まじこい的な何かを書こう   作:津谷 桐矢

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 掲示板にアップされた画像や書き込み等の削除は粛々と行われ、一部閉鎖まで行った事件はごく一部の者しか知らないことであった。しかし、それ以上に驚きを以って川神学園内を駆け巡った情報が川神徹と矢場弓子の交際であった。予想以上に人気のあった弓子に対し男子生徒は泣いて悔しがる者が多かった。特に同じクラスの男子の大半はそれによって魂が抜けた様な雰囲気の者が続出していた。

 学園では節度ある付き合いであれば自由なのだが、その節度がどこまでかと言うのは曖昧なものである。

 時期としては学年末テストが終了し、後は成績発表と三年生は卒業を待つばかりと言う中での事。話題に事欠かない川神学園でも相当大きな話しであった。男女共に人気がある二人である。徹は言うに及ばず女子から人気がある。今回その一部の者たちが悪い方に働いてしまった。弓子も男子には人気がある。何と言っても、魍魎の宴なる選ばれた者が通えるイベントにて、それなりに高いランクで取引されている。

 

 特に徹が在籍するFクラスには多くの人間が押し寄せている。中でも異彩を放つのは葵冬馬であった。

「私ではなく彼女を選ぶなんて意外でした」

 恥ずかしげも無く話す冬馬に男子はドン引きである。一部の女子には好意的に受け取られているのはお約束だった。京もその中の一人である事は疑いの余地は無い。

「いや、普通冬馬を選ぶという選択肢を入れている事が間違いだからな」

 徹は本当に勘弁して頂きたい話しである。彼にはその様な趣味は一ミリも無い。

「それでもですよ。まあ仕方ありません。徹君おめでとうございます」

「確かにめでたいのかもしれない。しかし、徹には幼子を愛でる事の良さをもっと啓蒙しておくべきであったと後悔している。おめでとう」 

「ウェーイ、ウェ、ウェーイ!」

 準は自身の理想郷へ招く事が出来なくなったと言う反省と祝いを同時に話して相殺させた。小雪は恐らくおめでとうとでも言っていると徹は判断した。

「ありがとな、三人とも」

「いえいえ、私と徹君の仲です。おめでとうの一つも言え無いなんて無粋ではありませんか」

「そうだよーマシュマロ食べる?」

 小雪は冬馬の言葉に賛同するとマシュマロを取り出して口の前に持っていく。

「ああ頂くよ」

 徹は有り難くそれをいただいた。

 

「流石にSも試験後だけあって緩くなっているのか?」

「いえ、そうでもありませんよ。彼等は既に来年度に向けて勉強を始めていますから」

 中にはこれ以上付いていけないと敢えて成績を落とす人間もいるが、それはごく一部である。

「それでどうしてここに来たんだ葵?」

 大和が冬馬に対して尋ねる。こうやって敵対関係にあるFに来るなど滅多にある事では無い。

「理由ですか。そうですね、一つは徹君に彼女が出来たと聞きましてそのお祝いを述べる為です。二つ目は…勧誘です。徹君と直江君、来月からSクラスで一緒に勉強しませんか?」

 冬馬は人を魅了する甘い笑みを二人へと向ける。それに反応した周辺の女子から黄色い声が漏れだす。その瞬間京はぴったりと大和にくっ付いた。彼女のセンサーが非常に危険だと言う警告を発した為であった。

「勧誘?」

 徹と大和は思わず同じ言葉を口にした。確かに二人はSクラスに入るだけの成績を残している。だが、まさか学年一位の冬馬からこうして誘われるとは思わなかったのだ。

「ええそうです。今回のテストでS落ちする者が出る事が決まっています。優秀な人間を確保する事にも必死なのです」

 むしろ冬馬はこちらがメインであった。とかく勝負事が多い川神学園では、徹の存在はまさに最強の駒である。ましてやクラス対抗ともなれば一学年上に百代がいる。Fに最強の駒が二つも並ぶのは宜しくない、そう冬馬は考えていたのだ。であるから、事あるごとに徹を勧誘していた。そして今夏は大和もともなれば事態は変わって来る。

