夏祭り編の後編です。
ここからは変わって愛莉の視点になります。
これにて全ユニットキャラクターの話を書き終えました。
今後については、おまけの後に追加しております。
「はい、ご注文は?」
「では、かき氷から。抹茶、いちご、レモンを一つずつで」
「抹茶、いちご、レモンを1つずつ。他には?」
「それから、わたあめを3人分。手作りでお願いします。注文は以上で」
「はい、わたあめ3つですね。お会計はこちらになります」
何だか考え込んでいた青柳くんが追いついた後、注文するものを話し合っている内に少しずつ列は進んだ。
メニュー表には凝った味の名前が並んでいて、見ているだけで時間が過ぎてしまいそうだったけど、いつの間にかもうレジの前。
会計を済ませた後、私たちは店員さんにわたあめコーナーへ案内された。
目の前にあるのはテレビ番組に出演したときに見た、おなじみの機械。
中央には穴の開いた小さな金属のボウル、その外側を囲うように、透明なプラスチック製のカバーがぐるりと取り付けられている。
「この中に、わたあめの元になるお砂糖が入っています。今はもう機械が温まっているので、スイッチを入れて回り始めたら、こちらに砂糖を入れます」
「そうすると、写真のように細い糸が出てくるので、この割りばしでくるくると巻き取っていってください」
渡されたのはザラメのように薄く茶色い砂糖と、普段よりも長めの割りばし。
私と雫はずっとお面をかぶっていたこともあってか、店員さんはこちらの正体に気づく様子もなく、いつも通りの説明を続けてくれる。
「では、最初に作ってみる方はどなたですか?」
「私が最初にやってみるわ。以前、作ったことがあるの。やり方は……大まかには覚えてるつもりよ」
「そっか、企画……コホン、わたあめ作りにチャレンジしたことがあるって言ってたもんね」
「そうそう。だいぶ前の話だけどね」
うっかり口を滑らせそうになった雫のフォローに、私は小さく頷いた。
バラエティー番組であった、屋台のメニュー作りに挑戦する企画。あの時の経験がこんなところで生きるとは思わなかった。
スタジオでの撮影だったし、上手くいったのも他のメンバーの手助けのおかげだけど、今回は上手くいくかしら。
「愛莉ちゃん、頑張って……!」
小さい声だけど、お祭りの喧騒の中で雫の声援は確かに届いた。
青柳くんも参考にしたいのか、あるいは楽しみなのか、妙にキラキラとした目で応援の眼差しを向けている。
(そうね……私が動揺してどうするのよ)
確かに一度だけの経験だけど、二人にとっては先輩みたいなもの。
そんな私が、ここで不安な顔を見せてどうするの。
軽く目を閉じていると、落ち着きは戻ってくるような気がした。
――― ◇ ―――
「まずはこのザラメを真ん中のボウルに入れて、と」
スタジオでやった時のことを思い出しながら、ボウルへ砂糖を注ぎ込む。
サラサラと音を立てながら吸い込まれていくのはあの時と同じだ。
初めて試したときは、本当にできるのか半信半疑だったのを覚えている。
「では、スイッチを入れますね~」
店員さんがスイッチを押すと、ヴーンと振動音が響き始めた。
既に温まっていた機械は回転を始め、コトコトと音を立てている。
思っていたよりも静かなのは、この機械が静音設計になっているからかもしれない。
何度も使われているからか、あっという間に表面が見えなくなるほどのスピードで回転していた。
「……そろそろ、わたあめの元になる糸が出てくる頃です」
「待ってたわ、ちょっと緊張するわね」
割り箸を持つように促され、握りしめていたものを持ち直す。
握ったまま腕を突っ込んだら怪我をすること間違いなしだ。
枠の前ギリギリに構える。早く出てこないかと、糸が出るまでの時間が長く感じた。
「あっ、白い糸が出てきたわ!」
「これがあの砂糖だなんて、とても想像できませんね……」
「上手くいってますよ~。ではさっそく巻き取ってください、火傷しないようツッコミすぎないように~」
ボウルの穴から、細くて白い糸が一気に吹き出す。
これは加熱されて溶けた砂糖が伸びてできたもの。
わたあめは、この細い糸を集めて作られているのだ。
(さあ、ここからが腕の見せ所!)
