球詠 「野球って楽しいよね!」   作:てこの原理こそ最強

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蓮が新越谷高校のコーチになった経緯は少し前に遡る

 

「ねぇねぇお兄ちゃん」

 

「んー?どした茄子」

 

「私達野球部入ろってなったんだけど、お兄ちゃんコーチやってよ」

 

「は?」

 

自室で大学のレポートを作成している蓮の後ろのベッドで横になってそれぞれ漫画を読んでいた茄子と葵がいきなり言ってきたことがことの発端だった

 

「2人とも高校の部活に興味ないって言ってたじゃんか。どういう風の吹き回しだよ」

 

「なんかこの前遠目で見てたらさ、おもしろい球投げるピッチャー見つけてさ」

 

「ちょっと興味出た」

 

「へー。2人が目をつけるなんてどんな子なんだろ」

 

「「はっ!」」

 

兄が自分達以外の女に興味を持つ。そのことが双子の危険センサーを鳴らした

 

「ダメだよお兄ちゃん!」

 

「何が?ってくっつくな2人とも!」

 

「お兄ちゃんは葵達だけ見てればいいの!」

 

「何の話だ!ええい離れろ!愚妹どもが!」

 

「「きゃんっ!」」

 

「はぁはぁ...」

 

首にまとわりつく茄子と腰にまとわりつく葵を引き剥がしベッドに放り投げる蓮。その重労働に肩で息をしていた

 

「コーチつっても平日は大学があるし、休日は家の手伝いで実質無理だろ」

 

「「そこは大丈夫」」

 

「どういうことだ?」

 

「お父さんとお母さんに話したら時間があるときに手伝ってくれればいいって」

 

「お兄ちゃんみたいに葵達が全国で活躍するところを見たいって」

 

「あんの親バカは...ホント葵と茄子に甘いんだから...」

 

「子供想いのいい両親だよね~」

 

「自慢の親だよね~」

 

「それには同意だが...う~ん...」

 

「茄子」

 

「そうだね葵」

 

ここまで言って首を縦に振らない兄に2人は最終奥義を出すことにした

 

「「お兄ちゃん」」

 

「あ?」

 

「「お願い...」」

 

「うっ...!わ、わかった...」

 

「ホント!?やったね!」

 

「さすが葵達のお兄ちゃん!」

 

茄子と葵の最終奥義【お目目うるうる上目遣い】。威力はこれでお願いされて蓮が断れたことは今までで一度もなかったほど...

 

 

 

 

 

 

 

 

蓮からの許可をもらった茄子と葵は入部届と一緒に蓮のコーチの件を顧問となった藤井先生に伝えた。最初は外部から、しかも男性という話を聞き渋った藤井先生も蓮の名前を聞くとたちまち態度は一変。すぐさま校長に申請し、一度は却下されたが蓮の活躍などを種に半ば強引に承諾まで持っていった

 

「個人的に聞きたいことなどは練習外で聞くように。くれぐれも大庭さんに迷惑をかけないようにしましょうね。いいですか?」

 

『はい!』

 

「よろしい。では次に茄子さんと葵さん、軽く自己紹介していただけますか?」

 

「大庭 茄子。ポジションはどこでもできる」

 

「大野 葵。同じくどこでも」

 

『...』

 

「「...」」

 

「お、終わりですか?」

 

「はい」

 

「特に伝えることないですし」

 

「えっと...」

 

「「きゃふん!」」

 

「それのどこが自己紹介だよまったく。すみませんみなさん。ウチの愚妹どもが失礼を」

 

あまりに簡単すぎて呆れた蓮は2人の頭を軽く叩いて謝罪した

 

「代わりに俺から紹介させてもらいますね。まずはこっちの右側の髪を結んでいるのが双子の姉で茄子。ポジションは本人が言った通りどこでも大丈夫。ただ肩が弱いから外野からの送球は期待しないでくれ」

 

「余計なこと言わないでよお兄ちゃん」

 

「弱点はちゃんと共有しとくべきだろ。ただそんな弱点をもみ消すほどの安打製造者だ。シングル、ツーベースはお手のもの。相手のポジション取りによってはスリーベースも狙って打てる」

 

「え!?」

 

「それホントですか!?」

 

