フリーターと写本の仲間たちのリリックな日々   作:スピーク

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この話にはとらハ要素が含まれます。それに伴いリリカル側、また全体的に独自要素が含まれます。ご了承ください。


幕間 前編

人、人、人、人────見渡す限りの人。

 

とある家の一室。どこにもある、平均的な広さのリビングにはどういうわけか所狭しと人で溢れかえっている。

 

どいうわけか、というか俺のせいで。

 

(軽く見ても20以上はいるな……呼び過ぎた?)

 

パーティするから全員集合!と呼びかけかけたのは小一時間ほど前。人数とか考えず、取り合えず思いついた奴にTELして来てもらった。でドンチャン騒ぎしようと思った。

そこまではいいんだけど、何故かその呼んだやつらも勝手に各自で知り合いを呼びくさったらしく、ネズミ算みたいに増えた。

 

そして今現在。結果、ちょっと洒落にならない人数が集まりました。てへぺろ。

 

(う~む。酒入れてテンション上がっていたとはいえ、ちょっと考えなしすぎたか?)

 

まだ食事が始まってもいないのに、各々が自己紹介し合ったり、交流を深めようとしたりする会話で、すでにドンチャン騒ぎのような喧しさを出している。

さらにこの人数も相俟って室温やべえ。暖房いらずだよ。

 

(うおォん、ここはまるで人間火力発電所だー)

 

そして、それ以上に良い匂いの充満度がやべえ。もち料理の匂いじゃなくて、女の子のフローラルなニホイね。ワンチャンの機会を増やすために集合掛けたこの案は見事に成功。半分以上が女で、しかも皆美人で可愛いと来たらもう鍋とかマジどうでもよくなっちゃじゃないか!鍋より女の子食べたい!ぐふふっ!

 

(お、落ち着け、焦るんじゃない。俺はただ彼女が欲しいだけなんだ)

 

しかし、これだけいればワンチャンどころか連チャンだろ。これ、マジで今夜中に彼女出来ちゃうパターンじゃね?初彼女、いっちゃいます?

 

(ああ、なんて事だ。食べ始めてもいないのに、もう腹が一杯になっていくかのようだ)

 

孤独な俺、今日で終了!明日からは彼女持ちの俺!いや、もしかしたらハーレム王!?

 

(まっ、取り合えずお腹もペコちゃんだし、そろそろ始めちゃいますかね)

 

俺は手に持っている酒瓶(中身すでに3分の1。ちな2本目)を天に掲げ、皆に聞こえるよう宣言する。

 

「てめーらぁ!今日は潰れるまで飲んで騒ぎ明かすぞお!!」

 

さあ、宴という名の混沌の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幕間 前編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

CASE1:フリーターとマッドサイエンティスト

 

 

 

まったく。

ああ、まったく楽しませてくれる男だ。

 

そんな思いを胸に私は目の前のドンチャン騒ぎを笑みを湛えながら見ている。

 

(一体全体、何がどういう経緯や手段を持ってすればこのような環境が整うのだろうね)

 

私のこの聡明な頭脳を持ってさえも、今のこの現状がどうやって構成されたのか理解出来ないでいた。

 

次元犯罪者こと私、ジェイル・スカリエッティとその娘たち。

闇の書の主であるはやて君とその騎士たち。

管理局に所属する少女たち。

魔法とは何の関わりも無い一般人たち(一部、一般人としてカテゴライズしていいのか疑問符がつく者がチラホラいるが)。

 

そんな者たちが一つの家に一同に会しているこの場。しかもそれが戦うためではなく、単なる飲み会なのだから笑いたくもなる。

水と油というレベルではない。呉越同舟というレベルではない。

 

言うなればそう、これは混沌である。ケイオスである。うーっ、にゃーっである。

 

(君と知り合ってわずか半年ばかりだというのに、私も随分変わったものだね。良くも悪くも)

 

この様な無駄を極めた宴などに参加するなど、滑稽が過ぎる。昔の私が見たら嘲笑するか、あるいは愉しそうに観察でもするだろうか。

翻って今の私はこれを良しとしている。愉しく、ではなく"楽しく"思っている。

 

(やれやれ、まるで彼の欲望に私の欲望が呑み込まれたようじゃないか)

