ニセコイ 愛を永遠に   作:ウェスト3世

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 楽は悶々とした気分にさせられていた。

 今、楽がいるのは何処にでもあるファミレス店だった。

 楽以外には恋人役を演じる桐崎千棘。そして、もう一人道端に倒れていた少女だった。

 そして、三人で行動することとなり、その過程で当然金も使う。しかし、そこで千棘は請求を全て楽に押し付け、楽の財布の中は随分と寂しくなっていた。

 

「ああ、ファミレスの飯も払うのか…。」

 

 財布の中を見つめながら楽は一人ごちる。

 

「何よ。アンタが拾ってきた子なんだから、アンタが金払って当然でしょ。」

「いや、そこにお前の分も含まれてんだが。」

 

 払うのが然も当然かのように言うのは正直どうなのだろう。

 しかし、自分が拾ってきた少女をちゃんと面倒見なければいけない点に関しては肯定せざるを得ない。

 

「ハァ……。」

 

 仕方ない、と自制しつつも溜め息が零れる。

 それにしても、不思議な子だ、としみじみ思う。恰好も何処か古風で、その辺の建物、食べ物など全てが初見で珍しいものを見るかのように目を瞬かせていた。

 

「唯ちゃん、どう?美味しい?」

「うん!」

 

 少女はパンケーキを頬張りながらニッコリと微笑んだ。

 唯、という名前は一応本人の名前らしいが、両親については何も返答はないし、家も分からない。さて、困ったものだ。

 

「おい、桐崎。」

「馴れ馴れしく呼ばないでよ。」

 

 キロリと鋭い視線で睨みつけてくる。では、何て呼べば良かったのか。苛立ちを抑えながらも話を続ける。

 

「この子、交番とかに預けた方が良いんじゃねーか?いくら何でもこのままっていう訳にはいかねーだろ。」

「うん、後で。」

「は?何て…?」

「だから、後で。」

「何で!?」

 

 楽は思わず声を荒げる。どう考えても後回しにして良い筈がない。

 

「だって、この子ともう少し一緒に居たいんだもん。ね―?」

「ねー。」

 

 唯まで同意している。これでは楽の意見は劣勢に回る。

 

「アンタはこの子と一緒に居たくないの?」

 

 又もや鋭い視線を浴びせられる。その隣に座る唯はじーとこちらの様子を伺っている。そこにはもう少し一緒に遊んでいたいという意思が垣間見えた。

 

「い、いや。そういうわけじゃ…。」

 

 そう言った途端に二人は立ち上がり、

 

「よし、遊園地行こう!」

「行こう!」

 

 「キャホー」と騒ぎ出す二人の少女は店から飛び出していく。

 

「あ、おい。こら待てよ。」

 

 楽も伝票を持って急いでレジで会計を済ます。これでは交番に預けるのは遅れそうだな…と億劫な気持ちもあったが、けっしてこの状況を厭う訳ではない。

 むしろ、こうして誰かと何かをするというのは随分と久しい。

 

 そして、何よりも楽は桐崎千棘の嬉しそうな表情を初めて見た気がする。

 

 

 

 *

 

 

 

 時刻は夕刻に差し迫っていた。

 三人は遊園地を満喫し、家への帰路に立とうとした。

 二人は「ああ、楽しかった」などと言うが、楽は二人の怒涛のような勢いに付き合わされただけ、という言い方も出来なくない。

 けれど、こんなに慌ただしいことに、思わず微笑みたくなるのは何故だろう―――?

 そんなことを考えていた時、唯がペコリと頭を下げてくる。

 

「今日はホントに楽しかった。有難うございます。」

 

 そう言うと、千棘は、

 

「いいの、いいの。私も楽しかったし。」

 

 と、遊び終えた子供のような表情を浮かべて言った。

 

「ああ、それと。私、家までの道は分かります。だからお気遣いは無用です。」

 

 その言葉には楽と千棘は互いに目を見合わせる。

 つまり、彼女は自ら家を出て、道端に倒れた…ということなのだろうか?

