まじこい的な何かを書こう   作:津谷 桐矢

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第23話

 黛由紀江は入学式で知り合い、まともな会話が出来る大和田伊予と共に昼休みを過ごし、その中で由紀江と縁の有る徹が話題に上がった。

「川神先輩ですか?」

「そうなんだよ、まゆっち。私が此処へやって来て間もない頃にね……」

 伊予は真剣に聞き入る由紀江に対し、通称変態橋で変質者に襲われそうになった時の事を話し始めた。そして、その時に救ってくれたのが徹だった事を嬉しそうに話していた。

 由紀江は伊予の言葉の端々に尊敬する想いが含まれていると感じた。しかし、伊予の中では恋愛感情も含まれているのだが、由紀江はそこを尊敬として一纏めにしていた。

「もう一度会えないかなー」

 そう呟く伊予は、川神学園の先輩でもある徹に未だ会えずにいる。だからこそ思いが募り、時折自然と溜め息を吐く回数が増えていた。

「伊予ちゃんは教室へお会いに行かないのですか?」

「うーん、川神先輩が居るクラスは2-Fだからね。やっぱり少し勇気が要るよ」

 入学間もない一年生も特異な人間が集まる2-Fの噂は、尾ひれを付けて拡散していた。

 由紀江はそこに所属する大和たちに悪いと思いつつも伊予の話しに合わせる為、心の中で松風が代わりに謝罪を行った。

「たしかに一年が行くには勇気が要りますね」

 伊予が一方的に徹の事を話し、由紀江が聞くという構図は昼休み一杯続くのだった。

 こうした事から初めての出来た友の想いを叶えてあげようと、心優しい由紀江は島津寮へ帰ると大和と京に相談する事と為る。

 

「なるほど。まゆっちの友達が徹と……」

 大和は由紀江の話を聞いて徹なら簡単にやるだろうと納得した。

「徹なら余裕だね」

「さすが徹だな。正義は勝つ!大和も見習うが言い!!」

 大和を非難する目を向けていたクリスはこの少し前、少し態度が変わり始めた筈だった。

 折しも島津寮では女子風呂が破損した為、一階の男子風呂が共用風呂に変更され時間で男女が入れ替わる仕様に為っていた。そこを寝ぼけていた大和が侵入し、クリスと鉢合わせてしまう。

 この事でクリスの大和への評価は低かった物が、さらに低く為る事となった。

 

 対して徹の評価は最初から高かった。

 好敵手と認め合った一子が『私を鍛えてくれたのは徹よ』とクリスに紹介したことで見方が違った。加えて『川神院では無理だが河川敷で鍛える』という約束をしたことで、信頼度はマックスに近いものとなった。

 そこで比べられる大和とは雲泥の差が生まれるのは必然だった。

「なにも言い返せない……」

 大和はラッキーと思ってしまっていた事で、クリスから目を逸らすしかなかった。

 

「ほらほら、汚名は返上するものだよ。大和」

 声を掛けたのは人にあらずクッキーだった。

「うう、有難うクッキー」

「でも簡単に会わせたとしてどうするの、まゆっち?」

 そう此処に居る者で、徹に恋人が居る事を知らない者はいない。加えて心の機微に鋭い京は、由紀江が考える以上に単純ではないと考えている。

「そ、それは…ただ伊予ちゃんが会いたいと仰っていただけですから……」

「取り敢えず会わせてみるか?」

 大和は会わせるぐらいならと言う感覚で答えたが、京は反対を示す。

 

「うーん、矢場先輩の事を考えると安易に会わせるのは気が引けるよ、大和……」

 京は徹たちの出来事を話し始める。初めて聞いたことで驚かされた大和たちは、由紀江の提案に頭を悩ませることとなる。

「まさか、徹があの券を京に渡した裏にはそんな事が有ったのか…」

(パネェ、都会の人間って進みすぎてんよ、マジパネェよ。まゆっち!)

