ビビるくらい男尊女卑の世界で俺がハーレム築き上げるまでの物語 作:rikka
―― カァン。カァン。カァン。
ホーリーネーション首都、ブリスターヒルの郊外。
南側の門からやや離れた場所にある剥き出しの鉄鉱脈に向けて、一心不乱にピッケルを突き立てている一人の男がいる。
俺だ。
主に奴隷の仕事とされ、忌み嫌われる作業に無心で取り組むいい男がいる。
俺だ。
「ちくしょう、首都っていうならもうちょい稼ぎ口があると思ってたんだがな」
どうにか無事にブリスターヒルに辿り着けたのは七日前。
幸い道中の野草を口にしていたため、動けなくなるという事はなかったために即日稼ぎ口を探すためにアチコチに声を駆け回る事になった。
結果、全滅。
確かに店の数はバッドティースより多かったが首都と言うだけあって人も多く、酒場や宿ですらもう働き手はガッツリ決まっていた。
しかもこちらは家もないため、急いで
真っ先に思いついた稼ぎは狩猟だ。
ホーリーネーションでは農作物を荒らすリバーラプターは討伐対象であり、狩猟も推奨されている。
ラプターは肉が臭くて食えたものではないがその皮は使い道が無限にあるため、ほぼ全ての店で取引可能。
金額も悪くない。
が、そもそも奴らはそこそこに凶暴。
群れている時もそうだが、一匹だけでも昨日今日武器を握ったような人間ではまずやられるだけだ。
バッドティースにいた頃でも、警備隊が討ち漏らしたラプターが街中に紛れ込むことがあったが、兵士数名がかりで斬りかかっても中々倒れないタフさを持っている。
そしてその牙は鋭く、手練れの兵士でも負傷は免れない。
たまにではあるが、戦いの果てに手や足を失う者が出るくらいだ。
仲間がいるのであればともかく、今の状況で下手に大怪我したらそのまま野垂れ死にしかねない。
自分一人が倒れれば安全地帯に辿り着けるかどうかも運次第。
それどころか、手当てが出来るかどうかすら運任せになってしまう。
少なくとも家臣団という名のハーレム計画を進めてからでないと難しいだろう。
となれば残る仕事は限られる。
この国では奴隷の仕事と言われている採掘作業だ。
持てる限界まで鉱石を掘り続け、一杯一杯になった袋を担いで買い取ってくれる店まで運んでCatと交換して日々の食料を購入し、わずかな残金を貯めて装備を整えるのが当面の自分の日課というわけだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「待たせた、いつもの鉄鉱石だ。大袋で五つ分」
「おう、毎日ご苦労だなズゥ。そろそろまたCatも溜まってきたんじゃないか? 持ち込んでいるのはウチだけじゃないだろう?」
俺が採掘で得た鉄鉱石を持ち込んでいるのは、ブリスターヒル内の防具屋だ。
いずれ自前の装備も整えたいので、特に繋ぎを持ちたいという意味で防具を扱うこの店の人間とは仲良くなっておきたかった。
「あぁ、おかげ様……と言いたいけど、日々食っていくのがやっとだな。貯蓄も出来つつあるけど、まずは私物を揃えるので精一杯だ」
事実だ。
とりあえずここらはボーンドッグ――人を襲うオオカミのような魔物が多い。
もし襲われたら即座に街に駆け込める距離だとは言え、それでも万が一があり得る位置。
その時に備えての包帯などの医療品、骨折した際に使う添え木などを購入し、ついでに安い寝袋も購入した。
「まぁ、それに家についても悩んでいてさ」
「ああ……。最近だと南門のすぐそば――というか両隣の小屋が売りに出されたぜ。片方は壊れているから自前で直さなきゃ駄目だが」
「……壊れた小屋は安いのはいいんだが、修理に必要な建材が店にあるかだなぁ」
「建材も安くはねぇし、保管に場所も取るからなぁ。家がないお前じゃ尚更か」
「そうなんだよ」
袋を受け取って中身の鉄鉱石を確認した店主が、相場通りのcatを差し出してくれる。
……今日は安い
明日の朝までの分を買って、残りは貯蓄。
やっぱり鉄鉱石を始め手に入れた物を保管できる、俺が個人的に使える家が必要だ。
(家というか、仮眠できる場もある倉庫か。とにかく物を貯められる場所が大事だ)
今のままだと鉄鉱石を持ち運ぶのに一苦労するから、もう少し金が貯まったらバックパックを買う予定だ。
だがそれを買うからには、より効率的に売買するために便利な位置に鉄鉱石を一時貯められる倉庫が欲しい。
鉄鉱石だけじゃなく、出来れば食料保管庫もだ。
それさえ用意出来れば、その脇に買った寝袋広げればとりあえずは十分。
(……あぁ、いや。バックパックより先に小屋を買うべきか。いかん、野宿に慣れ過ぎている)
今の貯蓄は1200cat。
もうちょい頑張れば壊れた小屋ならば買える。
だが、問題はその修理のための資材と量だ。
当然ながら自分に建築の経験はないし、少々不安だ。
人を雇うには金がかかるし、なによりこの世界には大工と呼べる職業の人はあまりいない。
なんとこの世界ではほぼほぼ全てがDIYとその中古品の売買で完結しているのだ。
いずれはチャレンジしなければならないだろうが、そのために試行錯誤のための工作台――いや、研究台も欲しい。
このブリスターヒルで出会った男連中は、初めてでも時間さえかければ大丈夫だと言ってはくれるが……。
「店主、今ブリスターヒルで売りに出てる物件って全部小さな小屋なんだよな?」
