テストは無事に終了した。自己採点の結果まずまずの成果を上げたのだ。大和は全員にテスト終了後確認を行うから必ず、問題に書き込んでおく様に指示を出していた。特に岳人と翔一の二人には厳重に言い聞かせておいた。一子の場合は、言い聞かせれば必ずやる子に彼と京が教育していた為に問題はない。
百代の場合は完全に徹の管轄下にある状態である。何と言っても、酩酊状態での暴れぶりに徹はブチ切れていた。状況を考えれば致し方ないことであったとはいえ、やってしまった責任は取らねばならないのだ。以降の徹の方針はやらせておく。ではなく、やらせるに変更した。彼女も反省しているのか、徹の言うことに文句を言わず黙々と勉強をするようになっていたのだ。怒ったときの彼の恐ろしさは嫌と言うほど百代は知っている。
「よし、キャップは大丈夫だ!」
「ワン子も問題なし」
「ガクトは一教科危ないかもしれないけど、他は安心していいよ」
大和、京と卓也は常に危ないとされる三人の採点を行っていた。答案は大和のネットワークを駆使して精度を上げての採点を行っていた。
「姉ちゃんの方も大丈夫だな…」
徹がそう言い終わると、全員が喜びを爆発させた。
「やったぜ!遂に終わったー」
「いやー今回は俺様本当に頑張ったんだぜ!!」
その言葉には卓也がツッコミを入れ、場を和ませる。
「でも暫くは勉強をしなくていいのね。これでまた修行に打ち込めるわ!」
一子はそう言うと既にダンベルを持って運動を始める始末であった。
「いやー私も今回は本当に勉強したな。マジで徹が怖かった……」
あの日以降、彼の形相は本当にトラウマものであった。
「それでも良かっただろ、俺たちと同じ学年に為らなくてさ」
「んーそれでもいいかなって、わわ!嘘だよ、嘘!そんな怖い顔するなよなー」
百代は冗談でその様に話すが徹はことこの件では許すことはなかった。
「でもよー徹は羨ましいぜ。モモ先輩の様な美人なお姉さまがいてよ」
岳人は見た目だけを捉えて彼にそう言った。
「ガクトお前はよくそんなことが言えるな…」
「バカだからね」
「バカだな」
「バカよね」
最後に言ったのは一子である。
「おい、一子!お前だけには言われる筋合いはないぞ!」
「何よ、私は今回全教科でセーフなんだからね!」
「いやいや、あくまでも、だよ。ワン子」
京の言葉は既に一子には届かなかったのであった。
「でもな、ガクト。徹は美人の姉よりもユーミンの方に熱を上げているんだぞ」
最初は寂しそうに、最後は人の悪そうな表情で彼等に燃料を投下する。
「モモ先輩、誰っすか。そのお姉さんは?」
「うちの主将だよ。ガクト、見たこと無い?」
京がそう説明するとガクトの年上履歴に見事引っ掛かった。
「ああーあのお姉さん!おい、徹どう言うことだ!」
「どうって…姉ちゃんの勉強を助けてもらうために、色々と骨を折って貰っていたんだよ」
岳人は今にも飛び掛からんとする勢いであった。
「あっ、僕もその話し聞いたことあるよ。駅前のファミレスで仲良く食事をしている場面を見たっていう書き込みもあるぐらいだしさ…」
ある意味で必然の展開であった。
徹はモテる。何と言っても遺伝子構造が百代と同じなのだ。それこそ、美男美女の姉弟と有名な程である。これに愛らしさ抜群の一子を加えた、川神三兄弟は巷で有名であった。
そんな徹が女性とファミレスで、ましてや二人で何てことになれば一気に情報は溢れだすことになる。
「それで気になってね、調べてみたんだ。実はこれ、店員が流したみたいなんだよ…ほらこの書き込み見てよ」
卓也はパソコン関係で右に出る者は居ない。そんな彼が、素早い手つきでみんなに見せる。
「何々、『話題の美男子川神徹について語るスレ』なんだ、これは!?」
隣に座る岳人が自然と読み上げる形になる。気になった一子は二人の後ろに来て眺めている。
「うわっ、これパート三にまで行っているじゃない!」
