さて、前回俺はウチの奴らに対して「何でこんな時でも平常運転なんだ」みたいな事を言ってため息を吐いたのだが、しかしよく考えればそれが駄目だというわけじゃあないだろう。
平常運転。つまりいつも通り。そう、いつも通りはいい事だ。
往々にして物事というのは焦ったところで良くはならない。むしろ悪くなる。大事の前であれ小事の前であれ、いつも通り過ごす事こそ重要なのではないだろうか。
とどのつまり何が言うたいかというと……人間、晩飯時になりゃあ腹が減るという事だ。そして腹が減れば飯を用意し、食わなければならない。当たり前にいつものように。
「おい、そこの肉俺が狙ってたんだぞ!横取りしてんじゃねーぞアルフ!」
「世の中弱肉強食!早い者勝ちだよ!」
時間は夜の7時前。
現在、鈴木家では焼肉パーティが催されていた。
いや、別にパーティのつもりはねえが、人数が人数だから騒がしいのなんの。ウチとお隣さんに加え八神家になのは、アリサ、すずか、ウーノ、ドゥーエという大所帯。パーティといっても過言じゃねーよな。テーブル、大きいやつ買っといてよかった。
「ほら隼くん、こっちの焼けてるからどうぞ。あ、熱いから気をつけてね」
「どもっす、姐さん」
「ちょっとウーノ、それ私が焼いてたのじゃん!何勝手にあげてるわけ!」
「はいはい、あなたにはこれあげるわよ」
「見事に丸こげになってるやつ寄越すな!しかもピーマン!妹労わりなさいよ!ピーマン嫌いなの知ってるでしょ!」
「そうだ隼くん、食後にプリンもあるからね。もちろん、私の手作りよ」
「無視するな~!」
機械姉妹の長女と次女もここにいるのは予想外だが、まあ別に嫌というわけじゃない。姐さんは優しいし、ドゥーエはちょっとアレだが絡みやすいし。
「我が主、どうぞ」
「お、サンキュ、夜天」
「……ハヤブサ、この後まだやる事あるのにお酒なんて飲んでるんじゃないわよ。夜天も普通に酌しない」
「あ?何言ってんだアホかプレシア。酒を飲んじゃいけない時間なんてこの世に1秒たりとも存在しねえだろ」
「どんな時であれ、主にお酌をする事こそ我が使命です」
俺たち主従の言葉に眉間を押さえながらため息を返すプレシア。よく見れば同席のヴォルケンリッターの面々もどこか疲れたような表情をしている。
「なんだよ、お前ら。せっかくの焼肉なんだからもっと楽しめよ。ガキども見習え」
人数が人数なので大人組とガキ組(+世話役のリニス)に分かれて焼いてるが、隣の部屋のガキ組はわいわいと楽しそうに騒いでる。それに焼肉開始してまだ30分くらいだが、ガキ共にくらべて箸の進みが遅い。現状、こっちのテーブルで気楽に楽しんでるのは俺んちと機械姉妹だけだ。
「楽しむのはいいけど、私としてはその前にこの後の段取りを皆に説明しておきたかったのよ。なのにあなたったら『それよりまず酒と肉』とか言って勝手にやり始めて……!」
ああ、この後の段取りね。つってもなぁ、ぶっちゃけ俺がそれ聞いてもしょうがないっつうか?喧嘩する前からああだこうだと説明されても、いざその時になると好きなようにやりたくなるのが俺だし?
「あー、じゃあその段取りとやらは飯を終わった後に俺以外の奴によろしく。俺ぁ臨機応変に出たトコ勝負でいいから。あ、シャマル、そこにある牛タンとって」
「こ、この男、私に考えとけと丸投げしといて結局自分はガン無視って……!」
わなわなと震えて今にも拳をテーブルに叩き付けそうな雰囲気のプレシア。そしてその胸中を察しているのか、ヴォルケンズは何とも可哀相なものを見る目をプレシアに向けている。
怒るなよ。ほら、皆はプレシアの指示で動いて俺は遊撃手みたいな?
