ロキになった。どないせいっちゅうねん。   作:かねれお

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第3話

オーディンが「王の眠り」に入ったのは、それから間もなくのことだった。

 

玉座の間で、突然倒れ――そのまま深い眠りへ。

神の心労というものは、人間の比ではないらしい。

長きにわたりアスガルドを治めてきた偉大なる王は、なんの前触れもなく、静かに瞼を閉ざした。

 

重苦しい沈黙の中、フリッガはただ静かにその傍らに寄り添っていた。

そして、肝心の長男・ソーは――いない。

地球、すなわちミッドガルドに追放されたままだ。

 

ならば、この王国を誰が預かるのか。

オーディンの血を引き(?)、王位継承権を持ち、魔術に長けた者――

 

つまり、俺。ロキである。

 

(……え、マジで?)

 

たしかにロキの記憶はある。

魔法の知識も、外交の基本も、それなりに備わっている。

だが――中身は、ただの日本の大学生。

神々の王政を任されるなんて、想像の遥か斜め上だ。

 

……でも、やるしかなかった。

誰かが国を支えなければならないのだから。

 

最初のうちは、案外うまくいった。

各部門の長たちと顔を合わせ、書類に目を通し、民の陳情に耳を傾ける。

慣れないながらも、王としての務めを淡々とこなしていく日々。

 

(……あれ? 意外とイケるかも?)

 

――そう思ったのは、最初の一日だけだった。

 

四日目。

 

「もうやだ。疲れた」

 

朝の政務報告が始まった時点で、すでに脳がフリーズ。

机に積まれた書類の山を見た瞬間、現実逃避スイッチが全開になる。

 

しかも、大臣たちの報告がまた厄介だった。

今回の「王の眠り」があまりに突然だったせいか、

その裏では、オーディン亡き後の利権争いが着々と進行中。

プライドと私欲が渦巻く言葉の裏に、透けて見える悪意が胃に突き刺さる。

 

(ああもう……俺、神経性胃炎になっちゃうよ)

 

……限界だった。

俺、ただの大学生なんですけど?

 

それでも今日も半日、ちゃんと働いた。頑張った。

けど、一般大学生ピープルにはもう限界だ。

 

王冠(トナカイヘルメット)――を机の上にそっと置き、

そのままの足で、虹の橋の門へと向かった。

 

「ヘイムダル。頼む、地球に行かせてくれ」

 

黄金の門を守る番人は、無言のまま俺を見下ろす。

その瞳の奥には、すべてを見通すような静かな光が宿っていた。

 

「……王務に心が折れたか?」

 

「折れたというか、砕けた。兄上を連れ戻す。

私は……王の器じゃない」

 

短くため息をついた後、ヘイムダルは剣を静かに掲げた。

 

「私から見れば、あなたは十分以上にやれていた。

……だが、今この時、アスガルドの王はあなたなのだ。――行くがいい」

 

本来なら、いずれ訪れるつもりだった。

けれど、こんな形で向かうことになるとは思っていなかった。

これはもう、世界の修正力でも働いているのだろうか。

 

――とにかく、ソーと話をしなければ。

今頃はジェーンとイチャイチャしてるかもしれないが……申し訳ないけど、そんなの関係ない。

 

オーディンが倒れた今、アスガルドには……いや、俺たちには、ソーという支柱が必要だ。

 

天空を裂く光が走る。

橋のように伸びた虹が、地球へと続いていく。

 

その瞬間、俺の体はふわりと宙に浮き、

次なる舞台――地球へと送り出された。

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