 

 大和もS落ちの話しを聞いて、今の答えに辿り着いた。此処が軍師と呼ばれる所以である。

「でもそれは本人の意思だろ?」

「勿論、私は直江君も来ていただけると大変嬉しいのですが」

 そう言って手を出そうとする。

「大和は渡さない!」

 京が彼の手を叩き落そうとする。しかし、その手は簡単に止められる。

「トーマには指一本触れさせないよー」

 小雪であった。冬馬は右手を差し出し、京は向かって左から彼の手を叩こうとした。それを京の左側から彼女を握りしめて抑えたのだ。

 

「ありがとうユキ」

 そう言うと小雪は京の腕を放す。京は悔しそうにするが、それ以上は動こうとはしない。

「まあ俺たちの考え次第だろ。あんまり喧嘩腰になるなよ…それにそろそろ休み時間も終わるぜ、冬馬」

 そう言って徹は時計を指差す。

「おや、そうですね。それでは戻りましょうか。それではみなさん失礼します」

 そう言って三人は教室を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 さて徹がこうなっているという事は、当然もう一人も大変なことに為っている。

「は、恥ずかしいで候…」

 完全に見せ者状態に為っている弓子は内心びくついているのだ。好奇な視線と共に当然ながら憎悪まではいかないが、負の感情で彼女を見ている者が居る事を感じ取っている。

「そう恥ずかしがるなよ、ユーミン!もっと堂々としていればいいんだよ!」

 百代はそう大きな声で話す。これは彼女なりの警告である。百代にしてみれば、人が出す感情を的確に感じることなど朝飯前である。既にそう言った人間を見つけているのであった。彼女にしても親友である弓子と弟が付き合うのであれば、協力は惜しまない考えだ。

 加えて二人が付き合うことになった切っ掛けは百代自身が提案したものである。両者を不幸には絶対させられないという気持ちである。

「でも驚いたわ。まさか弓子が百代の弟君と付き合うことになるなんてね」

「ホントね。羨ましいわー」

『おめでとう弓子!』

 そう二人の息の合った祝辞を貰うと余計に恥ずかしさで小さくなる弓子であった。

「あ、ありがとう二人とも……」

 

 テストは終われども授業は六時限目まで確りと入っている。その間に昼休みと言うものがある。普段徹は大和たちと食べていたのだが、この日からは別であった。四時限目終了のチャイムで教師が教室を出て行くと、弁当組は仲の良い者で集まり、学食組は駆け足で学食へと移動する。大和たちは後者である。

「それじゃあ俺は…」

 徹はそう言うと学食とは別の方角へと歩いて行こうとする。

「くっそー俺様も徹の様になりてー」

「ファッキン!!」

 岳人とヨンパチはそう言って学食へと向かった。既に翔一は窓から一階へと降りて、学食へと移動している。

「気にしないでよ、徹。それじゃあ僕たちは行くからね」

 卓也はそう二人をフォローして彼等の後を追った。

 

 

 

 

 

 徹が向かったのは屋上であった。三月も上旬から中旬となる頃、日中日差しがあれば意外と暖かいから熱いと感じる人もいる季節。この時期は春の訪れを告げる強風が、川神市を襲うのだがこの日は穏やかなものであった。

 徹が到着すると既に彼女はやってきていた。

「ごめん待たせたかな」

「う、ううん。待つって程でも無かったわ」

 弓子は授業が早く終わり、急いで屋上へと移動していた。これから起こるイベントに心を落ち着かせる為である。その時間で大分気持ちが落ちついて、こうして徹と普通に会話出来るようになっていた。

 備え付けの二人掛けの椅子に座ると弓子がお弁当を取り出す。せっかく落ちつけた気持ちも、徹に差し出す頃には緊張に包まれる。初めての彼氏ともなれば当然誰かに自身の手作りを食べさせる事も初めてである。女友達と置かずの交換などと言う軽い気持ちには為れなかった。

