球詠 「野球って楽しいよね!」   作:てこの原理こそ最強

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4月も残すところあとわずかとなり学生には嬉しいGWが近づいていた

 

「え!合宿!?」

 

「3泊4日でな。場所は学校だ」

 

『おー!』

 

先日の練習試合を勝利で終えた新越野球部の練習意欲は以前にも増して強かった。そこへ合宿のお知らせが藤井先生からあり全員さらに大興奮

 

「合宿最終日には藤和高校及び大鷲高校と試合を組みました」

 

「藤和って去年の東東京代表やろ!?」

 

「Bチームらしいけどね。大鷲も去年の千葉ベスト16だし結構強いよ~」

 

『おー!』

 

「やる気出てきたー!」

 

「この前の練習試合を踏まえてそれぞれの課題に取り込んでいこうね!」

 

「いい雰囲気じゃん」

 

「うん。やっぱり強豪校相手に勝てたっていうのがみんなの自信に繋がってるんだろうね」

 

練習試合は勝ったもののベンチからは芳乃と藤井先生、観覧席からは蓮の目から見て課題はたくさん見つかった。そこを突き詰めていけばより強いチームとなると確信があった

 

「でもやっぱり突出している問題がピッチャーなんだよね...」

 

「えっ!?もしかして...私クビ!?」

 

「そんわけないよ。このままピッチャーが詠深ちゃんだけなのはよくないよねって話だよ」

 

「な、なんだ~。よかった~」

 

いきなり投手問題が出され焦る詠深だったが問題は懸念していることではなかったため安堵した

 

「控えピッチャーか。誰がやるとか決まってるの?」

 

「それを見るためと軽い面談したいから今から順番に名前呼ぶから来てね。まずは希ちゃんから」

 

「あ、うん」

 

「では芳乃さんが面談を行っている間私達は練習です」

 

『はい!』

 

「中村さんが抜けるファーストには葵さんが入っていただけますか?」

 

「わかりました」

 

「武田さんは本日ノースローです。よってノック中は体幹トレーニングをしながらバックではみなさんがどのように動いているのか見るようにしてください」

 

「ノースローですか...」

 

「練習試合で投げっぱなしだったんだからしょうがないよ詠深ちゃん」

 

「はーい...」

 

「ではそれぞれポジションにつきなさい。ノックを始めます」

 

『お願いします!』

 

芳乃と希がベンチ裏に下がり、その他は詠深を除きポジションついた

 

「では始ましょう」

 

スカッ

 

藤井先生のノック。どんな打球が来るのかとドキドキしていた内野陣だったが藤井先生は空振ってしまった

 

「すみません」

 

「おいおい大丈夫か!?」

 

カンッ!

 

「おわっ!なんだ今の打球!」

 

次はきちんと当てショートに強い打球が飛ぶ。その勢いに稜は驚き捕り損ねてしまった

 

「柳大は打てるチームではありませんでしたからね。高校野球の打球の速さを身をもって味わわせてさしあげます!」

 

カンッ!

 

「くっ!」

 

カンッ!

 

パシッ

 

「さすが理沙先輩!」

 

カンッ!

 

パシッ

 

「葵ちゃん、イレギュラーしたのに上手く処理できてる。上手いな~」

 

「次!外野!」

 

菫は稜と同様エラー。理沙は横を抜ける球をダイビングキャッチ。そして梨子は目の前でイレギュラーバウンドし、顔に向けて飛び跳ねた球を体をしならせながらキャッチ。その動きにホームから見ていた珠姫が驚く

 

その後も藤井先生のノックが続く中芳乃に呼ばれ1人ずつ面談が行われた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

来たるGW。朝から集まったメンバーはすぐに着替えベンチに集まった

 

「練習始める前に発表するね。この前の面談でみんなの上半身の可動域、柔らかさ、下半身の強さを見させてもらって厳選したんだけど、ついては理沙先輩と息吹ちゃんにお願いしようと思うよ!」

 

「え、私?」

 

「私がピッチャー!?冗談でしょ!?」

 

「投手用グラブ持ってるくせに~」

 

「それは関係ないでしょ!ってか割とマジで茄子とか葵の方がいいんじゃ」

 

「もちろんそれも考えたよ。ただこの前の練習試合でもそうだったけど2人には自分の役割が完全に完成しちゃってるから、そっちに集中してもらった方がチーム的にも大きいかなって」

 

