フリーターと写本の仲間たちのリリックな日々   作:スピーク

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お~い、お子さまや~い。

 

 

 

 

─────つ~ん、だ。

 

 

 

 

いい加減機嫌直せや。この前は悪かったっつってんだろ。

 

 

 

 

─────つんつ~ん、だ!

 

 

 

 

………イラッ☆

 

 

 

 

─────つんつんつ~……いたたたたた!?は、隼、頭ぐりぐりしないで痛いです!?

 

 

 

 

機嫌直せっつってんだろ?俺が謝ってんだぞ?何様だコラ?仏の顔も3度まで、俺の顔は一度までだぞ?

 

 

 

 

─────相変わらず理不尽ですね!?

 

 

 

 

たく、何度も言ってんだろ?お前の胸にもキチンと価値あるって。俺には無価値だけど。

 

 

 

 

─────そ、それじゃ意味ありません!私がこうやって会えるのは隼だけなんですから!隼からの必要性が、私の価値です!

 

 

 

 

おお、そりゃ光栄だね。

お前とこうやって夢ン中で会って早数ヶ月。もう来週から師走かぁ。年の瀬、もういくつ寝ると~ってか。……うわぁ、もしかして今年ってクリスマスプレゼントとかお年玉用意しなきゃなんねーのかなぁ。思えば今までやった事ねーな。初体験だ。

 

 

 

 

─────クリスマス?なんです、それ?

 

 

 

 

あん?知らねーの?そうだな……簡単に言やぁクリスマスは相手の欲しい物を、お年玉は正月に現金をあげるんだよ。大切な人とかガキによ。

あー、やだやだ、クリスマスプレゼントはともかく、何が悲しくて見返りもなく金やらにゃならんのか。

 

 

 

 

─────へ~………あのぅ、隼?

 

 

 

 

あん?ンだよ、チラチラ見やがって。

 

 

 

 

─────わ、私も、プレゼンと欲しいなぁ~て。も、もちろん、私もちゃんと用意しますよ?隼は、その、大切な人ですから!

 

 

 

 

貰えるものは貰うが………すまん、俺の方からはお前にあげることは出来ない。

 

 

 

 

─────……え、あ、そ、そうですよね。隼は別に私の事なんて……

 

 

 

 

俺に……俺に豊胸手術、つまり胸を大きくする技術はないんだ!だが何度も言うように諦めんなよ!誰だってきちんと成長するんだ!お前だって今から毎日牛乳飲めば10年後には0.1mmくらい成長するはず!

 

 

 

 

─────い・い・か・げ・ん・に、それから離れてください!!

 

 

 

 

この日から三晩ほど、ガキの機嫌はかなりの傾斜角を誇る事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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今日の喧嘩は過去稀に見る大喧嘩だったと言えよう。

あっちで原色の光が輝けば、こっちで肉を殴打する無骨な音が響く。罵声が飛び、血潮が飛ぶ、一見戦場のように見えても、しかしそこは喧嘩場だった。

 

そんなおっかなくも楽しい喧嘩を、三度の飯と同じくらい大好きな隼君は勿論とても楽しんだ……………わけねーじゃん。

 

いや、もうねぇ………このままじゃイカン。イカンのですよ。ビンビンにおっ立っちまってんだよ、壊滅フラグが。いろいろな意味でよォ?

何をどこで間違ったとか、そんな考察してる余裕なんてない。可及的速やかにフラグをへし折るしか生き残る道はねーんだよ。俺はまだ死ねないんだ。女一人抱くことなく死ぬなんて、そんなダセェ醜態晒せるかよ。何としても生き残って、哀れなはやてを救ってやって、ハッピーなエンディングを迎えなきゃなんねーんだ。その為なら、俺は夜叉でも鬼でも悪魔でも相手取って喧嘩してやる。

とことん突っ走ってやる………俺が童貞である限り。

 

そんな心意気が、きっと居もしない筈の神にも届いたんだろう。

 

天恵が舞い降りたんだ。それはもうリニスちゃんが満面の笑みで俺に笑いかけてくれるが如くの希望を伴った天恵が。

だが、しかし俺も最初はその天恵の実行に躊躇った。所詮は俺の頭で閃いた程度の打開案だ。よくよく考えれば穴だらけで、むしろそれは自ら進んで穴を掘ってしまうような考えなんじゃないかって。自慢じゃないが、工事現場のバイトでよく穴掘りはやってたから得意なんよ。よって今回も俺は綺麗な穴を掘っちまうんじゃないかって危惧したさ。

だからさ、俺はもう一度冷静になって考え直そうとしたんだ。練って練って、より良い案を出そうかと思って………………思っただけでやめた。

だってこの俺がどうこう考えた所で良い案なんて出るわけねーし。その場のテンションで波乱万丈に生きてきた俺が何をどう考えろっての?それにさ、昔の偉い人が言ったじゃん?『99%努力しても、1%の閃きがありゃあ努力なんてしなくていいんだよバ~カ!てか、努力する姿カッコイイが許されるのは小学生までだよね~』てよ。

だから俺もそれに則って「俺って天才!」的なノリでもう行っとこうかな~てね。面倒くさい事は無視して、思いついた事は即実行。楽に生きようぜ。

コレで良くね?うん、よろしい。

 

……………つう訳で。

 

「ウッス、姐さん。ジェイルいる?」

 

当初の閃きのままに、俺は実行に移すのだった。

 