「あぁ。嘘だと思うなら今度試合で見てみるといい。しかもスイッチヒッターで瞬足だ。左打ちの時限定ではあるがセーフティを余裕でセーフにできるぐらいの足は持ってる。これも後でタイム測ってみるといい」

 

「甲子園の韋駄天の妹さんだし、どれぐらい速いのか単純に見てみたいわ」

 

「別に俺の妹とか関係ないけどな。あと動体視力がずば抜けていいから球種を見るのも得意だ。試合によっては最初は出さず油断させて、代走で出して一気に掻き乱すってのもありだと思う」

 

「なるほど」

 

「へへーん」

 

兄から褒められて腰に手を当てて胸を張り嬉しがっている

 

「次に髪の左側を結んでる妹の葵。一言で言えばスラッガー気質かな。直球でも変化球でもバンバンホームランが狙える」

 

「こっちもすごいな...」

 

「ただ葵の1番の強みは記憶力と分析力だ」

 

「記憶と分析?」

 

「梨子は一度見た球種は全部覚える。それはただ持ち球の種類だけじゃなく球速や球が落ちる角度、得意コース不得意コースなんかも全部だ。しかもさらにそこから分析もしてくる。例えば今日の気温が何度で投手の体力的に球速が落ちてくるのは何回ぐらいだとかな」

 

「はぁ!?そんな無敵じゃん!」

 

「まぁ選手はみんなその日その日で進化してくるし。100%当たるってわけじゃない」

 

「だとしても...」

 

「えっと。じゃあ葵さんが打席に立ち続ければ完封も夢じゃないってことでしょうか?」

 

「理論値はな。でもそれができないのが葵の弱点でな。葵は集中力が続かないんだ」

 

「そんだけ記憶力と分析力があるのにですか?」

 

「まぁその代償と言ってもいいかもね。だからもし葵を活用するなら代打戦法を推させてもらう」

 

「代打、ですか?」

 

「そうだよ。たかが代打と思われるかもしれないけど逆に考えてほしい。勝負どころで出てくるのが必ずと言っていいほどホームランか長打を打ってくる選手となると相手は回を追うごとに焦るし試合前からでもプレッシャーを与えることができる。葵が出てくる前に得点しとかないとってね」

 

「なるほど。心理戦でも優位に立てるってことですね」

 

「そういうこと」

 

「ふふーん」

 

葵は腕を組みその豊満な胸を持ち上げ茄子と同じように嬉しがっている

 

「さっきから思ってたけど君は野球IQが高そうだね」

 

「ウチの参謀なんです!」

 

「新越谷の参謀か。そのうち俺よりもいい異名になるかもね」

 

「そんな!私なんて!」

 

「ふっ。葵も茄子も身内の俺から見ても相当な戦力で俺も微力ながらみんなの力になれるように頑張ります。改めて、よろしくお願いします」

 

茄子と葵の紹介も終え蓮が改めてみんなに挨拶をすると詠深達は一度周りと顔を合わせ再び蓮に向き合った

 

『よろしくお願いします!』

 

「では私は職員室に戻ります。大庭さん、あとのことお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「わかりました。もしかしたら途中で抜ける可能性もありますが」

 

「そこは大丈夫です。彼女達は彼女達だけでも練習できる素質はありますので」

 

「それはよかった」

 

「では」

 

まだ仕事が残っているのか藤井先生は校舎に戻った

 

「じゃあ早速...」

 

「ふふん、葵の方がたくさんお兄ちゃんに褒めてもらっちゃった」

 

「んぐっ!よ、よかったじゃん?まぁ?お兄ちゃんが現役の時のスタイルとほとんど一緒な茄子の方がよっぽどいいと思うけどね」

 

「くっ!ま、まぁ茄子はそのスタイルでいいんじゃない?文字通り風の抵抗受けにくいスタイルだもんね」

 

「こんっ!別に葵の体型が羨ましいとか思わないけど?逆に大変だよねー。筋肉もついてよりふくよかに見えちゃって。お兄ちゃんに重いって言われちゃってるしねー」

 

「はぁ!?それは葵だけじゃなくて茄子も一緒でしょ!茄子なんて頭の中まですっからかんで軽いくせに!」

 

「誰の頭がすっからかんよ!体重も話の内容も重い葵に言われたくないんですけど!」

 

「はぁ。落ち着け2人とも」

 

