それに伴い、AS編はおそらくR15的表現が多分に散見するかと思うので、以降は読まれる際はご注意ください。
フルオープンだ。
何がかというと、例の扉が。
前回からこう。もう閉める事すらやめたようだ。そのうち「ようこそ」なんて垂れ幕まで出てきそうだ。
それじゃ、まあ毎晩の如く、こんばんは~。
────むむむっ、ここ……いえ、やっぱりこっちに……
そんな声が聞こえたのは、上の方。見上げればガキが赤い翼を広げてパタパタと飛んでいる。その顔は悩ましげ。
見詰める先には、山。
そう、部屋の真ん中には20メートルを越す山が聳え立っていた。
何してんの?
────あ、隼!どうです見てください!昨日隼の話しに出た富士山を積み木で再現しようと思ったんです!現在、21メートルと32センチ!
ああ、そう言えば昨日、この夏にウチの奴らで富士山登ったって話したんだっけ。
だが、何故再現しようと思った?それも積み木で?いったい何年掛けるつもりだ?
取り合えず、蹴っ飛ばして崩した。ガラガラガラ、ドシャーンと。
──────あーーーーーー!?!?!?あと約3755メートルだったのに!!………怒りました!!じょーとーってやつです!!
この晩、久々に喧嘩した。
現在、俺は風呂場で冬場だというのに冷たい水をその身にこれでもかと浴びていた。
頭上から降ってきた水は俺の項垂れた頭の上へと落ち、そこから身体を伝い、或いは髪の毛の先から滴り落ち、汚れと一緒に足元へと流れていく。
足元を流れる水が排水溝へと吸い込まれる様を見ながら、手元にある蛇口を捻って冷水を出していたシャワーを止めた。
毛先や顎先からポタポタと落ちる雫を目で追いながら、一度大きく溜息を吐く。
(なんで、俺ってばいつも猪突猛進なのかね………)
身体のベタつきと一緒に頭に上っていた血も下へと落ちたのか、事ここに至って漸く後悔の念が沸々と込み上げてきた。
どうしてもっと考えて物事を進めようとしないのか。
気に入らないのはいいが、だからってそれを一々気にする必要はあるのか。
厄介事は勘弁なのに、何故いつも自分から飛び込んで行くのか。
俺は偽善者ぶりたいのだろうか。英雄願望でもあったのだろうか。ドMなのだろうか。
(俺、なんか変わったなぁ)
昔の俺だったら、厄介事の臭いがすれば即サヨナラバイバイしてた。相手の都合や思いが気に入らないからと言っても、それが俺に対して害がなければガン無視してた。「気に入らねぇ奴。いっそ死ねば?」、そう言って欠片も関わらず踵を返す、冷めた反応することだってしばしば。
なのに今回はコレだよ。今回もコレだよ。
確かにフランから聞いた八神はやてや騎士の行いにちょっと気に入らない所があったが、それは俺に害が及んでくるようなモンじゃないんだ。なのに俺は今から八神はやてと騎士共に対して、この『気に入らない』という気持ちを無視せず、晴らそうとしている。
(いつから俺は博愛の精神に目覚めたんかねぇ?)
一応自問という行為をしてはみたが、そんな事せずとも答えはハッキリと出ていた。
夜天の主になった瞬間から今日までの時間が、俺を見事なまでに再構成させやがったんだ。まあ、そりゃあれだけの体験をすりゃ当然と言やぁ当然か。
「…………それでも俺は俺だ。変わんねーもんも確かにある」
その証拠にこれから行おうとする事は、相手の想いなど無視して自分の想いや考えだけを貫き、押し付ける自分勝手な行為だからだ。
黙れと脅し、知ったこっちゃねーと吐き捨て、言う通りにしてればいいと強制する。
俺が気に入らないから。俺がムカつくから。
説教はしない。説得はしない。懇願はしない。
ただ成させる。
「ははっ、俺ァ碌な死に方しねーだろうな。地獄行き確定か?」
けど、そんな先の事はどうでもいい。やりたいようにやれる今こそが、俺にとっては一等大事なんでね。
「安心せよ、主一人逝かせる心算はない。我も一緒だ。ついでに閻魔を滅し、共に地獄の頂点で夫婦生活を続けよう」
「続けねーよ。てか、そもそも現世でお前とそんな生活を始める気がねーよ。そして、何をさも当然のように風呂場に入って来てんだよ。出ろよ」
いつの間にかフランが風呂場へと乱入していた。
「主は無理な要望が多いな。主が風呂場に居るというのに、どうやって部屋で待つ事が出来る?風呂場から聞こえるシャワーの音と脳裏に浮かび上がる主の裸体を妄想し、どうやって大人しくしていられよう?我には無理だ!だから一緒に浴びる!!」
「力強く断言すんなよ」
「一人で慰めるのはもう飽いた!」
「そこまで聞いてねーよ!」
いや、実際別に一緒に風呂入るくらいは構わねーけどさ。テスタロッサ姉妹とはいつも入ってるし。
そういや、最近はフェイトが一丁前にも恥ずかしがり始めて来たんだよなぁ。変わらず一緒に風呂には入ってくれるが、それでもここ最近は3日にいっぺんくらいの頻度だったし、入浴中はずっと胸元までバスタオルを巻くようになった。
なんだかなぁ、隼さんはちょっと寂しいぞ?まあ、それが成長ってやつなんだろうな。
対してアリシアとライトはまだまだ無垢で可愛い(勿論フェイトも可愛いが)。二人とはほぼ毎日一緒に入ってたし、勿論入浴中もマッパで暴れまわっている。ただ流石に「コレ取れる?」「何かついてるぞ?汚いから捥ごー!」と言われ、俺の愚息を引き千切らんばかりの力で掴まれ、振り回された時は、二人が無垢だろうと無知だろうと関係なく、俺は涙を流しながら全力で怒ったけど。
