俺の恋人、メンヘラインキュバスなんだが? 作:キージェンエグゼ
リヴィの好きなところ——考えれば考えるほど、それが何なのか、うまく言葉にならない。リヴィは魅力的だ。見た目だけじゃない。少し面倒くさい性格も、でも俺のことを真剣に考えてくれるところも、すべてが俺にとっては特別で、心地よくて。
俺は沈黙したまま、思い返す。そもそも俺とリヴィの出会いなんて、冷静に考えたらとんでもない状況だった。ありえない出会い方をして、それでもこうして一緒にいて、心を通わせて。……どうして、そんな奇跡みたいなことが起きたんだろう。どうして、俺は今、こんなにもリヴィのことを——。
もしここで、うまく答えられなかったら。リヴィに失望されてしまうかもしれない。そんな恐怖が喉を締めつける。でも、これは正解を探すテストじゃない。ただ、俺の想いを、俺の言葉で伝えるだけのこと。それだけのはずなのに——こんなにも難しい。
「答えられないの?」
ナナセの声が、鋭く心に刺さる。その瞬間、リヴィがそっと俺の太ももに手を置いた。そして、静かに耳元で囁く。
「いいんだよ。ユウヤが、ユウヤの言葉で言って」
あたたかい声だった。否定しない、急かさない。ただ、俺を信じてくれている声。そのぬくもりが、胸の奥に灯りをともす。
俺は深呼吸をして、視線を真正面に向けた。
「……俺は、リヴィのわがままなところが好き。ちゃんと俺のことを見て、待っててくれて、でもときどき子供みたいにすねたりするのも好きで……全部が、ほんとに全部が、大好きなんだ」
そう言葉にしてみると、ふっと胸が軽くなった気がした。ようやく、自分の気持ちに正直になれた気がして、少しだけ涙がこみ上げそうになる。
ナナセはじっと俺を見つめていた。その瞳は、寂しげで、でもどこかほっとしたようでもあって——
「そんなに、好きなんだね」
彼女はふっと笑った。その笑顔は柔らかいけれど、どこか無理をしているようにも見えた。そんな表情をされると、俺の中で複雑な感情が渦巻く。
「俺のこと、そんなふうに思ってくれてたんだ」
隣に座るリヴィが、頬をほんのり染めながら嬉しそうに言った。俺を真っ直ぐに見るその目は、宝物を見つけたみたいにきらきらと輝いていて——見ているだけで、こっちが恥ずかしくなってくる。
「俺……?」
ナナセが小さく呟いた。リヴィの発言に、何か引っかかるものを感じたようだった。そして、ゆっくりと、核心に触れるように口を開く。
「リヴィさんって……男の人?」
俺の心臓が跳ねた。時間が止まったような気がした。やばい、これは——ナナセが男だと知ったら、絶対に驚く。下手したら、引かれるかもしれない。付き合うこと自体を否定されるかもしれない。頭の中で最悪の展開が次々と浮かぶ。
しかし、その沈黙を破ったのは——リヴィだった。
「そうだよ」
まったく、ためらいのない声だった。堂々としていて、隠すつもりなんて一切ない、真っ直ぐな返事だった。
「ちょ、ちょっと待ってよリヴィ! そんなあっさり言っちゃダメだろ……!」
俺が慌てて声を上げると、リヴィは肩をすくめながら悪戯っぽく笑った。
「だって、別に隠す理由ないでしょ? ユウヤが好きなのに、男とか女とか関係ないよ」
「そ、それは……!」
そう言われると、何も言い返せない。たしかにそのとおりだ。でも、頭ではわかっていても、現実ではなかなかそうもいかない。ナナセの反応が怖かった。
ナナセは目を大きく見開いて、リヴィをじっと見つめた。
「え、でも……見た目とか、どう見ても女の子にしか見えないし……」
「ふふーん、そうでしょ〜? よく言われるの」
リヴィは嬉しそうに笑って、くるりと一回転して見せた。どこからどう見ても、見た目は完全に美少女そのものだった。服装も仕草も声も、完璧に女の子。でも、確かに中身は——いや、中身もリヴィなのだ。
ナナセはしばらく沈黙していた。そしてぽつりと呟いた。
「……なんか、よくわかんないけど……でも、リヴィさんって、本当にお兄ちゃんのこと好きなんだね」
その言葉に、リヴィは少し驚いたような顔をしてから、にっこりと頷いた。
「うん。誰よりも大事に思ってるよ」
そのやり取りを見て、俺は少しだけ安心した。ナナセが完全に納得したわけではないかもしれない。でも、少なくとも拒絶はしなかった。それだけで、今は十分だった。
そして、ナナセが小さな声で呟いた。
「……私も、そんなふうに思ってほしかったな」
その言葉の意味を、俺はまだ完全には理解できなかった。けれど、ナナセの笑顔の奥に隠れた本音が、ほんの少しだけ見えた気がした。
もちろん、こちらが加筆・添削したバージョンです。ナナセの感情やユウヤの思いを少し掘り下げて、情感豊かにしています。
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ナナセを駅まで送った。夕方の空は少し赤く染まり始めていて、吹く風はどこか切ない匂いがした。
改札前で立ち止まり、ナナセは俺のほうを振り返る。そして、リヴィに向かって静かに言った。
「リヴィさん……お兄ちゃんと、これからも一緒にいてあげてね」
その言葉には、優しさと、ほんの少しの寂しさが混じっていた。けれどナナセの目はまっすぐで、微笑みは嘘じゃなかった。
「うん!」
リヴィはいつもの調子で、屈託のない笑顔を浮かべて答えた。その顔を見たナナセは、ようやく肩の力が抜けたように笑い、安心したような表情を浮かべた。
「じゃあね、お兄ちゃん」
「……ああ。またな」
軽く手を振ると、ナナセは改札を通り、ゆっくりとホームへ向かって歩いていった。その後ろ姿が見えなくなるまで、俺はずっと目で追っていた。
複雑な時間だった。けれど、俺は今、はっきりと思う。
ナナセのような妹がいてくれて、よかった。たとえ辛い想いをさせたとしても、こうして真っ直ぐに俺と向き合ってくれたことが、心の底から誇らしいと思えた。
隣でリヴィが、俺の手をそっと握る。その温もりに、俺は小さく息をついて、前を向いた。