球詠 「野球って楽しいよね!」   作:てこの原理こそ最強

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来たる日曜日。新越谷高校新生野球部が行う最初の練習試合。藤井先生含めメンバー全員がワクワクとドキドキを胸にユニフォームに着替え、試合開始を今か今かと待ち望んでいた

 

「じゃあ打順を発表するよー」

 

「待ってました!」

 

みんなの練習を見つつ芳乃、藤井先生、蓮の3人で決めた打順。ちなみに今日蓮は観覧席でみんなの雄志を見守っている

 

「1番ライト茄子ちゃん!」

 

「あい」

 

「2番セカンド菫ちゃん!」

 

「わかったわ」

 

「3番キャッチャー珠姫ちゃん!」

 

「はい」

 

「4番センターキャプテン!」

 

「任された」

 

「5番ファースト希ちゃん!」

 

「早く試合したい!」

 

「6番サード理沙先輩!」

 

「はい」

 

「7番ショート稜ちゃん!」

 

「おっしゃー!」

 

「8番ピッチャー詠深ちゃん!」

 

「ちぇー、8番かー」

 

「9番レフト息吹ちゃん!」

 

「まぁ妥当よね...」

 

「白菊ちゃんと葵ちゃんも代打で出てもらう予定だから気持ちは作っておいてね!」

 

「はい!」

 

「りょーかい」

 

順番に名前が呼ばれ代打にも初心者ながら長打を狙える白菊と、練習で何度もネット越えを連発していた葵が備えている。芳乃の頭の中は早くみんなの活躍が見たい!そんな考えでいっぱいだった

 

「てか最初息吹ちゃんと白菊ちゃんに経験積ませたいから茄子達代走と代打で出る予定じゃなかった?」

 

「確かにその案もあったよ~。でも初戦だし可能なら勝ちたいなって思って全力オーダーにしたんだ~」

 

「なるほど。ガチで勝ちに行くんだね、芳乃ちゃん」

 

「もちろん!」

 

「よーっし!じゃあ最後にキャプテン!一言お願いします!」

 

「あ、あぁ」

 

メンバー全員ベンチ前に集まり身を低くしてキャプテンの言葉を待った

 

「新越!絶対勝つぞー!」

 

『おー!』

 

怜の号令により最後の気合入れを済ませ茄子がバッターボックスに入った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(朝倉めー...なんで来ないのよアイツは!そのせいで真のエースであるこの私があんな子達相手に出る羽目になっちゃったじゃない!)

 

柳川大付属の3年生ピッチャーの大野 彩優美は後輩である朝倉が遅れていて急遽自分が登板することになったことに大きな憤りを感じていた

 

「お願いします」

 

(まぁいいわ。よかったわねアナタ達。真のエースに投げてもらえるのをありがたく思いなさい。くらうがいいわ!埼玉1の角度を誇る超絶クロスファイア!)

 

キーッン!

 

(なっ!)

 

「ナイバッチー!」

 

「長打コース!」

 

(3つ余裕~)

 

(速っ!?)

 

左腕の大野に対し右打席に入った茄子。そんな右打者の内角を攻めたストレートを茄子は引っ張りライト側フェアゾーンギリギリに落ちファールゾーンに転がるような打球を返し悠々とスリーベースを記録した

 

「いい打ち返しでした。さすがですね」

 

「はい!茄子ちゃんのバットコントロールはホントにすごいです!」

 

「ふふっ。さて、先制点のチャンスですね。内野はほぼ定位置。1点くれる感じですね」

 

「はい!茄子ちゃんならスクイズもありですけど施された1点と自分達で取る1点では全然違います!(強攻でお願い!打っちゃえ菫ちゃん!)」

 

「(スクイズじゃないのね、了解!)よろしくお願いします!」

 

2番の菫がバッターボックスに入る。三塁に茄子でスクイズ警戒がないのであればスクイズで1点は取れる。しかし芳乃が選択したのは施しなんていらない1点の獲得を選びヒッティングのサインを出した

 

パシッ

 

「ストライク!」

 

(なによ速いじゃない。茄子はよく初球から打てたわね..,)

 

1球目のストレートは見逃し、いや手が出なかったと言った方がいいかもしれない。茄子が初球から打ったのがすごいのであって大野の球は初見で打てるほど簡単なものでは決してなかった

 

カーン

 

「やばっ!(打ち上げちゃったー!)」

 

(十分十分)

 

菫が打ち上げた打球はライト方向へ。普通なら少し浅めかと思うのだが茄子の足をすればまったく問題ない飛距離だった

 

「やった!1点先制!」

 

「茄子ちゃんナイス!」

 

「うぇーい」

 

「菫ちゃんもナイス最低限!」

 

「とほほ...」

 

最高の形ではないにしても強豪校相手に先制できたことは大きかった

 

(こんな子達に先制されるなんて...!しかもたった3球で...!)

