球詠 「野球って楽しいよね!」   作:てこの原理こそ最強

16 / 26
16

 

 

新越野球部にとって初めての大会がついにやってきた

 

開会式が行われる会場にやってきたメンバーは選手、観覧者含めその人の多さにいよいよかと胸を高鳴らせていた

 

「見渡す限りの野球選手!」

 

「テレビや漫画で見た光景そのものです!あ!あっちの方私と同じ背番号です!」

 

「あっちの6番でけー!」

 

「もう、はしゃぎすぎよ」

 

「まぁ緊張しすぎるよりいいか」

 

「そういうば詠深ちゃん達トイレ遅くない?」

 

理沙が心配した詠深、息吹、希、茄子の4人はトイレから戻る際迷ってしまっていた

 

「迷った~」

 

「こんだけ人多いとしょうがないかもね」

 

「強そうな学校に片っ端から試合申し込もうや!」

 

「お!噂をすれば柳大川越!」

 

チームメイトを探している中で練習試合以来の柳大の大野と朝倉にばったり出くわした

 

「いた!次はちゃんと打つけんね!」

 

「それはどうかなー」

 

「梁幽館のブロックだって?大変ね」

 

「そうなんですよ~」

 

「今から勝負して!」

 

「大会でならいくらでも」

 

「私達が当たるとしたら準々決勝、ベスト8やね」

 

「アンタ達との再戦を望んでるのはむしろ私達の方よ。次はきっちり抑えてやるんだから」

 

「それはどうですかね~」

 

「私もいるからね。再戦楽しみにしてるのは」

 

「私達もです!」

 

「途中でこけるんじゃないわよ?絶対上がってきなさい」

 

「「はい!」」

 

大野から強いエールをもらい気合が入った詠深達

 

一方葵と一緒にいた蓮は莉子に見つかり捕まっていた

 

「ひっそりとするつもりだったんだがな...」

 

「私の蓮くんレーダーナメないでほしいな。もしかしたらって思ってずっとアンテナ張ってたんだから」

 

「お兄ちゃんが迷惑がってるので早く離してください!」

 

「迷惑なんて思ってるわけないじゃん。蓮くんだって私と会えて相当嬉しがってるよ」

 

「それはあなたの想像です!妄想です!てか早く自分のチームに戻った方がいいんじゃないですか!?」

 

「もう少し蓮くん成分補充したらね~」

 

「ふ、ふふん...先輩はお兄ちゃん成分が枯渇して大変ですね~。葵達なんて毎日補充できるから毎日絶好調ですけど~」

 

「うっ...ま、まぁ毎日会ってマンネリ化するよりも適度に日にちを置いてその日その日が大切な時間になる方が私はいいと思うけどね~。毎日だとそれこそウザがられそうだし~」

 

「心優しいお兄ちゃんはそんなこと思ったりしません~。先輩こそせっかくお兄ちゃんが気を遣ってくれてるのにガツガツ来るのはどうなんですかね~」

 

「ざんね~ん。蓮くんだってホントはすごく会いたいって言ってくれました~」

 

蓮の腕を両側から引っ張りあってケンカする2人。当の蓮は引っ張られて痛くはないものの、目立つので止めてほしいと思っていた

 

「2人とも。もう開会式が始まる。そろそろ自分のチームに戻りな」

 

「この人が離れたら葵も戻る!」

 

「葵ちゃんが離したら私も戻る!」

 

「いい加減にしろ。心配してくれてる人に迷惑かけてるのがわからないわけじゃないだろ」

 

「「はい...」」

 

「俺は観覧席に行くけどケンカしないでちゃんと戻ること。さもないと会うのも連絡するのも禁止にするからな」

 

「「はい!すぐ戻ります!」」

 

蓮から注意を受けて自分のチームの元に駆けていく2人。蓮はそんな2人にため息をつきながら観覧席に上がりみんなの晴れ姿を見届けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開会式から1週間後、新越の初戦が行われる日。初戦で緊張する者もいると思いメンバーは早めに会場入りしていた

 

「体動かすのはいいけど疲れすぎないように気をつけて。あとストレッチは入念にしよう」

 

