フリーターと写本の仲間たちのリリックな日々   作:スピーク

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よくSF映画なんかで近未来の建造物を出てくるだろ?何かさ、壁がえらい光沢のある金属っぽいやつだったり、"ピッ"って言って"シャッ"て開く扉だったり、テレポートするような場所があったりよ。

ああ、現実でもいつかこういう風景を拝めるのかねぇ、一家に一台メイドロボとかになる日が来るのかねぇ、そんな思いを誰もが一度は馳せた事があると思う。

 

かくいう俺は思いどころかそれを体験済みだ。半年前の、今は無き時の庭園(現・俺の別荘)での初体験。扉とか壁とかは地球のモンと変わらなかったが、売却商談する際に使ったあのコンピューター。あれ、画面とか普通に宙に飛び出してたし。マジ未来じゃん、とか感じたもんだぜ。

 

だが、今思えばありゃあ小っちぇ未来さだったんだよ。今、目の前に広がってる光景に比べたら、時の庭園の何ともショボイこと。ああ、やっぱ所詮は庭だったって事だよな。やっぱ未来的っつったらよ、こう建物がビシッと連なってドバッとぶっ建ってるようなもんじゃなきゃな。その中を歩いてる人間もよ、なんか変な機械使いながら誰も居ない空間に喋り掛けたりして、服装も未来チックなもんでよ、いかにもって感じを漂わせとかなきゃな。

 

そして今の目の前の光景は、まさにそんな感じだった。

 

「えっすえふぅ~!超未来的じゃん!お、何か空飛んでんぞ!あ、ちょいそこの兄ちゃん、あんたそれ何持ってんの?……おー、すっげえ!よかったらよ、俺の持ってるiPadとそれ交換しね?」

「ちょっと隼、少しは大人しくしてよ!」

 

ロッテが勝手に動き回る俺の腕を掴み、目的地へ行かせるために強制的に歩かせてくる。

 

「お、おい、ちょっと待てって。今こちとらSFを満喫しとんじゃ。邪魔すんなよ」

「ここに何をしに来たのか思い出しな!」

「思い出すも何も、ちゃんと覚えてるって。………観光?」

「全然違~う!」

 

にゃあにゃあと喧しい奴だな。なのはかよ、お前。分かってるよ、覚えてるって。自分から言い出した事を忘れるわけねーじゃん。

 

「俺は、お前たち姉妹の義父様にご挨拶に来たんだ」

「そうそう……じゃないよ!挨拶って何!?それに父様のニュアンス違くない!?」

「ちなみにこの世界ってどういう法律あんの?おもに異種族との結婚方面に関して」

「どうしてこのタイミングでそういう質問が出んの!?」

 

と、このようなやり取りをして早1時間………つまり、ここミッドチルダに来て1時間経っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法世界ミッドチルダ。

漫画とかじゃあ魔法が存在する世界は科学の発達が遅いってのが通例だが、ここはそんな通例に真っ向から上等ぶっこいてる世界だ。まあまるで魔法チックじゃない魔法なので、通例が通用しないのも分かるけどよ。

何で魔法に砲撃ってカテゴライズがあんだよって話だよな?何で杖が機械なんだよって話だよな?ハリーポッター見習えよ。

 

と、まあそれはどうでもいいか。この世界がどういう世界だとかは兎も角、俺を楽しませてくれるなら何でもいいさ。

そして正味な話、今日この世界に来たのはロッテのお父様、ギル・グレアムとかいう人に会いに来たのだ。その理由は省く……てか前話参照。急な話なのにそのおっさんは都合を付け、そしてここミッドチルダにある管理局地上本部に会談の席を設けてくれたのだ。

 

「いや~、まだ見ぬおっさんだが、中々話の分かる年寄りっぽいな」

 

ロッテから聞いたギル・グレアムの人物像を思い出す。

時空管理局の提督として今でも活躍している渋いおっさん。局内ではその優秀ぶりに『管理局歴戦の勇士』なんていうカッチョイイ通り名まで付いているとの事。しかも出身は何と地球の英国!俺の紳士度と同等の紳士が蔓延っている英国!