使えるモンは使わねーとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先の第一次バケモノ大戦から数時間経った現在、深夜の八神家の一室にて、俺は電卓に似た端末を操作していた。

現在時刻はすでに夜の12時を回っており、はやて以下騎士は全員各々の部屋でぐっすり就寝中。

 

あの修羅場から無事生還を果たした俺たちを、はやては涙ながら安堵し、また怒っていたのは記憶に新しい。てか、ほんの3~4時間くらい前だし。

 

ボロボロになって帰ってきた俺たちの姿を見て、はやてはまずは驚き、そして泣き、さらにどういう事かと怒り始めたのだ。それはもう悲痛な限りで、さらに主を心配させてしまった騎士共の様子も悲痛な限りで、もう悲痛スパイラルだった。勿論、俺はそんなスパイラルに組み込まれるのは嫌なので、一人大人しくタバコを吹かしていたら、『なに一人関係ないですよ的な顔しとるんや!』と泣きっ面のはやてに怒られ、敢え無くスパイラル仲間となってしまった。

 

それから1時間に渡りはやての講義が始まり、それに対して適当に相槌を打ちながら適当に事情説明してたら、はやてはその態度が気に入らなかったのかさらに癇癪を起こし、聞くに堪えない程うざったく感じて来た俺は、ギャアギャア喚くはやてを問答無用で風呂に叩き込んで漸く終わった次第だ。

そのあと夜食を食いながら、騎士達に話した俺の素性をはやてにもカミングアウトし、最後にお決まりの「全て俺に任せろ!」と熱血馬鹿のように宣言して取りあえずの所は事なきを得た。

 

んでだ。

 

俺は今宛がわれた八神家の一室でベッドに寝そべりながら端末を操作してるわけ。

 

「────そういう事で、俺は何故か知らんがオリジナルの書の主の家にいるわけ」

『クッ、ハハハ、まったく君は相も変わらず飽きさせない男だね!』

 

俺の今の置かれている状況を聞いて、さも愉快そうに笑う一人の男。

端末の先から空中に小さな画面が浮かび上がっており、そこには可笑しそうに顔を歪めるジェイルが映っているのだった。

 

「こちとら笑えねーんだよ。このまま行けば俺ガチで終了しちまうっての」

『そうだろうね。管理局だけならどうとでもなるだろうけど、君の家族や隣人が出て来たとあっては闇の書の完成はまず無理と見ていい。鈴木家テスタロッサ家連合など、悪夢以外の何ものでもないじゃないか』

 

ちなみにこの電卓に似た端末だが、曰く、ジェイルんち直通の秘匿回線端末らしく、管理局でも傍受出来ない一品らしい。

いつだったか遊びに行ったとき姐さんにもらったのだ。

 

「ンな事ァ分かってんだよ。だがな、そこは流石の俺!解決策がピコンッと閃いたわけよ!」

『ほう?』

 

今までの愚痴交じりの現状報告も、冒頭の『天恵』を実行するべくの土台作り。

ここに来てようやく本題に入れる。

 

「今俺の頭を悩ませてる絶望は三つ。一つは俺んトコの騎士やテスタロッサ家の乱入、一つは圧倒的な戦力差、一つははやてデスまでのタイムリミット」

『まあ、そうだろうね。しかし、そんな状況をどう覆そうと言うんだい?そう簡単にはいかないと思うが?』

「ああ、そうだろうな。でも、お前は予想ついてんだろ?俺の案に」

『いいや、見当もつかないね』

 

言葉ではそう言うジェイルだが、顔は愉快で堪らないといった表情を浮かべている。どう見ても見当がついてる顔だ。

まあ、そりゃそうだろうな。俺からジェイルに通信をした上に、今の俺の状況を一から懇切丁寧に教えたんだからな。これで見当の一つもつかない馬鹿はいねーだろ。

 

だから、俺は胸を張って言ってやる。

 

「手ェ貸しな。テメェに拒否権はねーぞ?」

『クククッ、まるで悪役が吐くような台詞だ』

 

いたいけな少女の命を救うべく奮闘する正義のヒーローに向かってなんて言い草だ。

 

『手を貸すかどうかは兎も角、ちなみに何をどうすればいいんだい?』

「分かりきった事聞くか?まあいいけど。………まずはドゥーエだ。あいつを俺んちにやって騎士共を足止めさせる」

 

機械姉妹の上から2番目、変身偽装能力を持ってるドゥーエ。

その変身は見事なモンで、魔導師でも簡単には見破れるもんじゃない。だから彼女には俺に変身して俺んちに住んでもらい、あいつらの乱入を止めさせる。ついでに俺に下される筈の死刑執行も代わりに受けて貰っちまおうって寸法だ。

 

『ふむ、確かに適任だが、生憎と今彼女はこっちの任務で管理局に潜入させててね。ここには居ない。仮に居たとしても彼女が首を縦に振るとは思えないよ。君と同じくドゥーエはドSだからね』

「知った事か。そっちの事情よりこっちの事情が優先なんだよ。今すぐ呼び戻して明日にでも俺んちに行かせろ。………それとドゥーエ含めた全員に言っとけ、『もし今回こっちの言う事を聞いてくれるなら、この鈴木隼が一度だけそっちの言う事も何でも聞いてやる』ってよ」

 

俺も今回ばかりはガチで必死なんだ。だから、いつもは殴ってでも問答無用で無償でやらせる事も、今回ばかりはギブアンドテイクを提唱する。

争ってる暇もないかんな。

 

