フリーターと写本の仲間たちのリリックな日々   作:スピーク

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年末でリアル多忙のためいつもより短めです。


23

 

何事も、緩急というものが大事だ。

なんでもかんでも、いつでもどこでも平坦に平静に平凡に物事を進めていくなんて退屈だ。平らな道ばっかじゃ嫌気が差す。

人間、締める時は締め、しかし緩める時は緩める。

 

ひるがえって今、この時はどちらかと言われれば当然『緩める時』だろう。

 

今晩は闇の書の闇を除去するため、そして負の連鎖と雌雄を決する決戦だ。

しかし、今まで誰も成しえなかったそれを、果たして本当に成せるのだろうか?もしかしたら誰か傷つき、取り返しのつかない事態に陥ってしまうのではないか?あるいは、死者も出てしまうかも?最悪、俺たち全員闇の書の闇に負け、はやては暴走し、この世界が終焉してしまうという可能性も?

 

心配だ、不安だ、怖い。

 

皆、そう思ってしまってるかもしれない。いや、きっと思ってる。なにせこの俺だって怖いのだ。そりゃもうおしっこちびっちゃうくらい怖い。ああ、もう俺に明日は来ないのかもしれないなぁ、なんて思ってる。緊張でどうにかなってしまいそうだ。

 

しかし。

いや、だからこそ。

こういう時だからこそ『緩める』が必要なのではないだろうか?大局でヘマをしないように、強張った身体、精神を落ち着ける為に。

 

……あるいは。

 

「そう、後悔のないように。最後に楽しい思い出を作っておきたいんだよ。今が最後の平和なのかもしれないんだから」

 

あたかも今の幸せとこれから訪れるであろう辛い現実をかみ締めるように。しみじみと、滔々と俺は語る。

 

「ええっと、隼……」

 

隣にいたリニスが俺の吐露された心情を聞き───

 

「びっくりするほど心が篭っていない、口から出任せもここまでくれば芸術的にすら思える言葉に説得力なんて欠片もありませんよ?」

 

───しかし、麗しい彼女の口から出た言葉は同意のそれではなかった。

 

「そんなバカな!?これは俺の嘘偽りのない気持ちだぜ?───はい、7渡し」

 

リニスに向けていた顔を手元に戻し、持っていた7のペアを場に出したあと隣にいるライトに手札の中から雑魚カードを渡す。

 

「うわーー!?ここに来て何て事するんだ主は!これ、ボク絶対上がれないやつだああ!?」

「わはははっ!ざまぁ!いや~、やっぱこういう嫌がらせ行為ってスカっと───」

「ここやな。えっと、8切りしてから、ほい革命や」

「はやて、てめえええええ!!!」

「はやて、大好きだああああ!!!」

「あの、ごめんねはやて……えっと、革命返し」

「フェイト、愛してんぞおおおお!!!」

「フェイト、大ッ嫌いだああああ!!!」

「あ、上がりました!」

「しれっと!?って、俺の都があああ!?ユーリてめえ!!くそったれが!!」

 

やってらんねーとばかりにカードをぶん投げる。都落ちしたら継続する意味ねーし。

ため息を吐きながら懐からタバコを出して着火。そして、あらためてリニスに向き直った。

 

「で、何だっけ?緩急が大事なんだっけ?」

「いえ、もういいです。う~ん、これを頼もしいと言えばいいのか、いい加減だと諌めればいいのか。状況が状況ですし、でも子供たちも楽しんでますし……悩ましいですね」

 

むむっ、と顎に指を当てて悩む仕草をするリニス。

言葉の内容はどうでもいいが、その顔はめっちゃ可愛いわ。

 

「主~、早く次やろうよ~。今度こそはボクがお金持ちになってやる!!」

 

俺がリニスを眺めていた時間は短くはなかったのか、ゲームはいつの間にか終わっていたらしい。

どうやらライトはまた貧民のようだ。大富豪はユーリで富豪がはやてで平民がフェイトか。ちっ、フェイトとはやてはさっきから富豪と平民で安定してんな。逆に俺とユーリが大富豪と大貧民を行ったり来たり。そして不動の貧民ライト。

 

「んじゃ、もう1戦だ!次、賭けるのは明日の3時のおやつ───」

「賭け事は感心しませんよ。それと隼、お隣にお客様です。今、アリシアと遊んでもらってますけど」

「あ?客ぅ?」

 

誰だ?このクソ忙しい時に……ん?アリシアと遊んでる?……ああ!

