ロキになった。どないせいっちゅうねん。   作:かねれお

1 / 6
MARVELっていいよなぁ byMARVELっていいよなぁおじさん



第1話

眩しい光が差し込む中、意識がゆっくりと浮かび上がっていく。

まどろみの中でまぶたを開けると、目の前には見慣れない天井が広がっていた。

 

美しく彫刻された柱。天井には幾何学模様のフレスコ画が描かれている。

それはまるで、古代神話とSFが融合したような幻想的な空間だった。

 

けれど、部屋以上に違和感を覚えたのは、自分自身の“身体”だった。

 

手を動かすと、目に入ったのは白く細長い指先。

まるで西洋の名画から抜け出したような、優美な手だった。

 

そして、声を出そうとした瞬間——さらなる衝撃が俺を襲った。

 

「……っ、なんだこの声……?」

 

低く、柔らかく、どこか冷たい響き。

自分の声とは思えない。しかし、それは確かに俺の口から発せられた声だった。

 

慌てて近くの鏡をのぞき込む。

そこに映っていたのは——

 

「……ロキ……?」

 

鏡の中の男は、漆黒の髪をなびかせ、深いグリーンの瞳でこちらを見返していた。

どう見ても、マーベル映画『マイティ・ソー』シリーズに登場する“ロキ・ラウフェイソン”そのものだ。

 

「嘘だろ……!?」

 

思わず鏡に手を伸ばす。

冷たい感触が指先を刺す。幻覚でも夢でもない。これは、現実だ。

 

——俺は、“ロキになっていた”。

 

混乱する頭を押さえながら、記憶を手繰る。

たしか昨夜、大学の授業を終えたあと、部屋に戻って夕食を食べて、ベッドに横になった。

そのまま某配信サービスで、何度目かのMCU一気見マラソンに突入。ちょうど『マイティ・ソー』を見ていて——そこで記憶が途切れている。

 

(まさか……映画の世界に転生した……?)

 

そんな馬鹿げた話、あるわけない。だが、目の前の現実がそれを否定してくれない。

 

鏡に映るのは、日焼けした元の俺とはまるで違う、端正な顔立ち。

いや、むしろ美形すぎてちょっと腹立たしい。

 

窓の外に目をやると、さらに驚く光景が広がっていた。

高くそびえる黄金の塔。曲線を描く壮麗な橋。空に浮かぶ虹色の光。——あれは、“アスガルド”。

映画で何度も見た、あの神々の都だった。

 

ベランダで都市を見下ろしていると、背後からノックの音が聞こえた。

 

「ロキ様、お目覚めでしょうか?」

 

ドアが開き、一人の侍女が姿を現す。

純白のドレスを纏い、丁寧に頭を下げている。

 

「……お、おはよう」

 

ぎこちなく挨拶すると、彼女は微笑み、今日の予定を告げた。

 

「本日は朝食の後、王宮にてオーディン陛下との謁見がございます。その後、ソー様との訓練も予定されております」

 

(ソー……来たか……)

 

その名を聞いた瞬間、胸がざわつく。

雷神ソー。ロキの兄であり、MCUの世界で重要な存在の一人。

自分は今、その“弟”として生きていくのか?

 

 

朝食後、自然と足は王宮へと向かっていた。

知らないはずの場所なのに、体が勝手に動く。まるで“ロキ”としての記憶が染みついているようだった。

 

玉座の間に入ると、空気が一変した。

中央に座していたのは、黄金の鎧を纏った威厳ある男——オーディン。ロキとソーの父、アスガルドの王だ。

 

「ロキ、近う寄れ」

 

低く、威厳に満ちた声。しかしその中に、確かな温かさもあった。

 

体が自然と動き、膝をつく。「はい、父上」

敬語も所作も、完璧に“ロキ”のものになっている。

どうやらこの体には、ロキとしての習慣の記憶が残ってるらしい。

 

だが、中身はあくまで“俺”。

ただの日本の大学生、アニメと映画が好きな一般人だ。

 

オーディンはしばし俺を見つめ、やがて口を開いた。

 

「今日のお前は、どこか落ち着いているな。よき兆しだ」

 

実際は、落ち着いているというより、あまりの情報量に脳が処理落ちしかけているだけなのだが——。

 

謁見では、王族としての心得、ソーに関する愚痴など、さまざまな話を交わした。

血のつながりがないことを知っている俺にとっても、オーディンが“父”として接してくれるこの時間は、不思議と温かかった。

 

謁見を終えて一人になったことで、思考が止まらなくなる。

 

(このまま映画通りなら、ロキは道を踏み外し、兄に敵意を抱き、地球を侵略し、アベンジャーズに敗北し……最後には……)

 

 

——でも、もし俺がロキとして人生をコントロールできるなら?

運命を変えて、“死なない道”を選ぶこともできるかもしれない。

 

そんなことを考えているうちに、時間は流れ、ついに訓練場でソーとの初対面を迎える。

 

そこにいたのは、筋肉隆々で笑顔が眩しい、太陽のような男。

映画で見た姿そのままだが、実物は……やっぱり迫力が段違いだ。

 

「ロキ! 今日はずいぶん表情が柔らかいじゃないか!」

 

屈託なく笑いながら歩み寄るその姿に、まったく悪意は感じられなかった。

ただ純粋に、“弟”を心配しているようだった。

 

(時系列的には、ソーがムジョルニアをもらった直後くらいか……。ロキがモヤモヤし始めてる頃だな)

 

「最近、お前が笑っているのを見てなかったからな。何かあったのかと聞こうか迷っていたんだ」

 

「そ、そうか……」

 

気の利いた返しもできず、思わず苦笑い。

 

(やばい……いいやつじゃん……)

 

「まあいい、訓練といこう。さあ来い! 今日はお前の幻影魔法を完全に見破ってやるからな!」

 

ソーがムジョルニアを構える。

こちらも自然に構えを取り、気づけば体が魔力を練り上げていた。

 

左右に“分身”が生まれ、ソーの攻撃を華麗にかわす。

ナイフを投擲、魔法を放ち、幻影で翻弄する——

 

(うおっ……すげぇ! 魔法が、俺の意志で動いてる!?)

 

圧倒的な身体能力、魔力の制御、それらが完全に“自分のもの”として手に入っている。

——これが、神の力。

 

(この力を使いこなせれば……元の世界に帰ることも、あるいは——)

 

だが、考えがよぎったその瞬間、ムジョルニアがクリーンヒットして俺は吹き飛んだ。

 

戦闘中によそ見や考え事は厳禁。ははは、私は成長したぞ兄上様よ。

訓練は、早々に終了した。

 

その夜。王宮のバルコニーで一人、星空を見上げる。

見たことのない色と配置の星々。けれど、不思議と心が落ち着く。

 

「……俺は本当に、ロキになったんだな」

 

言葉にすると、ようやく実感が湧いてきた。

この世界に転生した理由も、目的も、まだわからない。

 

でも、もしこの命が本物なら——

 

「悪役にはならない。死にたくもない。できれば……穏やかに暮らしたい」

 

それは、ささやかで現実的な願いのはずだった。

——少なくとも、この世界では。

 

知識があるからこそわかる。

この世界は、指パッチンひとつで半分が消える世界だ。

 

「こちとらただの大学生だぞ……。痛いの嫌だし、とにかく“生き延びる”が最優先、安全が第2だ……」

 

その誓いと共に、俺の新たな人生が静かに幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

——ただし、その“平穏”がどれほど遠いかを、この時の俺はまだ知らなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。