「そうカッカすんなよ。やる事は決まってるし、結果だって決まってる。なら問題ねえ。準備は大事だろうけど、楽しむ時にはきちっと楽しむ事も大事だぜ?ほら」
ビール瓶を差し出す。
プレシアは大きなため息を吐きながら、コップを持った。そこに躊躇いはない。諦めはあるけど。
はい、トクトクトクっと。
「飲み過ぎる事だけは控えなさいよ」
「あいよ」
如何な時であれ、あるいは如何な事が待ち受けている時であれ、飲んで食って楽しく騒げる今に勝るものはない。
(ああ、でも局の動向だけは聞いといた方がいいか)
結局、まだ理のやつから聞いてなかった。なにせ部屋に戻った時、俺の腕にぶらさがってるドゥーエを見て喧嘩になっちまったからな。
酒の肴代わりとしちゃあ不味い話題だが、まっ適当に聞いとくか。
「お~い、理、ちょいこっち来い」
俺の呼びかけに隣の部屋からトコトコとやって来た理。
「何ですか主。そろそろシメのお茶漬けに入ろうと思っていたので、お話なら手短にお願いします」
「いや、局との交渉の結果の事だよ。まだ聞いてなかったからよ」
「ああ、その件ですか。ではちょっと失礼」
手近にあった椅子に座っていたドゥーエを蹴り落として座る理。
「ちょっと何すん───」
「自主的に一時だけ大人しくしているか、それとも私の手によって永遠に大人しくなるか、どちらがいいですか?」
「……どうぞお座りください」
さっきの喧嘩でボコボコにやられた事をまだ引きずっているようだ。潔いドゥーエがそこにはいた。
「で、局との交渉の結果ですよね。まあ言うまでもなく主の意のままとなりました。今晩に限りですが、局にはこの世界へ不干渉を約束させました」
約束させた、とか不穏だなぁ。
まあ、でも局がちゃちゃ入れて来ねえなら来ねえに越した事はないし、そこはいいんだが……。
「じゃあなんでそんな不満そうなんだよ?」
そう、何故かコイツは不満そうなのだ。滞りなく交渉が纏まったなら、そんな表情はしない。なら何かがあったという事。
「もしかして何か条件飲まされたとかじゃねーよな?」
もしそうならちょっと面倒臭ぇ。まあ、理の事だから滅茶苦茶な条件を了承するとは思えんが。
「ん?ああ、いえ、違います。無条件でこっちの言い分は聞いてもらえました」
違うらしい。じゃあ何が不満?
「不満なのは管理局の反応です。脅し……もとい交渉のカードをいくつか持っていたのに、たった一つ切っただけで折れましたからね。張り合いがなく、肩透かしもいいとこです」
こいつ今、脅しっつったな。ほとんど隠す気なく、わざとらしいほど脅しっつったな。
つまりこいつが不満だったのは……。
「徹底的に脅し倒し、絶望の淵に立って貰いたかったのですが。これでは消化不良です。まったくもって脅し足りませんよ」
今度は言い直すこともなく脅しと言い切ったよ。わざとらしくでもいいからもうちょっと隠していてほしかった。
「へえ、ちなみにどんなカードを切って、他にはどんなカード持ってたの?」
……姐さん、それ聞いちゃうんだ。
まあきっと今後の参考に聞いときたいんだろうね。いちおう、局に追われる犯罪者だし。
「大したものではありませんよ。アースラに行った時、そこの端末からぶっこ抜いた職員のデータをチラつかせたて『邪魔するようなら、このデータを局に恨みのある裏組織に流しますよ?』と言っただけです。そのデータには当人だけでなくその親類なども載っていたので」
「ああ、なるほど。本人だけじゃなく身の周りの人も危害が及ぶようにするのね」
「そうです。屈強な局員ならそんな脅しには屈しないかもしれませんが、そこに無関係の親族などもが標的となると話は別と思いまして。案の定、このカードだけで折れてしまいました」
理がクズい事は知ってるが、改めてこいつは本当にクズだな。流石は目的の為に手段を選ばず、またある時は手段の為には目的を選ばないクレイジーロリだ。
「なるほどね。強い個を下すのではなく、その周りにいる弱い群集を人質にとるという事ね。他のカードもそいう類なの?」