「ふむ、やはり妄想で我慢せず、一緒に入って良かった。漸く主の全てを眼に焼き付ける事が叶った。どれ、礼代わりに背中を流してやろう」
「そりゃ有り難い。がフラン、人と会話する時は相手の目を見ながら話すのが礼儀だぜ?」
「そうは言うても主よ、何分我と主とでは身長差が大きい。ずっと見上げるのは首が疲れるのだ。だから、目線を少し下げ、主の目を見る代わりに他のモノを見ながら話しておる次第。『相手の一部を見ながら話す』という点だけ考えるなら、これも正解であろう。だから、我は主の目の代わりに、主のペニ───────」
風嵐が最後まで言い切る前に、俺は片手でコイツの頬を『むにゅ』と挟むように掴んだ。それでも尚、こいつ言葉を続けようとしているが、そんなひょっとこ口では「うにゅうにゅ」としか聞き取れない。てか、聞き取らん。
「いいか?次、おませを通り越したガキらしからぬ発言をしようもんなら、その口縫い付けてやっからな。分かったか?」
「うにゅ」
フランが頷くのを見て、俺は手を離した。
「つまり主は縫合プレイがお望みか」
「お前は人の話を聞いてましたかああああああああ!?」
どんなプレイだよ聞いたことねーよ!駄目だこいつ、早く何とかしないと!!
「はぁ……この好き物王様が。お前、将来、職業・風俗嬢とかにマジでなってそう。そりゃお前が誰と寝ようが構やしねぇ、けど誰とでも寝るような奴にはなんなよ?」
そう言いながら、冷えてきた体を温めようとシャワーの蛇口に手を伸ばそうとした時、横からその手を引っ手繰られた。その先には怒りと悲しみが同居したような顔をしている風嵐がいた。
「………誤解するでない」
「あん?」
「言ったであろう。我が愛しているのは主だけだ、我が全てを曝け出そうと思えるのは主だけだ。もし仮に我の裸体を主以外の男に見られたならば、その男含め親族尽くを根絶やしにしてやる。………主以外の男に見られたら、触れられたらと考えるだけで怖気が奔る!」
「ええっと…………」
「だから、どうか主よ…………そんな悲しいこと言わないでくれ。本当に、我は魂の底から主だけを愛おしく思っておるのだ。『誰でも』?『誰とでも』?………有り得ん!」
あー…………これってやっぱり俺が悪いよね?ふざけ半分で『風俗嬢~』って言ったんだけどなぁ………まさか、こんなマジで返されるとは思わなかった。
あれ?今、俺って男としてかなり最低ラインギリギリに場所に居ね?………え、余裕でアウト?流石にこれは無い?ですよね~。
……………マジでいっぺん死んだ方がいいかも知んねぇな、俺。駄目だこいつ、早くなんとかしないとってのは俺の方じゃん。いくら俺が自分本位っつっても、こうも真っ直ぐに感情見せられて無碍にするほど落ち潰れちゃいねぇ。
「悪かった、フラン。今のはかなり俺が馬鹿だった」
「………いや、我の方こそ少々熱くなりすぎた。許せ」
しっかし、相手がガキとはいえ『愛してる』なんて言われるのは照れる以前にどうも居心地が悪い。特にこいつは言動がガキじゃない分なお更だ。
ハァ………。俺たちは全裸で一体何喋ってんだろうね。なんだかな~。
「で、お前は一体何をしようとしている?」
「うん?だから、礼代わりに背中を洗ってやろうと」
「…………ソレ、背中じゃないからな?どう見ても背中じゃないから」
お前、やっぱもう出てけ。
03
さて、そんな感じで滞りなく入浴タイムが終わり、風呂場から出た俺とフランは居間で八神はやて他騎士たちの帰りを待つことになった。ただジッと待っているのは当然暇なので、フランの許可を得て冷蔵庫を漁って昼飯を作ったり、勝手にPCを起動させてネットをしたりして時間を潰した。
また、その間に俺の立場もフランに聞いておいた。
曰く、俺は管理局の魔導師であり、昨夜フランの魔力蒐集の対象となりリンカーコアを抉られた。が、俺は気絶する事も無くフランの後を追い、居場所を突き止めた。それが分かったフランは已む無く俺を監禁した───────と、それが騎士たちに対してコイツがした言い訳という。
また、蒐集云々を知らない八神はやてに対しては、昨夜コンビニ行こうとしたら途中で悪漢に絡まれてしまった。その時、身を挺して俺がフランを助けた。しかし、俺もボコボコにされて気絶してしまったので、手当ての為連れて帰った、と言い訳したらしい。
つまり要約すると、騎士たちにとって俺は厄介な管理局員で、八神はやてにとっては家族を助けてくれた正義のヒーローという立場らしい。
なんともややこしい設定を付けてくれたもんだ。別に騎士たちには俺が写本の夜天の主とバラしてもいいんじゃないかと思ったが、そうすると騎士がどのような行動に出るか不確定だったのでこうしたとの事。聞けばフランも騎士たちには『写本の断章』ではなく『新しく生まれた夜天の騎士』という立場を取ってるらしい。
まあ、コイツの事はどうでもいいし、これで俺の立場もよく分かった。どう考えても騎士たちからはバッドな反応しか返って来ねーだろうな。
騎士……夜天、シグナム、シャマル、ザフィーラ、ヴィータのオリジナル。俺の仮家族共の元となったプログラム。
まさか会う事になるなんてと今更ながら驚きだ。どんだけ同じなんだろうな?
