まじこい的な何かを書こう   作:津谷 桐矢

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 父上、由紀江はとうとう川神学園に入学しました。今、入学式の真っ最中ですが、どうにも慣れません。新天地で目指す事は友達を一人でも多く作る事です。

「ま、黛さんで良いんだよね。大丈夫、さっきからブツブツ唸っているけど体調悪いの?」

 隣に座る同級生にお声を掛けて頂きました。ああ、なんて優しいのでしょう。ここは気合を込めて返事を行わなければなりませんね。

「い、いえ。大丈夫ですっ!」

「ひっ、そそう…大丈夫ならいいわ」

 お隣に座る誰かは存じませんが、何とお優しいのでしょうか。やはり此処に来た事は間違いではなかったのでしょう。大和先輩を始め、島津寮の先輩方はとても親身に接して頂き、さらには初対面でもこうして話し掛けてくれる。ああー私は幸せです!!

 こうして同級生の優しさに触れていると、あっと言う間に入学式は終わりを迎えました。

 組ごとに退場していきますが、周囲の視線が私に集まっている気がします。可笑しな事は無いと思うのですが、一体どうしたことでしょうか…

 ああ、松風がいない事がこれほどまでに不安と為るなんて……早く松風に会いたいです。

 

 由紀江は入学式に出る事に当たり、京が松風を取り上げていた。

(あーまゆっち!)

「ま、松風!?」

 一人で演技するには十分すぎるほどに感動を呼ぶ別れを演出した。

「おお、本当に面白いなまゆっち!」

「友達たくさん作りたいならこれは邪魔だと思うの」

(京姉さん、それは聞き捨てならねえ!オイラはまゆっちの大親友だ!)

「まあ、無理強いはしないよ。松風を連れて行くか、私に預けるか選んで」

 由紀江はどうして川神に単身やって来たのかを思い出し、京のその言葉で預ける事を選んだ。

 

 

 

 

 

「私、大和田伊予って言うの。宜しくね」

「は、はいっ。私は黛由紀江と申しますっ!」

 右隣に座る小柄な子はなんて眩しい笑顔を私に向けるのでしょうか。

「こ、怖いって。もしかして笑ってるの?」

「え、ええ…やはりおかしいのでしょうか?」

 少し怯えていますね、どうしたのでしょうか?

「おかしいって言うかね。ねえ…それって本物?」

 苦笑いを浮かべる大和田さん…伊予ちゃんと呼ばせて頂きます!

「これですか?ええ、勿論本物です。国の許可は頂いていますよ」

 若しかして伊予ちゃんも剣術を嗜んでいるのでしょうか?

「うん。それだ!」

 何がそれだ。なのでしょうか…

「えっと何が、それなのですか?」

「あのね。その笑顔も十分怖いけど、女子高生が刀を握りしめている絵は有り得ないって」

 何と、ド直球で物を言う方のでしょか。地元ではそれすらも言われる事の無い状況でしたから嬉しい事に変わりは無いのですが…

「ああ、そんなに落ち込まないで!ごめんね、それでさ…まゆっちって呼んでも良い?」

 へっ?い、いい今伊予ちゃんは何と仰ったのでしょうか?ま、まゆっち、伊予ちゃんもまゆっちと呼んで下さいましたか!?

 

「ふぇ?まゆっち、ですか?」

「ダメ?黛由紀江だからまゆっち。他にもそうねーまゆまゆ、ユキエ、ゆきちゃんなんてあるけど」

 そ、そんな大量にあたしの愛称を考案して下さるなんて!なんとこの方はお優しいのでしょう。川神は私にとって楽園かもしれません。

「ええっと、まゆっちでお願いします。それでですね、私は伊予ちゃんとお呼びしても宜しいですか?」

 正直拒否されるのが怖いという気持ちがありますが、此処は勇気を持って不肖黛由紀江参ります!

「うん良いよ。前の学校でもそう呼ばれていたし。あっ、私入学を機に川神に引っ越して来たんだ」

 そ、即答ですかっ!!

