まあ、でもこんな騒がしい朝食の場も毎日身を置けば流石にもう慣れちまったよ。

 

(いつからだけっけか?一緒に飯食うようになって)

 

そう、俺たち鈴木家とテスタロッサ家は朝昼夜問わずほぼ毎日のように食卓を共にしている。場所は俺んちかプレシアんち。特に理由もなく一緒に食うようになっちまってた。まあ、強いて理由を挙げるならお互いの家が近いからか?

 

(近いってか、隣同士だけど)

 

今から約4ヶ月前、俺たち鈴木ファミリーは目出度くあの狭いアパートからおさらばしたのだ。そしてやって来たのは遠見市にあるデッカイ高級マンション。

フェイトが住んでたあのマンションだ。

いや~、マジで段チな快適さだよ。流石は家賃が元のアパートのウン倍する事だけはある。家具も一新したお陰で居心地最高だし。

……………え?金はどうしたのかって?

今の俺はそれなりのセレブリティ。向こう10年くらいは遊んで暮らせる程のな。てか、実際遊んでるし。就活?仕事?欠片もしてませんニートですが何か?そんな事せんでも金あるし~。まあ、アリシア達への家庭教師は継続しちゃいるが、適当に教科書読んで問題集解かせてるくらいだからあれも半分遊びみたいなものだ。

 

(これも全部ジェイルのお陰だな)

 

そうなんだよ、俺の金がある理由は全てジェイルのお陰なんだよな。

あいつ、時の庭園をかなりの値で買い取ってくれたからさ。さらにそれだけじゃなく、何を思ったのかジェイルの奴「週に一度でいい、私の所に遊びに来て我が子らの相手をしてやってくれないかね?勿論、給金は出そう」だとよ。

あのマッドの事だから何か企んでんだろうが、金さえ貰えるなら俺にゃあ関係ない。しかも女の子に囲まれて遊べるんだから尚良し!

まあ、後で知った事だが、あの姉妹らは実は半分機械のキカイダーで厳密には人間じゃないらしい。が、それこそ関係なし!可愛い・美人な女の子の姿をしてるなら有機物だろうが無機物だろうが大好きだ!余裕で恋愛感情持てるし、余裕で抱ける!だから昨日も親密になる為ちょっくら行って麻雀してきたし。

 

(大金手に入って、異世界じゃハーレム気取り出来て、仕事しないで遊んで暮らせる…………来た、俺の時代!!)

 

むはははは!笑いが止まらんよ!

 

「隼、お願いだからフェイトやアリシアの前でそんな顔しないでちょうだいよ。子供の成育に悪いから」

 

大きなお世話だ。

って、あれ?

 

「皆は?」

 

気づけば食卓には俺、夜天、シグナム、プレシア、アルフ、リニスしかいない。食器もいつの間にか下げられていた。

 

「あなたが変態的顔面で物思いに耽ってる間に子供たちは私の家に行ったわよ。あとシャマルとザフィーラはバイト」

 

いつの間に………。駄目だな、金や女の事思うと他がすぐ目に入らなくなっちまう。まあガキどもの事なんて知ったこっちゃねーが。

 

「まったく。そんな顔晒す暇があるなら働きなさいよ。こっちじゃ隼みたいなろくでなしの事、ニートって言うそうじゃない」

「フリーター、ひっきー、パラサイトでも可」

「………胸張って言うんじゃないわよ。バイトくらいしたら?」

 

うっせぇな。いいんだよ、金あるし。バイトなんて面倒くさい。人生楽が一番だ。

てか、何でシグナムたちも金あるって言ってんのにバイト辞めないかなぁ。いや、まあ理由は知ってるよ?曰く「少しでも主の貯えになるなら。主が楽を出来るなら」だとさ。

嬉しくて涙が出るね。

まっ、そっちの方が実際都合がいいしな。

 

「そういうお前こそ、働いてねーだろうが。専業主婦?壊滅的に似合わねーよ」

「ふっ、私は株で十二分に稼いでるわよ。あなたは私と違って頭悪いんだから、せいぜい馬車馬の如く体使って稼ぎなさい」

 

けっ、これだからインテリは嫌いだ。楽して儲けようとしやがって。まあ、いいや。今度また何か買って貰お。

 

「いいんだ、プレシア。主は何もしなくてもいい。主はただ家で私たちの帰りを待ってくれさえして頂ければ十分」

「私も夜天と同意見だ。主は主の好きなように生きて欲しい」

「……………隼、シグナムと夜天にここまで言われて、あなたは男として思う所はないの?」

「ご苦労様」

「く、腐ってる!」

 

ひっでぇ言い草だ。

 

「そう言ってくれるなプレシア。それにお前は誤解しているぞ。主の優しさがまだ理解出来ていない」

 

そういうシグナムに夜天が続いた。

 

「我らが稼いだお金、主は一切手を着けられてない。我ら一人一人に口座を作ってくださり、通帳とカードを渡してくれた。給金は全部そこに振り込まれている」

「『名義は俺のだけど、中に入ってる金はお前らのだ。テメェの為に好きに使いな』と。断っても頑として受け取って下さらない」

 

シグナムと夜天の言葉を聞き、ポカンと口を開けて呆れている様子のプレシア。ついでにアルフとリニスもどこか驚いている顔をしている。

 

んだよ、何か文句あっか?リニスちゃんとアルフのその顔は可愛いから許すけど、プレシアのその顔は殴りたいほどムカつくぞ?

