まじこい的な何かを書こう   作:津谷 桐矢

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 ま、全くけしからん!!

「こ、小島先生どうかしましたか?」

 私は動揺を隠しきれぬまま職員室へと戻ると、同僚の宇佐美先生が『待っていました』と言わんばかりに話し掛けて来た。いつもの事だがどうにも……

「いえ、何でもありません」

 言える訳が無い。あの川神徹と先月交際を始めたと耳にしている矢場弓子が、し、神聖な部室で……

 私はついあの光景を思い出し大きな溜息を吐いてしまう。

「やはり何かあったのでしょう。出て行った時と様子が違いますよ」

 はぁー宇佐美先生の言葉も良く耳に入らぬまま再び溜め息が口から出てしまう。困った物だ…

「い、如何でしょう。そんな時はお酒でも飲んで明日の勤労意欲を養いませんか?」

 例の如く私を飲みに誘う…か。まあ、たまにはいいか……酒を飲んで忘れる。大人の特権かな……

「分かりました。それでは飲みに行きましょう」

 その時の宇佐美先生の顔はとても嬉しそうな表情であったと思いたい。

「おや、飲みに行くのでおじゃるか?それでは麻呂も参加するでおじゃる」

「おっ、いいですネ。私も参加しますヨ」

 今日は誘わずとも参加者が増えるか…はぁ、今日はたくさん飲もう。それで又、孤門先生に相談しよう……

 

 

 

 

 

 徹と弓子は梅子のカミナリによって冷静となった為、学園を出たて程良い付き合いへと戻った。それでも別れを惜しむように二人は少し遠回りしながら家路に着いている。

「成程な。本当、京には感謝しないと」

 弓子はあの場で話せなかった椎名京の言葉と行動を徹に語る。

「うん、本当に椎名さんには感謝しないといけないわ」

 そして以前は、ほど良い距離間で移動していた二人は腕を組んで歩くようになっていた。

 もう直ぐ訪れる春休み、徹は新二年生として、弓子は新三年生と言う立場である。前者は割とゆったりとした学生生活を送れる学年に、後者は責任のある立場へと進むことで余裕のある時期は僅かである。

「春休み何処かに行きたいね」

 徐に話す徹に弓子もそう考えていたのか同意する言葉を発する。

「そうね。とはいっても部活が有るから二日ほどかしらね」

 彼女もどうして、大胆になったものだと徹は思った。日帰りでと彼は考えていたのだが予想を超えた言葉に嬉しさが込み上げる。

「そうか。日帰りでも良かったけど。泊りも有りか…それじゃあ日も差し迫っているからなるべく早く考えよう」

 徹の言葉に漸く自身の述べた事がどれだけ大胆であったかを思い知り顔を赤める弓子であった。

 

 

 

 

 

 その日の帰り、別れ際に徹はさり気なく彼女の頬にキスをすると別れ、其々の家路に着く。

 そして徹はそのまま川神院へと戻ると取って返す様に島津寮へと足を向ける。

「やあ、いらっしゃい徹」

 出迎えたのはクッキーであった。

「こんばんはクッキー大和は居るか?」

「居るよ。今は日課の勉強をしている筈さ」

「そうか。はいこれ差し入れね」

 そう言って家に有った葛餅をクッキーに差し出して徹は大和の部屋に向かう。

 彼の目的は決して大和では無い。しかし、大和の下へ向かうには訳が有った。

 