『はい!』

 

これから試合に臨むメンバーは案の定大なり小なり緊張していた

 

「大村さん、少しバット振ろっか」

 

「は、はい!」

 

蓮は周りを見渡し特に緊張で体がガチガチになっている白菊に声をかけた

 

「大村さんは剣道で全国大会を経験したことがあるんだよね?」

 

「は、はい」

 

「その時も緊張した?」

 

「そうですね。緊張してたと思うのですが、試合になればいつも通り動けてたと思います」

 

「そっか。多分今回は高校で始めた野球の初めての試合で剣道の時とは緊張の度合いが違うみたいだね」

 

「はい...久しく体験していなかった緊張感が...」

 

「大村さん。一旦バットを置いて目を瞑って深呼吸しよう」

 

「え、あ、はい!」

 

白菊は蓮の言う通りバットを置き目を瞑って大きく深呼吸した

 

「もう一回。吸ってー、吐いてー」

 

「スーッ、ハァー」

 

「じゃあそのままこれまでの練習を思い出そう」

 

「...」

 

「初めて練習に加わった日。初めてバットに球が当たった感触。GWの合宿。初めての練習試合」

 

「...」

 

「初ヒットを打った時。ホームに帰ってきた時。そして、それを笑顔で待っててくれたチームメイトのことを思い出そう」

 

「...」

 

白菊は特に可愛がってくれている先輩の怜や理沙、そして同級生の詠深や珠姫達の喜びに満ちた顔を思い浮かべると白菊自身も笑顔が出て緊張がほぐれてきた

 

「大丈夫そうだね。じゃあ今の状態で素振りをしようか」

 

「はい!」

 

白菊はさっきまでの強張ったスイングとは段違い、練習の時と同じような初心者とはまるで思えない力強いスイングが戻った

 

「大庭さんはすごいね。メンタルケアも完璧」

 

「そりゃ茄子達のお兄ちゃんだもん。息吹ちゃんは大丈夫そう?」

 

「私?私は意外と大丈夫かな」

 

「へーやるじゃん息吹ちゃん」

 

「私もびっくりするぐらい落ち着いてるのよね。練習試合の時とは大違い」

 

「まぁ今はそうでもグラウンドに立ったらどうかわかんないよ〜?」

 

「わ、わかってるわよ!いつもより入念に準備する!」

 

「こら茄子。チームメイト煽るんじゃない」

 

「痛たたたた!お兄ちゃん痛い!」

 

息吹を逆に不安にさせるようなことを言う莉子のこめかみを軽くぐりぐりする

 

「ごめんね息吹さん」

 

「あ、私は大丈夫です。というか茄子が...」

 

「茄子は大丈夫だよ息吹ちゃん...私を置いて、先に行って...」

 

「そんな勇者の仲間みたいな...でもアンタ、すっごい顔してるわよ...」

 

「ふぇっ?」

 

嫌なことをされているはずなのに茄子の顔はゆっるゆるに緩んでいた

 

「ぐへっ、ぐへへへ...」

 

「まったくお前ってやつは...」

 

「あ〜ん。まだお仕置きして〜」

 

「お仕置きを催促するとか...」

 

「変なやつでごめんね」

 

「ね〜ね〜、お兄ちゃ〜ん」

 

「ええーい!うるさい!お前もさっさと準備しろ!」

 

「あは〜ん」

 

もう手は離したのに抱きついてくる茄子を蓮は投げ飛ばした

 

「みなさん、一旦集合お願いします」

 

『はい!』

 

藤井先生が集合をかけると全員すぐに集まった

 

「少し早いですがみなさんにお伝えします。今日はついに大会の初戦です。緊張されてる方が大半だと思います。そんな時こそ重要なのは声かけです」

 

「声かけ?」

 

「はい。1アウトごと。できれば1球投げるごとに声を掛け合いましょう。特に今日が高校野球公式戦初試合の息吹さんや大村さん、そして先発投手の藤原さん。この3人には周りからの声がけを徹底してください」

 

『はい!』

 

「そして3人は失敗を恐れず積極的にプレーしてください。萎縮せずいつもの練習通りを意識しましょう」

 