「一つ上の方がそこまで進んでいるとは、私も驚きですよ。松風」

「まあ、そのまゆっちの友達は徹が付き合っていて、相手が矢場先輩だと言う事を知らないんだよね?」

 京は松風の事は敢えて無視し、現状を確認するべく由紀江に確認を取る。

「はい。徹さんは一年の間でも有名ですが、どう言う訳かお付き合いされている事は話題に上がりません」

 由紀江は周囲で話される事を集中して聞き、精査する時間がある。

「それは簡単だよ。徹は学校にいる間、昼以外殆んど会わない。場所も屋上限定だからな、一年はまだ屋上に行けないだろ。二学期以降だな、徹たちが付き合っているのが本格的に広まるのは」

 大和は自分の知る徹の行動を由紀江に話した。愛し合っている割にはこうしてドライな雰囲気を見せる為に、入学間もない一年生にその姿が見えていないのだ。

「そう言えば、まだ屋上に行ったという話しを聞きませんね」

「あの二人は外でよくデートするからね。何れその光景を見る者が現れるよ…ねっ大和」

 京は流し眼で大和を見つめ、何かを求める様な仕草であった。

 

「何もしないぞ。それでどうする、なんなら大和田さんだったな。一度会って確認してみるか?」

 大和は敢えて京を突き離し由紀江に尋ねた。

「そうですね。伊予ちゃんがどう言う思いなのか私には分かりませんが、大和さんと京さんならば上手く聞きだして頂けると思います」

 そう言って由紀江は『お願いします』と最後に述べて頭を下げた。

 こうして、二人と伊予が由紀江の仲介で出会ったのは翌日の事だった。

 

「うーん、随分大人しいなと思えば…」

 京は慈愛を込めた瞳で隣を見た。

「最初だけだったからなクリスが話していたの」

(クリ吉にはまだ早い会話なんだぜー)

 後輩の由紀江にも慈愛を込めた目で見られるクリスは、気持ち良さそうに眠りについていた。

 

 

 

 

「話しはまゆっちから聞いた。徹に会いたいそうだね」

 放課後、空き教室に四人が集まり大和と京の目の前に伊予が座り、その間に由紀江が座ると言う構図で会話が始まった。

「はい。えーっと…」

 伊予も昨日の今日で由紀江が行動を起こした事に困惑していた。島津寮に住んでいると聞き、徹と深い関係の大和たちを噂で知っていた伊予はまさかと言う思いがあったが、現実に為るとどうしていいのか分からなかった。

「まゆっちはね。あなたが悩んでいるからと私たちに相談してくれたの。そこで聞かせて、徹の事が好きなの?」

 京はド直球に物事を尋ね、伊予の目を確りと見た。

「い、いいえ……その何と言いますか、好きと言うよりは…優しいお兄ちゃんのような……」

 その言葉で三人の口から大きな空気が漏れだした。これで好きだのと言われればどうしようかと考えていたからだ。

 

「よかった」

「よかった?」

 伊予は京が漏らした言葉を聞き逃しはしなかった。そして、一体どう言う事なのかと言う目で大和と京を見る。

「実はね、徹には付き合っている人が居るの」

 京が今回こうして集まった訳を大和に変わって話し始めた。こうしてファミリー以外に饒舌に物を語る京に大和は驚きを持って眺め、由紀江もその口数の多さに驚いていた。

「そ、そうだったんですか…」

「うん。まゆっちが徹の事を知るからこそ、私たちに相談を持ちかけたの。多分お互いに傷付かないようにと言う考えからだね。だからこうして集まった事や、話しの中でまゆっちが徹と知り合いなのを隠していた事を責めないで上げて欲しいの」

「そ、そんな、責める訳ないじゃないですか!まゆっち、お礼を言わなきゃいけないね」

 伊予は手振りも踏まえて京の話しを否定し、由紀江に目を向けるとそう言葉を掛けた。

 

「伊予ちゃん…」

(え、ええ娘や…ええ娘やないかい!)

「くっ、ここで松風が…」

「没収するのを忘れていた。しょーもない…」

「あはははは…」

 大和と京は由紀江のその腹話術がそこで出るなどと予測していなかった。対して、良い雰囲気を破壊する松風の登場に苦笑いを浮かべるだけであった。

 

「とは言えどうする?大和田さんは徹に恋心がないとして、どうやって会わせるか」

「バイト先に向かう?それとも何処かで会う機会を設けるか…」

 大和と京はそう言って徹と会う機会をどうにかして出来ないかと考えていた。学校でと為ると邪推する者が現れ、よくない噂話を広められる可能性が有るからだ。二・三年生の中にも未だに嫉妬という負の感情を抱く者は少なくない。一度事件と為りきつく戒めらているが、起こらないとは言い切れない。

「あっ、それならこれなんてどうでしょうか」

 そう言って伊予は野球の観戦チケットを見せた。

「野球の観戦チケット?」

「七浜ベイスターズ主催の試合だね」

 場所も七浜と近い事もあり二人は良いかなと思い始める。

 

「私野球が好きなんです。もしよかったら皆さんも一緒に観戦しませんか?」

「そう言えば伊予ちゃんは大の七浜ベイスターズファンと仰っていましたね」

(あの熱意は相当な物が有るぜ、大和坊)

