セカイのごはん   作:千里のみち

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正月に食材をたくさん買いこむと、気づけば暖かい時期になっているかも。
余った餅のとっておきの使い道を思いついた杏のお話です。

※ストリートのイベントとメンバーの味の好みに関する独自解釈が含まれます。



季節外れの餅まつり

 

「ありがとうございましたー」

 

「おう、杏ちゃんもおつかれ!」

 

 

最後のお客さんが店を後にする。

ドアの向こうに見えるストリートは、半袖の人々でいっぱいだ。

 

6月に入ってから道行く人の半袖率は明らかに増えている。

元々歌の熱気に満ちている場所だけど、暑さの影響で飲み物を買う人も多くなってきた。うちの夏季限定メニューも早めに始まるかもしれない。

 

「……よし。これでおしまい、っと」

 

 

それはそれとして今は店のお手伝い。残っていた皿を片付けてトレーに乗せた。

重い皿は一ヶ所に固めない。バランスを取って落とさないようにするのもコツがいるのだ。

 

 

 

「父さん、残ったお皿全部持ってきたよ」

 

 

お皿を水につけて父さんに声をかけるけど、返事がない。明日の仕込みをすると言ってたけど、材料の確認をしてるのかな。

在庫は確かこの辺り、と見に行ったら、父さんはダンボール箱を見つめながら腕を組んで唸っていた。

 

 

「どうしたの、父さん?」

 

「ああ杏か。ちょうど今、これを見つけてな……」

 

 

視線を辿るとダンボールの中には真空パックのお餅が山ほど入っていた。黒ペンで大きく『餅』と書いてある。このデザイン、どこかで見た気がする。

 

 

「これって、正月に買ったやつじゃん!ストリートの餅まつりで食べたやつだよね?」

 

餅まつり。

ストリートで年に一度、正月に開かれるイベントだ。

元々正月から歌いたい人が集まって、持ち寄った餅で腹ごしらえしてたのが始まりらしい。今は有志の人が集まって大々的に開催される祭りになっている。

その名の通り餅が売り出されてみんなで食べるイベントなんだけど、そこはビビッドストリート。ステージに立ち、ラップバトルや歌が高評価だとおまけのトッピングがもらえるのだ。

 

私の言葉にお父さんは頷いた。

 

 

「そうだ。あの時、余った分を山分けすることになったんだ」

 

「確かに持って帰ってたような……。でもそれって正月だし、何か月も前でしょ?どうしてそれがここに?」

 

「実は、いろいろと事情があってな……」

 

 

父さんの話をまとめるとこうだった。

 

正月にあったストリートの餅まつり。

その時に用意したのが、もち米を使った手作りのお餅と、市販のお餅だった。このうち市販の餅は、予算で買う分に加えて各々持ってくることもできたらしい。

でも祭りを盛り上げようと、誰もがかなり多くの袋を持ってきてしまい。その結果、多すぎて使いきれず、余った分を皆で持ち帰ることになったそうだ。

 

 

「俺は主催側だったし多めに引き取ったんだが、邪魔にならないように一旦ダンボールにしまっておいたんだ」

 

「そしてそのまま忘れてた、ってわけね」

 

「……まぁそういうことだ。すまん、杏」

 

 

とどのつまり、いつか使おうと思って忘れたままになっていたということ。

正月は大片付けや新年のイベントがいくつもあって、私も手伝いですごく忙しかった覚えがある。

そうこうしているうちに学校が始まっていきなりテストがあったし、気づけば餅のことは忘れていた。私もそうだし、父さんはもっと大変だったに違いない。

 

袋を手に取ると真っ白な餅が詰め込まれている。

『餅』の文字の下には黒ペンで『ラップバトル景品』と書かれていた。

 

あの時の餅まつりは私も参加した。

ミックス味のサービスを狙ったのがきっかけだったけど、いつの間にかトッピングのことを忘れて没頭してた。

餅を詰まらせるんじゃないぞ、と父さんが笑う傍らで、時間が経って冷えちゃったお餅を食べたのが懐かしい。

……思えばあの時はまだ、組む相手が決まらなくて一人で歌ってたっけ。

 

袋をひっくり返してみると、賞味期限の欄には「○○年7月」の文字。

 

 

「うわっ、賞味期限1か月を切ってる」

 

「不味いな……流石にこの量は捨てづらい」

 

 

父さんは参った、と苦笑しているけど、この箱の餅を1か月に食べきれるのは無理だと思う。一袋ですら10個以上超えているし、箱全部を数えたらいくつになる?