「やっぱりここにいたか京」

 襖を開けると大和は机向かい勉学に励み、京は壁にもたれ掛かり小説を読むと言う光景が目に入った。

「どうしたんだ。こんな時間に?」

 大和の第一声がこれである。机に置かれたデジタル時計が二十時半を示していた。

「ん、京にお礼をな」

 徹の言葉で分かるのは京だけである。

「お礼は実のある物でお願いします」

 その言葉に対し大和は嫌な予感しかしなかった。

「ではこれを」

 そう言って徹は徐に一枚のカードを差し出した。

「おい、徹それはっ!?」

 大和は奪う様に手を出そうとしたところで運悪く京に先を越された。

「こ、これは……」

 京は両手で恭しくカードを頭上に掲げた。そこにはとある文言が記されている。

『なおえやまとがなんでもいうことをききます』

 まだ拙い文字で書かれた文章も京にとって効果は絶大である。それと共に未だ効力の失効していないそれに大和はがっくりと肩を落とすのであった。

「少し考えたが、京にはこれが一番いいかと思ってな」

「間違いない。本当に感謝だよ、徹」

 これは嘗て大和がファミリーの男衆に渡していた何でもカードであった。特に誕生日に渡す癖のあった大和は数枚を徹にも渡していた事を思い出した。それと共に過去に戻れたら決して渡してはならないと教えるべき事であった。

 

「はい。徹の差し入れを持って来たよ」

 クッキーが襖を開けて葛餅とお茶を持って入ってきた。大和も勉強どころではなくなり休憩がてらどうしてこの様な事をしたのかを問い質す場へと決め込んだのである。

「それで徹はどうして京にあれを渡したんだ?」

「俺と弓子の間を取り持ってくれたからな」

 平然と京あった事を徹は大和に話しだす。京が部活に参加する事は知っていた。それは大和と徹が梅子に懇願されて説得したからだ。しかし、それ以上に京がファミリーの一員徹にナイスアシストをした話しを聞かされた。

「へーそんな事になっていたのか…」

 お茶を一口飲んだ大和はそう言葉を漏らした。

「ああ、京が俺に電話してくれなかったらどうなっていたか分からなかったよ。本当に感謝しているぜ」

「ファミリーのピンチは見逃せないの」

 然も当然と言う様に京は言うが、少し嬉しそうな表情をしているのを二人は見逃さなかった。

「と言う訳で俺は最上の感謝を京に示さなければならなかった。わかるよな、大和?」

「ホント最高の品物だね。ククッ」

 そう含みのある笑みを浮かべて大和を見た京であった。

「安心しろ。京は本当にお前が嫌がる事はしないからな」

「そうだよ、大和。本当に嫌がる事を私はしないよ」

 本当にと言う言葉を強調した京であった。だが、決まって彼女がその様な顔をしたとき大和にとってよい事等あった為しはなかった事を忘れてはいなかった。

 

 暫く話し込んでいると流石に明日もまだ学校が在ると思い徹は帰宅しようと大和の部屋を辞そうとした時である。玄関が開けられ、同じ寮生の源忠勝が帰って来た。

「お帰り忠勝」

「おう。来ていたのか徹。って、帰るんだな」

「明日が休みなら問題なかったけどな。それじゃあな」

 そう話して徹は島津寮を後にした。

 

 

 

 

 

 翌日は修了式であった。皆が決まって浮かれた気持ちを隠そうとしないのは各教員分かり切っている。しかし、川神学園はそれを正そうとする者は川神鉄心の一言で十分である。

『喝っ!』

 その言葉で気持ちを律する事が出来た。生徒全員が壇上に上がっている鉄心に視線を向け、誰ひとり言葉を発する事はなかった。ただし、場所が体育館と言う事もあり音が響き渡り数名の生徒が運悪く気を失った事は言うまでもない…

『うむ。明日より春休みとなる。浮かれることも分からぬではないが、オンオフを身に着けなさい。さて、来月より皆は一学年上がる。新たな環境で勉学に励み、やりたい事を思う存分やりなさい……』

 川神鉄心の有り難いお言葉を受けながら暫くの時を過ごし修了式を終えるのであった。

 

