まじこい的な何かを書こう   作:津谷 桐矢

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 徹と弓子の旅行は二日目を迎える。

 昨夜は楽しさと緊張によって早々と眠りに着いてしまった。特に徹は十一時を回る頃になると寝ている習慣が付いていてパタリと電源が落ちる様に寝てしまった。

 その事を弓子は少々残念に思いつつも、まだ勇気が持てないことから安堵した気持ちにもなった。

 弓子も徹に劣らず早寝早起きが身に付いている。しかし、徹よりは起きるのが遅く目を覚ました時目の前に徹の顔が有って驚く事態になった。

「おはよう。弓子」

「お、おはよう…徹君……」

 寝顔をばっちり見られていた事に物凄い恥ずかしさを覚え、布団を目元まで上げて隠してしまった。

「何だよ。折角可愛い寝顔だったのに…」

 そこで目の前の徹と言う男が誰の弟であるか思い出した。

「流石百代の弟ってことかしらね…」

「姉ちゃんがどうした?」

 聞き取り辛いのか徹は惚ける事も無く尋ねたが、弓子はそれに取り合おうとはしなかった。

「幾ら付き合っているとは言っても寝顔を見られるのは嫌だし、それを褒められても良い気持ちには為らないわ。ほら、顔を洗って来るからどいてくれる?」

 少しムッとした表情で答えた弓子に対し、悪かったと思った徹は直ぐにどいて謝罪の言葉を述べた。

 

「次から気を付けてくれればいいわよ。それじゃあ、準備して来るわ」

 そう言って弓子は洗面台へと向かった。その際、徹に軽くウインクをして怒っていない事を示した事は徹の気持ちを晴れやかにした。

「っと、そう言えばメールが来てたんだ」

 そう言ってベッドに腰掛け着信を知らせるランプが点滅する携帯を手に取ると早速メールを見始める。

「二十八件…初めてこんな数字見たよ。大和じゃないんだし」

 そう言ってボタンを操作し新着を見るとバラエティーに富んだ物だった。

「ガクト、モロ、大和に京かキャップもあるな。それに姉ちゃんと一子、忠勝からも来てるよ」

 しかしその人数の中、最たるメールを送り込んだのは岳人だった。

「あいつめ、間違いなく悪戯と嫉妬だな…」

 そう言って徹は筋肉馬鹿と登録してある岳人の一件目のメールを読み始めた。

「冒頭に死ねってあいつは本当に…まあどうでもいいか、次だ…」

 しかし、岳人のメールを五件まで開けたところで徹は彼のメールだけを一括削除した。

「信じらんねぇ、全てが呪詛ってあいつは一体何を考えているんだ!?」

 そして気を取り直して卓也達のメールを開けた。

 

「そうそう。こう言った気持ちの籠った内容が良いんだよ」

 そこには徹を気遣う言葉や、羨ましいと書きながらも是非今後の参考にご教授願いたいと言った物、お土産の催促と今度はみんなで行こうぜ的な物までファミリーの暖かい言葉が綴られていた。但し、百代と一子についてはお土産の羅列と生々しい話しが書かれてあった為、保存し後日問い質す証拠となる。

 その中で大和は一つの提案を書き込んでいた。

「あの黛由紀江をファミリーにね…」

 昨日ファミリーが集まった時に由紀江を仮メンバーながら参加させてみたところ、思いのほか受け入れられていた事がメールに書かれていた。中でも京と卓也の受けがそれなりに良好で、翔一の様子から何れその提案が出る事は間違いないと言った物だった。

「なるほど、俺はまだ会ってはいないけど噂話では悪い人ではないって言ってたな」

 そう言うと徹はいち早く大和に返信し、携帯を閉じた。

 