 

ボフッ!

 

「痛っ!」

 

「ッ!」

 

「珠ちゃん!」

 

「大丈夫!」

 

大野は今まで聞いたこともない学校の相手に打たれた挙句点を取られたことが相当悔しかったのか投球が乱れ3番の珠姫にデッドボールしてしまった

 

(こんのっ!)

 

カーン!

 

デッドボールまで出してしまって大野は動揺しているのか苛立っているのか続く4番怜への初球も甘く入り三遊間を割りヒットを出され1アウト一、二塁とピンチを広げてしまった

 

「行けー!希ちゃーん!」

 

「続けー!」

 

ここへ来てチーム内で茄子と張るほどのバッティングセンスを持つ5番の希。追加点のチャンスと全員が期待した

 

カンッ

 

パシッ

 

「あー、惜しい!」

 

「でもランナーは進んだ!」

 

初球を狙った希の打球は悔しくもファーストゴロ。全体的にライト側に寄っていたためアウトになってしまったがその打球が思いのほか遅かったため珠姫と怜はそれぞれ塁を進めることができた

 

「2アウトだけどランナー二、三塁!チャンスはまだ続いてるよ!」

 

「お願いします!」

 

バッターボックスには6番の理沙。大野はこれに対し初球を内角高めへと投げる

 

「ストライーク!」

 

理沙もこれまでと同じように初球を狙ったがタイミング合わず空振り

 

「ストライクツー!」

 

この試合で初めて空振りを取ったからなのか大野の制球が安定。今度は外角低めへの際どいコースに変化球を投げこれで0-2となる

 

(私だって!)

 

大野が投げた3球目は釣り玉の高めストレート。理沙はこれに手が出てしまいバットを振りなんとかあてるも球は打ち上がる。しかし2年生としての執念からかその球はサードの頭上を越えフェアゾーンにポトリと落ち怜がホームベースを踏んだ

 

「おー!ラッキー!」

 

「ナイス理沙先輩!」

 

「おい!いつまでこんなへなちょこな球投げてるつもりだ!いい加減切り替えろ!」

 

「わ、わかってるってば!」

 

さすがに痺れを切らした柳川大付属の捕手浅井が大野に檄を飛ばした。それが効いたのか続く稜はきっちり3球三振に抑えた

 

「マジか!急にキレ増したぞ!」

 

「完全に立ち直られちゃったね。でも初回で2点は十分すぎるよ!さ、守備でも頑張ろー!」

 

自分もみんなと同じように打とうと意気込んだのだがさっきまで見てた球とは別物で不満を垂らしながら戻ってきた稜に芳乃が声をかける。そして攻守交替し今度は守備。こっちでも練習の成果を出しておきたい

 

「しまっていこー!」

 

『おー!』

 

扇の中心でありこのチームの頭脳、珠姫からの気合の入った号令に全員が呼応する

 

「プレイ!」

 

(始まるんだ!私達の新しい野球が!)

 

気持ちの入ったストレートが珠姫の構えたミット一直線に投げ込まれた

 

パシッ

 

(よしっ!)

 

「ストラーイク!」

 

そして2球目もストレート。次は外角高め

 

カンッ

 

「ファール!」

 

(いい真っ直ぐきてるけどさすがにカットしてくるよね。でもこれで追い込んだ。練習試合だし出し惜しみはなし。あの球でいこう!)

 

(うん!)

 

元々持っている変化球が他にない詠深がストレートだけで強豪校を抑えるのは無理だとわかっていた珠姫や芳乃。せっかく本番で投げられる機会なのだから序盤からガンガン使っていく気持ちはできており、3球目に詠深の決め球を選んだ

 

(すっぽ抜け...?)

