大会の抽選会を終えた次の休日。この日は朝から蓮も練習に参加していた
「おはようございます」
『おはようございます!』
「練習を始める前に芳乃さんと山崎さん、武田さんはちょっと話があるので残ってもらっていいかな。他の人は藤井先生が見てくれるのでいつも通り練習を始めてください。藤井先生、少しの間よろしくお願いします」
「わかりました。ではバッティング練習から始めましょうか」
『はい!』
蓮が呼んだ3人を残し全員は藤井先生の指導のもと練習を開始した
「お、怒られるのかな...」
「大丈夫だと思うよ」
「安心して武田さん。別に怒るとうかそういうのじゃないから」
「よかった~」
「それか怒られるようなことした自覚ある感じ?」
「ななななないです!」
「なら大丈夫だよ。少し長くなるかもしれないからベンチにかけてくれる?」
「「「はい」」」
蓮の後を追ってベンチに移動する3人。詠深と珠姫だけならまだしも芳乃でさえどんな話をされるのか見当がつかなかった
「芳乃さんにも残ってもらったけど話っていうのはどちらかというと山崎さんと武田さんに伝えたいことがあってね」
「私達にですか?」
「そう。来月から夏の大会が始まる。それに向けてチーム練はもちろんだけど、各々個人でも努力していると思うんだ」
「それはもちろんです。大庭さんがくれたメニューもありますし無理のない程度に個人練も続けてます」
「それは素晴らしいことだね。そこでみんなとは違うベクトルで努力しているのが芳乃さんだってことを特に2人には頭に入れといてほしかったんだ」
「え...」
詠深と珠姫に話ということだったのにいきなり自分の話題になって少し驚いた芳乃
「一応わかっているつもりではいました」
「芳乃ちゃんには打順とか作戦とかサインとか、そういうこと全部やってもらってるからね」
「武田さんの言う通り作戦面に関しては芳乃さんが担ってくれてる。別に芳乃さんのやってることが間違ってるって話じゃないよ?俺から見てもどれも高校生離れしていると思うし、参謀と呼ばれるにふさわしい成果をこれまでの練習試合を通してあげてると思ってる」
「あ、ありがとうございます...」
これまで褒められたことがなかった芳乃の努力を面と向かって褒めてくれた蓮に芳乃は少し照れくさそうに俯く
「でも来月からの夏の大会は練習試合とは空気感も緊張感もまるで違う。その中でそういう作戦面を芳乃さん1人に任せてしまうのは酷だと思ってね」
「あー確かに」
「いや、でもそれは私の...」
「芳乃さん。今までの練習試合では試合ができる、いろいろ試せるっていう喜びの方が大きかったと思うんだけど、本番では負けたら終わり。そんなプレッシャーの中で戦わないといけないんだ。いくらすごい人間でもピンチの場面を1人で背負うのはすごく大変なことだし私がこうしちゃったから...もしいつも通りにしていれば...もしそんな考えをしてしまうとして、1人で抱え込むのはよくない」
「わかりました。少しでも芳乃ちゃんの負担が減るように私達にもってことですよね」
「山崎さんの言う通りだよ。キャッチャーであり試合中のチームの頭脳でもある山崎さんと、その相棒の武田さんには特に芳乃さんの負担軽減をお願いしたいんだ」
「もちろんです!私にできることがあるならなんでもやりますよ!」
「芳乃ちゃんにはいろんなこと任せちゃってますからね。私なんかで少しでも力になれるなら」
「詠深ちゃん...珠姫ちゃん...」
確かに本番を味わったことがない芳乃にしても初めての大会。そんな自分のことを考えてくれる蓮にも、快く手を差し伸べてくれる詠深と珠姫にも涙が出そうになる
「助けるって言っても具体的には何をしたらいいんですか?」
「2人とも芳乃さんが出すサインは覚えてるよね?」
「「はい」」
「でもベンチから見える景色とマウンドから見る景色は違う時は必ずある。だから芳乃さんのサインに首を振る勇気を持ってほしいんだ」
「首を振る勇気?」