 

この混沌を作り出した張本人である男──鈴木隼。彼は私の胸中など知らぬ存ぜぬな様子で、今はお酒片手に私と一緒にきた娘たちと楽しそうに何かを話している。

 

(思えば、我が娘たちも変わったものだね)

 

今日ここに連れて来たウーノ、ドゥーエ、チンクの3人を見やる。

 

ウーノは私の秘書のような存在だった。頭脳特化の全面サポート。戦闘面以外はなにをやらせてもソツなくこなす、私の半身といっても過言ではない能力を持つ子だった。

 

……"だった"、である。

 

「隼くん、どう?最近ケーキ作りに挑戦し始めたのよ。それはチーズケーキで、こっちはマロンケーキ。あ、もちろん、あなたの好物のチョコレートクッキーも持ってきたわ。……ほら、口の横、お菓子のカス付いてるわよ。あ、そっちじゃなくて……ちょっと動かないで。とってあげるわ」

 

うん、モノの見事に過去形だね。頭脳特化から菓子技能特化になっているね。

以前『Dr、弟が出来たらこんな感じなのでしょうね』なんて事を言ってはいたが、まさかウーノがここまで駄目姉になるとは誰が予想出来よう。私もこんなもの予想出来なかったよ。

 

次いで、そんなウーノの横にいるチンクを見る。

 

かつてはその可愛らしい見た目に反して寡黙であり、冷静な子だった。なにより屈指の戦闘能力保持者であり、おそらく上の姉であるトーレにも引け取らないほどの実力者。私の言った任務を粛々とこなす冷徹な面も持ち合わせた、戦闘機人らしい戦闘機人だった。

 

……そう、"かつては"、である。

 

「見ろ、隼!この前クアットロ姉さんとドンキに行った時に買った眼帯だ!どうだ、海賊っぽいだろう!次は帽子も買う予定なんだ!あの尖がった感じのやつ!」

 

うん、モノの見事に海賊好きになったね。戦闘機人からキャプテン・チンクになってるね。

以前、隼君がウチに来た時、何でも地球で大ヒットした海賊映画を一緒に見たそうで、それでドハマリ。『Dr、ちょっとブラックパール号探してくる!』と言って一週間ほどチンクが音信不通となっていたのは記憶に新しい。

 

さて、次いで最後にもう一人。隼くんの背中にべったりと凭れ掛かっている子、ドゥーエはどうかというと……というか、もう『凭れ掛かっている』という時点ですでにアレだが、取り合えずどうかというとだ。

 

「ちょっと隼~、ほらこれ、アルコール度数70%だって。これ一緒に飲もうよ~。……え、まだ夜は長いからそんな高いの飲んで潰れたくないって?へ~、つまり私と一緒に飲みたくないって事?ふ~ん。せっかく隼の為に変身のレパートリー増やしたんだけどな~。ほら、前言ってた超巨乳のグラビアアイドル……よーし、そうこなくっちゃ!大丈夫、潰れたら看病してあげるから」

 

君、誰だい?ドゥーエの皮を被った別の誰かじゃないのかい?

もうね、君が一番変わりすぎだよ。本来のドゥーエは私の分身と言っても差し支えない性格だったはずだ。私と姉妹以外は敵、あるいはどうでもいい存在であり、そして冷酷。それこそチンク以上の戦闘機人の中の戦闘機人。クアットロ曰く『究極の戦闘機人』その人だった。それが今じゃ『究極のかまってちゃん』じゃないか。ドゥーエ、バレてないと思ってるだろうけど君が局への潜入捜査を時折サボって隼くんと遊んでるの、知ってるからね。

 

(ハァ、目も当てられない無様な姿とはまさにこれの事だろうね)

 

なんて毒づいてはみるが、その思いとは裏腹に私の口は僅かに笑みの形をしている。

 

(計画していた方向性とは少々違うが、これはこれで中々に面白い)

 

私も変わった。それは認めよう。しかし根源は以前の私のままだ。強欲であり快楽主義である。隼君ほどではないが自己中心的な私である。

 

ゆえに今この場にいる。このような乱痴気の場にいるのだ。

 

(隼くん、きみは大事なファクターだ。手放すわけにはいかない)

 