「はははっ、そこに驚くのも無理はないのだけれど、此処を見てよ…」
画面をスクロールさせると卓也が問題にしている文章が現れる。
「川神徹、駅前のファミレス○○にて女子生徒と食事中…」
既に全員が卓也と岳人の後ろで画面を見ている。今読み上げたのは大和であった。
「おいこれ、食事中ってなんだよ…」
「でも、どうして店員からって分かるんだ、モロ?」
大和はどうしても彼の言葉が気に為っていた。
「それはね、この画像なんだけれど…」
そう言って卓也は張り付けてあるURLをクリックする。するとそこにはモザイク処理された二人の写真が出てきたのだ。
「おい、流石にこれはやりすぎじゃないのか?」
翔一も男女の機微には完全に疎いのだが、ファミリーの人間が被害に遭っているとすればその限りではない。
「そうだね。でも一応顔から何から全てを加工してあるしね…」
それでも運営側に卓也は連絡を入れていた。こう言っては何だが、彼のファミリーに対する思い入れは京と遜色のない物が在る。内心腸が煮えくりかえる思いを味わっていた。
「分かった。この画像の撮られた位置だな、モロ!」
「その通りだよ、大和。二人はモザイク処理されているけれど、周囲はされていない」
そう言ってみんなに画像を拡大して見せる。
「この場所は店員しか立ち入れない所なんだな」
徹はそう言って彼に確認する。
「そう言う事。ほらこれ以降も画像があるんだけどさ…」
卓也はそれから三つ画像をみんなに見せる。
「どれも同じアングルだね…」
「そうだな、京…あんまりくっ付かないでくれ…」
どさくさ紛れに、京はセクハラまがいのことをやってのけている。
「仕方ない、仕方ない。ほら大和の頭脳で解決に導かないと…」
「なあモロ、此処に書き込んでいる人って学園関係者が多いのか?」
大和は気を取り直して尋ねる。
「そうだね。主に女子生徒みたいだよ。アンチって言うのは無くてね。徹の事を肯定的に書き込んでいるみたいなんだ」
そう言って卓也は掲示板に書かれている内容を見せて行く。そこにはファンとも言える行動原理が働き、其々が情報を提供し共有するコミュニティーになっていた。
「するとだモロロ、これはユーミンに対しての攻撃ってことか?」
そこで百代は一つの答えに辿り着いた。
「そうなんだよ。僕もね、どうしてこの画像が張られていたのかが気になったんだ。そしてね…此処をクリックすると…」
卓也はそう言って別のURLが張り付けてあるのをクリックした。すると違う掲示板へと辿り着いた。
「これって…」
「何よこの言葉…」
「何か昔を思い出すね。ね、ガクト?」
「だぁー悪かったって、言加減許してくれよ、京ー」
「学園の裏掲示板だね…ほらこのスレ見てよ」
全員がそれに注目する。そこに『川神徹と一緒に居た女を晒す』という題名が付けられていた。
「酷いな、これは…」
百代がそう呟く。他の者も流石に許されないものだと感じて黙るしかなかった。そこには矢場弓子の名こそイニシャルで伏せられていたが、見る者が見れば誰かがはっきりと分かる内容であった。
「弓道部主将YM、って完全に誰か分かるじゃねーか!」
岳人が遂に大声を上げてキレる。
「少し黙れ、ガクト。…それでモロ此の対処はどうなんだ?」
徹は内心怒りを抑えつけて、彼に尋ねる。一子は徹の姿を、一目で怒りに震えていることに気が付いていた。
「うん、これも運営側に連絡したよ。スグルにも手伝ってもらってね。あとは学園に連絡するだけさ」
共通のアニメを通じて知り合うことになった大串スグルは二次元をこよなく愛する男である。特にネット関連においては有用な人材である。
「学園関係ではヒゲ先生に頼むべきだな」
「それならタッちゃんに連絡してみればいいんじゃないかしら?」
一子の言う人物は持と同じ孤児院にいた源忠勝である。その養父であるのが川神学園で教鞭をとる宇佐美巨人である。