「これまで練習試合を外から見させてもらったけど、芳乃さんのサインに対して首を振る子は誰一人としていなかった。武田さんに関しては山崎さんのサインにもね」
「確かに...」
「信頼するのはいいことだ。でも出されたサインに対して自分でも考えて臨むのと、自分では何も考えないでただ出されたサインのまま臨むのでは全然違ってくる」
「そういえば芳乃ちゃんのサインが間違ってるなんて考えたこともなかったです...」
「俺も別に今までの芳乃さんのサインが間違ってたなんて思ってないよ。ぶっちゃけ俺が思ってたシフトとほとんど合ってて驚いてるんだ」
「大庭さんでもですか?」
「さすがウチの参謀!」
「えへへ」
蓮に褒められた芳乃がまるで自分が褒められたように感じた詠深が隣にいる芳乃に抱き着く
「たださっきも言ったけど本番という緊張とプレッシャー、それにピンチって時に1人で決断するのは結構キツい。山崎さんは普段から試合の流れとか考えてくれてると思うけど、これからは武田さんもいろいろ考えてみてほしい」
「うっ...できるかなー...」
「武田さん。本来ピッチャーってのはキャッチャーと同じくらい野球のことを知っていないとダメなんだぞ?」
「へ...」
「詠深ちゃん。野球っていうスポーツはピッチャーが投げて始まるよね?」
「そりゃ~」
「じゃあ試合が始まって最初の初球と中盤の球、終盤の球って同じかな?ノーアウトの時の球と満塁の時の球は?」
「えっと...全部違います!」
「だよね。1球投げるごとに状況っていうのは変わるんだよ。それを考えないとって大庭さんは言いたいんだと思うよ?」
「うぅぅ...」
詠深は自分が今までどれだけ珠姫に任せっきりだったのか理解してひどく落ち込んだ
「武田さんは例の球を投げるために身体作りをしてたからか高校1年生としての身体はほぼ完成に近い。それに最近は他にも変化球を覚えた。じゃあ本番までに他にできることは何か」
「それが芳乃ちゃんのお手伝い」
「それが間接的に自分のためにもなるから。でも武田さんにはもう1個やってみてほしいことがあるんだよね」
「え?」
「山崎さんもそうだけどさ、茄子と葵のこと三振させたくないか?」
「「えっ!」」
「2人を三振!?」
今まで練習、試合問わず茄子と葵の三振など見たことがなかった3人は蓮の提案に驚愕した
「できるんですか!?」
「絶対とは言えないけどね。武田さんってストレート投げるときどうやって握ってる?」
「え、こうですけど」
詠深はその辺にあったボールを手に取りストレート投げるときの握りを蓮に見せた
「なるほどね」
「大庭さん...」
「多分山崎さんの思ってることはその通りだと思う。逆に今まで気づかなかった?」
「確かに身体しっかりしてるしあの球のキレを持ってるにしては物足りない真っ直ぐだなとは思ってました」
「思ってたの!?」
「じゃあ実際にやってみよっか」
詠深の球に改善点がありそうで実際に違いを体験してもらうべく全員ベンチから出て詠深と珠姫は距離を取りキャッチボールをしながら肩を温めた
「大庭さん!もう大丈夫です!」
「じゃあまずはいつも通りストレート投げてほしい」
「わかりました」
「芳乃さんは球速計ってもらえる?」
「はい!」
珠姫が座り詠深はいつも通りのフォームで何球か真っすぐを投げる
パシッ
「じゃあ次はこうやって握ってみて」
「こうですか?」
「そうそう。この縫い目に指がかかるように意識してみて」
「わかりました」
蓮は詠深に本来のストレートの握り方を教え、詠深はそれ通りに握り珠姫のミットめがけて投げた
パシンッ
「ッ!」
「ちょっと高めに抜けっちゃったけど、感触どうだった?」
「初めてなので違和感はありますけど、いつもより力が入りやすいというか...」
「すごいよ詠深ちゃん!」
詠深が右手の親指、人差し指、中指の3本を擦りながらさっきの球の感触を思い出していると芳乃が大興奮で駆け寄って来た
「どうしたの芳乃ちゃん?」
「これ見てよこれ!」
「え!これ今の球!?」
「うん!」
