ニセコイ 愛を永遠に   作:ウェスト3世

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監視の二人

 尾行していた筈の相手に逆に嗅ぎつけられてしまった。

 

「楽しそうなことしてるじゃない。楽。」

「し、集。い、いや。これはだな。」

 

 どう説明したものか。

 ちなみに千棘は集の存在に気付いていない。

 が、暫くして「あれ?」と呆けたような声を出す。

 

「ちょっと楽。舞子君がいない………って、舞子君!?」

 

 ようやく千棘が集の存在に気付く。

 最早、言い逃れはできない。

 

「いやー。実はずっと気づいてはいたんだけどね。でも、君達の尾行が面白かったもんで、つい先生と見物していたんだよ。」

 

 つまり、尾行を始めたあたりからバレていたことになる。

 

「まあ、どうせ俺達が付き合ってるか付き合ってないか気になってたんだろ。」

 

 すると、楽と千棘は図星のせいか肩をビクリと振るわせる。

 

「え、えと」

「いや、その」

 

 言い訳をしようとするが、言い訳はできそうにない。実際に、集の言う通り、尾行した理由としては二人が付き合ってるんじゃないかと疑ってたからだ。さらには集の視線が「本当のこと言ってごらん。下手な言い訳はいらないから」と語っていた。下手な言い訳などできない。

 

「まあ、そうだな。悪い」

「ご、ごめん」

 

 すると集はそうだろうと頷く。

 

「んもー。そんなに俺達の関係が気になっちゃうだなんて。どうしようかな~。教えちゃおっかな~。」

 

 集が興奮のせいか体をクネクネさせ始める。

 

「うぜぇ」

 

 楽は知っている。彼がこういうまどろっこしい態度をとるときは冗談や嘘を言う時に限る。

 

「冗談はその辺にしておけ。舞子」

 

 舞子の背後から声が掛かる。現れれたのはキョーコ先生だった。

 

「ま、君たちの尾行は一通り見せてもらった。いや、実に面白かったよ。ぷぷぷッ」

 

 どうやら楽と千棘の行動は筒抜けだったらしい。

 

「くそ。やるんじゃなかったぜ。」

「………う……」

 

 楽と千棘は二人そろって赤面する。

 

「ここでネタバレだが別に俺ら恋人じゃないぜ?まあ、親同士が知り合いだから小さいころからキョーコちゃんとは仲良いんだけどな。」

「そうそう。手を繋ぐシーンとかも見ただろうがあれも幼い時の癖なのさ。期待を裏切ってすまんな。」

 

 楽と千棘はポカンと口を開ける。

 

「え?マジで恋人じゃないの?」

「勿論」

「嘘偽りなく?」

「嘘つく理由がないしな。」

 

 つまり、二人の尾行は徒労に終わったのである。

 

「なんだよ、コレ」

「私達、恥ずかしい思いしただけだし。」

 

 そんな二人の様子を集とキョーコ先生はニヤニヤと眺めていた。

 

「私、帰る」

「お、俺も帰るか」

 

 尾行は無駄に終わり、恋人じゃないと分かった今、この場に留まる理由はない。

 立ち上がる二人を集は「じゃーね!お二人さん」と大きく手を振りながら言う。二人の姿が店から出てくのを凝視する。

 彼らの姿が見えなくなったところで集の表情は徐々に真摯なものへと変わっていく。

 

「さて。これで、ようやく先程の話に戻すことができますね。」

「そうだな。先程の話は一条楽の変化について、だったか。」

 

 気持ちを切り替える為か、キョーコ先生は紅茶を啜る。

 元々、彼らはデートをしていたのではなく、話をしに来たのだ。

 学院長から一条楽の監視任務を一任されている舞子集。学院長から一条楽の周囲の監視を一任されているキョーコ。二人は表面上では友達と先生である。無論、それに偽りはない。

 しかし、影では監視者として暗躍していた。そんな彼らが顔を合わせて話すことと言えば、お互いの情報を共有することだ。

 

「私は主に学校でしか彼を見てないから彼に取り巻く異変には疎いが、本人の監視者である君にはやはり異変があるのか?」

「まあ、戦闘力の向上には目を見張るものがありますね。もっとも失った力を取り戻していると言った方が正確なんですけどね。」

 

 キョーコはふむと考え込むようにして頷く。

 