「随分とメールが来ていた様ね」

 弓子は準備を終えて徹の下へと戻っていた。

「ああ、ごめん待たせたかな?」

「そうでもないわ。少し時間も掛かったしね」

 そう言う弓子を徹はじっくりと眺めた。

「な、何?どうしたのよ?何処かおかしい?」

 そう言ってアタフタとする様子に徹は首を振った。

「違うよ。普段は外でしか会わないだろ。中での弓子が新鮮でさ」

 ホテルとはいえ室内ともなれば意外と気が抜けてしまう物なのか、微妙な違いが有る弓子に徹は違う印象を得ていた。百代も外と中での違いが大きく、血の繋がった姉弟であってもドキッとさせられる瞬間が有る。正しくその思いであった。一子の場合は元気百%といった感じで徹には中の良い兄弟的に映っていた。

「ば、バカ言わないの…ほら、朝食は届けられるんでしょ!さっさと準備終わらせないと…」

 そう言って弓子は顔を真っ赤にしてバッグから着替えを取り出した。それに合わせ、徹は彼女を見ない様にそっぽを向いた。

「もう、良いわよー」

 と粗方準備が終わるとインターフォンが為り、朝食が届けられた。中々に豪勢な食事は互いに体を動かす事を趣味としているからか残す事無く食べきった。

 

「さて、後はチェックアウトを行ったあと荷物を預けて遊ぶだけだな」

「ええ、そうね。そう言えば迎えは何時頃来るのかしら?」

「確かにあの時言われなかったな。ついでに下で聞いてみよう」

 部屋を出る時忘れずにパスを持っている事を忘れずに部屋を後にする。

「また此処に来たいな」

「ええ、此処ではなくとも一緒に旅行したいわね」

 そう話しながら一階へと降りてチェックアウトを済ませた。

 

「お迎えで御座いますか…?少々お待ち下さい」

 滞ることなく手続きを終えた徹は対応したホテルマンに尋ねると彼は直ぐ連絡を行った。

「川神様。申し訳ありませんが、只今他の者が参りますので暫くお待ち下さい」

「ああ、分かりました」

 そう言って少し離れて待っていた弓子の下へと移動した。それから程無くして二人の下へやって来たのは李静初であった。

「おはようございます。川神様、矢場様」

 九鬼家従者部隊の登場に従業員の緊張が高まった。それとは別にメイド服姿の綺麗な女性が現れたことで男女関係無くざわめきが宿泊客から沸き起こった。

「おはようございます、李さん」

「おはようございます」

「早速ですが、本日は何時でも出発が可能で御座います」

「何時でも?」

「はい。川神に戻るまで二時間半から三時間を見て頂ければ何時でも構いません」

 徹と弓子はその間彼女たちがどうなるのかが気になり尋ねる。

「その間は休憩を交互に取りつつ、お待ち致します」

 根は庶民である二人はそれに恐縮してしまう。結局二人は十五時頃と時間を指定して彼女達もゆっくり休んでくれと伝え、荷物を渡して遊びに出ることにした。

 

「な、何だか李さんたちには悪い事したかな…」

「どうなのかしら。でも動じることが無くて流石九鬼の人間って感じだったわね…」

 二人はそう話しながら一番楽しみにしていた全天候型屋内プールへとやって来る。

「それじゃあ中で落ち合おう」

 徹の言葉で別れて更衣室へと移動した。

 

 

 

 

 

「きゃ」

 弓子は横から出てきた女性とぶつかり尻もちを着いてしまった。

「あ、ああすまない!怪我は在りませんか?」

「え、ええ大丈夫よ。此方こそ余所見をして御免なさい」

 弓子が謝ると目の前に少女はアタフタと慌てる様に言葉を返す。

「あ、ああいやそんな!よしつっ!?わ、私こそぶつかって申し訳ない…」

「よしつ?」

 弓子が再び言葉を発した時少女の連れが迎えに来た。

「おーい、よしっ!?っとと、よっちゃん準備終わった?」

「よっちゃん…べんけ……べんちゃん終わったよ!」

 そう言うと目の前の少女は一度深々と弓子にお辞儀をし、再び謝罪を行って去って行った。その際少女に『べんちゃん』と呼ばれショックを受けた様に見えた。

「二人とも雰囲気が有ったわね…っと行けない早く着替えなくっちゃ!」

 弓子は近くのロッカーを開けると荷物を置いてさっそく着替えを始めた。

 