詠深は芳乃が見せてきたスピードガンに表示された球速にびっくりする
「いつものストレートよりも断然速くなってるよ!」
「うそ...こんな速さで投げたことないよ...」
「球速もそうだけどスピンもだいぶかかってたように見えたよ。山崎さんどうだった?」
「高めに浮いた球でしたけど球威はいつもとは全然違いました。それに捕った後ミットが持っていかれる感じが若干しましたね」
「なるほどね。もう何球か今の球投げてみよっか」
「はい!」
見るからに進化した自分のストレートに興奮が収まらない詠深はまた何球か同じ球を投げた
パシンッ
「まだ少し高めに抜けちゃうか」
「珠ちゃんのミットめがけてるつもりなんですけど」
「ん~。山崎さん」
「はい」
「10歩ぐらい下がったところで構えてもらえる?」
「え?わかりました」
蓮は何かアイディアを思いついたのか珠姫を少し後方に下がらせて構えさせる
「と、遠くないですか...?」
「次は同じ球速が出るぐらいであそこに届くように投げてみてくれる?」
「わかりました...」
詠深は蓮の意図がよくわからなかったがさっきの球を珠姫まで届くように投げた
パシンッ
(あ、届いた)
「お、よくなったね」
「すごい詠深ちゃん!多分詠深ちゃんが思ってるよりも球が伸びてるから高めにいっちゃってたと思うんだー」
「なるほど!さすが芳乃ちゃん!」
「ナイスボール詠深ちゃん!もう何球か投げてみて!」
「うん!」
珠姫としても捕った感触がよかったのか今の球をどんどん投げるよう要求する
パシンッ
「じゃあそろそろいつもの距離でやってみよう」
「「はい!」」
距離を遠くすれば珠姫が構えたところに投げられることがわかったところでいつもの18.44mの位置についた
「じゃあ武田さん、さっきと同じ感じで投げてみよう」
「はい!(少し奥の方に投げる感じかな)」
パシンッ
「ナイスボール!」
「いいよ詠深ちゃん!」
「すごいな。もう投げれちゃうのか」
「詠深ちゃん、ツーシームとカットボールも教えたらすぐできるようになったんです!」
「なるほど、野球センス抜群というわけだね」
「はい!もう何種類か変化球覚えれないか珠姫ちゃんと試行錯誤してます!」
「それはそれは。今のストレートにいつもの遅めのストレート、ツーシームにカットボール、それと決め球のあの球以外にも身に付けられれば全国でも上位の投手になりそうだ」
「私もそう思います!」
蓮と芳乃はまだ1年生でこれだけのポテンシャルを持つ詠深が一体どこまで高みに登るのかワクワクが止まらなかった
パシンッ
「ナイスボール!」
「よっし!だいぶ感覚が取れてきたぞー!」
「それなら早速対人戦で使ってみようか」
「はい!」
「茄子ー!」
「は~い!」
新しいストレートに慣れて来た詠深を見て蓮はバッティング練習をしていた茄子を呼ぶ。すると茄子は目にも留まらぬ速さで駆け寄ってきた
「なになにお兄ちゃん!茄子に何か用事!?お兄ちゃんの頼み事なら茄子何でも聞いちゃうよ!」
「じゃあ武田さんの相手を頼む」
「詠深ちゃんの?何か密談してると思ったらそういうこと?」
「いや、さっきの話は芳乃さんのことだ。ほら、家でも話してたやつ」
「あーあれか」
「今から武田さんにはvs梁幽館に向けての練習をしたいなって話になって。そこでまずは茄子に頼みたいんだよ」
「オッケー!でも大丈夫?打たれすぎて詠深ちゃん泣いちゃわない?」
「うっ...」
「まぁその時はメンタル面の強化練習ってことで」
「否定してくださいよ大庭さん!」
「じゃあ準備してー。芳乃さんは審判をお願いしてもいいかな?」
「わかりました!」
「スルー!?」
「泣かないでよ~?詠深ちゃ~ん」
「泣かないよ!」
「あ、山崎さんちょっと」
「はい?」
蓮は始まる前に茄子に聞こえないように珠姫に助言をしてから芳乃より後ろのネット裏に下がった
「よーっし。詠深ちゃんの心へし折っちゃうもんね~」
「むっ...」
「気にしないで詠深ちゃん。それよりも
(あれ...?)
