ニセコイ 愛を永遠に   作:ウェスト3世

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入学の初日

『え~。ということで朝のニュースをお伝えしました』

 物騒なニュースだった。それも世の人々を震撼させるに足るものだったかもしれない。

 連続殺人。

 それもこの地、東京新宿区内で起こっているともなれば、事件はかなり身近で起こっているということになる。

 何よりも驚くのは、その数にある。たった一週間で五十人近くは殺されている。五十、という数は破格である。どんな殺人鬼でも此処まで事を騒がせることはない筈である。

 何よりも『警備隊』の一隊を全滅させたという報道には驚愕した。

 

「物騒なニュースっすね~。」

 

 他人事のように呟く家臣の竜。

 近所で起きているのにこの素知らぬ態度はどうなのだろう、という気持ちにさせられる。

 ともかくも、この事件は尋常ではない。恐らく犯人はこの町の中に居るのだろうが、その正体は定かではない。

 そんな思考を巡らせていた時だった。

 

「坊ちゃん、お客さんですよーーー。」

 

 客?

 こんな朝早くに、それも平日に客とは珍しいことだ。

 しかし、それは客ではなく……。

 

「お早う。ダーリン。学校に行くわよ。」

 

 やつれた顔をした、桐崎千棘だった。

 そういえば、今日から学校が始まるのだったか。

 

「ああ、分かった。今すぐに準備する。」

 

 薄く溜め息をついて言う。 

 

 

「お前、何でそんなにやつれてんだ?」

 

 楽はげっそりとした千棘に対して問う。

 

「………実は昨日のデート(仮)の後、質問攻めをくらってね。」

「ああ、お前もか。」

 

 質問攻めと言う言葉に何処か同情するものがある。

 正直、デートについて何を言えと言うのだ。あくまでも偽の恋人であり、デートもただの演技に過ぎない。質問されても、彼らが期待するような返答は出来ない。

 

「クソッ。学校では安寧な日々を過ごせれば良いがな。」

「全くね。そもそも、アンタみたいなのと恋人なんて思われたくないもん。」

「………同感だな。」

 

 ともかく、学校では恋人のふりを忘れ、学園生活を謳歌せねば。だが、同時に不安もあった。

 それもその筈である。日本における魔術科最大の学校、『帝国院』。日本だけでなく、世界各国から優秀な生徒が集まり、巣立つ生徒達は皆、その名を後世まで轟かせる程だ。

 しかし、この学院を卒業できる者はほんの一握りのものであり、ほとんどが挫折に終わるらしい。

 自分は果たしてそこに最後まで居られるかどうかで問われれば、間違いなくNOと答える。

 理由は単純で、一条楽は魔術師としては二流だ。一流とは程遠い存在であるにも関わらず、これから一流しかいない世界で生きなければいけないということは苦痛でしかない。

 けれど、そうまでして、ここに通う理由があった。

 

「それにしても、デカい学校ね。」

「………ああ。」

 

 全く持って同感だった。

 学校と言うよりは城塞に近い。だが、その城塞には厳重すぎるほどの警備がなされている。

 感知結界、侵入阻止の結界、その他三つほどの結界と五十の結界を張ってる上に、侵入者をいつでも処分できるよう迎撃術式も編み込まれている。

 

 

 教室は一番上からA,B,C,D,Eと分かれており、そのクラス分けは予め入学書類の要項に載ってあった。

 

「私はAクラスね。」

「げ。嘘だろ。俺もAだ。」

「ハァ?何でアンタも同じクラスなわけ?」

 

 千棘は怒気を孕んだ声で言う。

 

「そもそも、アンタ、基礎的な幻術も使えない、見抜けないくせしてAクラスってどういうことよ?」

「いや、俺も知らんが。」

「此処は二流魔術師はまず入ることは出来ないとこなのに。」

 

 言い返すことが出来なかった。

 彼女の言ってることは全く持って正論なので、思わずたじろぐ。しかし、それ以上追求することはなかった。

 

 暫く歩くうちにAクラスの教室のプレートが見えてくる。やはり、見た目が城塞に似ているだけあり、中身もまた、随分と広い。

 そして、勢いよく教室のドアを開けると、何やら噂話が聞こえる。

 

「な、何だ?」

「知らないわよ。」

 

 入学初日で緊張しているからざわついている訳でもないらしい。楽と千棘に視線を向けてくる者達が多々いる。 一体何かあったのか?

 そんな疑問を抱いたその時だった。

 

「いや~。楽、おはようさん。」

 

 ざわついている中で唯一、テンションの高い声で二人に接近する人物がいた。

 

「おお、集か。お前もクラス同じだったのか。」

「何だよ、その嫌そうな顔は。し・ん・ゆ・う、だろ~?」

 

 集の顔は妙ににやけていた。それが楽を苛立たせる。

 

「やかましい。それよりも妙にクラスがざわついてないか?」

 

 すると、「ブッ」と吹き出し、腹を抱えながら笑う。

 

「お前ら、付き合うことになったんだって!?末永くお幸せにーーー!」

 

 皆が声を出して笑う。

 楽と千棘は羞恥のせいか、顔を真っ赤にさせる。

 しかし、不可解なことである。皆が自分たちの状況を知る手段なんて、なかった筈である。そもそも、入学初日の今日では初対面だからだ。

 しかし、その心境を見破ったのか、集が笑いを堪えながら、

 

「ああ、実はだよ。お前らのデートをしてる姿を偶々見つけてだな、ずっと後をつけて動画撮ってた。」

 

