まじこい的な何かを書こう   作:津谷 桐矢

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 京はファミリーに野球観戦時の既成事実を報告した。

「おめでとう京!」

 即座に言葉を発したのは疑う事の無い一子だった。続いて嫉妬を見せない岳人と卓也も言葉を述べた。

「有難うみんな。私、幸せになるよ」

 京はしんみりとお祝いの言葉に答え、親友に結婚することを報告した様な雰囲気だった。

「っおい待て!俺たちは、ただ徹たちを含めて野球観戦に出掛けただけだ!」

 大和はそこで由紀江に助けを求めようと動いたが、既に魔の手が延びていた。

「で、本当はどうなんだ。まゆまゆ?」

 百代は弟分の行動を読み、由紀江から情報を引き出そうと捕まえていた。

「え、えっと……」

 由紀江は大和を見たが、待たしても百代に介入を許してしまう。

 

「大丈夫だ、まゆまゆ。真実を述べる事が大和を救う事となる。さあ、球場ではどうだった?」

 既に万策尽き、後は由紀江を信じるだけとなった。

「えっと……私と伊代ちゃんは応援団の皆さんと一緒で、徹さんと彼女さんは少し離れた場所で観戦していました。大和さんと京さんはさらに離れた場所で観ていると感じました」

 気配だけを感じ取ったからこそ由紀江はそう述べた。『終わった』由紀江の話に大和は天を仰いだ。

「だそうだ、弟。ガクト、お前の評価はどうだ?」

 笑みを浮かべた百代は、岳人に裁定を委ねた。

「仲間同士、実に目出度い!お・め・で・と・う、二人とも!」

 判決は京に分があった。

「だってさ、大和」

 ファミリー特有の大和弄りが行われる中、真実と受けとる少女がいる。

「知らなかった。京と大和は結婚まで考える間柄であったのか…」

(クリ吉はアッサリと信じまったぜ。オイラも信じ掛けちまったが、大和坊はそうではないようだ。チャンスは有るみたいだぜ。まゆっちー)

 松風の言葉は誰に聞かれることもなく、京の発表は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 話しは代わり、真っ暗な体育館を凝縮した負の感情が包み込んでいた。蠢く男子生徒の人だかり。一部、顔ばれを隠す為布を被った女子生徒も混じる中、舞台に照明が向けられる。

「エロイーム・エッサイム!」

 威厳の有る声が体育館内を通り抜けるとざわつきが収まった。

『エロイーム・エッサイム!!』

 壇上の言葉に反応し大勢が声を上げた。

「本日もよく集まってくれた。今回も大量にグッズが集まっている。大いに競り合ってくれ!」

『童帝!童ー帝!』

 壇上に立つ裸の男を称える言葉が室内で木霊した。

 

「しかし、いつ来てもこの感情は凄まじいな」

「そう言うガクトも似たようなものだよね」

「まったくだ。心穏やかに、臨めないものか」

「いや、井上が一番心穏やかに臨めていないだろ……」

 入口付近で全体を眺める岳人、卓也に準がそれぞれ『俺は違う』という気持ちで話していた。

「おお、此処にいたか。暫くは誰も近付かないから安心してくれ」

 体育館を使用すると言うこともあり、宇佐美巨人が付き添うこととなった。

 

 岳人は宇佐美の言葉を受け、壇上に立つ童帝に丸を腕で示した。

「それでは早速始めよう。C(コモン)からだ……」

 童帝の仕切りで物品が示され、白熱した競りが開始された。

 四人は壁に寄り掛かり、激しくも醜い競りを観戦しながら会話を楽しんでいた。

「次だ。UC(アンコモン)甘粕真与。元気一杯に両腕を挙げているポーズ!」

 童帝の説明と共に準の雰囲気が変わった。

「待ってたぜこの時を。俺は委員長に勝利を捧げる!!」

 最低金額を発表した瞬間の事だった。

「その写真十万だ!!」

 金額と準の気迫に室内は静まった。

 見事落札を決め、童帝より金銭と交換し写真を手に入れた準はやりきった男の顔だった。

 

「ふふっ、いーな、この委員長!これで井上くん何て呼ばれたらもう!」

 岳人たちをドン引きさせながら準は写真を見て妄想に浸っていた。

「なあ良いのかヒゲ先生?」

 岳人は余りの気持ち悪さに宇佐美に止めるよう求めた。

「何がだ?オジさん見廻りをしているだけで何も見ていないぜ」

 岳人は準の担任宇佐美は、知らん振りを決め込まれた。

「次は誰得?小島梅子の部活中の衣装で佇むポーズ!」

「二十万!!」

 宇佐美は童帝に最低金額を発表させる前に大金を上げた。

「ふっ、金はこうやって使うもんだ」

 ドヤ顔を見せる宇佐美は勝ち誇っていた。

 