 

「バ~カ、それこそ勘違いしてんじゃねーよ。俺ァただお前らの個人的な物を買う時に一々俺の財布から金が無くなっていくのが気持ち的に嫌だから、ならそっちはそっちで金を持たせようと思っただけだ。優しさ?ンなもんねーよ。合理的と言え」

 

いくら金持ちになっても、家族とは言え他人の欲しいモンを、例えば服とか下着を買って自分の財布を軽くするのは嫌なんだよ。俺の金は俺の為だけに使いたい。

だから、今は好きなもん買いたい時は自分の金から出させ、出せる範囲で好きなもんを買わせてる。テメェが何を買おうが勝手だが、俺はビタ一文払わない。

バイト継続させてんのもそういう理由からだ。

 

「ホント、腐ってるわね」

「うるせぇよ」

「…………でも、まぁ、そうね。チーズとかヨーグルトとか納豆とか、そういう感じの腐り方だから、まだ良い方かしら」

 

意味分かんねー。

 

「プレシアもですけど、やっぱり隼も素直じゃないですね」

 

おいおい、リニスちゃん。正直な事に定評のある鈴木隼を捕まえて『素直じゃない』とは穏やかじゃないな。

その激烈に可愛い顔に免じて許すけど。

 

「うんうん、やっぱり隼は馬鹿だけど良い雄だ!」

 

おいおい、アルフ。紳士で理知的な真人間の鈴木隼を捕まえて『馬鹿な雄』とは穏やかじゃないな。

その冬場でも丸出しのキュートなおへそに免じて許すけど。

 

「まあ、でも、どんな腐り方でも腐ってる事には変わりないわね。毎日毎日家で寝て食べてネットしての繰り返し。その内物理的に腐るわよ?いえ、もう腐り切ってるか。ハァ、情けない」

 

おいおい、プレシア。色々な意味で新鮮度100%の鈴木隼を捕まえて『腐り切ってる』とは穏やかじゃないな。

問答無用でぶん殴るぞ。

 

「あーあー、うるせぇな。お前は俺の母親かっての」

「あなたみたいな息子なんて死んでも持ちたくないわよ。………母親と言えば、あなた、この前実家に帰ってたわよね」

「あん?何を今更」

 

プレシアの言う通り、ついこの前、俺はシグナムたちを連れ立って2~3日実家に帰っていた。帰郷の理由は何の事はない、よくある法事というやつだ。だから俺一人で帰るつもりだったのだが、騎士共全員が俺の親に会いたいと抜かしやがったんでしょうがなく一緒に帰った。

 

けど、それはもう1週間前の話だ。その間、何度も顔を合わせてるのに今日になって何だよ?

 

「だって、あなたこの一週間ずっと不機嫌だったじゃない。いえ、不機嫌なんて生ぬるいモンじゃなかったわ。寄らば殺すってくらいだったわね」

 

……………まあ、自覚していなかったわけじゃねーけどさ。熱くなるのが早い俺は逆に冷めるのも早いタチだから、一週間も不機嫌ってのは我ながら稀だった。

けど、それくらい俺はドタマに来てたんだよな。

 

「………聞き辛かったんだけど、親と何かあったの?それとも、その………親に何か不幸でも………」

「ん?何かあったかだと?親に不幸?ハハハ、お前面白い事言うなー。何かだって?不幸って………………俺が不幸だよ!あんのビッチババア、次帰ったら死ぬまで殴り続けてやる!!!」

 

相変わらずのクソババアっぷりに今思い出しただけでも殺意MAXだ!

 

そんないきなりの俺の豹変ぶりに事情を知らないプレシアとリニスとアルフを目を丸くした。

 

「ちょっと夜天、隼の奴一体どうしたのよ?親と何があったわけ?」

「親と何かあったと言うか、親がナニカと言うか………」

「は?」

 

夜天の意味の分からない言葉に怪訝な顔を見せるプレシアとリニスとアルフ。そんなプレシアたちにシグナムが端的に説明に入った。

 

「主の御父上殿はご立派な方だった。誠実で実直、透き通るような心を持つ男性だった」

「へぇ、隼とは正反対の人みたね」

 

確かに"今度"の親父はかなり真面目な奴だったな。それでいて嫌味もなく俺のような奴に接してくれる人間性は素晴らしいものだ。ああいう奴は嫌いじゃねえ。

 

「それじゃあ、隼がこんな殺意むき出しにしてる原因は母親のほう?」

「まあ、何というか………凄い御方だった」

「凄い?」

 