そんな俺の俺らしからぬ殊勝な言動にジェイルは、寿ぐように一度だけ手を打ち鳴らし、その顔を破顔させた。

 

『ックク、アハハハハハ!これは驚いた!まさか君の口からそのような、ある種お約束の言葉が出てくるとは。そこまで切羽詰ってるという事かな?』

 

ああ、事のほかガチで。

 

『それで、"まずは"と言う事は、まだ他にも依頼があるのかね?』

「ああ、残り三つな。一つはお前んとこ姉妹全員のリンカーコアから魔力を頂く。二つ目は一人か二人、魔力蒐集の助っ人としてこっちに寄越せ。最後の一つは今地球にいる局の情報が欲しい」

 

あのキカイダー姉妹の魔力量が果たしてどれほどの物か、詳しい所は知らんが、戦闘機人なんて名乗るくらいだからまさか少ないなんて事はねーだろ。まあどうであれ、蒐集しておいて損にはならん。さらにそん中から特に強い奴をこっちに呼んで、魔力蒐集を手伝わせりゃあ効率は格段に上がるはずだ。管理局の動向も分かれば、さらにそれは倍率ドン。

 

『まったく贅沢な要望だね。まあ後者の二つだけなら叶えて上げられない事もない。血気盛んな子や君によく懐いてる子はすぐにでも手伝いに行きたがるだろうし、情報収集ならクアットロがいるからね』

「何言ってんだよ、全部叶えろ」

『そうは言ってもね、こちらにも事情があるのだよ。いろいろと任務があるし、それにあの子たちは魔導師ではなく戦闘機人。リンカーコアにプログラムユニットを無理やり干渉させて魔力運用させてるからね、蒐集されればどのような弊害が出るか分からない。下手したら廃人になっても可笑しくはない』

 

む、それは確かに不味いな。あんな美人姉妹を廃人とか、マジで世界の損失だからな。はやての命を救う為とは言え、そのせいで美人姉妹を廃人には出来ねぇ。むしろ美人数人を廃人にするくらいなら、俺ははやての命を見限るね。

 

「ちっ………ンじゃ、蒐集は無しにしてやんよ。けど、それ以外の俺の要望には応えろよ」

『まったく勝手な男だね君は。しかし、本当にいいのかい?「なんでも言う事を聞く」なんて約束をしても?』

「構わねーよ」

 

どうせ世間知らずのアイツらの事だ、大した願いなんて持ってねーだろ。それに俺は今超リッチマンだからな。なんだって金で解決してやんよ!

金さえありゃあ何でも叶う世の中だぜ!金様万歳!

 

『君の変装をさせるドゥーエ、助っ人に行かせる子、情報収集のクアットロ………最低でも三人の言う事を君は聞かなくちゃならなくなるよ?それが例えどんな事であろうと』

「だから、べっつに構わねーって。どうせ取るに足らんお願いしか言って来ないだろ」

 

これがもしフラン、もしくは理だったらどんな『お願い』をされるか分かったもんじゃねーけどな。てか、普通に「ここに判を押せ」とか言って婚姻届を持って来そうだ。

その点、アイツらならまさかそんな馬鹿な事は言うまい。せいぜいが「一日組み手の相手になれ」とか「どっか遊びに連れて行け」とか、その程度の微笑ましい願いだろうよ。まあ、腹黒いクアットロに関しちゃあんま楽観は出来ねーが、いざとなりゃバックれりゃいいし。

 

『…………やれやれ。君はもう少し自分の好感度を見返すべきだと進言しておくよ。あのいつもクールなウーノでさえ、君が家に来る日の前日から矢鱈嬉しそうに、それはもう遠足の前の晩みたいなテンションで───────────』

 

と、そこまで言い終えたジェイルだったが、その姿が突然画面の向こうから消失した。そして少し間を置いて『ガシャンッ!』と、まるで何かが吹き飛ばされ、その何かが盛大に機械に突っ込んだような音が聞こえた。

 

「お~い、ジェイル~?」

 

呼びかけるも反応はなし………と思いきや、意外な人物が画面の向こうに現れた。

 

「おっ、姐さん」

 

俺が姐さんと呼ぶ人物、機械姉妹の一番上の姉、ウーノ。

なぜ俺が彼女をそう呼んでいるかというと、まあ紆余曲折あったわけよ。今はそんな事ァどうでもいいので事の経緯は省略させてもらう。

 

さて、そんな姐さんだが、どうやら怒っているらしく、顔を真っ赤にして奥のほうを睨んでいた。

そして、その姐さんが睨みつけていた方向から、手や足首に紫色のエネルギー翼を発生させた一人の女性が画面を横切って消えた。気のせいか、ジェイルが小脇に抱えられていたような………。

 

「一体どうしたんスか、姐さん?」

『いえ何でもないわよ。それより隼くん、話は聞かせて貰ったけれど、あなたお困りみたいね?』

 

ジェイルが一体どこに消えて、そもそも何故消えたのかが気になるところではあるが、まぁあんな根暗オタク科学者と話すより姐さんの顔見て話すほうが何倍もいいので気にしない。

 

「ええ、そうなんスよ。マジで死んじまうかも知んないってくらいには困ってるんス」

『そう………ねぇ、隼くん、さっき言ってた『何でも言う事を聞いてやる』ってのは本当なのよね?』

「聞いてたんスか?はい、マジッすよ」

『………だったら、わ、私がそっちに手伝いに行ってあげてもいいわよ?』

 