割り箸を寝かせたまま、すかさず枠の中へ入れる。
すぐに沢山は集まらない。少しずつ形になるのを待つ。
「あら?愛莉ちゃん。ぐるぐる回さないと取れないけど、大丈夫なの?」
「いいの。これはまだ序の口、最初はあまり出てこないのよ」
最初は割り箸を横に寝かせたまま、糸を集めていく。
割り箸を立てて回すときよりも広めになりやすいのだ。
そのままゆっくりと回して、しっかり軸を作っておくのが大事になる。
スタジオでやったとき、初めての私はそれが分からなくて、はんぺんみたいに扁平な形になってしまったのも良い思い出。
「糸になった砂糖がどんどん出てくるから、もっと勢いよく集めていくわよ。ほら、もう来た!」
「これは……いろんな場所から糸が噴き出てます。このままでは回収しきれるか……」
「青柳くん、大丈夫よ。ここからが勝負どころ!円を描くようにぐるぐる回して巻き取るの」
四方八方から回転しながら出る糸たちをかき集める。
ここからは早めに大きく、円を描くようにぐるぐると腕を回す。
こうすれば糸が落ちにくく、大きくふんわりしたわたあめができあがる。
「……もう糸は出ないみたいですね」
「凄いわ、あっという間にわたあめができちゃうなんて!」
「まぁ、ざっとこんなもんよ」
心の中では少しヒヤヒヤしていたけれど、何とか成功してよかった。
もしダメだったらもう一回あの列に並んでやり直していたかもしれない。
目の前には均一に丸く膨らんだ、真っ白なわたあめがある。でも食べるのは、もう少し我慢しないと。
「さあ、次は二人の番よ」
マシンの前から離れると二人の目が輝いて割り箸を構えている。
なんだか、夏祭りでわくわくしていた子供の頃に戻ったみたいだった。
――― ◇ ―――
「終わってみると、何だかあっという間でしたね」
ベンチに座ってかき氷を置くと、ふと青柳くんが呟いた。
その手にはラグビーボールのような楕円型のわたあめがある。
「あっという間って言う割に、なんだか楽しそうだけど?」
「そうでしょうか?桃井さんのアドバイスを上手く生かせませんでしたから」
あの後は雫、青柳くんの順番でわたあめを作ることになった。
でも二人とも初めての挑戦、そう簡単にはいかなくて。
雫は空中に舞う糸に見とれている内に、手が遅れ。青柳くんは逆に早すぎたのか、糸同士が重なり。
私も一緒にアドバイスはしたけど、ちょっと小さめのわたあめが2つ出来上がることになった。
「初めてだもの、みんな最初は通る道よ。かくいう私も最初は大失敗だったから」
「そういえば桃井さんは前に作ったことがあると言っていましたね。その時のことですか?」
「そうね。私が最初に自分で作ったのは、スタジオでの収録だったのよ」
「確か、愛莉ちゃんがビックリして動けなかった時の話かしら?」
「し、雫!?」
いつの間にか他の屋台で買い物をしていた雫が戻ってきていた。
どうにか両手にかき氷やわたあめ、その他にも色々持っていたから急いで受け取ってベンチに置く。
「あ、ありがとう二人とも。それで、愛莉ちゃんのわたあめ作りのことだけど……」
「うっ、逃げられないか……確かに雫に話したのは私だったわね」
「恥ずかしがらなくてもいいでしょ?何年も前だし、放送はされなかったもの」
「それほどのことだたとは、無理には聞きません」
「いや、いいわ。ここまで来たら私から話すから」
青柳くんに遠慮されるよりは、自分から話す方がいい。
雫も言う通りもう時効だし、腹をくくるしかない。
「何年か前、まだ私がQTの一員だった頃のことよ。ある番組でわたあめを作る企画があったの」
あの時は、まだバラエティ路線に舵を切る前のこと。
メンバー全員で出演した番組の企画で、わたあめの作り方を調査するという内容だった。
「わたあめをどうやって作るのかを調査する、っていうのが番組のお題で、私たちはスタジオで作る役割を任されたの。一応事前に概要を聞かされてたし、予習として起源や作り方の原理も調べたのを覚えてるわ」
「発祥まで自ら調べるとは、アイドルはそこまで徹底するものなんですか?」
「意外に思う?でも、情報は何だって持っておくに越したことはないもの」
「そういえばあの時、愛莉ちゃんがわたあめの作り方を聞いたことがあったけど、もしかして」
「ああ、送ってたわね。あれ、試しに聞いてみたかったの。でも帰ってきたのがへんてこな言葉だったのよ、ローマ字が混ざった『tukuri型?』って」
「もしかして、『つくりかた』と打ちたかったのでは?」
「そうなの!あの時はまだ慣れてなくて、愛莉ちゃんに何度も送ってたわ……」
雫が機械系を苦手なのは昔から変わらない。
最近はかなり良くなったけれど、それまで致命的なトラブルがなくて本当に良かったと思う。
「それで、一度機械を動かすリハーサルがあったのよ。本番で動かなかったら大変だもの」
「もしかして、そこで何かトラブルが?」
「鋭いわね、といっても大げさな話ではないけど。そう、そこで砂糖を入れて実際にボウルを回したの。でもなかなか出てこなくて」
「まさか、スイッチの入れ忘れが……」
