まじこい的な何かを書こう   作:津谷 桐矢

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「これも姉ちゃんの進級の為だ!」

 徹の力の入れようは尋常ではなかった。

 その訳は彼等の祖父川神鉄心より打ち明けられた留年危機である。

 百代の危機はファミリーの危機である。

 徹は彼女の友人の矢場弓子を介して授業内容を教えて貰った。

 そして、百代に教えられるだけの勉強を行ってテスト勉強に臨んでいる。

 一学年先の勉強を学び、教える。徹にとってもメリットは大きい。

「しかしだな…」

 ところが留年危機と言われても中々エンジンの掛からないのが当人であった。

 徹が課す事は取り敢えずやる百代だが、彼からすると物足りなさと危機感の無さを感じてしまう。

「しかしも無い! 終わらなければ睡眠時間が削られるからな‼」

 こうなった徹は、やり終えるまで決して許しはしないのを知っている。

 彼女は泣く泣くやり始めるのである。

「なんだ、確りと理解はしているんじゃないか!?」

 しかし、蓋を開けてみれば意外にも理解していた百代に徹は驚いた。

 内容を確認する為に出した問題は見事正解を導き出していた。

「当然だ。単に嫌いなだけで理解出来ていないのとは違うんだ!」

 現在の科目は化学である。

 さらに範囲内の問題を出すと、多少時間を要したが解答欄に答えを書き込んでいく。

 

「まあ出だしは上々ってところだな」

「それじゃあ今日は終わりだな!」

 百代は徹の言葉が終了を意味すると受け取った。

 すぐに彼女は脱出に乗り出し、音速を超える速さで移動を試みる。

「ちょっと待て!」

「ぐぇ……」

 しかし、彼は百代の弟であり、成長期を迎え徹の実力は彼女に肩を並べようとしている。

 容易に徹の手に捉まり、捕獲されてしまった。

「おい、なんでだよー。もう終わりだろ、もう止めようぜ。な、今日はお姉ちゃん疲れちゃった…」

 テヘ、まで付けなかったのは徹への配慮である。

 今の彼には冗談は通じないからだ。

 それをすれば確実に解放されることはない事を百代は理解している。

「疲れるのは俺もだよ。姉ちゃん」

 徹はそう言うと百代へと問題集を渡す。

 A4紙五枚分の厚みがある。

「俺は風呂入ってくるからそれまで此処でやっておいてくれ。出来る範囲で良いから、それが終わらないと今日は眠れないからな」

 徹はそう言うと直ぐに風呂場へと移動するのであった。

 この問題集は大和と共に作り上げた苦心作である。

 大和も決して百代の留年は受け入れられるものではなく、彼のネットワーク等も駆使して各教師が出すかもしれない問題を想定して作り上げられていた。

「ちょ、おまえそれはないだろうが!」

 百代の声も空しく響くのであった。

 

 

 

 

 

「寝るな!」

 大和は舟を漕ぎだしている一子の頭をハリセンで振り抜いた。

「フギャッ!」

「まったく…… せっかく大和が勉強を教えているんだから寝ないの」

「うう、だって…… あんなに食べた後ですもの。もう眠いわよ……」

 一子は涙目になりながら頭をさすりながら京に答える。

「それはみんな一緒でしょ。ほら次をやりなさい」

 厳しさの中に優しさ在り、彼女は風間ファミリーに対しては積極的にサポートに回る。

「なあ大和?」

「なんだ、キャップ?」

「もう諦めてもいいか?」

「ほう……」

 その後大和は厳しく、容赦なく翔一と一子を責め立てたのであった。

 

 

 

 

 