「「だってお兄ちゃん!」」

 

「いいから落ち着け。みんなが面食らってるから」

 

突如として始まった茄子と葵による姉妹喧嘩。その勢いに圧倒され言葉が出せなかった

 

「すまないみんな。とりあえず練習を見させてもらうよ。部室の鍵を借りてもいいかな」

 

「あ、はい」

 

「ありがと。2人は部室で着替えてきな」

 

「「...」」

 

「それと、戻ってくるまでにちゃんと仲直りしておくように。もししてなかったら1ヶ月俺の部屋出入り禁止な」

 

「べべべべべ別に茄子達喧嘩なんてしてないよー。ねー葵」

 

「そそそそそうだよ。喧嘩なんてしてないよー」

 

「まったく。早く着替えてこい」

 

「「はい!お兄様!」」

 

蓮の部屋から出禁勧告を受けた茄子も葵も壊れたロボットのようにカタコトになったかと思いきやすぐさま部室まで走って行った

 

「すごかったね...もしかして息吹ちゃん達もあんな喧嘩したりするの...?」

 

「私達はそんなに...同じ双子でもこんだけ違うんだって驚いたところよこっちも...」

 

「あー!」

 

「うわっ!びっくりした。ちょっと詠深ちゃん、驚かせないでよ」

 

「思い出した!この前走ってたお兄さん達だよ!」

 

「この前」

 

「あー、言われてみれば」

 

「この前?」

 

「先日公園で話してたところを大庭さん達が走り抜けてった時がありまして」

 

「あ、あの時話してた子達だったのか」

 

詠深は以前公園で詠深達の横を走り去って行ったのが蓮達だと思い出した

 

「プロのランナーさんじゃなかったんだ」

 

「そんなそんな。プロの人達はもっと早いよ。さ、練習に戻ろう。えっと川口さん?」

 

「「はい?」」

 

「あ、そっか。えっと、芳乃さん、でいいかな?」

 

「はい!」

 

「意外と初めて見たかも。苗字呼ばれて2人が同時に返事するの」

 

「みんな最初から名前呼びだったもんね」

 

双子の妹がいるにも関わらず芳乃を呼ぼうとして苗字で呼んだところ息吹まで一緒に返事されて少し焦った蓮

 

「呼び止めてごめんね。可能ならみんなのデータとかあれば欲しいんだけど」

 

「それでしたら用意して今度お見せします!」

 

「ありがとう。俺も茄子と葵の詳細をまとめて芳乃ちゃんと顧問の藤井先生に渡すね」

 

「いいんですか!?茄子ちゃんも葵ちゃんも聞いてるだけで高校生とは考えられないスペックなので気になってたんです!」

 

「そう言ってもらえると兄として嬉しいよ。今日は練習を見させてもらって来週から本格的に参加させてもらうよ」

 

「わかりました!」

 

「あ、あの!」

 

蓮が芳乃と話していると希がやってきた

 

「えっと中村さん、だったかな?どうかした?」

 

「...」

 

「希ちゃんどうしたの?」

 

蓮の前でもじもじするだけで何も言わない希は芳乃を近くに手招きし耳打ちする

 

「アドバイスお願いしたいっちゃけど、緊張してうまくしゃべれんと...」

 

「あーなるほど。希ちゃん、大野さんにアドバイスが欲しいらしいです」

 

「アドバイス?いきなり俺でいいの?」

 

「...」

 

希は恥ずかしいのか俯きながら静かに頷いた

 

「わかった。じゃあ先に中村さんのバッティングとか守備とか見せてもらうね」

 

「っ!」

 

「あ、希ちゃーん!」

 

希は何度も頭を下げて練習に戻っていった。そんな希を芳乃も追いかける

 

「おにーちゃーん...」

 

「もう女の子たぶらかすなんて...」

 

「そんなことしてないだろ。2人もストレッチして練習に混ざりな」

 

「「むぅ...」」

 

「高校で野球をやるって決めたんだ。2人には特に厳しく行くからな」

 

「えー。茄子優しくされたーい」

 

「葵もー」

 

「俺が厳しくするのは期待してるってことなんだが?」

 

「「すぐアップしてくる!」」

 

「やれやれ」

 

都合がいい妹達に呆れながら蓮はグラウンドから出て外から詠深達の練習を見て回った

 

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