アニメを観てこんなキャラがいてこんな成長をしていたらという妄想の元書いてみました
【全国女子野球大会】。それは高校野球をする者全員が夢見る舞台...
「はぁ...はぁ...」
「ツーアウトツーアウト!」
夏の強い日差しが降り注ぐ炎天下の中、彼女達は勝利を目指して戦い抜いていた
「ナイピー!」
「まだまだ球走ってんぞー!」
「打たせてもいいからねー!」
「あと1人だよー!」
この試合をここまで1人で投げ抜いてきた投手に内野陣から援護の声が飛ぶ
(これで最後。最高の球をちょうだい!)
(うん!)
捕手がミットを構えたのを見た投手は彼女からの熱い思いを感じ取り大きく振りかぶった
これは一度は野球を諦めかけた少女が昔の幼馴染や最高のチームメイト達と全国を目指す物語ーーー
桜が満開に咲き誇り天気にも恵まれた今日、埼玉県にある私立新越谷高等学校はめでたく入学式を迎えた
(今日から高校1年生。楽しいことたくさんあるといいな〜)
そんな新越谷高校に晴れて新入生となった武田 詠深は新生活に心躍らせながら新しい学舎に足を踏み入れた
入学式前に自分のクラスに入った詠深は自分の席を探していた
(えっと私の席はー...ここだ。やった!1番後ろ!)
学生からしたら天国のような席を引き当てた詠深はそれだけで心躍った
(わ〜...隣の子かわいい〜。ん?週刊ペナント?)
自分の席にバッグを置くと今度は周りがどんな子なのか気になるのが常。ふと右隣に座っている子に目をやると詠深的にとてもかわいい子が野球雑誌を読んでいた
「ん?」
「あーごめんね。それ読んでるってことは野球好きなのかなって思って」
「うん!大好きなんだー!」
「そうなんだ。私、武田 詠深」
「川口 芳乃だよ」
「よろしくね、川口さん」
「芳乃でいいよー。詠深ちゃんは電車通学?」
「うん。20分ぐらいのとこから」
「そうなんだね。私は歩き」
「徒歩通かー。じゃあ家近いの?」
「うん、すぐそこなんだ」
「いいなー。ギリギリまで寝てられるね」
「確かにそうかもー」
詠深は初対面としてはなかなかいい感じの入りができた
「ねぇねぇ詠深ちゃん!野球好きなの!?」
「あ、うん。一応野球部だったしね」
「そうなの!?ポジションは!?」
「うえっ!ピ、ピッチャー...だけど...」
「エースだったの!?」
「まぁ一応ね。1回戦敗けだったけど」
「お手手見ていい?」
「お手手?」
詠深が野球好きだとわかった途端テンションが爆上がりした芳乃に意図もわからず自分の手を差し出す詠深
「はわ〜、すごく硬くなってる。すごく投げ込んだんだなってすぐわかるよ。決め球はカーブ系?見てみたいな〜」
(え、当たってる...この子何者...?)
手のひらを触っただけで投げ込み具合や自分の決め球まで当ててきた芳乃に詠深は少しだけ困惑した
「こんな努力したのに1回戦敗けって...よっぽど運が悪かったんだね...」
「...」
芳乃の悲しみの声を聞いて詠深は少しだけ中学のことを思い出した
「こら芳乃!その子困ってるじゃない!」
「ん?」
「あ、息吹ちゃん!」
「知らない野球経験者にちょっかいかけるなってあれほど言ってるでしょー?」
「ん!?ちょっと待って、似てない!?もしかして双子!?」
「えへへ、そうだよ〜」
「この子の双子の姉、息吹よ。よろしく」
「隣の席の元エースの詠深ちゃんだよ。投げ込みで手がすごいんだ〜」
「え〜、どれどれ〜」
少し離れた席からやってきた芳乃の双子の姉の息吹。最初は芳乃の行動を注意した息吹だったが、気づけば芳乃に紹介された詠深の手にふらふら〜っと吸い寄せられていた
「あ、あはは...」
(しまった!いつの間にかまた芳乃のペースに...!)
