人喰花に転生しまして   作:オジギソウ(外界種)

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作者の活力液は皆様の感想です。


その花言葉は毒善

 私が意識を取り戻した時、周囲は埃に満ちて空気は昏く淀んでいた。

 そして、ある方向だけから光が(こぼ)れていた。

 

 その私には視界は明暗しか無かったが、あの風景を忘れる事は無いだろう。

 

 

 私は光を塞いだものに(ツタ)を伸ばした。

 そしてそれに触れると同時に、本能的に引き寄せて絡み付いて生命を吸った。

 後に、それが人間の少女だと分かった。

 

 少女の悲鳴と震えは全身で感じたが、それも一瞬だった。

 少女の人生が終わったからだ。

 

 生命を吸い尽くした様に感じて尚、その中に残る水分と栄養。

 私はそれをこの瞬間だけで消費したくはないと思えた。

 

 わたしは己の中にある水分を絡み付いたそれ(・・・・・・・)に還し、そして栄養が溶け込んだ水分を再び吸った。

 

 私は人の娘を絡めたまま、再び暗闇に帰った。

 周囲の蠢く植物(同類)が私の抱える少女へ伸ばすツタを払いつつ、コレはもう植物(お前たち)の食料ではないと示す成分を流し込む。

 己の生体液を蔦内(てもと)の人間に流し込む。

 まるで成分献血や点滴のように。

 これで多くの植物は少女への興味を失くす。

 則ち、この行為は獲物を私の身体の一部だと見せ掛けたということだ。

 

 段々とハッキリしてきた私の自我が教えてくれる。

 私の生体液は強力な防腐剤の成分を含んでおり、それはこの世界における神聖属性に区分されるということ。

 そして、私と体液で繋がった人間の女性もまた、類稀な神聖属性の強さを有しているということを。

 

 この時既に、薄っすらと理解出来ない勿体無さと何か分からない決意を固めていたように思う。

 

 私の身体と獲物の身体が馴染んでいくと共に、私の中でレベルが上昇していくのを感じたところで、掴みかけていた違和感に手が届いた。

 

 ────私の魂は、この世界の生まれではない────

 

 

 その自覚は、この瞬間にハッキリと形を持った。

 そして、己の魂の出自(前世)を思い出した。

 

 

 私は人類を愛していた。

 そして、自国の可能性を心から信じていた。

 死因は老衰で、恐らく全国民に惜しまれながら眠りについた。

 生前の私は一国の首相をしていた。

 当時の国内は停滞しており、後進国の成長に追いつかれる事で物価も上がっていた。

 つまり、貧しくはないものの、豊かな国から普通の国へと近付きつつあった。

 その原因は明確であり、少子化であった。

 統計を速やかに調べた結果、婚姻している夫婦の子供の数は変わっていない事と、年収よりも二十歳までに恋人がいたかどうかが婚姻の可否に強い相関がある事がわかった。

 しかし、生涯未婚の国民は、自分がどの環境でも何歳になっても、非モテとして生まれた以上婚姻の前に恋人すら出来る可能性が低いという事実を認めたくないがために、少子化の原因は政府の経済政策であると誤魔化していると認めたがらない。

 

 だから私は、「経済的に苦しくて子供を作れないのなら、無理して子供を作らなくても良い。子供はコチラで勝手に増やすから、君たちは自分の人生だけを生きて欲しい」と宣言して、機械子宮(うむきかい)と最高の大学の中でも特に頭脳、身体、容姿に優れた男女の遺伝子を使って、それもスクリーニングや修正・強化も施して疾患もアレルギーも生殖能力低下も含めて、汎ゆる先天的な不利益要素の無い子供達を作った。

 例え血が濃くなっても、そもそも発現する不利益要素の因子が無ければ問題は実体化しないという事も、世界的に知られる常識となった。

 子供を作り続けた結果、少子化は完全に解決した。

 極端な話、国民の1/10が結婚を望んでいなくても、望んだ相手に選ばれて結婚出来る程優れていなくても、勝手に子供は増え続けるのだから。

 

 そうして私は生涯首相を続けた。

 私の在任期間で、人口は十倍になった。

 子供を作りたくないとか作る余裕がない人間は放置して、政府が人間を作り続ければ少子化は解決出来るし、遺伝子()から選別して、新生児寸前の胎児()を浄伐すれば、高度情報化社会に伴う過度なルッキズムにさえ適う新たな子を作る成人()が咲いた。