 明けて翌日、徹は早朝の鍛錬を終えるとバイト先へと出掛ける。

「いいか姉ちゃん、ちゃんとやっておいてくれよ」

「ああ任せろ、徹。確りとやっておくから…」

 本来ならば大和達を呼びたい。

 だが、以上は負担を掛けられないと百代を信頼して川神院を後にした。

 百代は彼が出て行くのを確認すると仕方なしに勉強を始める。

 その姿を川神鉄心とルーが見ていた。

「ル、ルーよ。見よ、モモがあのモモが勉強をしておる!!」

「そうですネ。徹に頼んで本当ニ、良かったですネ」

 彼女の学力レベルは本当にやばいレベルにあった。

 鉄心は学年主任からの相談を受けて目の前が真っ暗になった程である。

 やれば出来る子、という言葉がある。

 それは普段やらない子がやれば出来るのに、という意味で用いられる。

 しかし、百代の場合はやれば本当に何でも出来るという言葉に内容が変化する。

 その彼女が勉強をしているという事は奇跡が起こるかもしれない、と孫を見る目は変わっている。

 

 

 

 

 

「おはようございます」

 バイト先へと到着した徹は専用口から店内へと入る。

 既に調理担当の人間が準備を終わらせ、今も追加でどんどん作り上げている最中である。

 徹は主に接客を担当している。

 このお店は販売とイートインが併設されている。

 女性客の多い事から、彼の様な人間は重宝するのだ。

「おはよう徹君。昨日は悪かったね」

「おはようございます、店長」

 スタッフ専用(男)と書かれた部屋へと入り、制服に着替えている最中に声を掛けられた。

「確かもうすぐテストだよね。大丈夫かい?」

 そう言って彼を心配するこの男は川神学園のOBだった。

 彼が心配するのも無理はない。

 出店するに当たり鉄心が協力してくれなければ、人気店としての今が無い。

 その大恩有る人物の孫が成績を落とすようでは申し訳が立たない。

 

 川神学園入学後、そろそろ学校生活に慣れたという時点でバイトを探し出していた。

 学業との両立、それが鉄心との約束である。

 その為、待遇面などを考慮すると働いてみたいと思うバイト先が意外と少なかったのだ。

 そんな帰り道、お店の評判を耳にしていた一子が入ろうと提案した。

 此処が鉄心とどの様な関係が在るのか等知る由もない二人は、自然とお店の中へと入り料理の美味しさに高評価を与えていた。

 そして、一子と店を後にしようとした時、ふと掲示物に目をやるとバイト募集を目にした。

 時給面はそれなりに高く、待遇面も悪くない、何より時間に融通出来ると書いてあった。

 加えて、このお店の立地が彼の心を大きく引き寄せる。

 学園に近く、さらには徹の通学路になっている。

 徹はこのチャンスに直ぐ店長にお願いする事にした。

 

 一度決心した徹の行動力は素早い。

 レジを担当している店員にバイトの張り紙について相談した。

 そして、出来ればすぐにでもと付け加える。

 すると、店員も理解が早いのか、すぐに店長へと連絡が行き面談となった。

「川神学園の生徒だね。お名前は?」

 店長の川秦照雄は自らも袖を通した制服を見て、幾分懐かしさを感じていた。

「川神徹です」

「川神……」

 だがどうだろうか、目の前の少年は川神を名乗ったのだ。

 川神市という名前が付くほどに有名だ。

 名字で川神を名乗れるのはあの川神院を運営する川神だけである。

 

 さらに彼に非常に恩のある師を思い出す名であることから当然その事を尋ねる。

「失礼だけれど、川神院との関係があるのかな?」

「はい、私は川神鉄心の孫でして…」

 照雄にとっては青天の霹靂である。

 当然来店する事は在るかもしれない。

 事実、徹たちが客として訪れているし、あの鉄心も訪れている。

 だが、従業員として雇って欲しいと来るとは思いもよらなかった。

「そうか…… 君はお孫さんだったのか……」

 そう言って照雄は面接そっちのけで昔の事を話し始める。

 店長が前線に立たずともお店は回る。

 教育の行き届いた従業員のレベルを押して測るべしだ。

 そして最後に彼はこの事を尋ねる。

「川神君は先生に教えられてこのお店に来たのかな?」

「違います。妹がこのお店に入ろうと言いまして、それで」

 この言葉で照雄は彼を雇うことに決めた。

 