「知ってる?ここの野球部は活動休止中で、ここではしばらく野球はできないみたいなんだけど」
「あー...実は、野球はもういいかなって...学校も制服で選んだようなもんだし」
「かわいいよね〜」
「はーい。みなさん席についてください」
「あ、先生だ。じゃあまた後でね」
「うん」
担任の先生が入ってきて一旦解散。息吹は自分の席へ戻り芳乃も席に座ったのだが...
「あのー芳乃ちゃん...」
「なーに?」
「そろそろ手、離してほしいかなって...」
「はっ!」
まだ詠深の手を繋いだままだった
入学式も終わり教室に戻ってきた詠深達。それから自己紹介やら後日あるオリエンテーションの案内やらを聞いて本日は終了となった。本格的に授業開始となるのはまた後日
「ねぇ、帰りにどこか寄ってかない?」
「いいね〜。もっとお話ししたいし。お昼も一緒に食べよ?」
「うん!」
放課後の予定も決まり詠深は芳乃、息吹と共に廊下に出た
「どこ行く?」
「んー、レイクタウンとかどう?私まだ行ったことなくって」
「そうなのね。初見じゃ驚くほどだだっ広いわよ?」
「入口から端まで1キロくらいあるからね」
「へー!学校帰りに寄り道とか高校生になったらできるって憧れだったんだよねー」
「わかるわー」
「ん?詠深ちゃん?」
「え?」
廊下を歩いているとすれ違い様に自分の名前を呼ばれ立ち止まった詠深
「やっぱり詠深ちゃんだ!珠姫だよ!覚えてない?」
「珠、ちゃん...?ホントに珠ちゃんだ!覚えてるよ!久しぶり!」
そこにいたのは小さい頃によく遊んでいた幼馴染の山崎 珠姫だった。久しぶりの再会を大いに喜んだ詠深は思い切り珠姫に抱きついた
「急に転校しちゃうんだもん、寂しかった」
「ちょっ、詠深ちゃん...」
「うんうん、この匂い。まさしく珠ちゃんの匂いだ」
「知り合いみたいね」
「ま、まさか...でも...」
「芳乃?」
こんな公衆の面前で抱きついてくる詠深に困り顔の珠姫とそんなの関係なしに感動の再会を味わっている詠深の光景を見て芳乃は体をプルプル震わせていた
「山崎 珠姫選手...中2の時名門美南ガールズ正捕手で、強気のリードと守備が魅力的だった人だよ!」
「へ?」
「去年は強打者の捕手に正捕手の座を奪われて控えだったらしいけど、私は絶対山崎さんを使うべきだと思ってた!」
「そ、そう...」
「つまり、ファンです!」
「えっ!?」
「その色紙どっから!?」
「へー。珠ちゃんも野球続けてたんだね」
「も、ってことは詠深ちゃんも?」
「うん。1回戦敗けだけどね」
どうやら珠姫は詠深の知らぬところで有名ならしく、芳乃の興奮度合いに息吹は早々に置いていかれた。そして芳乃はどこからともなく色紙とペンを取り出し珠姫にサインを求めたのだった
「そうだ!あれあれ!」
「「あれ?」」
「野球女子が再会したらやることは1個しかないよ!」
「何よそれ」
「ずばり、キャッチボールだよ!」
「「「へ?」」」
芳乃の提案により珠姫を含めた4人は野球グラウンドに向かった
「やっぱり誰もいないのね」
「活動休止中だからね〜」
「でも、グラウンド綺麗に整備されてるね〜」
詠深の言う通りグラウンドの状態は綺麗だった。通常放置されたグラウンドは雨やら風でもっとボロボロになっているはずだった
「じゃあ早速見せてー!」
「ただのキャッチボールだよ?」
「それでも見たーい!」
「ごめんなさいね2人共。こうなった芳乃は聞かなくて...」
「すごい興奮具合だね。でも、私も少しやりたいかも。久しぶりに、詠深ちゃんと」