「いや違うでしょ!お金の使い道明らかにおかしいよね!?」

 卓也は宇佐美にそう突っ込むが、三人は首を横に振った。

 そしてその訳を岳人が話し始める。

「モロ、人の好みはそれぞれ違う。井上にしろヒゲ先生にしろだ。まだ女性が好き、大いに結構じゃないか。しかしな、落ちた髪の毛が好きと言うモロの性癖に俺様正直引いてる」

「童帝も苦労しているんだろう。抜け毛を集めるなんて……」

「経営者は需要があれば頑張るものだ。好きだぜ、オジさんそう言った努力…」

 

 三人の目は明らかに拒絶を意味していた。

「えっ、行きなり何さ!?そんなにおかしくないでしょ?」

「俺様、童帝の苦労を考えると何にも言えねえ」

 卓也の性癖と主催者の努力を話しているとR(レア)に突入ししていた。

 流石にこの辺りからはグッズが提供されなくなり、写真がメインとなりだす。

「次は矢場弓子!以前の雰囲気よりも柔らかな表情を見せ、人気も鰻登り!しかし、原因は男である!!」

 童帝の言葉に観衆は同調しブーイングを投げ掛

ける。その空気は良いものとは言い難かった。

 

「あれ、これって不味くない?」

「ああ。だがここでは俺様たちも恩恵を受けている以上中立だ」

 徹の事を考えた卓也は岳人に話し掛ける。しかし、岳人は不介入を宣言した。

「年増のどこが良いのか知らんが、島津の言う通りだ。嫌なら真っ向勝負で止めるしかない」

 準の言う真っ向勝負とは競りで手に入れることだ。彼も榊小雪の物が出た瞬間押さえ込んでいる。

「まあ安心しろ、師岡。お前さんが考えている事にはなんねえから」

 宇佐美がそう言うと童帝が静まるよう言い放っつ。

 

「静まれー!残念ながら矢場弓子は事情により出品停止となった!」

 その瞬間から大ブーイングが巻き起こる。中でも弓子と同学年の者からが多かった。

「宴を維持するためには受け入れるしかなかった。遺憾ではあるが、受け入れて欲しい」

 童帝の言葉に一同は黙るしかなかった。此処に集まる者はある意味社会的弱者である。助け合いの精神がなければ成り立たぬのが『魍魎の宴』なのだ。

 

「此れからも素晴らしい一枚を提供することを誓い、この件を認めていただきたい」

 その瞬間、割れんばかりの拍手と童帝を称賛する声が体育館に響き渡る。

 彼等にとって名采配と受け入れられた。

「なるほどこう言うことか」

「言っている事はカッコいいけど、非合法な事だから強くは出られないよね…」

 そのあとも滞りなく進行し、邪魔が入ることなく宴は幕を下ろした。

 それぞれ意中の物を手に入れ、熱気そのままに解散となったのだ。

 

 

 

 

 

「お疲れ様です、宇佐美先生」

 珍しいことに、職員室へ宇佐美が戻ると小島梅子が話し掛けてきた。

「お疲れ様です。小島先生。どうかしましたか?」

 宇佐美自身声を掛けられ内心驚いていた。

 ケーキを食べに行って以来、梅子の態度に変化が生じていた。

 しかし、そんなこと知る由もないのが宇佐美である。

「いえ、ただ宇佐美先生が戻って入らしたので声を掛けただけです。……いえ折角ですからお話でもしましょう」

「えっ!?」

 意中の女性から言われ、年甲斐もなく体が熱くなった。

 

「話しと言うのは息子さんの事です」

「あ、ああ…忠勝の事ですか」

 少し落胆したが、悟らせることなく宇佐美は向き合う。

「ええ、最近進路調査を致しまして…」

 梅子が話をしようとしたところで、宇佐美は話を遮った。

「時間も時間ですし、如何ですか食事をしながら話していただけませんか?」

 本来なら断られるところを、最近の態度と生徒の話となれば勝算有りと踏んだのだ。

「……そうですね。丁度お腹も減り出した頃です。ご一緒します」

 宇佐美の提案を受け入れた梅子はレストランで合流する事となった。

 