 もっとやれた事はあったとは思うが、我ながら及第点は取れた人生であったと思う。

 政党を作った際の、『80年後の国民の80%を世界の富裕層上位20%に入れる』という公約を達成出来たのだから。

 

 

 さて、前世(過去)は所詮前世(過去)であり、大切なのは現在(いま)未来(これから)だ。

 早速、私が致命的に申し訳ないと思い、取り返せない事が一つある。

 私が捕らえた少女(栄養素)は、余りにも多くの可能性を秘めていることが理解出来た。

 理解出来てしまった。

 彼女は、世界から『聖女』『ヒロイン』『英雄へのトロフィー』たる役割を与えられた存在であり、『物語の目的(始まりにして終わり)』であったからだ。

 それは、彼女を吸収してしまった私には、ハッキリと自覚出来てしまった。

 こんな、『物語が始まる街』で喪われて良い生命(いのち)では無かったのだ!!

 

 ああ、何たる損失。

 他の人間(養分)を摘み取っていれば!!

 摘み取ってさえいれば!!

 

 後悔だけが残響するが、植物の怪物(今の私)には発声器官さえない。

 出来るのは、蔦で繋がった聖女の喉をスピーカーとして不器用な音を立てる事くらいだろう。

 

 私はそれをせず身を潜めた。

 此処は聖女の実家の床とも壁とも云えぬ場所から地下へと繋がった空洞。

 植物の身体(今世の記憶)が、この地下空洞はこの地域の様々な場所へと繋がっていると教えてくれる。

 

 私は速やかに場所を移しながらも、時折この場所に確認の為に戻る事を決めた。

 

 

 

 

 

 

 地下空洞には我々(植物)以外にも生態系があった。

 低酸素にも耐えうるネズミやコウモリ、キノコ、光無くともキノコに寄生して栄養を得る植物(我らの原種)、人間の野盗などだ。

 

 私はより人間を知れるのではないかと積極的に野盗を襲ったが、汎ゆる点で聖女の下位互換であり、その日を凌ぐ養分以外には何一つ得られるものがなかった。

 

 ネズミやコウモリを捕まえるのは最初は苦労したが、大きさそのものは野盗の半分位の背の高さがある動物たちなので、捉える事自体は慣れのようなものだった。

 闇属性にあたる毒を持つ彼らだが、防腐、解毒、殺菌という神聖属性を持つ私には余りに無意味だった。

 彼らを吸収するたびに確実に成長していくのを感じる。

 干乾びた彼らの亡骸は、私の成長の証である。

 彼らは死ぬ間際に、私の為に生まれてきた事を悟れただろうか。

 それだけの知能は無いのかも知れないが、願わくば彼らにはそれを誇りに生命を終えて欲しい。

 

 

 

 野盗の数も減り、ネズミやコウモリを主食として暫くたった頃、野盗とは毛色の違う人間を見掛けるようになった。

 …即ち、野盗共とは違う光溢れる場所の人々に、この地下空洞が発見されてしまったという事だ。

 

 近々、この地下も平穏では無くなるだろう。

 何故こうなったかといえば、予想は付く。

 この地下空洞で最も高価な服を着た人物を、地下空洞に繋がる場所から探しに来たのだろう。

 そして、その人物は私の()の中にある。

 …生きてはいないが。

 

 聖女の眼球で聖女自身を見る限り、現役の令嬢という程でもなく、商家の娘といったところだろう。

 というより、貴族や政治家の娘であればもっと専門的な人間達(私兵)が探しに来るはずだ。

 

 このままでは危うい。

 こんな物語の始まりの町の地下空洞なんて、英雄の冒険の始まりで踏破されてしまうような場所ではないか。

 私は前世の子供の時にそれ程はゲームをしなかったが、ゲームでは良くありそうだ位の感覚がある。

 この世界がゲームのような世界かどうかは分からないが、植物が意思を持って蠢き動物を襲うというのは、前世の感覚では完全にファンタジーだ。

 そもそも、聖女が物語の起点である事を本能的に識ってしまった以上、恐らくこれらの予感は高確率で正しい。

 

 私が取るべき行動としたのは、野盗が多く現れる方向への探索を強める事だった。

 時に野党を捕らえ、時には身を潜めて野党の動きを観察した。

 そして時間をかけた調査の結果、私は遂に薄汚い明るさを天井に見付けた。

 

 私は光の射す方へ()をかけた。

 

 

 

 そこは、刑務所だった。

 

 

 

 