「わかった。それじゃあ採用しよう」

「有難う御座います!」

 徹はそう言って頭を下げる。

「但し、お金を稼ぐという事は簡単ではない。だから覚悟はして貰うよ。それと甘えは許さないからね。それと……、まだ一年生だよね。川神学園は文武両道だ。成績が悪ければ辞めて貰うからね」

 雇用条件としては簡単なようで難しい。

 しかし、徹はその条件を難なくクリアし、お店にとっては欠かせない人物となる。

「成績が悪ければ辞める、ですよね。大丈夫ですよ、中間テストは学年四位でした」

 照雄はその言葉に毎度驚かされる。

 彼の時からすでに順位争い、特に五十位以上は激しかった。

 現在と同じくSクラスは存在し、天国と地獄を味わう生徒を照雄は見てきた。

 故にその四位の重みが十分に理解できる。

「本当にすごいな、徹君は……」

 照雄は苦笑いをするしかなかった。

 

 照雄の発案により、店頭販売だけ朝の七時から行われている。

 学園に近い事を配慮して十二時前にイートインを開放する。

 これは学生の通学を妨げる恐れと経験則から判断したための処置であった。

 平日でも多くの客が訪れる。

 平日ともなれば一時間待ってでも買いたい、食べたいという客が居る程人気がある。

 OBとの繋がりから雑誌に掲載されて以来、実力を伴った判断を下され更に来客数がアップしている。

 そんな中、無尽蔵の体力を誇る徹は馬車馬の如く動き回り、お店に多大な貢献を果たしている。

 

「こんにちはトオルくん」

 徹が注文を取りに行った先に居たのは冬馬、小雪と準の三人であった。

「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」

 少しでも回転率を上げたいが為に必要の無い会話は禁止されている。

 それを分かっている冬馬も徹が黙礼した事で満足している。

「そうですね…… 私はオススメ(徹)のセットでお願いします」

「僕もそれにするー」

「それじゃあ俺はこのドデカモンブランな」

 徹は注文を繰り返し足早にこの場を去る。

 何とも忙しそうだと三人は思った。

 

 

 

 

 

「しかし、この店も繁盛していますね」

「そうだな、若。しかしなんなんだ、この女性率の高さは」

 準には受け入れられない光景である。

 彼の心の中で『これが幼子であれば』と口に出して叫びたいのを我慢……

「しきれてないからね、ハゲ…」

 小雪は可哀想な物を見る目を準に向ける。

「準、この場でその様な発言はダメですよ」

「ハッ、しまった⁉ 俺の純粋な心が思わずこの光景に押し潰されそうになり、発してしまった」

 準は全く悪びれる事も無く、幼子に関しての知識を冬馬と小雪に注文の品が届くまで語る。

「お客様、申し訳ありません。周囲のお客様のご迷惑となりますので、その様なお話はご遠慮ください」

 徹が運んできた料理を配膳しながら接客スマイルと共に準へと警告を発する。

 事実、周囲の客は準の発言に対してドン引きしている。

 それを彼はこのテーブルに近付くまで見ていたのだ。

 周囲の目はお構いなしに、幼い子共に対しての気持ちをぶちまけていたのである。

 最早警察に連絡するレベルである。

「ご注文の品お待たせ致しました。此方がオススメのセットで御座います」

「美味しそうですね」

 冬馬はこう言ってはにかむだけで周囲の女性からため息が漏れる。

「おー、うまそうなのだー!」

 小雪の場合は可愛らしいが不思議系電波少女である為そこまでの注目を浴びない。

 