その為の枷となるのが我が娘たち。隼くんの女性に対する業の深さを利用しない手はない。見目麗しい我が子たちなら彼の眼鏡に適うと当初から踏んでいたが、やはりビンゴだったようだ。

 

(誤算だったのは我が子たちも本気で隼君の事を気に入ってしまった事だが……)

 

まあ、それはいい。完璧に計画が進むとは思っていなかったし、そちらの方が面白い。ただそのせいで娘たちの中に埋め込んだ私の因子を消す事になってしまったのが痛手といえば痛手。後戻りは出来なくなったという事なのだから。

 

(……しかし彼の心象を良くし、これから先も関係を続けていく上でそれは致し方ない事か)

 

それに計画通りにいかずとも、想定された結果にたどり着ければ私の因子などハナから不要なのだから。

 

(ある意味で、彼は私とは別の『無限の欲望』の持ち主。魅せてくれたまえ、隼君。君の、君だけの欲望を!渇望を!──その時こそ、君は私の「ぶぎょ!?!?」

 

突然後頭部に衝撃が奔り、私はもんどりうって壁に激突。

 

……ふむ、なんだろうね、何だか最近私はよくぶっ飛ばされてる気がする。

 

「急に何をするんだい、隼くん。せっかく最後はシリアスに決めようとしていたのに」

 

激突した壁から顔を引き剥がし振り向くと、後頭部の衝撃を作り出した隼君が片足を挙げて立っていた。その体勢から察するにどうやら私はヤクザキックをかまされたようだ。

 

「ぬぅわぁ~にがシリアスだ。一人キモいニタニタ顔でぶつぶつ呟いてただけじゃねーか」

「失礼な。隼くんとは違い、私はこれでも自分の顔の造形には自信が……いや、なんでもない。なんでもないからそのグーパン振りかぶるの止めてもらえないかな」

 

酒が入っていて気分がいいのか、隼君は忌々しそうにしながらも拳を収めてくれる。よかった、いつもなら二連撃くらいはあるからね。

 

そんな事を思いながら安堵の息を吐いた時、不意に人が近づく気配。見ればいつの間にか隼くんが一升瓶を片手にニヤリとした表情で傍にいた。

 

……おっと嫌な予感。

 

「な~に考えてたか知らねーけど、つまりまだ考えられる思考力が残されてるって事だよな?いけない、そりゃいけねーよ」

 

パチン、と隼君が指を鳴らす。すると私の両腕がウーノとドゥーエによって固定された。

 

「ちょっ、き、君たち?」

「「申し訳ありません、Dr」」

 

ちっとも申し訳ない顔していないよ?

 

「今日はな、飲みなんだよ。ガキは兎も角大人組は飲むのが義務なんだよ。死ぬ一歩手前まで飲み潰れるのが義務なわけよ」

「そんな義務、聞いたことがないよ!?そ、そもそも、私は酒はあまり……」

「はい、お口あ~んしましょうね~」

「ちょ、まっ!?」

 

……隼君は大事なファクターだ。それは間違いない。そして現状、私や娘たちの心象も十二分にプラスだろう。よって順調といっていい。これから先も良い関係を続けられるはずである。

 

ただし懸念事項が一点───結果が出るその時まで、果たして私はシリアスなマッドサイエンティストとしての個性を保っていられるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・CASE2:フリーターと夜の一族

 

 

 

彼の名を初めて聞いたのは2人いる娘のうちの一人、忍からだった。

 

『昨日初めて会ったその人、鈴木隼さんって言うんだけど、ほんっと面白くてさ。ドライブに行ったらいきなり、いきなりだよ?今日はここでキャンプファイヤーしようぜー、なんて言い出してさ。かと思ったら今度は、やっぱ北海道に蟹食い行こうぜとか言って空港向かおうとするんだよ?私もつい思わず、隼さんバカでしょ!?なんて言っちゃったわよ』

 

夕食の席でそう言って笑う忍の姿に私は内心で驚いていた事を覚えてる。

忍は人見知りというほどではないにしろ、初対面の相手には完璧な外面で対応する子だ。心開いた相手にだけ素の自分(あるいはズボラとも言う)を見せる。

なのに、そんな忍がその鈴木さんという人にはほぼ始めからありのままの自分を見せたのだというから驚いて当然。

 

