死ねない死にたがりとステュクスの娘 作:侵蝕トンネルと聖杯ダンジョン
「第一に、私の事はアナクサゴラス教授と呼ぶように。第二に、私の話を遮らないでください。沈黙は金なり、と言うでしょう」
どうしてこうなった。僕は友人たちと初めての楽しい学生生活を送れるって言うからここに来たのに。
事の発端はアグライア。よく知らんが、神悟の樹庭とオクヘイマとの繋がりを強めたいとかで、キャストリスと僕、そしてもう一人の黄金裔が選ばれた。
この数年でオクヘイマの書籍や文献をほとんど読み尽くしてしまったキャストリスは、オンパロス
樹庭には様々な学派があるとアグライアから聞かされ、キャストリスはオクヘイマの先生や卒業者へ意見を聞きに行き、一方僕は何処でも良いと答えた。
結果、僕が回されたのは知種学派。何をするところなのかよく分からん。
この講義の参加者は十数人。顔を知ってるのはキャストリスと、オクヘイマのもう一人の黄金裔ファイノン。
ファイノンの事は知ってはいたが、実際会うのはコレが初めてだったりする。同じオクヘイマに居るって言ったって全員が全員顔見知りなワケではない。
「では霊魂物理学の授業を始めます。質問等ある場合は話の合間にお願いします」
キャストリスは僕の隣に座ってくれなかったので知らない人と一緒に授業受けてるよ。
ちょっとお話してみよう。
「なぁ、アナナ……先生ってどんな──」
全部言い終わる前に僕の頬を何かが掠めていった。目線を前に戻すと、先生が次弾のチョークを持ち直している。
「私の話を遮るなと言った筈です」
遮って無いです。ちょっと隣の人に質問しただけじゃん。
「すみません、静かにします」
「……ああ、あなたでしたか。丁度いい、後で私の元へ来るように」
えぇ……いきなり呼び出しくらったんだけど。そんな悪い事したぁ?
「……はい」
「では授業を再開します」
なんだかキャスの溜息が聞こえたような気がする。 気が気でないから一緒に来てくれないかな。
アナナントカ先生はなんかベラベラずっと喋りながら黒板に板書しつつ講義をしてるけど、僕には何言ってんのかワカンナイし。キャストリスは分かんのかな?
よく分からん授業が続き、残り時間半分というところで先生が豹変した。
ここまでほぼずっと喋り通しだったのが一転、黙り込んだと思ったら更によく分からん公式を黒板にズラズラズラズラと書き始めた。
それが黒板を埋め尽くすくらいになるとまたピタリと止まり、今度は高笑いしながら教室を出て行った。なんだったんだ今の。
教室にいるみんなが絶句している中、最初に動いたのはファイノンだった。
「よく分からないけど、今回の講義はこれで終わり……なのかな?僕と彼がアナイクス先生に確認してくるから、少しだけ待っていてくれないか」
そう言ってファイノンは僕の肩に手を置いた。
「は?」
「流石に僕一人だと心細いんだ。それに君は元々アナイクス先生に呼び出されていただろう?なら丁度いいじゃないか」
「……それもそうか」
「じゃあ行ってくる!」
ファイノンと僕は教室を出て、アナ……イクス?先生の居る友愛の館の上階とやらへ向かうことにした。多分そこにいるだろうって通りすがりの学者に教えてもらえたので。
「改めて、僕はエリュシオンのファイノン。君は?」
「ゼフィテロス。アンタと同じでアグライアの指示でここに来た」
「僕は自分で志願したんだ。英雄なのに学が無いなんて事になったら恥ずかしいからね。君はなぜ知種学派を選んだんだ?」
「アグライアに投げたらここに。アンタは?」
「僕は元々、他の学派を希望していたんだけど、定員オーバーで入れなくてここに回されたんだ」
「そんなこともあるのか」
「あったね。まぁそのおかげで君と知り合えたんだ、良しとしよう。これからよろしく、ゼフィテロス」
「あぁ、よろしくファイノン」
握手を求められたのでそれに応える。
スゲー爽やか好青年みたいなヤツだな。誰とでも仲良くなれそう。
しかし神悟の樹庭、面倒くさい構造してるなぁ。樹庭って名前なだけあって木と同化してるから回り道とか枝登っていったりとかが多い。わざわざ水車に乗って上の階に上がるとか学者ってアホなのか?