「珠ちゃん...うん!」
2人は今は使われていない野球部の部室からグローブとボールを取ってきた
「じゃあ行くよ〜」
「う〜ん」
自分用のグローブではないにしても2人は数年ぶりのキャッチボールを始めた
「珠ちゃんってキャッチャーだったんだね」
「そういう詠深ちゃんはピッチャーなんだね」
「えへへ〜」
「やっぱり経験者はキャッチボールだけでもかっこいいね!」
「そうね」
楽しそうにキャッチボールする2人を興奮止まない芳乃と芳乃ほどではないにしても息吹も熱い視線で見守った
「どう?私の球!」
「んー。普通かな」
「あ、あははー...厳しいね珠ちゃんは...」
「だけど、1回戦敗けはもったいないかな。投球練習してみる?」
「え、いいの!?やるやる!」
「よーっし。なら私が打席で見てあげる!」
「じゃあ私審判ね!」
「ばっちこーい!」
「いいけど、ヘルメット被ってね?」
「おっとそうだった」
「それと後危ないよ?」
「ふふふ、山崎さんの記録は全部知ってるよ。公式戦でのパスボール0。信頼してるよ」
「あ、ありがと...(この子一体何者...?)」
計らずも珠姫もつい数時間前の詠深と同じ印象を芳乃に持った
「そうだ詠深ちゃん。
「あ...」
「ほら、昔よくカラーボールで投げてたあの
「...」
珠姫からの言葉に詠深はまた過去のことを思い出した
「投げて、いいの...?」
「え?」
「捕れるの...?」
「投げられるようになったの!?硬球で!?」
「完全に一緒ってわけじゃないけど、似たような球なら...」
「投げて!きっと捕るから!」
「えっ!?(なんか空気が変わったような...)」
(きっと詠深ちゃんの決め球!)
珠姫や芳乃にはもちろん、ヘルメットを被って戻ってきた息吹にもさっきまで笑顔を振りまいていた詠深にからそれがなくなりさっきまでとは何か違うことを悟った
「いくよ...」
「こい!(多分カーブ系!)」
珠姫がミットを構えると詠深は大きく振りかぶった。そしてダイナミックなフォームからあの球とやらを放った
(えっ!?)
(すっぽ抜け!?ッ!)
「うおっ!」
パシッ
「ちょっと危ないじゃない!」
「「「...」」」
「へ...?なっ!」
詠深が放った球は真っ直ぐ息吹の顔面めがけて飛んで行った。それに驚いた息吹は咄嗟に目を瞑り背中から転倒。あわやぶつかるかもと思った息吹は起き上がり文句を言ったのだが場が騒然としていることに気づき何があったのかと周りを確認すると、自分に向かってきていたはずのボールが珠姫のミットに収まっていたのだ
「ス、ストライクかな...」
「多分、入ってると思う...」
「マジ!?」
「(なんとか捕れたけどびっくりしてちゃんと球筋が見えなかった...)もう1球!」
「あ、うん...」
(次はちゃんと見極める!)
「ちょ、ちょっと私は外で見てようかな...」
「でもすごい変化球だったよ!」
「わかってるわよ、カーブってやつでしょ?(野球選手っていつもあんな怖い球打ってるわけ!?)」
「行くよ...?」
「来い!」
詠深は珠姫から返されたボールをさっきと同じように投げた
(ここから、落ちる!)
「は〜...!」
「(なんて落差とキレ。確かに小さい時に投げてたやつと似てる。あんなのカラーボールでしか投げられないと思ってたのに...)ナイスボール!」
「ありがと!」
「すごいね!硬球でも投げられるようになってたんだ!もっと投げて!」
「うん!」
(でもこれほどの球が投げられるのに...)
