球詠 「野球って楽しいよね!」   作:てこの原理こそ最強

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新越は表の攻撃のノリと勢いのまま守備に走り出していった

 

「よーっし!投げるぞー!」

 

「詠深ちゃん、この試合あの球封印するよ」

 

「えー!?なんでー!?」

 

「ツーシームとカットボールがどれくらい通用するか見てみたいし」

 

「でもあれって合宿の時に始めたばっかじゃん!」

 

合宿中に詠深の変化球があの球しかないことを懸念した珠姫は芳乃や蓮、藤井先生にそのことを話し別の変化球を何種類か試してみた。そのため最近はその中でよさそうだったツーシームとカットボールを中心に練習していた

 

「今日は点差もあるし試すには絶好の機会でしょ?」

 

「んー...(もう高校生になったし大人にならないとね)わかった。でもその代わり勝つリードしてね!」

 

「もちろん!」

 

(大人といえば今日16歳になるんだった。もしかしてこの大量リード...そんなわけないよね。誰にも言ってないし。でも...)

 

「プレイ!」

 

(最高のプレゼントだよ!)

 

カンッ

 

詠深が初球投じたツーシームは三遊間を割られてしまった

 

(ダメじゃん!)

 

「大丈夫、ちゃんと曲がってたよ」

 

「う、うん...」

 

(それに、今日は抑えるだけが目的じゃないし)

 

「ランナー出た!」

 

「嬉しそうですね」

 

「守備のフォーメーションをいろいろ試せますからね!」

 

ヒットを打たれたのにベンチでは芳乃が大喜びだった

 

「このチームは高確率でエンドランを仕掛けてくる。一番ダメなのはベースカバーのせいで広くなったベースゾーンに打たれてヒットにしてしまうこと」

 

「ですね」

 

「だからランナーがスタートしてもカバーに入るのは稜ちゃんだけだよ!」

 

(うん)

 

(了解)

 

芳乃のサインを見た菫と稜はそれに頷いた

 

(配球は外攻め。右打ちさせてあげる代わりに確実にアウト1つもらう!)

 

「プレイ!」

 

カンッ

 

「走った!」

 

「オーライ!」

 

パシッ

 

「1つ!」

 

パシッ

 

「アウト!」

 

捕球した菫はエンドランを仕掛けて来た相手に対して無理に二塁には投げず一塁に送ってきっちりアウト1つ取った

 

「よし!作戦通り最低限!次の3番、4番の左コンビは引っ張り方向へ強い打球が多いから内野は全体的にファーストよりにして、外野は少し下がって!」

 

カンッ

 

「クッ!」

 

3番の当たりがほぼピッチャー返しとなりセンター前へ。外野位置を少し下がり気味にしたことが裏目に出てセカンドランナーを帰してしまった

 

「いつもの位置なら帰ってこれなかった...」

 

「いいえ、それは結果論です」

 

「じゃあ守備位置はこのままで!」

 

カンッ

 

「またっ!」

 

パシッ

 

「おっしゃー!今度は正面!」

 

パシッ

 

「アウト!」

 

パシッ

 

「アウト!」

 

「やったー!6-4-3のゲッツー!」

 

4番の打った打球はショート正面に転がり難なくゲッツーを取った

 

「ふぅ...」

 

「打たせて捕るのも悪くないでしょ?」

 

「ま、まぁね。どちらかと言えば打たれて捕るって感じだけど...でも、芳乃ちゃんの明晰と先生のノックの成果だね」

 

「だね!」

 

1点は返されたもののまだ5点リード。形は悪くなかったとみんな切り替え次の攻撃に備えた

 

しかし立ち上がりの悪かった相手投手が完全に立ち直ってしまい、走っているストレートとキレキレのシンカーに新越打線は苦戦し、その間に3回には1点返されその差は4点になってしまった

 

「なかなか崩せないな...球も走ってるし...」

 

「ならこっちから崩せばいいんですよ」

 

「それができるのは茄子だけよ...」

 

「やることはシンプルだよ。てか葵、もうそろ?」

 