 徹も空いているロッカーを探し、幾分並んで空いている場所を選ぶとそこの扉を開けようとした。

「さて、早く着替えて待つことにするか」

「はぁーどうしてこうも人が多い所に来なきゃいけないんだ…」

 その男も徹と似たような場所を探していたのか、奇しくも両隣で扉を開けた。

『んっ?』

 二人は顔を合わせてしまった。

「ああ、すまないな」

 徹がそう謝ると隣の男も言葉を返す。

「いや、こっちこそすまない。若しかしたら……」

 その後の言葉は聞き取れなかったが、嘗て大和が似たような言葉を発していたと記憶していた徹は何気なくその男を注視するようになった。

 

「なあ、何か鍛えているのか?」

 徹は思わず武人の血が騒いだ。明らかに目の前の男は何かで鍛えている身体つきをしていたからだ。

「そ、そう言うあんたも結構鍛えているんだな。若しかして組織の者か!?」

 すると行き成り変なポーズを取り出すと変な言葉を発した。

「組織何の話だ?」

「ああ、いや気にしないでくれ。幾らなんでも九鬼の場所で組織の奴が現れるなんて想像が出来ないからな」

 そう言って男は早々と着替えるとプールへと向かってしまった。

「変な奴だな。…でも面白いから大和たちに知らせてやろう!」

 徹は『大和の忘れ難い記憶を持つ者が現れた』という内容のメールをファミリーの面々に一斉送信した。これだけで分かるほどに今の大和からすれば恥ずかしい出来事であった。

「っと、弓子を待たせる訳にはいかないな」

 そう言って徹も足早にプールへと向かった。

 

 

 

 

 

「あら、結構時間掛かったのね?」

「ああ、変な奴に出会ってな。でもタイミングばっちりだったからよかったかな」

 徹と弓子はほぼ同時に更衣室を出てプールへとやって来ていた。必要な物はパスだけで腕に巻くタイプへと更新されていた。二人は荷物を持つ事無く遊びに専念できる状況だった。

「その水着可愛いよ、弓子」

「そ、そう?去年の夏に合わせて買った物だけど気に入って貰えてよかったわ…今年は徹君が選んでくれると嬉しいわね」

 少し恥ずかしそうに俯いて言葉を返す仕草が余計彼女の魅力を増幅させる。

「そ、それじゃあ早速行こうか」

「ええ!」

 そう言って向かった先はウォータースライダーだった。此処には幾つかの種類が存在し、二人はペアで浮輪の上に座って滑る種類の場所へと移動した。

「結構高さがわるわね」

「まあこんなもんじゃないか。それに長い方が楽しいだろ?」

 ある程度密着して滑る為、恋人などにとっては外せない場所である。

「ま、まあそうね…」

「それよりもメガネ無くて大丈夫か?」

 旅行を通じて気が付いた事は弓子が頻繁にメガネを掛けていないことであった。普段は掛けている場面が常であるだけに気になったのだ。

「私の視力は掛けなくても気にならないほどよ。掛けていた方がいいという程度だから」

「まあ、どっちの弓子も可愛いから良いけどね」

 そうして歯の浮く様な言葉を平気で言う徹に幾度となく心拍数を上げられる弓子であった。

 