「ああ、そのハズだ。デカイ建物は大体が店だからな」
ならばあまり設備は置けない。
最小の物になる以上、まずはより金を稼ぎやすい環境を整えるのを優先すべきか。
小さい小屋をどれだけ飾り立てても限界がある。
「壊れているかどうかは一旦置いて、オススメの物件となるとどこになる?」
「ああ?」
「売買に便利で、出来れば南門から近ければいいんだが」
当面の間は干し肉オンリーの生活覚悟で、キチンとした小屋を買ってもいい。いや、買うべきだ。
重い鉄鉱石を出来るだけ早く下ろせて、かつ他の店――出来ればバーか食料品店に近い場所。
「……ちぃと値が張るが、一か所いい所があるぜ」
「値が張るって事は修理の必要がない完品?」
「おう。今は人が住んでいるんだが、売って金にしたいっていう話を聞いている」
要するに、バッドティースにいた頃の俺みたいな状況の人なんだろう。
珍しくない。
家を維持するだけの経済状況を維持できなくなる――たとえば稼ぎ頭を怪我や病で失ったりして、結果売らざるを得なくなることはよくある。
特にオクラン教では、人間は自然な体でいなければならない事が教義にある。
どういうことかというと、この国は義手や義足の類は許されないのだ。
一度失えば、その後どれだけみじめでも失った手足を補助することは出来ない。
もし自分やいずれ得る(予定の)家臣団がそうなった場合は亡命だな。
南のシェク王国……は、オーガっぽい見た目の亜人種の国だから少々難しいが、そこを更に越えて都市連合に行けばどうにかなるだろう。
ここ程の男尊女卑はないだろうから家臣団計画は軌道を変えなくてはならないが……。
「理由は聞かない。色々あったんだろうしな……それでどこの物件がいくらなんだ?」
理由を聞かないと言った時に、店主は少し安堵した様子を見せた。
あるいは顔見知りだったのかもしれない。
「4000catだ。場所は南門近くの教会の横。……バーの目の前って言った方が分かりやすいか?」
4000。
今鉄鉱石一袋分で大体90から95Cat。
最近少しは効率良くなったとはいえ一回の採掘で500行かないくらい。
で、そこから日々の食料分を引くと……安い干し肉でも80くらいはする。
たまの贅沢でパンと水なんて注文したら、それこそ一回の運搬分のほぼ全てが吹き飛ぶ。
それこそ肉を包んで焼いたミートラップなんて頼もう物ならば赤字だ。
「……当面の間は赤貧生活だなぁ」
頼むから俺が買うまでに他に買い手が付きませんように。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ブリスターヒルの酒場。多くの人間で賑わうその一角では、最近バッドティースから流れてきたという男の噂が流れていた。
これまで力仕事をしていなかったために仕事は遅いが、それでも毎日真面目に働いている珍しい青年。
名をズゥというその男は、ホーリーネーションの人間からすれば非常に珍しい男だった。
普通ならば、さっさとそこらの女に声をかけて働かせるのが普通だ。
家がないという事だから尚更だった。
女ならば使い潰せるし、昼夜を問わず働かせていれば今頃小屋の一つくらい買えてもおかしくなかっただろう。
なのに、ズゥという男は延々と自分で鉱石を掘り、自分で運び自分で売買し、そうして出来た金をチビチビと貯め込んでいた。
そして先日、遂に教会横の小屋を買ったというのだ。
余りに非効率なそのやり方に、口さがない輩はこう蔑んだ。
―― まるで女や奴隷みたいに働く男だ。
侮蔑の意を込めてそう言う者もいる。
だが同時に、その勤勉さからもっともナルコの闇から遠い者として好感を抱く者も少なくない。
「さて、今日もそろそろ持ってくる頃かな」
「さっき小屋の中に入っていくのが見えたからそうだろう。今頃持ち物を整理してるんじゃねぇか?」
この酒場のすぐ目の前。
オクラン教会の司祭が、訳ありの人間を置いていたという噂のある小屋は一夜にして綺麗な小屋になっていた。
これも噂になっていたが、この酒場に掃除用のバケツを借りに来た男が、わざわざ川まで水を汲んできて磨き上げたのだ。
薄汚れているのには変わりないが、それでもやや綺麗な――それでも粗末な小屋はこのブリスターヒルでも少々目立つ物となっている。
「となると、鍛冶連中も同時に忙しくなるな」
「アイツのおかげでパトロール隊からの注文にようやく追いつけるって武具店の奴らが言っていたぜ」
「最近じゃあ畑を荒らすラプターだけじゃなく、飢えたボーンドッグまでここらに来やがる。そりゃ武器も防具も使い潰すわな」
酒場と銘打っているが、酒は恐ろしく貴重な品であり、そうやすやすとテーブルに出る物ではない。
男達は干し肉を肴に水を飲んでくだを巻いている。
「お、言ってる傍から出てきたぜ」
「おぉ。ハハッ、今日も足がプルプル震えているじゃねぇか」
窓から外の様子を窺っていた男の声に、共に飲んでいた数人が窓へ顔を寄せる。
そこにいたのは、交易を商うトレーダーが好む日差し除けのついた大きなバックパック――中は鉄鉱石の入った袋でギッシリ詰まっているソレを必死の形相で背負い、足をふらつかせながら頑張って売る先へ運ぼうとしている青年の姿だった。
「やれやれ、さっさと女なり奴隷なり雇えばいいのに」
「ああ。ご苦労なこった」