この超紳士である俺に対し、本場紳士はどの程度なのかちょっと見ものだ。

 

「ふふん、まっ、どんな紳士が出てこようとも俺の方がマジ紳士だけどな」

 

俺は異世界の青き空を仰ぎ見ながら胸を張る。

ああ、今日もいい天気だ。それに街を歩く人の賑わい、レストランや露店から漂ってくる美味そうな香りは地球と変わりない。

 

「やっぱユーリも連れてきてやるんだったかな」

 

学習能力というものが欠落してる俺は、今回またしてもユーリを家に置いてきた。と言っても別に今回は戦闘するつもりはないから危険はないだろう。あいつもまだ寝てたしな。

こういう楽しげな賑わいの中を連れまわしてやりたい気もしないでもないが、まあそれはまた別の機会だな。

 

「帰ったらまた五月蝿そうだ」

 

涙目で『なんでまた一人で行っちゃうんですか!ずっと一緒って言いました!』なんて攻められるのが目に見えてる。まっ、土産の一つでも買って帰れば落ち着くだろうけど。

 

「ん?」

 

不意にポケットの中に入れておいた端末が震えた。それはこのミッドチルダに来たときにロッテから渡された通信端末。

俺はそれを取り出すと、事前に説明された通りに操作して通信を受けた。例の宙に飛び出す画面が出てき、そこに映ったのは猫耳をピンとおっ立てていかにも怒ってますといった風なロッテ。

 

《隼!》

「おお、ロッテ。どしたのよ?」

《どしたのよ、じゃない!今、どこにいるのさ!》

 

どこ?おいおい、おかしな事を言うやつだな。さっきまで一緒にいて、そして俺の思考もある程度分かっているだろうに、そんな今更な質問をするとは。

 

「ちょっと観光」

《何でホントに観光しちゃってんの!?》

 

いや、だってなあ。こんな見も知らぬ場所にきちまったら、そりゃあいろいろと見て回りたくなるじゃん?でもロッテの奴、早く父様のとこ行くぞ行くぞとうっせえからよぉ、トイレ行く振りして抜け出しちまった。

 

《そんなの後でもいいじゃん!父様待たせて何考えてんだ!》

「何を考えてるだと?ンなの、楽しもうとしてるだけだよバカヤロウ。適当に楽しんだらまた連絡入れてそっち戻っからよ、それまでさいなら~」

《~~~ッッ、ぶわぁかーーーーーーーーーー!》

 

ガシャンという大きな音と共に画面は消えた。最後に映っていたのは壁だったため、どうやら投げつけたのだろう。

まったく、これだから女のヒステリックは敵わん。だいたいロッテも半分猫ならもっと自由気ままな考えを持とうぜ。余裕ってやつをよ?

 

まあ実際のトコ、こんな観光してる余裕なんてないのかも知んねーけど、ンな事知った事かっての。

 

「さて、ロッテからの快諾も貰ったし、ぶら~と魔法世界を散策するとしますかね」

 

端末をポケットに戻し、さっそく歩き出す。

そういえばいつだったか、この冒険心が疼いて時の庭園を散策したっけな。まあそこで見つけたのはアリシアの死体なんてとんでもない代物なんだが………。そう考えれば、今回もまた何か見つける羽目になるのかねえ。流石にこの繁華街で死体なんてものに出くわすとは思えんが、もっと違う、例えば───────。

 

「止めてください!は、離して!!」

「…………………」

 

ふと声の聞こえたほうを見れば、そこには男4人に四方を囲まれている金髪の女性がいた。

 

(うわ~、なんかイベントきた~)

 

……………って、いやいやいやいや。なんかさ、もうこれはなくね?別に俺は振ったわけじゃないのよ。フラグを立てたつもりもないのよ。確かにお約束も王道も好きだけどさ、だからって言った瞬間それ?しかもギャルゲーとかによくあるベタベタな展開っぽいし。

 

勘弁しろよ、俺がどこにでもいるようなギャルゲーの主人公に見えるか?ギャルゲーの主人公ってさ、別のギャルゲーの主人公と入れ替えても絶対大差ないキャラ性だろうけど、もし俺とギャルゲーの主人公を入れ替えたらどうなる?自分で言うのもアレだけど、もう……きっと酷いよ?

 

(はぁ……まあそれにしても、どこの世界にでもいるもんだねえ、ああいうクズい感じの輩って)

 

自分の事は、スカイツリー並みに高い棚に置いといて。

 

女性を囲んでいる4人の男。頭を金髪、茶髪に染め、それぞれがだらしなく服を着崩している。

どう見てもDQNです本当にありがとうございました。

てか魔法世界にも腰パンってあるんだな。というかそういう髪色も含め、そういう格好をする人間は地球と同じ感じなんだな。それにしても男どもは見たとこ10代後半から20代前半。という事はナンパか、はたまた最近流行のキレやすい子供なのか。

 

「で、そんな男4人にいちゃもん付けられている女性が一人というあの状況に対し、世界は俺にどういう行動を望んでんだよ」

 

熱血主人公のように、正義感に駆られて女性を助ければいいのか。

クール主人公のように、格好をつけながら何でもない事のように女性を助ければいいのか。

通行人Aのように、見て見ぬ振りで女性は放っておけばいいのか。

 

う~ん、そうだなやっぱりここは………。

 

