俺は平成のアインシュタイン   作:がんばります

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灰原哀がヒロインの二次創作です。
ラブコメとシリアスを両立するべく頑張ります。


託された願い

都内の片隅、小さな喫茶店「ポワロ」。

陽だまりの差し込む窓際の席に、三人の姿があった。

 

カップの中でクリームがゆっくりと溶けていく。

時間は、どこまでも穏やかに流れていた。

 

「だからさ、理論は立派でも、その発想が小学生レベルって言われてさ。マジであれ、傷ついたんだよな」

 

そう言って苦笑いする綾瀬仁志に、向かいの席の女性――宮野明美は楽しげに笑った。

 

「仁志くん、相変わらず面白いこと考えるね。子供が乗れるバイクと同じ速度が出るスケボーなんて。」

 

「マジで傷ついてるんだけどな。いや、真面目に」

 

くすくすと笑いながら、明美がスプーンでアイスをすくう。

隣に座る少女――宮野志保は、黙ったままその様子を見つめていた。

 

仁志はちらりと志保に視線を送った。

 

「なあ、志保ちゃん、そういうの、どう思う?“理論だけじゃ駄目だ”ってのは正論だけどさ、現場の工夫ってのもさ――」

 

「……理論がなければ工夫は生まれない。工夫がなければ理論は腐るだけよ」

 

ぽつりと、志保が口を開く。

それは相変わらずのぶっきらぼうな物言いだったけれど、テーブルの下で揺れていた彼女の靴先は、どこかリズミカルだった。

 

仁志がふっと笑った。

 

「おっ、今日は口数多めじゃん。もしかして、アイスが美味しかった?」

 

「……そういう推論の立て方、科学者としては雑ね」

 

けれど、志保の口元がほんのわずか、緩んだ気がした。

彼女の手元にあるコーヒーカップには、半分だけミルクが入れられている。

 

それが、彼女なりの“くつろいでいる”というサインだと、仁志はなんとなく知っていた。

 

「志保ってさ、こう見えて仁志くんの話、嫌いじゃないのよ」

 

明美が軽く肩をすくめて言った。

 

「前に一緒に来たとき、“話が噛み合うのは珍しい”とか言ってたじゃない」

 

「……言ってない」

 

志保が反射的に否定する。

だが、その頬にかすかに赤みが差していたのを、仁志は見逃さなかった。

 

「いやいや、俺としては志保ちゃんにそう言ってもらえると超うれしいんだけどね。ほら、俺ってわりと孤独な研究者タイプじゃん?」

 

「……どこがよ。」

 

そんな他愛のないやりとりに、テーブルの上のグラスがかすかに揺れた。

 

外は静かな午後の光。

小鳥のさえずりと、コーヒー豆を挽く音だけが、世界のBGMのように響いていた。

 

このとき、誰も知らなかった。

 

この日常が、あとわずかで崩れ去ること。

二人の姉妹が、二度とこの席にそろうことがない未来を。

 

だがこの瞬間だけは、確かに“幸せ”だった。

 

それは、綾瀬仁志にとって――

彼女たちの中に宿った、最後の“笑顔”の記憶だった。

 

「志穂のこと、お願いできる?」

 

志保が席を立った間に、姉の明美が突然口を開く。

普段の朗らかさがない。笑顔も、冗談も、ない。

 

「……どういう意味ですか、それ」

 

「そのまんまよ。もしあの子が困ったら……あなたしか頼れる人いないの。志保は人を信用しないから」

 

コーヒーの湯気の向こうで、彼女の表情はどこか遠くを見ていた。

 

(まるで――)

 

まるで、これが最期だと悟っている人の顔だった。

仁志は、喉が詰まるのを感じながら口を開いた。

 

「……まさか、死ぬつもりじゃないですよね」

 

「……そんな大げさなこと、言わないでよ」

 

微笑んで、明美は立ち上がった。

背中越しに、最後のひと言を落とす。

 

「……じゃあ、またね。綾瀬くん」

 

だが、彼女と“また”会うことは――二度となかった。

 

 

ーーーーーー

 

 

「……死んだ……?ウソだろ……」

 

静まり返った理科準備室で、綾瀬仁志はニュースアプリの速報を凝視していた。

そこには確かに載っていた。

**「宮野明美(26)、強盗殺人容疑のまま死亡」**と。

 

「……なんで、明美さんが……強盗なんか……」

 

震える指でスマホを操作する。

通話履歴の中にある名前を押した。

呼び出し音が2回鳴る前に、電話は繋がった。

 