「それがちゃんとついてたの。みんな何だろうって顔してたし、マシンの前に立ってた私もこれは再チェックかなって思ってた。そしたらね」
「急にどっと吹き出し始めたのよ、砂糖の糸が。溢れ出んばかりに飛び出るからびっくりして腰ぬかしちゃったのよ」
「先程も冷静だった桃井さんが驚くとなると、相当なものだったんですね」
「そりゃもうね。ちょうど顔を近づけたタイミングだったから、直接飛んでくるんじゃないかって思ったくらいよ」
「ひゃあって声を上げちゃったって、愛莉ちゃんが言ってたかしら?」
「恥ずかしいことにね。幸いボウルを取り替えたらちゃんと動くようになったけど、あれは忘れられないわ」
咄嗟にメンバーが支えてくれて、表情がよかったと笑い話で終わっているのはいいのか悪いのか。
その時はカメラが回ってなかったのも幸いだったけど。
「でもそのおかげかしら。緊張が取れて、本番では上手くいったのよ。わたあめもメンバーみんなで食べたし」
「その時の経験が、今回につながったということですね」
「まあでも、それっきりね。あの頃は他の仕事も忙しくなって、本物の夏祭りに行くこともなくなっちゃったから」
QTとしてのライブや番組出演、数えきれないほど関わることが多かった。
学校の勉強すら容易じゃない時期があって、余暇を過ごす時間も貴重。
祭りの日を狙って休むことなんてとてもできなかった。
「それもあって私も愛莉ちゃんも、こういうお祭りに来るのは久しぶりなのよ」
「ここで言うのもなんだけど、夏祭りのポイントを知ってたら助かるわ」
「もちろん……と言いたいところですが、実は俺も祭りのことは詳しく知らないんです。幼い頃はなかなか、家族と訪れる機会が無かったので」
隣に座る青柳くんはどこか曖昧に微笑みながら続けている。
もしかすると、家庭の事情に絡むことだったのだろうか。
夏祭りという環境のせいかもしれないけど、踏み込みすぎてしまったかもしれない。
少し考え込んでいると、手に持ったわたあめを見つめながら青柳くんは続けた。
「だからこそ、今日の祭りはとても新鮮でした。輪投げも、かき氷も、わたあめも……事前に調べるだけでは分からなかった楽しさが、数えきれないほどありました」
そう言うと青柳くんはわたあめを口にした。
今回のわたあめは甘さ控えめだけど、それでも美味しそうに食べているのが顔に表れている。
そんな顔されたらこちらも応えないと。
「……なら、もっと楽しくなると思うわよ?」
「えっ?」
「まだ見ていないでしょう、射的に、じゃがバター。もんじゃ焼きだってあるんだから」
「射的にじゃがバター……確かに気になります」
「それなら、みんなで一緒に行ってみましょう!彰人くんも心配するかもしれないし」
「そこまで心配は……でもそうですね。そろそろ俺たちも戻りますか?」
「決まりね、それなら早速行きましょう!」
即断即決。
わたあめとかき氷、雫は他のお土産も持って、お面をかぶり直した。
――― ◇ ―――
絵名たちと合流してからは、色んな屋台を見て回った。
射的の景品にはフェニーくんのキーホルダーがあって、雫が何度も挑戦していたり。
じゃがバターやもんじゃ焼きは思ったより量が多くて、お腹がいっぱいになった。青柳くんは空腹だったのか平気そうだったけど。
絵名はイカ焼きを彰人くんに買い、彰人くんもたこ焼きを絵名に買っていた。
お土産コーナーにはフェニーくんに並んで瑞樹も持っているシブニャーゴの商品が並んでいたり。
他にもステージに寄って、最後のゲストの歌を聞いたりもした。
明日からまた私たちは練習があるし、みんなもそれぞれのやることが再び始まるのだろう。心残りだってないわけじゃない。
それでもこのつかの間の休息の時間だけは、子供の頃のように楽しめたような気がした。
おまけ
「はい彰人。これ、あげる」
「……イカ焼き?何だよ、急に」
「こっちの勝ちじゃなかったでしょ、さっきの輪投げ勝負。だから買ってきたの。私のおごりだから返さなくていいからね?」
「ったく、何だよそれ。おい絵名。勝手にどっか行くなよ」
「なに~?私ラムネ買いに行くんだけど」
「これ。ちょうど買ってきたんだよ」
「……たこ焼き?あんたこそどういうつもりよ?」
「俺たちも勝てなかったからな、お前が買いに行ってる間に並んで買ってたんだよ。これで正真正銘、プラスマイナスゼロだ」
「ふ~ん……そういうことなら、貰っとくから。ありがと」
「仲良しだね~、絵名も、弟くんも」
「「誰が(よ)!?」」
――― ◇ ―――
これからの投稿について
今話でプロセカの各ユニットの物語を一通り書くことができました。
途中で遅れてしまうこともありましたが、『全キャラクターの話を書く』というのは私自身が決めていた目標でもあったため、ここで一旦完結といたします。
以降はユニットメンバー以外も関わる話を追加していきたいと思います。
カイト兄さんのチュロス作りなど、アイデアだけでまだ完成してはいませんが……。
時期は不定期となりますが、また投稿できた際はよろしくお願いします。