「「「はい!」」」

 

「気合十分なようですね」

 

「みんな気合入ってるね!でもほどよくリラックスだよー」

 

「わかってるよ芳乃ちゃん」

 

「詠深ちゃん大丈夫そうに見えて意外と緊張してるもんねー。普通自分がマウンドに立つ時の方が緊張すると思うんだけど」

 

「ち、違うよー!これは...そう!武者震いだよ!」

 

「はいはい、ストレッチ再開するよ。ただでさえ怪我できないんだから」

 

「あ〜ん、珠ちゃん待ってよ〜」

 

藤井先生からありがたい言葉をもらい詠深と珠姫はストレッチを再開した

 

「なんだよー、緊張してたのかよ詠深ー」

 

「あなたも人のこと言えないでしょ。水分取りすぎ」

 

「はぁ!?そんなことないし!」

 

「いいから。私達ももう少し体動かすわよ」

 

稜と菫も少なからず緊張しており詠深達とは違いバットを持って少し体を動かした

 

「葵達どうしよっか」

 

「今日出番ないって言われてるしね」

 

「2人は念のために自分達も体動かしつつ他の子のサポート」

 

「「はーい」」

 

今日は滅多なことがない限り出場する予定がない茄子と葵も一応は体を動かし蓮の指示で他の子の手伝いを中心に行った

 

そして時間となりグラウンド内での練習ができるようになった

 

「おっしゃこーい!」

 

カンッ

 

パシッ

 

「次外野!」

 

カーン

 

パシッ

 

内野外野共に足は動いている。表情もそこまで強張ってはいない。観覧席から見た蓮の感想はそんな感じだった

 

 

 

 

 

 

 

そしてついに試合が始まろうとしていた

 

(まさか初戦の先発を私が任されるなんてね。でもこんな経験2度とできないだろうし。だったら少しでも味わわないとね!)

 

「プレイ!」

 

主審の合図で試合開始の幕が切って落とされた

 

(試合なのにダルそうな顔。事前の情報では早打ちをしてくるチームらしいし慎重に行きたい。理沙先輩、さっきの投球練習では大庭さんや先生のおかげなのかいい球きてた。ただ打席に人が立ってないのと立ってるのじゃ全然違うだろうし、コースは適当でいいのでストライクゾーンに)

 

珠姫のサインに首を縦に振った理沙は記念すべき初級を投げた

 

カーン

 

(よしっ!打ち取った!)

 

「ライト任せたわよ!」

 

「はい!」

 

相手1番バッターが打った球はライトの白菊の元へ上がった

 

(落ち着いて。しっかりと落下位置についてボールをよく見る)

 

パシッ

 

「アウト!」

 

「ナイス白菊ー!」

 

「白菊ちゃんナイスキャッチ!公式戦初アウトやね!」

 

「はい!」

 

緊張はした。でも体が練習通りに動いた。白菊にはそんな感覚であり、見事にアウトにした白菊に対し菫と希が祝福の声をかけた

 

(よし、白菊ちゃんも問題なさそうだな。試合前に大庭さんと何か話してたみたいだし、そのおかげかな)

 

ごく簡単なフライでも少しだけ心配していた珠姫。ただそれをきちんとアウトにできた白菊に安堵の気持ちを抱きながら再び位置についた

 

(打たれはしたけどちゃんと枠内には来てた。早めにカーブも投げておきましょう)

 

次はカーブのサインを出すと理沙は頷き一間置いてから投げた

 

カンッ

 

「セカン!」

 

「任せて!」

 

パシッ

 

「アウト!」

 

「ツーアウト!」

 

「ナイボ理沙先輩!」

 

「打ち取れてますよ!」

 

「うん!」

 

(もうツーアウト。それに変化球も問題なく腕が振れてる。本番に強いタイプなのかな理沙先輩。あとはコースに決まってくればこの後も十分に通用する!)

 

たった2球でツーアウトに追い込めたことと急遽投手をお願いしていきなり本番先発を担わされた理沙の十分なピッチングに驚く珠姫

 

(ちょっと怖いかもしれないけど今のうちに内角を投げさせておきたい。真ん中寄りになってもいいので強気で来てください!)