「そうのですか。私は北陸出身なんですよ」

「ん?若しかして寮で暮らしているの?」

「はい、島津寮でお世話に為っています。新天地へと来たという環境ではお互い同じ状況ですね」

 何と言う幸運でしょうか。一年生でも相当な人数がいる筈なのに、一日目にしてこうして知り合いが出来るなんて…

「そうだね、まゆっち。それじゃあお隣の席同士宜しくね」

「はい。此方こそ宜しくお願いします。伊予ちゃん」

 これは皆さんに報告しなければなりませんね。ああ、早く松風にも会いたいです。

 

 

 

 

 

 川神院ではルー師範代を始め、高僧たち五十名が結界を張っている中で百代と徹が珍しく本気で戦っている。本来、二人は川神鉄心の見ている前でなければ戦う事は許可されない。それを可能とするには彼に変わる者の存在が求められる。

「楽しいな!徹!!」

「ああ、久しぶりに思い切り戦える!!」

 二人は目で追い切れぬほどの高速で拳を突き出し、蹴りを繰り出している。百代の攻撃を躱て蹴りを浴びせるが、ガッチリと受け止められ再度拳が徹を襲う。二人の体が触れ合う度に結界が震え、その都度ルー達の表情が苦しい物へ変わっていた。

 次々に行われる攻防は傍から見てどちらが優勢なのか全く分からない状況だった。

 

「たく、暫く見ねえうちにどれだけ成長していやがるんだ」

 鍋島正は百代と徹の戦いを呆れた面持ちで観戦している。

白を基調とした帽子とスーツの出で立ちの鍋島は川神院出身の男である。本日行われた川神学園入学式に来賓として出席した帰り、鉄心の代わりに二人の戦いを見届ける役割を任されていた。

「鍋島さん、お姉さまが有利に見えるけど徹も負けていないわよね?」

 一子は鉄心の弟子でもある彼に戦況を確認する。目で追えてはいるが、それが正しい物か彼女では判断付かなかった。

「おっ、一子も見えているのか。お前も成長しているじゃねーか」

 鍋島はそう言うと一子の頭を撫でる。

「勿論よ。私の夢はお姉さまを支える為に師範代に為る事!その為に徹と組み手をやっているんだから!!」

「本当か?なるほど、徹の坊主が相手ならこれ位は…」

 彼は二人の戦いを見ながら川神院の次代が着実に育っている事を実感した。彼も此処には思い入れのある一人だ。そして、百代と徹と言う血脈による強さ以外にもう一人なりとも努力で這い上がった人間が必要だと考えていた。

「やっぱり二人は凄いわね。鍋島さん!!」

「ああ、そうだな。あの二人がどれほど成長を見せるか本当に楽しみだ。一子、良く見て頭に焼き付けろ。あれはあの二人が至るレベルだが、見ていて損はねぇ。あれを理想とし、より鍛えろ」

「勿論よ!勇往邁進が私の信条だわ!」

 一子の存在が二人に安定を齎すことも彼は確信していた。天才故の孤独。百代と徹は二人だが、孤立している状況に変わりなかった。だが、恐れず常に後を追い続ける彼女の存在は貴重であった。

「釈迦堂も一子の様な存在がいれば別だったのかも知れねぇな」

「釈迦堂さん?」

 つい溢してしまった言葉を一子は聞き逃さずに鍋島に聞き直した。

「なんでもねえよ。ほらクライマックスだぜ」

 二人の目には距離を開けた百代と徹がいた。

 

