まじこい的な何かを書こう   作:津谷 桐矢

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 一話で書き忘れておりましたが筆者はPCゲーム以外は触れておりません。それゆえ現在は学年が一つ下がっての進行となっておりますが、大体の人間がそのクラスに居たという設定で書いております。
 あらすじにも記入いたしますが、報告が遅れました事お詫び申し上げます。


002

 猛勉強宣言が為されてからというもの、百代と徹は川神院へと帰るなり徹の部屋に直行する。

「徹、お姉ちゃんも女の子なんだ。制服姿で弟の部屋に入るのは問題だと思うんだが……」

「気にしないでよ。準備は整っているから」

「う、うん……」

 ニッコリとほほ笑む徹のそれは表裏一体ではない。それを知る百代は恐怖を感じながら入室する。

「姉ちゃんが着替えられるように準備は整っているから」

「そうだな……」

 自分から見せる事に抵抗はないが、見られる事は嫌だという乙女な百代も何も言えず、諦めた。部屋着が置かれたその場所はカーテンが備え付けられており、プライバシーが確保されていたからだ。

「じゃあ俺は他の用意してくるから先に着替えててよ」

「あ、ああ……」

 徹は扉を閉めて移動するのを百代は確認する。

「正直、我が弟ながら恐ろしい……」

 その徹底振りは大和以上で、付け入る隙を一切挟まない。こうなっては是非も無しと諦めて大人しく百代は着替えを始める。

「徹、流石に下着までは許容できないと思うんだ……」

 部屋着が有るという事はそう言う事だと納得できる。しかし、思春期を迎え血の繋がる姉弟とは言え下着までとなれば不満の一つも芽生えるというもの。それでも反発できないのは己の責任だと珍しく反省し、次はと考え続け高校二年の終わりまで来てしまった。

「お待たせ!」

 良い香りと共に徹が入ってくる。

「おい、お姉ちゃんは未だ着替え中だぞ!」

「早く着替えて出てきなよ。軽く腹満たそう」

「ぐぅ……」

 その誘惑に抗えない百代は徹の言葉に対し、素直に従った。

 

「なあ徹。学年末テストまでまだ時間もある事だし、この辺りで終わりにしても良いんじゃないか?」

「何を言ってんの。まだまだこれからじゃん」

 時刻は夜九時を過ぎていた。授業が終わり、徹が態々百代の教室まで迎えに行き、強制連行されたのが午後三時の事だった。百代の主観で拘束時間は六時間を迎える。

 授業以上に詰め込まれる内容に辟易する。五時間を費やされた彼女の精神的体力は限界を迎えようとしている。

「そ、そうか……」

 大和ならば強制的に終わらせる事も出来る。だが、徹が相手では逆に拘束される事は目に見えている。つまり、百代にとって詰みの状態だった。

「これに懲りたら三年時は普段から勉強頑張よ」

「うん、わかった……」

 勉強に集中できる環境が完璧に整えられ、不足は無いが精神的に追い詰められる。年々厳しさを増していると感じる環境に今度こそ、という思いが百代に芽生えるか?

 

「このままではモモの進級が危うくてのぅ…」

 金曜集会以前の話だ。

 年が明け、一月も終わろうとした頃。祖父、鉄心から普段見せない憂いた表情で語られた。

「えっ、姉ちゃんそんなに危ないの?」

 学長室に呼び出し、と言う言わば川神学園の公式なものと捉えても間違いではない。

「うむ……」

 普段は飄々とした雰囲気を纏う鉄心だからこそ、この状況は拙いのだと徹は自覚する。

 学園を運営し、そのトップに就く彼だからこそ、その孫が留年するという事態は是が非でも避けたかった。だが、鉄心も百代の性格は熟知している。そこで、成績と百代をどうにか出来る徹に白羽の矢が立つのが当然の事だった。

「モモを何とか進級できるまでにしてもらえんかのぅ…」

「わかった」

「すまん。頼りにするぞ、徹……」

 当然の事だがタダで動くほど安くはない。徹はある条件を出して鉄心は承諾する。

 