 

 

 

 

「お待たせしました。宇佐美先生」

「いえいえ、此方が提案しましたからね。さあ既に席は用意してあります」

 宇佐美が取った席は奥に在る。二人は向かい合うと直ぐに食前酒が用意される。

「それじゃあ乾杯」

 宇佐美の言葉で二人が持つグラスが打ち鳴らされた。それから程なく料理が運び込まれ、空腹を満たす。

 そして頃合いを見計らい宇佐美から話しを始める。

「それで小島先生、忠勝がどうか致しましたか?」

 尋ねた宇佐美に梅子は一枚の用紙を見せた。

「源は進路調査票に宇佐美代行センターへ就職と書いてあります」

「ええ、そうですね。それで?」

 前々から宇佐美と忠勝とでは話しが決着し、済んだ話と為っていた。

 

「ご家庭の事でしょうが、少し勿体無いと私は感じまして。勉強も出来ないのではなく何処か抑えるという印象を受けます。もし頑張れば大学進学も狙えるかと」

 梅子は話し終わると、グラスに入るワインを飲みほした。

「たしかに忠勝の頭は悪くありません。むしろ回転が早い方だという認識を私は持っています。ですが、進路はあいつが決めた事です。私は一切関知していません」

「そうですか。本来私が口を挟む様な事ではないのですが、つい気に為りまして」

「いえ、小島先生に気に掛けて頂いてあいつも良かったと思いますよ。なんでしたら小島先生が言葉を掛けてやって下さい。私は大学に進むにしろ、就職するにしろ忠勝を後ろから支えてやるだけですから」

 宇佐美は真剣な目で忠勝の事を梅子に話した。

 その後、話しは他の事に移り、食事を終える事となった。

 

 翌日、早速梅子は忠勝を呼び出し進路についての話しを始めた。

 そこでは全く進学を考えず就職する事を熱心に話す忠勝に根負けし、以後進路についてあれこれと言う事はなくなった。

 ただ今回の事を切っ掛けに、居酒屋などで宇佐美と梅子が二人で酒を飲む姿を目撃することが増える事となる。

 

 

 

 

 

「ゴールデンウィークは二泊三日で箱根に行く事となった」

 徹は、デートの定番コースとなった静かな喫茶店で弓子に予定を打ち明けていた。

「百代からもその話をされたわ。参加させられなくてすまないって」

 その様な素振りを見せない姉の優しさと友人への気持ちから、百代が弓子にフォローする行動を取らせたのだ。

「そうか。姉ちゃんが…」

「本当は私が謝らないといけないわね。その期間中、新人の強化に充てる事に決まったから休みが取れなくなったのよ。」

 期待の新人が入部した事で、顧問の梅子と相談し部活動の日数を増やしたのは他でもない弓子である。徹に申し訳ないと思いつつも彼女の弓道部に込める思いは真剣そのものだった。

 

「京もその期間中一度は参加させるよ」

「ええ待っているわ。ただ無理矢理に参加させなくてもいいからね。本人が希望した時で構わない、って伝えてちょうだい」

 先日一緒に行動したばかりだが、どうにも二人の間にはまだ開きがあった。会話をする事は有っても部活に関しての話は皆無であり、こうして徹を介することでしか話が出来なかった。

「分かった。必ず伝えておくよ。さて、そろそろ出ようか」

 徹は携帯で時間を確認すると、鍛錬の時間が迫っているのに気が付いた。

「ええ、そうね。私も買い物に行かなくっちゃ」

 同じタイミングで席を立つと徹が支払いを行い店を後にした。

 

「何時も出して貰って悪いわね」

 弓子も自分の分は支払おうとするが、徹が先に支払ってしまうのだ。後から渡そうとしても断られる。

「毎回お弁当作ってくれているお礼だよ。あれだけでもお金が掛かるだろ」

「そうでもないわよ。纏めて作るからね。後は買い物の時間で安くと購入するから」

 既に主婦の域に到達する買い物術は弓子の隠れたスキルであった。

「そうか。それじゃあ本当に帰るよ。これ以上遅れると怒られるから。それじゃあな、弓子」

「ええ、また明日ね」

 二人は口を重ねると別れた。

 そしてこの日から、クリスが参加する河川敷での鍛錬が始まるのだった。




 御一読有難うございました。

 短編的な話の構成となりましたが、次話より旅行へ向かうこととなります。
 大和とクリスの関係が決定的に拗れていない中、川神対戦はどうなるのか!

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