「おお、良い眺めだな」

「ええ、あれあの二人は?」

 徹と共に頂上にやって来た弓子は言葉もおざなりに更衣室で見かけた二人を発見した。一人はスク水でもう一人は体のラインを活かしたセパレートタイプのビキニであった。

「知り合いか?」

「いいえ、ただ更衣室でぶつかった相手なのよ。ほらあのスクール水着を着ている子」

 そう言って弓子が示す先には髪を後ろで纏めた元気の良さそうな少女がいた。

「へぇー」

 そう思わず徹の口から洩れた言葉が弓子の耳に入った。そして剥き出しになっている脇腹をこれでもかと抓った。

「イタっ!おい、痛いって弓子」

「じろじろ他の子を見ているからよ!」

 弓子は確かに控えめな身体つきをしている。だが、高校生らしく健康的に体を動かし美容に意識していた。

 徹と言う恋人が出来てからは余計に力を入れたほどである。誰だって付き合う相手に見ていて欲しいと思う物だ。それを余所見されることほど腹立たしい事は無いのであろう。

「ち、違うって弓子。あの二人か、姉ちゃんと同等の強さを持ってそうでさ」

「えっ、百代と!?」

 そう弓子が話した瞬間、もう一人の髪がもじゃっとした少女が徹たちを見ていた。徹とはコンマ何秒と言う僅かな時間に目が合った。

「ああ、ただ勘違いかも知れない。悪かったな弓子」

 そう言って抱き締める徹にこれ以上弓子は言葉を発しなかった。

 

 

 

 

 

 一方その二人はと言うと…

「おーい与一ー!!」

 よっちゃんと呼ばれた少女は明るく元気に下にいる少年に手を振った。しかし、その相手は周囲から注目され恥ずかしいのか、手を顔に当てて無視を決め込んでいた。

「よ、与一…」

「与一…」

 前者は悲しみを多分に含んだ声で、後者は全てが怒りに包まれた声で少年の名を呼んだ。

「あっ、手を振ってくれたぞ!べんちゃん!!」

 彼女のこえは良く届くのかべんちゃんと言う言葉に与一と言う少年は腹を抱えて笑っていた。

「あ、ああそうだね、よっちゃん…なあ、その名前どうにかならないか?」

 メリハリのある体躯を惜しげもなく見せる少女がそう言うとよっちゃんは首を傾げる。

「どうしてだ。私は良いと思うぞ!あっ、順番が来たさあ滑ろう、べんちゃん!!」

 わくわくした気持ちを前面に出した少女は『べんちゃん』の腕を掴むと前に座り何時でも滑る気持ちで一杯であった。

「ああ、そうだね。思いっきり滑ろうよっちゃん!」

 二人は係員の合図で滑り出し楽しい声を上げながら降って行った。

 

「あの男は…」

「あら、徹君の知り合い?」

 ちょうど少女が手を振った辺りで徹は男に気が付いていた。

「弓子と同じだよ。更衣室でな」

「へぇー結構体鍛えていそうね」

 その瞬間徹の体が言い知れぬ感情に襲われた。

「見えるのか?」

「うーん、少し見えるって言う程度ね。はっきり見える方がおかしいと思うけど。それでも体を鍛えていそうって位には思えるわ」

 そう言うと徹は先程の事を謝る。

「さっきは悪かったな」

「ええ、分かった徹君?」

 その後二人は弓子を前に乗せ徹が後ろから抱きしめる形で滑り出し、楽しさを十分に感じるのであった。

 

 色々なウォータースライダーを楽しみ、流れるプール、波の出るプール等など一日で遊び尽くすには無理なほどに多種に渡り、短時間であるにも拘らず二人は満喫する。特に飛び込みでは徹が周囲の観衆を驚かせた。十メートルの高さから二回転を行い、水飛沫を小さく入水したのだ。

 これには周囲が大盛り上がりを見せた。加えて徹のルックスが女性の目を釘付けにした。

 しかし、徹は先程の苦い気持ちを味わってか、直ぐに弓子の下へと向かい声を掛けられる隙を与えずに次へと向かう事が出来た。

「そろそろ昼食にするか?」

「ええ、そうね…」

 と周囲を見てみれば何処も彼処も人の群れであった。とても食事が出来る場所を確保するのは難しそうに思えた。

「取り敢えず買ってから席を探すか。その間に悪かもしれないし」

「そうね。それじゃあ並びましょ」

 二人は連れ立って並んだ目の前には先程見た人物がいた。

 




 御一読いただき有難う御座いました。

 まさかのクローン登場!本来ならば許されない発表前の接触。それは次話で触れる事となります。清楚もちゃんと登場させますよ!
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