 周囲を見れば鉄格子の独房。

 そして野党と良く似た顔付きの人々。

 なるほど。

 なるほどなるほど。

 

 この世から居なくなっても良い、もしかすれば居なくなった方が良い人間達だった。

 その方がこの世界の、せめてこの国の最大幸福に近付くだろう。

 私は蔦を伸ばす。

 首に巻き付けて圧し折った後に、引き寄せて眼球の周りに根を伸ばして吸う。

 それを複数の獲物に向けた。

 

 未だ朝というには薄暗い時間ではあった。

 だから、看守もやって来ないだろう。

 例え、囚人の阿鼻叫喚が聴こえていたとしても、看守達は未だ勤務時間ではないのだろうから。

 看守が勤務時間外に囚人に対応するとすれば、脱走の時くらいだ。

 私が市民なら、刑務所長に求めるのはきっとその程度だから。

 

 

 恐らくは見回りに来た看守達は驚き、そしてホッとするだろう。

 何せ、仕事がかなり減ったのだから。

 

 

 蔦が届く範囲の囚人を乾涸びるまで吸い付くした後、私は満たされた食欲から冷静になった。

 私は聖女という、この世界における尊い者を奪ってしまったが、だからといって有害になってまで生きる必要があるのかという考えが浮かんで来た。

 聖女が失われたのは大変勿体無いが、更に被害を大きくしてまで私が生きる理由も無いのではないかという、極普通の思考だ。

 

 若しくは、人間のいない場所でひっそりと生きるか、だ。

 地下空洞に聖女を探しに来たであろう人々以外には“人間”はいなかったし、刑務所(ここ)にも看守以外には“人間”はいなかった。

 他にもそういった場所はあるだろうと考えるのは当然の帰結だった。

 

 

 植物として成長したからか、私は揮発性の強烈な睡眠導入剤(短時間・即効性の睡眠薬)を身体から発する事が出来るようになっていた。

 看守達が目覚めないように、少しずつ空気中の濃度を高めては移動を繰り返し、道中にいる先程は蔦が届かなかったり死角にある格子部屋にいる囚人達を吸収しながら守衛室らしき場所を彷徨う。

 この間で、150人の囚人を栄養に出来た。

 この植物(身体)は、こう見えて気が荒い。

 

 恐らくは所長室だろう部屋を見付けた。

 そこには大きな地図があった。

 この世界の技術レベルを考えると、その地図を信用しきる訳にはいかないが、ある程度の参考には出来るだろう。

 

 地下空洞と概ね擦り合わせると、地図上とその地下の認識が整頓された。

 私は生前は短期記憶に優れていた。

 というより、短期記憶がそのまま長期記憶として使えた。

 瞬間記憶能力者だったという訳ではないと思う。

 

 世の中は不平等に出来ており、短期記憶が悪い者は代わりに長期記憶が優れている訳でもない。

 寧ろ、短期記憶が良い者の方が長期記憶の質が良いとさえされている。

 伝言ゲームにおいて、トップバッターが正確に伝えてくれる人である方が、最後に伝言を受け取る際には正確に伝わっている可能性が高いのと同じ、といえば分かりやすい。

 更に記憶(インプット)に無駄がない者は、思考(アウトプット)もより正確で速やかとなる。

 人の脳の性能の総合値は同じではないのだ。

 私も幸いにして後者の部類で、覚えようとして覚えられない事は無かった。

 それは脳の作りによるそうだが、不思議なのは植物の身体になっても脳を持っていた生前と同様に記憶能力が機能している事だ。

 

 

 そもそも、植物に自律出来る程に高度な思考がある事自体が不思議ではあるが、それは本当に謎である。

 ゲーム感覚であれば、頭が良いとステータス上の数値が示しているのだから頭が良いのだと、結論を回帰させたような話になるのだろうが、実際には何処の器官で思考をしているのかが自分でも分かっていない。

 

 

 だが、それはそれ(・・・・・)だ。

 私は次に襲うべき場所の候補を見付けた。

 

 ────孤児院、だ。

 

 

 

 さて、孤児院に関しては襲うべき理由と襲うべきでない理由がある。

 襲うべき理由としては、孤児院にいる子供は“自分で子供を養う能力が無い親の遺伝子から生まれた”事だ。

 逆に襲うべきでない理由は、この世界は恐らく元の世界でいうところの中世に相当する環境である為、親の能力不足で育てられなかったり、子供の能力不足で捨てられた以外の可能性も十分にあり得るということ。

