死ねない死にたがりとステュクスの娘   作:侵蝕トンネルと聖杯ダンジョン

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死ねない死にたがりとステュクスの娘

 

(わたくし)が唯一救うことのできた命を見送って、冥界の花畑の最奥に腰を下ろす。

此処に残る事が私の神託。この選択に未練も後悔もありません。

ただ、残念に思う事は。

 

「結局、あれから彼と再会する事はできませんでしたね」

 

唯一、()()()()()()()()()()()()()()()()()()と再び巡り会えなかった事でしょうか。

 

「聞きたい?」

 

と死竜に問うと、死竜は頷きました。

今はボリュクスしかいませんし、思い出話を聞かせて上げましょうか。

 


 

彼と出会った時の事は忘れられません。エイジリアで督戦の聖女をしていた私の前に現れた人。

後に会うモーディス様とは違う、()()()()()()()()

ボロボロの服に、ボロボロのマントを羽織っていた彼は、私の噂を聞き異邦より訪れ、挨拶より早く『じゃ、よろしく』と自ら私の手を取りました。

結果として、私は彼に死を与えた。触れた直後から彼の肌は青白くなり、身体は冷たくなって、そして朽ちて塵となる。最期の瞬間まで、とても嬉しそうな顔をしていました。

私は彼とは逆に、死を恐れ、別れを哀しみました。

 

その翌日。彼の墓を建て終えた私の前で、目を疑うような事が起きたのです。

私に触れ死んでしまったはずの人が、私の元に現れたのです。

彼はバツの悪そうな顔をして頭を掻きながら、『どうも、こんにちは』なんて挨拶をしてきました。

 

当然、私は目を疑いました。

 

『生きて、いるのですか……?』

『ああ、残念な事にね』

『どうして……』

『話せば長くなるから結論だけ言うけど、死ねないんだ。死んでも、それがまるで夢だったかのように何処かで目が覚める。そういう体質でね』

『それは、タイタンの祝福……なのですか?ということはあなたは黄金裔なのですか?』

『違う。僕は黄金裔じゃないし、これはタイタンの祝福でもない。もっと恐ろしい何かの──いや、気にしないでくれ。僕が死ねない事と、死にたい事だけ憶えてくれればそれでいい』

『……死にたい、のですか?』

『ああ』

『なぜ、どうして……』

『じきに分かるさ。死の尊さと、死があるゆえの生の素晴らしさを』

『私には、分かりません……』

『答えを出すのは今じゃなくたっていい。明日には分かるかもしれないし、その明日に分かるかもしれない』

 

そう言って、彼は私に背を向け歩き始めました。

どこへ行くのかと問うと、『行先なんてない。僕の終わりを探す旅だから』と。

私も連れて行ってと言うと、『貴女には貴女の旅がある。もしまた道が交われば、その時また話をしよう』と。

 

 

 

次の再会は、私がエイジリアを離れた後でした。

 

ある集落が暗黒の潮に呑まれ滅びた事を知った私は、死者が少し安らかに眠れるようにと考え、その集落の跡地を訪れました。

旅に出てから、一度だけ訪れた事のある集落は見る影もなく、暗黒の潮の造物が蔓延る地となっていました。

暗黒の潮の造物を退けようと動きだす私よりも早く、それらを狩り尽くす者が現れました。

 

骨を模したような大きな柄に、私の身長半分はありそうな大きな刃を持つ鎌を振り回しながら、暗黒の造物たちを蹴散らしていくその人は、私が旅をしながら探していた人。

 

私も加勢して、二人で一帯の暗黒の潮の造物を片付けてから、私は彼に話しかけました。

 

『私の事を憶えていますか』

『ああ、あの時の聖女様だ』

『もう違います。私の名前はキャストリス──あの、すみません。あなたの名前を伺っても?』

『名前、名前ね……悪いけど、無い。あるいは思い出せない』

『では、なんとお呼びしたら……』

『貴女が適当に付けてくれ。そうしてくれたら、今度からはその名を名乗る事にしよう』

『分かりました……では────』

 

少し考え、やっと思い付いた名前を彼に告げました。

それを聞いた彼は一瞬目を見開いて、その後大きく笑いました。

 

『えっと、何か変だったでしょうか……?』

『ハハハ……いや、こっちの話だから気にしなくていい。それにしても重い名だ、僕にはもったいないな』

『嫌でしたら、他の名前を……』

『いや、気に入った。これからはこの名を名乗らせてもらうよ。よろしく、キャストリス』

 