「ナイスだ、ワン子!」
褒めるときは褒める。バイブルにもそう書かれていた事を大和は実践する。直ぐに彼は忠勝へと連絡を入れる。
「あーこれは酷いね…まあこの件はオジさんに任せておけ」
大和が連絡をしてから直ぐ、内容を説明すると忠勝は動いてくれた。幸い宇佐美が学園に居たことから、PC教室で問題の掲示板を開いて確認している。テスト終了後が幸いした。これが通常授業時間であれば、時間も遅くなり不可能であった。
「お願いします」
徹はそう言うと頭を下げる。
「おいおい硬いぞ。そんなふうににしなくともこれは学校側の責任だ。お前たちが気にすることじゃない」
こう言った点で彼は本当に役に立つ存在であり、頼もしい人間であった。
「それでさ、直江。この事を確りと小島先生にアピールしておいてくれ」
そう、この事さえなければの話しであった……
百代は一子と共に矢場弓子がいる弓道部へと足を運んでいた。既に練習は終わり、タイミングは丁度といったところである。その場には顧問の小島梅子と弓子、さらにはもう一人の部員がいたのだ。
「失礼します!」
「失礼します!」
二人はそう言って中へと入る。こう言った礼儀は必ず行う。
「川神か」
「百代?」
「急にお邪魔してすみません。小島先生とユーミンにお話しがありまして……」
弓子は当事者として、梅子は徹の担任、弓子の顧問として話しを通さなければならない。もう一人の部員はそれを聞いて帰宅していった。
「それで話しとは何だ?」
梅子が代表して話しを聞く。
「実は…」
百代はこれまでに起こっている内容と対応策を説明する。
「なっ、そんなことが!」
「そうだったの…それで……」
弓子は何処か納得した表情であった。
「もしかして何かあったのか、ユーミン?」
弓子は百代の問い掛けに頷くとここ数日の間に起こった事を話しだす。面識の無い複数の女子生徒に睨まれたり、通りすがりに舌打ちをされるなど身に覚えの無い理由でされていて困惑していたのだ。
「矢場、どうして話さなかった!」
梅子は元来この様な陰湿な事、曲がった事が許せない性質である。勿論教師としての考えでもあるが。まさか身近に、このような被害を受けている生徒がいるとは、露にも思わなかったのだ。
「私にも原因が分かりませんでしたし、見知らぬ相手でしたから…」
一方的なものであれば仕方が無い。掲示板では弓道部主将と出ている。ともすれば、誰の事か判別する事は容易である。
「確かに、ユーミンの言うことも一理あるよな」
こうして話したことで幾分弓子の表情は柔らかい物になった。やはり少なからず精神的負担になっていた事の表れであった。
結局この事件は穏便に片付けられることになった。当然該当者においてはそれなりに責任を取ってのことである。
掲示板は、学園関係は削除と封鎖ということになった。これに関しては宇佐美巨人の頑張りが大きかった。
写真を撮られたファミレスにおいては警察を介入させて処理が行われた。写真を撮ったのは卓也が睨んだとおり従業員であった。その者は現在某大学の一年生で、昨年まで川神学園の生徒として在籍していたのだ。百代と弓子の同学年に彼女の妹がいて、良く徹の話しを聞かされていた。そうした中、偶然来店した徹の姿を見つけ出来心で写真を取ってしまったのだそうだ。しかし、残念ながら店の信用を失墜させかねない行為として彼女は契約解除となった。
さらに詳しく話しを聞けば、掲示板に画像を添付したのはその妹であったのだ。
そこで終わらせれば問題はなかったが、ネット上に上げた物は削除しても一生消えることはない。IDによって追跡出来た生徒に関して、悪質な行為と判断された生徒に対しては今学期の出席停止処分が科され、軽微な行為とされた者は反省文を書く事となった。勿論弓子と徹には正式な謝罪が関係者と店舗側から為されたのは言うまでもない。
後日金曜集会ではこれらの内容が大和の口から説明された。