そう言って視線を忙しなくさ迷わせる姐さん。

なにをキョドってるのか知らないけれど、いつも母さんみたいな雰囲気を漂わせてる姐さんだから、こんな姿を見せるのはとても新鮮で、まさにギャップ萌えだった。

 

だから、俺はそんな姐さんに向かって優しく言葉をかける。

 

「あ、いえ、姐さんは結構ッス。だって姐さん弱いし。力になりゃあしませんよ」

『ッ!?』

 

萌えだろうが何だろうが、姐さんは今回使えねーだろ。どう見ても蒐集の為の戦闘なんて出来そうにないし、実際いつも端末イジッてるかお菓子焼いてる印象しかない。

 

「出来れば戦闘が出来て、ある程度強い、さらに癒し効果もあるチン嬢ちゃんあたりに来て欲し──────」

『戦闘と言えば私だろうが、馬鹿者』

 

そう言って、気落ちしている姐さんを画面の中から退かして割って入ったのは、ドヤ顔で腕組みしている機械姉妹の3番目の姉トーレ。

この俺に向かって平然と「馬鹿者」呼ばわりして来やがる、姉妹の中で最も勇ましい女性。普通ならそんな態度を俺がいつまでも許す訳ねーが、そのぴったりフィットした服によって強調されるお胸様とお尻様

があまりに素晴らしいので許している。…………あまりに素晴らしいんだ、本当に。

 

「は?ああ、トーレか。お前が姉妹ん中じゃあ一番強ェんだっけ?」

『そうだ。だからイの一番にお前の口から紡ぎ出される名前は私以外あり得ないだろうが。むしろ私以外お前には必要ない。な~に、すぐさま場を収拾させてやるさ』

 

大きな大きな胸を張って断言する様は、相変わらず男らしい。実力も申し分ないだろう。けどなぁ、トーレは多少考え無しで大雑把さが目に余る時があるからさ、蒐集なんて繊細な事が果たして出来るかどうか………。

 

『助けが欲しいならさっさと私に乞えばいい物を。待っていろ、すぐに行ってカタをつけてやる!私の強さをすぐ傍で見ているといい』

「いや、ちょっと待てって。勝手に話を進めないでくんね?俺としてはだな、チン嬢ちゃんかもしくはセインあたりが最適だと──────」

 

言い終わる前に画面がブラックアウトし、残ったのはただ沈黙のみ。端末を操作し、再度回線を繋げ様と試みるがどうしてか全く応答しない。

あー、もう!

 

「っっの、毎度毎度あの馬鹿トーレ!ちったぁ人の話を聞けってんだよ!」

 

あいつはいつもいつも勝手に決めすぎなんだよ!猪突猛進もいい加減にしろってんだ!そのお陰で一体俺が何度多大なる迷惑を被った事か!

 

最初はトーレもこんな奴じゃなかった。いや、トーレだけじゃなく姐さんもチン嬢ちゃんもだ。出会った当初はもっと警戒心を露にし、敵視をしていたといっても過言じゃなかった。ジェイルが傍にいなきゃ会話はおろか挨拶すらまともにしてくれない状態だった。

それが1ヶ月経ち、2ヶ月経ち、気づいたらあら不思議。

姐さんは毎回お手製のお菓子を用意してくれるようになったし、トーレは何かと自分という存在を強調し始めたし、チン嬢ちゃんも笑って接してくれるようになった。勿論、ドゥーエ、クアットロ、セイン、ディエチも多かれ少なかれ変わっちまった。

まあ、俺も当初はその変化を喜んだもんさ。「やっと受け入れてくれた、これで気兼ねなく美人とお話が出来るぜヒャッホー!」てな感じでよ?

けどさ、その思いも束の間ってやつ?受け入れてくれたのは嬉しいけど、ここまでくると逆に嫌がらせしてんじゃね?って思うわけよ。単純にこいつらは面白い玩具が現れた程度にしか思ってねーような気がするんだ。特に理に負けず劣らずドSなドゥーエはそれが顕著だ。家庭訪問すれば確実に1回は、あの物騒な爪で引っ搔かれてる。

 

…………ん?それはただ単に俺が鈍感なだけで、実はマジで好かれてるんじゃないかって?

 

うんうん、そう思うだろうね。まあ無理ないさね。『私以外お前には必要ない』とか、もうプロポーズじゃんと思うだろ?

 

そうだな、そう思う人には俺からこの言葉を送ろう──────甘ェんだよ、ボケ。

 

俺だってな、最初はそれはそれは期待したさ!いつしかこんな柔らかい態度を取るようになった姉妹共に、俺は胸と股間を熱く滾らせたさ!さらば童貞と何度思った事か!

………でも、違ったんだよ。そうじゃなかったんだ。こいつら、マジで俺を男と意識してないんだって。態のいい遊び相手、もしくは色んな雑学を教えてくれる近所のお兄さんくらいにしか認識してないんだよ。

 

……………わりぃ。なんだ、話が逸れたな。

 

まあ、つまりはだ。大まかに簡単に分かりやすく纏め、極論すると─────────この先俺には当分彼女が出来ないだろうっつう事だよ!!