「女の顔見て決めよ」

 

最低な主人公のように、女性が美人だったら助ける方向で。

 

果たして、そこにいた女性のご尊顔の程はというと…………。

 

(うん、まあ可愛いな。可愛い。うちの奴らと同レベルはある……が、う~ん……まっ、いっか)

 

ちょっと悩んだ末に助ける事で決定。ああ、なんて立派な俺。

 

「は~い、ちょっとごめんよ。お前ら、そのへんにしとけ?」

 

俺は気だるげに割って入った。

 

「あ?んだよ、てめえ」

「うわお、正義の味方登場で~す」

「お兄さん、かっこいい~」

「今、ボクたちがこの子と話してるんですよー。外野は引っ込んでてくれますぅ?」

 

男たちは四者四様の反応を俺に向けてきたが、統一されてるのは俺にナメ腐った態度を取っているということ。

 

ああ、なんだろう、この数年前の自分を見てるような懐かしい感じは。………え?今も?

と、そんな昔を振り返ってる場合じゃねえな。別に俺は懐古厨じゃねーし。

そんな事よりも注目すべきは男より女の方だよ。

 

金髪の女の子。服装はなんかヘンテコなもので、地球でいうところのカソックっぽい感じの服。雰囲気の印象はお淑やかって感じだが、それは男に囲まれているというこの状況によるものか、それとも地なのか。体つきは今後に期待。そして何より西洋人形のような顔。可愛い。これ重要。

 

……ただし、である。

 

(年がなぁ、もうちょっとなぁ)

 

悩んだ理由がそれだ。

見た目、おそらく10台半ば。大人っぽい雰囲気が出ちゃいるが、俺的にはギリでガキの範囲。流石にフェイトやなのはのようなモロガキって感じにはならんが、それでも、う~ん。

 

(まぁ、お姉さんとかいればワンチャンあるかもだし、今後の為にも知り合いになる価値は十分に………ん?)

 

気付けばその女の子が俺の顔をガン見していた。それも何故か呆けたような、驚いたような、そんな表情をしている。

 

(ンだぁ?俺の顔に何かついてんのか?……ああ、もしかしてこいつらの仲間と思われた?)

 

忘れているだろうけれど、俺の今の髪はちょっとばかし金色だ。プリンだ。さらに言えば路上喫煙上等とぷかぷかとタバコをふかしている格好。

誤解されてもなんらおかしくはないな。

 

俺はその誤解を解くと同時にこの場を収めるよう柔らかく口を開く。

 

「まあまあ君たち、この子が何かしたのか知らないけど、ここは大人になろうじゃないか。男は大きく構えて女性を受け止めないとね」

 

俺は優しくガキ共を諭すと同時に、怯えているであろう少女に向かって『もう大丈夫だよ』という意味合いで笑顔を見せる。

 

ああ、俺ってマジ紳士。

あとで本場紳士に会うため、少しでも俺の紳士度を上げておこうじゃねーか。ついでに女の子の方にも好印象付けとかねえと。

 

「いいかね?こんな青空のように、もっと心も大らかに───────」

「うっせえよ、おじさん。年寄りは隠居でもしてろよ」

 

………………………。

 

「そそ。邪魔なんだよ、クソヤロウ」

「てか、いい年して金髪とか在り得ねえ~。バッカじゃね?」

「ボコられたくなかったら5秒以内に消えろよ。つうか喋るな、口臭ぇんだよ」

 

そう言って男の一人が俺の胸をドンと手で押し、まるでゴミでもみるようにヘラヘラとした笑いを浮かべながら見下した。

 

「ま、まあまあ、落ち着きなさい君たち。言葉の暴力という言葉を知っているかな?ほら、そこの女性も怖がってるようだし、ここは俺の顔に免じて────」

「だから、うっせえっつってんだろ!」

 

擬音で表すなら『バキッ!』とか、そんな感じの音が耳に入り、視界がぐりんと横に移動した。その後、頬に鈍い痛さと熱が発生しているのを感じ、そこに至ってようやく自分が殴られたのだと思った。

 

(うそ?今、ボクちゃん、このクソガキに殴られちゃった?………あはははははは)

 

………ああ、無理。もうホント無理。てか俺頑張ったよね俺、超頑張ったよね。もうゴールしてもいいよね?堪忍袋の緒というゴールテープをズタズタにぶっち切ってもいいよね?