そう言って、彼は私に手を差し出してきました。

 

『あの、何を?』

『なにって、握手。君の手では死にきれない僕でも抵抗ある?』

『……はい。生き返るからといって、死は気軽に触れていいものではありません』

『そりゃあそうだ。僕も人間だからね、理解できる』

『分かっていただけたなら、何よりです』

『それで、本音は?』

 

彼は見透かしたような目で、私の目を見つめてくる。

きっと、見え透いているのでしょうね。

 

『──もっと、誰かと触れ合いたい。私も、みんなみたいに──』

『よくできました』

 

彼の手が、私の手を取る。強引に、初めての時みたいに。

 

『だ、ダメ!』

『大丈夫、すぐ戻るよ』

『で、でも、死は……』

『確かに死は冷たく恐ろしいものだ。だけどね、君の手はこんなにも暖かいじゃないか』

 

握られている私の手が、震える。

彼女と同じ言葉。冷たいこの手が、暖かいなんて……。

 

『改めて、よろしく。キャストリス』

『──はい、よろしくお願いいたします。ゼフィテロス様』

 

 

これが、二度目の出会い。

その後、彼は約束通りすぐに戻ってきて、しばらく共に旅をしました。それぞれの目的を果たすために。

その旅の中でアグライア様、トリビー様に出会い、オクヘイマに招集され火を追う旅に同行することになりました。

彼はアグライア様とあまり反りが合いませんでしたが……。

 

 

次の別れは、突然でした。

暗黒の潮の造物の数が多く、その上ニカドリーまで現れてしまい、戦場は混沌となりました。トリアン様が生存者を逃がすために百界門を開いて退路を作ったのですが、殿を務めていた彼は自分の意思でその場に残ってしまいました。

 

「その後、私はもう一度その場所を訪れたのですが、彼の姿はどこにも無く。それから再び出会う事もありませんでした」

 

彼は果たして、どこへ行ってしまったのでしょうか。暗黒の潮に呑まれてしまったのでしょうか、戻れない事情でもできたのでしょうか。

 

「あの場に彼の死霊は感じなかったので、何処かで生きているとは思うのですが……おや?」

 

また亡者が冥界へ落ちてきましたね。死と生の半神としての責務を果たしに行きましょう。

 

「──?───!?」

 

……。なんだか騒がしい亡者ですね。声はよく聞き取れませんが、なにか喜んでいるような感じでしょうか。

色々な方が居るのは分かりますが、死をそこまで喜ぶなんて……変な方ですね。

 

……飛んだり跳ねたり、転がったり。奇行が目立ちますね。正直、これ以上近付きたくありません。大きな曲剣を振り回したり、その曲剣と背負っていた荷物と合体させたり分離させたりを繰り返して遊んでいるような────

 

 

──待ってください、その()()は!

 

 

駆け寄って近づくと、その声がしっかりと聞き取れるようになってきました。その姿が、その顔が────

 

「ここって多分冥界だよな!文献にあった花の海だし!やっと死ねたのかー僕!やったー!クソ上位者共めザマァ見やがれ!はーっはっはー!!」

「……ゼフィ?」

「お、キャス!久しぶり!なんで冥界に……あ、タナトスに謁見できたのか!火種回収して権能継げた感じ?おめでとー!僕もねーなんか死ねたみたい、あは!あはは!あっはっはっは!」

 

三度目の再会が、こんな形で良いのでしょうか。





シリアスなんてないよ。

ゼフィテロス:高次元生命体たちに一瞥どころかガン見されながら熱い抱擁されてる可哀想な人間。死にたいけど死ねない。死んでもリポップする。
つい最近までずっとクレムノスで磔にされてた。飢えでは死ぬ事ができないので、考えるのを辞めていた。
ニカドリーが討伐され自由の身になれたかと思ったらクレムノスが暗黒の潮とドンパチ始めてしまったためもう大変。モーディスとほぼ同じタイミングで死んだ。
次に目覚めた場所がたまたまスティコシアで、ステュクスに入ったことが無かったため、泳げない癖に寒中水泳(投身自殺)を敢行の後再び死んだ。そのタイミングでたまたま境界が緩んでて生身のまま冥界に転がり込んだアホ。死後の世界でまだ生きている。


キャストリス:可愛い。ホタルと開拓者を取り合ってほしい。ボリュクスとサムのバトルが観たい。


名前の由来:「西風」と「果て」をギリシャ翻訳して無理やり合わせました。ホントはそのまま使いたかったけどそのまま使うと救世主の故郷になっちまうよ……。
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