 

(………せめてフランの奴が俺と同年代だったら)

 

しかし、現実はフランはガキであり、そして俺はロリコンではない。よってフランを彼女にする事も有り得ない。将来的にもないだろうよ。以前にも言ったが、見知ったガキとそういう関係になるなんて何か萎えるし。

 

(はぁ、馬鹿らし。寝よ寝よ)

 

これ以上考えても遣る瀬無い議題だ。今はただ、俺の天才的閃きによる打開案が実現する事を喜ぼう。

早ければ明日にでもドゥーエは鈴木家へと赴き、騎士共の乱入を防ぐと同時に俺へのリンチまでも代わりに受けてくれるだろう。クアットロは局の動向を掴み、その情報を元に俺たちは局と鉢合わせしないよう裏を掻いて魔力蒐集をすればいい。助っ人は結局誰が来るかは分からんが、誰が来ても確実な戦力アップが見込める。

 

ここに俺の策は成った。

後はゆっくり魔力を蒐集して行きゃあいい。予想じゃ1ヶ月も掛らず集まるはずだ。

 

まあ何はともあれ、こうして俺の長い一日は終わりを告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明けて翌日。

俺は異様な肌寒さ、及び身体の上を何かが這っているような感触を伴って目が覚めた。

おかしい、昨夜はあの通信の後すぐ布団に包まって寝たはずだ。つまり俺が感じていなければいけないのは、温かい布団の感触のはずなのに何故?なんで肌寒い上にくすぐったいんだ?

そう思いながら、寝ぼけ眼のまま取り合えず首をお腹の方へと傾けた。

 

……………なんか居た。

 

俺の身体の上に、胸板に手を添える形にして一人の人間が居た。そいつは昨晩俺が着て寝たはずのシャツを何故か着ており、さらに赤く小さな舌をちろっと出して恍惚な表情で一心不乱に俺の身体を舐めている。

なるほど、室内とは言え冬場に上半身裸で人にちろちろと舐められてりゃ、そりゃ当然肌寒いし、くすぐったくもあるだろうよ。うん、納得した。あ、でも一つ訂正。こいつは人じゃなくてプログラムだったな。

わははははははははっ!…………………………。

 

………………………………。

 

………………。

 

「おのれは朝っぱらから何しとんじゃああああああああああああ!!」

 

子犬のように人の身体を舐め回してやがったフランを、俺は全力で巴投げした。しかし変態は器用に空中で身体を捻り、ストンと綺麗に着地を決める。理を彷彿とさせる身のこなしだ。

そして、いけしゃあしゃあとこうのたまった。

 

「柔道技をかけてくるなら、我はどちらかというと投げ技より寝技で来て欲しいな。くんずほぐれつヤろうではないか」

 

こんの変態王が!

 

「締め落としてやろうか!」

「ふっ、締まり具合なら我も自信があるぞ。どれ、体験してみるか?我はいきなりでも良いが、そうだな、前戯として最初は指か舌を突っ込───────」

「言うな!マジいい加減にしとかねーとその口にデバイス突っ込むぞ!!」

「シュベルトクロイツをか?ふむ……………………ギリ有りだな。剣の装飾部分は痛そうだが、それも主のだと思えば痛みもまた快楽となろう。口での練習も兼ねて、さあ、挿入して来い。王たる我がすべてを受け止めよう!あ~ん」

 

………ダメだ。こいつには何を言っても尽くそっち方面で切り返してきやがる。このガキは本当にもう手遅れだ。理やヴィータ以上の絶望的なガキがここにいる。

 

俺は頭を抱えながら大きく溜息をつき、枕元に置いてあった煙草を一本咥えて着火。肺を煙で満たせる事でどうにか落ち着くことが出来た。

 

「もういい、もう分かった。お前に何言っても無駄だ。勝手に一人で延々と遊んでろ」

「つれないな。だが、そこがまた愛おしい。罪な男だな、我が主よ」

「そうだね~。罪な男だね~。………………マジで前科持ちの男になってやろうか」

 

目の前のこいつを殺したら殺人罪が適用されるかな。それとも人間じゃないから器物破損か?

 

「ふむ、まあ戯れはこの辺りで収めておこう。我がここにいるのは他でもない、主を起こしに来たのだ。『昼は何が食べたい?』と、小烏から伝言だ」

「昼?」

 

言われて室内にある時計を確認すれば、時刻はすでに午前11時を回っていた。そして俺の腹もいい具合に空いている。

 

「たく、そうならそうと早く言え。てか普通に起こせよ。おら、下降りんぞ……………て、おいお前、何してやがる」

「主の残り香and温もりのあるベッドに包まっているだけだが?さらに加えると我の匂いも擦り付けて置こうと思ってな。枕を股に挟んでと………ふむ、少々欲情してしまった。しばし待たれよ、5分で済ます」

「…………………」

 

俺はフランを布団ごと荷造り用の紐で縛り上げると、一人リビングへと足を進めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

階下に下りればそこには八神家全員がすでに集合しており、各々が思い思いに昼食前の一時を過ごしていた。

タバコを咥え、ズボンに手を突っ込んでケツを掻きながら起きてきた俺に一様に皆が呆れの視線を送ってきた。

 

「おはよーさ~ん。おうおう、皆さんお早い起床で」

「隼さん、それはフリやよな?突っ込んでいいんやな?ほな言わせて貰うわ…………全然おはようやないよ!おそようやろ!」

 

いやいやいや、別にフってねーし。普通の挨拶じゃん。てか、今まだ昼だろ?全然遅くねーし。まっ、朝からはやての素敵関西弁が聞けたから細けぇこたぁいいや。

 