(まっ、そうは言ってもやっぱ結構違うんだろうな。俺が俺であるように、オリジナルはオリジナル、コピーはコピーだろうし)
少なくとも内面は全く違うと断言できる。だから、俺が見るべきところは外面、つまり肉体だ。特にオリジナルの夜天とシグナムとシャマルのお体をコピーのそれとちゃんと比較してみないと。
(やべ、興奮してきた!!)
俺が期待に胸を膨らせ待つこと数時間。あっという間に時は流れ────────。
「ただいま~」
ついに運命の時が訪れた。
「フラン、ええ子にしとったか~」
すでに太陽は沈みだし、空が赤から黒へと変色していこうという時刻。
居間でフランとソファに座っている俺の耳に扉の開く音、次いで帰宅の挨拶が聞こえ、廊下の歩く音が聞こえてきた。
聞こえた声は俺の初めて聞く声で、つまりそれが八神はやての声なんだろうけど、八神はやては車椅子な筈だから、この足音は騎士も一緒の帰宅という事だろう。
果たして…………。
「ただい………ま?」
扉を開けて居間に入ってきた車椅子のガキ───八神はやてが呆けたような顔をし、その場で停止した。その後ろから『どうしたんだ?』という顔で夜天以外のオリジナル騎士共が入ってき、これまた同じように呆けた顔になる。ただ、こちらはすぐさま警戒するような顔つきを見せた。
対して、俺は努めて明るく返事をした。
「よう、お帰り。邪魔してんぞ。てか、さっさと中入れよ、暖房効かしてんだから」
「へ?あ、はい」
車椅子を操作し、言われた通りに中に入ってくる八神はやて。それに続く形で騎士共も入室してくるが、こちらは今にも斬りかかって来んばかりの形相だ。多分、俺の横に同じ騎士であるフランがいなかったらマジで斬りかかって来てんだろうよ。
しかし、なんか新鮮だね、シグナムとシャマルとザフィーラにそんな顔されるのは。ヴィータのその顔は今更だが。
そんな騎士達の様子に気付かない八神はやては、座っている俺の前へとやって来た。そして、驚いた顔を引っ込めて柔らかい笑みを浮かべる。
「昨晩はフランが世話になったようで、ホンマありがとうございます。お怪我は大丈夫ですか?」
この言葉で俺は八神はやての優しさが改めて分かった。
いくら家族を助けて貰ったからと言って(嘘なんだけど)、見ず知らずの男を家に泊め、さらに我が物顔で居間で寛ぎ茶をシバいている俺に向けて、こんなお礼と心配の言葉を掛けてくれるとは。
お兄さんは感動で咽び泣いちゃいますよ?
(八神はやて……なるほどね、確かによく出来たガキだ)
早熟とまでは言わないまでも、ガキらしくはない。
そこはいただけないが、しかしそれは両親と死別したが為にそうならざるを得なかったからだろう。大人の背中を見て過ごせなかったのだろう。そこを加味すれば、あるいは同情すれば、はやてという少女は俺にとって可愛いガキの部類に入る。
(ガキらしくないガキ……けど、この場合、それは大人の責任だろうな。傍にいてやれなかった大人の、よ)
数時間とはいえ、この家で過ごして分かった。
たぶん、騎士どもが来るまで長い間はやては一人だったんだろう。
一人暮らしが長く、けれど急に大人数で住むことになったような感じをこの家から見て取れた。根拠はいくつかあるが、一番はやっぱ『俺がそうだった』から。
(フランがあんなだから、前例通りならオリジナルはいい奴だろうなとは思ってたけど……こりゃちょっと予想以上だわ)
俺は数分前まで確固たる意思を持って八神はやての事が────気に入らなかった。ムカついていた。その理由は………あれ?なんだったっけ?確か『無知だからって云々』『テメェのケツくらいテメェで拭け云々』とか、そんなよく分からない怒りを抱いていたと思う。
が、もうどうでも良くなった。
(改めて考えりゃこんなガキにムキになるっつうのも大人げねーわな)
と、黙り込んで考えてるとはやてがどうしたのものかいった感じでこっちを見ている事に気づく。
俺はひとつ咳払いをして返答した。
「ああ、こんくらいの怪我ならなんも問題ねーよ。と、俺は鈴木隼な。まっ、よろしくはやて」
「あ、えっと、宜しくお願いします」
「別に敬語じゃなくていいぜ?てか、次敬語使ったらぶっ飛ばす。んで、その後ろの人らは家族か?」
「あ、うん。ええとな、そっちにおるのがシグナム言うて──────」
はやての家族紹介を聞き流しながら、俺はここにきてやっとオリジナルの騎士たちを見やった。というかガン見!…………………結構なお手前ですハイ。
シグナムもシャマルも変わりなく素晴らしいの一言だ。ザフィーラとヴィータも相変わらずどうでもいい存在だ。そして夜天は………………あれ?夜天がいない?