「姉ちゃん、いい加減瞬間回復に頼るのを止めたらどうだ?」

 徹も使えるが今ではそれを封印し、技を磨き速さを求め、力を付けて来た。彼には既にこの技の限界が見えていた。

「それは出来ない相談だぞ、徹」

 徹は呼吸を荒くし、ところどころ裂傷箇所から血が流れている。対して百代は同じ様な傷を負いながらも瞬間回復による恩恵から戦う前と変わらない。

「何れそれが元で負けるかもしれないぞ!」

「それは無い。私が川神百代である限りな!行くぞ!!」

 自信たっぷりに言い放つと百代は気を集中し出す。

「おいおい、幾ら結界があるからって、それは拙いだろ…」

 徹も負けじと気を練り始める。

 

「拙いな。一子俺の後ろに来い。それで気を確りと張るんだぞ!」

「分かったわ。鍋島さん」

「おいルー死ぬ気で結界晴れよ。最悪此処の建物で終わらせるぞ!」

 鍋島は必死の形相で結界を張るルーを始めとした高僧全員に言葉を達した。

「きびしい事言うネ。でもやるしかないネ!!みんなー死ぬ気で結界の威力を上げるヨ!終わったら鍋島さんが肉料理を御馳走してくれるからネ!!」

『追う!!』

 そう言うとフルパワーの如く結界が膨れ上がった。言葉も出せぬほど厳しい状況だが、二人の最後には打って付けの展開だった。

「たく、ルーの野郎勝手に言いやがって…まあ、こんなに気合の入った戦いを見せて貰ったんだ。頑張った者にはそれ相応の褒美が居るだろうな。分かったぜルー俺が責任持って美味い物をたらふく食わせてやるぜ」

 男気溢れる鍋島の言葉で全員の気合は最高潮に高まり、クライマックスに花を添えた。

 

「行くぞ徹。お前の限界を見せろ!川神流奥義『星殺し』!!」

「無茶を言うな『星殺し』!!」

 同じ動作を繰り出した二人は、地面と平行に放った二つのエネルギーの塊の衝突によって周囲を真っ白な世界へと包み込んだ。

 距離は百代が僅かに優勢となった。瞬間回復を使っているにも拘わらず、徹に競り勝つ力がまだ残っていたのだ。次第にエネルギーのぶつかり合いは徹が押され始める

「くっ…負けるものかよ!」

 徹はこの技にもう一段階エネルギーを追加する事を行った。

「なっ!?」

 百代はその光景を目にして驚かされる。これによって互いの距離が等しく拮抗し、エネルギーは逃げ場を失い遥か上空へと場所を求めて逃げた。そのエネルギーは宇宙空間まで達し、追い切れるだけでも木星方向まで見て取ることが出来た。

 

「まさか二段構えで放って来るなんてな…」

 百代は心底嬉しそうな顔で満足そうに徹を褒め称えた。

「くそっ、これでも勝てないのかよ…」

 対して徹は隠し玉のように練りに練った技を持ってしても勝てなかった事に舌を巻いた。

 そして、二人は崩れる様に気を失い地面に倒れ込んだ。

「ま、まさか五十名の結界も破られるのカ…」

 ルー達も疾うに限界を迎え、気を失いながら結界を張る作業に当たる者もいた。その者たちも含めて今は全員が気絶し地面に伏せた。

「それまで!両者気絶しているな。よって、この勝負は引き分け!!皆は直ぐに気を失っている者を保護しろ。一子手伝ってもらうぞ」

「分かりました!」

 その時見た百代の表情はとても満足気であった。

 

 

 

 

 

「へぇーあの眩い光は姉さんたちが戦った物だったのか」

 一子は一通りの手伝いを行った後、大和たちが集まる基地へとやって来ていた。

「此処からだと川神院もよく見えるからね。凄い光だったよね」

「モロの言う通り。ワン子は大丈夫だったの?」

 京は対戦していた二人では無く一子を心配する。

「まあ、この通り無事よ」

「モモ先輩と徹はどうしたんだよ、ワン子?」

「えっとね、お姉さまはまだ家で寝ているわ。徹は彼女さんの所に向かったわよ」

 翔一の何気ない言葉で嫉妬に駆られる男が一人生まれることになった。

 

 

 

 

 

