いけませんヒューゴお兄様、それはえっちすぎます   作:まさみゃ〜(柾雅)

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セレナの日記18/『月光』

 ×月○日

 本日はパエトーン、いえ、店長さんから『月夜の帳に』のビデオを仕入れたと言う連絡を貰いました。

 ただ、今日はヒューゴお兄様にお野菜を摂取していただくために時間を割いていたので後日受け取ることにしました。

 

 ヒューゴお兄様、お野菜を食べたら馬鹿になるっていったいいつのお話ですか。

 その様な迷信、兎の肉を食したら淫乱になるとか言うのと同じで旧文明時代よりも遥か昔に廃れたでしょうに。

 でも苦い顔をしながらお野菜を食すヒューゴお兄様を見てたら少しゾクゾクしました。不思議です。

 

 ×月×日

 『月夜の帳に』のビデオを受け取るためにビデオ屋に訪れたところそう言えば家には再生する機器がないことを思い出しました。

 困っていたところを店長さんの提案で機材をお借りしてその場で見ることになりました。

 なるほど、そう言った手法で異性を自室に連れ込んでいるのですね。

 彼のとても慣れた手つきでお部屋に誘導させられていただきました。

 部屋は思ったよりも整っていました。

 

 ビデオの内容ですが、いわゆる悲恋にあたる恋愛ものの映画でした。

 昔に見た通りのストーリーや演出、そしてエンディング。

 ただ、1番印象に残っていたのはやはり劇中に流れていた『ピアノソナタ第14番嬰ハ短調 Op.27-2 《幻想曲風ソナタ》』ですね。

 もともとストーリーもこの曲を参考に構成されていたために、劇中に流れていても違和感がまったくありませんでした。

 

 以前一緒に観た映画がホラー映画だったので驚かれましたが私だってホラー以外も見るんですよ店長さん?

 

 ビデオはそのままお借りして、帰りに再生するための機材を買って帰りました。

 これでヒューゴお兄様とビビアンにも見せてあげられます!

 

 ×月◇日

 ヒューゴお兄様は用事があった様でビビアンと2人で観ました。

 ビビアンは私が彼女を前に抱えるにちょうど良い体型でしたのでその様な形でビデオを視聴しました。

 彼女からやや抵抗がありましたが妹は姉の言う事を聞くものですよ?

 

 悲恋という内容は、ややビビアンには刺激的だったのでしょうか?

 終わってからパエトーンと彼女自身での妄想の世界に何度か入りかけていました。可愛いですね。

 

 ×月◎日

 結局タイミングが合わずヒューゴお兄様と『月夜の帳に』を観れずビデオを返却しました。

 ただ、お詫びとして数日後にヒューゴお兄様に私の時間を寄越してほしいと言われたので許します。

 

 ×月▽日

 本日は約束の日でした。

 ヒューゴお兄様に連れられてルミナスクエアとは別の街のシアターに向かいました。

 そしたらなんと『月夜の帳に』の上映を行なっていたのです!

 どうやらここ数日間ヒューゴお兄様は私のために探してくださっていた様です。

 ただ軽くヒューゴお兄様にも見せてあげたいと呟いただけですのに……しゅき♡

 

 帰りはたまたまストリートピアノがあったので久しぶりに演奏しました。

 やはり誰かの為に奏でる音楽は良いものですね。

 

 ×月◉日

 ビビアンから教えてもらったのですが、どうやらストリートピアノで演奏していた様子を誰かに撮影されて、かつインターノットに投稿されていたようでした。

 恥ずかしくてしばらく家から出られませんわ……。

 無情にもエリーの都には肖像権なんて無いのです。


 

 

 ある時、セレナが微かな声で呟いた映画があった。

 どうやら彼女はその映画を俺に見せたかった様だが、いくら探しても見つからず、店長君に依頼したようだ。

 

「……彼女がそこまで言うのなら実際に大画面で見せられたら良いかもな」

 

 セレナが増えた共同生活には少し慣れて……いや、たまに俺の寝床に潜り込んでくるのには未だに慣れないのだが……うん、慣れてきた。

 そんな彼女はやはりあの頃の面影が残っている為、俺は彼女を拒むことができない。

 それ故か、俺は彼女のために『月夜の帳に』を未だ取り扱っているシアターを探すことにした。

 