3食全部が餅になるのは、この季節だとちょっと厳しい。

 

 

「まあ、俺が預かってきた物だ。まだ時間はあるから何とかするさ」

 

「何か手があるの?」

 

「少しずつ仲間内で配るつもりだ。餅が好きな奴もいるからな」

 

 

あいつが一番たくさん持って帰ってたしな、と父さんは笑っている。

どうやら父さんは知り合いにおすそ分けするつもりらしい。真夏が近づくこの時期だし、あの時の餅は消化しきっているだろうと踏んでるみたいだ。

それなら、こちらにもいい考えがある。

 

「父さん、私もおすそ分けしたいんだけど。ちょっと多めにもらっていいかな?」

 

 

 

 ――― ◇ ―――

 

 

 

お父さんから許可をもらった後の、次の練習日。私たちはいつものように4人で集まっていた。

私の最高の相棒、こはね。

最近一緒に組んだ昔からの常連の彰人。

同じくチームに加わった、歌は上手いけどちょっと抜けてる冬弥。

『Vivid BAD SQUAD』、全員集合だ。

 

 

「それで、どうしたの杏ちゃん?ご飯は少なめでお願いって言ってたけど……」

 

「ふっふっふ、それはね……じゃーん!」

 

勿体ぶることもないし、さっそく餅の袋を取り出した。

予想通り、3人とも目を丸くしている。

 

 

「これって、餅じゃねえか?」

 

「そ。実は父さんの店でイベントで使わなかった分があったの。それでおすそ分けしていいってことになったんだ。折角だからさ、皆で一緒に食べない?」

 

 

ドンッと袋に入った餅の山を見せると、彰人も言葉を失っていた。

……実は結構大変だったんだよね、重かったし。

 

 

「お餅がこんなにたくさん……」

 

「しかし何故、謙さんの店に餅が残っていたんだ?餅は正月でないと食べる機会がそう無いと思うんだが…」

 

「それがさ、正月にストリートで餅まつりがあったでしょ?その時に多く持ってきすぎて調理してないのが余っちゃったの。どう使うか迷ってるうちに忘れてたみたい」

 

「ああ、あの時のか。あんだけ人が来てたのにそれでも残るって、どんだけ餅用意してたんだよ」

 

「餅まつりか。俺はあの時行けなかったんだが、そんなに来ていたのか?」」

 

「ああ。餅つきの列に加えて歌唱力対決で人が集まってた。謙さんも顔を出して普段じゃ見られないドリームマッチもあったし、口コミで来る奴もいたくらいだ」

 

「謙さんが?そんなタイミングに出られなかったなんて……」

 

 

彰人が来ていたなんて。

私は父さんの手伝いや餅つき、それからステージに集中してたから気づかなかった。歌ってたら覚えてるはずだし、早めに帰ったのかな。

冬弥はちょっと悔しそうだ。

 

 

「それでこの餅の話だが、俺はもらいたい。謙さんにはいつもお世話になっているからな」

 

「私も、杏ちゃん。袋はこれで良いかな?」

 

 

冬弥とこはねはオッケー。残るは一人。

続けて顔を向けると、たじろぐ表情が目に入った。

 

 

「分かってる、俺も食べるって。俺が考えてたのはどうやって食べるかってことだ」

 

「確かに、誰の家で食べるんだ?餅を一緒に食べるとなると、キッチンを借りないと難しそうだが」

 

「私の家は難しいかも……」

 

「まさか、外で焼くつもりか?バーベキューセットの使える場所で」

 

これからますます暑くなるぞ、と太陽をにらむ彰人。どうしよう、と悩むこはね。

でも、そこは作戦を考えてあるのだ。

 

「大丈夫だって。私たちには、ぴったりの場所があるでしょ?」

 

「!なるほど、その手があったか」

 

ポケットから出して画面を見せると、3人とも納得の笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 ――― ◇ ―――

 

 

 

光が収まるのを感じて目を開ける。

目の前には広がるのは、もう見慣れた街並みだ。

 