「ンな事より飯にすんだろ?おら、突っ込む暇があんならさっさと用意しろ。動かすことの出来ない残念な脚でせっせと働きな」

「ハァ………隼さんってホンマ分かりやすい性格しとるよね。まだ会って1日しか経ってないのに、ようそない配慮も遠慮もなく言い切れるよな?」

「正直者という言葉は俺のためにあると思ってる。逆にはやては将来人を食ったような狸になってそうだな。根拠は無いけど確実に」

「酷ッ!?まぁけど、狸は狸でも超可愛い狸ならええよ。ぽんぽこぽん♪」

「…………はっ」

「ああ!鼻で笑いよった!私、傷ついたわぁ。罰として抱っこしてや」

「何だそりゃ。生意気言ってんなよ、俺の抱っこは高ェぞ?分給1000円だ」

「未だ見ぬ悪徳!?………しゃあない、私の体で払ったるわ!隼さんの好きにしぃ!」

「…………ふんはっ!」

「また鼻で笑った!?しかも、今度は爆笑!?これが世に聞く鼻爆笑か!?」

 

関西弁を使う奴はこういうノリの良さをデフォで持ってんだろうか?なんだよ、この打てば響く愉快なガキは?アリサもなかなかのツッコミ娘だと思っていたが、さすが本場関西は違うな。今、俺の中の『可愛いガキランキング』ではやてが急上昇中だぞ。

 

俺は鼻ではなく普通に笑いながら、はやてを車椅子から抱き上げ、そのまま肩車した。それに気を良くしたはやてが意味もなく俺の頭をぺしぺしと叩いて来たので、その手を掴みガブリと一噛み。「隼さんに食べられるぅ~」と言いながら、携えた笑みをより深くしていた。

 

そんな俺たちの戯れを、騎士達全員がどこか呆然とした様子で見守っていた。

 

「主はやてがあんなにも子供らしく振る舞い、笑っておられる………」

「いつも家事洗濯したりして、そういう事に疎い私たちの事を気に掛けてくれてるはやてちゃんだけど……」

「考えて見れば、はやてだってまだ子供で、そういう事をされる立場なんだよな……」

「俺は、俺たちは騎士として護っていたのではなく、もしかしたら甘えていたのかも知れんな。主の懐の広さのあまり、子供だということを忘れて………不甲斐無い」

 

あん?なんか騎士共が顔寄せ合ってダウナーな雰囲気作ってんぞ?なんかまたどうでもいい事考えてんだろうな、あの顔は。うちの奴らも昔はそんな顔ばっかしてたからよく分かんだよ。

 

「おい、そこのボンクラリッター。なに神妙な顔してんだよ、こっちまで何か暗~い気持ちになんだろ。うざいから止せっての。特にシグナムとシャマルは笑顔じゃなきゃ駄目だ」

「美人やから?」

「当然!」

「あははっ。けど、隼さんの言う通りやで?八神家は笑顔がモットーや!」

 

俺とはやての言葉に目を見開き、ぱちくりと数度瞬き、それから皆柔らかな笑みを浮かべた。

うんうん、やっぱ美人はこうでなくっちゃよ。ヴィータも大人しく笑ってれば可愛いんだよな~。

 

「あ、ザフィーラは笑わなくていいから。てか、犬の姿で笑うなキモい」

「お前は俺にだけちょいちょい酷くないか!?」

「野郎に与える優しさの持ち合わせなど、俺にゃあない。それでも俺に優しくされたきゃ金か女を貢げ」

「金はないが、女なら………」

「おい、待てザフィーラ。何故私とシャマルとヴィータを見る!?」

「あ、ヴィータはいらねーから」

「てめぇ隼コノヤロウ!」

 

騎士共のノリも良くなり、ヴィータも弄った所で、いい加減もう飯にするか。俺ァもうお腹ぺこぺこの餓鬼状態だぜ。ドカンと何か腹に溜まる物を食いたい気分だ。

という事で、

 

「さて、そろそろ飯にしようと思うが………喜べ、今日はこの俺が作ってやんよ」

「「「「「え」」」」」

 

なによなによ、その超ドびっくりしたような顔は?心外だ、とても心外だ。

何を隠そう、俺だって料理くらい出来る。なにせ騎士共が出現する前から、一人暮らしで頻繁に自炊してたんだからよ。まあ料理を覚えた理由は、俺と料理という組み合わせのギャップを持って女にモテたかったという悲しいもんだが。

 

「バリバリ自分勝手最強No.1の、あの隼さんが進んで料理を作る?空からコロニーでも落ちて来んやろか?」

 

ああ、そっちの意味でびっくりね。

俺だって最初は全部はやてにやらせようと思ったさ。でもな、はやての手を噛んだ時見たんだよ。ガキの手にはまったく似つかわしくない"あかぎれ"の数々を。

あんなモン見せられたらお前、なあ?いくら俺でも良心が働くっての。もしそれがお母さんという立場の女性の手にあったのなら、それはしょうがないだろうよ?いや、しょうがないって言い方も失礼か?ともあれ、だからといって可愛いガキの手にあっちゃあいけねーだろ。

 

「ハッ、どうとでも言いな。兎に角、はやては食卓に付いて食器をチンチン鳴らしながらガキらしく待ってりゃいいんだよ」

 

俺は肩車していたはやてを食卓に座らせ、そこから動けないように車椅子を遠くに蹴っ飛ばした。そして騎士共にも椅子に座るよう、顎をしゃくって促す。

 

「は、隼さん、ええって。お客様にそないな事さすのも変やし、私がやるから………」

「黙ってろ。お前はちったあ甘える事を覚えな。見てっとムカつくんだよ、そうやってガキのクセして何もかんも私がやる、って姿勢がよ」

「……隼さん」

 

さて、そうと決まればレッツ料理だ!久しぶりだが、まあ何とかならぁな。

調理器具確認、冷蔵庫の中身確認、炊飯器の中身確認…………なるほど、よし炒飯にしよう!………おい、今笑ったろ?料理とか言っといて炒飯かよ、とか思っただろ?舐めんなよ。炒飯は俺の得意料理なんだよ!ちなみにその他の得意料理として、お茶漬け、卵掛けご飯、ラーメン、鍋料理、焼肉などなどがある!ひゅ~、レシピが豊富だぜ俺!