「さてどうするか……」

 学長室を出た徹は考える。

 テスト範囲は教えて貰ったが、徹は未だ高校一年で教えられない範囲も含まれていた。

 そこで二年生の伝を考えたが徹はそれを持たない。

 ならば、軍師大和の出番と言うこととなる。

「姉さんが……」

 徹は大和にその出来事を包み隠さず話す。

「ああ、俺たちの姉が同学年になるかもしれない」

 その一言で大和は危機レベルを最大限に引き上げる。大半の同学年は歓喜するかもしれないが、二人にとっては悪夢である。

「真剣な表情の大和ステキ……」

 隣で話を聞く椎名京の言葉にも大和は無反応だった。それは徹も同じで、迫り来るる災厄の日を回避するべく二人は真顔で考える。この光景に悶える京と言うカオスが誕生する。

「家では俺が責任を以て教える」

「問題は家以外と言うことだな?」

 徹は大和の言葉に頷く。

 百代と言う女を嫌いな勉強をやらせる。それは彼女と同等の武力を持たねば成し得ない。ジョーカーにはジョーカーで対抗するため、徹の行動は前提条件だ。だが、学年が違うという事だけは抗えない。

「姉さんの友人か……」

 学校でもある程度勉強してもらわなければ乗り越えられない。意見の一致を見せた二人が考えたのは百代に意見出来る友人の存在だった。

 

 

「うちの部長がモモ先輩と仲いいよ」

 考えても浮かばない中で、京から素晴らしい援護が飛び出す。

「誰なんだ?」

「んとね、矢場弓子先輩。モモ先輩と同じクラス、だよ」

 徹の言葉に京は端的な返答を行う。

「報酬は大和に何でも出来る券で構わないか?」

「徹⁉」

 まさかの裏切りに大和は絶叫する。自分は生贄だったと知る大和は自らの人生エンドを回避する為、抗議する。

「是非、それでお願い! 大和、好き……」

「お友達で‼‼ おい、徹!」

 頬を染める京に大和は即理を入れながら徹に抗議する。

「よく考えろ大和。俺たちに希望を与えた京は今回の功労者だ。労う為には京が望むものを与えるのが一番だ。わかるな?」

「そうだね。よく言ったよ、徹!」

 その言葉に京は「10Good」が書かれた札を掲げる。

「分かるな、じゃない!」

 焦りの色を見せる大和の抗議も虚しく、後日報酬が支払われた事を彼は知る。百代の弟である徹も又チートであり、やるときは徹底する鬼畜振りは大和もたじろぐ。

 

 翌日、京に件の先輩を紹介して貰い、実際に顔を合わせる日に二人は驚く。

「あれっ?」

「あなたは」

 この日二人が初めて名前と顔を一致させ、互いの間柄を知った日であった。

「貴女はよくお店に来ていただける方ですよね?」

 そう話しを切り出したのは徹だった。

 徹がバイトするお店に弓子は頻繁に通っている常連客だった。

「え、ええ、そうね……⁉ そうで、候」

 弓子は突然の出会いに驚きを隠せない。言葉使いも素に戻り、何とか口調を改める。

「候……?」

「き、気にしないで!」

 語気を強めた彼女に徹はその件から撤退する。

「えっと、話しが長くなるかもしれないので何処かで話せませんか?」

「そうね。それでお願いするわ…… するで候」

 弓子は仮面が簡単に剥がれ落ちるのを自覚しつつも、何度となく被り直す。

 二人は会話の内容が内容だけに落ち着いて話せる場所へと移動する。

 

 

 

 

 

 京が提案した翌日の朝、幽霊部員の彼女が奇跡的に朝練に姿を現していた。自主参加とは言え、出席率は高くそんな中で京の存在は確実に浮いている。

 そんな彼女が弓子に近付けば注目されるのは必然だ。

「部長」

「椎名か、どうしたで候」

 内心で京の出席に心躍らせる弓子だが、部長としての威厳を守る為に鉄仮面を維持する。しかし、京の口から飛び出す内容に剥がされてしまう。

「今日、会って欲しい人がいるんです」

 コミュ障に近い京の言葉足らずが悪い方に表れ、弓子は素に戻される。

「えっ、えっ!?ちょっと待って、椎名さん。一体どう言う事?」

 敢えて突っ込まないのが京の良い所だ。卓也であれば即突っ込んでいただろう。

「モモ先輩と仲いいですよね?」

「ええ、まあそうね。百代とは一年からの付き合いだし……」

 口調が戻っている事を指摘せず京は話しを続ける。

「それを見込んで相談に乗って貰いたいんです」

「分かったで、候」

 京は彼女に説明し放課後、徹と引き合わせる算段を付けた。

 彼女の中では完璧に依頼を達成し、報酬を貰うだけだと考えた。

 しかし、内心は夢見る乙女な矢場弓子は違う。その事に京は気付けて居ない。

 