「...」
2人が魔球と呼ぶ詠深の決め球。カラーボールで投げていたこの球を硬球でも投げられるようになりたいと詠深は特訓をし続けた。身体作り、球の握り方、投球フォーム。できることは全部やった
「すごいすごい!こんな変化球見たことないよ!それに1球も逸らさない山崎さんもさすがだよ!」
「でもこれほどの決め球を持ってるのに中学は1回戦敗けだったんだよね詠深ちゃん」
「うん...」
「この球と真っ直ぐを織り交ぜただけでそう簡単には打たれないとはず、だけど...」
「野球は1人じゃできないからね...」
そう、野球1人ではできない。投手がいて捕手がいて、内野がいて外野がいて初めて成り立つのが野球というスポーツ。ただ中学の頃、詠深の熱量についてくる仲間が誰もいなかった
「ふぅ」
「すごいね詠深ちゃん。ホントにあの魔球を投げられるようになってるなんてびっくりだよ」
「珠ちゃんこそ上手だよ。全部捕ってくれるんだもん。ちっちゃい頃はぜーんぜん捕れなかったくせにー」
「う、うるさいな!」
「にひひー」
「むぅー。ふっ。転校した後家の近くの野球チームに入ったんだ。そしたらそこがめちゃめちゃ強いチームでめちゃめちゃ練習させられたんだ。小さい頃詠深ちゃんとやってたのとは全然違くて、ツラい時間の方が多かった。でも、詠深ちゃんの球取れるようになってたからやってよかったよ」
「あ...」
自分の知らない時の珠姫の過去を聞いた詠深はふと昔した約束を思い出した
「ねぇ珠ちゃん。約束覚えてる?」
「ん?なんか言った?」
「ううんなんでもない。次最後の1球にしよっか」
「うん」
「最後なら私も入るわ!詠深ちゃん!今度は避けないでちゃんと見ておくから本気で投げていいわよ!」
「ふふっ、あははは」
「何がおかしいのよ!仕方ないでしょ!さっき怖かったんだから!」
「ううん違うの」
最後に再び打席に立つ息吹。しかしその身体には本来捕手が装着するアーマーを纏っており、その姿に詠深が笑ったのだと勘違いした
「なんか楽しいなって」
「ん?変な子ね」
野球をやってて楽しい。そんな当たり前のことを言ってて大半の者は息吹のように変なことを言う子だと思うだろう。しかし今の詠深には違った。投げたい球を投げられない。自分の努力は無駄だったのか。そう思って高校では野球は辞めようと思っていた。しかし今は...
(無駄じゃなかった!)
想いを乗せたボールを珠姫めがけて放る。その想いは中学では味わえなかったものだった
「...。ナイスボール...」
「スットラーイク!」
「えーっ!?ワンバンしてなかった!?」
「ちゃんとダイレクトで捕ってたよ。それにワンバンしてもストライクだしー」
「そうなの!?聞いてないわよ!」
「詠深ちゃん?」
「ただの投球練習なのに、初めてだった、こんな気持ちで投げられたの...ありがとね珠ちゃん。もう思い残すことは...」
最高に気持ちよかった。やっぱり自分は野球が好き。そう感じることができた。でもこの学校には野球部はない。ならもう野球する機会なんてない、詠深はそう思った
「え、詠深ちゃんもう野球しないの?」
「え?」
「最後の球、気持ちの入ったいいボールだったのに」
「そうそう!2人はいいバッテリーになるよ!だからやろうよ!野球!」
「芳乃はただ見てたいだけでしょ」
「違うよ!マネージャーやるよ!息吹ちゃんと一緒に!」
「えっ!?」
「息吹ちゃんは選手がよかった?私はそれでもいいけど」
「そういうことじゃなくて!」
「芳乃ちゃんと息吹ちゃんが見てくれて、珠ちゃんが受けてくれるならやりたい...もう1度野球やりたい...」
「もちろんだよ!やろうよ!」
「た、珠ちゃーん!!!」
「ちょっ!もう、泣き虫なのは昔から変わらないね」
詠深は初めてチームメイトと呼べる人達と出会えてような気がして思わず泣き出してしまった
こうして新越谷高校の野球部が再始動したーーー