なんてファイノンと話しながら歩いてたら着いたよ。先に入っていったファイノンの後を着いていく。
「アナイクス先生、授業の件ですが……」
「第一に、私をアナイクスと呼ばないでください。第二に、今日の授業は終わりです。以上、これにて終了。言葉はもう不要です」
「分かりました、ありがとうございます」
あ、そうなんだ。じゃあ帰ろうぜ。
「但しゼフィテロス。あなたは残りなさい」
「え?」
言葉は不要とか言ってたじゃん。そのまま研究してていいですよ。
「はは、じゃあ僕は先に戻ってるから」
「いや助けてくれよファイノン。友達じゃんか」
「授業中喋ったのは君だろう、悪いのは君じゃないか」
ぐうの音も出ない。ファイノンは僕を残して帰っていったよ。
「……お手柔らかにお願いします」
「あなたは私より歳上でしょう。しかし、私はあなたの教師でありあなたは私の生徒、よってあなたのその姿勢は正しいものです」
「はぁ……」
小難しい人なのかな。急に狂ったように色々書き初めて笑いながら出てった時は面白い人かと思ったんだけど。
「あなたをこの知種学派に寄越すようアグライアに伝えたのは私です」
「あ、そうなんすか」
「最も希望の学派がなければでしたが。あなたには二つほど聞きたいことがあります。第一に、不死人というのは本当ですか?」
「あの女他のとこでもその呼び名広めてんの?」
「質問を質問で返さないでください」
「事実ですね。嫌なんで不死人って呼ばないでくださいねアナイクス先生」
「ではあなたも私のことはアナクサゴラスと呼ぶように」
「アナクサゴラス先生」
「よろしい」
やっぱ面白い人かも。
「第二に、その不死とはどういう類のものなのですか?」
「質問を質問で返してもいいですか?」
「それが既に質問で返しているようなものですが、疑問を持ちそれを聞くのは良いことです。なんですか?」
「その問にはどう答えればいいですか?何故死なないのか、それとも死なない事の原因?死ぬ時はどんな感じとか?」
「あなたの答えられる範囲で全て答えてくれて構いません。他言はしませんので」
「他言しない?ホント?」
「信用してくれなくても構いません」
なんだこの人。
「ただ、口の固さと答弁には多少の自信があります。過去に禁忌に触れる研究をしたとして裁判にかけられた事がありますが、結果は見ての通りです」
「……いいね、気に入った。全部話すよ、生まれはね──」
「いえ、不死に関する部分だけで十分です」
「あ、はい。じゃあまずはいつ不死になったかと元凶の話を────」
アナクサゴラス先生と僕の死ねない身体に関して語り合ったよ。何回か刻が回るくらいには。人の話を遮るなと言うだけあって話を聞くのも上手だったね。
「────以上。これにて終了、ってね」
「──なるほど」
「先生的に求めるモノはあった?」
「結論から言うと、私の望むようなものはありませんでした。が、とても有意義な時間でした」
「それは良かった」
「天外の存在、興味深いですね」
「やめた方がいい。深淵はいつ僕らを見つけるか分からないからね」
「人であれば誰しも多少は不死を羨むもの」
「でも先生はそういうタイプじゃないでしょ」
「さぁ、どうでしょうか」
「まぁいいや。今回は楽しかったです、授業も楽しみにしてますんで」
「私はこれから理論の実証とそれに伴う準備を始めるので忙しくなります。よってこの先一週間ほどは自習とします」
この前のが初授業だったのに?まぁその初授業も半分位しかやってないしその後も授業してないんだけどねこの人。教員としてそれは大丈夫なのか?
「手伝いは?」
「不要です。ではさようなら」
出て行ってしまった。あそこまでマイペースな人は初めて見るかも。
僕も帰るか。何日ぶりか分からないけど。
水車に乗って下階に降り、友愛の館を後にする。
「……ん?んん??」
ドアを開けてすぐのとこでアナクサゴラス先生が倒れてる。
誰かに襲われたのかな?
「先生、大丈夫すか?」
……返事がない。ていうか寝てる。
ずっとぶっ通しで話してたからそうなるか。
医者って呼べば来るかな。
「医者ァ!」
「は、はい!」
「あ、本当に来た」
「たまたま近くを通りかかっただけですけど……どうかしましたか……ってアナイクス先生!?」
「あ、知り合い?」
「先生の助手をしてます、えっと、どうしたんですか?」
「寝てるだけ。門の刻が何回か回るくらい通しで話してたから」
「そんなに!」
「どこに運べばいい?」
「医務室が向こうにあるので、そちらへ運びましょう。お願いします!」
「へーい」
「………私のことを……アナイクスと呼ばないで、ください……」
「そんなこと言ってる場合じゃないですよ!」
寝てても反応するんだ、やっぱ面白い人じゃん。
ゼフィテロス「ここに来てファイノンの次にできた友達が学派の創始者だった」
キャストリス「ゼフィがアナイクス先生のところに行ったまま帰ってきません」
ファイノン「何やってるんだろうね」
アナイクス「特に語ることはありません」