 

「けど、大丈夫なのか?道端に倒れたりしないか?」

 

 その問いに唯は、

 

「ああ、大丈夫です。アレはお腹が空いていただけなので。」

 

 それを聞いた楽はガクッと肩を落とす。

 どうも倒れていたという事実が楽を不安にさせたのだが、空腹だったということならば食事をとればいい話だ。

 

「今度はちゃんと両親と来るんだぞ。」

「はい」

 

 素直に返事をする。それを見て安堵する。迷子を保護するのは何かと大変であることが今回の経験で分かったので、次回は是非とも保護者がついていることを願う。

 

「では、さようなら。パパ、ママ」

 

 すると、少女は風のように去って行った。

 

「…………………おい…………」

「……………………………今、何て……………」

 

 楽と千棘に対して、あの少女は今、何と言ったのだろう。

 「お兄さん、お姉さん」という解釈ならば、理解できる。

 けれど、あまりにも突飛した発言をしたような…。

 

「いや、オレは知らない。知らないぞ。こんなゴリラの同類と誰が…。」

「そうよ、こんなモヤシみたいな男と誰が…。」

 

 互いに罵り、嫌悪を顕わにしている。何とも醜い光景ではあるが、確かに、自分たちを「パパ、ママ」と呼ぶのはどうなのだろう。

 けれど、少女には二人がそう言う仲に見えたのだろうか?

 

「いや、絶対ない、ない!」

「ないな」

 

 そう言い、二人は睨みあいながら帰り道を歩く。

 

 

 

 *

 

 

 

 今日は本当に楽しかった。

 きっと人生であそこまで幸福な日々は果たしてどれほど昔に潰えたのか。

 険悪な仲を装っているのか分からないが、唯の目から見た少年少女は実に仲が良い。

 そして、自分を気遣うその姿はまるで父母のようで。

 何とも心地よい一日だった。いや、そう思わされてしまった。

 だって、自分は本来こんな日の当たるようなところにいて良い存在ではないのだ。それが存命するための手段であったとしても、自分は善か悪か問われれば、間違いなく悪と答える。

 もし、彼らが自分の正体に気付いたならば、どんな顔をするだろう?

 

 そんなことを考えながら少女は何時も通りの『食事』を行う。

 今日は不覚にも『食事』を忘れたせいで道端に倒れるという、ミスをしてしまった。皮肉にもそれが切っ掛けで彼らと出会うことが出来たのだが。

 ともあれ、夜は無事に『食事』を行うことが出来た。

 今日の獲物は大柄な男だ。筋肉質で、硬いイメージがあったものの魔術に心得がない為か、腸を引き裂いたら、ぐったり倒れ、そして、心臓を抉り取り、それを食したという訳である。

 

 ―――ごちそうさま。

 

 口についた血を拭い、その場を動こうとした時だった。

 

「成程。お前が、最近ニュースになってる殺人鬼か。」

 

 暗闇の中でライトを当てられる。当てた相手は警備服を着た十人ほどの男性達。この街を徘徊し、犯罪者を取り締まる『警備隊』と呼ばれる者達の一角だった。

 

「まさか、こんな幼子だとは。だが、俺らは容赦しないぞ…。」

 

 そのとき男達から殺気のようなものが溢れだす。恐らく唯を本気で殺しにかかるのだろう。

 普通の幼子だったならば、泣きわめき、逃げ出す筈だ。普通の幼子だったならば―――。

 しかし、唯は普通の幼子などではなかった。当てられた殺気に寧ろ歓喜した。

 

「フフフ。今日は御馳走だ。」

 

 目を爛々と輝かせていった。

 

「このガキ…」

 

 状況的に数でも体躯の法でも不利な筈の唯が笑っていたことに、流石の警備隊も動揺が生まれる。

 しかし、それはほんの少しのことで、一幕置いた後、一斉に動き出す。

 

「ゥフフフフフフフフフフフフ。」

 

 少女は最初から最後まで笑っていた。

 

 

 数分後―――。

 

 そこは飛散した血で赤く染まっていた。

 その場に立っていたのは唯一人のみだった。警備隊は全滅。

 死体は様々で、両手両足をもぎ取り、首を斬り飛ばし、目を抉り―――。

 それらはほんの刹那の出来事であった。

 そう、それも少女は恐怖するでも苦痛を浮かべるのでもなく、ただただ笑いながら、殺した。

 残酷といえば、誰もが頷ける行為。しかし、少女にはそれが解せない。

 人間は感情的になれば、こんな仕打ち、容易にやってのける。まるで人々は殺人者を他人事のような目で見るが、彼らにもその資格はあるのだ。

 

 少女は一人ずつ心臓の味を吟味してふと思う。

 例え、世界中の人間を殺したとしても。今日出会った二人の少年少女は生かしておきたいと。

 一生の記憶で言うならばほんの刹那の出来事で、時間が経てば忘却してしまう儚い思い出ではある。

 けれど、彼らの温かい温もりを忘れることがどうしても出来なかった。

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