今年の春、チームを結成した私たち4人が行けるようになった不思議な場所、"セカイ"。

原理はよく分からないけど、空気が違うのか気温も少し違って過ごしやすい。ここなら他の人は入ってこないし、何より一緒に食べる人もいる。

ちょっと歩いたら、すっかり見慣れた看板にたどり着いた。

 

 

「あら、いらっしゃい。今日は4人とも?」

 

「ちょうどいいとこ来たね! 次のじゃんけんで勝ったら、私が10勝目!メイコのスペシャルブレンド、いただきまーす!」

 

「いーや、俺が10勝目を取っていただいちゃうもんね!」

 

 

カフェの扉を開けると、店主のメイコさんが迎えてくれた。

店の中ではリンとレンが椅子に座って、じゃんけん勝負の真っ最中。

いつも仲良しの二人だけど、今日はメイコさんのコーヒーをかけて勝負をしているみたい。

 

 

「あれ?ミクちゃん、今日はお休みですか?」

 

「大丈夫よ。あの子なら、もう少ししたら来ると思うわ」

 

 

こういう時はいつもいそうなイメージがあるけど。でもすぐに来るなら大丈夫かな。

 

 

「メイコさん、あそこにあるオーブンって、今使える?」

 

「ええ、大丈夫よ。でも何に使うのかしら?」

 

「実は、これに使いたいんです。メイコさん、レンくん、リンちゃん」

 

「こはね、これって……お餅?」

 

「またあいこ、ってお餅?」

 

「お餅ってお正月に食べるものと思ってたけど、何だかおいしそうじゃん!どうやって食べるの?」

 

 

メイコさんの声を聞きつけて、二人もじゃんけんを中断してこっちに来た。さっきからあいこが10連続だったから、丁度良かったらしい。

こはねが一番に餅を取り出していたけど、意外と乗り気なのかな。

ひとまずメイコさん達にも事情を説明した。

 

 

「……つまり、これを使ってお餅パーティーをするってこと?」

 

「そう!この量だから、セカイの皆と一緒に食べたらちょうどいいかなって」

 

「もちろん、俺なら10個は食べれるよ!」

 

「そんなに食べたらお腹壊しちゃうでしょ、レン」

 

「ふふ、そういうことならいいわよ。皆で食べましょう」

 

 

セカイの皆にもお餅が余った経緯を話したら、やはり皆乗り気みたい。

リンのはしゃぐ姿にレンはため息をついてる。でも食べたそうにちらっと視線を向けているのはバレバレ。

 

 

「ただいま、メイコ。皆盛り上がって、どうしたの?」

 

「ミクちゃん、今日はこれを持ってきたの。一緒に食べる?」

 

丁度いいタイミングでミクも戻ってきたみたい。

こはねが餅を見せると、どうやらこっちも乗り気らしい。にんまりとほほ笑んでいた。

 

 

 

 ――― ◇ ―――

 

 

 

「オーブンを使うなら、今回は焼くのかしら?」

 

「うん。餅と言ったらやっぱりこれでしょ」

 

 

餅は煮たり揚げたり、色んな方法で調理できるけど、今回はシンプルに焼くプランだ。

下準備として、まず餅を電子レンジで30秒を2回かけて温めておく。

その間に、大きめに切り取ったアルミホイルをくしゃくしゃに丸めて広げ直す。

 

 

「白石、それは餅の下に敷くアルミホイルだろう?一旦丸めて大丈夫なのか?」

 

「こうするとアルミと餅の触れる面積が減って、くっつきにくくなるんだって。アルミをはがす手間が省けるって、母さんが教えてくれたの」

 

「自分で作った餅や出来立ての餅を使うときは特にそうね。はがしやすくするための工夫かしら」

 

 

メイコさんの補足に、ぽかんとして目を見開くオーブン担当の冬弥。まあ人によって分かれるらしいし、最近はそもそも食べない家も多いと聞いたことがある。

 

そう言っているうちにピロリンとレンジが止まった音。

餅にそっと触れるとほんのりあたたかい。この餅をトースターに入れて、1200Wで5分にセット。

焦げ付かないように、時々見張らないとね。

 

 

 

机に戻ると、トッピングの準備が進んでいた。

醤油、砂糖醤油、海苔にきなこ。

普段このカフェには置いてないはずのものまで、どうしてここまで揃ってるんだろう?