 

「なのはたちか」

 

そういや結局呼んだんだったな。ウチの方じゃなくてこっちに呼んどくんだったか。まぁ、アリシアの相手してくれてるみたいだからいいか。というか、むしろありがたい。アリシアの奴、最初は一緒にトランプやってたんだが、全然勝てないからってぷんぷん膨れてウチに行っちまったからな。

 

「え、なのは来てるの?」

 

言ってガキ共が立とうとするのを俺は手で制して止める。

 

「全員で行くとまたあっちが狭くなるし、お前らはここで待ってろ。連れてきてやっから」

 

じゃ隣に顔出して来るかねと思い、重い腰をどっこいしょと上げて立ち上がる。と、そこで傍のリニスが苦笑いを浮かべているのが目に入った。

 

「なに?どした?」

「ええっとですね、言っても無駄でしょうけどあまり勝手しちゃ駄目ですよ?」

「え?勝手?協調性の化身と言われる俺が?」

 

ワザとらしくとぼける俺に、リニスのみならず皆が揃ってワザとらしくため息を一つ。

ひでえ奴ら。

 

「なのはちゃんたちの事です。隼に呼ばれたって言って急に来たので驚きました。プレシアもボヤいてましたよ?『丸投げしたなら、もう大人しくしてて欲しいわ』って」

「いやぁ、頭じゃ分かっちゃいるんだけどな。あ、けど大丈夫。ちゃんと局には黙っとけってなのはたちには言っといてるからな」

 

最低限、浅慮になっちゃ不味いとこは弁えてる。

なのはには『もし今の俺んチの状況を局に流せば隼地獄スペシャル年末verをくらわせる。その上ですぐ俺んチ来い。来なきゃ同地獄』と。

 

まぁ、今理のやつが局とナシつけてるみたいだから、それもいらん事だろうけど。

 

「もうっ、隼ったら。ほどほどに、ですよ?」

「あいよ」

 

リニスも俺の性格は分かっているんだろう。いや、だろうじゃなく断言レベルだろうけど。ともあれ、言うほど俺を攻めていない。おそらくボヤいていたというプレシアも。

理解があって俺ぁ幸せモノだね。

 

「んじゃ、俺ぁちょっと抜けるぜ。リニス、俺の代打ちよろしく」

「はい、わかり………って、そう言えば大貧民スタート!?そんなぁ~!」

 

リニスの悲痛の叫びを背中に、俺は隣へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テスタロッサ宅から出て10歩も離れていないお隣。つまり自宅。

 

リビングに入ってまず見えたのは椅子に座った3人のガキの背中。

なのは、すずか、アリサだ。

なのはには「すずかたちも連れて来い」といっておいたが、どうやら言いつけは守ったようだ。ユーノがいないが、まあおそらく局のほうなんだろう。

 

そして、その3人の対面に座っているのは、今日も愛らしいお耳と八重歯が光っているアルフだ。しかしいつもと違い、その耳は萎れた様に垂れ下がり、八重歯が覗いている口元も力なく呆けた感じだ。表情全体を言い表すなら、そう、疲れ果てたような顔。そしてアリシアの姿も見えない。

 

どうしたんだ?と思い、3人の背後に向け足を進めると合点がいった。

 

「いつもいつも急なんですよね。ええ、いえ、それはいいんです。というよりそれこそあのハヤさんだし?それにここ最近はハヤさんの無茶振り出たトコ思い付き行動の間隔が短かったから驚く事もなかったの。人間慣れって凄いですね。もちろん、だからって文句がないわけじゃないんですよ?むしろアリアリですよ?というかもうね、アリすぎて何から文句つければいいか分からないくらいですよ?だからね、せめていつかギャフンと言わせようと思ってるわけですよ。今までの分全部まとめてギャフン砲をお見舞いしてあげようと思ってるわけですよ───アルフさん、聞いてます?」