さらに驚いたのが、その鈴木さんを下の娘であるすずかも知っていたという事。しかも聞けば忍より前、GWに高町さんのところの旅行に御呼ばれされた時に会ったらしい。

 

『うん、面白い人だったよ。見た目は怖い感じだったし、乱暴なところもあったけど、でもそれ以上に優しくて楽しかったなぁ』

 

その時の事を思い出しながらだろうか、笑うすずか。こんなすずかも忍以上に珍しい。この子は忍とは正反対で大人しい性格をしてる。普段から落ち着いた雰囲気を好んでる。だから一面とは言え『怖くて乱暴』な鈴木さんという人を思い出して、あんな笑顔を浮かべるのはどうにも腑に落ちなかった。

 

───聞いた感じ、忍はともかく、すずかは敬遠しそうなタイプの人なのに。

 

違和感。

それは些細な違和感。何か引っかかっているのに。その引っかかったモノも何だか分かっているはずなのに。それが出てこない。

 

───まあ、些細な事なら別に問題ないわよね。

 

その時はそう思った。何よりも忍が、そしてすずかがその鈴木さんのお陰で楽しそうに笑っているのだ。何も問題ない。

 

……そう思っていた。

 

『えっと、どうも。娘さんから聞いてるかも知れませんけど、鈴木隼ってもんです。えっとですね、今日はちょっとすずかの事でお話が』

 

すずかが鈴木さんを連れ立ってウチに帰ってきたのは8月の初め、小学校が夏休みに入って少ししてからだった。

 

忍から聞いていたし、すずかも見た目は怖い感じだと言っていたが、本人を見て納得。

霞んだ金髪、首にはネックレス、腕には銀色の時計とブレスレット。服装は普通だが、それ以外はどう見てもそっち系の人。初対面で人間性なんて分からないはずなのに、敬語がここまで似合っていないと感じたのは初めて。

 

まぁ、でもそこはいいの。第一印象というものはアテにならないし、忍とすずかが仲良くしてるのならそれほど悪い人間でもないはず。

 

『あ、あのね、お母さん。私、魔導師っていうものになっちゃって……』

 

それもいい。本当は重要な事なんだろうけれど、でもいいの。

 

問題はそこではなく、もっと別の、母親としての心配。

 

『えっと、お父さんにも話したいから取り合えず中で……あ、隼さん、こっちです』

 

───鈴木さんの手を握って嬉しそうに頬を染めているすずかの姿がそこにはあった。

 

「それは違和感にも気づかないわよねぇ。だってまだ小学3年生なんですもの。しかも相手は大人」

「どうしたんだい、春菜?」

 

独り言のつもりで呟いた言葉に反応があった事に驚きながら横を見ると、そこにはいつの間にか私の夫である俊さんがいた。

 

「あら、あなた。デビットさんたちと飲んでらっしゃったのでは?」

「うん、さっきまでね。でも百面相して何か物思いに耽っている君が見えたからどうしたんだろうって、ちょっと心配で。もし具合が悪いようなら先に帰らせてもらうかい?」

 

頭を掻きながら苦笑する俊さん。相変わらず心配性だけど、優しくて気が回る人。

それにしても百面相……私、そんなに顔に出てたのかしら?

 

「心配させてごめんなさい。でも大丈夫よ。身体もとくに具合が悪いとかはないから」

「そうかい?それならいいんだけど……。僕はてっきり"アレ"が来たのかと思って」

 

少しだけ照れながらそう言葉を零す俊さん。それに少し驚く私。

 

あらあら、どうやら俊さんも結構お酒が回ってるみたい。普段ならボカしてるとはいえ"アレ"の事はあまり自分からは言ってこないのに。

 

「忍やすずかと違って私はもう大人ですよ?」

「あはは、まあそうだね。でもなくなるわけじゃないし、だから、ええっと……僕はいつでも大丈夫だから」

「っ、もう、あなたったら!」

 

コツンと肘で小突く。

普段が優しくて大らかな俊さんなだけに、突然こう攻めれられると私も照れる。

 