「確かにそうね。茄子には誰かが抜けたポジションをやってもらうことになるはずだし」

 

「葵はただ集中力がないからピッチャーなんてやったら3回も保たないもんね~」

 

「そこは素直に謝るしかないかな~」

 

「でも葵ちゃんだって代打で変わった人のポジションに入ってもらうことになるんだし、実質茄子ちゃんと同じぐらいやらせちゃうことになっちゃう」

 

「それは大丈夫。体力面で役に立てない分分析とバットの方で貢献するね」

 

「頼もしい~」

 

「というわけで、やってみてほしいんだ。息吹ちゃんお願い!」

 

「わ、わかったわよ...しょぼくてもがっかりしないでよ...?」

 

芳乃に説得されて渋々ではあるが実際に珠姫に向かって投球練習をしてみる息吹

 

「いくわよ!」

 

パシッ

 

「おー!」

 

「朝倉そっくりじゃん!」

 

「でも...」

 

(遅い...)

 

数球投げてみると息吹の投球フォームは柳大の朝倉そっくりだった。しかし急速は段違いに遅い

 

「そこは球速も似せろよ!」

 

「無茶言うんじゃないわよ...」

 

「いや、意外と使える、かも。伸びがある気がする」

 

「ホント!?」

 

「じゃあ次、理沙先輩!」

 

「えぇ...」

 

理沙は自分が投手をやることに疑念を抱きつつも伊吹同様実際に投球してみる

 

ズドンッ

 

(あ、いい球)

 

「重そうだ!」

 

「重そうね!」

 

「すごく重そうです!」

 

「球の話、よね...?」

 

球の握り方がまだまだなためスピンはそこまでかかっていないがずっしりとしたいい球を投げる。それはエースの詠深もそう思うほどだった

 

「思った通り!理沙先輩私達より1年分体作りできてたから!2人には今日からピッチャーのメニューもこなしてもらうね。投球は1日70球くらい!」

 

「「はーい」」

 

「そういえば今日大庭さんは来ないの?」

 

「お兄ちゃんは荷下ろしの手伝いがあって。もうすぐ来ると思うんだけど」

 

「荷下ろしって、葵ちゃん達の家は運送業とかなの?」

 

「ううん。商店街にある普通の八百屋だよ」

 

「八百屋さんなんだ~」

 

「あー!だから茄子ちゃんて漢字でナスって書くんだね!」

 

「確かに。メンバー表見たときあまり見ない字だなーとは思ってたのよね」

 

「じゃあ葵は?植物に関係するから?」

 

「そうなの!それに葵の名前は~お兄ちゃんが付けてくれたんだ~」

 

「クッ...!」

 

葵は自分の名前を蓮が付けてくれたことを茄子の方を見てドヤ顔で話す。それを見た茄子は拳を強く握りしめ親の仇でも見るかのように葵を睨む

 

「たまたまお兄ちゃんが考えた名前になっただけでしょ!」

 

「ふふ~ん。運命ってやつだよ~。神様からお兄ちゃんが考えた名前にしなさいって天啓があったんだよ~」

 

「たまたま?」

 

「葵達の家では昔から子供が生まれると親族全員で考えた名前を紙に書いて箱に入れて、生んでくれたお母さんが引く習わしがあってね」

 

「なるほど。それで選ばれたのが大庭さんが考えてくれたやつだったんだね」

 

「そうなの!」

 

「でも漢字はお母さんじゃん!」

 

「でも"あおい"っていうのはお兄ちゃんからの授かりもの。誇らしいな~」

 

「じゃあ茄子ちゃんは...」

 

「茄子は親戚のおじちゃんだったよ。残念だったね~」

 

「うっさいうっさい!お兄ちゃんが最初に抱っこしてくれたのは茄子だもん!」

 

「あっ!ならお兄ちゃんが最初に哺乳瓶でミルク飲ませてくれたの葵だった!」

 

「あーっ!保育園で一緒に走ってくれたの茄子だし!」

 

「言ったなー!?保育園のダンスお披露目会で一緒に踊ったの葵だし!」

 

「あら~...」

 

「始まっちゃったわね...」

 

野球部発足から約1ヶ月。茄子と葵普段は仲がいいのになぜか兄の蓮のことになるとやれ自分の方があーだこーだだのとケンカを始めてしまう。もうメンバー全員が見慣れた光景だった

 

「おはようございます」

 

「「お兄ちゃん!」」

 