 

「さっ、じゃあ正義の味方(笑)なおじさんは放っといて、俺たちと何処か───────」

「……待てやコラァ~」

 

俺は女を引っ張っていこうとする男の肩に腕を回し、肩を組む形をとって至近距離でガンつけた。

 

「テメェら、人が優しく穏やかに対応してこの場を収めようとしてやってんのに、それをいい事に調子ぶっこきやがってよォ。しかも俺の美顔に一発かますたぁいい度胸じゃねーか。ここまで上等くれといてタダで済まそうなんて思ってんじゃねえだろうなぁ、おお!?」

 

先ほどとは一変した俺の様子に男共はもとより、少女の方も目を見開いて驚いている。

あ~あ、せっかく紳士な俺を見せて好印象を抱かせようと企んでたのによぉ、それがこのバカガキ共のせいで台無しになっちまった。でも、しょうがねーべ?余裕を持つことも大事だけどさ、我慢はやっぱ体に悪いよ、うん。

 

「全員、ちょっとそこまでツラ貸せや。ここじゃ人目が多いかんよォ」

 

肩に回した腕をそのままヘッドロックの形にし、もう一人近くにいた男の髪の毛を掴みながらすぐそこの薄暗い路地へと入っていく。

と、その前に一人取り残された子に一言。

 

「おう、もう大丈夫だかんよ。こいつらには俺がきっちりオトシマエつけといてやっから、もう行きな」

「え、あ、あの……」

 

何を言いたそうなその子から踵を返し、俺は男共をつれて路地裏へと入った。

 

もう女の子の事は諦めよう。今は女の子にいい印象植え付けるより、この溜まった鬱憤を解消するのが先決だ。

 

さて、じゃあ鈴木隼君による異世界初の紳士的指導タイムと洒落込もうかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「すンませんっした!!!」」」」

 

顔を腫らし、鼻や口から血を垂らした男4人が綺麗に90度の角度で腰を折って頭を下げている。

それを俺はタバコをふかしながら横柄に見下す。

 

「今度からよォ、喧嘩ふっかけるなら相手をよく見て上等こけや」

「「「「申し訳ないっス!!!」」」」

 

ったくよぉ、最近のガキはホント血気盛んだねぇ。てか、やっぱここは魔法世界だな。家族やなのはとかアリサ以外で喧嘩に魔法使われたのは初めてだわ。まあヴィータとか理とかみたいに凶悪な魔法じゃなく、ちょっせえ魔法弾だったから普通に拳で対応出来たけど。

 

「まっ、てめぇらみたいな馬鹿な元気は俺ぁ嫌いじゃねーぜ?そうだよな、これくれえ無鉄砲でバカじゃねーとな………そうだな、どうせもうちょっと観光してく気だったし、テメェら、今から飲み行こうぜ。俺が出してやっからよ」

 

ロッテから借りた、返す気のない金だけど。何かあった時困ると言ってここに来る前にこの世界の紙幣を何枚か貰ってたんだよな。

 

「「「「ま、まじっすか!?あざーーっす!!!」」」」

 

まだ昼であり、そもそも男たちは未成年だろうけれど、ンなもん些細な問題だ。地球外の酒屋や酒も気になってたし。

 

「美味い酒飲めるとこ案内しな。もし不味かったらタダじゃ…………」

「あの……」

「あん?」

 

声が聞こえたほうを見れば、そこにはもうどっか行ったと思っていたあの女の子が居心地の悪そうに俯いて立っていた。

 

「あれ?なんだ、まだいたのか」

「は、はい。あの………」

 

その子はギュと自分のスカートを掴むと俯いていた顔を上げて、小さく震えながらも振り絞るようにこう言って来た。

 

「今からお暇ですか……!」

 

は?いきなり何言ってんの、この子。暇も何も、今あんたの目の前でこいつらを飲みに誘ったとこじゃん。暇じゃねーよ。

 

と、俺が首を傾げていると、男の一人が耳打ちしてきた。

 

「旦那、やったじゃないですか」

「は?なにがよ」

「何がって、分かってるくせに。もろ誘われてんじゃないっすか」

 

………………え。

 

バッと今一度その女の子を見た。顔は耳まで真っ赤にしており、スカートを握りこんでいる手は可愛くぷるぷると震えている。そして、その目はどこか期待しているような感じで潤っている。

 

マジで?

 

「やっぱ流石っスね旦那!いや~、羨ましいっスわ!」

 

重ねてマジで?

地球ではまるでモテない、暴力的な俺。だが、世界が変われば評価も変わるという事か?まさか……まさかとうとう本当に!

 

俺の時代キタああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!

 

「ああ、もちろん暇だぜ!この後も何も予定ないし!なんかあったような気がするけどないし!ンじゃ行こうか!」

 

楽しく喧嘩した後にすぐさまデートとか、マジで魔法世界サイコー!……年齢的に駄目じゃなかったのかって?馬鹿が!ギリアウトレベルでも、そこに相手からの好意がプラスされたらギリセーフになるんだよ!