「はは、ごめんね。今日はちょっと飲み過ぎかな。あ、でも、それじゃあ何を考え込んでたんだい?」

「すずかが初めて隼くんをウチに連れてきた時の事を思い出してたの」

「あ、それは百面相になってもおかしくないね」

 

俊さんもその時の事を思い出したのか、何とも言い表せない表情を作った。

 

「いきなり『お宅の娘さん、魔導師にしてしまいました。ケツは持ちます。それと今後パーティとかあったら是非このボクをご招待くださいませ!というかお二人とお友達になりたいです!』だったからねぇ。正直、まったく訳が分からなかったよ」

 

本当に。

粗野で乱暴でお金と女性が大好きという、ある種男らしい人よね。

 

「あなた、最初は警戒してたでしょ?」

「そりゃあね。会社にもお金や野心の為に、それを腹に隠して僕に笑って擦り寄ってくる人が何人もいるから。隼くんも例に漏れず、すずかをツテに擦り寄ってきた輩かと思ったよ」

 

まあ、あの格好や言動ならそうとしか捉えられないわね。というか当の本人が『え?超擦り寄ってますよ?マジ擦り擦りっすよ?あわよくば俊さんの口聞きで入社させてもらえないかなぁって常々思ってますよ?』と言ってた。冗談ではなく本気で。

 

「ふふっ。でも隼くんはそんな輩とは程遠かったわね」

「ははは、本当にね。ああも愚直に下心を清々しい程さらけ出されたら、呆れを通り越して心地良さすら感じちゃったよ」

 

嫌な気持ちにさせないのが上手い、というにはちょっと語弊があるけれど。

隼くんは本気で下心全開で私たちに近寄り、また全開でそれ抜きにして私たちと仲良くなりたい──きっとそう思ってる。

もちろん矛盾した考えなのは分かるけど、でもそう感じるのだから仕方が無い。彼にとってきっと『それはそれ、これはこれ』なんじゃないかしら。

 

両極端で、さっぱりとした清々しい心の持ち主。

 

「良い人かは兎も角、男らしくはあるよね……だから、まあ、すずかが惹かれるというのも分からなくはないんだけれど」

 

そう言って何とも複雑そうな顔を見せる俊さん。

 

──そう、おそらく。というか十中八九、すずかは隼くんを異性として好いている。

 

「あら、あなたは反対?」

「ん、そういうわけじゃないよ。誰を好きになるかなんて当人の心次第だからね。そして僕はすずかの心を尊重する。ただ気づいた時は驚いたね。単純に憧れとか、そういうライク程度のものくらいかと思ってたから。忍と恭也くんと違い、年もかなり離れてるし」

 

でも違う。あの子は本当に心の底から隼くんを異性として好いている。憧れとか気の迷いだとか、そんな陳腐なもの程度ならあんな顔は出来ない。

 

隼くんと一緒にいる時、すずかはまるでこの世全ての幸せと愛しさを享受している顔になる。

隼くんが離れると、すずかはまるでこの世全ての不幸と悲しさをぶつけられているような顔になる。

 

もし、あの子が抱いているその感情が恋でも愛でもないなら、この世にそんな感情は初めから存在しないだろうと思わされるほど。

 

「だから、僕は別にすずかが隼くんを好きでも構わないんだよ。僕自身も隼くんの事は嫌いじゃない。……けどさ、ほら、別の"問題"があるからさ」

 

悩ましそうにぽりぽりと頬を掻く俊さん。

 

やはり、というか。

私と一緒でやっぱりそこが心配になっちゃうわよね。

 

「……"夜の一族"を受け入れてもらえるかな?」

 

俊さんの一言に私もまた胸中で少しばかり不安が鎌首を擡げる。

 

───そう、私や忍、すずかは普通の人とは違う。『夜の一族』という、一つの種族なのだ。

 

端的に言うと夜の一族とは"吸血鬼"。

人間を遥かに超える身体能力と寿命を誇り、再生能力も備わっている。物語によく見られる『日光に弱い』だとか『十字架やニンニクに弱い』という弱点もない。

一方で他の人から血を摂取しなければ身体は正常に成長せず、また吸血衝動も持っている。特に2ヶ月毎にくる"発情期"は酷いもので、成熟した精神……つまり大人ならばまだしも、子供には耐えられないほど。誰彼構わず血を吸いたくなる。といっても輸血パックがあるから、そこまでの心配はないのだけれど。