「学院長の話ではあの秘薬で力を全て取り戻すには半年は必要といっていた。だが、実のところ、半年たつどころかまだ一か月しかたっていないのに五割以上の魔力回復に成功している。」

「そりゃ、アレですね。今現在の楽を基準にして考えれば、魔力回復には半年必要になりますが、本来の実力から考えれば、この回復スピードは妥当なんじゃないかって考えもありますけど………。いや、つっても今の楽には嘗て程のキレはない。やっぱ異常です。」

 

 一条楽の魔力回復は異常なスピードを見せていた。

 学院長の霊薬により、楽の封印された魔力は解かれつつある。だが、全て回復するには半年かかるというはなしだった。五割の回復にも三ヵ月は絶対だ。

 しかし、現状は一か月もしない内に五割も魔力を取り戻すと、驚異的な回復力を見せていた。

 

「だが、理由はどうであれ、回復は早い方が良いかもしれない。」

 

 キョーコの言葉に集は首を傾げた。

 

「どういうことです?」

「君は一条楽本人の監視。私は彼の周囲の監視。となると、監視の対象は自然と定まってはこないか?」

 

 一条楽の周囲監視。それは一条楽取り巻く全てのものを監視するということである。一条楽の人間関係であり、出来事といったものを全て情報として変換する。

 中でも一条楽と頻繁に行動を共にする人物がいる。

 それは―――。

 

「桐崎さん………ですか。」

 

 集の答えにキョーコは首肯する。

 

「でも、彼女と楽の魔力回復に何か関係でもあるんですか?」

「勿論。ただ、正確には彼女というより桐崎家にある。」

「桐崎家?」

「ああ。君も知ってるだろう。一条家と桐崎家が犬猿の仲だってことは。」

 

 勿論、それは日本全国で有名な話である。日本人であれば知らない者はいない。

 

「最近、桐崎家が不穏な行動をしてるみたいでな。」

「証拠でもあるんですか?」

「銃弾だ。」

 

 銃弾という言葉を聞き、集も納得する。

 桐崎家は銃を主な武器としている。その為か、彼らがいた場所には必ず銃撃戦の痕跡、使用済みの弾丸が転がってる話は珍しくない。

 そもそも日本国内で銃を頻繁に使用している組織は限られているのだ。

 

「ここ最近起きてる事件の大半は銃撃戦が行われた痕が残っている。また、市民に恐喝するという悪評も聞く。警戒はした方が良さそうだ。」

「近い内に戦争でも起こすんでしょうかね。その場合敵となるのは……。」

「一条家だな。」

 

 キョーコは淡々と告げる。それに集は渋い表情をする。

 

「だが、敵視しているのはクロード率いる武闘派らしい。対して穏健派の当主アーデルトはその現状を快くは見ていない。一条家との戦いよりも先に一族内での内戦が勃発する可能性の方が高いだろう。」

 

 二人はそろって嘆息。

 現状は崖に落ちる寸前と言ったところだろうか。あまり良い状況ではない。

 

「悪い話はそれだけじゃない。」

「まだ、あるんですか。」

 

 集は嫌そうな顔をする。

 しかし、キョーコはそれを気にしない素振りで淡々と告げる。

 

「クロードの部下に『彼女』の妹がいるらしい。」

「は?」

 

 心臓の鼓動が一際強く鳴った気がした。そんなことがある訳ないと心が叫んでいた。にも拘わらず妙な焦りを感じた。

 

「ちょ、待ってください。彼女は二年前に亡くなったんじゃないんですか?」

「だがな、私の部下がそれを観測していたんだよ。クロードとの会話も垣間見たそうだ。」

 

 集は残りのコーヒーを全て飲み干す。普通こんなことすれば苦みが舌全体に広がるのだが、不思議と今はそんな感覚がない。

 飲み終えると、再び正面を向く。

 

「これは楽が聞いたら驚くでしょうね。」

「そうだな。私だって驚いてるんだ。彼はもっと驚くだろう。だが、それだけじゃない。」

「ちょ、まだあるんですか。」

 

 バッドニュースが相次いでるせいか、胃が痛くなってくる。

 

「その妹が『帝国院』に編入するそうだ。」

「編入!?」

「ああ。」

「マジですか。」

「此処で嘘をついてどうする?」

 