(あれ、って何?あーそういう?)
珠姫の"あれ"という言葉が引っかかった茄子。詠深もそれが何なのかわからなかったが首を振りながら『気にしなくていいよ』と言っているような珠姫を見て深くは考えなかった
「プレイ!」
(あれ...とりあえず様子見よっかな)
パシッ
「ストライーク!」
茄子は普段なら打ちに行っていたストレートを見逃す
(真っ直ぐはいつも通り。なら変化球?)
カンッ
「ファール!」
同じコースに来たツーシームをカットしファールにした
(ツーシームでもない...カットボールはイマイチみたいなこと言ってたし、あの球の改良かな?あれ以上変化してるとするとどの辺だろ...)
茄子は詠深の決め球が何かしら改良されたと予想し変化量が上がったことを想定して目処をつけた
(いくよ!新ストレート!)
(うん!)
詠深は目線はいつも通り珠姫にやるが手元で握り方を確認。そしていつも通りのフォームで力いっぱいに投げた
(ッ!速っ!でも!)
パシンッ
「えっ...」
「ストラーイク!バッターアウト!」
初めて見せる新しいストレート。茄子はこれに予想とは違い驚くも瞬時に反応し調整した。ただ詠深の新しいストレートはそんな茄子の想定をも凌駕しバットは球の下を通って空振りになった
「やった...やったー!」
「ナイスボール詠深ちゃん!」
「すごい!すごいよ詠深ちゃん!」
詠深はあの茄子から三振を取れたことがよほど嬉しいのかマウンド上で何度も飛び上がり喜んだ
「どうだったよ茄子?」
「お兄ちゃん...やられちゃった...」
「俺も最初ストレートの握りを見たときは驚いた。これまでずっと
「やっぱりそうだったんだ。なんか久しぶりにきれいに空振ったかも」
「空振りはしたが反応はしてた。バットの高さがもう少し高ければヒットしてたよ。さすが茄子だなって改めて痛感した」
「慰めてくれるの?優しいねお兄ちゃん」
「まぁ茄子に不利な条件でやらせちゃったからこれくらいはな」
詠深のために負け役となってくれた茄子の頭を撫でて慰める蓮
「でも、おもしろくなってきただろ?」
「うん。この短期間でこの進化って、詠深ちゃんってヤバいね」
「俺もそう思う。ストレートがあんなに進化するってことは変化球も強化されるはずだ」
「そうだよね。でも次は負けない。今度どんな球を持ってきたとしても初見で打ってみせる」
「その意気だ。じゃあ次は葵だな」
「葵はやめた方がいいんじゃない?」
「普通ならな。でもほれ...」
「うーわ、こっから見てもすっごい顔してる...」
バッティング練習中でこっちに背を向けていたはずなのになぜか葵は蓮と茄子をすごい形相で睨んでいた
「これで呼ばなかったら練習後何やらされるかわかったもんじゃない。武田さん達には悪いけど」
「だね。まぁ茄子には関係ないけど!」
「おまっ!」
急に茄子が蓮に抱き着いたことにより葵の顔はさらに鬼の形相となった
「茄子!」
「へへっ。これでお兄ちゃん成分充電完了!練習戻るねー」
「あ、こら!ったく...武田さん、次は葵呼ぶけどいいか?」
「はい!葵ちゃんにも試してみたいです!」
「わかった。あお,..」
「呼んだ...?お兄ちゃん...?」
詠深から許可を得て葵を呼ぼうとした蓮だったが、本人は既に蓮の目の前に立っていた
「まだ呼んでないぞ...」
「でも呼ぼうとうはしてたんでしょ...?ねぇお兄ちゃん...さっきのは何?説明してくれないかな?」
「ちょっと悪いことしちゃったんだよ。だからそのお詫びというか...」
「ふ~ん。じゃあ葵もそういうので呼ばれたの?」
「要件は同じだがな。ただ武田さん達には悪いが葵には茄子のようにはいかないと正直思ってる」
「え?」
「まぁやってみればわかるさ。vs梁幽館の練習として武田さんの相手をしてほしいんだ」
「なるほどね。普通にやっていいんでしょ?」
「じゃなきゃ武田さんの練習にならないからな」
「わかったよ。でも、後で覚えといてね...?お兄ちゃん?」
「お、おう...」
笑っているが心では笑っていないのが蓮でもわかるくらいのオーラを醸し出す葵。ヘルメットを被りバットを持ってバッターボックスに入った
(すごいプレッシャー...)