「そうですね。もう少し直接的なのは、例えば『炭疽菌爆弾を爆発させるぞ』とかですかね。あれ、やり方次第で1~2gで2000万人くらいはヤれるので」
「あら、炭疽菌なんてものも持ってるの?」
「シャマルがここの世界の研究機関と秘密裏にいろいろやってますから」
そう言えばシャマルが言ってたっけ。『魔法技術を提供する代わりにこっちの世界の技術やら科学、あと資金だったり場所だったりを提供してもらって、で兵器の共同開発してるんですよ~。流石に個人じゃ爆弾とか生物兵器つくれませんから。あ、もちろん、絶対バレませんよ♪』だとか。
あの時は冗談半分に聞いてたが、どうやらガチらしい。俺も魔法のことは特に隠さない方だが、あいつも人の事言えねえだろ。てか俺よりタチ悪いわ。マジでバレない事を祈る。
「あとは逆の使い方もあります」
「逆?」
「ええ。私たちがこの世界の刑務所にいる犯罪者を逃がし、重火器を与えてミッドに送ればどうなります?」
「大混乱でしょうね」
「加えて今、私たちの身分は管理局局員。犯罪者を逃がす映像を録画しておき、ミッドのテレビ局にそれを送れば?」
「おそらく管理局は非難轟々。『管理局員、管理外世界の刑務所を襲い犯罪者をミッドへ』なんて見出しで放送?」
「すると当然、民衆や世論が敵に回る。これほど組織にとって恐ろしいことはありません。ついでに見せしめに脱獄犯を装って2~3人市民を殺せば倍率ドン。本局の周りは暴徒で溢れる返るでしょうね。ほら、弱い群集から一転、強き群集の完成です」
俺はお前が恐ろしいよ。そして姐さん、お願いだから丁寧にメモ取らないでください。
「といっても、これらは時間も掛かりますし、所詮はただの脅し、ブラフだと切って捨てられる場合もある。だから結局は物理的に直接黙らせるしかないのですがね。最終的に交渉に必要なのは話術ではなく、純然たる力とそれを行使する覚悟ですから」
「確かに」
ああ、管理局が早々に折れてくれてよかった。下手したら闇の書との三つ巴喧嘩コースになってたよ。あるいは管理局なくなってた。
「もっとも管理局相手に実力で捻じ伏せる事が出来るなんて、あなたたち家族くらいでしょうけれど」
「いえ、別に真っ向勝負でなくてもいいんですよ。それに今回黙らせる対象は一部隊のみ。すでにアースラ艦内の机や椅子の裏に小型の爆弾を仕掛けておいたので、それを起爆させればいいだけです」
「ああ、トラップね」
「そうです。あとは余談ですが食堂の調理器具や食器類に毒を塗っておいたり、通風孔などで幻覚を誘うガスや毒草を炙ったりするのも有効ですかね。あ、ここで注意点が一つ。けして殺さないという事。重症や瀕死状態が好ましいです」
「あら、そうなの?」
「時間を稼ぐ場合や混乱を招く場合、死体より怪我人や病人の方が都合がいいので」
「なるほど」
なるほど、じゃないです姐さん。ホント、今後その知識を使わないでくださいよ?そして理、頼むからお前はもう少し自重してくれ。それかせめてテロリストじゃなく魔導師らしい知識を披露してくれ。ヴォルケンズ見てみろ、ドン引きしてんじゃねーか。……ウチのやつらは特に引いてないのは見なかった事にしておこう。
「本当に用意周到ね、理ちゃんは。感服するわ」
「いえ、それほどでも。いつ、いかなる時、どのような事態に陥っても対処出来るようにしておくのは基本ですから」
うん、まぁ理の言い分は分からんでもない。でもこいつはやりすぎだ。
以前家の掃除中、アルフが悲鳴を上げた事があった。何事かと思ったら、花瓶の水を替えようとしたら中から袋に入った手榴弾が出てきたのだ。それだけでなくその後、テーブルの裏やらエアコンの中、冷蔵庫から隠された銃やナイフが出るわ出るわ。
もちろん、犯人は理。曰く『もし魔法が使えない時に室内に攻め込まれた時用』だそうだ。
どんな時だ。いや、そんな時なんだろうけど、敢えて言う。どんな時だ。平和な日本のマンションでそんな時があってたまるか。
というか途中から脅しのカード云々じゃなくて、ただの管理局壊滅計画になってるのは気のせいか?