「此方がドデカモンブランで御座います。……お客様、次に不穏当な発言を為さられた場合容赦なく……しますご承知おきください」

 徹はお客様と言う言葉以降を準にしか聞こえない様に話す。

「ちょっと待って、容赦なく何! 俺何されちゃうの!?」

「良いから、お黙りになっていただければよろしいのですよ」

 表情と言葉遣いは接客に努めている。

「へっ、今のお前は英雄に付き従っている年増にそっくりだぜ!」

『ピッ!』

 準が言い始めると同時に機械音が聞こえてきた。

 そして、徹は一台の携帯電話をテーブルに置いた。

『おいハゲ、いい度胸だな……』 

 そこからは地獄の底から響き渡る様な恐怖感を伴った声が聞こえる。

『テメェ週明け覚えていろよ。必ず……すからな!』

 言い終わると通話を終了する。

「な、なあ徹君…… どうして忍足あずみさんの連絡先を知っているのかな?」

 表情こそ崩してはいないが、震える声で準が尋ねた。

「そこは私も不思議です。嫉妬、しちゃいますね…」

 冬馬は男女ともにイケる稀有な人間である。

 それゆえ徹もある意味でターゲットに入っている。

 大和と共に一位二位を争う熾烈な攻防が冬馬の中で繰り広げられている等知る由もない。

「申し訳ありませんが勤務中ですので失礼致します」

 徹はそう言うと伝票を置いてその場から去っていた。

 

 

 

 

 

 この日は彼が知る人物が多く訪れていた。

 彼ら以外にも部活の帰りに寄った弓子たち弓道部の人間やクラスメイト、さらに夕方になると担任の小島梅子まで訪れる始末である。

 流石にこの日は彼でも疲れを感じる日となった。

「徹君。そろそろ時間だから、上がっちゃって」

 照雄の言葉に素直に従い、裏へと引っ込む。休むことなく着替えを済ませてお店を後にする。彼にはそうしなければならないからである。

 大和からのメールが二件、一子からのメールが一件入っていた。

 そしてどうせどうでもいい内容の岳人からのメールが一件。

 ならば優先順位は簡単に決まる。

 

 彼は川神院でも百代に比する実力の持ち主である。

 メールを読みながら歩くことなどお手の物である。

「さてと、先ずはどうでもいい内容であろうガクトからの……」

 徹はそう言いながら直ぐに削除した。

「くそ、ホントにどうでもよかった…… じゃあ、一子はっと……」

 岳人は何故か今日もジムへと行き、身体を鍛えていた。

 そこで女が出来たという妄想メールであった。

 長々と過程が書き綴られ、読む気にならなくなった徹は結論を探し求め下へとスクロールして漸く見つけるのだった。

 一子はどうか。

「助けてください? なんだ、これは?」

 徹はとりあえず『頑張れ!勇往邁進だー』と入力して返信した。

 流石に助けてと言うだけではどうしようもない。

 が、恐らく普段行わない勉強のし過ぎでパンク寸前なのだろうと思い、適当にあしらう。

 

「それで、大和のメールはっと……」

 一件目を開けば一子の事が書かれていた。

 涙目になりながらも確りとやっている。

 つまり昔と変わらない内容であった。

 そして二件目を開いた瞬間駆けだした。

 そこには『至急基地に来られたし。姉さんが、』という文面で止まって送信されている。

 着信が無い事から大和が最後の力を振り絞り送った事が分かる。

 彼の力を持ってすれば基地への移動など大した事ではない。

 それこそあっ、と言う間に到着したのである。

 

「基本的に川神姉弟は常識が通用しない」これは大和の言葉である。

 彼らにはその異常な身体能力故に、入り口から入るのは当たり前と言う常識が通用しない。

「大和!」

 徹は五階部分にある、何時も集まる場所へ華麗に着地を決める。

「いよーとおりゅ…… ヒクッ……ぉしょかったにゃー」

 百代の腕には川神水大吟醸と書かれた一升瓶が抱えられている。

 床には既に五本のそれが空となり、転がっている。

「マジか……」

 それを見た徹は事態の深刻さに気付く。

 さらに百代が座っているそれに気付いた。

「や、大和……」

「み、見ないでくれ……」

 土下座スタイルであるだけならどれだけ救われただろうか。

 今の直江大和は全裸で、土下座スタイルであった。




 お読みいただき有難う御座いました!
 これ以降も物語を進める上で設定を変える場面が出て参りますのでご了承ください。
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