 すると、集はスマホを取り出して昨日の楽と千棘の様子を一部始終撮った動画を見せる。

 見間違えるはずもない、昨日の楽と千棘の姿がそこにあった。

 

「なんか、桐崎さんみたいな綺麗な人が何でこんな冴えなさそうな男と……」

「ホントね……。」

「桐崎さん、付き合うならこのゴリ沢を!」

「いや、オレと付き合いませんか!」

「桐崎さん!貴女を護るのは一条ではなく、この僕です!」

 

 まだ、初対面の筈で互いを知らない筈なのに千棘はクラス中から好かれているようだった。それに対し、楽は男女問わずクラス中から貶される対象となった。

 

「おい、俺が悪いのか!?俺のせいなのか!?」

 

 楽は言われようのない罪をきせられている気分だった。

 悪友・舞子集に視線を向ける。すると、心底楽しそうな表情で親指を立てる。どうやら本人が言った通り、彼がこの状況を作った犯人と見て良いだろう。

 

「ふっ。これで楽しい学園生活を送れるな。親友。」

「集、テメェ……。」

 

 この状況下では楽しい学園生活など遅れる筈もない。本当に余計なことをしてくれたものだ。さらには学内でも恋人を演じることが必然となる。

 

「何で学校出まで振りをしなきゃイケナイのよ。」

「……………………すみません。」

 

 怒りに震えた声で千棘が言う。楽はこれに関しては素直に謝る。自分の悪友のせいで学園生活にも苦を伴うこととなったのだ。此処はちゃんと謝るべきだろう。

 

「おい、貴様。」

「へ?」

 

 一人の男子が現れる。整った顔立ちなためか劣等感を覚えてしまう。

 その男子が一歩近づき、怨嗟を顕わにした声で言う。

 

「私は認めないぞ。お前なんかがお嬢の恋人が務まるわけないだろう、屑め。」

「ちょ、鶫!」

「お嬢、安心してください。私が来たからには安心です。」

 

 察するに、千棘と鶫と呼ばれる男子は知り合いのようだ。

 つまり、彼もまたビーハイブの組織の一員と見なしていいだろう。

 

「おい、一条楽、お前のことはクロード様から聞いている。ブサイクで間抜けで知能は幼稚園生並らしいな。」

「はぁ!?」

 

 どうやら、あのクロードと言う男は楽をかなり嫌悪しているらしい。

 確かに、対面した際も楽に対して良い印象を持っていなかったというのも事実だった。

 

「だが、貴様もこの学院に入るということはそれなりに実力はあるのだろう?それを証明してもらおうか。」

「は!?証明?何の話だ」

 

 すると、鶫はニヤリと笑う。

 

「一条楽。貴様に決闘を申し込む。」

 

 凛とした声で告げる。

 それは勝利できるという、確信に満ちた声だった。

 

「ま、待って、鶫!それは…」

「いいえ、お嬢。私は無力な者をお嬢の恋人にさせるのは許容できません。最低限、私を上回る実力くらいは持ち合わせていなければいけません。とはいえ、一条家は剣豪一族と噂されてます。彼にもそれくらいの実力はあって当然の筈ですが。」

 

 決闘という言葉にクラス中が賑わう。だが、申し込まれた楽は快く受け入れる、ということは当然出来なかった。

 

「ちょ、待てよ!そんな勝手に決められても…!」

 

 すると、揶揄するように鶫は

 

「なんだ。臆したのか。だが、逃げたら殺す。これは決定だ。」

 

 そう言い、踵を返す。

 楽に選択肢は与えられていなかった。

 

(やるしかねえか……)

 

 

 

 ☆

 

 

 

 学院の屋上。そこが決闘の場だった。

 しかし、屋上というよりは広大な広場を連想させる。

 

「ふん、取りあえず逃げずに来たことは誉めてやろう。」

「そいつは、どうも」

 

 すると、鶫は銃を取り出す。銃は44マグナム。

 対して楽は日本刀を手にする。

 

「フン。やはり貴様も一族の名に倣い、刀剣を得意とするか。」

「いいや。そうでもない。」

 

 言った瞬間、鶫は銃を素早く照準。発砲する。

 

「……ぐっ…。」

 

 ギリギリで躱す。が、当たっていたならば、間違いなく致命傷となっていた。

 銃は至って普通の銃だが、銃弾は呪式弾といわれるものだった。当たれば、体は呪いによって蝕まれ死に至るのはそう難しいことではない。

 

「無様な躱し方だな。戦闘の素人という事実が露呈している。」

 

 気づけば、鶫は楽の目の前に立っていた。

 

「何故、お嬢は貴様のような男を選んだのか、全く理解出来ん。」

 

 すると、腹部に強烈な正拳突きを喰らわす。

 

「が……っ」

 

 強烈な強打で楽は地に崩れようとする。

 しかし、鶫はそれを許そうとはしなかった。動けなくなった楽を拳で詰る。

 それは一方的な暴虐だった。もう楽になす術はなかった。

 

「こんな非力でお嬢に近づくとは愚鈍にもほどがある。大体、この学院は優秀な者のみが入れる学院だ。何故、貴様が此処に居る!?この痴れ者が!貴様なんかがお嬢を護れるはずがない、筈がない!」

 

 何も言い返せなかった。自分は確かに無力だった。

 一体何故こんな無力な者が学院に居るのか―――?そこには理由があった。

 けれど、そんな理由、他者に理解できるはずもない。

 

 もし、自分に力があったなら変わっただろうか。いや、変わらない。何も変わらない。

 どんなに力があっても自分には助けられなかった命がある。

 

(ああ、オレは………無力だ)

 

 意識は次第に闇に呑まれていく。

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