ロキになった。どないせいっちゅうねん。   作:かねれお

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第4話

地球に降り立つと、俺はつぶやいた。

 

「確か……ニューメキシコだったかな。初めての海外旅行が、まさかこんな形になるとはね」

 

「ほう。ここが、お前の言っていた“ニホン”ではないのか?」

 

「違うよ。ここはアメリカ。日本の地理ならまだなんとかなるけど……って、うわっ!なんでついてきてるんだ、"ユノ"!」

 

気づけば、俺の肩に一羽の黒いカラスがとまっていた。

 

このカラス、ただの鳥じゃない。言葉を話し、魔法を使い、政治にも精通した“スーパーカラス”。たぶん女性で、妙に品があり、知性を感じさせる雰囲気をまとっている。

 

アスガルドで出会った友人(鳥?)。そして、俺の秘密を唯一知る存在だ。いや、うっかり口を滑らせてしまっただけなんだけど……。

カラスなら、まぁ……セーフだよな?

 

最初に話しかけられたときは、マジで心臓が止まるかと思った。でも、しゃべるアライグマが存在する世界だ。カラスが話しても、驚くことじゃない……って自分に言い聞かせた。

 

それに、彼女がいたからこそ、この“憑依生活”の一年をなんとかやってこれた。……恥ずかしくて口には出せないけどさ。

 

「独り言はやめろと言っただろう。誰かに聞かれたらどうする。恥ずかしいぞ」

 

「一人のつもりだったんだよ……。で、今の王座はどうなってる? 君が魔法でカバーしてくれてるって言ってたけど」

 

「安心しろ。フリッガには話してある。問題はない」

 

「ならいい。ついてくるのはいいけど、少なくともミッドガルドのことなら俺のほうが詳しいんだから、勝手な行動は控えてくれよ」

 

「心配するな。それよりも――ソーを見に行こう。あの自分勝手で傲慢な男が、今どうしているか……楽しみだ」

 

楽しげに言うなよ、カラスのくせに……。

 

「あー、もう……」

 

俺は探知魔術を発動。魔力の反応は、それほど遠くない。あの街の中、か。

 

変装の魔術で自分の姿を変える。選んだのは英国紳士風のスーツ。クラシックながらも洗練されたデザイン。

 

「ほう、見慣れぬ格好だが、なかなか似合っているではないか。……ツノはどうした?」

 

「いらない。あんなの目立つだけだし、正直ダサい」

 

「なにぃ!? ダサいだと……これが、ジェネレーションギャップというやつか……!」

 

なぜショックを受けているんだ、お前……。

 

「ここでは、カラスを肩に乗せてるやつなんて見かけないんだ。町に入ったら、あの電線の上にでもいてくれ」

 

俺が電線を指さすと、ユノは羽をバサッと広げ、不満げに鳴いた。

 

「……私を、ミッドガルドのただのカラスと同じに扱うとは。前にも言ったが、私はカラスはカラスでも――偉大なるカラスなのだぞ? だいたい、そもそも……」

 

文句を並べる彼女の声を背に、俺は街へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あいつと出会ったのは、ただの偶然だった。

 

私は、――。

かつて、アスガルドの“最初の剣”として、幾千の命を刈った存在。

戦の女神。恐怖の化身。

そして、オーディンによって歴史から消された女。

 

私が封じられる以前――アスガルドは、征服の時代にあった。

 

オーディンと共に、私は九つの世界を力でねじ伏せた。

「秩序」の名のもとに行われた侵略。

世界を焼き、王を屈服させ、民を服従させた。

その先頭にいたのが、私だった。

 

私は命令に従い、ただ機械のように殺した。

剣を握れば、心は無になる。

炎の匂い、折れた骨の音、叫び声――

それらが私の「日常」だった。

 

何も望んでなどいなかった。ただ、そう生きるよう育てられただけだ。

「戦うこと」が、私の存在理由だった。

 

ある戦では、街ごと一夜にして灰に変えた。

その中心に立っていたのは、私だ。

泣き叫ぶ子供を、私は見た。

逃げ惑う者たちを、私は踏み越えた。

 

オーディンは、いつしか私を恐れるようになった。

そして、私を封印した。

 

「時代にそぐわぬ存在」――それが私への評価だった。

 

誇りも、忠誠も、名誉も、すべてが切り捨てられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

年々封印が弱まりつつあった。

私はオーディンに封じられたこの身を、わずかな隙間を縫って解き放とうとしていた。

 

目立たずアスガルドに潜むには、小さな存在――カラスの姿が都合がよかった。

 

その中で、私は“あいつ”を見つけた。

 

 