軽く目だけ辺りを見回しても、夜天らしき人物は影も形も見当たらない。俺はまだ帰って来てないだけだろうと思ったんだが、そこで丁度八神はやてからの家族紹介が終わり、それに夜天の名が出なかった事を怪訝に思った。
勿論、俺ははやてに「夜天は?」と聞こうとしたが、そこでふと自分の立場を思い出し、はやてにではなくフランに念話で聞く事にした。
《おいフラン、夜天はどこにいんだ?》
《お、おお!頭に甘く響く念話、主の声、これは良いものよ……疼いてしょうがないなあ!!》
《聞・け!夜天はどこだ!》
《夜天?………ああ、官制人格の事か。あれはまだ目覚めていない》
な~んだ、残念。どうせならオリジナルの夜天からも警戒心に満ちた目で睨まれてみたかったのに。
まあいい。夜天がいないとなると、つまりここにいる奴らで八神家全員という事か。
だったら舞台は整ったという事だ。
ここで一端ナイスバディへと向かう思考を止めようか。
「はやて、喋ってるとこ悪ぃけど、一つだけ俺言いたい事があんだよ」
「ん?なに?」
確かに俺は八神はやての事が気に入った。それは間違いない。だが、だからと言ってここでサヨナラバイバイをするつもりはない。
俺は一度『成す』と決めたなら、絶対に『成し遂げる』…………とまではいかなくても、『成せる所までなら成す』。
だから、胸を張って言ってやろうじゃねーの。
「はやて、お前さ、このままいけば後1ヶ月も掛からず死ぬんだってさ。闇の書って本持ってんだろ?その呪い、みたいな?その足もその影響らしいぜ。これマジ」
さあ、厄介事の始まりだ。
目の前には超美人の顔が息の掛かる距離にまで迫っていた。切れ長の目と潤った唇がかなり魅力的で、このままキスの一つでもかましたくなってくる。
けれど、雰囲気とその形相はとても甘いものじゃなかった。
これほど憤怒の表情を浮かべた超美人──シグナムを、俺は見た事がない。
「キサマッ!」
おおっ、あのシグナムから『キサマ』なんて言われちまったぞ。いくら別人と分かってても、その顔と声で言われたらやっぱなんか新鮮だな。
と、そんな阿呆な感想を抱いている場合じゃないな。はやてはもう何がなんだか分かりませんって顔してるし、他の騎士もシグナムと同じく激怒プンプン丸っぽいし、フランは俺の胸ぐらを掴み上げているシグナムを尋常じゃない顔で睨みつけてるし。
「シ、シグナム、暴力はあかんよ!隼さんも、いきなり変な冗談は─────」
「冗談?冗談だったらいいね~。でも残念。全部ホント。それとクソプログラム、テメェ、いつまで人様の胸ぐら掴んでやがんだ?離せやボケ」
そう言いながら俺はシグナムの手を乱暴に叩き落とした。いくら美人つっても調子乗るのは許せねぇぞ?オリジナルだろうとコピーだろうとそこは譲らん。
「ち、ちょう待ってや、隼さん。冗談やないってどういう事なん?それに、プログラムって………」
「どうもこうも、お前はこのままいけば年を越す前にお陀仏。その原因を作ってるのは闇の書っつう魔法の本な。てか知らなかったのか?こいつら、お前の紹介したここにいる家族は人間じゃなく───────」
「言うな!!」
「この野郎!!」
シグナムが怒声を上げ、それに続いてヴィータが我慢の限界とばかりに俺に飛び掛って来た。が、俺の隣に居たフランが、こちらも我慢の限界だったのか、飛び掛ってくるヴィータを顕現させたデバイスで叩き落とし、シグナムに向けて魔法弾を一発放った。
「ぐっ、フラン、なんの心算だ!」
「テメェ、フラン!」
「黙れシグナム、ヴィータ。身の程を弁えよ。何人たりとも我の男に手を出す事は許さん」
そう言って俺の横に静かに佇み、全員に向けて敵意を放つフラン。それに戸惑いを見せる騎士たちだが、それでも俺への厳しい視線は止む事はなかった。
……ったく、うざってぇな~。どいつもコイツもテンション高すぎ。
取りあえずフランに一発拳骨を落としといた。
「なにをする。気持ち良いではないか」
「お前、ちょっと喋るな。シリアスが続かないから。それにシグナムもヴィータもちょいと落ち着きな」
俺はポケットからタバコを取り出し、はやての許可を得て一服つかせてもらう。なんともマイペースな事この上ないだろうけど、焦ってもしゃあねーべ。
「で、はやてよぉ、混乱してるとこ悪ぃけど、でも今のフランの魔法を見て俺の言ってる事が少なくとも冗談じゃないと分かっただろ?聞いてねーのか?こいつらは魔法使いで、信じらんねーかも知んねぇけど人間じゃない。書のプログラム、確か魔導生命体っつったけ?」
「……で、でも」
「そして俺も魔法使いだ。人間だけどな」
ポッと掌の上にピンポン玉くらいの大きさの魔力球を出し、それをはやてが驚きの顔で見たのを確認して消す。
「最後にもう一つ…………はやて、今こいつらがやってる事知ってるか?お前の為にどれだけ他者を犠牲にしてるか知ってるか?」
「─────え」
はやては呆然とした後、どういう事かとシグナム達の方に顔を向けた。きっとそのはやての瞳には、悲痛な面持ちで佇む騎士たちの姿が映っている事だろう。