 

パシッ

 

「ストライク!バッターアウト!」

 

「よしっ!」

 

「ナイスボール!」

 

詠深の初マウンドは3球三振で幕を開いた

 

「カーブ?えらく曲がったわね...」

 

「ヤバいっす...すっぽ抜けかと思ったらど真ん中でした...」

 

珠姫の狙い通り打席を終えた1番の選手と次の2番の選手があの球に困惑していた

 

「プレイ!」

 

(なら無理して打つことないな。あの球が来る前の直球を、叩く!)

 

さすがは強豪校。すぐさまあの球を捨て狙いストレートに絞った。そしてすぐの初球の球を三遊間へ打たれる

 

(ッ!捕っても間に合わっ!)

 

パシッ!

 

稜にとっては逆シングルの打球。捕れはするがその後の体勢が悪くなり一塁送球は難しいかと思われたが、なんとこれを理沙がジャンピングキャッチ

 

「アウト!」

 

そしてすぐさま立ち上がりファーストへ送球しアウトを取った

 

「ナイス理沙先輩!」

 

「気合十分じゃないっすか!」

 

「まぁね。(私達にとっても初めての試合だもの)」

 

アウトを取った理沙はツーアウトのハンドサインをセンターにいる怜に送る。それを見た怜も笑顔で同じサインを出し返した

 

そして3番への初球

 

カーン

 

ここもストレートから入ったのだが内角より少し外目に入ってしまいレフト方向へ打ち上げられる

 

「くっ!」

 

「オーライ!」

 

「任せた!」

 

(落ち着いて。グラブを出すのは捕る直前!)

 

怜が駆け出すも息吹が声を出しながら捕球位置へ。焦らず練習通りにそのフライをグローブに収めた

 

「やった!」

 

「ナイス!初フライだな!」

 

「はい!」

 

(息吹ちゃん!)

 

初めての試合で初めてのフライをキャッチできた息吹。その事実にずっと練習を見てきた怜もベンチにいる芳乃も感激した

 

「2人ともありがとー!大好き!」

 

「もう」

 

「大袈裟よ」

 

「詠深ちゃん次打順」

 

「あ、そっか」

 

2つのアウトを取ってくれた理沙と伊吹に抱き着いて感謝を伝える詠深だったが次が詠深からの打順だったため珠姫に急かされた

 

「よーし!私も打っちゃうぞ!」

 

意気込んだはいいものの完全に立て直した大野には通じず、詠深、息吹と2者連続三振となってしまった

 

「...」

 

(茄子)

 

「(わかってるって)お願いします」

 

「プレイ!」

 

バッターボックスに入る前にベンチにいる葵と視線を交わした茄子。何かを狙うような目で大野を凝視する

 

「ボール」

 

1打席目で初球をスリーベースにされたことが引っかかってるのかここは慎重に外に外れるボール球から入った

 

(まったく動かず。よほど目がいいようね)

 

浅井は茄子を一瞥し警戒度をさっきよりも上げた。そして2球目。内角高めへストレート

 

カンッ

 

「ファール!」

 

3球目は同じ場所へ今度はスライダーを選択

 

カンッ

 

「ファール!」

 

(変化量が少ないスライダー。さっきのストレートだと思って手出したら詰まらされるってわけね)

 

(そう上手くはいかないか。でも、これで追い込んだ)

 

4球目は真ん中低めから茄子の足元へ抉るようなスライダーを投げる

 

パシッ

 

「ボール」

 

(さっきとは違う種類のスライダー)

 

(手を出さなかったわね。出なかっただけ?もう1回確かめる)

 

浅井は同じ球を今度は若干高めで要求

 

カンッ

 

「ファール!」

 

(それはもう見た)

 

(出なかったわけじゃない!?この子一体...)

 

5球目。低め低めと来て今度は外角高めへストレート

 

カンッ

 

「ファール!」

 

(まさかこの子!狙ってカットを!?)

 

ここで浅井は茄子が狙ってカットしていることに気づく

 

 

 

 

 

『茄子』

 

『ん?』

 

『次の打席、視てくれない?』

 

『オッケー』

 

 

 

 

 

1巡目は大野が立ち上がり崩れたおかげで必要ないと思ったが途中から立て直したことにより作戦を変更。バッターボックスに入る前に葵と目線を合わせてたのはそれが理由だった

 

「すごい...なんであんな正確にカットできるの...?茄子だって初めて対戦するはずでしょ...?」

 

「茄子の想像を超える直球とか変化球じゃないと打ち取るのは難しいかもね」

 

「そんな人いるの?」

 

「今は何とも言えないけど、もしかしたら出てくるかもね。それもすごい近くに」

 

「え?」

 

葵はまっすぐ詠深を見つめる。彼女のあの球が今後どれだけ進化するかわからない。茄子と葵にとってそれも楽しみの1つだった

 

(くそっ!どこに投げてもことごとくカットされる!)