 

あっと、その前に。

 

「おら、お前ら」

 

俺はポケットから財布を取り出し、そこからロッテから貰ったミッドチルダのお札を数枚取り出し、男共に手渡した。

 

「これで美味いもんでも食いな。貸しといてやんよ」

 

知っての通り俺は金に関してはうるさい。ケチ臭い。いくら金持ちになってもそこは変わん。自分の為には何の遠慮もなく使うが、人のためには滅多に使わん。

だが、だからこそ遣いどころは心得ている。

アニキとまで言って俺を慕うバカヤロウ共を、何もなく帰したんじゃあ男が廃るってもんだろ。飲みに行くと誘った手前もあるし。それにこの場合、この子とデートする切欠を作ってくれたと言えない事もねえからな。それに何よりこの金、もとはロッテのだし。

 

「「「「だ、旦那ァァァァアアア!!!」」」」

「おうよ」

 

あーあー、うざってえ、咽び泣くなよ。

 

俺は血と涙を流す男共をあしらった後、改めて女の子の方をみる。

てか、見れば見るほど可愛いな。付き合うとか、そういうのを抜きにしても一緒に遊びたい子だ。見た目から察した歳は……う~ん、まあ、さっきも思ったように欲を言えばもう少し上がいいかな。タメから±3歳が理想だ。が、理想は理想。

 

(と、いつまでもこんな思考に耽ってる場合じゃねえ)

 

これはこれで待ち望んだ千載一遇のチャンス。訪れた好機。

デートに誘われるなんて今まで一度もなかった。女友達と遊びに行った事はあるが、そこには勿論男友達もおり、こうやって二人でどこか行くなど皆無。

いい加減、チキンだのヘタレだのという汚名を払拭しようぜ俺。

 

「お待たせ、じゃ、行こうか。つってもこの辺の地理には詳しくねえんだけど。ああ、昼時だし、どっか喫茶店見つけたら入るか」

「あ、はい」

 

字面だけ見るならさも普通に誘ってるように見えるだろ?隼、やれば出来るじゃんと思ってるだろ?

とんでもねーですよ。

脇汗ダラダラ、手汗ニチョニチョ。緊張で顔が引き攣ってるっつうの。……ヘタレ?いやいや、これは可愛い子に対するある種の褒め態度だよ。暗に『こっちが緊張するほど可愛いね』的な?

 

「………あの、あなたはこの世界の人ではないんですよね?」

「あん?」

 

喫茶店を探すべくキョロキョロと周りを見渡していた俺の隣から、唐突にそんな事を言われた。ただ、疑問系で尋ねられてはいるんだが、どこか確信めいていて、それでいて期待している声の調子だ。

 

「ああ、まあな。第……忘れたけど、管理外世界からな。地球ってとこ。ちょっとした旅行みたいなもんだ。てか、よく分かったな」

「は、はい、まあ……」

 

どうにも歯切れの悪い言葉が返ってくる事に、俺は若干の疑問を抱いたが、しかしそこでふとある一つの思いに到った。というより、誘ってきたにも関わらずテンションの低い彼女の雰囲気で、冷静に己と今の現状を考えられるようになった結果かもしれない。

 

つまり、何が言いたいのかというと。

 

(これって別にデートでも何でもなくね?)

 

この子が『暇ですか』と誘ってきた時のあの様子、あれは今思えば照れてるとかそういう感じじゃなかったような気がする。いや、確かに照れもあっただろうし、勇気出して頑張って誘った感もありはしたけれど、どうにもその『頑張って』のベクトルが違ったような。

言わば"異性を誘う"というより"見も知らない年上の人を誘う"、この思いで頑張っていた感がある。

 

─────絡んできた男達と同じ風貌の男、きっと同じように怖いだろう。実際路地裏で喧嘩してたし。でも助けてくれたのも事実だからお礼くらいはしなくちゃ。

 

そんな気持ちだったのかも知れない。てか、そっちの方が濃厚だ。

もしくは。

 

(……援交?)

 

これも合点がいく。

一つに例えとして、この子は最初その目的のために男に声を掛けたら実は四人だった。やっぱり断ろうとしたら4Pを迫られ困っていた。そこに現れた俺は四人をフルボッコにした。そして、一人になった俺に狙いを定めたわけだ。

 

男四人の去り際に俺が渡した金、その羽振りの良さ。

異世界出身、後腐れというものの無さ。

 

これも判断基準か?

救いなのは、女の子のテンションが低いことから、この援交は本意というわけじゃないんだろう。人を見かけで判断する俺は、どうしてもこの子が進んで援交をするとは思えない。きっと金に困っているんだろう。あれだ、現代版マッチ売りだ。

 

まあどちらにしても、だ。

 

(そうだよな、俺がモテわけねーじゃんよな)

 

未だモテたためしのない俺が、魔法世界に来た途端デートに誘われる?時代がキタ?