ホント優しいやつだ。自分の命がどうとか、騎士たちの存在がどうとかの事より、他の人の心配をするなんてな。
「ど、どういう事なん皆?わ、私の為に他の人を犠牲って……………」
「あ、主はやて、それは………」
気まずそうには顔を伏せるシグナムたち。そして、無駄な沈黙が訪れた。
ったく、しょうがねーなぁ。黙ってても埒が明かんし、ここは俺が説明してやるか。
「はやてよぉ、そんな悲しそうな顔してたらシグナムたちも答え難いって。それにさ、別にお前が悲しむ事じゃねーぞ?な~に、ただシグナムたちはお前を助けたかっただけさ。ただそのやり方がちょっと犯罪チックなだけ」
「は、犯罪……?」
「おう。お前の命を救うにはな、闇の書っつうマジックアイテムに魔力を入れなきゃなんねーんだけど、その魔力を他の生き物から奪い取ってるわけ。無理やり搾り取ってるわけ。そうだな、もっと具体性を持たせるなら、生爪を剥ぎ取る行為をお前の為にやってるわけ。何人にも、何匹にもな。相手が苦しもうが『やめてくれ!』と懇願しようが、ンな事ァ構わず、問答無用で無理矢理、ただお前の為によ」
「そ、そんな……う、嘘やろ?」
信じられないという顔でシグナム達を見るはやてだが、生憎とコレ本当。その証拠にシグナムたちは秘密をバラしたにっくき筈の俺に何も言い返せないほど、悲しみで項垂れているのだから。てか、このオリジナルも正直者だねぇ。「そんなの嘘だ」って誤魔化しゃいいのに。
そして、そんな反応をされたはやては、こちらも悲しみで項垂れた。こっちも俺に向かって「そんな嘘言うな」って言やぁいいのに。それほど騎士たちの事、信じてんのかね。その信じなきゃならない事が例え悪行だとも。
皆が皆、悲愴な態度を取る様を見て俺は、
「ちっ、やっぱ気に入らねぇな」
ポツリと呟いた。
ああ、なんて気に入らない態度なんだ。ムカツク。
そう思った所で、俺の限界。短気は損気、なんて言葉があるが知った事か。大損覚悟の上じゃ。
俺は立ち上がり、項垂れているシグナムの胸ぐらを掴むとこっちに無理やり向かせた。
「何被害者ヅラで悲しみに暮れてんだよ、ああん?大切な主に悪行がバラされて悲しいよぉってか?」
「っ、わ、私たちは……!」
しかし、そこから言葉は続かない。怒りと悲しみが混同した瞳を俺に向けてくるだけ。
ああ、こりゃまたもヤバイな。またスイッチ入っちまうぞ俺。てか、もう入っちまった。
「中途半端な覚悟で人の命をどうこうしようとしてんじゃねーよ!いや、そもそもそれが気に入らねぇんだ!」
「な、なにを……」
「人の命を助けるのはいいさ。悪行に手を染めても助けたいって気持ちは評価に値すんぜ。でもな、それを本人に隠してんじゃねーよ!人の命を本人の与り知らぬ所でどうこうしてんじゃねえ!はやての命は誰の物でもねぇ、はやてだけの命なんだからよぉ!なのにやってる事を隠し、自分がどんな存在か隠し、はやてには普通に生活して欲しいってか?自分たちを普通の家族として見て欲しいってか?ガキかテメェらは!死ねよ、クソ馬鹿共!」
フランに話を聞いたときからコイツラの事は気に入らなかったんだよ!
はやてに知られないよう魔力蒐集し、バレるのを恐れて自分を偽る騎士共。都合が良すぎんだよ。
「てか、テメェもだ、はやて!まさかコイツらが普通の人間だと、自分となんら変わらない存在だとマジで今まで思ってたのか?ンなわけねーよなぁ。蚊ほども不信に思わなかったわけねーよなぁ。なのに、テメェはその思いを隠したわけだ。テメエを騙したわけだ。家族が出来たからって舞い上がってたか?こいつらは悪い奴じゃないって、そんな根拠の無い意味不な信用でもしてたか?モンスターペアレントか?馬鹿が!馬鹿なガキは好きだが、度を越えた馬鹿は救えねーんだよ!」
気に入った筈のはやてにまで当り散らす俺。まだまだ幼いガキにムキになっちゃう俺。9歳児に無理難題な気構えを押し付ける俺。
まあ一番の度を越した馬鹿は俺だな。
うん、知ってる。
だから、俺は自分の事はいつも通り際棚に上げる。無茶振り上等。
加えて、だから、これだけは言わせて貰う。
「テメェら、そんなんで『家族』やってんじゃねーぞコラァ!!」
「!!」
それが今回2番目に俺が気に入らなかった点だ。
曲がりなりにも同じような立場で『家族』をやってる俺は、どうもこいつ等の中途半端な覚悟の決め具合が癪に障った。
そして、ここまで言われても何も反論して来ず、ただただ呆然と、あるいは悔しそうな顔で黙っているだけのコイツらが改めてムカついた。
「………よし、俺ァ決めたぞ」
何をかと言われると、『覚悟』を。
厄介事に身を浸す『覚悟』を。
実はさっきまではそんなに乗り気じゃなかった。出来れば上手い事厄介事を回避出来ればなぁと思っていた。
が、もう無理。もう俺フルスロットル。
「テメェら全員、俺がぶっ生き返してやる!」
俺の今回一番気に入らない点を教えてやろう。
それはな、気に入った可愛いガキ、俺の家族に激似の美人たちが、俺の気に入らねー事をしてる事が気に入らねーんだよ!