 話は戻り、徹と弓子は連れ立ってファミレスに入った。道中、通り過ぎる人から見られている事に弓子は内心で緊張と優越感に浸る。何せ一緒に歩く相手があの川神徹なのだから。

 同年代の同性は徹を見てイケメンだの、弓子には羨ましいだのと感想を漏らす。また主婦なども初々しく映ったのか微笑ましく見られるなど、彼女にとって降って湧いた幸運に内心で歓喜している。それを曝け出さない弓子は、精神的に激しい戦いを行っている。

「それにしても驚きですよ。あなたがあのユーミン先輩だったんですね」

 席に着くと開口一番、徹が口を開く。百代から度々聞かされる名前だが、名前も顔も知らなかったからだ。

「それは私もよ…… で候」

 バイト時のトオルがまさか友人の弟であの川神徹であるとは思わなかった。似ているとは思っても点と点のままに線とはなっていなかった。それは徹がバイト時に雰囲気を変えているからだったと知るのは後の事。

「それに、お店の時とはだいぶ雰囲気が違いますね」

「そ、それはっ⁉」

 痛い所を徹に突かれた弓子は言葉に詰まる。

「恐らく、あれが普段のユーミン先輩なんですよね?」

「う……、うん」

 普通に話す徹に対し、弓子は恥ずかしさで居た堪れない。

「きっと気を張る為にしてるんですよね?」

「そう、よ……」

 思わず、鉄仮面の言葉が出そうになるが、素の言葉使いで弓子は答える。

「うん。そっちの方が俺は良いと思います」

「そ、そうかしら?」

「はい」

 そう答える徹の笑顔に百代と重なるものを感じ、弓子も笑みを浮かべた。

「ありがとう……」

 無意識に、心の底から湧き上がる感情と共に吐き出した言葉だった。

 そこからの弓子は自然な言葉使いで徹と話す。徹の雰囲気が百代と似ている事も重なり、弓子は落ち着いた雰囲気で徹と話せるようになっていた。

 

「本題なんですけど……」

 注文した品が到着し、落ち着いたところで徹が主題を話す。

「試験範囲?」

「はい。実は、姉が進級の危機なんです。家では俺が見張って勉強させられるんですけど、学園に居る間は……」

「その間、私が百代を見ている。そんなところかしら?」

「はい。お願いできませんか?」

 弓子も友人である百代がそこまで酷いとは思っていなかった。川神学園は試験一発で成績が決まり、小テストで点数を稼ぐ事も無い。故に自由でありながら結果を出せない者には厳しい未来が待っている。

 

 好機到来。

 弓子にとって徹と言う存在に近付ける。

 実際、弓子はミーハーでイケメンクワトロの人選は把握済みである。そんな中、学園近くに徹に似た店員が働いていると知り、春先から常連になったのも頷ける。

 弓子は徹の顔を見る。

 それだけで顔が赤くなるのを抑える事に必死なのだが。

「分かったわ。私も百代が後輩になるなんて嫌だもの。協力させてもらうわね」

「ありがとうございます!」

 徹は心の底から彼女に感謝する。それが行動に出る。

「へぁ⁉」

「あっ、ごめんなさい……」

 無意識に徹は弓子の手を握っていた。

「えっ、いいのよ。気にしないで……」

 顔を赤くして答える弓子、更なる野望が芽生えた瞬間だった。

 百代も男装すれば見た目と雰囲気からカッコ良く見える。だが突き詰めれば同性である。それを最高だと評価する者もいるが、弓子はノンケだ。

 つまり、目の前に座る徹が、百代の男バージョンが本当の男と言う時点で弓子のテンションはマックスに達する。

 この様な降って湧いた幸運を逃してはならない。弓子の脳内で素早く計算され、解が導き出される。

「ごめんなさい。うれしくて……」

 ちょっと顔を赤くして恥ずかしがる点も弓子には堪らなかった。

「本当に気にしなくていいのよ。それで、連絡とかどうする?」

「あっ、そうですね」

 と、自然な流れで連絡先を交換した弓子の内心で、人生で最高の歓喜な瞬間が訪れたと感じている。

 付き合いたいという気持ちは無いが、イケメンの男友達をゲットする。ただそれだけで言い知れぬ優越感に弓子は勝ち誇りたい。だが、友人の弟と言う側面も忘れない辺り、弓子はハイスペックである。