「ど、どうぞ…」

 弓子は勇気を振り絞り徹に渡す。彼はそれを受け取るといただきますと元気よく言い放ち、ハンバーグを口にした。これは冷食ではなく、彼女お手製の物である。家庭的な彼女は細かな面までを考慮して料理を行う。

 学生ながら、忙しいと口にせず冷凍に頼らないお弁当だ。中身は彼に合わせた分量である。

「うん、おいしいよ。弓子」

 徹がそう言うと彼女はホッと一息ついた。彼の評価が待ち遠しい半面恐怖もあったからだ。

「そう、良かったわ。量はこれで足りるかしら?」

 弁当箱としては一番大きなものだ。弓子の倍の大きさである。

「十分だよ。それにこれ全部弓子が作ったの?」

「そうよ。中には昨日の余りをアレンジしている物もあるけどね」

 そう言って会話は自然と続いて行く。

 

 

 

 

 

「いいなー美味しそうだ―」

 百代は二人の邪魔をしない様に離れた場所からその光景を除き見ている。特に二人の食べている弁当が気に為って仕方が無かった。しかし、この場にはもう一人彼等を見ている人間がいる。

「随分と無粋ではないか、覗き見等せずにあの中に加わればいい」

「うるさいなーいいんだよ、私はここで。それよりもどうして京極が此処に居るんだ?」

「決まっている。私は人間観察が趣味なものでね。彼等の事も趣味の対象なのだよ」

 そう言って扇子を広げて口元を隠すポーズを取る。

「悪趣味だぞ、お前…」

 人の事を言えた義理ではないがそれでも百代には言い分がある。何しろ弟が心配なのだ。

 

 

 

 

 

 二人がその様に見ているとは知らない弓子は楽しい様な、緊張している様なフワフワとした気持ちで昼食と言うイベントを過ごしたのであった。

 二人の出会いは意外と早い時期である。五月も終わりに差し掛かる頃、徹のバイト先で初めて出会っていたのだ。しかし、その時は二人共に関係性など分かる筈も無く店員と客と言う間柄であった。二人が意識し合うのはそれから半年以上先の事となる。百代の進級に赤信号が点るかと言う頃、徹は京を通じて百代と共通の友人を紹介して貰った。それが弓子を知る日であった。以降、彼女は百代の為と言う建前で以って徹に協力する先輩と言う立場を手に入れる。

 結婚はタイミングだとは言うが、異性と付き合うというのも立場は異なるが変わらないだろう。弓子を中傷する事件の後、百代の後押しによって徹も弓子もまさかそうなるとは思いもしなかったのだ。付き合うにしろ驚異的な早さである。しかし、お互いの相性がいいのか、急いで付き合った様な雰囲気では無い。

 

「御馳走様でした!」

 徹は健啖家である。彼女の料理を余すことなく食べ尽くし、満足そうな表情で言葉を発する。この辺りは百代たちと共に同じである。

「お粗末さまです。それにしても良く食べられたわね。私もたくさん食べるとは聞いていたけれど、此処まできれいに食べてくれて嬉しいわ」

 弓子は自然と笑みを見せる。彼女自身知らない事だが、お客として通っていた当時から徹に対しては自然と接する事が出来るのだ。妙な肩肘を張る必要を感じていなかったのであろう。

流石に部員や付き合い程度で同級生と参加する場合は異なるが…

「ああ、姉ちゃんが教えていたのかな」

「そうよ、百代が教えてくれたのよ。仲が良いのね」

 弓子は百代からのアドバイスが的確であった事に感謝している。それもこれも徹をよく理解しているからだと弓子は考えている。だからこその彼女の言葉である。

 

「まあね。俺も姉ちゃんも生まれた場所が特殊だからね。幼い頃は常に二人で頑張ってきたからな」

 そう言う徹に弓子は嫉妬する事は無かった。川神と言う名を知ればこそ、川神院と言う名が出るほどに有名な名前である。百代の強さをよく知る弓子にして、才能だけでああはなるまいと思っていた。それを支えられるのは彼女の家族だけであるとも考えている。誠に出来た女性である。