と、さてまあ、またしても俺はテンションの流れるままに後先考えず思いのたけをぶっちゃけた訳だが。
ここで一句。
馬鹿がいる
ここに一人
馬鹿がいる
(うん、俺の馬鹿……………ホントに馬鹿ァァァァアアアア!!)
ぬぅわぁにが『よし、俺ァ決めたぞ』だ!『ぶっ生き返してやる』だ!格好良く決めた心算か!?キメ顔でしなくてもいい覚悟してんじゃねーよ!暴走特急もいい加減にしとけ!なんで大人しく帰ろうとしなかったんだ!
…………終わった。俺の『平和な日常を過ごす』というフラグがばっきり折れる音が聞こえた。そして、何か変なフラグが立った。立てちゃいけないフラグがドド~ンと立ったのだ。
「ははは………なあ、お月さん。俺ァどこで間違えたのかな?」
空を仰げば満天の月夜。
ここ、八神家の庭で俺はダーティに紫煙をくゆらせていた。家の中からははやてと騎士たちの穏やかな笑い声が耳に入り、それが嬉しくもあり忌々しくも感じる乙メン心。
「けっ!すっかり仲良さげになりやがって。もう別に俺が首突っ込む必要無くね?」
俺が一方的に啖呵を切ったあの時からまだ2時間と経っていない。なのに、はやてや騎士共はもう悔恨もなく打ち解けたようだ。
その光景は俺の思う『家族』そのもので、本来は俺も喜ぶべきなのだろうけど、生憎と素直にはそうなれない。
だって俺、何もしてないし。
そう、俺はあの『ぶっ生き返す』発言の後、はやてに「今から私らだけで家族会議するから」という理由で部屋を追い出されたのだ。無論、俺はまだまだ言いたい事があったのでそれを無視しようと思ったのだが、はやてから「私らはそれでも『家族』なんよ。せやから、隼さんにはただ見てて欲しいんや。私らが『生き直す』ところを」なんて事を強い意志の篭った瞳で言われちゃあ、もう黙ってるしかねぇべ?
んで、その結果が今の団欒っぽい雰囲気ってわけ。
別にあいつらは凄い事を話し合ってたわけじゃない。ただお互いの想いを吐露し合っただけ。それだけなのに、見事たった2時間でお互いを受け入れるまでに漕ぎ着けるたぁ、はやて恐るべし。家族に成り切れてなかったのとは言え、伊達に一緒に生活してなかったって事か?
(まあ、それはいいよ?少しでもいい家族に成れたならめでたしめでたしな話だからよ。…………そこまでは間違っちゃなかった)
間違ったのは……てか、読み違えてたのははやての性格だった。
はやての性格を俺は、優しいけれど少し臆病で伏し目がちな、大人にならざるを得なかったガキだと思ってた。ネガティブ時のフェイトとポジティブなのはを足してリニスちゃんで割ったような感じだと思ってた。…………見当違いも甚だしかった。
あいつ、家族会議の最後に俺に何て言ったと思う?
【隼さんの言うように、私の命は私のモンやろ?なら、自分で自分の命を繋ぐのも当然の行為。でも、今のままじゃ私は何も出来ん。ちゅう訳で私も魔導師になる!せやから、魔法のご教授よろしくな、隼先生?】
知るか!と俺は即答したね。そしたらこう即答し返されたさ。
【隼さんは私をぶっ生き返してくれるんやろ?それはつまり"人の命をどうこうする"って事で……あれ?確か隼さんは『中途半端な覚悟で人の命をどうこうしようとしてんじゃねーよ!』て言うてたよなぁ?せやったら、隼さんにも当然その覚悟はあるんやろ?生き直そうとする可憐な少女の手助けするくらいの覚悟は】
………馬鹿!その場のテンションとノリで似非カッコイイ事を言ったこのお口の馬鹿!
つうかテメェ、な~にが「ただ見てて欲しい」だよ!今までの殊勝な態度はどこに捨てやがった!はやてがこんなに図太く、図々しいガキとは思わなかったよ!いや、それもまあガキらしいっちゃあガキらしいけどさ!ガキは我侭言ってナンボだけどさ!
ああ、もう!!
「ああ、土壷に嵌って行く……その穴からおっきなフラッグがにょきにょきと生えてくる……」
なんでこうなるんだよ。途中までシリアス調で真面目な感じだったじゃん。さっきまで苦悩してたのは八神家だったはずなのに、なんでいつも最後は俺が苦悩するんだよ。おかしくね?