そこへ遅れて蓮が到着したことで2人の言い合いは終わった

 

「遅くなってしまい申し訳ありません藤井先生」

 

「ご実家のお手伝いと先ほど聞きましたのでお気になさらないで大丈夫ですよ」

 

「そう言っていただけるとありがたいです」

 

「先生の言うとおりです!それに今控えピッチャーについて大方まとまったところですので、本格的に練習するのはこれからなので!」

 

「わかった。ありがとう芳乃さん」

 

「いいえ〜。じゃあみんな練習始めるよ〜。内野練習は大庭さん、外野陣は先生、ピッチング練習は私が見ていくからね〜」

 

『はーい!』

 

芳乃の指示で全員それぞれの練習に移った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー内野陣ー

 

蓮の元に集まったのはピッチング練習のために抜けている理沙を除いた希、菫、稜の3人だった

 

「今日は何をするんですか?」

 

「そうだね。練習を始める前になんだけど...」

 

「「?」」

 

「お前らはさっさと外野練習に行け」

 

3人の予定のはずだったのになぜか茄子と葵もこの場にいた

 

「えー」

 

「葵達も場合によれば内野にも入るからやっといた方がいいでしょ?」

 

「その心がけは立派だが今日じゃない。事前に話してたろ」

 

「「そうだっけ?」」

 

「お前らは...とにかく今日2人とも外野の練習だ。ほら、藤井先生が待ってるんだから早よ行け」

 

「「ちぇ〜...」」

 

もっともなことを言いつつも全て建前。本音は蓮の側にいたいがために内野陣に混じっていた茄子と葵は蓮から注意され渋々外野練習の方へ向かった

 

「ごめんね3人共」

 

「いえ。いつものことですし」

 

「いつものことなのか...まぁそれはひとまず置いとくとして、3人にはまずこのデータを見てほしい」

 

常日頃から茄子と葵が迷惑をかけているのかと頭を悩ますが、それは後で考えるとして蓮は3人にタブレットを見せた

 

「なんですかこれ?」

 

「この前の柳大戦までの練習で取った3人のデータだ」

 

「すごい。こんな詳しく」

 

「へぇー。ちょっと稜、あなたエラー多すぎ」

 

「あははー...」

 

「そうだね。1人ずつ改善点をあげてくとすると、まず川崎さんは藤田さんが言った通りエラーが多い」

 

「はい...」

 

「でもちゃんと自覚できてるのは偉いことだよ。それに打球への反応速度は申し分なしだね」

 

「へへっ!ありがとうございます!」

 

「次に藤田さん。藤田さんは攻守共に安定したプレーができてる。ただ丁寧にやろうとしすぎて動きの連動性が少し低いって感じた」

 

「動きの連動性?」

 

「ある動作から次の動作までのスムーズさって言ったらわかるかな?1番わかりやすいのは打球を取ってから送球するまでの動作だね」

 

「なるほど」

 

「茄子みたいな打者がその辺にいるとは思わないけど足の速い子はたくさんいる。そういう子達はぼてぼてのゴロでも平気でセーフにしてくるんだ」

 

「そうですね。わかりました」

 

「じゃあ最後に中村さん。君は他の2人もわかる通りバッティングセンスが非常に高い。それは自信を持っていいと思うよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「ただ守備面で言うと中村さんは打球への反応が2人に比べると若干遅い傾向が見られた。俊敏性を上げるために少しだけ多めに下半身トレーニングを加えてもいいかもしれない」

 

「わかりました」

 

「というわけで今日3人には股割りをやってもらいます」

 

「「「股割り?」」」

 

「実際に見た方がいいね」

 

蓮は股割りとはなんなのかわかってない3人にお手本を見せる

 

「利き手とは逆の足を半歩から1歩前に出して実際に転がってきた球を捕球するように腰を落として、この体勢をキープするんだ」

 

「なーんだ。それならできそうだな」

 

「お、いい意気込みだね。じゃあやってみようか」

 

3人はその場で蓮と同じような体勢を取った

 

「うわっ...」

 

「これ...」

 

「俺が止めって言うまでその姿勢をキープね。じゃあスタート」

 

(((想像してた何倍もキツい...!)))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー外野陣ー

 

「えー本日の外野練習ですが、まず茄子さんには大村さんの遠投練習に付き合ってもらいます」

 

「遠投、ですか?」

 