「徹君がそう言うと何だか簡単そうに感じるわ」

 自然と彼女は寄り添うように彼に体を寄せる。徹もそれを当たり前の様に受け入れる。

「徹君と居るとね、普段の私から解放される気がするの」

 弓子は本来優しすぎる性格である。それを隠すべく仮面を被って気を張っているが、それも家でしか取る事が出来ない。だが彼の前ではそうしなくてもいいと思えるようになっていた。

 

「それでいいんじゃないか。俺たちは付き合っているんだし。変に気を張ってもいい事はないよ」

 そう言うと彼はグッと彼女を引き寄せた。勿論これ以上は『節度のある』を越えるかもしれないと徹は考えて行わないが、弓子には十分であった。

「うん。ありがとう…」

 

 

 

 

 

「うわっ、あいつらやるなー」

 百代はそう言って二人のやり取りを眺めている。彼女がそう言ったのは徹が肩を抱き寄せた瞬間である。

「ふむ君の弟は中々の男ではないか」

「当たり前だ、私の弟だからな!」

 自分が褒められた訳ではないが、百代は彦一の言葉にドヤ顔になって答えるのであった。

「別に川神を褒めた訳ではないぞ。さて、これ以上は野暮であろう。君もこの場から去るんだ」

「えー良いじゃないかよ、別に…」

 百代はそう言うと口を尖らせる。

「ならば此処でとっておきの話しを聞かせよう。屋上に現れるという霊の…」

 彼お得意のお話しである。しかし、それを事の他苦手にするのが百代であった。

「うわーヤメロよー」

 百代は耳を塞いでその場を後にし、彦一も直ぐにその場を後にするのであった。

 屋上は徹と弓子の甘くも穏やかな空気が満たされるのであった…

 

 

 

 

 

 徹は五時限目に間に会う様に弓子と別れて教室へと戻る。

 当然冷やかされるのであるが、全く動じることなく受け流していく。中心となるのは岳人とヨンパチの二人である。

「いやー羨ましいですなー」

「そうですねー是非ともお話しをお伺いしたいものです!」

 二人はそう言って徹の周りに近づく。

「ちょっとガクト、止めなさいよ。かっこ悪いわよ!」

 一子の言葉に岳人は反応するがそれ以上に一子への援護射撃が激しかった。

「ワン子の言う通りよ!」

「ほんとダサイ系」

 女子からのパッシングが二人を追い詰めて行く。女子の中心は小笠原千花と羽黒黒子の二人であった。とかく女子生徒の反応に敏感になる岳人は気押されてしまった。

 

「でもガクトよーそんな事言って何になるんだよ!?別によくね?」

 翔一がそう言って岳人に尋ねた。

「まあ、ここは良いからさキャップ…」

 大和はそう言うと彼を引きずるようにして席へと着かせる。

「別に気にしていないが、ありがとう小笠原さん羽黒さん、一子」

 それには満更でもない彼女たちである。

「それにな、ガクト、ヨンパチ」

「な、なんだよ…」

 少し気圧されたような感じになる。

「羨ましいというならば、お前たちも彼女を作ればいいだろ?」

 徹の言葉は二人にとって、パンが食べられなければケーキを…と言うセリフに等しいかそれ以上の言葉である。

 

「うわ―バッサリだね…」

「まあ当然だよ。完全にガクトが悪い」

 卓也と京はそう言って彼等のやり取りを見ていた。しかし、此処でも岳人等に味方をする者は居なかった。

「ち、ちくしょー」

「うわー俺なんて、俺なんてー!!」

 二人はもう直ぐ授業が始まるにも拘わらず教室を飛び出して行った。完全な負け組みであった

「あいつら授業どうするんだ?」

 運の悪い事に次の授業は梅子の授業であった。当然それに気が付いた二人は遅れて戻ってくる。まるっきりサボるよりはまだましなのを、身を以って経験しているからである。

「戻ってきた事は褒めてやる。だがな、しょうも無い事で授業直前に抜け出すとは何事かっ、制裁!」

『ぎぃゃやー』

 二人の汚い悲鳴が教室に響き渡ったのであった…

 




 お読みいただき有難う御座いました。


 
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