寝ぼけた事ぬかしてんじゃねーよ、さっきまでの俺。

夜天たちと暮らすようになって、テスタロッサ家と交流を持つようになって、機械姉妹たちと遊ぶようになって、八神家に受け入れられて、また俺は勘違いを爆発させていたのかもしれん。周りが皆美人で、そいつらに嫌われてはいないから、イコール『俺カッコイイ、超モテモテ』という方程式が組みあがっていたのかもしれん。

 

バカか、俺は。いや、バカだけどさ。それにしたって、なあ?

 

先にも言ったように、俺はギャルゲーの主人公じゃない。

顔は整っちゃないし、髪だって黒髪サラサラじゃなく、金髪に染め上げてワックスで立たせている。最近は酒の飲み過ぎや不規則な生活で腹が出てきたし、歯なんてタバコのヤニで若干黄色になっている。正義感ゼロでギャンブル好き。鼻毛が出ていたら女性の前でも引っこ抜く事が出来る(むしろアリシアやチンクに引っこ抜かせてた)、そんな男だ。

 

これのどこが主人公?むしろ主人公の親友ポジションか、もしくは主人公のかませ犬的な不良Aのポジションじゃん。

 

(仮に長所をあげるとしてもなあ………)

 

喧嘩が強い。

自分に正直。

誰とでも仲良くなれる。

ガキに優しい。

紳士。

 

これ全部言い換えれば。

 

粗暴。

自分勝手。

馴れ馴れしい。

ロリコン&ショタコン。

変態。

 

………救いなくね?

 

「流石に泣けてくる」

「ええっと……」

「ああ、いや、何でもねーよ」

 

まあいいや。俺がどれほど最低かなんてのは、これまでの俺を見てきた人には分かりきってる事だろうし。

例えこの子がただのお礼目的だろうとも、援交目的だろうとも、取り合えず今は俺とこの子の二人だけ。可愛い女の子と二人でいられるなら、どんな目的だろうとこの際構わん!

 

「お、あれって喫茶店じゃね?じゃ、取り合えず入ろうぜ。昼飯まだだろ?お兄さんが奢ったげようじゃねーか」

「先ほどのお礼もまだなのに、そんな……」

 

そこで渋るか……ふむ、どうやら援交という線はないようだな。………それもそれで残念に思ってしまうこの男心よ。

 

「いいからいいから、こういうのは男が払うもんなの」

「そうなんですか?」

 

いや、たぶん。俺自身、デートなんてした事ねーから真実はどうだか知らんが、ダチの話とか聞く限りでは。

 

と言う訳で。

俺たちは目に入った魔法世界の喫茶店へと入った。店内の様相は地球の喫茶店と代わり映えしなく、店員の『いらっしゃいませ、2名様ですか、おタバコはお吸いになられますか』というテンプレ接客の後、テーブルへと案内された。

 

「ふ~ん、魔法世界つってもこういう店はあんま目新しい感じがしねえな。適当に目の付いたトコに入ったけど、ここで良かった?どっか行き付けの店がありゃあ、今からでもそっちに行くけど?」

「あ、いえ、特には……」

 

テーブルを挟んで対面に座った彼女は、物珍しそうにキョロキョロと店内を見回していた。まるでここに……というか、こういうトコに初めて入ったかのような様子だ。

 

そう珍しくはないと思うんだけどな。店の外観からしてチェーンぽいし、メニューは見たことない料理名ばっかだけど、写真見れば地球で見たことある感じのばっかだし。しいて言えば夜はバーにもなるらしく、バーカウンターとその奥に酒が並んでるくらいだ。

 

「こういうトコ、嫌だったか?」

 

ん~、やっぱ年齢からして喫茶店とかあんま入んねーのか?俺も中学生ン時は大体ファミレスとか公園でダベったり、コンビニで買い込んだ後の宅飲みコースとかばっかだったし。

それとも、逆にもうちょっとオシャレな所が良かったとか?ん~、最近のガキの嗜好はよくわからん。

 

「そういうわけではないです。ただ、あまりこのようなお店に入ったことがないので、珍しくてつい……」

 

恥ずかしげに顔を伏せるその姿は可愛らしいのだが、はて、『お店に入ったことがない』とはどういう事だろうか?

