俺の恋人、メンヘラインキュバスなんだが? 作:キージェンエグゼ
夜の歓楽街を、ヨシミ ユウヤはふらふらと彷徨っていた。
明らかに飲みすぎた。頭がガンガンする。
「うっ……頭いてぇ……」
今日はようやく、二週間ぶりの仕事地獄から解放された日。羽目のひとつやふたつ、外したってバチは当たらない。気がつけば、酒は20杯近く飲んでいた。明日からは念願の7連休。日付が変わって帰ろうが、誰に怒られるわけでもない。
顔を真っ赤に染めながら、フラつく足取りで周囲を見渡す。と、その時——。
「あの子、めっちゃ可愛い……」
思わず声が漏れた。人混みの中でも際立つほどの整った顔立ち。茶色っぽいショートヘアがよく似合う。ふわりとした雰囲気も相まって、まるで芸能人みたいだ。
……話しかけてみるか?
今の俺には酒という最強の後押しがある。いける。いや、今しかない。ワンチャンあるかもしれない。ビシッと太ももを叩いて気合を入れ、フラつかないように背筋を伸ばして近づく。
「へいへーい、そこのかわいいお姉さん。俺と遊ばなーい? 」
……はたから見たら完全に酔っぱらいの絡みである。いや、実際そうなんだけど。
女の子(?)は俺の顔をじっと見たあと、ニヤリと笑った。そして返ってきたのは、やけに低くて中性的な声。
「お兄さんの間違いじゃないかい、少年」
「……え?」
脳が、理解を拒んだ。酔った頭で情報処理が追いつかない。
「え、あ、えっ? 」
混乱の波に呑まれていると、女の子(仮)はくすりと笑い、俺の耳元で囁いた。
「いいよ。少しだけ遊ぼうか? 」
その瞬間、心臓がバクンと跳ねた。何だこの状況。ナンパ成功ってやつじゃないのか!?
手を引かれるままに、俺はクラブへと連れていかれる。しかも、明らかに場違いな高級クラブ。こんなところ、俺の財布じゃ到底ムリだ。
「大丈夫、俺が払うから」
さらっと言う彼女……いや、彼? もうわけがわからない。
「あ、あと俺のことは“リヴィ”って呼んでね♪」
「リヴィ……わかりました……」
なぜか敬語になってしまう。リヴィは俺より年上っぽいし、何より雰囲気が大人すぎる。
VIP席に通され、出てくるのは見たこともないような高そうな酒。グラスを差し出され、乾杯を促される。
「じゃ、乾杯しようか」
「か、乾杯……」
カチンとグラスが鳴る。ひと口飲んだだけで、胃が熱くなり、全身が火照っていく。酔いが一気に加速する。
「もしかして、こういうとこ初めて? 」
「え、あ、うん……」
「ふふ、初々しいね。貴重な体験だよ? 」
そう言いながら、リヴィはさりげなく俺の太ももに手を添えた。スッと触れただけなのに、心臓が爆発するかと思った。
「俺の奢りだから、たくさん飲んでいいよ」
……その言葉を最後に、俺の酒量はカウント不能に突入した。グラスが空けば即座に注がれ、リヴィにおだてられ、乗せられ、気がつけば信じられない量を飲んでいた。
「……うう、頭いてぇ……ここどこだ……? 」
目が覚めたのは、見知らぬ部屋。フカフカのベッドの上。
「やっと起きたんだ」
リヴィの声。横を見れば、素っ裸の美形がにっこり微笑んでいる。
「今日から君は俺の恋人ってことで、よろしくね? 」
「……は? 」
え、ちょっと待て。
なにその爽やかな笑顔と爆弾発言。
——いやいや、どういうことだ!?