今回は、試しに文章のスタイルを変えています。
えむのおじいちゃんにまつわる思い出を、みんなに語る話です。
ハロウィンについての思い出?
う~ん……そうだ!
おじいちゃんのためにかぼちゃスープを作ったことがあるよ!
――― ◇ ―――
ハロウィンっていうと10月31日になってるけど、うちにとってはもっと早かったんだ。
ほら、フェニランは1か月よりも前からハロウィンイベントが始まるでしょ?
準備とか会議とか、そういうのをお父さんたちが話してて、もう2学期の始まった頃にはハロウィンが来るってワクワクしてたの。
もちろん、詳しいことは内緒だったよ?"きぎょーひみつ"だぞってお兄ちゃんから言われてたし。
小さい頃だから、しゃべっちゃダメってことしか分からなかったけどね。
それで、9月の真ん中ぐらいになると、ハロウィンイベントが始まるの。
たった1日で係の人がお化けや魔法使いになっちゃうし、フェニーくんも特別な衣装に大変身!
あの時はおじいちゃんもよく一緒に遊んでくれて、一緒にフェニーくんを探そうって頑張ってたなあ。
……ステージ?
うん、あのステージも色んな飾りつけをしてたよ。
ショーの演目も、ハロウィンにちなんだ特別なお話で。
悪者お化けのマスコットがちょっと怖かったけど、ショーが終わったらみんなにキャンディを配ってたんだ。
では、ここでみんなに問題です。
このキャンディ、どんな模様が入っていたでしょ~か?
……はい1番、司くん!
「フェニーくんの顔」?
ぶぶー!じゃないけど、ちょっとおしいかな。
……はい、早く手を挙げた寧々ちゃん!
「かぼちゃと黒い羽で仮装したフェニーくん」?
せいか~い!
顔をかぼちゃでちょっと隠して、コウモリさんの翼が生えた特別なフェニーくんの模様が書いてあるの。
そう、類くん!今年のイベントポスターに出てるのと同じだよ。
ステージで配ることはもうなくなっちゃったけど、スタンプラリーの景品で貰えることになってるんだ。
それで……あれ、何の話だったっけ?
そうそう、ハロウィンのかぼちゃスープのお話。ありがとう、レンくん。
作ろうと思ったのは、ハロウィンまでもうすぐの頃。
さっき、おじいちゃんと一緒にフェニーくんを探したって言ったでしょ?
そのおじいちゃんがすぐに疲れちゃうことが続いてたの。歩くときはいつも杖を持ってきてたし、元気がないのかなあって。
あの時の私は元気がないのはご飯が少ないからなのかなって、そんな風に考えてた。
だからある日、キャンディを貰って思ったんだ。
「スペシャルなごはんを作ったら、おじいちゃんが元気になるかも!」って。
でもここで問題が2つ。
1つ目は、キッチンに入れないこと。
……うん、コックさんたちが普段からご飯を作るのに使っていたから。
昔、入ろうとしたら邪魔しちゃダメ、ってお兄ちゃんに言われたこともあったくらい、忙しそうだったし。
それにキッチンにはうっかり触っちゃダメなものがたくさんあるし、もしケガをしちゃったら大変でしょ?
最初に作りたいですって言った時は、すぐに使うことはできないってやんわりと断られたかなあ。
2つ目は、料理の経験がなかったこと。
漢字だって毎日ちょっとずつ習っていた頃だから、料理の本に乗ってる漢字はどれも知らないものだらけ。
おじいちゃんのプレゼントにハンバーグとかショコラとか、色んなのを思いついたけど、本を見ても作り方が全然分からなかった。
『蒸して~』とか、『焼き加減が~』って言われても、どうすればいいのか見当もつかなかったんだ。
お手伝いさんたちに言ったら手伝ってくれるかもしれなかったけど、それはちょっと嫌だったの。
(おじいちゃんのためには手作りじゃないとぜったいダメ)
あの時はその思いがいっぱいで、しかも口に出てたみたい。
後になって小さい頃の思い出を聞いた時に知って、ちょっと恥ずかしかったよ。
……ちょっとカイトお兄さん、笑わないでってば!