 

(わかったわ!)

 

投手未経験者にとってバッターに当ててしまうかもしれないという恐怖が伴う内角攻め。珠姫は今後にも絶対必要なことである内角に構え理沙はその想いを感じ取り力強く頷いた

 

「ふぅ...」

 

そして一息ついてバッターの胸元向けて球を投げた

 

「ッ!」

 

パシッ

 

「ボール」

 

狙ってた場所より若干バッター寄りに行ってしまい理沙は少し焦った

 

「大丈夫ですよ理沙先輩!」

 

「詠深ちゃん」

 

「いい球行ってます!自信持っていきましょう!」

 

「ふふっ、ありがと」

 

理沙が少し不安な感情を抱いたのを知ってか知らずか詠深から心暖まる声かけ。理沙はすぐ平常な心情に戻った

 

(ボールにはなったけど悪い球じゃ全然なかった。もう一球いきましょう!)

 

珠姫からの強気なリードに理沙は頷き内角に構えられた珠姫のミットめがけて直球を放った

 

カンッ

 

「サード!」

 

「はい!」

 

パシッ

 

「アウト!」

 

「よし!」

 

「ナイスボールです理沙先輩!」

 

今度はストライクゾーンに入った球をバッターが詰まらせ、詠深が捕球し一塁に送ってスリーアウトになった

 

「ナイピッチ理沙先輩!」

 

「最高の初マウンドでしたね」

 

「ありがとうございます!」

 

「やったな理沙!」

 

「うん!」

 

芳乃と藤井先生に迎えられ、戻ってきた怜とハイタッチを交わす理沙。その顔からは既に緊張なんてものはきれいさっぱりとなくなっていた

 

「さぁみんな!0点に抑えてくれた理沙先輩のためにも先制点取ろう!」

 

『おー!』

 

「とは言いつつ最初の打席できるだけ見てくれないかな希ちゃん」

 

「任せて!」

 

芳乃や蓮が事前にデータを集めてくれたとはいえまだまだデータ不足。芳乃は相手の球種など見ていくよう希に託した

 

「お願いします!」

 

「プレイ!」

 

(大庭さんが言うには試合時間が短いことにピッチャーも関係しとる言うとったし、どういう...って!)

 

パシッ

 

「ストライク!」

 

(なるほど、こういうことかいな)

 

カンッ

 

「ファール」

 

(クイック。しかも一球ごとに投げるタイミングが違う)

 

カンッ

 

「ファール」

 

(事前に対策してなかったらもっと慌ててたかもしれんね)

 

カンッ

 

「ファール」

 

影森高校のこれまでの対戦。練習試合、公式戦合わせても試合時間の短さに注目した蓮はその要因のあらゆる可能性を考えていた。その一つが現在相手投手が行っているクイック。球速は速くないものの一球一球の間が違うため希はタイミングが合わないでいた

 

(急速はそこまで速くないし球種も多くないけど、投げるタイミングでズラされる...)

 

カンッ

 

パシッ

 

「アウト!」

 

なんとかカットで誤魔化していたがなかなかタイミングが合わなかった希。今度もカットしようとしたのだがタイミングがずれて打ち損じとなってしまった

 

「ごめん芳乃ちゃん」

 

「大丈夫だよ!次は打てるから!」

 

「ドンマイ希ちゃん」

 

「今までにいないタイプのピッチャーだね。でも希ちゃんなら大丈夫だよ」

 

「そうそう。次はバット短く持ってコンパクトに振ってみるといいよ」

 

「そっか。やってみる!」

 

「希さん!」

 

「ん?」

 

「相手投手の急速ですが、マシンの最高速度が100%としてどのくらいでしょう?」

 

「え?んー、80%くらいやないかな」

 

「80%ですか...わかりました!」

 

「んー?」

 

久しぶりに自分のバッティングができないままベンチに戻ってきた希は茄子からアドバイスを受けると白菊からよくわからない質問をされそれに対して疑問が残った

 

その後2番菫、3番珠姫も空振りはしなかったもののボテボテのゴロに終わり先制点を上げることはできなかった

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。