 

俺の怪訝な顔に気付いたのか、彼女はまたも恥ずかしそうにポツリポツリと語り出した。

 

「その、私、教会から滅多に外には出ることがなくて。外に出る時も付き人、教育係りがいつも付いてて……あ、教会というのは聖王教会のことで……だから、こういうお店で食事をする事も極稀なんです」

 

ふへぇ~、驚いたね。こういうお嬢様的な子が本当にいるんだな。ていうか、教会ってことはやっぱシスターさんなんかな?マジかよ、リアルシスターとか超貴重じゃん。

 

「あれ?じゃあ今日はどうしてまた外に。それに、その付き人さんは?」

「ええっと……抜け出してきちゃいました」

 

おいおい、ここに来て『お転婆お嬢様』設定かよ………とも思ったが、どうにもそういう感じじゃない。お転婆とかじゃなく、何か大きな理由でここに来たといったような顔つきだ。しかも、その顔を逸らさず向けているのは、どうしてか俺。とても真剣な目で見つめられる。

 

「そんな見つめられても、俺としては、君の彼氏になってやるって事くらいしか出来ないんだけど。あ、でもせめてそれは4~5年後ね」

「か、彼……!?」

 

いや、冗談だけどな。

そんなマジな表情で見つめられたら、流石にちょっと恥ずかしかったんで、空気を柔らかくしようとしたんだよ。

 

「もしかしてさ、俺を誘ったのは何か理由があるわけ?お礼とか逆ナンとか、そういうンじゃなくて」

 

俺と彼女は紛れも無く初対面であり、俺が誘われる理由は分からないんだが、それでも何かしらの理由がなきゃこの状況はちょっと不可思議なんだ。

お礼ってだけで、初めて会った男と食事に行くか?しかも相手はイケメンでも何でもないこの俺だし。

援交って考えも確かにあったが、ちょっと話してみてその線が薄いってのは分かったし。

 

「……はい。あ、でも助けて頂いた感謝の気持ちは確かにあります。そのお礼も必ず。ぎゃくなん?というのはちょっと分からないですけど」

 

という事らしい。

肯定だった。

つまり、この子には俺を誘うだけの理由があったらしい。滅多に出ない外に出て、男共に絡まれて、それでも止められない理由が。

 

「私、実は未来予知が出来るんですが───」

「あ、悪い。ちょっと用事思い出した。じゃね。おつかれ~」

「ええ!?」

 

なるほど、つまり教会の活動の一環……宗教活動をするために外に出たわけか。それか、頭が別世界とリンクしてるちょっとアレな子か。

どちらにしろ、関わるべきじゃねーよな。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

席を立つ俺を慌てて引き止める少女。その顔があまりに必死で可愛かった為、取り合えず俺はもう一度席に座る。

 

「あの、急にこんな事言われて信じられないとは思いますが……」

「いやいや、うん、大丈夫。お兄さんは信じるよ」

「ほ、本当ですか?ありがとうござ────」

「ところで壷とか売るんだろ?売り上げの何%か貰えるなら、俺ガチで手伝うけど?それとも病院かな?地球でも良かったら、いい医者紹介するぜ。しかもその医者のお姉さんが刑事だからさ、もし自分を抑えられなくなったらすぐぶち込んで貰えるし」

「全然信じて貰えてない!?」

 

ったりめぇだろ。

 

察するに。

未来予知して、今日この世界に俺が来るのが分かったから、教会を抜け出して会いに来たってか?

まあ死者蘇生も出来る今の世の中だ、未来予知の出来る奴がいても不思議じゃねえのは分かる。いいだろう、そこは認めてやろう。

だが、よしんば未来予知が出来るとしても、そしてその予知に俺が出てきたとしても、どうしてわざわざ確かめに来る?俺は、主人公にもなれない普通の紳士だぞ?平穏無事を願う、事なかれ主義だぞ?

そんな男に、例え予知したからって会いに来るか?誘ったりするか?

 

「これを見てください」

 

すっと出されたのは、茶色く褪せた古びた紙の束。

俺は、その束から一枚手に取り眺める。何の変哲もないような紙だが、その片面には文字が書かれている。が、まるで読めない。見たことも無い文字だ。

………ん?いや、待て。ちょっと見覚えがあるぞ?

 

「それが私の能力で読み取った未来を詩文にしたものです」

「これが?」

「はい。ただ、作成期間も限られ、文字も解読難解な古代ベルカ語、その為解釈も無数にあるので、差し詰め『よく当たる占い』程度のものなんですが……」

 

ああ、古代ベルカ語か。道理でどっかで見たことあると思ったら、写本に書かれてる文字と同じなんだよ。

 

しかしよく当たる占いねぇ……あんま信用率は高くなさそうだが、それでも結構凄い能力だよな。………ああ、もしかして、あんま外に出たことが無いって理由はここにあるんじゃねえの?的中率や実用性は兎も角として、教会側から見たらこんな能力を持ってるってだけである種の象徴になりそうだしな。そりゃ抱え込みたくもなるか。俺なら絶対ギャンブルに使うわ。