 そして、教室へと戻れば当然行われるのが成績表を受け取ると言う物である。F組のみならず、各クラス悲喜こもごもであった。

「よかった。五教科オール三だわ!」

 一子は担任の小島梅子から成績表を受け取ると恐る恐る、そーっと折りたたまれたそれを開けた。そしてそこに記されている数字を緊張した気持ちで見やった。

 一学期、二学期は十段階評価となるが三学期はそれに加えて年間の評定が出される。つまり五段階評価で記されるのだ。

「うん。一子はよく頑張ったよ」

「そうだな。よく頑張った。一子」

 京と大和が確りと褒め千切る。尻尾が在れば千切れんばかりであったろう。

 

「徹はどうだったんだ?」

「ほら」

 岳人が何気なく声を掛けた徹に対し、彼は隠しことなく成績表を見せた。

「社会科、日本史以外十…ってオール五ってお前なんだよ!」

 岳人は怒りのあまり破り捨てそうになったのを抑えた。

「なんだって、言われてもな。これが結果だし。日本史は仕方が無いだろう」

 何と言っても日本史はほぼ平安時代しか教えようとしない綾小路麻呂に対し面と向かって文句を言い放ったのが徹であった。以後私怨に近しい事が繰り返し行われる様になった。それが如実に表れるのが成績表の数字である。本来鉄心の耳に入ってもいるが、徹がそれを問題視しなかった事で依然としてこう言った事が行われている。

「だが、いい点取ってもこれは無いよな」

「そうだねって、何なのさこれ!」

 卓也も成績を受け取り岳人と徹の下へとやって来た。そして岳人が見ていた徹の成績表を見てそう思わず突っ込んだ。

「まあ気にするな。俺は別に推薦なんて狙っていないからさ」

 そう言って何てことなしに徹は平然としていた。その姿が余計に器を大きく見せ、人を惹き付ける。

「はあー徹君カッコいいわ」

「チカリンの言う通り系。あーまじ食いてぇ、いや食われたい系~」

 恋人が出来た事を知ってもそう言う類の言葉や行動が減る事はなかった。ただ、付き合いたいと言うのではなく、アイドルの扱われ方であった。

 

 

 

 

 

 放課後はシフトの入るバイト先へと移動した徹は平常通りに仕事をこなし、恒例となる金曜集会の為にお店のケーキを幾分多めに購入し基地と呼ぶ廃ビルへと文字通り跳んで移動するのであった。

 徹が入室するとそこには百代と京に襲われる大和と両手で目元を隠す一子。羨ましそうに眺める岳人と苦笑いしながらも確りと京を見つめる卓也の姿であった。唯一翔一が居ないのだが、出席日数を確保し、テストを受けた後、旅に出ていると言う自由人であった。

「と、徹ヘルプミー!!」

 百代が大和の腹に圧し掛かり、京が彼の頭越しに両腕を拘束しまさに捕食一歩手前と言う光景である。

「そこらへんで止めておけよ。姉ちゃん、京」

「えー、折角楽しんでいるんだ。もう少し楽しませろよー」

「そうだ!これは私と大和の真剣な勝負なんだ!!」

 百代は気が削がれた様に、対して京は千載一遇のチャンスとばかりに既成事実を構築せんと行動しようとしていた。

 そこで徹は両者の気持ちを知る者として京の行動を止めた。

「ちえー」

「ちえー」

 二人は同じ言葉を口に徹に非難めいた視線をやった。しかし、そんな事は戯れでしかなく、風間ファミリーの中ではよくあることであった。

 

 その証拠に何事もなかったように徹の持ってきたケーキを食べられるほどの余裕を皆が見せた事である。一子はお気に入りのケーキを無我夢中で食べ、他も舌鼓を打っている状況だ。

