セカイのごはん   作:千里のみち

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ひょんなことから、思わぬ苦難に見舞われる一歌のお話です。



焼きそばパンの消失

 

「そういえばいっちゃん、何かあったの?」

 

そう聞かれたのは、お昼に4人で集まったときのことだった。

唐突な発言に志歩と穂波の視線が集まる。

 

 

「何か気になることでもあったの、咲希?」

 

「気になるほどじゃないんだけど、授業中のいっちゃんが元気なさそうだったから。今日のお昼もレタスサンドだし」

 

 

咲希に集まっていた視線が、今度は私の手元へ方向を変える。

手に持っているのは購買の野菜サンド。レタスが中心になっていると評判の、新発売の一品だった。

 

 

「この間セカイに行ったとき、寝言で『焼きそばパン様~だいすき~』って言ってたいっちゃんがだよ?焼きそばと全く関係ないサンドイッチを食べてるし。一体何があったのかなって」

 

「ちょっと、嘘!そんなこと言ってたの!?」

 

「うん、ミクちゃんとリンちゃんが教えてくれたんだ。とっても可愛かったって」

 

「よりにもよってミクに見られたなんて、うう……」

 

 

確かにちょっと前、新曲の練習の為にセカイでひたすら練習をしていた。

やりすぎてちょっと寝ちゃったような気もするけど、そんなことを言ってたなんて。

ミクたちに見られたのも咲希に知られたのも、どっちも恥ずかしくて小さくなりそう。

 

 

「大丈夫だよ、一歌ちゃん。寝言でも出るくらい、焼きそばパンが大好きでたまらないってことじゃないかな?」

 

「う……」

 

「穂波、それフォローになってないんじゃないの?まあ、いくら好きでも夢の中にも出るとは思わないけどさ」

 

 

心配してくれるのはわかるけど、寝言という言葉が突き刺さる。

志歩の言葉も優しい追い打ちのようで、今日の朝からの悲しみがあっさりと吹き飛びそうだ。

 

 

「ごめんいっちゃん、落ち着いた?オレンジ、一つ食べる?」

 

「大丈夫、咲希。寝言のことは、今度リンたちと話し合っておくから」

 

「ちょっ、ちょっと、リンちゃんたちを責めるのは」

 

「なんてね、冗談だよ。そう慌てないでって」

 

「……それで、結局何があったの一歌?咲希じゃないけど、集まった時から何だか様子が違うとは思ってたから」

 

「えっ、志歩も?やっぱり、顔に出るのかな」

 

「一歌の悩んでいることで私たちが力に成れるのかは分からない。でも、相談に乗ることくらいはできると思う」

 

どうやら逃げられないらしい。でも真っすぐな瞳で見つめられるほど私は恥ずかしくて言いづらくなった。

だって私の問題は相談するとかしないとか、そんな重大なものじゃなかったから。

思わず目をそらしそうなところで、恐る恐る口を開こうとする穂波と目があった。

 

 

「一歌ちゃん。もしかして、だけど」

 

「どうしたの、穂波?」

 

「今日落ち込んでたのは、その。購買の焼きそばパンが品切れって聞いたから?」

 

「えっ?」

 

「いっちゃん?」

 

「……」

 

 

穂波には、知られていたらしい。多分他の人から聞いていたのかも。

誤魔化せないしもうこうなったらヤケだ。

 

 

「……そうだよ。コンビニも購買も、全部焼きそばパンが品切れだったから」

 

 

恥ずかしいし言いたくなかったけど、二人にも話すしかない。

 

 

 

 ――― ◇ ―――

 

 

 

『あれ、焼きそばパンがない』

 

事の発端は、朝食の時に焼きそばパンがないことに気づいたことだった。

 

 

『お母さん、ここにおいてた焼きそばパン知らない?』

 

『焼きそばパンなら昨日の夜食べてたじゃない。あれが最後の1個じゃなかった?』

 

『あ、そうだったかも。途中で買おっかな。ありがとうお母さん』

 

 

言われてみれば練習に集中する前に活を入れようと、焼きそばパンを開けたのを思い出した。

あれが最後の1個だったなんて迂闊だった、もっと買っておけばよかったかも。そんなことをのんきに考えていたんだ。

 

 

『じゃあ行ってきまーす』

 

『傘持った?天気予報だと雨になるからね~』

 

『ちゃんと持ってるから。大丈夫』

 

 

折り畳み傘は既に入ってる。

どのコンビニで買おうかと考えながら、いつもの様に家を出た。

 

雲行きが怪しくなったのは、コンビニで焼きそばパンを探していたときのこと。

 

駅から学校の間には幾つかのコンビニがある。焼きそばパン巡りで何度か行ったことあるから、道も把握済み。

さっと買って学校へ向かう、そのはずだった。

 

 

(なんで?)