 内心に巡る感情を一切面に出さず、自然な流れで会話を続ける。

「所で、二年の勉強を教えるにしても徹君の成績は大丈夫なのかしら?」

「学年四位です」

 弓子の戦略は瞬く間に崩壊する。

 あわよくば弓子が徹に勉強を教えるというシチュを思い描いたのだ。

「す、凄いのね……」

「ありがとうございます」

 それでも協力関係と言う地位は揺るがない。

 弓子は以後頻繁に連絡を取り合う事となる。日々の状況や授業内容とノートのコピーの受け渡しなど、徹と顔を合わせる回数も激増する。

 

 

 

 

 

 一月の終わりから百代を間に挟んだ協力関係が始まった二人。会う場所は学生らしくファミレスだった。そして、二人が楽し気に話している光景が目撃されるのも自然な成り行きだった。

「ねえねえ、弓子この前一緒に居た子は誰、彼氏?」

「かれっ⁉ 彼氏ではないで候」

 当然誰の事を言われたのか察するまでに時間は掛からない。そうなる相手など弓子にっとって徹だけなのだ。

「えっ、そうなの。すごく良い雰囲気で話していたから彼氏だと思ったわ」

 偶然、たまたま尋ねた彼女は同じ店に居た。最初は矢場弓子だと気付かず、相手が超イケメンと言う認識でしかなかった。

 だが、相手が弓子と知る出来事が起こる。

 ドリンクサーバーで偶々隣り合った時に、気付いたのだ。

 私服で、コンタクトの装いだった弓子は彼女からして大学生と勘違いする程雰囲気が出ていたからだ。しかし、近付けば彼女も分かる。そして、尋ねた事で正解を引き当てる。

 この会話はFクラスでされ、当然男子も存在する。この話は瞬く間に掲示板で拡散される。学園でも美人と評判の高い弓子は実際にモテる。何故彼氏が出来ないのか、それは高嶺の花で、男子が尻込みしたに他ならない。

「そ、そんなんじゃないで、候……」

 俯き、顔を赤らめ困り顔で答えた彼女の雰囲気に、掲示板の閲覧回数と投稿数が激増する。

「ああ、ユーミンの相手は私の弟だ。当然彼氏ではない」

 百代から援護射撃が飛んできた。

「そ、そうだったんだ。ゴメンね、勘違いしちゃって……」

 その女子は百代の言葉に納得した、かどうかは別にして弓子の前から姿を消した。百代を苦手とする為に逃げたのだ。

「助かったで候、百代」

 焦りそうな気持ちを宥めるべくメガネの位置を戻して気を落ち着かせる。百代に礼を述べるが心臓はバクバクであった。

「なに、徹から話しは聞いているからな。弟に彼女は居ない。そうだよな?」

「と、当然で、候……」

 彼女の疑惑は何とか晴れた、のだろうか……

 

 一方、徹もまた非彼女裁判にかけられていた。

 弓子同様に目立つ徹が美女と一緒に居ればその情報は岳人を始めとした非モテ集団の耳に届く。

「さあ言え徹。お前と一緒に居たお姉さまは誰だ!」

 岳人は徹の胸ぐらを掴み、血涙しながら問い詰める。

「分かるぜ、ガクト。お前のその悔しい気持ち。今お前は怒りに任せて行動しても許される」

 ヨンパチは岳人に同調し徹を非難する側に着く。

「誰って言ってもユーミン先輩だけど…」

「既にあだ名で呼んでいる⁉」

 結果的に油を注いでしまう。だが、徹としては聞かれたから答えたに過ぎない。この光景をクラスの女子は冷ややかな目で見ていた。

「泣いていい、ガクトお前は泣いていいんだ」

「いや普通に説明しなよ、徹」

 京が珍しくファミリー以外が見つめる場面で口を開く。

「ああ、そうか」

 その言葉で徹は岳人に訳を話した。

 