「というわけで主、大丈夫です」
大丈夫?うん、まあ大丈夫……大丈夫?大丈夫ってなんだ?まあいいか。うん、大丈夫だな。
「もっとも、このようなカード自体そも無用だったようですが」
はい?
「どういう事よ?」
「それはこちらの台詞です。交渉の後、リンディが『聖王教会の方からも「なるべく鈴木隼の意思を汲んでほしい」と通達があった』と言っていました」
聖王教会?それって確かこの前魔法世界に初旅行行った時に知り合ったカリムがいる所だよな?……もしかしてあいつが口添えしてくれた?そんな事が出来るなんて、もしかしてあいつって結構偉い立場?予言なんて事も出来るくらいだし。グレアムの爺さんとの話の場も用意してくれたし。
「何故、教会が主の名を知っているのか。何故、擁護するような通達があったのか不思議でしたが、その様子だとどうやら心当たりがあるようですね。一体いつ繋がりを持ったのですか?」
「ん、まあこの前ちょっと旅行に行った時な」
「そうですか。主の突飛な行動に今更突っ込む事はしませんが……ただ、一点気になる事が」
ぎらりと急に理が睨みつけてきた。まとう雰囲気も何だか怖い。というか背筋が寒いのは気のせいか?
「リンディが通達とは別に主個人宛に教会の女騎士から伝言を預かったと。『4~5年後を心待ちにしています』という事です」
「女騎士ってぇとやっぱカリムか。でも4~5年後?なんじゃそりゃ?」
よく分からん。俺、カリムのやつに何て言ったっけ?あいつに関しては夢見がちで頭がお花畑な少女という印象しか残ってなく、会話の内容なんて覚えてないぞ。
(……ただ、なんだろう、多分余計な事を言ったんだろうなぁという感じはするな)
その証拠に──
「ふむ。主の様子を見るに、教会全体ではなく主にその女騎士が"主の為"を思って"自発的"に管理局に通達したみたいですね。……これは匂います。ぷんぷん匂います」
「どうやら近く教会に挨拶に伺ったほうがいいのかもしれないですね」
「そうだな、主が世話になったようだ。きちんと礼をしなければな」
「その時は私特製のお料理を振舞ってあげちゃいましょう。魂まで吹っ飛ぶような美味しい料理を」
理、夜天、シグナム、シャマルが何故か聖王教会への訪問計画を立て始めたのだから。それもちょっと背筋の寒くなるような雰囲気を湛えて。
(……よく分からんが、とりあえず無性にカリムに謝りたくなってきたな)
まっ、いいや。
肉食お。
無印編に続き、As編でも最終決戦で管理局に出番なし。クロノやエイミイやリンディ好きな人、すみません。
そしてカリム、ピンチ。
次回はロリ組の食事場面。