「もう大丈夫だよ。芳乃ちゃん、葵いつでもいけるからね」

 

「わかった!」

 

5回表、先頭の菫はストレートをカットして何とか食らいつくがシンカーに手が出てしまいアウトとなった

 

「(さてさて、何球いけるかなー?)お願いします」

 

「プレイ!」

 

カンッ

 

「ファール!」

 

パシッ

 

「ボール」

 

パシッ

 

「ボール」

 

カンッ

 

「ファール!」

 

カンッ

 

「ファール!」

 

「いいぞ茄子!」

 

「見えてる見えてる!」

 

「やっちゃえー!安打製造ガール!」

 

(まぁこれくらいならいつでも打てるんだけどねー。みんなのために少しでも疲れさせちゃうよ~?)

 

茄子の目論見はハナからヒットを打つことではなく相手投手に球数投げさせて疲れさせることだった。それにより相手投手は茄子だけで既に10球を突破。それでも打ち取ることができず中盤に来てこれは相当くるものがあった

 

(おっ?)

 

カーン

 

茄子はそろそろ歩かせてくるかと考えつつも14球目で来た変化量の落ちたシンカーを左中間へ飛ばした

 

「ナイバッチー!」

 

「ツーベースよ!」

 

「さすがだな!」

 

長期戦を制した茄子のツーベースにベンチは大盛り上がりを見せた

 

「みんな。今の打席で相手のピッチャーが相当体力使ったみたい」

 

「そうなのか?」

 

「うん。その証拠に最後のシンカーにキレが全然なかったよ」

 

「そう、だったか?」

 

「横から見てるのによくわかるわね」

 

「まぁ観察眼には自信があるからね。球威も落ちてきてるからみんな自信持っていこー」

 

「よしっ!詠深のためにも追加点取るぞ!」

 

『おー!』

 

カーン

 

ベンチでさらなる気合入れを行っている最中、初回に初打点をあげて本日好調の希が内角ストレートを引っ張り右中間を抜けるツーベースを放っていた

 

「希ちゃんナイバッチー!」

 

「完全にふっ切れたみたいですね」

 

「はい!これで打線にさらに厚みが出ます!」

 

「茄子ちゃんもナイスよ!」

 

「ありがとうございます理沙先輩」

 

「茄子、実際どうだった?」

 

「シンカーのキレはもうほとんどないしストレートの球威も前の打席に比べたらどんどん落ちてってるよ」

 

「オッケー」

 

「じゃあ白菊ちゃん、いつでも行けるように準備しといてね」

 

「承知しました!」

 

続く怜、珠姫にもヒットが生まれこの回2点追加することができた

 

難しいと思われていた追加点援護をもらった詠深はカットボールは物足りないものの珠姫のリードで具合のいいツーシームとストレートでゴロを量産。失点は許すものの最小限に留めながら試合を進めた

 

「あれ?詠深ちゃんの球数って今何球だっけ?」

 

「ふふ~ん。じゃーん!75球だよ!6回3失点、素晴らしいね!」

 

「でもあの球を使ってれば無失点だったんじゃ?」

 

「練習だよ練習練習!」

 

「こっちはたくさん打球が飛んできて楽しいわよ」

 

「そうそう!詠深~、これからもこの調子で頼むぜ~」

 

「えー、それはそれでちょっとな~」

 

「相手さんこの回で100球を越えてくるのに続投なんだね」

 

「向こうも向こうで何か試してるんじゃない?」

 

「じゃあありがたくバンバン打たせてもらおっかな」

 

「あ、ごめん葵ちゃん。今日は登板なしでお願い」

 

「え...」

 

「これだけの得点差ですから少しでもみなさんに経験を積んでもらいたいんです」

 

「だから白菊ちゃんの代打も茄子のところだったんだ」

 

「ホントにごめんね...山田さんが立ち直って点が取れてなかったらお願いしようとは思ってたんだけど」

 

「うぅぅ...」

 

「ドンマイ葵!」

 

「いいもん...後でお兄ちゃんに慰めてもらうもん...」

 

「えーっ!ズルい!茄子も!」

 

「茄子は出たんだからいいでしょ!」

 

出番を今か今かと待ち望んでいた葵は今日は休みと聞いてものすごく気を落とすが、申し訳なさそうに謝ってくる芳乃を前にそれ以上不満を言うことはしなかった

 

一方打席には茄子に代わった白菊が立った

 

(外から見ていた時より球速は落ちているとのこと。集中して、一球入魂!)