………突っ込みは受け付けないから。

 

「まずはご飯を冷ましてっと……ん?どれくらい冷ますかな……いいや、全部使っちまえ」

「じゅ、10合使うんか!?」

 

はい、そこ、口を挟まない!いいんだよ、腹減ってっから。

それから俺は冷蔵庫に入ってた食材を肉中心に使い、適当に切ってフライパンに入れた。火が通った所でご飯をぶっ込む。さらに作業の合間に野菜を適当に手で千切り、深皿に入れ、上からドレッシング(マヨネーズ一択)をぶっ掛けてサラダボールを作る。

 

うむ、我ながら何とも男らしい。

 

順調に俺の料理が進む中、ふと気づけばはやてが俺の事をガン見していた。

 

「ふふふ」

「なにキショイ声出してんだ?」

 

肩越しに軽く目をやって様子を窺った所、はやては何が楽しいのか、すっげぇニコニコしながら俺の料理する姿を見ていた。

 

「なんや、こういうのええなぁって」

「あん?」

「男の人が料理する後姿って、すごいええなぁって」

 

ほう?……まあ分からん事もないな。俺もシャマルがよく料理する後姿を見て『抱きつきてー!』といつも思ってるからな。

 

「でも、それだけじゃないんよ。なんかな、料理しとるのが隼さんやと思うと、こう胸の中心が"ぽわっ"てして暖かいんや」

(はあ、そうですか)

 

それは分からん。股間が熱くなることはシバシバあるけど。

騎士共もはやての言ってる意味が分からないのか、怪訝な顔つきだ。

そんな俺たちの様子を尻目に、はやてがポツリと呟いた。幾分か硬い声色で。

 

「なあ、隼さんは『一目惚れ』ってどう思う?」

「は?」

 

まったく脈絡のない、いきなりな質問についフライパンを回す手が止まる。無論、料理人な俺は炒飯を作るのにそれはタブーなのですぐにフライパンを動かした。

はやてもまた言葉を続ける。

 

「ほら、一目惚れって言い方は良う聞こえるけど、要は相手を見た目で判断したって事やろ?それってやっぱ不誠実なんかな?」

 

俺ははやてのその考え方に若干の驚きを覚えた。まだ9歳のガキが、恋愛の成り方一つにこうも深い考えを持ってるとは。

最近のガキは早熟だな~、と思いながら、はやての考えに俺の考えで応えた。

 

「そうでもないんじゃね?切欠なんてそんなモンだろ」

「そうなんやろか?」

 

訝しんでいる様子のはやて。

俺は料理の手を僅かばかりとめて、はやての方を見やって言う。

 

「どういう経緯で惚れようと、結局は最後まで惚れ抜きゃいいんだよ」

「…………」

 

そもそも、俺は99%の確立で一目惚れするし。女は顔と体なんだよ。

てか、はやてがそんな事を言うという事はまさか。

 

「なんだ、もしかして一目惚れでもしたのか?」

 

もしそうなら学校に通ってないはやての事だから、きっと買い物とか行った時見かけた奴だろうか?それとも、その歳ならテレビの芸能人とかか?ザフィーラって線も捨てがたいな。ああ、通院してるなら病院って事もあるな。

果たして。

はやては顔を伏せ、か細い声で鳴くように呟いた。

 

「………してもうた、かも」

 

その言葉に俺を除いた騎士共が一様に驚愕の顔をした。

対して俺はまあ予想通りだったので驚きはないが、しかし少しだけ怪訝に思った。それは、はやての言い方が何とも力ない物で、まるで自分が言った言葉を疑っているような感じだったからだ。

まあ、だからといって俺がこれ以上どうこう言うつもりはない。恋愛事に首突っ込んでも碌な事にはならんし、第一はやてはまだガキだ。そういう事で悩むのもガキの成長の一つ。

 

俺は一言だけ「ふ~ん」と答えると、料理の続きに取り掛かる。

そろそろ火もいい感じに通ったし、次は盛り付けっと。ええっと、皿はどこだ?

 

「でもな、それが本当に一目惚れなんか分からんのや」

 

再度はやての語りに、しかし俺はガン無視を決め込む。こっちはいろいろ忙しいんだよ。ガキの色恋相談に構ってる余裕はないわけ。

と、そんなそ知らぬ顔をする俺をお構い無しに、はやては訥々と続けた。

 

「テレビとか漫画でよく見るんやけど、子供って大人の男に憧れるもんやん?父親とか、先生とか、親戚のお兄ちゃんとか。その憧れを好きと勘違いしてんやないかなぁって」

 

そのはやての言葉を、俺は炒飯を大皿にドカ盛しながら考える。

まあ確かによくある話だな。俺だって初恋の女性は幼稚園の先生だったし。だから、はやての言い分も分からなくは…………ん?てことは、はやての好きな奴って………

 

「おい、まさかお前の好きな奴って結構年上な奴?」

 