 

 

「このくらいの大きさで切るの?こはね」

 

「うん。そのくらい海苔を折ったら、この線に沿ってはさみを入れるの。そうするとほら、小さな刻み海苔の出来上がりだよ」

 

 

ミクとこはねは二人並んで、一緒に海苔を切り取っていた。

こはねがミクにアドバイスする側で、普段と逆なのがなんだか新鮮。

 

細く小さい刻み海苔と、餅に巻きつけられるサイズの海苔の2種類。

鋏が付いているとはいえ、二人とも両手には海苔の粉がはらはらとくっついている。

ミクは海苔担当に専念しているらしく、他のものには手を出していない。

 

内心でほんの少し、安心した。

実は前に一人でここに来た時、たまたまミクだけ残っていて手料理をもらったことがあった。

出てきたのは、スクランブルエッグらしきものの上に謎のソースをかけた何か。

あの時は一口食べて、美味しいと答えたと思う。

……ミクの名誉のために誰にも話していないけど、正直言って夜まで尾を引いた。

 

 

(あ、まずい。この感じ、あの時の味が)

 

 

思い出すだけで蘇ってきた。いや、今日は海苔しか触ってないし。餅なんだから、きっと大丈夫。

そうだ。彰人はどこだろう。ミクに気づかれないうちに彰人の姿を目で追った。

 

 

 

「いいか、砂糖・醤油・みりんは3:3:1の割合で混ぜるんだ。目分量じゃなくて、きっちり計るぞ」

 

「わぁ彰人、すっごい顔」

 

「歌う時じゃないんだから、もうちょっとリラックスしなよ~」

 

 

もう片方のテーブルでは、彰人がリンやレンと一緒に醤油づくりに夢中になっていた。

話を聞くに彰人は砂糖醤油派らしい。

うちは普通の醤油派だからあまり知らなかったけど、そういう美味しくなる比率があるの?

いつになく真剣な表情に、ちょっと見入ってしまった。

 

机を動かし取り皿を用意したタイミングで、ピコーンとオーブンが止まった音がした。

待ってましたと言わんばかりにオーブンに向かおうとする冬弥を止める。

 

 

「あ、ちょっと待って」

 

「どうした、白石? もうオーブンは止まったようだし、取りに行かなくていいのか?」

 

「余熱で1分熱を通すのがポイントなの」

 

「……そ、そうか」

 

「大丈夫だって。餅は逃げないから」

 

 

しょんぼりしながらも冬弥は腕時計を見ている。終わった瞬間取りに行くつもりに違いない。

1分後、時計から目を離した冬弥と一緒にオーブンの中を覗いてみる。

 

 

「どうだ、白石?」

 

「オッケー。火傷しないように離れて開けよっか」

 

 

火傷しないように離れてから扉を開ける。

あふれ出る熱気の向こうには、ぷくっと膨らんだ餅。目を輝かせる冬弥と一緒にトレーに移し、テーブルへ急いで運びだした。

 

 

 

 ――― ◇ ―――

 

 

 

「よし、準備オッケー?」

 

「では改めて、いただきます!」

 

「いただきます!」

 

 

 

合図と同時に、一斉に餅に手を伸ばした。

 

私は醤油。

こはねとミクは刻み海苔。

彰人とリン、レンは砂糖醤油。

冬弥は海苔巻き。

メイコさんはきなこで味付け。

 

……あれ、醤油派は私だけ?まぁいっか、私も食べよう。

 

 

「メイコさん、おかわりいただき!」

 

「あら、もう?たくさん食べるのはいいけど、喉に詰まらせないようにね」

 

 

おかわりの餅を取るレンに、笑顔のままメイコさんがやんわりと釘を刺す。

バーチャルシンガーでも、喉に餅を詰まらせたら大変なのは一緒らしい。

 

口いっぱいに頬張ろうとするレンを見て、メイコさんがまたオーブンへ向かう。

手伝おうと立ち上がった冬弥と一緒に、持ってきた餅を並べていた。

 

 

「ありがとう杏ちゃん。これ、とっても美味しい!」

 

「えへへ、こはねに喜んでもらえたら私も嬉しいな。これは父さんに感謝かも」

 

 

こはねは刻み海苔に加えて、醤油も足している。

あれって磯辺焼きっていうのかな。ふと考えていたら、こはねが私のお皿を見つめていた。

 

 

「杏ちゃんが食べてるのは醤油味?」

 

「そうそう、うちは素の醤油をつけて食べてたから。こはねの家は刻み海苔を使うの?」

 