 

「でもよ、その程度の不確かなモンで、普通、見も知らぬ男に会いたいと思うかね」

 

まあ女はとかく占いとか好きだからなあ。

 

「そうですね、"普通"は思わないです。私は、そこまで冒険心の強いほうではないですから」

「冒険はいいぞ、冒険は」

 

それはそれとして、つまり。

 

「占いの内容が、"普通"じゃなかったって事か?」

「はい」

 

………ああ、嫌な予感。大抵の場合、てか俺の場合、『普通じゃない』=『厄介事へのフラグ』なんだよ。

 

「【数多の世界を司り、法る地にいづれ災い訪れり。侭に流れれば、地は焼け、空は燃え、世界は無限の欲望に満つる。されど異界より現れし者招き入れれば、より巨大な欲望により全てを凪ぐ。其れは混沌を吹き飛ばす自由の風、其れは命の運びをも覆い隠す自由の雲】………これが主な内容です」

 

うん、物騒だね。物騒な単語が満載だね。そして、この『異界より現れし者』って、流れ的に俺の事だよね。

 

「ちなみに、その内容と俺の関連性は?」

「他の文に、私が街で窮地に立たされた時その者が現れる、と書いてあったんです」

「で、今日の事と照らし合わせて俺だと?ちょっと早計じゃね?そもそも、あんたが今日街に出たのって偶然だろ?」

「いえ、予知には月も書かれていました。ただ、何分書かれていたのは月だけで、日にちまではなかったのですが……勘というのでしょうか、私は今日なのだと思いました」

 

出たよ、『勘』。便利な言葉だねえ~。ご都合的な言葉だね~。困った時の勘!

そう言われちゃあ何も言い返せねえじゃん。実際、マジで俺と会っちゃったし。

 

「まあでもさ、その予言の内容の者が俺だとは、まだ確実に決まったわけじゃないだろ?全部そっちの推測で─────」

「私は……!」

 

あん?

 

「私は、あたながそうだと思っています!いえ、きっとそうです!悪漢から身を呈して護って下さる方などそうはいません!そして、その颯爽と現れたお姿は騎士のような貴さを伴った風のようであり、私に向けられた笑みは全てを包み込み癒しの風のようでした!」

 

自分に酔っているのか、頬を赤くしながら何とも芝居臭い台詞回しで声高らかに言う少女。

 

夢見がちな少女というかなんというか。まぁあんま外界との接触ないっぽいって言ってたし……それともあれかな、宗教関係者ってやっぱり頭がちょっとお花畑な人が多いのかな?

 

「あ……すみません、つい熱が入ってしまい……コホン」

「まあ別にいいけどよ。いや、よかないけど。けどよ、やっぱりまだ俺か分かんねーじゃん?俺、今やる事あるからすぐに地球に戻るし。それに仮にまたお前が外に出て、で、今日以上の窮地に立たされて、その時に助けてくれる奴が現れるかもじゃん。そしたら俺じゃなくなるだろ?」

「いえ、大丈夫です。今日帰ったら、災いと思しき事象が訪れるまで外に出ませんので」

「おい、何さりげにニート宣言してんだよ」

 

全然大丈夫じゃねーよ。何、未来に頼りきってんだよ。

 

「お前ね、もっと今を楽しめや」

「今を、ですか?」

「こういう店にも来た事の無いってんだから、年相応の遊びも禄にしてねえんだろ?バカ臭い。教会なんて辛気臭ぇトコに引き篭もるのはよぉ、老後の楽しみにでもしとけ」

「それは……でも、私はそういうのは中々許されない立場なので……」

「立場なんてクソ食らえだろ。もしな、俺以外に人の生き方にイチャモンつけて来るような奴がいたら、こう言ってやれ」

 

拳を突き出し、手のひら側を上に向け、そして中指をピッと立てる。

 

「ガタガタぬかしてんじゃねーよ!引っ込んでな、ファッキン野郎!さもねーとキサマの汚ぇ穴に聖なるロザリオぶっ刺して昇天さすぞ!!」

 

───余談ではあるが、後に少女は実際にこの言葉を使ってしまい、周りの人々を卒倒させた。そして、これを教えたのが俺だとバレ、俺は少女の教育係りに半殺しにされるのだが、それはまた別のずっと先のお話。

 

(ハァ……なんかまた色々フラグを立てちまったような気がするなぁ)

 

ていうか、俺ここに何しに来たんだっけ?

う~ん……まっ、取り合えず。

 

「すんませ~ん、注文いいですか~」

 

飯食お。

 

あ、そういやまだ名前聞いてなかった。

まっ、いっか。取り合えず『アレな人A』ってことで。

 

 

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