もうヤダ、誰か助けて。やたら滅多らに乱立してるフラグを誰かへし折って。
「呼ばれて飛び出て我参上」
「…………終わった」
フラグが折れるどころか、大漁旗を数旗掲げたフラグ艦がやって来やがった。
「どうしたのだ、そのような弱弱しい顔をして?思わず上と下から涎が垂れてしまったではないか…………食すぞ?」
「…………………」
「ほう、放置プレイか。…………………はむっ」
「マジで食うな!」
指先に食い付いたフランを慌てて引っぺがした。こいつならマジで食い千切るくらいやってのけそうで怖かったが、どうやらただしゃぶられただけのようで、指は5本とも健在。
「煙草味か。中々に美味。少し恐いが、次は是非とも下の方でも味わいたいものだ」
「お前マジで自重して。ホント、取り返しの付かない事になるから。ここから締め出されたらどうすんの?」
「我は取り返しの付かない事をシて欲しいのだがな。それに我のは締まり具合も良いだろうし、子供はまだ出来んから中でも問題ないぞ」
「今度何か買ってやるから本当に黙って下さい!」
「物欲はない。逆に我の春を買え。一晩たったの0円!」
もうヤダ、この子どうにかして。色々な意味でマジで立てちゃいけないフラグを立たせ過ぎ。
「まあ、本気はこれくらいにしておこう。で、主は何故そのような疲れた顔をしておるのだ?」
「こっからは冗談かよ。てか半分はお前のせいなんだけど…………まあ、アレだ、どうしてこう俺ってツいてねーのかなってな」
「ふむ?自分から係わり合いを持っておいて、その弁は矛盾しておらんか?」
仰る通りで。
でも、俺ってその場その場の気分で生きてるからさぁ。その時は本心から「覚悟決めたらあ!」と思ってはいても、後から「やっぱ面倒臭ぇ」という新たな本心が生まれてくるわけよ。
簡単に言やあ気分屋ってこった。
我ながらどうしようもないとは思うが、いちいち紆余曲折考え巡らせるより本心曝け出した方が楽なんだもんなぁ。
「ふむ、悩んでいる主の顔もそそるな。して、主はこれからどうするつもりだ?」
「あ?あー、取りあえずはやての命をちゃちゃっと救っちまおう。で、ガキらしい生活をさっさとしてもらう」
「流石は主、カップ麺を作るが如くに簡単に言う………そこに痺れる、憧れる、濡れるゥ!」
魔導師になる、と言ったはやての決意は固く、俺以下騎士共が今更何言った所で意思は変わらんだろう。なら、そもそもの原因である魔力蒐集を終わらせた方が早い。それが終われば、はやても魔導師としての手伝いも終わり、足もよくなってガキらしく外で遊べるようになるってわけだ。学校にだって通えるようになるだろう。
「小烏の命を救うか……まあ、アレにはもう少し生きて貰わなければならんし、それが主の意思なら我も尽力しよう。しかし、実際問題そう簡単ではないぞ。書の頁もまだ半分も埋まっておらんゆえな」
フランはそうは言うが、所がどっこい、意外にも楽にいかせられるんだよなぁ。
なにせ俺の家族とお隣さんは魔導師家族だし。アリシアは除けて、その他の奴らに協力させて魔力蒐集すりゃあ、全頁埋めるのは無理かもだけど結構なモンにはなるだろうよ。
ヴィータと理からは死ぬ半歩手前まで搾取してやる!
「すべて俺に任せておけ。未来は見えた!」
「我も主と子作りに励もうとする未来が見え───────んぁ!」
…………おい、コラ。なんでいきなり色っぽい声出してんだよ。また何か変な妄想しやがったな?頼むから見た目相応のガキらしい奴になってくれよ。
そう思いながら俺はフランを呆れの溜息を吐きながら見ていたら、フランがおもむろにスカートをたくし上げた。
「って、なにしとんじゃ!」
「すまぬ。携帯のバイブで感じてしまった」
そう言ってズボッとパンツの中に手を突っ込み、そこからバイブレーションしている1台の携帯を取り出した。その画面を見ながら溜息を零す。
「ふむ、またこやつか。何度電話を掛けてくれば気が済むのか。ほとほと諦めの悪い奴らよ」
「じゃねーよ!お前はどこの海パン刑事だ!」
「違うぞ。これは海パンではなくただのパンツ、そして我は刑事ではなく王だ」
「黙れ、変態王」
その俺の言葉に何故か照れた表情を浮かべながら、フランは携帯の着信に出た。
「しつこいぞ、クソ虫が。誰の許可を得て我と主の愛し合う時間を邪魔するか。殺すぞ?───────────ふん、だから何度も言うておろう、虫の力如きでは主は護れんと。身の程を弁えよ、老害」
なんか電話で物凄い物騒な事言いながら喧嘩売ってんだけど?どんな会話してんだよ。てか、電話の相手誰だよ。そもそもこいつ、八神家以外の奴に知り合いいたんだな。そして生意気にも携帯まで持ってんのかよ。しかも、俺と同じスマートフォンだし。いろいろびっくりだ…………………………………………ん?あれ?ちょっと待て。
あれ、俺の携帯じゃね?
「主も貴様のような古い女には飽いたと言うておったぞ?何でも『多少若返ったからと言ってぶりっ子してんじゃねーっての。所詮、中古は中古だろうが』だとか。そういう訳で、主はすでに我のモノだ。貴様らはレズっておれ」
俺の携帯のアドレスには女はそう登録されていない。さらにTELまでしてくる奴なんてそれこそ限られてるわけで。それにこの会話の内容を加味すれば……………………おい、おいおいおいおいおいおぉぉぉぉぉおおおおい!?
俺は絶賛喧嘩販売中のフランから携帯をぶんどった。
「プレシアか!?俺だ!隼だ!」
《あら、隼、こんばんは。そして、近々サヨウナラ。………………待ってなさい、その断章ごと殺しに行ってあげるから》
「ま、待て、こいつが今まで何言ったか知らんが誤解だ!」
フランはさっき確か『何度も言うておろう』と言った。それはつまり、プレシアは何度もコイツと会話をしたという事だ。いや、多分プレシアだけじゃなく、他の全員もだろう。だって、自分で言うのもあれだが、俺は好かれている(男として、かどうかは抜きにして)。そんな俺がまる一日行方不明になれば、あいつらの事だ、電話くらい掛けて当然だ。
なのに出たのは見知らぬ幼女で、そしてそんな見知らぬ幼女から有る事無い事言われた。しかも、フランの性格から考えれば18禁な事ばかりを。
…………やばい!やばすぎる!!なんとかご機嫌取りしないと!