それで、どうしようって悩んでた私だけど、お姉ちゃんに気づかれちゃった。
最初は隠そうとしたけど隠せなくて、結局相談したんだ。
おじいちゃんに言ったらダメだよって口止めして、こっそりね。
そうしたら、
『いいよ。おじいちゃんのために一緒に考えよう』
って笑って協力してくれることになったんだ。
そこからは2人で色んなことを決めたの。
私が読めない、分からない言葉をお姉ちゃんから教わったらレシピを読みながら話し合い。
どんな料理を作るか、いつキッチンを使うか、どうやって作るか……他にもいろいろ。
それで決めたのが、最初に話した『かぼちゃスープ』。
何を使うのか作り方のおさらいをしたり、キッチンを使いたいって、コックさんやお手伝いさんたちにお願いしたりして。
準備万端でハロウィンの日を迎えたんだ。
――― ◇ ―――
その日は学校もフェニランもハロウィンづくし。
本当だったらおやつの時間もあるんだけど、その日はぐっとガマン。
3時半くらいにお姉ちゃんと一緒にキッチンに行ったんだ。晩ごはんの後に出すつもりだったからね。
……ちょっと早い?
確かに、直前の方があったかくて良かったんだけど、コックさんたちもスペシャルメニューを作る日で準備があるから。
私たちが邪魔する訳にはいかないし、空いてる時間でやることになったんだ。
……スペシャルメニューの中身?
6品、いや7品くらいあったかな。
紫キャベツのサラダに、ソースのかかったローストビーフでしょ、かぼちゃの彩るマッシュポテトもあって。
レンくん、凄く食べたそうな顔してる!
……寧々ちゃんのお家も特別なの?野菜たっぷりのクリームシチュー!?
パプリカが乗ったチーズトースト!おいしそう、今度皆でやってみる?
……あれ、類くん?そんな青い顔してどうしたの?
……続き?そうだね、ええと、私とお姉ちゃんが作り始めたところだっけ。
まずは、レシピに載っていた材料を一緒に並べる。
危ないことにならないようにコックさんやお手伝いさんたちが後ろで見守って、作業も2人で一緒にやる約束だから。
材料は大きめのかぼちゃが2つ、玉ねぎが2個、バター、コンソメ、牛乳、生クリーム。
最初はかぼちゃのわたや種をくり抜くところから。
大きいスプーンを使うのは初めてでちょっと大変だったけど、スープに混ざらないようにちゃんと取ったの。
『よいしょ、よいしょ、えい!』
『かぼちゃってかたいなぁ……』
次はお姉ちゃんが子供用の包丁を持って、かぼちゃの皮を取る番。
切る前に教えてもらいながら電子レンジで温めて、柔らかくなってから皮を取ってたかな。
皮を取ったら一緒に小さく切った。ここは使い方を間違えたら大変だからってよくよく聞いてたから、お姉ちゃんが殆どやってたかも。
『りんごの皮をむいたときみたいに、力を入れすぎないで……』
『おねえちゃんすごい!(うしろのみんな、すごいめになってるような……)』
次は玉ねぎの皮をむいて薄く切るところ。
実はこの時に、お手伝いさんたちから専用ゴーグルを渡されてたの。
最初はいらないって思ってたけど、かけてみたら涙が出なくてびっくりしたんだ。
材料を切ったら、お鍋にバターを入れてあっためる。
小っちゃい子がうっかり使わないようにキッチンは高い位置にあるでしょ?
私はそれだと見えないから、専用の足場を用意してもらって、アツアツのお鍋に触らないように気を付けながらボトっと入れる。
『たまねぎいれまーす!めがねのおかげで、なみだもさよなら!』
『ふふっ、お鍋にさわらないようにね』
バターが溶けたら玉ねぎを満遍なく炒めて、しんなりしたら今度はお水とかぼちゃを入れる。
かぼちゃは柔らかくなるまで20分くらいかけて、ぐつぐつ煮込む。
コックさんたちに柔らかさを確認してもらったら、スイッチを切ってさらに柔らかくする。
そのために使うのがハンドミキサーだったんだけど、子供用なのにプルプル震えてもう大変。うっかり落としそうになって慌てちゃった。
『えむ、あぶない!』
『お、おねえちゃん、ごめんなさい……もうちょっとでおとしちゃうところだった』
『だいじょうぶ。おねえちゃんといっしょにまぜてみる?』
『!うん、いっしょにまぜまぜ!』
混ぜ終わったらもう一度加熱して、最後に牛乳と生クリームを入れる。
塩やこしょうで味を整えて、完成!