 

「そればっかりは分からないけど、でも受け入れてもらわないとすずかが悲しむ。……さらに欲を言えばすずかの『パートナー』として支えて貰いたいわ」

 

パートナーとは、その人専属の血の提供者……というのが本来のものだけど、今となってはほぼ建前。本当の意味するところは『発情期中の相方を支え、これからもともに歩む人』という見方が強い。……え?それはほとんど同じ意味じゃないかって?……違うの。

 

私のパートナーは夫である俊さん。

忍のパートナーは恋人である恭也くん。

吸血衝動が強くなる発情期だけど、その"発情期"という言葉のもう一つの顔。言葉の本来の意味するところ。

 

上記を踏まえたうえで、パートナーの本当の役割を察して。

 

「う、うん、まあそうなってくれたら理想……い、いや、でもまだすずかには早過ぎるし……いや、しかしいづれは……」

 

いろいろと頭を悩ます俊さん。まあ、男親とはこういうものよね。忍の時もモンモンとしていたし。

 

「あなた、そんなに悩まなくても大丈夫ですよ。そもそもまだ隼くんに話してもいないんですから」

「あ、ああ、そうだね。それにまだすずかには発じょ……"アレ"は来ていないみたいだし、もう少しよく考えよう」

 

隼くんは俊さんや恭也くんとは違いすぎる。

 

失礼だけど隼くんは二人のように誰にでも優しくて大きな心を持っているとは、お世辞にも言えない。確かに優しいところもあるし、器の大きなところもあるけれど、彼はそれを向ける相手を極端に絞る。好きと嫌いを明確に振り分けし、そして明確に態度に出す。隠す気がない。

それは彼の良い所であり、悪い所。

今はいい。夜の一族の事を話していない今、彼の中ですずかはきっと『好き』の枠に収まってる。でも話した後、もし『嫌い』の枠に入ってしまったら……化け物だと罵られたら。

 

それが不安であり、心配であり、だからもう少し様子を見たい。もう少しすずかと仲良くなってもらって、隼くんにすずかを『好き』の枠からどうやっても出したくないと思わせなくちゃいけない。

 

(すずかが隼くんを好いてるのはいい。尊重するし、だから応援する。……だけど見守ることはできない)

 

見守るだけで娘の恋が成就するほど、夜の一族の業は浅くは無い。だから助力というかお節介くらいは焼かせて欲しい。

 

「あとで隼くんにすずかの良いとこアピールしてみようかしら」

「はは、そうだね。僕もちょうど隼くんに今度飲みに行こうって誘われてたし、そこで改めて彼の事をいろいろ聞いて───」

「そんな余裕、ないんじゃないかな~?」

 

私たちが座るソファの後ろから不意に聞こえた言葉。振り返るとそこにいたのは呆れたような顔で私たちを見る忍の姿があった。

 

「というか、そういう話をするんならもうちょっと回りを気にしてよ」

 

忍がため息を吐きながら私の隣に座る。

確かに、いくら声を潜めていたとは言えまさか忍がすぐ後ろにいたのにも気づかなかったのは良くない。そもそも身内の重要な話を、こんな人の多い場所でする事自体駄目な事なのだけれど……それでも、私は続ける。というか続けなければいけない。

 

「忍、余裕ないってどういう事かな?」

 

俊さんも今話しを終わらせては駄目だと分かっているのだろう、忍に発言の真意を求める。

 

余裕がない……それはつまり、隼くんとすずかについて早く手を打てという事?

 

「私はさ、お母さんとお父さんよりすずかが隼さんの傍でどんな風だったか、見る機会が多かったわけだけど」

 

私も俊さんも頷く。

私たち夫妻が隼くんと会ったのは娘たちと同じ時期だけど、会った回数で言えば娘たちの方が断然多い。私たちは普段仕事があるし、休日も用事があって家にいない時があるから、隼くんがウチに来たとか一緒に遊びに行ったという話しを後から聞く場合が多い。

 

「多分、二人が思っている以上にすずかは隼さんの事、想ってるよ」

 

続けて言う。幾分、更に声を落として。

 

「すずか、時々だけど……目、赤くしてた」

 