(さすが葵ちゃん...でも今は!)
カーッン!
「うげっ!」
茄子と同じように攻めようとした詠深・珠姫バッテリーだったが、最初のストレートを軽くホームランにされる
「どうしたの詠深ちゃん?それじゃ中田さんにも今のとおんなじように持っていかれちゃうよ?」
「うっ...(どうする珠ちゃん!?)」
「(わかってる...)詠深ちゃん!あれやるよ!」
「あれ?」
「う、うん!(これで...!)」
カーッン!
「えー...」
「心理戦なんて無駄だよ?だってきた球を打ち返せばいいんだもん」
今度は意表をついてあの球から入るもさっきと同じようにホームランまで飛ばされた
「まぁ初見チームならこの球で打ち取れるけど、保って5回までとかかな」
(葵ちゃんが言うと説得力あるなー...)
(しょうがない。三振は諦めて一回でも空振りを取る!)
(うん!)
茄子と同じように三振を取る目的を止めただ空振りをさせることにシフトした珠姫。それに応えるように詠深は新ストレートを力いっぱい投げた。しかし...
カーッン!
「えっ!?」
「うそっ!?」
初見にもかかわらずきれいに打ち返されライトポールギリギリのホームランとなった
「なんで...茄子ちゃんでも三振だったのに...」
「ん?だってこれくらい投げられるって最初からわかってたから」
「え...葵ちゃんは未来が見れるの...?」
「違う違う。あんな変化球投げれるのに真っ直ぐがあんなしょぼいなんてありえないって思っててさ」
「しょ、しょぼい...」
「だから葵の中でずっと計算してたんだよね。ありがたいことに芳乃ちゃんが詠深ちゃんのあの球のデータを細かく出してくれてたから想像しやすかったし」
「うへー...じゃあ勝負する前から敗け確定してたってこと...?」
「ふふーん。そう簡単に勝たせてあげないんだからね」
「うぅぅ...精進しますぅ〜...」
「そこまで落ち込まないで大丈夫だよ武田さん」
茄子を三振に打ち取って自信がみなぎっていたところを葵にぽっきり折られてしまった詠深に蓮が声をかける
「大庭さん、どういうことですか?」
「葵、ホントならいつも通りレフトへのホームラン狙ってたろ?」
「ギクッ...!」
マウンドへ戻ってきた蓮の一言に葵は動揺し体を震わせた
「やっぱり。ただ武田さんの球が想像より若干速くて振り遅れたんだろ?」
「え、そうなの!?葵ちゃん!」
「...そうだよ。お兄ちゃんには敵わないなー...」
「葵ちゃんが振り遅れ...やったー!」
「ちょっと詠深ちゃん!結果的にホームランにしたんだから勝ったのは葵だからね!」
「わかってるよ!」
打たれたのに喜ぶ詠深を見て納得のいかない葵のことなど気にせず詠深は茄子を三振に取った時と同じぐらい喜んだ。詠深にとってこれまでジャストミートで打たれたことしかなかった葵を振り遅らせた事実だけで喜ぶには十分な理由だった