「へぇー昨日まで旅行していたのに直ぐに戦えるなんて凄いのね?」

「まあ、気力が残っていたからこうして動けているんだけどね」

 二人は落ちついた雰囲気のある喫茶店でデートを楽しんでいた。この為に徹は封印した瞬間回復を使用し怪我から回復を果たしていた。その為今の徹は卓也と同等の力しかなかった。

「そう言えば今日ってバイトじゃなかったの?」

「それなんだけど。昨日予想以上にケーキが売れてさ、今日の材料も消費したから臨時休業だって連絡があったんだよ。だからこうして会えるってわけだ」

「そうだったの。ということ事は代わりの人が相当頑張ったってことなのね」

 弓子はまさかあの二人が代わりだとは夢にも思わなかった。

 

「さて、今日はこれで帰るよ。まだ向こうで眠りこけている姉を起こさなきゃ為らないから」

 百代は全気力を使い果たし一向に目を覚まそうとしなかった。

「百代に『お大事に』と伝えてくれる?それと徹との時間を潰された事について、何れ返してもらうってね」

「ああ、分かった。それじゃあ、店を出ようか」

 徹はレシートを持つと素早くレジへと向かい会計を行った。

「御馳走様」

「このくらいで気にしなくていいよ」

「私は買い物して帰るから此処で別れましょ」

「そうか、それじゃあまた明日」

「ええ、また明日ね」

 二人は言葉を交わすと軽くキスをして別々の道を歩き出した。

 

 徹はその足で川神院へと戻るとやはり百代は寝ているままであった。

「気持ちよさそうに寝やがって、俺の全力でも引き分けってどういう構造しているんだ…」

 そう言いながら気を込めるべく百代の心臓部へと手を乗せる。一種の心臓マッサージに似ている行為である。

「ふっ!」

 軽く百代の体を押し込むと体がビクリと反応した。

「お姉ちゃんの胸を揉み拉くなんて、ユーミンに教えちゃおっかなー」

 素早く目を覚ました百代は直ぐに徹を弄り始める。

「もう一度寝かせても良いんだけど?」

「ああ、悪かったよ。もう美少女の冗談だって…」

 そう言って百代は寝ていた布団を剥ぎ取ると立ち上がった。

「もう立ち上がって大丈夫なのか?」

「ああ、もう暫くすれば元通りになる」

 徹はその言葉に驚きを隠せなかった。

「取り敢えず鍋島さんが待っているから移動しようか?」

 彼も立ち上がろうとした時、百代が両腕を伸ばしてきた。

「一応尋ねるが、その仕草は何、姉ちゃん?」

「歩けないから抱っこ!」

 その仕草に徹はキレた。未だ回復途中の百代の頭に拳を見舞ったのだ。

「痛いじゃないかよー美少女がこう言ったら喜んでやるまでが男だろ!」

「だから連れているだろ?」

「ちーがーうー!これは引き摺っているだけだろうが!」

 騒がしくも二人は鍋島が待つ部屋へと向かう。

 

「おう。もう良いのか?」

 二人が入室すると鍋島は一人で酒を飲みながら待っていた。

「はい。ある程度までは回復しました」

「それは良かった。それでよ。今回見させてもらって改めて化けもんだと思ったぜ。二人とも良く此処まで成長したな。是非俺とも闘って貰いたいもんだ」

 そう言うと高らかに笑い声を上げた。

「俺はまだまだですよ」

「では私とは何れお願いしますよ、鍋島さん」

「なら、夏休みにでも天神館に招待しよう。その時にでも戦おう」

 三人の会話は鉄心がやって来るまで続いた。

 




 御一読いただき有難う御座いました。

 今回はまゆっちの入学式でありましたが、事前に風間ファミリーと出会っている事で変化が生まれる展開に致しました。その為大和と不審者的扱いの出会いはカットと為ります。

 その代わりに笑った時の怖さと日本刀の所持を指摘したのは、同学年お友達一号の伊予ちゃんに変更と致しました。
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