私も俊さんも目を大きく開けて驚きを隠せず、露にするしかなかった。

 

赤い、血のような目の色になる───それもまた、夜の一族特有のもの。

 

普段は他の人と変わらない黒や茶色だけれど、ある条件を満たすと赤くなるのだ。

一つは一族としての身体能力をフルに使う時。通常は人間と変わらないけれど、一族の力を発揮すると力や俊敏性、回復力、あるいは再生力が人間のそれではなくなる。そんな時、目が赤くなる。

 

が、おそらく、すずかの満たした条件はそっちではない。それならば、忍もそんな風には言わない。ならば答えは自ずともう一つの方。

 

「し、忍、も、もしかしてすずかはもう"アレ"が……?」

 

戦く様な声色で俊さんが言う。

アレとは勿論『発情期』の事。そう、発情期中にも赤くなる事がある。もっと簡単に言えば、興奮すると、だ。特に子供の場合、精神が幼いせいで抑えが効かないので尚更。

 

「ううん、まだそこまではいってないと思う。でも時間の問題じゃないかなぁ。だって隼さんを見て、目と頬真っ赤にしてハァハァ言ってたし」

「「ぶっ!?」」

「いや~、あれ最初見たときは私も驚いた驚いた。目もね、なんか『女!』て感じで。もしかしたら私も恭也相手にあんなだったのかなって、ちょっと恥ずかしくなっちゃった」

「「………」」

 

あはは~、と気楽に笑う忍だけれど、私と俊さんは閉口するしかない。というか俊さんは項垂れて放心してる。

それはそうだ。すずかはまだ9歳。多感な時期とは言え、早熟過ぎる。あの年頃なら「誰々くんが好き」とか「誰々くんと仲良くなりたい」とかその程度じゃないの?それがいきなり「年上の男性と全てを踏まえた関係を想定して想っています」だ。一足飛びどころか走り幅跳びの記録狙ってるレベル。

 

(確実に隼くんの事が好きだろうとは思ってたけれど、まさか既にそこまでだったなんて……)

 

最近の子は早熟って聞くけれど、まさかすずかもそうだったなんてねぇ。

もちろん、だからといってすずかに対して怒ったりはしない。それは夜の一族の性であり、女の性でもあるのだから。

 

しかし、確かに忍の言うとおり、私たちの思っている程に時間の余裕はなさそうね。

 

(……隼くんが私たちの事、こっちが思ってるより簡単に受け入れてくれればいいんだけれど)

 

でも、それはないだろうと心の片隅で思う。

なぜなら彼はただの人間だから。人は、人以外の人型に対して警戒心を抱くものであり、それが自分達に危害を加えるかもしれない存在なら尚更。

 

「……どうやって話をもって行こうかしら」

 

すずかの笑顔の未来の為に。

 

そう思い、頭を悩ます私の耳に忍の呆れたような声が聞こえた。

 

「どうやってって、そんなの普通に話せばいいんじゃない?すずかや私たちはこんな存在なんだって」

「は?」

 

呆れた調子の忍だけれど、私もまったく同じ心境になる。同時に若干の怒り。

 

「普通にって……忍、そんな簡単な問題じゃないのは分かってるでしょ?普通なら受け入れてもらえない可能性の方が大きい。みんな、お父さんや恭也くんのように心の広くて優しい人ばかりじゃないわ」

「うん、まあ、普通はそうだね」

「でしょ?特に相手は隼くんよ?悪い子じゃないのは分かるけれど……でも、もし話して拒絶されたら一番ショックを受けるのはすずか。だから、そんな簡単に考えちゃダメ。万一でもあの子に涙で目を赤くする未来を過ごして欲しくないわ」

 

私の話を聞いて忍が神妙にコクコクと頷く。

うん、どうやら分かってもらえたみたいね。

 

「隼さんなら全然大丈夫でしょ。余裕余裕~♪」

「軽い!?あ、あのね、忍、だから───」

「あのさ、お母さん」

 

今一度理解させようとした時、忍がそれを遮るように口を開く。その表情は優しくて、どこか力強い。

 