 

柳大バッテリーは茄子への球数が12球となっても打ち取ることができないでいた

 

(これ以上球数増やすわけには...仕方ない)

 

このままやり合っても大野が消耗するだけでジリ貧だと悟った浅井はストライクゾーンから大きく外れてミットを構えた

 

(チッ!)

 

(なーんだ終わりか。まぁ十分じゃない?)

 

パシッ

 

「ボールフォア」

 

「すげー!結局出ちまった!」

 

「ナイス粘りよ茄子ちゃん!」

 

一塁へ向かう茄子はベンチに目を向けると喜んでいるみんなの中でグッドサインを出している葵を目にして不敵に笑った

 

(さて、こっからも茄子の仕事だよん)

 

一塁について今度は観客席にいる蓮に目を向ける茄子。するとその視線に気づいたのか蓮が葵と同じようにグッドサインを出した

 

(ひょわ~...!)

 

それを見た茄子はまた一段と笑顔になった。それはさっきまでとは違い今にも口から涎が垂れてしまいそうなほどだらしなかった

 

「お願いします!」

 

「プレイ!」

 

(おっといけないいけない。まだまだ仕事してあとでうんっと褒めてもらうんだ!)

 

(はぁ!?)

 

球審の声で我に返った茄子は大きくリードを取る。大野が左投げなのも相まって相手側が全員驚くようなリードだった

 

(そんなリードして戻れるとでも言うの...?)

 

大野はセットモーションから1度、2度とファーストに目線を向けキャッチャーに目線を戻した瞬間に一塁へ牽制球を送った

 

「セーフ!」

 

(なっ!?)

 

茄子はスライディングで一塁へ戻りアウトになることはなかった

 

(バッター集中!走っても私が刺す!)

 

(ぐぬぬ...)

 

できることなら自分が刺したかったのだが気にしすぎて集中力を乱すのもよろしくないと浅井は判断し大野にバッターに集中するようサインを送った。そして茄子がもう一度ベンチを見ると芳乃から変わらずGOサインが出ていた。そして再び大きなリードをする

 

(ほれほれ〜)

 

(くっ!)

 

大野は茄子が気になりながらも投球モーションに入った。その途端茄子は二塁へスタートを切った

 

(速い!)

 

パシッ

 

「ボール」

 

パシッ

 

「セーフ!」

 

浅井は外に外してボールとなった球を捕ってすぐさま二塁へ送球したのだが、二塁の選手が捕球したころには茄子は既に二塁に着いていた

 

「ナイスラン茄子ちゃん!」

 

「さすが!」

 

(足の速さだけじゃない...瞬発力も桁違いとか...!)

 

あまりにも簡単に盗塁されてしまい面食らう浅井。しかし逆にこれでランナーは気にならなくなった。そう思い大野へ次の球のサインを送った

 

しかし驚くべきことに大野が2球目を投げようとしたその瞬間、茄子が三盗を狙ったのだ

 

パシッ

 

「ストライク!」

 

(ここも走るのか!)

 

女子野球において三盗を狙うことは滅多にないため大野も浅井も完全に油断してしまった。ストライクを取ったものの変化球で入ってしまったため浅井が三塁に投げようとした時には茄子は三塁にスライディングしており、その足は三塁ベースに付いていた

 

「タイムお願いします!」

 

「タイム!」

 

ここで浅井がすかさずタイムを要求。マウンドへ向かい大野と対面した

 

「ごめん。まさか三塁まで狙うなんて...」

 

「私だって今まで三盗なんて片手で数えるくらいしか見たことないししょうがないでしょ。腹立たしいけどこれでようやくバッターに集中できる」

 

「そうね。初回はスクイズしなかったし可能性は低いと思うけど一応警戒しよう」

 

「わかった」

 

「ここで抑えるわよ!」

 

「言われるまでもないわ!(これ以上点をやってたまるもんですか!)」

 

茄子のプレーが大野にさらに火をつけた。その結果菫は茄子を帰すことができずチェンジとなった

 

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