食卓にこんもりと炒飯の盛られた皿を置きながら訊ねれば、返って来たのは恥ずかしそうに頬を染めながら、困った顔をして俺の顔をガン見しているはやてだった。

 

「詳しい年齢は知らんけど、たぶん一回りは違うと思う」

 

うへ~、マジっすか。やっぱ最近のガキはませてんな。いや、確かはやては9歳だったか?その位の年齢のガキなら、同年代のガキより大人の男に惹かれやすいか。………でも、フェイトの奴はまだ恋愛云々言った事ねーな。う~ん、そう考えるとやっぱ学校くらい行かせてやりてーな。

 

「けっ、オヤジ趣味が。………ちなみにどんな奴よ?」

 

恋愛事に首突っ込みたくないと思いながらも、やっぱ気になるのが人間のサガだろ。それに所詮ガキの恋悩みだ、大したことにゃあならんだろ。

 

はやては赤くなった顔で、俺の目を真剣に見ながらもどこか緊張しているようで、一度大きく息を吸い込んだ後、こう答えた。

 

「その人は自分勝手で、傍若無人で、我欲の塊で、口がとっても悪ぅて…………でも、優しくて、正直者で、分け隔てなく温かさを振りまいてくれて、子供がとっても大好きな人なんよ」

 

その瞬間、シグナムを除いた騎士共全員が吹き出した。残るシグナムは、はやての言葉と騎士共の反応にただただ疑問顔だ。ちなみに俺も。

 

「は、はやてちゃん、正気ですか!?だ、ダメです、考え直してください!」

「そうだよ、はやて!た、確かに良いとこもある奴だけど絶対後悔するって!」

「主、どうか早まらないで頂きたい。純粋な悪ではないでしょうが、とても主を幸せに出来るような奴ではありません」

 

どうやら騎士共ははやての言葉で、はやての好きな奴が特定出来たんだろう。しかも、この様子じゃその相手は碌な奴じゃないらしい。

唯一分かっていなさそうな反応を見せているシグナム以外、皆が起立して反対の声を上げた。

そんな騎士共の反応は予想通りだったのか、はやては苦笑した。だが、それも束の間、はやてはもう一度大きく息を吸い込み、ゴクリと喉を鳴らした後、俺の顔を真っ赤な顔で凝視した。その姿はあたかも神の祝辞を厳かに待っているような雰囲気で、その空気に呑まれたのか、騒いでいた騎士共も口を噤み、はやてと同じように俺の顔を見始めた。

 

俺もそれに習い真剣にはやての顔を見つめ返し、こう答えた。

 

「なんか俺みたいな奴だな。後ろ半分の要素は特にぴったり」

「「「「は?」」」」

 

ンだよ、その反応は?優しくて、正直者で、バーニングな程温かくて、ガキ好きって俺と同じじゃん。まあ、前半分の「自分勝手云々」はちょっとしか似てないようだけどな。俺はそんな人非人なイカれ野郎じゃねーし。紳士だし。

 

「ち、ちょう待ってや!え、あれ?私、結構真っ直ぐ言ったつもりで、あ、あの、え!?」

「なにテンパってんだ?まあアレだな、はやての好きな奴って、シャマルたちが心配するのも無理ない程のカス野郎みたいだな。俺が女だったら願い下げだぜ」

 

人の好きな男を、当人であるはやて本人の目の前で『カス野郎』と侮蔑する俺。それに対してはやてが怒ってくるかと思ったが、どういう訳かはやては愕然と項垂れていた。

 

「う、嘘や……通じてへんって……受け入れてくれるとはハナから思うてなかったけど、まさか気付いてさえくれへんなんて……馬鹿なん?隼さんて馬鹿なん?」

 

なんかド級に失礼な事言ってねーか?

兎も角、そうこうしてる内に昼食は豪華絢爛に完成だ!

 

「はやての暇つぶしトークを聞くのはこの辺にして、冷めねーうちに食うぞ」

「わ、私の一世一代の勇気が暇つぶし扱いされとる………」

 

こうして穏やかな昼食が始まったのだった。

 

 

 

 

──────────余談だが。

 

この日からはやては俺に過度に甘えるようになった。ガキらしいなんてレベルではない、アリシアにも引けを取らないほど甘えるようになった。

飯を食う時には俺の膝の上で食い、風呂に入る時は共に入り、寝る時も俺の布団に潜り込んで来る始末。

 

はやてに一体どんな心境の変化があったのかは知らんが、それは執念とも呼べるような甘々加減で、俺が何度あしらっても止むことはなかった。

 

(こうなったら攻めまくったる!弱い立場を利用して、隼さんにべったりしまくったる!どうせ今は無理って分かっとったんや、せやから焦る事ない。今日この日が、私の、隼さんに対する10ヵ年計画の始まりや!)

 

この日、俺が『眠れる狸』を起こした事に気付くのは、まだもうちょっと先の事だ。

 

 

 

 

 

──────────重ねて余談だが。

 

某変態王がある時こんな事を言っていた。

曰く。

 

『本人の容姿や性格、相棒(妻あるいは夫)の容姿や性格、物事の好み、住む場所、就いている仕事の内容───双子というものは、幼い頃生き別れ育ちが違おうとも、統計的に80%が似るものらしい。我と小烏は双子というわけではないが……チッ、泥棒烏が。忌々しい』

 

お前とはやてじゃ容姿以外似ても似つかねーよとその時は思ったが、その言葉の真実に気づくのもまたもうちょっと先の事だ。

 

 

 

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