 結論から言えば見つけた。

 それも幸運な事にリバイバル上映と言うものだ。

 俺はせっかくビデオを借りてきた彼女に謝罪しつつ、サプライズの予約をさせてもらった。

 

 そして約束の日、彼女を連れて例のシアターに到着する。

 そのシアターの入り口には『月夜の帳に』のリバイバル上映を知らせるポスターが貼られていた。

 それを見た彼女は俺の方を見ると、懐かしい笑顔を見せてくれる。

 

「ヒューゴお兄様……!!」

「なに、ただの気紛れだよ」

 

 らしくも無く耳が熱く感じる。

 セレナに手を引かれてシアターに入ると彼女は真っ先にチケットを購入しに向かった。

 

「『月夜の帳に』のチケットを2人分頼む。セレナ、君は飲み物や軽食を選んでくると良い」

 

 2人分の代金を支払いながら彼女に目をやる。

 しかし彼女は俺から離れなかった。

 

「私は既に決めております、ヒューゴお兄様。なのでヒューゴお兄様も一緒に向かいましょう?」

 

 どうやら彼女は映画を見る際は飲み物だけのようで、2人分のコーヒーを注文してからチケットに記された部屋へと向かう。

 座席の位置は中間あたり。

 2人で横並びに座り、上映時間まで待つ。

 その間も彼女は俺に礼を言ってくるが、素直に受け取れない。

 この行為も過去に俺が彼女を助けることができなかった贖罪の意志からのものなのだから。

 奇跡的に彼女と再会できたとは言え、俺が原因でセレナは倒れた事には変わりない。

 

 映画が上映されると彼女は変わって静かに、そしてどこか懐かしそうに鑑賞している。

 そういえば一度彼女が屋敷を抜け出した事があると言う話を彼女から聞いた。

 おそらくその時にこの映画と出会ったのだろう。

 その郷愁に耽る彼女の横顔は悔しくも見惚れてしまう。

 今ここで彼女にこの映画に持つ記憶を問いたい気持ちがあるが、鑑賞する際は静かにしたいと言う拘りを持っているようで、穏やかな雰囲気であると言うのにそれを許さない気配がした。

 ……俺も、今日ぐらいは映画に集中すべきだろう。

 

 映画の舞台はゴシックな街並みのとある街、とそのはずれにあたる森だった。

 まだエーテル物質が存在せず、またシリオンの姿も無い。

 自動車ではなく馬が荷台を牽引している、そんな古い時代。

 物語の起点は主役の男女が月夜に森の中で出会うところからだ。

 開始の視点は猟師の男。

 昼間に仕掛けた罠を夜に見回っていたところ、湖の畔で領主の娘と出会う。

 お互い一目惚れをしてしまうが、彼女の胸には自分が仕掛けた罠に掛かった小動物が抱かれていた。

 男が領主の娘にその生き物がどう言ったものなのか理解しているのか問うと、意外にも領主の娘は男の収入源だと答えたのである。

 男は不思議な雰囲気を漂わす領主に惹かれ、また領主の娘も自身の他者との精神的な乖離を受け入れる男な惹かれていた。

 それ故に2人は今日にような月夜にここでの逢瀬を約束する。

 2人はお互い月夜の逢瀬のたびに愛の言葉を交わし、そして自身の運命を呪う。

 そんなある日に転機が訪れる。

 どうやら領主の娘が護衛を男に頼んだのだ。

 男は彼女の提案を快諾し、実際に男の腕を領主に見せれば領主は男を娘の護衛を正式に男へと依頼する。

 こうしてめでたく2人は月夜以外でも共に時を過ごせるようになったのだ。

 が、激しい曲調と共に2人の転落が訪れる。

 初めに領主が暗殺された。

 そして男はその罪を被せられた。

 男と領主の娘は無実を主張したが、結局男は領主殺しの罪で牢へと入れられた。

 そして追い討ちの如く、今度は領主の娘が魔女であると糾弾されたのだ。

 見せしめのように男の牢の真向かいの牢で娘は拷問にかけられる。

 それが長く続き、やがて2人は共に抜け出す事を計画した。

 己が運命を呪いつつ、その感情を糧に2人はまだ見ぬ幸福へと手を伸ばさんとする。

 2人の脱獄は上手く行った。

 しかし、2人は追手の事も考えて一度二手に別れることを決める。

 目的地は初めて2人が出逢ったあの湖の畔。

 初めに到着したのは領主の娘だった。

 休憩も兼ねて木に腰掛けて娘は男を待つ事にした。

 しかし、幾時間待てども男は現れない。

 不安になって探しに行こうとするが娘の身体は力が入らない。

 それもそのはず、長期にわたる拷問で娘は疲労困憊だったのだから。

 そして瞼を閉じた娘は、二度とその瞼を開くことは無かった。

 