『……もしもし?』

 

声の主は明らかに「少年」だった。けれど仁志にはわかっていた。

その声の裏にある、工藤新一という名の探偵の存在を。

 

「ニュースを見た。10億円事件のやつ。宮野明美さんが死んだって報道されてるだけど。新一はこの事件詳しく知ってるか?」

 

短い沈黙の後、コナンの声が少し低くなった。

 

「……知ってることはあるけど、全部は話せない」

 

「実は俺、明美さんと知り合いだったんだよ、あとその妹ととも。だから詳しく知りたいんだ。」

 

「それは……」

 

「明美さんに言われたんだよ。『もしあの子に何かあったら、あなたしか頼れない』ってな」

 

仁志の声は、普段の飄々とした調子を捨てた、真剣そのものだった。

 

『……会って話そう。場所は……阿笠博士ん家。明日、放課後だ』

 

「……わかった」

 

通話を切ったあと、仁志は深く息をついた。

 

(このままじゃ終われねぇ……明美さんの“何かあったら”は、今この瞬間なんだろ)

 

 

ーーーーーー

 

 

阿笠邸のリビング。

変わらず奇抜な発明品に囲まれた空間で、綾瀬仁志はコナン、そして阿笠博士と向き合っていた。

 

「まず最初に、俺のほうから話していいか?」

 

コナンが頷く。仁志は、静かに言葉を紡ぎ始めた。

 

「……宮野明美さんと、俺は知り合いだった。何度か、喫茶店で会って話したよ」

 

コナンの目が驚きで動く。

 

「10億円事件の数日前――明美さんは俺に妹を頼むって言ったんだ。……自分が死ぬって、わかってたんだと思う」

 

声が微かに震えた。

そして仁志は明美と志保との思い出をコナンに話す。

 

 

ーーーーーー

 

 

初めて会ったときのことは、よく覚えている。

 

喫茶店の奥。

明美さんが連れてきた“妹”は、妙に整った顔立ちをしていた。

 

年齢より大人びた美人――それが第一印象だった。

けれど、それ以上に強烈だったのは**“空気”**だった。

 

彼女の視線は冷たく、深海に潜むサメのように静かで、鋭い。

 

会話の端々に理論と分析が滲み、感情を伏せた喋り方は、まるで心に鍵をかけているようだった。

 

「……あなたが、あの“変な科学者”ね。姉から聞いてるわ」

 

それが彼女の第一声だった。

 

(ああ、こいつは……ずっと、世界と戦ってきた目をしてる)

 

その時、仁志は妙に腑に落ちた。

 

こんな子が、ただの高校生のわけがない――と。

 

 

ーーーーーー

 

 

「……俺にできることは限られてる。でも、明美さんが死ぬ間際に残した言葉があるんだ」

 

綾瀬仁志は、阿笠博士の家のリビングで、コーヒーの湯気を見つめながら静かに語った。

 

「“妹を頼む”――あれは、ただの知り合いへのお願いじゃなかった。あの人、自分が死ぬことを覚悟してた。……あれは遺言だったよ」

 

阿笠博士がわずかに眉を寄せる。

隣で腕を組むコナンもまた、黙ったまま仁志の話に耳を傾けていた。

 

「“志保”って名前しか俺にはわからない。俺には情報が少なすぎる。だから――お前に協力してほしい」

 

コナンの目が鋭くなる。

 

「……なんで俺に?」

 

「逆に聞く。明美さんの死には、お前を小さくした黒の組織が関わってるんだろ?」

 

「……ああ」

 

「なら話が早い。俺が“志保”を見つけ出せば、黒の組織の内情に近づける。お前が追ってる敵に、間接的にでも迫れるってことだ」

 

阿笠が小さく息を飲む。

 

「……だかよ、それは同時にお前自身も黒の組織に狙われる可能性が出てくるって事だぞ。それでもいいのか?」

 

「それでも俺は、“あの人の約束”を果たしたい。」

 

仁志の視線が、コナンの瞳に突き刺さる。

 

「利害は一致してるだろ? 俺は宮野志保を見つけたい。お前は黒の組織に迫りたい。どちらかが進めば、もう一方も進む」

 

「……確かにな」

 

コナンは少しだけ唇を持ち上げた。

その笑みには探偵らしい冷静さと、少年に偽装された諦観が混ざっていた。

 

「いいぜ、仁志。お前にできることは確かにある。俺が持ってる情報を、整理して共有しよう」

「助かる」

 

仁志の胸には、かすかな闘志と確信が灯っていた。

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