ロキになった。どないせいっちゅうねん。   作:かねれお

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第2話

翌日、俺はソーが訓練していると聞き、再び訓練場へ足を運んだ。

せっかく魔法が使えたというのに、あっという間にダウンさせられたのが悔しかった。——いや、何より、痛みに悶える弟にニコニコしながら追撃しようとするどこぞの兄に、一発お見舞いしてやりたい気持ちがあった。

 

訓練場に近づくと、話し声が聞こえてきた。どうやら、ソー以外にも誰か来ているようだ。

 

「ロキ! 二日続けて顔を出すとは、珍しいな!」

 

王宮前の訓練場に入ると、真っ先に声をかけてきたのはヴォルスタッグ。

手には骨付き肉、背中には酒樽……いや、戦士のスタイルって何だったっけ?

 

「いい心がけだ、ロキ。訓練の後は女の口説き方でも教えてやろうか?」

 

ファンドラルがそんな軽口を叩きながら、笑って肩を組んでくる。

 

「結構。遠慮しておくよ」

 

「ほう、何かこだわりでも?」

 

「違う。ただ、そういう余裕がないだけさ」

 

……ちなみにアスガルドの神々は総じて顔が良い。

でも今は憑依してまだ二日目。色恋にうつつを抜かす余裕なんてあるわけがない。

 

そんなやりとりをしていると、無口なホーガンがぽつりと呟いた。

 

「……久々だな、こういうの」

 

ああ、確かに。

以前のロキだったら、こんな会話は鼻で笑って終わらせていたはず。

けれど今の俺は、それを懐かしいと思えるようになっていた。

 

そこへ、ソーがやってきた。

 

「ロキ! シフが相手してくれるらしいぞ!」

 

「兄上、私は頼んだ覚えはないのですが?」

 

「いや、久しぶりにお前が吹き飛ばされるところを見たいだけだ」

 

……昨日もあなたに吹き飛ばされてましたけど? ぐれるぞ、お兄ちゃん。

 

そんな茶目っ気たっぷりの兄に呆れつつ、訓練が始まった。

シフとの模擬戦。短剣を構える俺と、剣を手にした彼女。打ち合うたび、その強さが骨に響く。

 

「……容赦ないな」

 

「甘やかしてほしいの?」

 

「できれば、少しだけ」

 

次の瞬間、彼女の剣の柄が俺の腹に的確にヒットし、俺は地面に沈んだ。

……これがアスガルド流の優しさか。

 

訓練後、全身の疲労感に抗えず、王宮の自室へ戻った俺はベッドに倒れ込んだ。

カーテン越しの柔らかな光、ふかふかの枕、心地よい疲労感。

気がつけば、深く眠っていた。

 

「おはよう、ロキ。ちゃんと眠れたかしら?」

 

夢かと思った。けれど、これは現実だった。

目を開けると、フリッガが優しい手つきで俺の髪を撫でていた。

 

「……あの、母上……?」

 

「起こしてしまったかしら? もう一度寝てもいいのよ」

 

その声と微笑みに、心の防御がふわりと溶けていく。

母の膝枕。まるで、遠い昔に戻ったような安心感。

 

「あなた、どこか柔らかくなった気がするわ。

目の奥の光が、前より……優しくなったの」

 

「……そう、見えますか?」

 

「ええ、とても」

 

(ああ……これが、“ばぶみ”ってやつか……)

 

「訓練、頑張っていたそうじゃない」

 

(……この世界で、この善き人たちと、善く生きたい。

彼らと実際に接し、話した今ならそう思える)

 

フリッガに頭を撫でられながら、俺は再び眠りに落ちた。

 

そして——憑依してから、もうすぐ一年が経とうとしていた。

 

朝起きて日本に戻っていた、なんてこともなく、アスガルドでの日々は静かに続いていた。

 

この一年で、アスガルドの生活にもすっかり慣れた。

ウォリアーズ・スリーとは定期的に訓練し、

シフとは剣を交えることで、以前よりも対等な関係になれた気がする。

オーディンやフリッガとの絆も、しっかり再確認できた。……ロキよ、お前はちゃんと愛されているぞ。

 

文句を言うとしたら、「白米と味噌汁が恋しい」くらいか。こっちの食事もおいしいんだけどね。

 

ソーとの関係も悪くない。

ときどき喧嘩したり、茶化し合ったりしながら、

夕暮れに一緒に星を眺めるような、そんな穏やかな日々もある。

 

けれど——その“日常”は、静かに、そして唐突に崩れ始めた。

 

夕暮れ時、フリッガと魔術について話していたそのときだった。

息を切らせた衛兵が王宮へと駆け込んできた。

 

「……報告します。アスガルドの宝物庫に、霧氷の巨人が侵入しました!」

 

その一言で、場の空気が一変する。

 

「フロスト・ジャイアントが? なぜ今さら……?」

 

俺が尋ねると、衛兵は硬い表情で首を振った。

 

「わかりません。ただ、結界が破られた形跡があり、内通者の可能性も……」

 

「何か盗まれたのか?」

 

「カスケット(霜氷の巨人の箱)には手をつけられる前に、デストロイヤーが対処しました」

 

……

 

だが、この事件がソーに火をつけてしまった。

 

王の許可も得ずにヨトゥンヘイムへ突入し、

王国間の外交バランスを盛大にぶち壊し、

氷の王ラウフェイとの一触即発の事態を招いた。

 

……らしい。

 

「……は?」

 

その報を聞いた俺は、思わず声を漏らした。

 

(ちょっと待て。俺、何もしてないよな? 暗躍もしてないし、変な魔法もかけてない。

今日なんか、フリッガの膝で昼寝してただけなんだけど……?)

 

フリッガの表情は静かだった。

 

「ソーは今、どこに?」

 

「ソー様は……オーディン様に力を奪われ、そして……」

 

衛兵がその後の経緯を説明していたが、ほとんど頭に入ってこなかった。

 

(おかしい……!)

本来なら、ここから先はロキがフロスト・ジャイアントを手引きして、物語が動き出すはずだった。

だが、俺は何もしていない。なのに、物語は進んでいる。

 

考えろ、ロキ。

 

俺が何もしていないのに事が動いているということは——

 

“誰かが、俺の役割を引き継いでいる”

もしくは——“運命そのものが、勝手に歯車を回している”。

 

この先、何が起こるかはわからない。

だが、ろくなことにはならないだろう。

 

俺という異物が存在している時点で、この世界はすでに“原作”とは異なる道を歩み始めたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

いや、ていうか……

 

 

 

 

 

どないせいっちゅうねん。

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