ロキになった。どないせいっちゅうねん。   作:かねれお

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第6話

街が――焼かれていた。

赤黒い炎が通りを這い、黒煙が空を覆っていく。

 

焼け焦げた建物の匂いが鼻を突いた。

人々の叫び声、無数の足音、そして爆発音が交錯する。

かつて平穏な日々が流れていた街は、今や見る影もなかった。

 

目の前では、黒い鎧に身を包んだ兵士たちが、冷酷な手つきで建物を破壊し、無抵抗の市民たちを次々と襲っていた。

 

あの姿……まさか――

 

「ダークエルフだと!?」

 

「ソー、知ってるのか!? 一体、やつらは何者だ!」

 

セルヴィグの動揺した声が背後から響く。

 

俺は唇を噛みしめ、重く口を開いた。

 

「……あれは、おそらくダークエルフ。光がこの世界に生まれる前――混沌と闇に支配された時代に存在していた古の種族だ。だが、祖父ボール王が滅ぼしたはずだ……」

 

なぜ今、彼らが地球に……? なぜ市民を襲っている?

 

「ここにいては危険だ、セルヴィグ。お前たちはすぐに逃げろ!」

 

外では警官たちがダークエルフに向けて発砲していた。だが――

 

その銃弾は黒い装甲に弾かれ、逆に反撃の銃火に晒されていく。市民たちが、ひとり、またひとりと倒れていった。

 

気づけば、すでに敵は目前まで迫っていた。音もなく忍び寄るその姿は、まるで獣のように獰猛で、静かに包囲していた。

 

(くそっ……やるしかない!)

 

俺は咆哮と共に拳を固め、最前の兵士に殴りかかった――だが。

 

鈍い衝撃が骨に伝わるだけ。敵は微動だにしない。

 

反撃の刃が振り下ろされる。俺は近くの車のドアを盾に、とっさに構えた。

 

「ぐっ……!」

 

剣撃は防げた。だが次の瞬間、別の兵士の銃撃を受け、俺の身体は吹き飛ばされた。背後のカフェの窓を突き破り、室内に転がり込む。ガラスの破片が体に突き刺さり、熱い血が流れる。意識が遠のく――が、休んでいる暇はなかった。

 

兵士たちが銃口をこちらに向け、じりじりと迫ってくる――その時だった。

 

――轟音。

 

眩い光が地上に降り注ぎ、ダークエルフたちの前に壁のように立ちはだかった。

 

ビフレスト。虹の橋が、開かれたのだ。

 

光の中から現れたのは――

 

優雅に剣を構えるファンドラル。

 

豪胆に斧を構えるヴォルスタッグ。

 

冷静に鉄球を構えるホーガン。

 

アスガルドが誇る三人の勇士――ウォリアーズ・スリーが、戦場へと駆けつけた。

 

「お前たち……来てくれたのか!」

 

「俺たちがヘイムダルの近くにいてよかったな!」とファンドラルが剣を舞わせながら言う。

 

「ロキの姿が見えなくなったと思ったら、地球にダークエルフが現れたって聞いて、驚いたぜ」ヴォルスタッグが斧で敵を吹き飛ばす。

 

「無事で何よりだ、ソー」とホーガンが静かに告げた。

 

戦場に光が戻った。ファンドラルの剣は風のようにしなやかに敵を裂き、ヴォルスタッグの斧は一振りで敵を地面ごと吹き飛ばし、ホーガンのモーニングスターは一撃で鎧ごと粉砕する。

 

 

「ソー、今のお前じゃ戦えない。下がれ!」ファンドラルが真剣な目で告げる。

 

……その通りだった。今の俺では、仲間のように――仲間たちと共に戦えない。

 

「……友よ、頼む」

 

「任された。アスガルドのために」

 

「「アスガルドのために!!」」

 

三人の声が空気を震わせる。俺は背後を振り返る。ジェーンたちは……無事だった。避難が間に合ったらしい。胸に安堵が広がる。

 

戦況は、ウォリアーズスリーの到来により好転した――かに見えた。

 

 

ダークエルフの副官――アルグリムが膝をつき、咆哮を上げる。赤黒い瘴気が立ち昇り、肉体が変貌していく。装甲が身体が内側から破れ、炎のような力が溢れ出した。

 

筋肉は異様に膨れ上がりもはや以前の面影はなく、その存在は他とは隔絶した威圧感を放っていた。

 

カース――死と憎悪の化身が、この地球に誕生した。

 

「!?ホーガン、行くぞ!」

 

異変に気付いたヴォルスタッグが叫び、二人は突撃する。ホーガンの鉄球が胸を撃ち、ヴォルスタッグの斧が側頭部に命中――だが、カースにとって致命傷にはならなかった。

 

カースは無言のまま二人の武器を奪い、投げ捨てるとホーガンの背に自らの剣を深々と突き立てた――

 

「ホーガン!!」

 

ヴォルスタッグが咆哮を上げ応戦しようとしたが、足を掴まれ何度も地面に叩きつけられると、その巨体もやがて動かなくなった。

 

俺は――動けなかった。

 

友が目の前で倒れていく。助けなければ。だが、今の俺には、何もできない。

 

(考えろ……何か、俺にできることは……。父上なら……母上なら……ロキなら……どうする?)

 

思考が巡る中、地面に落ちていたダークエルフの剣を握りしめ、俺は叫んだ。

 

「ファンドラル!」

 

「ヴォルスタッグたちを連れて撤退しろ。ロキと合流して、準備を整えるんだ。あの化け物は……万全の状態でなければ倒せない。時間は、俺が稼ぐ!」

 

「策があるのか?」

 

「……ああ」

 

「本当にあるんだな?」

 

「くどいぞ……アスガルドを頼む」

 

「おい、ソー! お前は一体、何を──」

 

応えることなく、俺は剣を握りしめ、戦場の空気を震わせながら前に出た。

 

「聞け、ダークエルフよ! スヴァルトヘイムの民たちよ!」

 

胸を張り、怒号のように名乗る。

 

「我が名はソー! ソー・オーディンソン! 偉大なる王、オーディンの息子だ!!」

 

(ロキ……お前なら、もっと賢いやり方を思いついただろうな。だが、俺にはこれぐらいしか思いつかなかった)

 

「俺の首が欲しければ、この俺と勝負しろ!!」

 

渾身の力を込めてカースに剣を振り下ろす。だが――

 

その一撃は、あっさりと弾かれた。

 

そしてその剛腕によって俺の身体は宙を舞い、地面に叩きつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄れゆく意識の中で、俺は感じていた。

 

――これは、俺の過信と傲慢の代償だ。

 

ヨトゥンヘイムへの軽率な攻撃で、父オーディンによりミッドガルドへと追放された時のことを思い出す。

 

 

冷静な判断力、責任感、自制心。

そして――謙虚さと、自己犠牲の精神。

 

俺には何もかもが欠けていた。

 

 

 

父上が見ていたのは、武勇ではなかった。

 

王に、ふさわしい「心」だったのかもしれない。

 

 

暗くなる意識の中で、ソーはただ一つのことを願った。

 

 

 

仲間を守りたい。愛する者たちを――この星を、未来を、守りたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

その願いにハンマーは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

応えた。

 

 

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