「な、なーんだ。そうだったのか。はっはっはっ、最初からそう言ってくれればいいのだよ、徹君」

「ごめんなー徹。ガクトの早とちりで今度から気を付けるようにするからさ!」

 二人は何とか取り繕うとする。

「直江裁判長、判決をお願いします」

 風間翔一が面白がって大和に判断を促す。

「有罪!」

 その瞬間、法廷でもないにも拘らず、その場面が想像できる様な雰囲気になった。そんなのは一瞬であるが…

「ま、待ってくれ徹。あれはほら、あれだ……、ヨンパチ!」

「うえー俺!え、えーっとで、出来心?」

 二人のコントは彼の一言で終了を迎えたのであった。

「あ、詰んだね」

 京の非常な言葉で刑は執行される。徹による、腕にしっぺと言う刑が執行された。壁を越えた者から繰り出されるしっぺは想像以上の破壊力である。

『ぎょあぁぁぁああああ!』

 教室のみならず汚れた絶叫は廊下にまで響き渡った。

 時は休み時間、この騒ぎは選民思想が渦巻くSクラスを刺激する。

 

 

 

 

 

「あー全く五月蠅い猿どもじゃ! こう毎日のように騒がれてはおちおち勉強も出来んわ!」

 着物を着た少女が、金切り声をあげて隣から聞こえる騒音に怒りを露わしている。彼女は不死川心、綾小路と並んで三大名家の一つに上げられる家柄である。

「心の方がうるさいよー」

「ええい、黙れユキ! 妾はあの煩いクラスをじゃな」

 榊原小雪に突っ込まれた心は余計に声を上げる。それが余計にクラスに不穏な空気を募らせるのだが、誰一人逆らえる者は居ない。

「まあまあ、落ちついてください」

「トーマ」

「葵君!」

 入学以来学年一位を守り続ける葵冬馬は甘いフェイスで心を窘める。その後に井上準も続く。

「落ち着きな。そんな君に飴なんてどうかな?」

 準は心を落ち着かせる為、子供の為に常日頃から携帯する飴を差し出す。準にとって、心は見た目から守備範囲に収まっている。

「ええい。止めい、このハゲ! 今は葵君に用があるのじゃ!」

 準を押し退けて心は冬馬に理由を話した。

「なるほど、Fクラスの騒音ですか…」

 心はああだ、こうだと話すが要約すると冬馬の一言に尽きる。

「そうなのじゃ。本当に喧しくておちおち勉強も出来んわ!」

「ほら不死川さん落ちついてください」

 思い出したように感情を荒げる心に周囲は辟易しながら、我関せずを貫く。関わり合いにならず、それでいて成績上位五十位以内を狙う彼らに仲間意識は存在しない。

「しかし、困りましたね。今日に限って英雄がいません。と言う訳で私がお願いしてきましょう。それで構いませんか?」

 冬馬が心に尋ね、彼女は了承する。クラスの雰囲気も「じゃあそれで」というものに変化したので冬馬は行動を起こす

「それでは準、ユキ行きますよ」

「おう」

「わかったのだー」

 彼の合図で隣のクラスへと向かう。

「ま、待つのじゃ~ 此方を置いて行く出ないわ~」

 そして、取り残された心はと言うと誰にも相手にして貰えそうになく、急いで三人の後を追うのであった。

 

 

「失礼します」

 冬馬が断りを入れて入室る。ただそれだけでクラスの女子から黄色い声が上がり、男子は面白くない。

「申し訳ありません。時間がありませんので、こちらの責任者は?」

「ああ俺だ」

 学級委員ではない岳人が名乗りを上げる。

「貴方が? 失礼ですが休み時間とはいえ、もう少しお静かにして頂けませんか?」

 口調は穏やかであるが彼の放つ何かは、それ以上にもの語る。

「うるせぇな。そんなのは勝手だろ。俺たちが何しようと、とやかく言われる筋合いはないぜ!」

「そうだぜ。言ってやれガクト!」

「まったく何を言い出すかと思えば…」

 男子生徒からは非難轟々出ある。逆に同調したいが、相手が冬馬である事から口を塞ぐ。しかし、この環境に耐えられない者が居る。

「ええい、黙れこの山猿共! 良いから黙って葵君の指示に従うのじゃ!」

 心はいい加減にブチ切れている。

 彼女の中には彼等を下賤な輩と見做して差別しているのだ。そんな彼らが選ばれた者が集まるSクラスに刃向かうことすら許されないのである。

「まあまあ落ちついてください、不死川さん。今日は英雄がお休みでしたので私が参りました。出来れば争う事が無い様にしたいものですね。それでは失礼いたします。行きますよ」

 そう言って彼等は言うだけ言って教室を後にした。

 その後の教室は何とも気の重たい雰囲気であった。




 お読みいただき有難う御座いました!
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