 映画が終わる。

 悲恋がテーマの映画は思い返せば初めて触れた気がする。

 なんとも言えない感情が胸に痞えている感覚がある。

 

「やはり悲しい物語でしたね、ヒューゴお兄様」

「……コレを俺に見せたかった理由を聞いても良いか?」

 

 彼女がなんの意図で俺に見せたかったのか、鑑賞中に訊けなかったことを改めて訊く。

 すると、普段俺に見せないような儚い表情でセレナは答えた。

 

「……さぁ? 私にも分かりません。

 ですが、思い出したことはあります。

 ヒューゴお兄様が来る前に昔もこの場所で私は『月夜の帳に』と言う映画を観ました。

 初めて自分で貯めた小遣いでチケットを購入して、初めて使用人の入れたコーヒー以外を飲みながらただただこの悲しい恋の物語を観ました。

 多分、その時私はあの家から逃げたくなったんだと思います」

 

 彼女は全く手を付けていなかったコーヒーを俺に渡す。

 

「でも、この映画を見ている間だけは私は私を忘れて、ただ世界をこの身で謳歌している感覚があったのです。

 ええきっと、その感覚を誰かに。それも親愛なる方たちと共有したかったんだと思います」

 

 セレナが俺の腕を掴む。

 シアターを出ればすっかり暗くなり、夜空に月が見下ろしている。

 

「ヒューゴお兄様、少し寄り道をしても良いですか?」

 

 何か思い出したかのように彼女は俺の腕を引きながら歩く。

 そこには一台のグランドピアノが置かれていた。

 いわゆるストリートピアノというものなのだろうか。

 しかし、今や人が使っていないのかややもの寂しさを感じさせる。

 

「音は……手入れはしているみたいですね」

 

 彼女は軽く鍵盤を叩いたり、ペダルを踏んだりして音を確認する。

 そして一通り確認を終えたのか、急に彼女の纏う空気が変わった。

 演奏が始まると、聞き覚えのあるメロディー。

 

「その曲はさっきの映画の……」

「『月光』……もとい『ピアノソナタ第14番嬰ハ短調 Op.27-2 《幻想曲風ソナタ》』です。

 昔にあの映画を見て弾きたくなって覚えたんです」

 

 久しぶりに弾いたとは思えないほどの腕前だ。

 それに……随分と無邪気にしかし儚く演奏する。

 月明かりに照らされながら、ピアノを奏でる彼女に思わず見惚れてしまった。

 

 3つの顔色の違う楽章が終わる。

 俺はしばらく彼女の演奏の余韻に浸っていた。

 あれだけ罪と後悔の記憶に囚われていたと言うのに、どうやら俺は彼女の事を何も知らなかったらしい。

 

「……夜風が冷たくなってきた。そろそろ帰ろうか、セレナ」

「はい、ビビアンが待って(妹がお留守番して)いますからね」

 

 ……待て、今何かおかしくなかったか????

 

 

 

 ビビアンから知らされたのだがあの夜のセレナの演奏を誰かが撮影していたらしく、現在インターノットで話題になっている。

 身内贔屓になってしまうかもしれないが、これでもセレナの容姿は整ってる。

 そのため、今回のピアノ演奏の動画と相まって懸賞金を掛けられている勢いで捜索がされていた。

 中にはあの帝高エンターテイメントグループの名すら見える。

 しばらくセレナも家から出ることを控えると言っていたため心配は無いが……さてどうしたものか。

 おい、人が考えている間にちゃっかり寝床に潜り込んでくるな。

 さてはお前余裕だな??




次回未定

【蛇足】
なお話題になったのはセレナだけではない(月夜の下のピアノに美男美女がいれば当然)
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