「外野自由席ですから値段も安く為っています。如何でしょうか!」

 伊予の熱意と適した場所と言う事もあってこの提案は決定する事と為る。後は徹に話しを通し、予定を空けて貰い連れて来るだけである。

 そこで早速大和はバイト中の徹にメールで事の経緯を踏まえて長文を送り、今夜中にも連絡が欲しいと送りこの会は解散となった。

 大和と京は先に部屋を出て、残された由紀江と伊予は向かい合って話しを続けていた。

「よかったですね、伊予ちゃん!」

「うん。有難うまゆっち!」

 伊予は由紀江の両手を握って感謝を示した。由紀江はこう言う展開を望み、川神学園に来た事を心から喜んだ。そして大和や京、それに徹たちと出会えたことに感謝し、目の前の伊予が喜ぶ姿を目に焼き付けるのだった。

 

「なあ、京」

「何、大和。告白なら何時でも受け入れるよ」

「ち、違うって!そうじゃなくてどうしてあの大和田さんにそこまでしてあげられるんだ?」

 大和は仲間内以外に極端に不干渉な京が執る行動にしては積極的だと感じていた。徹と協力して外部と接触し易くしようと頑張った結果とも言えるが、それだけでは説明が付かなかったのだ。

「うーん。一言でいえば幸せでいて欲しいから…」

 京の言葉があまりにも端的過ぎた為大和の頭を以ってしても理解が及ばなかった。

「徹と矢場先輩が勘違いであっても危ない時期が有ったのは話したよね。あれで思ったんだ。救えるなら救ってあげたいってね。勿論徹が絡んでいたからだよ。今回はまゆっちが居たから。だからこうして私は動いたの」

 そう言う京の表情は今迄にないほど綺麗な、そして純粋に彼女の優しさを語る様な笑みを大和に向けていた。それには思わずドキッとさせられ、暫く京の顔を見る事が出来ず島津寮へ帰宅する事となった。

「それに、上手く行けば大和とデート出来るかも、なんて考えちゃったりして!」

 そこでオチをつける辺りが京であり、大和は正気を保つ事が出来た事に感謝した。

 後年その事を知った京は地面に両膝、両手を着いて悔しがる事と為る。

 

 

 

 

 

 大和が提案する形で始まった徹と伊予の顔合わせ野球観戦は、無事に話しが纏まり当日を迎える。

 参加者は徹と彼女の弓子、伊予と由紀江さらに大和と京が参加する事となった。場所は休日にごった返す川神駅集合と為り、時間通りに集合を果たした。

「やあ、久しぶり伊予ちゃん」

「はい、お久しぶりです、徹先輩!」

 主役となる二人はそう言って再開を喜び合った。危惧した事は起こらず互いに言葉を掛け合うに留まった。この光景は大和たちもそうだが、発端を知る弓子自身が最も大きく安堵していた。

「さっ、早速移動しよう」

 大和の音頭で一団は行動を開始する。

 とは言え電車での移動の間、仲良く初対面の者同士は自己紹介を交え会話を楽しんでいた。特に大和と京を除いた四人は顕著であった。それを客観的に眺める二人は似た様な感想を持っていた。

「大和田さんとまゆっちは本当に妹の様な雰囲気だな」

「だね。徹が兄で大和田さんが妹、まゆっちがその友達で徹の事をお兄さんの様に慕う。そんなところかな。それに矢場先輩も不安に為ることなく二人と接する事が出来ている…」

 全てが上手く行っている様な光景に二人は心底良かったと思った。そしてもう一つの不安も無事取り払われたことに安堵している。

「キャップや姉さんたちを連れて来なくて本当に良かった」

「同意。大和が頑張ったおかげだね」

 あの日から今日に至るまで、この件を秘密に出来る事は容易ならざる事柄で、薄々ばれているのではないかと思う時もあった。しかし、何とかこうして辿り着いた事で大和はやり切ったという感情で一杯だった。

 折しも日曜日と言う金曜集会に次いで集まる確率の高い日に、四人が抜けると言う異常事態だ。其々用事という事で断りを入れ、別方向で川神駅へと集合を果たした次第だ。それほど用心したからこそ妨害は無かった。

 

「さっ、後は楽しもう大和」

「そうだな。皆には悪いけど俺たちは野球観戦を楽しもう」

 こう会話するが大和は気が付いていない。二人で行動する事、即ちデートである事を…

 




 御一読頂きまして有難うございました。

 色々ご都合的な内容になりましたが、お許しください~
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