 

(焼きそばパン、なんでどこにもないの?)

 

 

学校に近いコンビニを出た時、思わず立ちすくんだ。

 

いつもなら売っているはずの焼きそばパンは無くなっていたのだ。

食パンは少しだけ残っていたけど、焼きそばパンは無し。どこに行ってもないから流石に何かおかしいと思って店員さんに聞くと、雨による土砂崩れと複数の通行止めの影響で運送用トラックが遅れているらしい。

在庫分も既に切れていて、店頭に並ぶには時間がかかるとのこと。

 

もっと探したかったけれどスーパーはまだ開いていないし、何より登校時間が迫っている。その時は学校に向かうことを優先したのだ。

 

 

(学校には購買がある。そこならきっとあるはず)

 

 

 

『……うそ』

 

 

休み時間に駆け込んだ購買で待っていたのは、非情な現実だった。

いつも置かれている場所には『品切れ』と書かれた札。同じ理由でこの購買も、品物の到着が遅れているらしい。

しかも明日は購買の定休日。店頭に並ぶのは更に後になりそうだ。

 

 

『あ、あの……焼きそばパンはありませんが、野菜サンドはありますよ?』

 

 

もし店員さんが声をかけてくれなかったら、立ち直れなかったかもしれない。どうにか野菜サンドを買って、授業が始まる直前に教室へ戻った。

次の授業は数学だったけど、ショックが大きくて集中できず。当てられなかったのは幸いだった。

 

 

 

 ――― ◇ ―――

 

 

 

「まあ、こんな感じかな。ほら、大したことじゃないでしょ」

 

「いや顔色どんどん悪くなってるけど!?本当に話して大丈夫だったの!?」

 

 

話し終わると、咲希は大慌て。そんなに変だったのかな、と思い返していると志歩が呆れたようにため息をついていた。

 

 

「はぁ、ふたりとも大げさすぎ。品切れや入荷待ちなんて購買じゃあることだし、そこまで落ち込むことではないでしょ」

 

「……そうだね。最近は焼きそばパンが当たり前の生活になっていたし、急な変化に追いつけなかったのかも」

 

「一歌ちゃん、ずっと焼きそばパン持ってきてたもんね」

 

 

これまで焼きそばパンが奇跡的に無事だっただけで、いずれこうなる可能性はあった。それに毎日焼きそばパンを何個も食べ続けているのは、行き過ぎていたのかもしれない。

おやつ代わりの焼きそばパン。気合を入れるための焼きそばパン。

お母さんからちらっと言われたけど、食事量は相当増えていたはずだ。

 

 

「これを機に、少し回数を抑えようかな。太ったら大変だし」

 

「確かに、体力を落としたらバンドの活動にも影響するから。早い内に気を使った方がいいかも」

 

「……志歩ちゃん、どうして私をそんな目で見るの?」

 

「ほなちゃんが持ってる、アップルパイの数が増えてる気がするんじゃない?今日も持ってきてなかった?」

 

 

今後のメニューを考え直そうとしたら、思わぬ方向に話が飛んでいた。

確かに穂波が別のケースで持ってくるアップルパイの数が妙に多いとは思っていたけど。突然の飛び火に穂波は慌てて首を横に振っていた。

 

 

「違うの!これは作りすぎただけで、その、うっかり持ってきちゃっただけだから!それに咲希ちゃんも、弁当のほかにチョコドーナツを食べてない?」

 

「え!?いや、これはその、頑張った自分へのご褒美というか……」

 

「この間、司さんからおやつ食べ過ぎって怒られたんでしょ。学校なら目が届かないし大丈夫って算段なわけ?」

 

「わーわー!それは内緒だってば!」

 

呆れ顔の志歩、口止めしようとする咲希、こっそりアップルパイに手を伸ばす穂波。

何だかその光景が可笑しくって、いつもと違う昼食の野菜サンドも味わえるような気がした。

 

詳しくは知らないけれど、この野菜サンドは学生からの要望を受けて開発されたらしい。

レタス、トマト、細めのキャベツ。野菜がたっぷりで、ツナの油も控えめ。

口の中が重たくならないのがポイント。パン生地も厚めで食べ応えがあるし、新商品ながら人気なのも納得。

これなら、また買ってもいいかも。ほおばった口の中に野菜の滑らかさがしみ込んだ。

 