「い、いいか、落ち着けプレシア!確かにお前はどうしようもないババアで、今更若い子のファッション雑誌を見て勉強してる姿は痛々しいが、中古じゃねえ。最低でも新古品だ。だからそんなに怒──────────」
《殺す》
何故だあああああああ!?
ど、どうする!?これ以上、どうやってフォローすればいいんだ!?
《…………主ですか?》
「え?そ、その声は夜天か!?」
《はい、お元気そうで何よりです》
いつの間にか電話口の相手が夜天に変わった。
プレシアの誤解は解けなかったが、逆に夜天だったら俺の話もちゃんと聞いて誤解だと分かってくれるはずだ!口調だって、いつもの冷静な夜天だし。
「夜天、あのな──────────」
《思えば主と喧嘩するのはこれが初めてですね。全力で殺しにいきますので、悪しからず》
ブチンッ、と電話が叩き切られた。
携帯なのに叩き切るって事が出来るんだなぁ、と思った。
「ノオオオおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
一番怒らせちゃいけない娘を怒らせちまったああああああ!!!
「うむ、計画通り」
「何が計画通りだ、ボケ!お前、自分が何やらかしたか分かってんのか!?」
「ハッ!たかだか枯れ乳ババアや古本コピー女どもに何を焦る事あろう」
「お、お前、あいつらの事何も知らないからっ…………ああ、クソ!」
俺は弁解すべくもう一度電話しようとして、そこで画面に映っている文字に気付いた。
着信…………63件。
メール受信…………319件。
ホラーだ。
震える手で携帯を操作。履歴、受信BOXを見ると鈴木家、テスタロッサ家の全員から連絡がある。さらになのはやすずかまで。そして送信のほうにはその全員にフランがメールを送っている。フェイトやアリシア、リニスちゃんまでにも余さずド汚ぇ言葉で。中には俺に成り済まして送っているような文面も見られた。
結論──────弁・解・不・可・能。
「………終わった。俺の好感度も、命も、完璧に終わりを告げた」
「心配するな主よ。我の主に対する好感度は濡れ濡れだし、命も我が護ってみせよう」
「ははははは」
乾いた笑いしか出ない。
フラン、お前は何も分かっちゃいない。あいつらの怖さを。どうせオリジナルと大差ないとか思ってんだろうけど、大間違いも甚だしい。
出会った頃はそうだったろうけれど、プレシアの一件以来あいつらは考えを変えた。
平和をただ享受せず、それを《次の戦いの準備期間》として捉えるようになった。
この半年間の、この差はデカい。
(………たぶん、ここにいる全員でかかったとしてもウチの奴らを一人も倒せないだろうなぁ)
敵に回しちゃいけない奴、情け容赦のない奴を敵に回した。その結果どうなるか。
答えは簡単。
はやて以上にガチで俺の命が危機です。
「どうしたん、隼さん?さっきから大声出して、近所迷惑やろ………って、ホンマにどうしたん!?顔が真っ青やで!?」
こちらの様子が気になったのか、はやてがシグナムに抱えられて庭に出てきた。そして、俺の顔を見て驚き、さらにさっきまで俺の事を嫌悪していたはずのシグナムでさえ驚いた顔をしている。
そんな二人に俺は疲れた笑みを浮かべながら、シグナムに抱えられたはやてを今度は俺が抱え上げた。
俺の尋常じゃない様子に、シグナムもはやてもそれを拒まなかった。
「はやて、お前はあったかいな」
「は、隼さん、泣いとるの?」
人は自分の命があと少しと分かると、他人に優しくなれるようだ。
俺の心は今、過去例にないほどに晴れ渡っていた。
「はやて、お前だけは絶対に死なせないからな。俺が絶対にお前を助けてやる。………だから、俺の分まで生きてくれ」
「ホンマに一体何があったんや!?」
「シグナムも、はやてと喧嘩すんなよ?どうか生きて幸せな家庭を築いてくれ」
「あ、ああ。いや、本当に大丈夫か?」
これであいつらから魔力蒐集の協力は出来なくなった。そもそも家に帰れない。
だが、それでももう後には引けない。
魔法世界に殴り込みに行ってでも魔力を蒐集してやる。管理局とも喧嘩してやんよ。だって、俺の命は後少しだし。
「さあ、そうと決まればちんたらしてられねぇ。ヴィータの言ってた『時折現れるでっかい魔力持った奴』を探しに行くぞ!」
もう何も考えない。考えたくない。未来はおろか現実ですら考えたくなくなった。
もういいよ、今度こそ本当に覚悟決めた。
俺ははやてを助けてやる。どんな障害が立ち塞がろうとも、どんな事をしてでもはやての命を救い、はやてをガキらしいガキにしてやる。哀れな障害者のガキじゃなく、元気で可愛いガキにしてやる。
俺の気に入った状態になるまで、気の済むまでやってやる!
「戦争だ。聞き分けのねぇ奴ら全員相手取ったらあ!とことんまでやってやんよ!明日を生きる為に!」
12月2日の夜、俺の一世一代の大喧嘩が始まる。