 

カーン

 

「おっ!」

 

「大きい!」

 

「行ったか!?」

 

パシッ

 

「アウト!」

 

大きくレフト方向へ上がりもう少し飛距離が出てればというところで落ちてしまいアウトとなった

 

「あー!惜しい!」

 

「もう一伸びでしたねー」

 

「もう少しでした...」

 

「いやナイスバッティングよ白菊ちゃん」

 

「そうそう!キャプテンだってホームラン出してなんだから!」

 

「そうだよ!ランナーがいれば犠牲フライには十分な飛距離だからそんなに気を落とさなくて大丈夫だよ!」

 

「みなさん...ありがとうございます!」

 

ぶっちゃけ野球初めて1、2ヶ月であそこまで飛ばせるようになるのがすごいのだと芳乃、藤井先生を含めた全員が思った

 

続く希、怜とヒットが生まれ1アウト二、三塁のチャンスで珠姫

 

(最終回だし点差もある。無理してゲッツーにして相手に流れを持って行かれたくない。でもこのチャンス、詠深のためにも絶対ものにしたい!)

 

パシッ

 

「ストライク!」

 

カンッ

 

「ファール!」

 

(球威は確かに遅くなってるけどストライクゾーンを広く使った配球。あっさり追い込まれちゃったけどこのピッチャーは3球勝負はしない。1球外してくる)

 

パシッ

 

「ボール」

 

(ここから...来た!外角低め!)

 

カーン

 

狙いを澄ませた球を珠姫は上手く引っ張り右中間を抜け2点の追加点をあげた

 

「ナイバッチー珠ちゃん!」

 

ただ後続はバットに当てるもののサードゴロとレフトフライに終わり最後の攻撃を終了。最後の守りに向かっていった

 

「最終回!勝利目前だよ!気を引き締めて油断せずに行こうねー!」

 

『おー!』

 

「詠深ちゃん」

 

「ん?」

 

「少し早いけど、誕生日おめでとう!」

 

「えっ!覚えててくれたの!?」

 

「もちろん!小学生の時1ヶ月前からプレゼントねだって来たの覚えてない?」

 

「えー...そんなことあったかなー...」

 

「もう...何か欲しい物ある?」

 

「さっきのツーベースで十分だよ」

 

「あ、あれはそんなんじゃないし...」

 

「そう?なんだかいつもより気合の入りようが違ったように感じたんだけど、私のためじゃなかったの?」

 

「違います!」

 

ホントはそうなのだがいざ本人からそう言われると気恥ずかしくなってしまった珠姫は全力で否定する

 

「じゃあ、今日は勝ちたいな!」

 

「ふふっ。わかった、じゃあ...」

 

「あ...。うん!」

 

珠姫は詠深に小さく何かを提案し、詠深はそれが甚く気に入ったのか嬉しそうに返事をした

 

カンッ

 

パシッ

 

「アウト!」

 

カンッ

 

パシッ

 

「アウト!」

 

詠深は集中を切らさず丁寧なピッチングを続け打たせてはアウトにしての戦法を続けすぐにツーアウトとなった

 

「ナイピ詠深ちゃん!」

 

「いいよー!」

 

「あと1人ー!」

 

「決めちゃえー!」

 

パシッ

 

「ストライク!」

 

パシッ

 

「ストライクツー!」

 

(あと1球!)

 

(行くよ!あの球!)

 

(うん!)

 

珠姫が提案したのは最後の球は封印していたあの球を投げること。そして...

 

パシッ

 

「ストライーク!バッターアウト!」

 

バッターは空振り最高の形でゲームセット、誕生日直前にチームから勝利投手をプレゼントされた

 

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