 先の見えない不安に襲われる。

 ともかくも、監視は今まで以上に注意を払うべきだと二人は。判断した。

 

 

 ☆

 

 

 既に夕日は沈みかかっていた。空は少しずつ黒く染まりつつある。

 

「今日は要らない恥かいちゃったな~。アンタのせいで」

「俺のせいなのかよ。お前がストーカーしようって言い出したんじゃねーか。」

「ちょ、ストーカーって私が変態みたいじゃない!尾行って言ってくんない?び・こ・う!」

 

 確かに尾行の方が響きは良いかもしれない。

 しかし、明らかに二人の行動は傍から見れば、挙動不審な行動をとっていたのも事実だった。

 

「………。」

「………。」

 

 お互いそこで会話が途切れた。

 普通ならば、会話が途切れた時の雰囲気は気まずいものなのだが、二人を包む空気は緩やかだった。普段から一緒にいるせいだろうか。互いの罵倒や悪口を許すことができ、沈黙も許せることができる。

 偽物の恋人という事実は揺るがない。ただ、それでも一条楽と桐崎千棘にしかない関係性があった。

 

 最初に沈黙を破ったのは千棘だった。

 

「アンタに一つ聞きたいことがあるんだけど………。」

「んだよ。答えられる範囲だったらいいぞ。」

 

 一泊おいてから千棘は再び口を開く。

 

「アンタはまだ約束の女の子のこと好きなの?」

 

 すると、楽は狼狽する。

 

「ゲホッ、ゴホッ!ちょ、ちょ、待て。お前に約束の話はしたかもしれないが、別に好きとか話した覚えはないぞ。うん。」

「え、違うの?」

 

 千棘の瞳が普段よりも真剣だった。そのため、冗談で返すことはできなかった。

 

「ま、まあ。十年前は確かに好きだったかもしれない。もう一度会いたいっていうのも事実だ。ただ、好きかと問われた時、肯定はしないな。」

「何で?」

「十年も前の出来事だ。もう朧げでその女の子がどんなだったかなんてほとんど覚えてないんだ。勿論、会いたいとは思うけどな。てか、何で突然そんなこと聞くんだよ?」

 

 すると千棘はポケットから『それ』を取り出した。

 楽は思わず目を見開いた。

 

「お前、それ……。」

「うん。最近見つかったものなんだけどね。」

 

 それは鍵だった。使い古されたのか所々錆びているが、捨てておくには勿体ない貴重さがあった。

 

「実は私以外にも万里花もこの鍵を持ってて。」

「橘も?」

「うん。何でも万里花が言うには約束の女の子は四人いるって……。」

 

 楽はその言葉に納得する。

 万里花の持つ魔具、『叡智を刻んだ魔導書』(グリモワール)は人類の史実を全て欠けることなく記している。それは十年前の約束も例外なく入る。

 

「そうか。でも、当然か。もう一人鍵を持ってる奴がいたからな。」

「え?」

 

 だが、楽はそれには答えなかった。

 

「しかし、お前が約束の女の子の可能性があるなんてな。俺が持つ印象とは真逆なんだが。」

「何よ、悪い?」

「まあ、良いか悪いかで言えば悪いな。もし、そうなら約束の女の子に幻滅する。」

「あーら。そう。いっぺん殴ってあげましょうか。」

「はー。これだよ。これが幻滅する原因なんだよ。」

 

 楽は千棘が約束の女の子であったならば―――と考える。

 もし、この出会いが偶然ではなく必然であったならば―――。

 

「いや、そんなことはないか。」

 

 楽はかぶりを振る。

 この出会いはただの偶然だと断定する。

 

 交差点で、二人は別れ、それぞれの帰路に立つ。

 ただ、一条楽はここで一つミスを犯す。

 

 

 交差点で別れた千棘は暫く楽の姿を見送っていた。

 しかし途中、「あれ?」と首を傾げた。

 道端にはがきサイズの紙が落ちていた。そこはちょうど楽が通り過ぎた場所なので楽の落し物なのだろうと判断する。

 

「ったく、あのバカ。」

 

 言いつつも、千棘はそれを拾った。

 しかし、はがきと思っていたそれは写真だった。

 

「え、これ……。」

 

 千棘は思わず瞠目する。

 

 そこに写っていたのは楽と黒髪の少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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