出来た時は嬉しくて、ついはしゃいじゃった。
後はこれを晩ごはんの後にお披露目!
お手伝いさんやコックさんたちにお礼を言って、片付けもきちんとしてからキッチンを出たんだ。
――― ◇ ―――
そして晩ごはんの時間。
その日はみんな揃ってのごはんで、さっき言ってたスペシャルメニューが出たの。
難しい顔をしていたお父さんも、何だか落ち込んじゃったおじいちゃんも、一緒に。
そうしてもうすぐデザートの時間になるタイミングで、お姉ちゃんと抜け出してキッチンに到着。
もう一度温めたものを配膳用のワゴンに乗せて、みんなの所へお届け。
『じゃじゃーん!ハロウィンのお祝いだよ、みんな!』
お父さんは目を丸くして、お兄ちゃんは頭を抱えてた。
そしておじいちゃんは、おおぉ、って泣いてた。
拭っても涙が止まらなくて、元気が無くなっちゃったのかなって心配になったけど。
お姉ちゃんと一緒に皆の分を配ったら、食後のデザートも一緒に食べることになったんだ。
今思えば、コックさんたちが私たちの作戦を知って、同じスープが出ないようになってたかもしれないね。
私たちも席に戻って、もう一度「いただきます!」って、特製のかぼちゃスープを食べたんだ。
味は美味しかった、と思う。たぶん。
……あいまい?
思い出してみたら、上手くできなかった気もするの。
かぼちゃの皮がちょっぴり残ってたし、火が強くて玉ねぎは焼きすぎたところもあったから。
でもおじいちゃん、泣きながら笑顔で言ってたの。
「ありがとう、ありがとう」って。
お父さんたちも何だか苦笑いしながら、それでも食べてた。
お兄ちゃんたちはため息ついてたけど、懐かしそうだった。
私たちも頑張ったごほうびで食べてたけど、おじいちゃんが笑ってくれたから嬉しくて泣いちゃった。
次の年からはお姉ちゃんも忙しくて、もう一度作ることは無かったの。
でも、だからなのかな。あの時のことは私にとって忘れられない思い出だよ。
きっとこれからも、忘れないと思う。
おまけ
「私のお話はこれでおしまい、かな」
「司、途中から泣きすぎ」
「そういうなぁ……泣いてなど……」
「隣であんなにうるさくすすり泣きしたら、すぐ分かるから」
「思い出のスープか。大切な人と一緒に作り、共に食べることはとても忘れられないもの、ということか」
「そうだ!次のショーで、かぼちゃスープの魔女の話をするのはどうだ?」
「えっ、前に話してたハロウィンショーの候補?」
「立ち直るの早っ」
「ハロウィンの時期だからな。みんなの前で実際に作ってみるのはどうだ?」
「ふむ。料理マシンなら作ることはできるけど、材料はどうするかな」
「いやいや司も類も、いったい何人分作ることになると思ってんの?そもそもキャンディーだって配ってるのに」
「う~ん、かぼちゃスープはレストランのメニューだし、演技の時に溢しちゃうかもしれないから難しいかも」
「むむ、いいアイデアだと思ったんだがな」
「はぁ、思いつき早すぎ。スープを配るかはともかく、ハロウィンのショーとしては良いかもね」
「何だか面白そーじゃん。カイト、今度ボクたちもかぼちゃスープを作ってみようよ」
「確かに、ミクたちが聞いたら喜びそうだね。そうだ、チーズフォンデュやグレープフルーツも一緒に添えるのはどうだろう?」
「どうしたんだい寧々?そんな風に唾を飲み込んで」
「あ、いや、そんな。食べてみたいとか思って……るかも」