 

 

そうしている内に咲希も落ち着いたのか、残り僅かな弁当に箸を伸ばしていた。

穂波はもう隠す必要もないのか、堂々とアップルパイを手に取っている。

 

 

「そういえばほなちゃんのアップルパイ、家で作る分もお店で買う分もあるの?」

 

「うん。昨日はお店で売り切れてて……。そういう時は家で作るようにしているの」

 

 

穂波は料理が得意だ。弁当箱も自分で詰めているって聞いたけど、かなり綺麗な並び方になってる。

今はお手伝いさんとしてのアルバイトもあるって聞いたけど、そこでも作っているのかな。

 

 

「時間がかかるから何時もはないけどね。パイ生地は何度も折り込んで、フィリングにもとろみをつけたり。準備も沢山あるもの」

 

「生地から!? 本格的……。パイ生地シートとか使うんじゃなくて?」

 

「もちろん、忙しいときは市販のも使うよ。でも、生地から作るとやっぱり食感が違うから。私はそっちのほうが好き」

 

 

にこりとほほ笑みながらまた一口食べる穂波の顔は幸せそのもの。

きっと穂波なら、アップルパイが1週間品切れでも自分で作って持ってくるに違いない。

 

 

(……待てよ?)

 

「そっか、その手があった」

 

「いっちゃん?」

 

 

そうだ。明日も焼きそばパンが手に入るか分からないというのなら。

自分で作ればいいじゃないか。

 

まるで天啓のようなひらめきだった。なぜ今まで気づかなかったんだろう。

これで欲求に振り回されることもなくなるし、バンドの練習にも集中できる。

みんなにとってもプラス。完璧だ。

 

よし、そうと決まれば帰りはスーパーに寄ろう。

必要になるのは焼きそばの材料とコッペパンだったはず。作り方も忘れずに調べておこう。

咲希たちの怪訝そうな表情をよそに、私は頭の中で料理の算段を立てていた。

 

 

 

 ――― ◇ ―――

 

 

 

放課後の練習が終わった帰り道。

普段ならそのまま帰るか、CDショップに寄るところだけど、今日はスーパーへ行く。足りないものを買ってきて、とお母さんから連絡が来たのも丁度良かった。

 

目指すのは焼きそばの材料とコッペパン。それからお母さんに頼まれた調味料。

まさかとは思うけど、どちらも売り切れていませんように。

 

店の中に入ると、軽快な音楽が流れていた。

確か、何年も前に海外アーティストが発表した曲だった気がする。ミクの曲が今日は流れてないけど仕方ない。

まずはお母さんから頼まれたものを探す。

広告の商品だからすぐに見つかったけど、念の為に量やメーカーを確認しておいた。

 

続いて本命、焼きそばパンの材料だ。

生鮮食品のコーナーで、豚肉、キャベツ、にんじんを少しずつカゴに入れる。パン1個あたりに使う量を考えるとたくさんは要らない。何となく色合いが悪くなさそうなものを選んでおいた。

 

残るは焼きそば用の麺、それからコッペパン。先に麺類のコーナーに行くと、多種多様な焼きそばが置いてあった。

こうして見ると、メーカーによって麺の太さも色もけっこう違う。いつもの焼きそばパンを思い浮かべながら、細めの麺が入ったパックを選んだ。

最後にパン売り場。具がたっぷり入る方が嬉しいし、なるべく大きめのコッペパンにしたい。

 

 

 

「ただいまー」

 

「おかえり、一歌」

 

 

家に帰ると、お母さんはもう晩ごはんの準備中だった。

茹でる前のほうれん草もあるし、さっき買ってきた調味料も使う予定だったみたい。焼きそばパンの話は後回しにしてまずはお手伝い。

 

今日の晩ごはんは、焼き魚、ほうれん草のおひたし、ポテトサラダ。

作り終えた頃、ちょうどお父さんも帰ってきて、家族みんなでそろって夕食に。

 

ごはんの途中、いいタイミングを見計らって、焼きそばパンのことを切り出してみた。

晩ごはんの後と、明日の朝ごはんの時。台所で作っていいかどうか、どんなことをするのかも含めてプレゼンテーション。

厳正なる10秒の審議の結果は。

 

『作ってもいいわよ。その代わり、片付けはしっかりとしてね』

 

正式に許可が下りた対価は、その日の皿洗いだった。

 

 

 

 ――― ◇ ―――

 

 

 