「あ、ああ、うん、ちゃんと聞いてるよ?あー、でもそろそろ口は閉じたほうが……」

 

なるほど。どうやらなのはの奴が俺に対する不平不満をアルフにぶち撒けてるようだな。しかもあの様子だと結構な時間聞かされているんだろうな。それで疲れ果てているんだろう。アリシアの奴は早々に撤退したんだろうな。あいつ、その辺けっこう聡いし。

 

……ふむ。

 

うん、これはなのはの本心を聞くいい機会だな。お兄さん、ちょ~と気になっちゃいました。だからアルフ、ちょっとばかしの間『シッ~』な。

 

「すずかちゃんもアリサちゃんもホントにごめんね、無理やり連れてきちゃって。でもハヤさんが一緒に来いって言うからさ。そうすると私には『YES』という選択肢しかないの。だから文句はハヤさんに言って。というか、うん、やっぱり言うべきなの。一度きつく言ったほうがいいよね?よし、3人で力を合わせてハヤさんをナッノナノにしてやるの!」

「え、ええと、私は別に、隼さんが呼んでるなら……」

「う、うん、そうね、まあその内に?というか、そろそろ落ち着かない?」

 

愚痴の矛先が今度は親友である二人に向く。

位置的に二人の顔は見えないが、おそらくアルフと同じ表情を浮かべている事だろう。

 

「甘い!二人とも、お母さんの作るケーキより甘すぎるの!糖分過多なの!甘々ギネス認定狙いなの!?糖ハヤ病になっちゃうよ!?いい、二人とも!その甘さが、ハヤさんをじょーちょーさせる要因になってるんだよ!そんなのじゃどうしようもないよ!すずかちゃんもアリサちゃんもどうしようもないよ!アルフさんもどうしようもないよ!一番どうしようもないのはハヤさんだけどね!!」

「「あ、あははは……」」

「……なのは、ホント、もうホントそのへんで……ホント、もう黙った方が」

「黙れないよ!むしろハヤさんこそが黙った方がいいと私は常々思ってます!アルフさんも協力してください!ハヤさんを沈黙させるために!」

「……ああ、あたしゃ知らないよ。もう知らない。……ぽんぽん痛い」

 

3人の反応を他所に、まだまだ『うに゛ゃ~!』と叫びまくって留まるところを知らないなのは。

仕方ない。そろそろアルフの胃も限界だろう。なにせ彼女はなのはが喋る度に俺の顔に増える青筋を見ているのだから。

 

「決めた!私は言うの!ビシッと!ぐぅの音とぎゃふんの音をハヤさんの口から───」

「ぐぅ。ぎゃふん」

「「………え?」」

 

決して大きくはなかった俺の声に、すずかとアリサがいち早く反応した。振り返ったその表情は驚いた顔で、しかし徐々に『これヤベえ……』という顔になる。またアルフも同様だ。そして、そんな顔を向けるのは、つい今までゴキゲンで喋り散らかしていたなのは。

 

そして、そんななのはは───。

 

「…………………………………………………………………………………………」

 

間。

 

長い間。

 

こちらに振り返ることもなく、微動だにせずに背筋を伸ばして座っているなのは。硬直、という言葉を体言したような状態だ。

今、コイツがどんな心境かは俺にはまったく分からないが、彼女の顔を見ているアルフの表情はまるで『刑が執行される直前の死刑囚の遺言を聞いている神父』のようなそれだ。

 

「違うの」

 

俺が何かを言う前に、なのはが口火を切る。

 

「今まで言った事は全部違うの。これはこのダメなお口が勝手に喋っただけで、それは私の意見じゃないの。きっと誰かに操られてたの。だって私、ハヤさんの事好きだもん。酷い事言うわけないよ。もしハヤさんの悪口言う人がいたら私がとっちめて────」

「なのは」

 

俺の声にびくりと身体を震わせて反応。

 

「取り合えず何か話す時は相手の顔見ようか?ん?」

「……………」

 

先ほどよりは短い間。───ほどなく。

ギギギッ、と。

まるで油を長年差し忘れてしまったブリキの玩具のようにぎこちなく振り返るなのは。その顔色は、雲一つない晴天のように真っ青だ。

 