 そしてもう一つ、私は子供を育てられない親に代わって政府が子供を増やして育てる事への意義は理解しているからだ。

 無論、前世のように、子供達の遺伝子が保証された状態での育成ではない。

 しかし、孤児院の中にも“当たり”はいると私は信じたい。

 …孤児院の中で淫気を誘発する成分を揺蕩らせて、子供の数を更に殖やさせるというのも良いが、それが仮に出来たとしても、中世相当の世界観においては、孤児院が悪魔信仰をしていたとして焼き討ちにされる可能性がある。

 私の栄養にさえならず、無駄に人間が損耗されるのは勿体無い。

 それが、価値がある可能性が残された人間であるのなら尚更。

 勿論、選び選ばれて互いの選別の上で成り立った夫婦の間に生まれ、育てる価値があると判断された、恵まれた子供達と比べれば期待値は低くなるものの、それでもこの時代におけるコスト程度なら超えてくれる子供達が育ってくれるのなら、それはとても良い事だ。

 文明が発達すればそれに見合う閾値も高くなるが、この程度の文明であれば、四則演算程度の計算と一つの言語の読み書きを覺えられる程度の能力を持たせられるスペックがあるのなら、それで十分だからだ。

 

 私は人類の発展を愛している。

 私の前世だってその為にあったのだから。

 

 

 

 

 

 所長室で寝ている老人の横で考えていると、足音が聞こえてきた。

 睡眠導入成分の濃度をより濃くするが、足音のペースは変わらない。

 近付いて来ている人物は、眠り毒への耐性でもあるのだろう。

 さて、私はどうするべきだろうか。




『ジャスティストーリー』(2001年発売)
 ヒロインを始め女性キャラクターのビジュアルが良く、現代に至ってもAIで成人向けイラストが描かれる人気がある反面、女性キャラクター以外の評価はストーリーどころか主人公の名前や姿さえ覚えているものは殆どいないし、イラスト付きのネット辞典にもNo Imageになっている(お察し)
色違いのモンスターが多かった事も不評の原因の一つであったそうだが、色違いのモンスターを増やしたのは意図的な仕様らしい。(当時の開発会社プロデューサー談)
ストーリーは貴族や他国の支配者を倒して全世界共和国を作る傍ら、魔王も倒すという左寄りな内容。(先に魔王を倒してから他国の支配者を倒しに行くと、客観的にはただの革命軍でしかない)

『地下空洞』
 始まりの町『イニシライズ』の地下にある巨大な洞窟。
 何時から出来たのかは分からないが、とても広い。
 作りは簡単で中央と東西南北の五つのエリアと、ストーリー後半で訪れる中央エリアが窪んで落ち込んだ最深部がある。
 全エリアにアウラミリウム、ファングース、クルイハム、デブモット、イボネズミ、ホールダウン、ベルバット、マッドワーム、ドロタマが存在する。
北エリアにはハキダメドッグ、南エリアには暗殺者、西エリアには野盗とベテラン野盗、東エリアにはヒヒダヌキの出現率が上がる。
この時点で遭遇するにしては強いモンスターであるヒヒダヌキは、薬草を一つでも持っていれば遭遇しないので、薬草を落とすアウラミリウムを中心に経験値を稼いでおけば問題はない。
最深部には個体数こそ少ないものの、セラミックフライ等の上級モンスターが存在する。


『アウラミリウム』
属性:ランダム

イニシライズの地下空洞に棲息する植物モンスター。
様々な属性を持つが、高レベルまで育った個体はなく、属性攻撃は持っていない。逆に属性に応じた耐性を持つが、この段階では主人公が属性攻撃を持たないので無意味(ヒロインも回復魔法しか持たない)というメタ要素であったりする。
内部データ上は同じモンスターなのに、属性毎に色が異なり別モンスター扱いとする事で、視覚的なバラエティを稼ぐというメタ要素もある。
属性毎に名前の後ろに種類が追加される。
神聖属性であれば、アウラミリウム・サクレとなる。
実は属性耐性の性能は高く、属性魔法を覚えてから出遭うと、以外な厄介さに気が付くかも知れない。
ストーリーの後々には特別個体や、猛獣に融合寄生したリリオーン、周囲に其々の属性のアウラミリウムを侍らしたボスとして、偽りの聖女システィーナ(人間態、妖花態)ホルトゥースドラゴンなどがある。 実は世界樹や七揃樹とも近縁種。
花言葉は独善
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