「そう言えばキャップは何時頃帰って来るんだ?」

「そう言えば彼此一週間は見て無いね」

「何処に行ったんだっけ?」

「関西に行くって言ってたよ」

 皆の中で翔一と言う人物は風の如くふらっと姿を消し、衝撃を土産に帰還を果たすと言う認識であった。

「まあ春休み中に帰って来るだろ。さて、短い春休みだが…諸君!宿題は必ず終わらせるぞ!」

 先程の報復とばかりに大和はそう宣言すると百代を睨み付ける様な視線を飛ばす。これは試験前の勉強と同じ役割が与えられる。大和、徹、京と卓也が主に監視を行う側だ。強敵は何と言っても百代である。次点で翔一が食い込み岳人が続く。一子は京が確りと指導と言う名の調教を施せば問題なく終わらせる事が出来る。

「おいおい、大和。折角のバカンスに水を指す様な事を言うなよ」

「よし。ガクトはノータッチな」

「済みませんでした!!」

「非道な大和好き」

「お友達で、京」

 こうして平凡だが彼等風間ファミリーに取っては掛け替えのない充実した時間は過ぎていくのであった。

 

 

 

 

 

「で、徹。お姉ちゃんは翌日にどうして宿題をやらなければならないんだ?」

 些か不満気味な百代は新三年生に課された宿題を持って、『休みなのに訪れたくもない』とぼやく川神学園に制服を着込んでやって来ていた。当然徹も制服姿で自身の宿題も持参しやって来ていた。

「決まっているだろ。ここで宿題を…」

 やるんだよ。と、そこまで言い終わる前に百代は瞬間移動宜しく姿を消した。

「話しているのが俺だってこと忘れていないか、姉ちゃん?」

 これが大和であれば捕獲はゼロであったろう。ところが相手は彼女の実弟であり実力も拮抗する相手だ。逃げ切れるわけがない。無駄に奥義を繰り出すなと口酸っぱく言い放つ徹にしては、珍しく捕獲に際し奥義を使用したのは言うまでもない。それほど彼女は一目散に逃げ出そうとしたのだ。

「休みに入った瞬間から勉強はヤダ!」

「我がまま言うな。俺だって初日からやりたくはない。でも有意義な春休みを過ごしたいだろ?」

 根底部分が似ている二人は百代の言う事は至極当然と受け入れていた。しかし、早く終わらせてたっぷり遊ぶと言う考えが在る徹は許す事はない。特に彼は付き合い始めた彼女と最初の長期休暇である。そう言った手前百代にそれほど拘束される訳にはいかないのだ。

「安心しろ。午後二時で解放するから」

「ほんとうだな。本当に解放するんだな?」

 嫌いな勉学を強いられる為少し思考が幼くなった百代であった。だが、二人が出向いた時刻は九時を回ったところである。つまり休憩を入れるにしても四時間以上宿題をやらなければならないと言う事だ。

 

「あっ、時間だ。それじゃあ姉ちゃんこれで終わりな」

 休み中はチャイムと言う物が機能していない。携帯を操作してアラーム機能を設定し、丁度鳴り響いたのを徹が止めたところであった。

「お、終わった……」

 人間の集中力持続時間は短い。だが、この姉弟はぶっ続けで完走してしまった。そして、やりきった百代は机に伏してしまっていた。

「お疲れ。俺はこれからデートだから、先に行くな!」

 そう言って徹は荷物を仕舞うと教室を後にした。

「なるほど、学校にしたのも時間を区切ったのもユーミンとデートする為だったのか……」

 そう呟くが既に脳細胞が酸欠を起こしている様にぼーっとした感覚に苛まれる百代は怒りが沸々と膨れ上がった。

 しかし、彼女の中では可愛い弟と親友の間を邪魔しようなどと思わず、怒りは自然と萎んでしまった。

「はー消化不良だなー鍛錬も徹が居なければ意味無いし…こう言うときはあそこしかないな!」

 そう呟くと荷物を纏め教室を後にし、あっと言う間に目的の場所へと移動したのだった。

 憐れ、直江大和!と言う言葉がしっくりくるほどのセクハラを居合わせた京と共に行い百代はサッパリとした気持ちでその日を終わらせるのであった。

 




 御一読ありがとうございました。
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