「よぉ、なのは。こんにちは」

「ハイ、ハヤサン。コンニチハ」

「おいおい、どうしたんだ?そんなに震えて?暖房は効いてるはずだぞ?寒がりだなぁ、なのはは」

 

俺はぽんぽんとなのはの頭を撫で、それから腕を掴む。その腕から震えがいっそう伝わってきた。

 

「じゃ、ちょっと俺の部屋行こうか?あっちで一緒にお喋りしながら温まろうぜ」

 

その瞳に涙を溢さんばかりに湛えて首を横に振るなのは。

どうしたんだ?そんな怯えた表情して?まったく可愛いやつだ。

 

「心配しなさんな。何もしないから。ちょ~とお話するだけだから。マジで」

 

微笑みを浮かべて優しく言う。

それでもなのはの怯えの表情は消えない。むしろ色濃くなった。

 

「ほ、ホントだよね?『考えうる限りの恥辱と苦痛を与えてやるよ』ていう副音声が聞こえるんだけど、気のせいだよね?」

「ハハハッ」

「ひっ!?」

 

おいおい、人様の顔見て「ひっ!?」はねーだろ。失礼なやつだなぁ。こりゃあ腰を据えてお話しなきゃな。

 

「すずか、アリサ、隣でフェイトたちが待ってるから先隣行ってろ。俺となのははちょっと時間掛かる。アルフ、案内してやれ」

「す、すずかちゃん、アリサちゃん、アルフさん、助け───」

「え、えっと、えっと……」

「それじゃなのは、先行ってるわ。ほらすずか、神に触って祟られる前に行くわよ」

「隼、言っても無駄だろうけど、ほどほどにしてやりなよ?」

「みんなぁぁああ!?」

 

世は儚く、人の情けもなし。

嗚呼、無常かな、無情かな。

 

《隼》

 

しかし、それでも希望があるとしたら、それは何者にも屈しない、不屈の心を持つものだけだろう。

 

《マスターも口が滑っただけです。けっして本心からではないかと。ですので、どうかここは相棒である私に免じて許して頂けないのでしょうか?》

「レ、レイジングハート!……私、信じてたよ……ぐすん、レイジングハートぉ!」

 

なのはの窮地を救うべく声を上げたのはレイハちゃん。

それは何とも勇ましく心優しい事か。本当にご主人様思いのデバイスだ。主冥利に尽きるというものだろう。

 

彼女こそがなのはの希望。星の光の如く輝く最後の希望。

 

ならば俺は、その希望には真摯に応えなければならないだろう。

 

「じゃあレイハちゃんも加わるか?俺はいいぜ?なのはを庇う心意気は買うが、だからって容赦しないよ?デバイスにも不快さやら苦痛やらを感じる事を分からせてやるよ?どうする?ん?」

 

ゴキッ、ゴキッと拳を鳴らす。その希望をへし折るぞと言わんばかりに。

 

《……………》

 

レイハちゃん、しばし沈黙。そして出した答えは──

 

《グッドラック、マスター》

 

鮮やかなまでに我が身を優先。

 

「うわぁ~ん!レイジングハートの裏切り者ぉぉおお!?!?」

 

なのはの胸元から繋がれていたヒモを引き千切り緊急離脱、玄関の方へと向かっていった。

迅速だな。流石は俺の相棒でもある子だ。

 

改めて。

嗚呼、無常かな、無情かな。

 

「なぁ、なのは?もう無駄に足掻くの止めようぜ?………俺を怒らせた時点でお前に救いはないんだよ」

 

絶望の表情を湛えたなのはをひょいっと肩に担ぎ、俺は死刑場である自室へと脚を進めた。

 

───程なく。

 

「いやっ!こ、こないで!……ふぁっ……っ!?……ひぅっ……!?ひゃっ、ひゃめてぇ……ごめんなさいぃ……もうバカな事は言わな……うに゛ゃぁぁぁあああああああ!?!?!?!?」

 

我が家に哀れな子猫の泣き声が響いたのだった。

 




なのはに施したのは健全な教育です。
それにしても前々話のフェイトとなのはのこの差……どうしてこうなったのか汗

次回はこんな馬鹿話ではなくきちんとストーリーを進ませます。
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