「ある意味、未然に防げたのかな?」
卓也はそうみんなに尋ねた。未然と言うのはこれ以上の凶行である。下手に拗らせると逆恨みによる犯行にまで及ぶ可能性が在ったのだ。
「そうとも言える。お手柄だね、モロ」
「ホントだぜ!よくやったなモロ」
京と岳人が彼を褒める。
「ははっ、何だか恥ずかしいや」
「でもガクトの癖に褒めるなんて生意気よね!」
「だー癖にってなんだよワン子!癖にって!!」
低次元な言い合いが続く中、彼等の話しは続く。
「でもまさかその後の展開には驚かされたよな!」
翔一はそう言って話しを変える。
後日談として、情報は遮断したものの既に流れてしまった事である。当然徹では無く、弓子に攻撃が行く可能性が考えられた。よくよく考えれば、彼女たちが叩いている原因は横一線であり、抜け駆けを行っていると見たからこうなったのである。そもそも横一線がありえないのだが、彼女たちからすればそうなのだ。掲示板に書き込んでいた者はアイドルの様に徹を見ていたということである。
そして、百代の一言が決め手になった。
「だったら二人が付き合えばいいじゃないか」
彼女のこの言葉は、鉄心、宇佐美、梅子を始め学園関係者と、当事者が集まっている最中に発せられた言葉である。大人たちは真剣に弓子の事をどう守るべきかを考えている中、百代はそう言って場を凍て着かせる。
「何を言っておるモモ!」
「そうだぞ。川神百代、い、幾ら守るとっても…」
彼氏のいない梅子にはあまり触れたくない話しであった。しかし、此処に強力な援護射撃が投じられる。
「いや、意外といい案かもしれませんよ、学長」
宇佐美がそのメリットを話す。
「恐らく女子生徒は抜け駆けしたと思っているんですよ。ならば本当に付き合って、抜け駆け云々と言わせなければいい。恋人であれば矢場に何かあれば川神徹に攻撃した様な物になる。その様な事は彼女等にとって許されざる行為となるでしょう。勿論当事者の気持ち次第ですけどね」
そう言って宇佐美は徹と弓子を見やった。すると二人は顔を赤くして言葉を発する事は無かった。それだけ見ても宇佐美は可能性が大いにあると目論んでいた。
勿論この場では返事をすることはない。幾ら校風が自由な物とは言え、教師の前で、徹にしてみれば姉と祖父の前での告白など断じて勘弁願いたい話しであった。しかし、結果を言えば二人は付き合うことになったのだ。
「悔しいの一言だぜ!まさか徹に先を越されるとは思わなかったからな!」
「うん、素晴らしいギャグだね、ガクト!」
「おっ、出たね。京の評価十点!」
「お前、徹と比べて自分が勝っているとか、どんな頭しているんだ」
「よく鏡を見て自覚するべきよ!」
女性陣からの集中砲火で哀れ、見事に撃沈した岳人であった。
「何にせよ、カップルが出来たのはめでたい!別にこの中で出来ても構わないからな!」
翔一はそう言って大和を見るが、それは余りにも危険な話であった。
「おいキャップ。そう言う不穏当な発言は控えてくれ!」
「クククッ次は私たちだってさ、大和」
「お友達で京!」
今回の集会は徹を祝う会へと昇華してその幕を閉じるのであった。
年度も改まり、進級した直江大和はとある場所で宇佐美巨人にあの当時の事を尋ねる機会を得ていた。
「あの時どうして付き合えばいいかと後押ししたかって?決まっているだろ写真だよ。あの二人、川神百代の為と言いながら実に自然な感じで笑い合っているじゃないか。オジサンはビビッと来たね。間違い無くこの二人は意識し合っているって」
そう言って大和に答えた宇佐美巨人であった。
お読みいただき有難う御座いました!
結局この段階で矢場弓子を主人公のヒロインにしてしまいました。
私としては、どうして確りとした攻略ルートが無いのかが気になる所であります。派生した未来はあれど、どうにも消化不良でした。結局彼女を敢えて選んでしまいました!