そこからは俺が引き継ごう。ありったけの憎しみを込めて。

 

「約一年ぶりに帰って来た息子の息子を蹴り上げて一言、『なんだよテメェ、まだ健康そうだな。早く死ねよ、いい額の保険掛けてんだから』。二言目は『おいマジかよ、お前が女連れだと?天変地異の前触れか?ふ~ん………で、誰の穴で童貞捨てたんだ?』。で、三言目、『おっ、そっちの浅黒い兄ちゃんいい男じゃねーか。おい、酌しな』」

「…………………………」

「さらに『ああ?ンだ、その汚ェ目つきは。ヘタレ童貞が誰に向かってガン飛ばしてんだ?』とフルスイングで俺の顔をぶん殴り、俺が殴り返すと『親に向かって上等コくたぁ親不孝モンここに極まれだなコラ。再教育してやんよ』と2度目の息子の息子蹴り」

 

あまりの内容に呆気に取られるプレシア達、苦笑いを浮かべるシグナムと夜天。それを見て「けっ」と吐き捨てる俺。

 

「暴力上等で、自己中で、傍若無人で、デリカシーがなく、金と男と喧嘩が何より大好きって…………母親って言葉を辞書で調べて生まれ直せってんだよ!」

「た、確かに凄い御母上ですね」

 

凄いって言葉だけじゃ足りないぜ、リニスちゃん。

 

「あれ?でもさ、誰かに似てないかい?何かそんな奴、私知ってる気がするんだけど」

 

何素っ頓狂な事言ってんだよ、アルフ。あんなクサレビッチがそうそう居るはずねーだろ。もし、そんな奴が他にもいるなら俺直々にぶっ殺してやる。

 

そんな事を思っていると、補足するように夜天がビッチの事を続けた。

 

「ちなみに御母上はこのような事も言ってました。………『私の気に入らねー奴は誰だろうとぶっ殺す』『終わり良ければ全て良し』『棒がついてりゃ皆男。ただしイケメンに限る』『今を楽しめ』などなど」

 

その夜天の言葉に皆が皆『得心がいった』という顔で俺を見た。………いや、なんだよ。見てんじゃねーよ。

てかさ、夜天もさ、「棒」とか言うのやめようぜ。きっとあんま分かってないんだろうけど。

 

「な?腹立つ物言いだろ?そのお陰で俺はガキん頃からいい迷惑だったぜ。親父が何度も変わるしよ」

「え、それってどういう………」

「あのビッチ、男大好きだからさ、自ずとっかえひっかえよ。今の親父は9人目だ」

「ぶっ!?そ、それは凄いわね。ていうか、隼はいいの?それで」

「べっつに、知ったこっちゃねーよ。まあ、俺も最後良ければ全て良しってタチだからな。『最初の相手も特別だけどよぉ、最後に傍に居てくれる相手はもっと特別で大事だろ』っていうビッチババアの持論も分からねー事はねえ」

「…………最後に傍に居てくれる、相手」

 

プレシアは同じサド母親として俺の母親の言葉に何か感じ入る所でもあったのか、噛み締めるように呟いた。

まあ、お前もさっさと次の相手でも見つけてくれや。見た目若くなったんだから、相手くらいすぐ見つかるだろうしよ。俺のビッチババアが9回も結婚出来たんだ、お前にも一人くらいは出てくるさ。多分な。

 

「…………隼、何か失礼な事考えてるでしょ」

「今までお前に礼を尽くした事なんてねーよ」

 

それにしてもあのビッチめ!母親とは言え俺に毎度毎度上等な態度取りやがって。てか、息子に対する言動じゃねーだろ。お前は漫画やアニメから出てきた荒唐無稽な設定を持つ母親か?

 

「それにしても主が一方的に足腰立たなくなるまで殴られるなんて初めて見ましたね」

「ああ。主をああも容易く御せるとは。最初はたとえご母堂とはいえ、とも思ったが主も楽しそうだったからな」

 

夜天、「一方的に」とか言うの止めてくんない?情けなくて腹立たしいから。それにシグナム、そりゃ見間違いだ。確かに喧嘩は楽しいから好きだけど、あのババアとの喧嘩だけは殺意しか生まん。

 

(ちっ、やってらんねー)

 

もう何か全部どうでもいいや。飯も食ったし、部屋に引っ込んでネットでもやろうっと。

こうやって今日も昨日と同じ、平和な平和な一日が始まるのであったマル。

 

…………あ、いや、ちょっと違うか。

 

 

 

 

 

今日から新しい月、一年最後の月、師走───────12月1日だ。

 

 




As編開始です。
さてリメイク前に対して登場キャラも多くなる予定ですが、どうなることやら。

この機会にAsの映画を見直してみた。………やっぱりヴォルケンズ格好いいですね。特にザフィーラの渋さに惚れ直しました。
そして当作品の騎士たちはやっぱり半オリキャラだと再確認。
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