たまっていた洗い物を片づけて、ようやく焼きそばパン作りの時間だ。

今日は焼きそばの部分だけ作る。焼きそばのソースがしみ込んでしまわないよう、パンを作るのは明日の朝。

 

まずは豚肉、にんじん、キャベツをそれぞれ刻む。

 

 

(完成のイメージは……あのパン屋さんで売ってる焼きそばパンがいいかな)

 

 

オーソドックスな、パンの切れ目に焼きそばを詰め込むタイプ。

『麺は小さめに切るのがおすすめ』とレシピには書いてあったので、小間切れにならない程度の大きさにしておいた。

 

すべての具材を切り終えたら、フライパンに少量の油をひいて加熱。

こういうのは火の通りにくい順からだったはずだし、豚肉、にんじん、キャベツの順に投入する。火力は中火以上、水分が出すぎないよう、気をつけながら炒めていく。

 

野菜に火が通ったところで、焼きそばの麺を加える。

そのままでは固くいままだったので、少し水をかけるとするりとほぐれた。

 

 

(せっかく自分で作るんだし、ちょっと高めのソースを使ってもいいよね)

 

 

麺がバラバラになったところで、買ってきた液状の焼きそばソースを投入。先にかけた水分と混ざって、麺や具材に馴染むのが分かった。

ジュワッと香ばしい匂いが立ちのぼり、換気扇を回していても台所中に広がっていく。思わず焼きそばだけ食べたくなっちゃうけど、晩ごはんを食べたばかりだし我慢しないと。

 

しっかり炒めて水分を飛ばしたら、焼きそばは完成。

皿に移したらラップをかけて、冷蔵庫にしまっておく。

約束通り、使ったフライパンやまな板も忘れずに洗っておく。泡付きのスポンジで洗いながらも、続きが待ち遠しくてたまらなかった。

 

 

 

翌朝。今日は少し早めに起きた。

キッチンへ行くとお母さんたちはすでに起きていて、朝ごはんをとっていた。

 

 

「お母さん、昨日買ったコッペパン、使ってないよね?」

 

「大丈夫、開けてないわよ。そこにあるからね」

 

 

昨日のうちに話していたけど、念のためパンの袋は棚の奥にしまっておいた。

まだ時間もあるし、ゆっくり準備を進めよう。

 

まずは冷蔵庫から、昨日作った焼きそばを取り出す。

しっかりラップをしておいたおかげで、麺は乾燥していない。

 

 

(肉がちょっと固そう。昨日焼きすぎちゃったかな?)

 

 

とにかくこのまま詰めると冷たいし、電子レンジで軽く温めよう。

 

焼きそばを温めている間にコッペパンの準備を始める。

まずは包丁で、焼きそばを詰めるための切り込みを入れる。

手を切らないよう慎重に、パンの底を傷つけないよう、上からも横からも様子を見ながら少しずつ開いていく。

およそ三分の二ほど切れたところで包丁を引き上げる。

 

 

(ここに焼きそばをたくさん入れられるって思うと、なんかワクワクしてきたな)

 

 

2個分の切り込みを終える頃には、電子レンジもちょうど止まっていた。

焼きそばを取り出し、今度はパンを少しだけ温める。細かい設定はよく分からないので、食パン用のオーブン設定で2分ほど。焦げさえしなければ大丈夫なはず。

 

数分後、焼きすぎることなくほんのり温まったパンを取り出す。

表面が少しだけカリッとしていて、手触りもいい感じ。あとは焼きそばをパンに詰めるだけ。パンを平らな皿の上に並べて箸を手に取った。

 

箸で少しずつ焼きそばを取り、切り込みを入れたところに詰めていく。

麺が長いとはみ出してしまうので箸で短く切りながら調整する。

 

 

(力を入れすぎるとパンが破れてしまう、だっけ。力を入れすぎないよう慎重に、っと)

 

 

野菜やお肉もまんべんなく分けて、パンの切り込みへ少しずつ重ねる。

詰めるたびにパンの表面がしわしわになるけど、いつもの焼きそばパンに近づいているように思えてむしろ楽しくなる。

 

 

(あ、危ない。もうちょっとで焼きそばこぼすところだった……)

 

 

アクシデントもあったけど仕上げに青のりをふりかけて、ようやく2個の焼きそばパンが完成。

初めての手作りは思ったより時間がかかって、早起きした分もすっかり消えていつもと同じくらいの時間になっていた。

これほど手をかけるものをいつでも作れる穂波はやっぱりすごい。アルバイト先でも料理をするって言ってたし、経験の重要さを実感する。

 