「さっきも言ったけど、私は今までお母さんたちより隼さんを見てきたし、接してきた。もちろんそれは長い期間じゃないけれど、それでも言える。断言できる。──隼さんは、私たち一族を……ううん、すずかを拒絶しない」

 

あとさ、と続ける。一転して、表情は心底可笑しそうに。

 

「これもさっき言ったけど、もう少し周りを見てみよう?この騒ぎの渦中でそんな事に頭悩ますなんて無意味だって分かるから」

 

そう言って視線を巡らす忍に習い、私も目を滑らせる。

 

そこにあった光景は──

 

「次、某爆乳グラビアアイドルいくわよ~」

「うおお!すごいよドゥーエさん!素晴らしい!魔法最高!ちょっと待って、一枚だけ写メを……あ、これは違うんだジョディ、ホント、ごめ……ぐあ!?!?」

 

「いい根性してるじゃないか、この童貞。ブタ箱に、いやボクのフルパワーの電撃食らわせてやるよ!」

「フィ、フィリス落ち着い……あ痛!?ちょ、いきなりフィン出さないで!?」

 

「確かに私は次元犯罪者だが、それは一面に過ぎんのだよ!本来の私は提督でもあり、最近では司令でもあるのだ!ところでオリジナルザフィーラくん、キミは正統派撫子な赤城とヤンデレ狐な赤城、どちらが好きかね?」

「言ってることがよく分からん。そもそも俺はゲームなどという低俗なものは……ぐふ!?な、なぜ殴る!?」

 

「やっぱりいつ見ても三景は綺麗でいい刀だね。俺が見てきた中でも一、二を争うよ。ちょっとだけでいいから、今度俺振るわせてくれないかい恭也くん」

「は、はぁ、それはいいのですが……十六夜さんがすごい凄く膨れっ面になってるのでそろそろ……」

 

「くぅ~。ユーリのハネ、あたたかい。ぽわぽわする」

「久遠の尻尾もフサフサで気持ちいいです!!」

 

────ええっと。

 

「……忍、ここって最近若い人たちの間で流行ってるっていう異世界?転生?」

「ううん、ここはただの地球」

 

忍の返答を全否定したほうがいい光景が今ここに広がってるのだけれど。

魔法の事は知ってたし、私自身も厳密には人間じゃないから『ただの地球』がどの程度レベルなのか判断つかないけれど……。

 

うん、そっか。

 

「宇宙船地球号って、思ってたよりも広かったのね」

「というか隼さんがキャプテンになった瞬間から、たぶんこの船は改造や合成されたんだろうね~」

 

夜の一族なんてちっぽけな悩みだ──この光景が、そう訴えかけているようだ。

 

もちろん、これはこの場限りであり、酒気の帯びた空気がそれを後押ししているんだろうけれど。でも、そっか。

 

「──これが隼くんなのね」

「そういう事。このなんでもござれな空間を作った張本人が、夜の一族"程度"でヒくわけないじゃん。特に隼さんの好きな『女性』『お金』『子供』を兼ね備えたすずかを拒絶する?あははっ、有り得ない有り得ない!」

「そうね」

 

全てを分かってたわけじゃないし、分かったわけでもないけれど、それでも少しだけなら。

この光景はきっと隼君なしじゃ出来ない。

 

「あっ、ハヤさんは魔法をぶん殴る~、へいへいほ~♪」

「服着なさいよ!!」

 

部屋の中央でパンツ一枚で、鼻に割り箸を突っ込みながらアリサちゃんの放った魔法を殴っている隼くん。

 

そんな光景に驚きよりも呆れと笑いが先に来てしまうのは、私も隼くんに毒され始めたのか、あるいはいろいろと諦めたのか。

 

(確かに隼くんなら受け入れてくれるかもしれないし、後押しもするけれど……最後はすずか、あなたの頑張り次第よ?)

 

もしかしたらすずかの好敵手になるであろう、隼くんの周りにいる女性たち(……少女の方が多い?)を見ながら、私は未だ放心している俊さんの面倒を見ながら微笑みを浮かべるのだった。

 

 




本編を進めなきゃいけないのに、なぜか幕間前後編です。
本当は小話を5~6つの1話として考えてたのですが、夜の一族のくだりが思った以上にながくなってしまったので分けました。

次回もとらハ要素強めの混沌予定。
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