外見こそ魔法で変えられていたが、わかった。

あれはアスガルドの者ではない、哀れなフロストジャイアントの子。

アスガルドの民に混じり、嘘をつきながら生きる者。

 

ロキ。

 

私は彼に近づいた。利用するため。情報を引き出すために。

 

 

だが、彼の語る「未来の話」は、私の常識を打ち砕いた。

 

「なあ、信じられるか? この国、いずれ消えるんだ。ていうか宇宙の半分が、指パッチン一つで消えるんだ」

 

「神の国だぞ? そんなこと……」

 

「オーディンが許さないって?それが、本来の“私”が、オーディンを地球の施設に預けてて――」

 

「……」

「……」

「お前?」

「私だ」

 

「('Д')!?」

 

あの時の驚いた顔、今でも忘れられない。

 

その後も、私は彼の話を聞き続けた。

ミッドガルドでの、ただの人間としての記憶。

魔法も力もなかった、平凡な日々。

そして、この世界でこれから起こる出来事――

 

彼の言葉は決して夢物語ではなかった。

筋の通った知識に裏打ちされていた。

 

だからこそ、信じられなかった。

別の世界の記憶を持つ存在が、こんなところに現れたことも――話された内容も。

 

最初は情報収集のために会話を重ねた。

けれど、気がつけばその時間が、私にとっても心地よいものになっていた。

 

そして、ある日ふと彼がこう言った。

 

「なあ、ユノ。女神ヘラについて、知ってることがあれば教えてほしい」

 

「……アスガルドには、その名を持つ神は存在しないとされている。それが“公式”の答えだ。だが……なぜ彼女に興味を?」

 

「かつてオーディンは、九つの世界を力で支配した。彼女は、その激動の時代を生き抜いた。

 

日本では、子供の頃に戦争の教育を受けるんだ。映像を見たり、本を読んだり。

 

私は戦争を経験したことはないが……少なくとも、良い時代ではなかったと思う。

 

仲間が灰になり、味方の屍を踏み越えて敵を殺す。

そして、殺さなければ自分が――誰かが死ぬ。

 

そんな時代を彼女は生きたんだろう?」

 

――ああ、そうだ。

 

私は望んで戦場に立ったわけではなかった。

ただ“役割”としてそう在ることを強いられた。

愛されることも、認められることもないまま――

“恐れ”と“神の道具”として生きてきた。

 

戦いが終わっても、誰も私の名を呼ばなかった。

私の剣が守った者たちに、記憶されることさえなかった。

 

1人は、嫌だった。

 

 

 

「…いずれこの国に破滅をもたらすという彼女に、お前は一体何を望む?」

 

「何も望まない。ただ、話したいんだ」

 

「話だと……?」

 

「彼女は、きっと――あまりにも多くを失いすぎた。

愛したものを、信じたものを。その結果、孤独になってしまったんだ。

 

彼女には、隣にいてくれる誰かが必要だった。それだけなんだ。

 

今は生きているが、オーディンも、フリッガも――本来の歴史では死んでしまう。

 

でも、今ならまだ間に合う。話すことが出来るんだ。

彼女はまだ……きっと戦いが終わっていないし救われていない。

 

だから、伝えたい。伝えなきゃいけないんだ。

 

 

 

 

ありがとう、と。

 

 

 

 

そしてもう、剣を置いてもいいんだと。

誰かのためじゃない、自分のために」

 

そうか。私は、もう戦わなくていいのか。

 

そうか。

 

 

 

彼の言葉は、どこまでも優しかった。

 

「それに私は、前は一人っ子だったから……姉がいるっていうのにはちょっと憧れてたんだ。

 

今の私はオーディンの末っ子、家族だから。

弟の言葉なら、もしかしたら届くかもしれない……なんてね」

 

 

「お前のような只人が、私に救いを差し出すとはな」

 

「何か言ったか?」

 

「…いや、何でもないさ」

 

 

長年にわたり持っていたこの憎悪は消えたわけではない。

 

そうか、私が“姉”か。

 

 

子供の頃、英雄譚を読むのが好きだった。

戦士が巨悪を倒し、姫と結ばれる――そんな話が。

 

未来に困難が待ち受けていると知っていても、

それでも必死にもがき、抗い、生きようとするおまえの姿が、眩しかった。

 

そして、心優しき只人よ。

私を救おうとしてくれたお前なら――

 

きっとこの世界すら、変えることができるかもしれない。

 

これから始まるのは、ロキ……いや、“お前”の英雄譚だ。

 

私はこれから紡がれるその物語を、楽しみに待つとしよう。

 

 

 

 

 

そして必要とあらば、力を貸そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はお前の――姉だからな。

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