手短に朝の支度を終えて、焼きたての温かさがほんのり残る焼きそばパンをケースに入れる。

 

 

「いってきまーす!」

 

「いってらっしゃい」

 

 

深夜に降った雨はもうやんでいたみたいで、雲から太陽が顔をのぞかせていた。

 

 

 

 ――― ◇ ―――

 

 

 

午前の授業が終わって、お昼の休憩時間。

昨日と同じように今日も4人で集まることになった。

 

 

「いっちゃん、これってまさか、手作りの焼きそばパン!?」

 

「うん。購買は定休日だし。売り出されるまでは、自分で作ってみようかなって」

 

 

ケースのフタを開けると咲希がいち早く気づいて目を輝かせた。

まだ一口も食べていないのに、その姿だけでもう満たされたような気持ちになる。

 

 

「そこまでこだわるなんて……昨日も、野菜サンド美味しそうに食べてたはずだけど」

 

「でも私、一歌ちゃんの気持ちわかるかも。私だってアップルパイは毎日食べたいもん」

 

「食べたいっていうか、実際毎日食べてるでしょ。でも自分の好きなものに置き換えたら、なんとなくわかるかも」

 

「あはは、そろそろ体も気になってきたし。毎日にするかは考え直すつもりだけどね」

 

 

苦笑しながら微笑む志歩と何だか楽しそうな穂波。焼きそばパンに釘付けの咲希。

その輪の中で私も自然と笑顔になって、焼きそばパンを手に取った。

 

焼きそばがこぼれないよう、両手でそっと持ち上げる。

お店のとは違って詰め方にムラはあるし、油断すると麺がずれ落ちてしまう。

ゆっくりと水平に、落とさないように。

 

 

「なんか、ホットドッグとか新作バーガーのCMみたいだね」

 

 

言われてみると、確かにそうかも。まずは一口、かぶりついた。

 

焼きそばソースのちょっぴり甘い味。細い麺の弾力ある食感。切り込みからソースのしみ込んだパン生地の柔らかさ。

朝に作ったから少し冷めているけど、味はしっかり残っている。

 

二口目を頬張る。

肉と野菜、海苔が絡みあった焼きそばの本領発揮。

麺が多めの商品とは違って、柔らかさだけじゃない。固めの野菜と肉、具材の噛み応えが味の幅を広げる。

キャベツのシャキッとした歯ごたえもちゃんと残っている。

 

 

(あ、また麺がこぼれそう)

 

 

慌てて戻して、残りをこぼさないように集中。

体が自然と焼きそばパンを求めてるみたいだ。こぼれる前に、食べきっちゃおう。

 

 

 

気づけば、焼きそばパンは2個ともきれいになくなっていた。

どうやら食べきってしまったらしい。もっと作ってきたらよかったかも。

この瞬間の為に、昨日から頑張った甲斐があったと思う。それくらい美味しかった。

今回はスタンダードな焼きそばを使ってみたけど、トッピングも合わせて研究の余地がありそうだ。

 

そういえば3人ともまだ半分も弁当食べてないけど、どうしたんだろう?

みんなそろって顔を見合わせている。

 

 

「何だかあっという間だったね…」

 

「すごい、食べっぷり」

 

「志歩ちゃん……。一歌ちゃんも、のど詰まらせないようにね」

 

 

 

 ――― ◇ ―――

 

 

 

2日後。

 

「あ、焼きそばパン!」

 

コンビニにも購買にも焼きそばパンが再び並びはじめた。

店員さんによると、ようやく流通の目処が立ったらしい。数はまだ少ないけど、少しずつ元の状態に戻るそうだ。

 

これで、自分で焼きそばパンを作るのは一旦おしまい。

自分で作って思ったけど、これを毎日続けるのはちょっと大変。パンが長期保存できるのかも分からないし、やっぱり手軽に買えるのは大きい強みだ。

 

でも……もし手に入らなくなったときは。

そのときはまた、自分の手で作ってみようと思う。

 

 




おまけ

「でもすごいなぁ、いっちゃん。ほなちゃんもこの間作り方をおしえてくれたし、アップルパイと焼きそばパン、どっちを作るか迷っちゃうよ~」

「それ、前も言ってなかった?作るのはいいけど、食べてばかりいると太るよ?」

「部活でちゃんと運動してるから大丈夫だって。それに食べすぎるとお母さんに怒られちゃうし」

「ふふっ、今は練習もあるし、夜遅くまで6ピース食べなければ気にならないと思うよ」

「(6ピースって穂波、まさか体験談じゃないよね?)」
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