死ねない死にたがりとステュクスの娘 作:侵蝕トンネルと聖杯ダンジョン
キャストリスと思い出話に花を咲かせている間、何人もの亡者が冥界を訪れた。その中には顔見知りも混じっていてね。なんなら一番最初に来た人が知り合いだったし。
「お、キャスちゃんにゼフィちゃん!キャスちゃんはさっきぶりで、ゼフィちゃんは久しぶり!元気してた?」
「トリアン様、いらっしゃいませ」
「トリアン、久しぶり。色々あったけど僕は元気元気。そっちはどう?」
「どうって、見て分かんない?」
「あ、なんかゴメン……」
「めーっちゃ元気だよ!ここからみんなを応援するって決めたんだー」
「そっか。トリアンが使命を果たせたみたいで良かったよ」
「ゼフィちゃんもここまで来れたみたいで良かった良かった!」
「……お二人とも、少し不謹慎かと……」
「「あ、そう?ゴメンゴメン」」
僕とトリアンの言葉が見事に被った。思わず笑ってしまったよ。
「ところで、キャスちゃんとゼフィちゃんはここで何をしてたの?花見?」
「似たようなものかな」
「花を眺めながら、昔の事を思い出しながら話をしていました」
「お、いいねー!ボクも混ぜて混ぜて」
「ふふ、一緒に話しましょう」
次に来た知り合いはアナクサゴラス先生。
「いらっしゃいませ、アナイクス先生」
「どうも、お久しぶりです」
「まずキャストリス、私のことはアナクサゴラス教授と呼ぶように。そしてゼフィテロス、久しぶりですね。失踪したと聞きましたが、こんな所で出会うとは。あなたの不死性も暗澹たる手からは逃れられなかったようですね」
「だと良かったんですけどねぇ……なんか事故みたいな感じでここにいるだけで、ちゃんと死んだワケでも無いらしいんですよ」
「なるほど。あなたがここに来た経緯は聞かなくても想像できるので語らなくて結構です」
「とか言って、実は聞きたかったりするんじゃないの?」
「恐らく、あなたがステュクスに身投げしたタイミングとキャストリスが冥界の門を開いたタイミングが被ったのでしょう。緩んだ境界から滑り落ちでもしたんじゃないですか?」
「え、なんで分かるの」
「……あなたは以前から思慮深いようで物事をあまり考えない人でしたが、失踪している間に思考も止めたのですか?」
「え、そこも分かるの?」
「ハァ……もういいです」
溜息を吐いて僕たちから離れていくアナクサゴラス先生。
少し離れたところに腰を下ろして休み始めた。
「あ、そういえばクレムノスで拾った本があるんですけど、読みます?」
「冥界にそんなものも持ち込めたのですか。……なんです、この薄っぺらな本は」
「辞書っぽいです」
「辞書?こんなものが?」
「ファイノン様が『クレムノス人の辞書は載っていない言葉が多い』と仰っていたのは本当だったのですね」
その次に来たのはなんとびっくりアグライア。
「──アグライア、様……」
「ライアちゃん!」
「久しぶりですね、キャス、師匠。まさか貴方たちまでいるとは思いませんでしたが……」
アグライアが僕とアナクサゴラス先生に目を向けた。
「何だよ、居ちゃ悪い?」
「そうは言っていませんよ」
「死した亡者が冥界に落ちるのは当然の事だと思いますが。現に貴女もここに来ているでしょう。少しばかり早かったようですが」
「私自身、あの民会の時点でもう先は長くない事を予見していました。十分に持ち堪えたと思っています」
「そうですか」
「口数が少ないのですね。生前はもっと口が達者だったと記憶していますが」
「貴女と語るべき事は生前で語り尽くしました。これ以上、言葉は不要です」
そう言ってアナクサゴラス先生はクレムノス人の辞書に視線を戻した。
「アグライア様、その……皆様は……」
「大丈夫ですよ、キャス。彼らはやり遂げてくれる。ファイノンは私の自慢の教え子ですからね」
「──はい。私も生と死の半神として、機があれば全力でサポートいたします」
「よろしくお願いしますね、キャス」
「じゃあライアちゃん、あっちで一緒にみんなを応援しよう!」
「ええ、そうしましょう」
ゼフィテロス「とんでもない勢いで冥界が賑やかになってしまっている」
キャストリス「……なんだか複雑な心境です」
トリアン「またみんなと会えたね!良いことか悪いことかちょっと難しいけど……」
アナイクス「一つ訂正を。ファイノンは貴女の教え子ではなく、私の生徒です」
アグライア「あの子を見つけ、先に様々なことを教えたのは私と師匠ですよアナクサゴラス」