「はい。大村さんも息吹さんもフライを捕る感覚はだいぶ身に付いてきたと思います。ですが当然外野にくる打球全てがフライというわけではありません。場合によっては自分のところに飛んできた球をホームに送球しなくてはならない時が必ずきます。その際にホームまでの距離感がわかっていないとなかなか難しいのです」

 

「なるほど、承知しました」

 

「岡田さんと葵さんも距離の長めのキャッチボールをしていてください。ただし、送るボールは2球に1球ずつで構いませんので可能な限り高く上げてください」

 

「それは私達も遠投の練習に加えてフライの練習ってことですか?」

 

「それもあります。あとは試合中に万が一ボールと太陽が重なってしまった時の対処を自分なりに身につけておくことも加味しています」

 

「確かに。わかりました」

 

「では、目安は大村さんが50球投げ終わるようにしてください。それが終わり次第いつものノック。その後はバッティング練習とします」

 

『はい!』

 

藤田先生は練習内容を伝え終えしばらくその場にいたが自分が伝えた練習通りに動いてくれていることを確認するとベンチへ戻っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーピッチング練習組ー

 

「理沙先輩、力入れるのはボールをリリースする直前だけで大丈夫です。ずっと力入れっぱなしだとすぐ疲れちゃうので」

 

「わかったわ」

 

「息吹ちゃんは逆に投げやりみたいになっちゃってるよ」

 

「ピッチャーのピの字もわからないんだからしょうがないじゃない...」

 

「まぁまぁ。でも2人とも枠内に投げられてるからすごいよ!これで70球だし今日はこの辺にしておこう!」

 

控えピッチャーをお願いされた理沙と伊吹は詠深と珠姫が見守る中、ネットの後にストライクゾーンを表した9分割の紙が貼られたものに向かって投げ込んでいた

 

「お疲れ様。じゃあ2人はそれぞれ内野と外野の練習に混じってね」

 

「「はーい」」

 

「あ、行く前に水分補給忘れないで」

 

「言われるまでもないわ」

 

「倒れたりしたら大変だものね」

 

ピッチング練習を終えた2人はそれぞれ自分の専門のところの練習に戻った

 

「じゃあ次は詠深ちゃんだね」

 

「うん!でもやるのはいつもの投球練習と同じだけどねー」

 

「いや、今日はちょっと違うことするよ〜」

 

「違うこと?」

 

「うん。珠姫ちゃんと話したんだけどあの球の精度をもう少し上げられないかなって」

 

「精度?」

 

「あの球、あの変化量とキレだから今まで通用してたと思うんだ。でも捕る側としたらコース分けできるのか確かめときたいんだよね」

 

「なるほど」

 

「詠深ちゃん。あの球投げる時ってどこ狙ってるとかあるの?」

 

「もちろんミットだよ。でも無意識下だと多分バッターの顔かも」

 

「へー」

 

「じゃあこういうのはどう?」

 

今まできた球を捕球するだけに留まっていた珠姫はあの球をちゃんとコース分けて投げられるならもっと脅威になると考えこの練習を芳乃に持ちかけたのだった。それを聞いた芳乃が用意したのは棒人間の顔を4分割にした紙だった

 

「おもしろい試みをされていますね」

 

「あ、先生」

 

「私が実験台となりましょう」

 

「外野の方はいいんですか?」

 

「はい。終わったら声をかけるように伝えてますので。(あの球、間近で見てみたかったのよね...)」

 

ヘルメットを被った藤井先生が右打席に立ちバットを構えた

 

「遠慮はいりませんよ」

 

「じゃあ、内角高め!」

 

「うん!」

 

詠深は藤井先生の顔のこの辺だろうというところに狙いをつけてあの球を投げる

 

パシッ

 

「ナイスボール!内角高め、入ってますね」

 

「は、はい...(今、絶対打たれてた...)」

 

「さ、じゃんじゃん行きましょ!」

 

「(でもこれくらいの方がいい練習になる。先生に感謝だ)次!内角低め!」

 

「うん!」

 

さっきと同じように当たりをつけ球を放る

 

パシッ

 

「ナイスボール!」

 

「結構いいかも!顔面4分割!ありがとう芳乃ちゃん!先生、しばらく立っててもらっていいですか?」

 

「もちろんです」

 

詠深は自分のあの球がさらに進化できる可能性を秘めていたことに大歓喜し練習のやる気度がさらに上がった

 

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