「これはちょっと調べてみたの。正月はお雑煮だったよ。野菜も一緒に取れて食べやすいって評判を聞いて、お母さんが作ってたんだ」

 

「いいなぁ。うちは基本、餅と言ったら焼くだけだもん。お雑煮って、ほうれん草とか鶏肉とか、色々入っているでしょ?」

 

「大根やかまぼこもあったよ。でも私はこっちも好きかも。焼いた餅はあんまり食べなかったから、とても久しぶりに感じるんだ」

 

 

こはねの満面の笑みに胸が熱くなる。餅はまだ沢山あるはずだし、焼くだけじゃもったいない。お雑煮の出汁と野菜、今度買ってみようかな。

人参が入ってたら彰人は怒りそうだけど。

 

 

「……それにしても、いつもパンケーキが乗っている皿にお餅が乗るってのもなんだか新鮮だな」

 

「あ、取りやすい皿を私が取ってきたんだ」

 

 

当の彰人は器用に割り箸で餅を切りながら呟いていた。

言われてみればこのお皿、ふちや形に見覚えがある。普段リンやレン達が使っているものとデザインが同じだ。

 

 

「いや、このサイズの方が一気に3個くらい乗せられるし助かるぜ」

 

「英語で餅はrice cakeと言うしな。あながち間違いでもないんじゃないか?」

 

「まあ、そう言われりゃそうだけど」

 

「形違いすぎじゃない?」

 

 

そう言えばそんな単語あった気がする。英語のイメージに合わなさ過ぎて逆に覚えてた。

あ、英語の小テスト来週だっけ。

……今は忘れよう、うん。後で思い出せばいいし。

 

その時、再びオーブンのアラームが鳴る。今度はレンがメイコと一緒だ。

やけどしないように恐る恐る、おかわりの分をレンとメイコさんが持ってきた。でも前と匂いが違う気がする。

 

 

「この匂い、もしかしてチーズ入りか!」

 

「ビックリだよメイコ!ピザがいつの間に?」

 

 

餅の上には溶けたチーズが広がっていた。確か餅チーズっていうんだっけ。

どろりと揺れるチーズが食欲をそそる。

喜びの声を上げる彰人とレンに、メイコさんがにっこり笑っていた。

 

 

「ちょっと材料が残ってたからやってみたのよ。ミク、ちょっとその箱を持ってきてくれる?」

 

「持ってきたけど、これってアイスクリーム?」

 

「ええ。これをちょっと取ってから餅にのせて巻くと、餅アイスの完成ね」

 

「わーっ! 私それ食べたい!」

 

 

クリームソースに溶けて広がったチーズとトマトソース。とろけるバニラアイスが熱で馴染んでデザートみたい。

メイコさんの魔法みたいなアイディアで、餅のバリエーションはどんどん広がる。

気づけば持ってきた分が全部なくなって、また持ってくることを約束していた。

 

 

 

 ――― ◇ ―――

 

 

 

餅はまだまだ残っていたから、何回かに分けて楽しく食べることになった。

 

リンとレンは餅アイスの味を巡ってジャンケン大会を始めたり。

冬弥は餅チョコや餅パンケーキを始め、新たなバリエーションに目を輝かせたり。

ミクがケチャップや料理酒を混ぜた謎のソースを作ろうとして、私がこっそり止めたり。

こはねがメイコと一緒にお雑煮を作ってくれたり。

彰人が珍しくほっこりとした顔で餅グラタンを完食したり。

 

最終的に、賞味期限が切れる前にお餅は全部なくなるのだった。

父さんも街の人や昔の友達におすそ分けしたらしいけど、私が何度も持っていくのにびっくりしていたのは別の話。

 




おまけ

「次の正月になったら、みんなで一緒に餅まつりに行きたいなぁ。絶対こはねも気に入るよ!」

「あ、杏ちゃん、まだ半年もあるから……。でも、私も見てみたいな。ミクちゃん達も一緒に見れるかな、ラップバトル」

「確かにミク達にも見せたいな~。バーチャル部門とかあったら参加できるのに」

「本当にあったらビックリしちゃうかも。対決が出来たら楽しそう!」

「そうだね、もし出たら手加減はしないよ?二人がかりでかかってきてね」

「言ったな~?私たちが組んだらミクにも負ける気はないからね!」
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